連載小説
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ギャングスタ・シンフォニー 下
ギャングスタ・シンフォニー 下


人魔歴1995年、シューシャンク刑務所。その刑務所の奥にある一室がある。そこに服役している受刑者はベビー・フェイスと呼ばれた元マフィアのボスと伴侶達。

濃い性臭と魔力が立ち込め、呻き声のような喘ぎ声が扉から漏れ出ている。

"邸宅"と呼ばれるその部屋には殆ど誰も近づかない。近づけば大抵の者は魔物娘でもその部屋から漏れ出る陰気にやられて、酷いは場合は発情状態から半月は立ち直れ無いという。


さて、今はそこから遡り、おおよそ64年前……


1931年、自分のファミリーを作り上げ力を手にしたミケーレは徹底した秘密主義を敷き、幹部の嫁9人以外ファミリーのボスが誰かを知る者はいなかった。

敵対する者達には情け容赦のカケラもなく、その力を奮っていった。ここではその一部を紹介する。

血の聖愛祭事件。

1932年、2月14日の聖愛祭。慈善活動の為に西方主神教教会に訪れていた敵対するマフィアの幹部をミケーレ自らが無垢なショタを装い油断し切った所でジュノヴェーゼ・ファミリーの構成員が襲撃。

直前に満面の笑顔で『聖愛祭おめでとう♪』そう言ったと言う。

敵対するファミリーと目撃者の教会関係者全員が消息を経つ。後に地元警察署にスラム地区のデビルバグ窟にて目撃情報が寄せられた。

カシゴホテル事件。1932年、4月3日。カシゴ市内の高級ホテルにて主聖祭休暇中の敵対するカシゴ市長、政治家と資産家、マフィアが集まるパーティーにて、花屋の少年に変装したミケーレがパーティー会場で違法入手した軍事用Exマタンゴガスを使用。

『市長さんにお届けものです♪』

無邪気な笑顔の邪悪なミケーレはそう言うとガスマスクを付け、Exマタンゴガスをばら撒き、パーティー会場に居た者全員を無差別にアヘらせた。

これにより市長のカリスマは暗黒の火曜日もかくやと言う大暴落を見せ、自任せざるを得ない状況になり、新たな市長はジュノヴェーゼ・ファミリーが強力にバックアップしたロマーナ系のとある若い政治家が市長となった。

世界大恐慌の暗黒時代にカシゴ市における敵対勢力を全て潰したミケーレは巨大な市場を手に入れ、"公然とした酒の密売"と男娼館やカジノの経営で巨万の富を築く事になる。

1933年、4月。ミケーレはとある経営者から世界大恐慌の余波で潰れたウイスキー蔵と所有する畑を黒人労働者ごと買わないかと打診された。乗り気では無かったが、その人物の身辺を部下達に調べさせ、護衛にカルメッラとグレッタ、それから秘書として経理に明るいマルティーナを連れ、同じロマーナ系アルカナ人と言う"よしみ" で会うことにした。

『……久しぶりだなぁ、クソ親父。お袋は元気か?ん??』

そこにいたのは、ミケーレをカルメッラに売ったマルコだった。

『………………。』

『ふん……まぁいい。ビジネスの話をしよう。ある程度の事情は知っている。また危ない橋を渡ったようだね?部下に調べさせたんだ。』

ミケーレと幹部達を前にガタガタ震える父親マルコはその丸い背中をすっかりと小さくしていた。

落ちに落ちぶれて、今度は上がり、また落ちぶれそうになっている父親を見て、浮き沈みの激しい男だとミケーレは彼に称賛半分、呆れ半分の眼差しを送った。

『……経営者として、率直に言わせて貰うと……マルコさん。黒人労働者を合わせても20.000ダラーが良いとこだ。』

『そんな……30.000は必要なんだ!なぁ、ミケーレ!俺の息子だろぅ!??』

いったいどの口が吐くんだと言いそうになる。

『……マルコさん。困りましたねぇ。あんたが今目の前にしてるのは息子じゃあ無い。ビジネスの取り引き相手だ。俺はあんたに同じロマーナ系の"よしみ" で会ってやってるんだ。……分かるな?』

