連載小説
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そして幸せ
雷鳴轟かせるやかましい交尾は、夜中になってようやく終わった。
途中で魔法使いが病院に呼ばれ、外部から防音の魔法が張られるほどの音を立てていた千鳥とギンだったが、月明かりが差し込む頃になって千鳥が限界を迎えて、身体を起こすことで一先ず落ち着いた。
息も荒く起き上がり、ベッドサイドの水差しから水を飲んで息を吐くと、千鳥は頭を抱えて落ち込んだ。

「やり過ぎた……!」

ギンは日が暮れる頃には、とっくのとうに意識を手放していた。
そこから先数時間の間、千鳥は反射のみで反応するギンをひたすら犯していたのだ。
眼下のギンは身体を汗でぐっしょりと濡らし、虚ろな目を半開きにして荒い息を吐いていた。
今朝方には綺麗に閉じていた処女の割れ目は下品で淫らにパックリと開き、中から一滴残さず全て子宮にぶちまけた黄色がかった精液が滝のようにシーツの上に溢れていた。
シーツもシーツでひどい有様だ。尿と愛液と精液と汗と涙とよだれとで濡れていないところはない。
当然ギンの羽根もぐっしょりと水分を含んで、しぼんでいる。
とりあえず千鳥は水を口に含み、ギンに口移しで飲ませてみた。脱水症状が心配になるほど、水分を出していたからだ。

「あと目を閉じさせないと……」

指で軽くまぶたを閉じさせると、ギンは安らかな寝息を立てているかのような姿に見える。
自己満足だがしないよりはマシだ。
これをしないとこのセックス後の生々しさが消えずに、多分また滾ってしまう。

「……肩、治っちゃったよ」

すでに傷のあった場所はもはや痛くも痒くもない。
腕を振り回しても充分なくらいだ。
というか少し肌の色が黒い。あとちんこも五割増ぐらいにデカくなっている。
千鳥は自分が半日の間に、インキュバスに完全に変貌したことを悟った。

「人間辞めちゃったか……」

怖いというより、驚きだ。
一日でなれるものなのか。
それともギンの雷を浴び続けていたのが原因なのか。
どうでもいいが、身体の調子はすこぶる良さそうだ。
千鳥が話に聞いたインキュバスとは、体調を崩しても嫁とヤれば復調するというとんでも生物だ。
というかその話には嫁とヤれない状況が無いらしいので、頭ポカポカの万年元気というオチもついていたが。

「………」

何気なくギンをもう一度見る。
汗に濡れた肌と小ぶりで綺麗なおっぱい。
さっきまで無意識に剛直を締め付けていた膣が、くぽっと音を立てて白濁を零した。
見えないが奥の子宮口すらも完全に開ききって、それでも精液を多く胎内に残そうと蠢いているだろう。
穴の上にはピンと膨らんだクリトリスがあり、下側には垂れた精液をすするようにきゅっきゅっと動いているアナルもある。
気付けば千鳥の肉棒は再び首をもたげ、硬くなり始めていた。
その思考はギンの身体中を使って射精したいという欲望でいっぱいだ。
尻の穴も使いたい。薄い胸に擦り付けたい。口の具合はどうだろうか。そういえば脇は人間と変わらないな。羽根で擦られてみたい。鉤爪の肌も気持ち良さそうだ。お腹尻たぶ背中膝裏頬っぺた髪の毛――

『失礼』

唐突に声がして、千鳥は思考を引き戻した。
横を向くとそこには、半透明の女性が立っていた。

「だ、誰だ……?」
『いや、本当に失礼した。私はアーファ領主でもあるキマイラの第三人格だ。アジーンと名乗っている』

キマイラ、というには彼女の容姿は人に近い。
千鳥が話に聞くキマイラとは、複数の魔物の特徴を持った歪な姿をしているはずだった。
しかし彼女は尻尾とツノが生えている以外、特段人間と違うところはなかった。

『私は……私たちは比較的人に近い姿の魔物で構成されたキマイラだ。私はデーモン。他にはサキュバスとヴァンパイア、もう一人はドッペルゲンガーだ』
「それは……完全に人型だ」
『まあドッペルゲンガーの力があれば如何様にもなれるのだが、人型に近い方が何かと役に立つ』

視界の端っこに、領主から受け取った封筒が開いて床に落ちているのが見えた。
水差しをとった拍子に床に落ちて、封筒が開いてしまったらしい。
雷吹き荒れる室内で、封蝋がほころんでいたのかもしれない。

「こんな格好で、失礼しました」
『気にしないでいい。私とて魔物だ。しかし……彼女は幸せそうに寝ているな』

左眼を下にして、顔の半分を枕にうめた状態のギンを、微笑ましいものを見るように眺めるキマイラ。
千鳥は少しだけ不機嫌そうに彼女に言う。

「ギンは今、眼帯をつけていない。あまり見ないでやって欲しい」
『む、そうだな。悪かった』

いかんいかんと顔を下げたキマイラは咳払いをし、改めて千鳥に向かい合う。

『この度は行方不明のサンダーバードの救出、不法入国した魔物狩りの討伐、そして雷の谷問題の解決に協力して頂き、感謝の言葉も無い』
「……全部成り行きですよ。それに、あなたから受け取る礼は別に欲しく無い」

