連載小説
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山賊退治 作戦会議編
「ふぁ〜ねむいです〜」
眠そうな目を擦りながら白が言った。
目の下にはクマが出来ている…一体何時まで起きていたのだろうか?
「あんな夜遅く迄、読書をしているからだ…」
呆れながら紅が指摘する。
「だって折角、人と同じ様な姿になれたんですよ〜
前から【本】は読みたかったんです〜!!」
「だからって山のように借りた本を一晩で読破するのはやり過ぎです。
そんな眼鏡まで作って…」
葵もため息混じりに非難をする。
「ぶ〜皆が寝るのを邪魔するのは悪いと思って、
わざわざ作ったんですよ〜この眼鏡!!」
ちなみに葵が指摘した眼鏡は白がわざわざ自作したものである。
見た目は普通の眼鏡だが…
月明かり等の光源が一切ない真の暗闇でない限り、
文字等が明確に読める優れ物であったりする
(こちら側で言うところの高性能暗視スコープの様なもの)。
動力源は装着者の魔力である。
周りの明るさに応じてレンズが瞬時に光の増幅率を適切なものにする機能付きで、
この機能は現実の暗視ゴーグルとは違い、
レンズを通る光を増幅するだけではなく減少させることも可能である。
つまり、日差しが強い日はサングラスとしても使用できる超高性能アイテムである
(但し使用するための魔力量が半端でないため、
 カイト達や最上級魔物達でないと使えない欠点もあるが…)。
…どうやら以前から様々な情報が書かれている「書物」に興味があったようである。
それが「魔物娘」になった事によって可能となるや、
長年我慢していた読書欲が一気に爆発したのだろう…
読書用のアイテムと称した超高性能暗視ゴーグル自作してしまう辺りはちとやり過ぎとは思うが…
話を戻そう…

 幸いな事にこの街には大きな図書館があり、
様々なジャンルの本が所蔵されているのだ。
前日、
白の冒険者登録を済ました後に、
「今の世界を知りたい」
と本人が言い出したのが全ての始まりである。
その為、
クレアからこの街にある図書館を紹介されたのだ。
図書館はとても複数階建ての巨大な建物であった。
クレアが言うには、
大陸最大規模の施設と所蔵数を誇るとの事である。
その所蔵数は数十万冊とも言われている。
余りの本の多さに分類(歴史など)事に丸々1フロア割り当てられているほどである。
また、各フロア毎に司書が常駐しており、
各フロアの本類に関する知識を豊富に持っている。
知識を用いて、利用者に適切なサービスを提供しているのである。
…どうやらこの書物は元々は現領主が集めていた物らしい。
ドラゴンには珍しく光輝く金銀財宝よりも古今東西の「情報」が詰まっている書物や太古の遺物等に興味を引かれたようだ。
ちなみに現在の趣味は「古文書類の解読」だそうだ…

 白は閉館時間まで様々な本を読み漁っていた。
閉館時間になると、貸し出し可能な本を10冊以上借りて、
その本を一夜で全て読破してしまったのである。
ほぼ徹夜で読み続けていたのであった。
事実、既にカイトの肩で猫の姿となった白が爆睡している…
猫の時の白は【白い虎猫】といった風貌である。
カイト達が向かっているのは行き先は領主の居城…
「作戦内容が決まったので各自所定の場所に集合せよ」
との内容の手紙をハーピーが持って来たのだ。
いわゆる召集令状である。
そうこうしているうちに城の門が見えてくる。
「もうそろそろ白を起こした方が良いかな?」

「確かに…でも起きるか?白の奴…」
「昔から一度寝ると中々起きませんでしたしね…下手に起こすと寝起き凄く悪くなりますし…」
さらりと怖い事を言う葵。
「…どのくらい悪いんだ?白の寝起きは…」
一様確認をするカイト。
「…問答無用で戦闘モードになります」
「起こした奴はもれなく半殺しの目にあう事になるからな…」
寝起きが悪いどころの騒ぎではない…
ヤバすぎである。
「…止めておこう…この場所を戦場にする訳にはいかんしな…」
平和そのものの大通りを眺めながら言うカイト。
賢明な判断であろう…

門の前まで来るとカイトは手紙の指示に従い、
城壁に設けられている守衛所に手紙と4人のギルド登録証を見せる。
訪問予定者が書かれた羊皮紙に4人の名前が書かれている事を確認した兵士は
普段使用している扉とは別の扉を開けた。
「確認しました。どうぞお通り下さい」