ニガ虫を噛み潰したような表情になるマルコをカルメッラは冷たい目で見ていた。

『……借金があるんだ。』

『お困りでしょう。マルコさん。しかし……あんたの借金を握っているのは誰か知ってるか?』

『…………。』

マルコの顔が脂汗でダラダラになっていく。

『マルコさん、あんたはバジル信用金庫で金を借りてますね?……俺の会社の子会社だ。つまり、あんたの運命は俺が握ってるんだよ。』

『そこを何とかっ!!』

ガタン!とマルコは立ち上がった。

『自業自得だ。どうにもなりませんよ……と言いたい所だが、俺も極悪非道じゃあない。同じロマーナ系合衆国人のよしみだ……30.000ダラー用意しよう。』

『本当かっ!?……ありがとう!ありがとう息子よっ!!』

『礼を言うには早い。マルコさん……融資の条件として、あんたには差し引いた10.000ダラー分の仕事をしてもらう。……カルメッラ。嫁共全員呼んでくれ。マルティーナは契約書を用意しろ。』

マルティーナに契約書を用意させ、直ぐに取り引きが始まる。

父親のマルコが書類に目を通してサインをした瞬間。

ガタン!!!

『ぐっ!??』

マルコがカルメッラとグレッタに取り押さえられた。

『ミ、ミケーレ!こりゃ、どういう事だ!??』

『喚くな。……言っただろう?マルコさん。仕事をして貰う。……グレッタ。このライ麦野朗を黙らせろ。』

グレッタに命じると、グレッタはマルコの頭を殴り気絶させた。その後、ベル三姉妹がマルコす巻きにしてとある場所に拉致する。

マルコを連れて来た所はデビルバクやバブルスライム、オオナメクジなどが犇きあって暮らしているカシゴ市のスラム地区のとあるビルの地下室。

『……アリアンナ、手続きは済んでいるな?』

ミケーレ達は彼の命令で全員正装している。

『はい。ボス。……でも……良いんですか?』

『あぁ……もう、戻れないんだ。』

そう吐き捨ててから裸に剥かれたマルコに被せた袋を取る。

『ぷはっ!!ここはどこだ!??』

『あんたの仕事場だよマルコさん。ここで働いてもらう。その中をいてみな?』

マルコがおそるおそる地下室の扉を覗くとマルコの顔目掛けて何本もの手が伸びて来た。

『ひぃぃぃぃぃ!!!』

たたらを踏むように無様に後ずさるマルコ。中にいるのはゾンビの魔物娘が15人程。ゾンビだと言う事を考えに入れても皆正気の目をしていない。狂っている。

『そいつらは先日潰したマフィア娼館の娼婦達の成れの果てだ。義理も人情もへったくれもない経営者でな?娼館の中は梅毒が蔓延していたよ。手遅れの娼婦は俺達がゾンビにした。……そいつらをよーく見てみな?』

『?……お、おまえ??』

マルコが凍りついた。

『そうだ……お袋だよ。見つけた時は梅毒がオツムに回りきってもう手遅れだった。』

ドカッ!……

『ぐへっ!』

ミケーレがマルコを踏みつけるように蹴る。

『調べたんだよ。俺とてめぇが以前、最後に会った時にはもう……』

ドカッ!

『べっ!!』

『てめぇはお袋を娼館に売っ払ってたんだよなぁ??』

ドカッ!!

『ぎゃべ!』

『てめぇとお袋が俺をマフィアに売ったせいで、俺はあんな惨めな思いをしたんだ!』

ドカッ!!

『ぐへぇ!』

『それでまた今度はてめぇのせいでお袋がこうなった!全部てめぇのせいだ!!』

ドゴッッ!!

