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山賊退治 作戦決行編
   (…こちら潜入班。
 ただいま第一目標地点に到着、
 及び諜報員と合流完了。
 作戦第1段階終了。
  敵に不審な動きなし。
 作戦第2段階に移行
 敵出撃時刻に変更の兆しは無しとの事。
 以上、連絡終わり)
念波で本隊に配属されている白に連絡を入れる葵。

 (了解しました〜
 獲物さん達が動き出したら連絡下さい〜)
いつもの口調で応答する白。
とても作戦中とは思えない口ぶりである。

 そもそも、白が何故カイト達と別行動を取っているのか…
その理由は四聖獣同士は離れていても『念波』で連絡を取り合える事からである。
 通信魔法は敵の魔術師に探知される可能性があるが、
四聖獣同士で交わされる『念』は、
四聖獣や黄龍同士のみが使える一種のテレパシー能力である。
魔法とは根本的に異なるルーツの能力であるため、他の者が探知することは不可能。
ただし、欠点としては伍神同士しか通信出来ない。
 そこで四聖獣の中で1番打撃力の高い「白」を連絡要員も兼ねて本隊に配属していたのだ。
 (まあ…隠密行動が1番苦手という、
 カイト達と行動を共にするには余りにも致命的な欠点を抱えているのもあるが…)

「ご主人様達は無事、
 作戦第1段階を達成した模様です〜。
 獲物さん達に変わった動き等はないとの事〜」

のほほんとした口調で葵からの連絡を討伐隊隊長に報告する白。

「了解した。
伏兵等の兆しは?」
その報告を聞いた討伐隊隊長こと、
フランは索敵班長に周囲の状況を問う。
「貿易路に伏兵の兆候は見られず。
白さん、進行ルート及び宿営地周辺は?」
「式神警戒網にも変わった兆候は見られません〜」
貿易路担当の夜間偵察隊(全員ワーバット)からの情報を纏める者(勿論ワーバットである)と
宿営地及び進行ルート周辺を受け持っている白はフランに返答する。

「敵さんに何か変化はあったかの?」
そう言ってに作戦本部として設置された大型簡易テントに入って来たのはクレアだ。
ちなみにクレアは魔女を中心とした後方支援隊を率いている。
「敵に変化は無いそうです」
「何じゃつまらん…
 潜入班は無事待機地点に着いたのか?」
「はい、諜報員との合流も完了したとの事です」
「了解じゃ。しかし…アルの行動には流石に驚いたの〜」
苦笑しながら呟くクレア。
「ええ、本当に…自ら潜入班の一員として出陣するとは…」
それに同意するフラン。
心配を通り越してもはや呆れ顔である。
「いくら自分達の技術が絡んでいるとはいえ…
 自らそれを清算しに行くとは…
 『突撃隊長』の熱意は錆び付いてなかったらしいの〜
 しかし、少しは『現在の立ち位置』を少しは自覚して欲しいのじゃが…」
同じく呆れ顔で言葉を紡ぐクレア。
確かに副領主が戦場に出るのは無謀極まりないであろう…
普通の人間ならば…

当の本人はその頃…
「クシュ…」
クシャミをしていた。

「風邪ですか?…だから城で待っていれば良いのですよ隊長…
 隊長に何か有ったら俺が領主様に消し炭にされますから…」
すかさず合流した諜報員に指摘される。

「なんか鼻がむずむずしてな…
 恐らくクレアあたりが俺の噂でもしてるんだろ…
 それとジョー…俺はもう『隊長』では無いと何度言えば分かるんだ…」
呆れ顔で諜報員を注意する通称「アル」事、アルベルトであった。
「すいませんね…でも俺の中で隊長と呼べる人は貴方だけですよ。『潜入隊長殿』」
あまり効果はないようであるが…

 副領主と会話をしている者は「大和 ジョー」。
アルと同じ異界人であり、
隊長をしていた「実験部隊」の潜入及び狙撃要員だった…
 その腕を買われて現在はステーション街近衛軍、隠密部隊の隊長を拝命している。

 今回は新型兵器情報収集の為、
部下のクノイチ数人と共に敵にスパイとして潜入していたのだ。
「ジョー…敵が動き始めました」
監視していた隠密部隊副隊長のクノイチが敵の行動開始を告げる。
「しぐれか…今行く」
そして監視台としている大木に自らも枝を足場替わりにして軽々と登って行く。
「時間通りの出撃…此方の動きは察知されて無いようだな…」
双眼鏡を覗きながら呟くジョー。
「隊長。
 敵が動き始めました。
 変わった動き等は認められず。
 部隊規模及びルート…事前予測と合致。
 後続に新型自立兵器を積んでいると思われる馬車も複数確認」
双眼鏡を目に当てたまま、ジョーは敵の情報を素早くアルに伝える。
「よし…葵殿、本隊に連絡を」
「了解」
アルの指示に従い本隊に敵出撃の一報を送る葵。
 
時を同じくして白の警戒網にも敵部隊の一団が捕らえられていた。
「隊長。敵が動き出したとの連絡が先方からありました。
 我の式神も敵の前衛と見られる一団を確認…」
白はすぐさま敵の状況をフランに伝える。
先程までとは雰囲気が一変して戦闘モードに入っていた事もあり、
テント内の空気が一挙に緊迫した物と化す。
「夜間偵察隊はただちに第1親衛隊とともに商隊直衞任務に付いてくれ!!
 商隊は夜明けを待ってチェピン領にむけて出発。
 それと同時に偵察隊は防空隊(竜騎士とハーピー達の混成部隊)と交代。
 当初の作戦通り、そのまま商隊と一緒にガイガロスに帰還してくれ」
それを受けて矢継ぎ早に各所に指示を下すフラン。
「「「「「了解!!」」」」」
そう言うと直ちに伝令担当者達は、
テントを飛び出していった。
「白さん、敵の侵攻ルートは?」
「此方の予測通りのコースを進行中。およそ三時間後には作戦地点を通過すると予測…」
「よし、これより我が隊は作戦を開始!!十分後には出撃するぞ!!」
「「「「「了解(じゃ)!!」」」」」
フランの号令の元、本隊は出撃の最終準備を進めていった…