 その先には転送陣が展開されている。
どうやら魔法でどこかの空間と繋げているようだ。
…何故猫の姿まま白がチェックを通れたのかについては触れないで置こう…
展開陣が繋がっていたのは、城の上層階だった。
非常時以外は限られた者以外立ち入り禁止の区域に設定されている。
この階より上は領主のプライベート空間で有るためである。
出迎えた兵士に案内された場所は会議室と書かれた札がぶら下がっている部屋であった。
会議室としては中規模な作りだが、
防音魔法が何重にも施されている。
後からカイト達が聞いた所によると、
重要な事項を決める会議に使われる部屋だそうだ。
部屋に入ると討伐部隊総隊長に任命されているフランとギルド長のクレア、そして1人のクノイチが居た。
「すいません。遅れてしまいました」
そう言って頭を下げるカイト。
「何、時間よりワシらが早く来てしまっただけじゃ。お主らも遅刻ではないぞ」
そう言って壁掛け時計を指さす。
時計の針は開始時間10分前を告げていた。
「本当は寝坊助のせいでもっと遅れてくるかと思っておったしの」
と言いながら白をちら見するクレア。
「まだ、私の肩でイビキかいてますよ」
そう言いながら肩から宛がわれた椅子に静かに白を下ろす。
当人は未だに爆睡中である…
「しかし…見た目は只の白猫じゃな。柄付きの…」
ガチャ
クレアの言葉を遮るかの様に会議室のドアが開いた。
「おや、もう皆揃っているようだね」
「「「領主様!?」」」
カイト達が驚くのも無理はない。
なんと、入って来たのは蒼い体のドラゴン
「ステーション街」領主のミンスリーだった。
「アルベルト殿はどうしたのかの?」
「アルベルトは今は取り掛かっている仕事が長引いてな。今回は欠席するそうだ」
「ではこれで全員集まった事になるか。少し早いが始めようとするかの」
「そうしてくれ」
ミンスリーの許可を得てクレアは進行役のフランに視線を投げ掛ける。
「では…始めます。
 今回皆さんに集まって頂いた理由は前回行った威力偵察と、
 送り込んでおいた諜報員から得られた情報を元に作成された
 作戦内容をお知らせするためです。
 詳しくはお手元の資料を参照してください」
ここで一度言葉を区切り皆を見るフラン。

 今回、諜報員から新たにもたらされた情報とは、
「生活必需品等を運搬するため領地間を運行している
 【行政定期便】を敵が新兵器の実践テストを兼ねて襲撃する計画を立てている」
との内容だった。

 生活必需品は基本的に領地内で自給自足しているが、
領地の地形や環境等の影響でどうしても過不足が生じてしまう。
そこで隣接する領地間等で貿易を行う必要性が生じる。
基本的には貿易商の手で行われる民間貿易で事足りるのだが、
領主が管理している場所で生産される物や、
【塩】等の領民の生命に関わるの物資の貿易は行政の手で管理されている。
それらを運搬するのが【行政定期便】である。
民間の物資も輸送することが可能で、
何よりも時間は掛かるが、【安全】で【確実】に相手の手元に届く。

 そのためこの定期便を利用している貿易商も少なくはない。
警備が手薄な民間貿易便が教会勢力に襲撃されるようになると、
損害を嫌う多くの貿易商達は警備が強固な【行政定期便】に依存するようになっていった。
今やこの便は唯一の通常運行されている貿易便になっている…
生命線と言っても過言ではない状態であった。
 それを狙うのは当然の成り行きであろう…

「確認していただきましたでしょうか?」
 全員が頷いたのを確認すると作戦内容の説明に移った。
「この作戦の目的は大きく分けて2つあります。
 1つ、今だに山間部に潜伏する敵主力を叩き貿易路の安全を確保すること。
 2つ、敵が開発した新兵器の関係者の確保、
 及び敵が基地としている遺跡内に残存している新兵器類の破壊です」
フランが言った新兵器とは勿論、「機械兵士」の事を指している。

「作戦はまず敵基地に潜入班を送り込みます。
 この時、潜入班は諜報員と合流してください。
 敵が基地を出撃したのを見計らって味方本隊が夜営地を出発。
 敵本隊を敵基地と夜営地との中間地点で迎え撃ち、
 定期便の安全確保。
 なお、定期便の直衞は我が第1親衛隊が受け持ちます。
 この時、本隊は派手に暴れてより多く敵を基地から誘き出して下さい。
  基地が手薄になった隙に潜入班は行動を開始。
 関係者確保と基地機能の無効化及び新兵器の破壊を行います。
 目的達成後、潜入班は速やかに撤退。
 確保した人物を転送後、本隊と合流して敵主力を殲滅します。
 何か質問はありますか?」
「この人物を確保すればよいのですね?」
クノイチが対象人物の似顔絵を指しながら質問をする。
「正確には…保護です」
「保護ですか?」
フランの答えに潜入班代表のクノイチは首をかしげる
「この人物は親魔領への亡命を望んでいます」
「失礼ですが、それは確かな情報ですか?」
「この男は異界人だ。同時に我が夫の部下でもあった」
「「「「「異界人ですか?!」」」」」