ガッ!……ミケーレはマルコの薄くなった髪の毛を掴み、顔を向かせる。

『ひ、ひぃぃ!!!』

『……お袋は梅毒で手遅れになるまでてめぇの為に働いて、大切なモン全部無くした。お袋はなぁ?ゾンビになる前、最後に俺の顔を見た時泣いて謝ってくれたよ。『ごめんなさいミケーレ……』ってな?梅毒で全身が痛んでオツムがパーになっても俺を見た時、小汚い手で足元にすがりながらそう言ったんだ。お袋はしでかした事のケジメをキッチリ付けた。チャラだ。もう誰にも貸しはねぇよ。……だがてめぇは……てめぇがしでかした事のケジメを付けてねぇよな??』

『わ、悪かった!!俺が悪かった!!』

『てめぇのそう言う顔は見飽きたよ。……カルメッラ、アンデット用の結界を張れ。アリアンナ、準備が終わったら扉を開けろ。』

暴れるマルコ。しかし、子供の姿ではあるがインキュバスを前にそれは無駄な足掻きだ。

やがて結界が張られアリアンナが扉を開く。

『じゃあなクソ親父。』

ドガッ……バタン!!……ガチャ!!

ミケーレはマルコを蹴り、地下室に押し込めると即座に扉が閉められた。

『うわあぁぁぁぁぁ……ひぃ……やべ……て……』

何本もの手がマルコに伸びて飲み込まれていく。やがて滑った水音と女が歓ぶ声だけが聞こえるようになった。

『……クソ親父、お袋、ここに並んでるのは俺の嫁達だ。俺は力を手に入れた。この力で自分の幸せを掴んでみせる。クソ親父、今度こそお袋を大事にしろ。……もう会う事も無いだろう。アリデベルチ・パパ、アリデベルチ・マンマ……』

ミケーレは胸を張って、地下室の中で湿った肉団子のようになっているマルコ達にそう言うと背を向けて歩き出した。その後ろを静かに9人の影がそっと寄り添っていた。


それから……


マルコの農場と酒蔵の経営権を手に入れたミケーレはその周囲の農場と酒造メーカーを金の暴力で買い占めた。

『人間も魔物も快楽には抗えない。』

ミケーレの言葉だ。彼はこれから快楽産業で台頭していく事になる。

1936年、大ジパング帝国は資源問題、貿易摩擦、領土問題などで諸外国との軋轢を極め、霧の国との戦争が激化する。エウロパス(西の大陸)ではロマーナ王国のファスケス党やクラーヴェ帝国の社会労働党が国際的影響力を強め世界は戦争へと静かに歩み出していた。

1938年、いよいよ戦争への機運が高まるとミケーレは酒造工場で砂糖を作り始めた。それと同時に人間の娼婦を多く雇い入れた。

1939年9月1日に西の大陸で独裁者ルドルフ・アドラー総統率いるクラーヴェ第三帝国がフーランド第二共和国に侵攻。ミケーレの読み通りに戦争が始まる。

ミケーレは作った砂糖を連合軍に売り捌いた。トラック10台にウイスキーのボトルをひとつサービスして。甘ければ質の悪い粗ごし糖でも軍は喜んで大枚叩いて買っていく。

1941年にジパングがダイヤモンドハーバーを襲撃、ジパング戦線が開戦するとミケーレは娼婦達を合衆国軍人間部隊の前線将校や下士官達へ送り付けた。男所帯の軍隊だ。ハニートラップは大きな効果を生み、後に第二次人間大戦と言われる戦争で終戦まで、いや、終戦後もミケーレと軍上層部とのズブズブの関係が構築された。

人魔歴1945年に戦争が終わる頃、ミケーレは表社会でも裏社会でも巨大な金とコネクションによる権力を手にしていた。

味を占めたミケーレは禁酒法が終わりを迎えた1950年代から60年にかけて、ニューシャテリア市に拠点を移し、表向きのビジネスでは金融業や酒造、食品産業で財を成した。特にロマーナ系のアイデンティティであるチーズに力を入れ、その頃のアルカナ合衆国で消費されるチーズのおよそ26%はミケーレが経営する農場とチーズ工場のものだった。

