連載小説
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(14)ガーゴイル
とある大きな街に、教会があった。
街の大きさに相応しい、大きな教会だった。
立派な礼拝堂や鐘楼を備え、わざわざ結婚式を挙げるためにこの教会を訪れる者がいて、鐘の音は町中に響き渡るほどであった。
そして、この教会には一人の寺男がいた。あまりに教会が大きいため、僧侶だけでは手入れが行き届かない。そこで彼は僧侶たちに代わり、あまり人目につかない場所の手入れや掃除をしていた。
鐘楼に並ぶ魔除け像の手入れも、彼の仕事の一つだった。
「〜〜〜♪〜〜〜♪」
鼻歌交じりに、バケツと布を手に彼は鐘楼を上っていた。
日は中天を過ぎ、もうすぐお茶の時間だが、彼には休憩する暇などない。いや、必要ないというべきか。
午後のひと時、一日の仕事の締めくくりとして、魔除け像を磨くことが彼の楽しみなのだから。
鐘楼を上りベランダに出ると、街の全景が彼を迎えた。目もくらむような高さから臨める、鳥と選ばれた者だけに許された景色だ。
しかし、寺男は絶景に酔いしれるわけでも、高みに目をくらませるわけでもなく、まっすぐにベランダの一角に向かった。
手すりを支える支柱の一本に据え付けられた、街を睥睨するガーゴイル像だ。
蝙蝠めいた翼を広げ、二本の角の下の見開かれた眼で街を睨み付けるその姿は、教会に近づく悪霊を震え上がらせる魔除けの役割を担っている。
しかし、その姿は悪魔と言うよりはむしろ、翼と角と尾を付けただけの一糸まとわぬ若い女のそれだった。
「〜〜〜♪〜〜〜♪」
寺男はバケツを足元に置くと、布を水に浸して絞った。
そして、程よく濡れた布でガーゴイルの表面を擦り始める。
広がった翼を磨き、埃を拭う。
一昼夜とは言え、風と埃に晒されたガーゴイルは汚れていた。彼がバケツに布を浸すと、水に黒いものが広がる。
寺男は布を揺すって軽くすすぐと、再び水けを絞った。
そして今度は支柱を掴む両手の、指一本一本を磨く。
怖ろしげな爪こそ生えそろっているが、その細腕細指は悪霊を引き裂くよりむしろ、花束でも握っていた方が似合う。腕を磨くたびに、彼はそう思っていた。
だが、石造りの彼女に花束を握らせることはおろか、指一本の曲げ伸ばしすら不可能だ。
だから、彼は毎度その思いを胸にしまっていた。
両腕を磨いたら、今度は足。
膝を曲げて屈む両脚はすらりとしており、拭うたびに彼はほれぼれとした。
触れると硬い石ではあるが、見る度に柔らかでしなやかに思われるその足は、きっと速く駆けられるのだろう。
そして、柔軟にしなる脚から繰り出される蹴りは大の男でも一撃でノし、締め技は絶妙な柔らかさを伝えながらも犠牲者の意識を容赦なく刈り取るのだろう。
被虐的な、ある種倒錯した興奮を彼が抱くのは、脚を磨くという行為に後ろめたさがあるからだろうか。
しかし、濡れた布が両足を磨き上げ、背中へと移ると打って変わって被虐的な妄想は掻き消える。
布を、石造りの背筋に沿って擦らせ、その滑らかなラインを指先で味わう。
運動すればしっとりと湿り気を帯び、うなじから垂れる汗が後を引くであろう。そして尻と腰の境目から、まっすぐうなじへと続く背筋に沿って舐め上げると、どのような味がするのだろうか。もちろん彼女の肌は石のため、極上の甘露はおろか、汗の塩味すらしないのは分かっている。
だがそれでも、寺男はその背筋を舐め上げたいという衝動を胸の内に抱えていた。背筋を舐め上げ、うなじをくすぐり、彼女の鼻にかかった喘ぎ声を聞きたい。
くすぐったさに身悶えする彼女の脇腹をからかい、そのしなやかな肢体をくねらせたい。
鐘楼のベランダから落ちぬよう、ガーゴイル像を半ば抱くようにしながら、彼は像の脇腹を磨きつつ己の脳裏に妄想の翼を広げた。
わき腹からうなじへ布を移し、その丸みを帯びた愛らしい顔を拭いてやる。
彼の脳裏で、ガーゴイルは『自分で拭けるよ』と口答えするが、有無を言わさず拭う。すると、彼女の抵抗は次第に弱まり、大人しくされるがままになった。