千鳥はそっとギンの頭を撫でた。

「ギンと結ばれた。それで俺は最高の報酬を受け取ってる」
『そんなに惚れたのかい?』
「最高の女だ」

自慢気な千鳥に苦笑したキマイラは、しかしそうもいかんと言葉を続けた。

『功労者には褒美を、それが街の掟だ。これも英雄の義務と思って、受けて欲しい』
「英雄? 俺が?」
『命は一人に一つだ。その命をもう一つ抱え上げ、それを救ったのならばすでにそれは英雄だよ』

君は彼女だけの英雄だ。そうキマイラは言った。
四つもの命を内包するキマイラに言われるのはいささか皮肉な気がしたが、千鳥はありがたくその称号は受け取ることにした。

『それに今回は、対応が後手に回り過ぎた』
「雷の谷発生から一ヶ月、この街では何を?」
『調査隊は二度派遣した。一度目は発生後三日立ってからだったが、魔物狩りの一団と出くわして被害が大きくなった。君が出会ったのは二度の調査隊に減らされた残党だったんだ』

五人のハーピーを追い立てるのに三人では不足すぎるとは思っていたが、すでに減らされていたとは驚きだった。
千鳥は三人になってもあの地に残り続けた魔物狩りに、わずかな哀れみを抱く。

『そしてあの谷がギンというサンダーバードによるものだと判明したのは、雷が消えてから三日後。君が谷底に降ってから約一週間が立っていたと思われる。その一週間前に二度目の調査隊を派遣したのだが、彼らは道中で四人の衰弱したハーピーを保護したのだ』
「ギンの仲間、ですね」
『彼女らは山に潜伏して隠れながら移動しつつ、上空の気流に逆らってどうにか街の近郊までたどり着いたようだ。無理をしたようで、意識を取り戻すのに一週間掛かった。事態が明らかになった時には雷が止まっていて、即座に救出隊を組んで出立したが……行き違いになったようだ』

結局はギンの雷が街まで音を届け、病み上がりのハーピーたちが救出に飛んだというわけだ。
不運に不運が重なったが、しかし幸運にも千鳥が自力でギンを救出し、魔物狩り残党を返り討ちにした。
そう考えるとなんともギリギリの生存劇だったというわけだ。

『勇気を持って彼女を救った君を、私たちは賞賛する。故に報酬だ。悪いものでは無いだろう?』
「何をくれるんですか?」
『まあだ内緒にしておこう。明後日、使いを寄越す。中央広場で君の功績を称え、報酬の賞与式を行う。そこでな』
「派手な話で……」
『いつもの事だ。気にするな』

では、良き魔物の生をと言い残し、キマイラの姿は掻き消えた。
千鳥はようやくとため息をついて、すっかり冷めた身体を温めるためにギンを抱き締めた。
上下を入れ替えて胸にギンをうつ伏せに寝かせると、千鳥は優しく彼女の頰を撫でてシーツを被り、そのまま眠りについた。
明日の朝は、二人で風呂に入ってゆっくり語り合おうと思いながら。



「ではこれより、報酬授与式を執りおこなう!」

従者に日傘を掲げさせながらも、気高いキマイラが演説するように壇上で声を上げた。
集まった見物人たちがテンション高く歓声を上げて、手を鳴らして新たな英雄を迎える。
壇上には気怠そうに主役の千鳥が立ち、その斜め後ろには式進行の補助としてギンが緊張しながら立っていた。

「この者、剣士チドリにはこの街の問題の三つを同時に解決した功績がある。一つ、雷の谷の原因を解明したこと。一つ、潜伏していた魔物狩りを討伐したこと。一つ、行方不明の魔物を命を顧みずに救ったこと。この全てに対して、私たちアーファ領主であるキマイラより、三つの報酬を与える!」

キマイラの脇に立つサキュバスの秘書が、一つ目の報酬をキマイラに差し出し、それが衆目に晒された。
それは商人ギルドにおける預金札と呼ばれるもので、その名の通り金を預けて自由に引き出せる証文だ。

「一つ、街の危険を退け、空路を確保した貢献に感謝し、商人ギルドからの報酬と合わせて金二百を与えよう!」

金百とは驚くほどの大金だ。
一人二人が普通に一年は遊んで暮らせる額である。
無造作にそれを受け取った千鳥は、ギンが持つ盆にそれを置いた。
平然としている千鳥とは対照的に、金額を聞かされたギンはガチガチに緊張してしまっている。
続けてキマイラは、秘書とは逆側に立ったデュラハンの女騎士が差し出したケースを開き、中の物を掲げた。