裏社会では、マフィアのボスとして禁止指定の魔界産媚薬やマジックアイテムの密輸入、マネーロンダリング、カジノや娼館、魔物娘向けの男娼館の経営を行なっていた。

当然、ロマーナ系の台頭を良く思わない白人主義者や西方主神教過激派や他の移民族系マフィアやイスパール系カルテル、黒人系シンジゲートや霧の国系ギャングとの軋轢を極める事となる。

それに対してミケーレは敵対する勢力を組織、個人に関わらず情け容赦無く捻り潰していった。

カルメッラ、グレッタ、サンドラとの間に産まれた3人の娘達をニューシャテリア市警察署長、政治家、政財界の偉いさんの息子にそれぞれ嫁がせている。揉み消す事なぞ造作もない。 

そうしてミケーレはどんどん闇へと取り憑かれていった。

敵対する勢力を叩いて潰す度に多くの失業者で街が溢れる程にミケーレの影響力は巨大になっていたのだ。当然人々の……特に西方主神教会系の組織と、白人主義組織や政財界の恨みを買い、自身を含め身の回りは常に危険に晒されている。

『……カルメッラか。どうした?ん?』

ある日の夜カルメッラはミケーレに会いに来た。

『ミケーレ……もう十分だよ。もうよそう?』

ミケーレは怪訝な眼差しをカルメッラに向ける。

『……いったい何の話だ?』

『力もお金も、もう十分すぎるほど手に入れたじゃないか。これ以上何を望むの?』

『……手に入れたモノを守る為だ。まだ力も金も足りない。』

『その為に関係ない沢山の人間の労働者が露頭に迷ってる。』

『俺に盾ついた白人主義者共や主神教に毒された愚か者達だ。もし路頭に迷うようなら……そう言う奴らは貧民街の魔物娘にでもくれてやればいい。それに……カルメッラ……元はお前が始めた事だ。違うか?』

『オレはっ!……ごめんなさい。……私……私は自分の家族やロマーナ系の仲間を守ってやれるだけの力と金があって、時々チンピラや権力者を脅してイビっておもしろおかしく悪党やれていればそれで良かったんだ。……ミケーレ……あなたのその小さな手はもう巨人の手なんだよ。振り下ろしただけで全てを壊してしまう。』

自分の事をオレと言った時、ミケーレの眉が不愉快そうにピクリと動いた。それを見たカルメッラは慌てて "私" と言い直して、自身の心中を夫にぶつける。

『……何が言いたい?ん?』

『……最初は誇らしかった。昔じゃ考えられない程の金が入ってきて、なんでも思う通りになる権力を手に入れて、私達の旦那様は凄い奴だって……。娘達も産まれて幸せだった。でも……。』

カルメッラは何かを言おうとして、言葉を詰まらせた。少しの沈黙の後、息を吸い込んでミケーレをまっすぐ見つめる。

『力や金を手にする度に……あなたがどんどん遠くへ行ってしまう様に感じるんだ。』

『なぜだ?……なぜ今更そんな事を俺に言うんだ?……なぁ、カルメッラ。何が不満なんだ??』

『昔のあなたはそりゃ容赦なかったけど、どこか優しかった。心のどこかでちゃんと私達を愛してくれた。でも今は……あなたに抱かれても、嬉しく無い。』

ガシャン!!……ミケーレが机の上のブランデーの瓶を床に思い切り叩き付けた。

『……俺は悪党だ。悪党が悪党らいしい事をして何が悪い!!この世は金と力だ!!力が無ければ何にも出来やしない!金がなければ惨めな思いをするんだぞ!!』

『金や力が無くても、私は……私達はミケーレと家族がいればそれで十分だ!……あなたを心から愛しているから……』

『……愛?愛だって??……ハッ!親にも愛されなかった俺にはそんなモノは良く分からないさ!俺の親は借金のカタに俺を売った。カルメッラ、買ったのはお前だ。忘れたとは言わせない!……愛している!!愛しているだ??……なぁ、カルメッラ。もし愛と言うモノや幸せやなんてモノが成立するとするならば、それは力と金の上に成立するんだ!!』