額を擦り、鼻筋を撫で、口の周りを磨く。そして布の裏表を変え、今度は両の頬を清め、目元を擦ってやる。
そして耳を裏も表も、その複雑に刻まれた凹凸を逃さぬよう、汚れを取ってやる。
今度は髪だ。本当なら櫛を使いたいところだが、石造りの毛髪に櫛は通らない。だから彼は布をすすぎ、絞り直して短い髪の毛を拭ってやった。
髪に櫛を通すように、石に刻まれた一房一房を念入りに拭ってやる。毛髪を模した細かな溝の間には、埃が溜まっており、布をあっという間に黒く汚した。
男は再び布をすすぎ、髪を拭ってやる。
やがて、男は彼女の髪の毛を清め終えた。布の水分を吸い、石造りの髪の毛が色づき、つややかに光を照り返している。触れれば絹糸のように指の間を流れて行きそうな錯覚を覚えるが、男が指を伸ばしても石の硬さと冷たさが指先に伝わるばかりだった。
これで、ガーゴイルの手入れはほぼ終わった。
正確に言えば、まだ終わってはいないのだが、彼にとってはここから先はお楽しみだった。
「…ふふふ…」
布をバケツの水ですすぎ、ほどほどに絞ってから、彼はガーゴイル像の背後から覆いかぶさるようにして彼女の前面に腕を伸ばした。
そして布を広げ、ガーゴイルの乳房に被せ、その上から手を当てた。
濡れた布の柔らかな感触を挟み、ガーゴイル像の乳房の凹凸と石材の冷たさが指に伝わる。
男は、手に触れる硬さと冷たさに屈することなく、布越しに揉みたてるようにして乳房を拭った。
彼女の乳房は片手に納まるほど控えめで、下からすくい上げれば心地よい重みを掌に与えただろう。だが、乳房を持ち上げようにも石の硬さは絶望的な重みを手のひらに返すばかりである。
だから、男は自身の指を埋めんばかりの力で、石造りの乳房を揉んだ。
男の指の腹が自身の力と石に押しつぶされるが、繰り返すうちにある種の柔らかさを錯覚させる。
「はぁ、あぁ…」
石の乳房を揉みたてるうち、男の呼吸が上がり、乳房を覆っていた布をもどかしげに片手に握り、剥き出しの乳房に指を這わせた。
そして、握りしめた布きれで、ガーゴイル像の乳房の間を擦り、鳩尾から引き締まった腹を拭ってやる。
慌ただしげに一通り拭ったところで、彼は握りしめた布をついに彼女の両脚の付け根、大きく広げられた股間へと滑り込ませた。
剥き出しの石の乳房を掴みつつ、濡れた布で股間を擦る。布越しに、微妙な凹凸が彼の指先を刺激し、男の興奮を煽った。
彼は股間の溝を丹念に清めると、一度腕を離して握っていた布をバケツに放り込んだ。
ばちゃん、と水の中に布が没する音が響くや否や、彼はズボンの前の合わせ目を広げる。そこから飛び出たのは、限界まで屹立した肉棒だった。
彼の分身は、内心の猛りを代弁するかのように打ち震え、先端からは欲情を示す透明な汁が溢れ出ていた。
彼はつま先立ちになると、肉棒を掴み、ガーゴイル像の背後から両脚と尻、そして台座の作り出すごくわずかな空間に屹立を押し込んだ。
反り返った勃起が、ガーゴイル像の股間に押し当てられ、石の硬さとひんやりした温度を熱い肉の棒に伝える。
だが、男の興奮は萎えるどころか、燃え上がった。なぜならそこは濡れていたからだ。さすがに滴が滴るほどではなかったが、それでも微かな湿り気はガーゴイルの興奮をあらわしている様だった。
彼はガーゴイル像の股間と己の分身をしっかり押し当てると、つま先立ちのまま腰を細かく揺すった。石材と日々の手入れにより、滑らかに仕上がった彼女の表面は、男の屹立をやすりのように削り取るのではなく、帯びた湿り気とともに微かな痛みを伴う刺激を男にもたらした。
ガーゴイル像の股間の凹凸が、男の屹立の上面を擦り、亀頭を引っ掻いていく。
痛痒が彼を襲い、痛みをスパイスに興奮が膨れ上がる。
「はぁ、はぁ…!」
ガーゴイル像のうなじに舌を這わせ、ひんやりとした石の肌を味わい、乳房を揉みたてる。
彼女の頭越しに目をベランダの向こうに向ければ、眼下に広がる街が見えていた。
