連載小説
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奥の手
 東の空に太陽が昇りつつあった。俺は廃炭坑の大きな門の影に身を隠して様子を伺っていた。
 廃炭坑は岩山の中腹より少し下当たりにあり、そこまでは道が続いていたが整備はされていないようで、途中には落石で落ちてきた岩や石がゴロゴロと転がっていた。

 門は閉まっていて見張りがいたが、俺は見つからない様に岩陰に隠れて近づきその見張りを気絶させた。そしてその門の脇の急斜面をなるべく音を立てない様に登り、門の上へと身を伏せた。

 それにしても奴らに連れと勘違いされてシエラとお互い厄介なことになったもんだ。依頼じゃないから金は入らないし、彼女はなぜ誘拐されたのか分からずに困っていることだろう。

「よう、交代だ」

 炭坑の中から誰かが出てきた、こいつらの仲間だ。門の向こうには見張りが四人いて、炭坑の中から出てきた四人と交代して炭鉱内に姿を消した。
 この様子だとまだ中には何人も潜んでいそうだ。

       −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 私は薄暗い部屋で目を覚ました。起きようとしても起きあがれない、手と足を縛られている。口には布を巻かれて声も出せない。
 何があったのか思い出してみた。夜に散歩に出た私は人通りの多い道を歩いていた。宿に戻ろうとして人気の少ない道に入った瞬間、後ろから誰かに口と鼻を押さえられて意識が遠のいていった。

 完璧な誘拐というみたい。普段なら後ろとられても気付くけど人通りが多かったからそれにも気づけなかった。多分薬で眠らされたんだと思う。

 どのくらい眠っていて、ここがどこなのか、私はそれをまず知りたかった。周りは土壁、鉄の扉が一つ。格子窓があって外の様子が見えそうだけど、縛られててそこまで行けない。

「金を届けに来るのは?」

 扉の外から声がする。男の声だわ、金を届けに?

「今日の正午までには来るはずだ、あの連れの男がな」

 連れの男?私に連れなんていないし、他にも私みたいな人が?

「それにしてもワーキャットと旅行なんてなぁ」

「あのコートの奴は彼しか何かか?」

「知るかよ」

 やっぱり私のことだ。金って言うのは身代金…コートの男って言うのは…まさかフリート?もしかしてこいつら私とフリートは旅仲間だと勘違いして私を誘拐した?

 それじゃあ、彼が来るわけない。彼と私は会って間もなかったし、私を助ける義理なんてないもの。

        −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 俺は門の上から奴らの会話を盗聴していた。それで大体の状況は掴めた。

 まず彼女を誘拐したのは、俺が推測した理由の通りであること。次に彼女は薬で眠らされて奥の部屋に監禁されていること。

 これだけ分かれば十分だ。俺はカルロ−2Aを抜き門から飛び降り、俺を着地した時に気付いた四人を撃って気絶させた。

 彼女を助け出す前に粗方始末して置いた方が逃げる時に楽だ、俺はわざと騒ぎを起こして奴らを呼び寄せた。

「んだ、てめぁは!?」

「殺されに来たのか?」

「いいや、昨日誘拐したワーキャットを返してもらいに来た」

「この、いい度胸じゃねぇか、すぐに後悔しなっ!」

 男達は剣を抜いて斬りかかってきた。けどな、リーチが違うんだよ、リーチが。

 俺は一歩も動かずに引き金だけを引き続けた。男達は次々に倒れ、ついには掛かってこなくなった。

「くそっ…」

「来ないのか?…ならこっちから」

 俺が動き出そうとした時だった。

「待てっ!」

 奥から一人の髭を生やした男が出てきた。そしてその後ろからは巨大な人型をした魔導器具らしき物が姿を現した。その魔導器具の胴体にはシエラが拘束されていた。

 俺はそれを見て驚いた。だが普通の奴が抱く驚きとは違う驚きだ。

「銃を捨ててこっちに蹴れ。この女の命が惜しければなっ」

「………」

 俺は銃を地面に置いて蹴り飛ばした。

「それでいい。もし抵抗すればこの女は死ぬ」

「一つ…訊いていいか…?」

 俺はどうしても確かめたいことがあった。それは俺の『生きている目的』に近づくための事だった。

「なんだ?」

「その魔導器具は…どこで手に入れた?」

「何でそんなこと知りたいんだ?…まさかお前も手に入れるなんて言わないよな?ここでお前は死ぬんだからよぉ」

「教えろ…」

「…そんなに聞きたきゃ教えてやってもいいぜ…ただこいつらを三体同時に相手できて倒せりゃあなっ!」

 上から魔導人形が三体、俺を囲む様に飛び降りてきた。そしてそれぞれ剣、銃、五指を装備している。俺はこいつらの姿をみて憎しみが沸いた。こいつらに対してじゃない、俺の憎しみの矛先はある男に向いていた。

「さぁっ、初めてもらおうじゃないかっ!」

「…いいだろう」

「…何?てめぇ、頭どうかしてんじゃないのか!?素手でこいつらに勝てるわきゃねぇだろ!」

 確かに普通に考えればそうなるだろう。シエラだって不安そうな、今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめている。しかし、俺には『奥の手』があった。