『じゃあ!!力と金を手に入れた今……あなたは幸せなの!?』

『………………っ!!』

ミケーレはカルメッラの言葉に答える事は出来なかった。カルメッラはスカートの裾を握りしめて下を向いている。大理石の床には雨漏りでもないのに小さな滴がポツリポツリと落ちていた。

『ミケーレ……どうしてこうなってしまったの?』

『……俺も好きでこうなった訳じゃあ無い。それはお前が一番良く解っている筈だ。だがな?……もう何も知らないお坊ちゃんには戻れないんだよ……。解ったら出て行け。今日はもう顔を見たくない。』

『ミケーレ……!!』

『出て行けっ!!!』

カルメッラは泣きながらミケーレの部屋から出て行った。部屋の中の小さな巨人は肩を落として溜息と一緒にやるせ無い気持ちをタバコの煙と共に吐き出した。

それから、数年経った1969年。

ミケーレは人生最大の危機に瀕していた。

カシゴ市の警察署長の息子に嫁がせた長女のセレーネとその夫がデパートの強盗犯の人質になってしまった。

ミケーレは警察に助けを乞い、事務所の一室にて犯人との交渉の電話を待っている。

ジリリリリリリリリリ……ガチャ……

『……あぁ……そうだ…………解った。……ミスタ・ジュノヴェーゼ、犯人からです。』

『わかった。』

ミケーレは電話を受け取った。

(……ミケーレ・ジュノヴェーゼか?)

『そうだ。私がミケーレだ。』

(オイ、ガキの声じゃねぇか!?)

『私はインキュバスだ。今時珍しくも無いと思う。……家族は……娘は……セレーネは無事か?』

(あぁ……元気にしてるよ。よぉ、お嬢様。お父上サマが声を聞きたがってるぜぇ??)

(もしもし、パパ?)

ガタン!!とミケーレは思わず立ち上がった。

『セレーネ!……無事か??』

(……大丈夫。夫も無事よ。ごめんなさい。こんな事になるなんて……キャア!!)

(オイ!時間切れだ。)

『頼む、乱暴はしないでくれっ!!』

(そりゃあアンタ次第だ。)

『……要求を聞かせて欲しい。何でもする。……どうしたら娘夫婦を解放してくれる?』

(くくく……何でもねぇ?じゃあ、アンタがこれまでにして来たビジネスでの不正行為を全て告白して貰おうか??)

『そんな事は身に覚えが無い。身に覚えの無い事をどうしろと言うんだ?』

(しらばっくれる訳か??)

パン!!……ぁぁぁあああ!!!

『な、何を!??』

(旦那の方の足を撃った。なに、死にはしないよ。……アンタ次第だ。ポーン建設って知ってるか??)

『…………。』

(アッハッハハハハハ!!……知らねぇよなぁ!?だがな?俺たちはアンタに職と居場所を奪われたんだ!!!……人質を解放して欲しけりゃ、今日の18時のニュース・シャテリアで記者会見を開き、不正行為の告白をしろ。娘夫婦か自分自身か。せいぜい悩みな……)

ガチャ……ツー……ツー……

そのまま切れてしまった。

『……カルメッラ。嫁共を集めてくれ。最後に顔が見たい。』

それから、ミケーレは犯人の要求を呑み、ニュース・シャテリアで記者会見を開いた。そこでミケーレ本人の口から語られたのは株の不正取引から始まり、マネーロンダリング、密輸入、金融業での不正な金利貸し付け、警察や政治家との癒着や汚職、脱税、マフィアのボスである事などなど。

犯人は約束通り娘夫婦を解放し、程なく逮捕された。

その後、ミケーレはマスコミから叩かれ、あの告白から年が明けた1970年の1月に裁判にかけられる事となった。

殆どの容疑は取引き相手の偉いさん方が揉み消したが、多額の脱税だけはどうにも出来なかった。弁護人はミケーレの旧友であるニナ・パーカーが勤めたが、ミケーレ本人が脱税を認め、かつ検察側に決定的な証拠を提示され、大した弁護は出来なかった。