「一つ、二度に渡りアーファの防衛隊を撤退に追い込んだ恐ろしき魔物狩りを返り討ちにした武勇を称え、我が武器庫よりサイクロプスが鍛えたこの魔界銀製のカタナを与えよう! このカタナはジパングにおいて雷獣という魔物の雷を斬り払ったという逸話を持つ。雷断と銘打たれたこのカタナは、雷の谷に立ち向かったこの者にこそ相応しい!」

千鳥はカタナを受け取ると、軽く鯉口を切って刀身の波紋を見つめる。
やがて満足したのか刃を収めるとそれを腰のベルトに挿し、軽く一礼した。
そして最後に、キマイラは自らの懐から一枚の書類を取り出した。

「最後に一つ、魔物狩りに追い詰められ、今にも消えんとしていた我らが同胞の命を救い、死を前にしても決して怯まず立ち向かった勇気と愛を認め――この者とその配偶者への、アーファへの永住権を与える!」

最後に差し出されたそれを、千鳥はすぐに受け取ることは出来なかった。
なんのことはない。びっくりして硬直したからだ。
この国の永住権、つまり住民となるためには幾らかの納税と五年程度の兵役を経る必要がある。
兵役を納税で代替することも可能といえば可能だが、その金額は金千に届くだろう。
それをポンと渡されて、やったーと即座に喜べるのは価値を知らない人間くらいのものだ。
千鳥は思わず傍らのギンを見てしまう。ギンも目を丸くしていた。

「ここに君の名前を書き、いるのであれば配偶者の名前も書いて、私たちの館に届ければいい。それで君はアーファの住人だ」
「そんな……簡単でいいんですか? 永住権なんて、喉から手が出るほど欲しいやつもいるんじゃ」
「納税の義務だとか兵役だとかは、ここだけの話だが実は建前でな。アレは業突く張りの脱税狙いを跳ね除けるためのものだ。この街の魔物を愛せば居住権は得られるし、何かと理由をつけては信用がおける相手に配っている程度のものだ」

キマイラはそう言って笑い、ギンに目配せしてウィンクを送った。
千鳥は書類を受け取り少し考えると、よしと声を上げて振り返る。
未だに慌てているギンへと、千鳥は書類を差し出した。

「……チドリ?」
「ギン、これ婚姻届みたいなもんだし、コレ書いて結婚しようか」

おぉ、という声が観衆から漏れ聞こえた。
ギンは唐突に衆目でプロポーズされたことにさらに驚いてしまい、顔を真っ赤にしながら紫電を迸らせていた。

「俺は君抜きじゃ、もう生きていけない。旅する理由ももう無い。腰を落ち着けるつもりだったし、そうするならギンとじゃなきゃ嫌だ。結婚してくれ。というかしろ。書け。名前書け」

空気を読んでサキュバス秘書がペンを持ってきてくれる。
千鳥はギンの持っていた盆を下敷きにして、さっさと自分の名前を書いて魔力で押印をつけてしまう。
あとはギンが書くだけだと言わんばかりに、盆を受け取って千鳥は書類を差し出す。

「あ、あの……ありがと。愛してる」
「俺もだよ、世界一愛してる」

ギンは震える羽根先でペンを持ち、なんとか名前と魔力印を刻む。
千鳥は二人分の署名が入った永住届をキマイラに差し出し、受け取ったキマイラは不備が無いのを確認して高らかに宣言した。

「今ここに、最も新しい魔物の夫婦が生まれた! 皆の祝福を、二人に!」

割れんばかりの拍手と歓声に包まれ、二人は祝福の中で夫婦になった。
抱き合い、手を振り、そしてキスをする。
一際大きな歓声が上がり、直後昂ったギンが雷鳴を轟かせて近場で悲鳴が上がる。
遠巻きに見ていた観衆からはさらなる笑い声が響いて、幸せそうな二人をもてはやす。
やがて飛んできたギンの仲間たちがテンション高くギンを取り囲み、一人が男泣きしながらギンに抱きつく。
少し嫉妬したのかギンを奪い返した千鳥が、ギンをいわゆるお姫様抱っこの体勢で抱えると勢いよく観衆の中に飛び込む。
そうして道行く誰もに祝われながら、二人はアーファ中を駆け回った。
その日、アーファで一番幸せなのは自分達なのだと、そう確信しながら。
15/10/25 18:26更新 / 硬質
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■作者メッセージ
これにて完結です。

なんか傷口フェチだったり電撃プレイだったりで、改めて自分の性癖に引きました。
傷口フェチの方はたぶん、かの腸ぶちまけの人がヒロインのあの漫画の影響が大きいんじゃなかろうか。傷口触るシーンすごい好き。

次書くなら、たぶんセイレーンかガンダルヴァか毛娼妓書きます。ハーピー好きだな俺。

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