連載小説
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新たなる苦悩とその報い【未完】
はぁ....
少年はため息をついた。
目の前には最近になって初めて名を知ったトカゲ娘が、
正座をしてこちらを見上げt...見上げている。
(少年のプライドのためにも事実は伏せておく)

「なぁ、いいだろう?連れて行っても...」
「しかしなぁ...」

先ほどからこの類の問答が十数回繰り返されている。
その全ての元凶はトカゲ娘の膝の上のアクアブルーだ。

あの時、妙に素直だと思ったんだが...
まさか連れて来ているとは...

少年の目の前には半透明のスライムが不思議そうにこちらを見上げていた。




最初に怪しいと思い始めたのは、湖を後にしてから数日後、トカゲ娘の足運びだった。
まるで背に何かを背負っているかのように必ずどちらかの手を添えて、多少前かがみになって歩いていた。
それから日が経つにつれ、その行動は怪しくなっていく。
食事のとき、必ず少し残し、どこかへ持っていく。
立ち上がるとき、必ず手を背中にやる。
頻繁に用を足しに行く。
などなど。
次第に本人の顔にも焦りのようなものが感じられるようになり、
本日、五度目の「用を足しに行く」という発言で、いくらなんでも行き過ぎだと問いただすと、やっと白状したのである。




長い長い問答の末、少年はついに折れた。
本当は置いていきたかったところなのだが話を重ねるに連れ、
2人の真ん中に鎮座しているスライムの瞳が潤み始めたために了承せざるを得なくなったというわけだ。

こうしてスライムの少女が仲間となったわけだが...
やはり少年が心配していたことがいくつか起こった。

まず、水の配給である。
スライムは本来水場の魔物であるため、大量の水の摂取をしなければ形が保てないのだ。
そのためにもどうしても水場である川から離れられないのである。
よって必然的に旅路は長くなり、街に寄って道具調達もままならなくなる可能性がある。
とはいえ、少年がトカゲ娘と旅するようになってからはまだ一度も街に寄っておらず、食料は野生動物から調達しているため、食料の心配は無いのだが、問題は服である。これだけは街に寄らなければ手に入らないし、行商人を頼ろうにも彼らはいつ現れるか知れない。
その件についてはラーナが少女の番をするということで片が付いた。
次に、持ち運び?である。
通常彼女らは地を這うようにして動く。
だがそれはカタツムリが地を這うのと同じで粘液を分泌する。
それが意味するところはつまり水分の消耗である。
そのため川から離れることはさらに難しくなるだろう。
そして最後に、1つ。
河口に着いてしまった場合である。
というのもスライムとシー・スライムは分類上別の性質を持っており、
果たして海水が彼女の身体に合うのであろうか?ということだ。
この件もラーナが少女の番をし、その間に少年が聞きに行くということになった。

けれども、この解決方法にも不安が残る。
1つ目、少年は無口で他人を寄せ付けない雰囲気があること。
2つ目、トカゲの娘の番。
3つ目、仮に役を交代してもいくつかの問題点が残ること。

最終的には何の解決にもなっていない。

これ以上の討論は無駄だ、ということで2人+αはさっさと話を切り上げ、
とりあえず旅を続けることにした。
どうせ問題は今思いついた限りではない。
それならば旅を続けながら解決していった方がいいのでは?ということになったのだ。
早い話が吹っ切れたわけである。



だが、その考えがあまりにも浅はかだったことをすぐに知ることとなる。

翌朝、珍しくラーナが早く起きると、少年がすぐ隣にうずくまっていた。
しばらく目をこすり状況をゆっくりと把握する。

「...ひあっ!? ちょ どうしてそこにいるんだっ!」

ゆっくりと彼が振り向く。
てっきりこちらを向いて寝顔を鑑賞していたのかと思ったのだが思い過ごしだったようだ。

「どうしたんだ...?」

私は問いかけた。
彼は何も言わず人差し指を口の前に立てた。
そしてゆっくりとその場から動く。

「...!!」

私は絶句した。
スライムの少女が息も絶え絶えで完全に伸びていた。
思わず叫びかけたところを彼に後ろから口をふさがれる。

「お前が十数日も無理な旅をさせたからだ。
 ストレスと水分不足が主な原因だろう。治癒魔法を試してみたが...」
「そう...か...」

目の前が涙で霞む。
私はどうしてこうも自分勝手なのだろう?
彼女のことも考えずにこのようなことを...
彼女はきっと私に心配をかけまいと一生懸命元気なふりをしていたんだろう。
どうして気付いてあげられなかった...?