『判決を言い渡します。被告、ミケーレ・ジュノヴェーゼを魔物娘裁判法に基づき脱税の罪で懲役30年の刑に処します。尚、執行猶予及び保釈は認められません。』

ハクタクの裁判官がそう静かに告げた。

ミケーレはそもそも保釈が認められるとしても、ミケーレすら支払えないような巨額の保釈金になるだろう。

ベビー・フェイスと呼ばれ、合衆国の富と権利を裏から牛耳った彼の今の様子は、年端のいかないか弱い男の子そのものだった。

『なにか異議はありますか?』

ミケーレは黙って俯いたままだった。

その時、ミケーレの方に誰かの手が添えられた。

『カルメッラ……?』

ミケーレの後ろにいたのはカルメッラ、グレッタ、マルティーナ、マリーベル、メリーベル、ララーベル、サンドラ、ジューリア、アリアンナ。

『私達も一緒……。ミケーレ、私達はずっとあなたについていくわ。』

ミケーレは驚いた表情を隠しきれていない。なぜなら彼は自分1人で罪を背負う覚悟をしていたから。

『裁判長。魔物娘裁判法第199条の適用を求めます。』

ニナ・パーカーが適用を求めた魔物娘裁判法199条とは、インキュバス、又は既婚の魔物娘が犯罪を犯し公平な裁判により何らかの刑に処される場合、その伴侶は自由意思に基づき運命を共にできる権利を有するものとする。と言うものだ。

『適用を認めます。移送先はシューシャンク魔物娘刑務所とします。……ミケーレさん。あなたは伴侶に恵まれましたね。……これにて閉廷します。』

カンカン!!









裁判の後、ミケーレはカルメッラの腕で泣いていた。今まで手に入れた力も富を全て失って。

しかし、彼の手に最後に残ったのは何にも変えがたいファミリーだった。

『どうして、お前達は俺についてこんな所まで来てくれたんだ?』

シューシャンク刑務所に服役して暫く経った頃にミケーレはそんな事をつぶやいた。

『……もう1920年代には……楽しく悪党やっていたあの頃には戻れない。何も知らない天使のようなミケーレはどこかに行ってしまった。50年と少しで、私達は何もかも変わってしまった。でもあの時、あなたはセレーネ達の為に……私達家族を守る為に全てを捨ててくれた。それだけで十分。……十分なんだよ。あなたの側にいる理由なんて。』

そうして物語は25年後、この章の最初に戻る。


人魔歴1995年、シューシャンク刑務所。


ミケーレ達はこの25年の間、1年に何度か訪れる面会人の相手をする以外、ずっと閉じ籠もってSexをしていた。今までの時間を取り戻すようにお互いを求め続けていた。

" ミケーレ・ジュノヴェーゼ……面会人だ。"

その日もいつも同じ日だったが、不意に天井に設置されていたスピーカーから面会人が居る事を告げられる。

『……またパーカーか?カルメッラ、ちょっと行ってくる。待っててくれ……愛してる。』

ごちゅん❤どくどくどくどくどくどく

『あ"っ❤❤……いぐう"❤』

ミケーレは少々不機嫌になりながらも、カルメッラに中出しをキメると久方ぶりに床に脱ぎ捨てられた囚人服を拾って身につけ、廊下を渡り面会室へと向かった。

『め……面会じ、じじ時間は……あふっ❤……に……20分ですぅぅ……はぁ、はぁ❤』

面会室の扉を開けるとガラスの壁越しにミケーレの弁護士であるニナ・パーカーが座っていた。

『こんにちは。……相変わらず凄いわね。私はもう慣れたけど。』

パーカー弁護士の視線から後ろを振り向くと小さな机に座るサキュバスの監視員がミケーレから出る陰気に息を荒げ、ガタガタと震えながら片手を股間に潜り込ませて自分を慰めながら会話の記録をしている。