「ああ、どうかしてるかもな…ただしどうかしてるのは…」

 俺は右腕を横に突きだした、そして右手に魔力を送る。キュイィィンという高音と共に、俺の右手は形を変えた。

「この右腕だ…!」

 俺の右腕は剣へと変わった。剣は手首の位置で左右に動き、上下にも折り曲げることが出来る。そして刃の向きも三百六十度無制限に変えることが出来る代物だ。

 俺の右腕には魔導器具を埋め込まれており、それに反応する魔法陣を腕の表面に刻みそれに魔力を流し込むことで、俺の右腕は四肢の一部から武器へと変わる。

「な、何だよ…その右腕はぁ!?」

「来い、相手をしてやる…」

「くっ…殺れぇっ!」

 男の命令で魔導人形達は動き始めた。まず俺の右前方に立っていた剣を装備した魔導人形、仮に『ソード』と呼称しよう。
 ソードはまず右の剣を振り下ろした。俺はそれを受け止めたが、人の二倍の大きさの魔導器具相手の攻撃は重く、俺は両膝を少し曲げた。ギチギチと剣同士の擦れる音がしている。

 次に空かさず俺の左前に立っていた銃を装備した魔導人形、呼称は『ガンズ』にしておく。ガンズが機関銃を俺に向けたので、俺は受け止めていたソードの剣を自分の前に落として盾の変わりにした。

 後ろから手を持った魔導人形、呼称『ハンズ』が俺を捕まえようと掴みかかるがその腕に飛び乗り、駆け上がって奴の頭付近に二度攻撃しながら背後に跳び着地した。

 三体はこっちを向いて構えた。俺はハンズの頭部に注目した。
 三つの目の様な穴の空いた円柱状の頭の右側には俺の攻撃の後があったが、はっきり言ってダメージは薄い。しかし、首にははっきりと傷が付いている。
 俺の予想したとおり、奴らは装甲こそ硬いものの、関節部、接合部はそれに比べて脆いということが見て分かった。

 ガンズが左腕をこっちに向けた。銃口は大きく、砲門と言った方が妥当かもしれない。その砲門から発射された弾を俺はある疑いから縦に真っ二つに斬り裂いた。
 砲弾は俺の両側を通り過ぎ、後方で爆発した。もしあれを防いでいれば今頃木っ端微塵だった。

(あいつの装備は『魔導式12口径機関銃』と『魔導式38口径爆弾砲』と来たか…まずはあいつからだな…)

 俺はガンズに向かって走り出し、奴の機関銃が俺を捕らえる。俺は右手を前に突きだし、剣を折り曲げ回転させた。掘削機のように高速回転するブレードが魔力弾を悉く防ぎ、俺は奴の目の前で頭の高さにまで跳び上がり右から左にブレードで一閃した。
 ガンズの胸を蹴って後方宙返りをして着地すると同時に、ガンズは仰向けに倒れた。

 右からソードが剣を振り下ろした。身を返して避けると、左の剣も交えた奴の猛攻に曝されることになった。大振りな為攻撃は防げる、しかし、威力が半端ではなく防いでいても骨くらいは折れそうな勢いだ。

(まずいな…こうなれば一か八かっ―)

 俺は攻撃の隙を見つけ懐に入り込んだ。俺はソードの両肘の隙間を刹那に斬り裂き、跳び上がって首を突いて剣を右へ振り切った。
 俺はソードの倒れかかった体を右へ跳び避けた。剣は地面に突き刺さっていた。

 残るはハンズのみとなった。ハンズは跳び上がると俺に向かってかかと落としを繰り出した。
 俺は後ろへ飛び退き、かかと落としの当たった地面は岩盤が隆起していた。ハンズは右足で前へ跳び、左足で突っ込みながら蹴ってきた。俺が左へ避けると左手で殴りかかってきた。ブレードで防ぎ、後ろへ飛ばされた。
 俺は宙返りをして、着地と同時に地面を蹴り、右手で殴りかかろうとするハンズの腕の下を、身を屈めながら通り過ぎて胴を斬り裂くことに成功した。

 魔導人形は三体とも機能を停止し、俺はシエラの方を向きゆっくりと歩き出した。そして、シエラが拘束されている魔導人形の足を斬り裂き仰向けに倒した。

「んっ―!」

 シエラは布で轡をされているので悲鳴も呻きにしか聞こえない。俺は男の首元にブレードを突きつけた。

「答えろっ、どこから手に入れた!」

「あ…う、裏の市場で男から買った…」

「男の名前はっ?!」

「い、イニシャルしか知らねぇ…え「H=I」だ…」

「どこにいるっ!」

「し、知らねぇよ、ほんとだ…だから命だけは…」

 男は怯え、命乞いをした。本当に知らない様だ。

「…二度と現れるな…」

 男達はどこへなく逃げていった。俺は右腕を元に戻して、溜息をついてあのイニシャルと名前を照らし合わせた。

(H=I………ハーロック=イルミルダ…)

「んん〜っ、ん〜!」

 おっと、彼女のことを忘れるところだった。俺はカルロを拾ってホルスターに納め、彼女の拘束を解き轡を外した

「…ん、はぁ…はぁ…。どうして助けに来たの…?」

 彼女は息を整えて俺に訊いた。

「お前が誘拐されたのは半分は俺のせいみたいなものだ…」

「戦ってる時のあなた…とても怖い顔をしてた…。それにその右腕も…聞かせて、あなたのことを…」

「…分かった。うちに来い」

 俺は彼女と共に町へ戻った。時刻は朝の八時、帰って朝食でも作ってもてなすとするか…

 
10/01/25 12:25更新 / アバロン
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■作者メッセージ
戦闘の描写はいかがなものでしょうか。
楽しんでもらえたら光栄です。

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