人の姿など豆粒ほどにしか見えないが、下から見上げれば誰かがガーゴイル像にしがみついているのが見えるだろう。
そしてここに登る者は限られているため、『誰』が『ナニ』をしているかなど、簡単にわかってしまう。だが街の人々は自身の足もとや前方ばかりを見ており、鐘楼を誰も見上げようとはしなかった。
だが、もしここで限界に達し、街に向けて絶頂の証をたっぷりと放ったら。頭上から降り注いだ雨とは異なる何かに、人々は鐘楼を見上げ、『誰』が『ナニ』をしていたのかが白日の下にさらされてしまう。
そうなれば、自分とガーゴイルの彼女は永遠に離れ離れだ。
「はぁ、はぁ…!」
不注意ひとつで永遠に失われる、薄板一枚の上のひと時の逢瀬という感覚が、男の興奮の炎を煽った。
そして、彼の腰が一層大きく揺すられ、乳房を掴んでいた手が、ガーゴイル像の股間へ滑り降りた。
両脚の付け根から顔を出した、膨れ上がった亀頭に男の掌が覆いかぶさり、彼の興奮が限界に達する。直後、白濁が肉棒から迸り、彼の掌を汚していく。
手のひらの温もりと精液のぬめりがが、まるでガーゴイルの胎内の温もりのように感じられていた。
「…はぁ、はぁ…」
彼は一通り思いの丈を放ち終えると、荒く呼吸を重ねながら、その冷たいガーゴイルの肌に身体を押し付けていた。
ひんやりとした、濡れた石の肌が火照った肌に心地よい。
そして、ほどほどに絶頂の余韻が抜けたところで、彼はかかとをベランダの床におろし、腰を引いた。
半ば萎えた肉棒が、ガーゴイル像の尻と両脚と台座の空間から引き抜かれ、掌と亀頭の間に白濁の糸を引いた。
男は片手でズボンの内側に自身の分身を納めながら、濡れた掌から白濁がこぼれぬよう注意した。
そして、片手で身だしなみを一通り整えてから、彼は白濁に塗れた手をガーゴイル像の股間に押し当てた。
つい先ほど清めたばかりの、自身の体温が僅かに残る硬い股間に、未だ熱を帯びた劣情と絶頂の証を塗り付け、微妙な凹凸の隙間に擦り込んでいく。
まるで、そうすれば石造りの彼女が、自身の子を孕んでくれるのではないか、という思いが宿っていた。
「…よし…」
男はしっかりと己の欲望の名残を塗り付けると、バケツの水で手を洗い、白濁の残りを洗い清めた。
そして、股間を白濁に塗れさせたガーゴイル像に向けて、彼は囁いた。
「今日も気持ちよかったよ。また明日な」
バケツを持ち上げると、寺男はガーゴイル像に背を向け、鐘楼をゆっくりと降りて行った。
背後から響く寺男の足音を聞き送りながら、ガーゴイル像は街を睥睨していた。
全身を磨き上げられ、股間を精液に塗れさせながらも、どこか柔らかい表情で。
12/08/06 10:29更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
大きい駅だと、駅前広場なんかに女性のブロンズ像や石像があったりしますよね。
特に花壇の中央とか高い台座の上とかじゃない、手を伸ばせば届くぐらいのところにあるブロンズ像や石像。
そういった彼女らの無機物おっぱいやメタル股間は、毎夜酔っ払いが勢いで揉むため、ツヤツヤのテカテカになっています。
経年劣化に伴う表面のざらつきが顔や肩に現れても、ミネラルおっぱいと石股間は磨き上げられています。
そういうのって、街の男どもに欲望のはけ口にされている心優しいシスターとか、部下たちの労を体でねぎらってやる気高い女騎士みたいで興奮しますよね。
しない?しませんよねえ


それはそうと秋頃のイベントで小説本だそうと思ってるんですが、挿絵もない小説なんて誰が読むんでしょう、という懸念があるんですよ。
そこでどなたか、挿絵書いて下さるとても優しい方はいらっしゃらないでしょうか?
我こそはと言う方は、私のサイト経由でメール送って下さい。
お礼は支払いますが、それなりに作風と画風が合うかどうか確認します。

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