『……君も暫く前は "ああ" だった。』

『あそこまで無様では無いと信じたいわ。』

『で……今日は何の用だ?』

カルメッラ達をお預け状態で残しているし、後ろの監視員は酷い有り様で憐れだしでミケーレとしてはさっさと"邸宅"に戻りたいのだ。

『……出所後の受刑者の再犯率の高さに頭を抱えたお偉いさん達が今度、実験的な更生プログラムとしてシューシャンク刑務所で懲役5年以下と出所5年を控えた受刑者を対象として、芸術やスポーツを学ばせる事になったの。』

『……??』

『それで、まだ殆ど何も決まっていないけど、芸術の分野に音楽。クラシックがあって、オーケストラを作ろうと言う話が出てる。……あなたやってみない?』

『……どうして俺なんだ?』

『ヒマそうにしているから。それから、アナタだいぶ良くなったけど、まだ少し危ない目をしているから。そうね……もし仮にこのまま5年後シャバに出た後、行く宛はともかく、どうするつもり?』

『……………。』

ミケーレはパーカー弁護士から目を逸らして沈黙した。

過去に金と権力に溺れたミケーレは心の何処かでまだそれらに執着している。

それは根本的な部分でミケーレはあの最低な父親と似ている事を意味している。ミケーレ自身それを良く理解しているから、彼はパーカー弁護士の問い掛けに答えられないのだ。

『……このプログラムはアナタにとっても、アナタの家族にとっても良いチャンスになるかも知れない。それに調べたらアナタ昔、ジュリアン音楽院を飛び級で入学した天才ヴァイオリニストだって言うじゃない?』

『……引けるって言ったって、何年ブランクがあると思うんだ?俺は90歳近い爺さんだ。何の因果かショタのままだけど。』

『どうせヒマしてるんでしょ?』

『ぐっ………。』

正直、伴侶達とのSex以外 "ヤル" 事が無い。

それ自体に不満がある訳でも無い。しかし、ヒマを持て余しているのも事実だ。

『……わかった。付き合ってやるよ。』

『アナタならそう言ってくれると思ったわ!』

『但し、条件がある。』

ミケーレは立ち上がると後ろの監視員に近づいて行く。

『ねぇ、おねぇちゃん♪』(ショタヴォイス

『へ?あ、あ、あっ❤な、何かしら??』

『髪の毛にゴミが付いてるよ?取ってあげる♪』

そう言うとミケーレは監視員の耳元に顔を近づけて……

ふぅ〜〜〜〜〜〜っ

一息。

『〜〜〜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ❤❤❤』

ぷしゃっ

絶頂した監視員はそのまま床に倒れてピクピクするだけになった。床にはいつのまにかエッチな水溜りが出来ている。当然、仕事どころでは無い。

『……うわぁ……酷っ……。』

『これで込み入った話が出来る。』

『エゲツないわね。アナタその陰気抑える気無いでしょ?』

『……………。』

ミケーレは最高に悪い顔をしている。

『で……本題だが。条件は最高のヴァイオリンだ。ストラ・ガリウスが良い。』

『ストラ・ガリウス!??無理無理、幾らすると思ってるのよ!???』

『おいおい……。ガリウスくらいで何を言ってるだ??』

『何って、ミケーレ君の感覚おかしくない!?』

『ちょっと待て、資金はどのくらい用意してある?』

『……全体で1,000,000ダラー(おおよそ1億円*1ダラー100円ほど。)』

『ハッ!全然足りない。それじゃあ年間費用も賄えないじゃないか。……オーケストラの規模は?』

『古典二管編成。』

*人魔歴1700年代(西暦1700年代相当)中頃のオーケストラの様式。

第一ヴァイオリン10人

第二ヴァイオリン8人

ヴィオラ6人

チェロ4人

コントラバス2人 etc......