 カイト達(+クノイチ)が驚くのも無理はない…
異界人(物)が平行世界からこちら側に転移されてくる事はまれにあるが、
大多数の人々は平行世界の存在すら知らないのだ。
まして、その人物が副領主の元部下だったという事実も、
衝撃をより強くした要因の1つであることは言うまでもない…
(もちろん副領主が異界人で武器開発実験部隊所属であることも極秘にされている)

 「ああ、そうだ。
 開発協力の条件として
 【使用相手は殺戮者のみに限定。
  戦争への転用は全面的に禁止。
  対象根絶後は速やかに現存している兵器の破壊と全情報の廃棄】
 を上げてしぶしぶ協力していたようだが…
 それが上層部が無断で戦争に転用するのを知って亡命を決めたらしいな」

 実は諜報員に敵部隊の情報をリークしていたのもこの異界人である。
諜報員を通じて元上司と取り合い、
教会側の実情を知り(うすうす感づいてはいたらしいが…)情報のリークと魔王軍側への寝返る事を決めたらしい。

「奴らが再び姿を現し始めたと言う噂は事実じゃったのか…」
クレアがぼそりとつぶやく
「何ですか?その殺戮者とは…」

「あたいも知らないぞ?そんな奴ら。葵、知ってるか?」
「私も知りませんでした…」
皆が抱いている疑問をクノイチが代表して口にする。
それに答えたのはクレアだった。
「ワシたちは「捕食者」と読んでいる者じゃ…
 前魔王の時代…
 突如として現れた、人でも魔物でもない怪物。
 人魔区別なく襲い糧として増殖する人魔共通の敵じゃ…
 その場に応じて身体をより強固な物に変化させるが、
 死んだら直ぐに身体が砂と化し跡形も無くなるので調べようもない…
 唯一分かっていることと言えば…
 身体を構成している物質が我々とは違い鉱物の様であること。
「核」と呼んでいる器官を破壊することでしか、
 倒す手段が無いと言う事ぐらいじゃ
 全く厄介な奴じゃった。
 ある時を境にピタリと現れなくなったがの…
  葵達が知らないのも無理はないわい。
 彼奴らが現れたのはお前達が眠りについた後じゃからな。
 おかげでジパング攻略戦の勢力は全て
 捕食者との戦闘に差し向けざるを得なかったわい」

 幸いこのとき、ジパングに捕食者は上陸しなかった。
四聖獣達が張った結界に阻まれ、侵入することが出来なかったのだ。
もっとも、ジパングに侵攻を試みた個体数が少なかったのも要因の1つであろう…
「それが今復活したと言うのですか?」
葵が重い口を開いく。
「分からん…
 現時点の現れ方から察するに…
 現時点では平行世界から少数がこちら側に来ているだけかもしれん…
 人と同じようにな…
 幸いにも本格的な増殖にはまだ至って無いようじゃ
 前魔王時代に比べると出現数も度合いも共に少なすぎるからの」

その言葉を聞いて思わずカイトは安堵のため息を付いた。
捕食者が本格的に増殖を始めれば教会勢との戦いどころではないからである。
「こほん…他に質問はありますか?」
一同を見回すフラン。
「無ければ今回は終わりにします。
 実行日に向けて各自準備を進めてください。
 他に何か報告事項があれば今ここで発表を」
「…無いようだな。では解散にしよう。」
ミンスリーの号令で一斉に席を立つ主席者達…
結局、最後まで白が目を覚ますことは無かった…
次回『山賊退治 作戦決行編』に続く…
12/08/18 14:50更新 / 流れの双剣士
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■作者メッセージ
皆さんお久しぶりです><
約4ヶ月ぶりの更新…しかも超短いorz
今回は本人から許可を頂き『エックス』様作の『トライアングルワールド 』に出てくる異形者を参考に考えた謎の生命体、
「殺戮者」を名前だけですが登場させました。
なお「異形者」とは全くの別物です。

誤字脱字も発見したらいつも通り感想までご一報下さい
m(_ _)m
以下駄作者からの連絡です
番外編も書こうかと画策中ですw
番外編はサブキャラ達が主なので読みたいキャラが居れば感想欄までw
優先して取りかかります。
葵「煮詰まったときの逃げ道作りましたね…」
紅「だな…」
真実なので何も言えない><

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