作戦開始の指示を受けた潜入班は警備が一番手薄な裏門に向かっていた。
「さて…ジョー、今内部にいる残敵はどのくらいだ?」
偵察から戻ってきたジョーにアルは予想される残敵を確認する。
「最大でも10名…しかし、持ち出した規模からすると…
 自立兵器が多数残存している事は間違いないでしょう…
 なお、内部には警備用自立兵器がすでに起動、配備されています」
「警備用の数は?」
「約20、射撃武器はついていない近接戦闘専門のタイプです」
「まずはその自立兵器達を破壊するのが先決か…」
「『奴』が動いてくれていれば…
まだ起動していない自立兵器は使用不可能になっているはずですが…」
「『奴』も監視されている身である以上、下手に動けないか…」
「その通りです」
「奴のここでの部屋は?」
「旧観測室の直下、観測員待機所跡です」
「よりにもよって見張り台の真下かよ…」
「それも要塞の重装甲帯に含まれている場所ですか…」
ジョーの発言に思わず愚痴が出る紅と葵。

 無理もない。
重装甲帯とは要塞の機能維持に欠かせない場所に施された重防御部位の事を指している。
万が一被弾しても其処の機能が麻痺しない様に、
他の場所よりも防御力が強化されているのだ。
無論、防御壁の弱点である窓等は基本作られておらず、
作られていたとしても明かり取りや換気口としての最小限の物しか存在しない。
其処を通り抜けて行く事が出来るのはスライム娘系だけであろう。

「よし、2手に別れよう。第1班が自立兵器を破壊し敵の注意を逸らす。
警備が手薄になった隙に第2班が『奴』を救出する」
アルは装備の最終チェックをしながら指示を出す。作戦発動の時は近い
「敵地での戦力分散は危険ですが…仕方がないですね」
剣を背中から取り出しながらつぶやくカイト。

「第2班は私とジョー、それと連絡要員も兼ねて葵殿も連れていく。
 他の者は自立兵器破壊に向かってくれ」
「ちょっと待って下さい!!いくら我々が囮になるといっても、三人では危険過ぎます!!」
それを聞いて思わず、隠密隊副隊長のしぐれが反対の意見を述べた
「この班は少人数の方が発見される危険性が少なくてすむ。
 戦闘なった場合も四聖獣が1人居るんだ。問題はない」
それに対しアルは淡々と答える
「しかし…」
それでも引き下がろうとしないしぐれにジョーが声を掛ける。
「敵地でこれ以上の戦力分散は危険だ。
 敵と戦う第1班の方に主戦力を置いた方が良いのはしぐれにも分かるだろ?」

「…分かりました。
お気をつけて」
「何、無理そうだったら何処かに隠れてるさ。奴を助け出すのは後でも出来るしな」
胸のホルスターからワルサーP38型レールガンを取り出しながら呟く、ジョー
「おいおい、いきなりワルサーか?相手は人間だぞ?」
そう、その銃は9o弾を発射出来るワルサーP38を元にした対殺戮者用に開発されし物。
いくらこの世界仕様に改造してあるといえども、
至近距離で撃てば城壁に大穴を空ける事など容易い。
「弾は催眠ガス弾、威力は最弱設定。鎧も着てますから死にはしません。」
そう言って50m先に居る警備兵にねらいを定めるジョー。数は2
引き金に手を掛けたその時…

 突如、裏門が『内部』から破壊された!!
何事かと振り向いた兵士は、中から飛び出てきた兵士に一撃で昏倒させられる。
とっさにジョーは残っていた兵士に狙いを変更。
トリガーを引いた。
同時に撃鉄が雷管を叩き、薬莢内の火薬が炸裂。
特殊火薬と砲身内に展開された磁力によって爆発的な加速力を得た弾丸は
兵士の頭部に命中し砕け散った。
その時に発生した麻酔ガスと衝撃によって、
敵兵は強制的に眠りの世界に引きずり込まれる。
その威力とは対象的に、
身体に掛かる反動と周りに響いた火薬の炸裂音は小さなものだった。

 周囲に残敵が居ない事を素早く確認すると、
中から出てきた兵士は2人の敵兵を目立たない場所の木に縛り付けた。
頭の防具を取り去り此方に合図を送る。
風になびく肩まで伸びた金髪が美しい。
警戒しながら一同は素早く兵士の所まで移動した。
「やはりジョー様でしたか」
「「「「「?!」」」」」
『女兵士』が発した言葉に一同が動揺する中
「隊長…これでずいぶん楽になりそうですよ」
ジョーだけが不敵な笑みを浮かべていた…
12/09/20 15:12更新 / 流れの双剣士
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■作者メッセージ
約一ヶ月ぶりの更新…それなのに、全然物語が進まなくて大変申し訳ありません(土下座
さて、この女兵士は誰なのか?!
それは次回のお楽しみw(オイ
誤字脱字等があればご一報下さいませm(_ _)m
次回は何時になるのかは、作者自身も分かりません><

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