『……まぁ、そんな所か。楽器は?』

『ウィメーン州の使われてない公用の楽器を使用するわ。あとは学校やNPO法人や個人からの寄付。』

『……冗談だろ??』

『大真面目よ。』

『…………………………』
『…………………………』

沈黙。ミケーレは正直、内心呆れていたが、カシゴ大学からの付き合いのパーカー弁護士には度々世話になった恩義がある。乗ると決めた以上、降りると言う選択肢はなかった。

『……オーケストラは金食い虫だ。とりあえず、金をどうにかしないとまずい。10億ダラーは欲しい。』

『10億!!!???』

『少ないくらいだ。……ニナ。資産凍結されている俺の資産は把握してるな??』

『えぇ……もちろん。』

『実に結構。……まず手始めに財団法人を立ち上げろ。名義は義理の息子を使う。傀儡財団でガンガン金の洗濯だ。寄付なら凍結した資産でも俺が一筆サインを書けば財団を通して使えるようになる。財団法人用の口座……永久中立国のツェーリ銀行辺りにぶち込んでおけばそれだけで相当金になる。リーベル賞の真似事だ。それから、同時進行で俺が経営してたキャバレーやバー、男娼館、土地、合衆国株、先進国株、外貨投資した魔物国共通通貨とジパング皇国、ファラン共和国、オーケストリア共和国etc.etc...のインデックスを一部残して全て売る。株とインデックスは金利でかなり増えてる筈だ。まとめて財団の口座にぶち込むぞ。覚悟しろよニナ・パーカー弁護士。君を馬車馬の用にコキ使ってやる。ありとあらゆる手を使い全て合法的に処理をするんだ。非合法も合法にしろ。……出来るな?』

『ひ……ひゃい………』

『あははははははははははははは!!!』

面会室の中、マフィア・ベビー・フェイスの高笑いが響き渡った。












その後?……物好きな記者さんだ。マスター、アフォガード追加。

学生用のオモチャみたいなヴァイオリンを取り寄せて檻の中でひたすら練習したさ。

感覚を取り戻すのに半年はかかったよ。それから嫁共を調きょ……ゲフン……レッスンした。なんせ5年で使い物にしなきゃならなかったから、相当ムチャをしたさ。

ヘマした奴は"ナニ"禁止って言った時のカルメッラの顔は最高だった。

1999年だったか?財団の金が集まって、ストラ・ガリウスを10本買った。その内、俺のヴァイオリンはニコ・パニーニ……って名前がついてて、もしやと思ったらがっつり呪われていやがった。ニコ・パニーニってのは呪われたヴァイオリニストで有名で、パニーニ本人がヴァイオリンに取り憑いてたんだよ。

ミケーレはヴァイオリンに魔力を流し込んでパニーニを引き摺り出して、直接脅したの。

『俺のヴァイオリンに取り憑かせてやってるんだから、お前の技術と音楽性を余すとこなく洗いざらい教えやがれっ!!』

って。ニコちゃん既にゴーストになってたから彼、無理矢理実体化させて……。凄かったわ❤今では10番目のお嫁さんよ?

カルメッラ、その話はその辺でやめてくれ。……それから、シャバに出て本格的にオーケストラを始動させたんだよ。楽器を買い漁って、人員増やして……そんな時にボスに、ラファエロに出会ったんだ。

最初の印象?

なんだこの青二歳のボーヤは……だ。

人種なんざどうでも良いが、指揮台に立つなり

『今から私があなた方の指揮者です。従って下さい。』

って言いやがった。

生意気なボーヤだと思ったさ。

だけど初めて指揮棒を振り下ろした瞬間、背筋が凍りついたよ。衝撃的だ。神に愛された天才が才能を文字通り振り回していたよ。それでこのボーヤの指揮でやりたいと思った。

だから、ボスって呼ぶ事にした。

それから、オーケストラの内情をボスと2人で掌握して今に至る。

……失敗も挫折も沢山あった。ボスは黒人でいろいろ大変だし、俺たちは脛に傷持つならず者上がりだ。でも、今、俺たちが作り上げたオーケストラは素晴らしいオーケストラになった。そう断言できる。

ん??……今、俺は幸せかだって?





幸せだよ。







end
21/04/10 18:27更新 / francois
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■作者メッセージ
お久しぶりです。
お仕事がぁ……無駄にキツいよーー。タスケテー。え?だめ?
はてさて、これにてミケーレ君編が終わりを迎えました。
ショタっていいよね。

ではまたU・x・Uつ

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33