「心配するな どうにかしてみせる」
「でも...ぐしゅ どうやって...?」
「まぁ 見ていろ」

彼は立ち上がり、スペルの詠唱を始めた。
その間私はスライムの少女に声を掛け続けることしか出来なかった。

「サーベイッ!」

一見何も起こらなかった。
ゆっくりと彼が周囲を歩き回る。

「ここだ」

何がここなのか分からないが、今は彼を信じるしかなかった。
また彼は詠唱を始めた。

「クエイクッ!」

突然地響きが起こり、地が揺れる。
私は座ったまま横転した。
おもわず少女の確認を取ったが彼女の身体はたぷたぷと揺れただけだった。
地響きが収まるとそこにはギリギリまたげるほどの大きさの地割れが出来ていた。
彼はそこを覗き込むと満足そうな表情を浮かべた。
地が裂けたその上で彼は手をかざした。
そして上下に動かし始める。
すばやくしたに下げ、何かを持ち上げるようにゆっくりと上に上げる。
それを何回か繰り返すと...
地の裂け目から透明な液体が浮き上がってきた。

水だ。

彼はそれをするするとまるでロープを扱うかのように引き上げ、球状にした。
ぷかぷかと目の前を漂う水の塊。
それはフラフラとラーナの目の前を移動したかと思うと満身創痍の少女の上で弾けた。
しぶきがかかって思わず顔をしかめる。
ラーナの表情とは逆に少女の表情は軟化し、身体もゆっくりと元の大きさへと戻っていった。

「これでしばらくは大丈夫だろう...問題は何を食うかだが...」
「ブラック...お前は一体...」
「とりあえず水筒を貸せ。今のうちに補給をしておこう」

私は無視されたことに苛立ったが水筒を渡した。
彼は一体何者なんだろうか。
確かに私は戦士だが魔法でも一般常識程度に知っているつもりだ。
普通の魔道士ならば魔法を立て続けに3回も行使すれば魔力が尽きてしまうはずなのだ。
ところが彼はそれをこなしてなお平然としている。
先日も巨大な氷と雷を見せられた。
あの時は混乱していて良く分からなかったが、あれらは俗にいう大魔法。
これもまた普通の魔道士が1つでも放てば死に至るほどの魔法。
おいそれと放てるものではないのだ。
それを彼は『2発』放った。
膨大な魔力を持つ魔物でさえ消耗してしまうほどの...
私があれこれ思案していると突然ひんやりしたものが頬に触れた。

「ひあっ!?」
「水筒」

悩みの種が水筒をこちらに突き出している。

「なっ 何をするっ!」
「そいつに飲ませてやれ。さすがにそこまで器用な真似は出来ない」

彼が指差す先にはスースーと寝息を立てるスライムがいた。

「今浴びせた分は身体を元の状態に戻しただけだ。
 体内には吸収されていない...だから飲ませてやれ」
「...なぜそんなに詳しい?」
「戦闘相手の情報は事前に調べておくのが常識だ」

そういって彼はこちらに背を向けた。

10/10/08 20:58更新 / 緑青
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■作者メッセージ
設定をしっかりと組んでいなかったために詰みました...
読んでくださっている皆さん...ごめんなさいm(_ _)m

どうにか設定を修正するつもりですが、
もし万が一続けられない場合は無理やり完結か、
もしくは打切りとさせていただく場合がありますのでご了承ください...。

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