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運命のデジャヴ
運命のデジャヴ


私は高級デリヘルで働いている。

相手はある程度歳を取っていて、ある程度の社会的な地位の、ある程度のお金持ちが多い。

今日は市ヶ谷の高級ホテルに。

『ねぇ、ママ!ここでパパとママと出会ったの?』

ホテルのロビーで聞こえた可愛らしい声に目を向けると、小さいサキュバスの女の子とお母さん。お誕生日か、お祝い事かな。……魔物娘はいいわね。何も気をつけなくても綺麗で、化粧なんてしなくても美しくて。

8:00pmに受付で手続きを済ませて10階の部屋に。

『……こ、こんばんは……えっと……』

『エリで〜す♪よろしくお願いします♪』

勿論、源氏名。出て来たのは若くて優しそうな、でもパッとしないお兄さんだった。

きっかけは簡単だった。

私はまだ学生で、少し前まで経済的に苦しかった。イイ仕事に着くには、イイ大学を出る必要があって、それで無理をしてM大学に入った。

奨学金と言う借金をして、生活もカツカツ。朝から学校。夕方は家庭教師と夜は居酒屋でバイト。休日は一日中働いて。

そんな時に友達に声をかけられた。

やってみて、今までの事が馬鹿らしく思えた。

呼ばれて、行って、男の人に身を任せてキモチイイコトをするだけで数ヶ月働いてやっと手に入るお金がポンと手の平に乗るようになった。

ゆっくり寝られるようになって、勉強する時間も出来て、大学生らしく友達と遊びに行ったり、旅行に出かけたり、流行りの服やジュエリーやバックも買えた。

お金を貰って服を脱いでシャワーを浴びて、バスタオル一枚でベッドに2人で腰掛ける。外れないネックレスはそのままで。

『じゃあ……しよっか♪』

『あ……えっ……はい。』

今日私を一晩買ったのは30手前の独身。一流企業に勤めてるエリートさん。女慣れしていない純朴そうな感じに少し嬉しくなったのはナイショ。

でも、玉の輿ってほどでも無い。

やっぱりイイよね玉の輿。

それで、男と女のアレとソレが終わって2人でベッドに入って目を閉じる。

明日は7時に一緒にホテルのレストランで朝食を取って同伴出勤。私は大学に。彼は会社に。それでお仕事は終わり。

学校終わった後はどうしようかな?

そんな事を考えながら眠りに落ちて、目覚ますと。



『『……え?』』

2人ベッドに腰掛けているシーンに戻った。

彼も異変に気付いていた。

○月×日 8:00pm

昨日の日付けの私が来た時間と同じだった。

『いったい……どうなってるの?』

『時間が戻って……る?』

私は怖くなってホテルを飛び出した。

『ねぇ、ママ!ここでパパとママと出会ったの?』

ホテルのロビーを通り過ぎる時に、前に見た女の子の声を聞いた。

それから友達を新宿に呼んで、バーに入って起きた事を説明した。

『あはははは!それちょっとゲームのやり過ぎか、映画の見過ぎだよー!あんたそんな可愛い一面もあるのねー……ぷっ、あははははは!』

真面目に取り合ってくれなかった。そうだよね。私が彼女の立場でもきっとそうなるもの。

彼女が言うように、ゲーム……はやらないけど、映画の見過ぎかも知れない。何かの勘違いかも知れない。

友達と2人で飲みまくって、そして私はベッドに腰掛けてるシーンに戻った。




『『!!!??』』

○月×日 8:00pm

私達は状況の確認の為に部屋の鏡を割って、テレビをつけて、スマホの待ち受け画面を変えた。

4時間後の 0:00am

私達はベッドに腰掛けているシーンに戻った。




○月×日 8:00pm

鏡は元どおり。テレビは同じニュース。スマホの待ち受け画面は前のままだ。

『あ、ありえない……。』

前に見た映画を思い出した。

超常現象によって閉じた時間の中に取り残され、田舎町の退屈な祭事の日を際限なく繰り返すことになった映画だ。

デジャヴ……またはタイムループ……

いや、そんな事はありえない。でも実際にそうなっている訳で、私達は既に最初の時間と3回のデジャヴ……合わせて16時間を経験しているのだ。

夜が明けない。

誰かに相談してみようか?……いやそれはもうやった。まともに受け取ってくれる人なんかいやしない。

『そ、そうだ。外に出てみよう。何か分かるかも知れない。』

彼の声に私達は外に出た。

私達だけの問題なのか、それとも範囲的な問題なのか。

『ねぇ、ママ!ここでパパとママと出会ったの?』

またあの子がいる。

その後、電車に乗って逃げるように何処に行くかもわからないまま遠くへ遠くへと向かった。

4時間後、デジャヴが起こってベッドに戻った。



現在置かれている状況

1.デジャヴは8:00Amから0:00pmの4時間で対象は私と彼の2人。

2.デジャヴは強制発動。遠くに行こうが何をしようが時間は巻き戻される。条件やデジャヴの抜け方は不明。

3.デジャヴの中での記憶は引き継がれる。記憶の蓄積は彼と私の2人だけ。

それとこれは今気がついたのだけど、20時間も寝ていないのに疲れていないのだ。初めてデジャヴを経験した時にもあんなに飲んだのに頭も痛くないし、2日酔いの気もない。

4時間毎に体調もリセットされる。財布を見れば渡されたお金も、バーで使ったはずのお金も元どおりある。

私は思わずにやけてしまった。

だって、思う存分遊んでもリセットされるのだから。

それから私はデジャヴを楽しんだ。

ほしいブランドを4時間毎に買ってファッションを楽しんで、食べたかった高級フレンチやスイーツを思う存分味わった。ホストクラブやクラブハウスで最高の夜を過ごした。

でも直ぐに物足りなさを覚えた。

どんなに楽しい思いをしても必ずデジャヴから4時間経つとベッドに戻ってきてしまうのだ。

彼は私を買ったお客からただ4時間毎に顔を合わせる人になった。

私は何回デジャヴを何回しただろうか?

10回を超えてからは数えていない。

あの人は何をしているのだろう。パソコンを開いて何かをしている。

勿体ないなぁ。このデジャヴを楽しまないなんて。

それから、私は何度も何度も繰り返される4時間デジャヴの中で遊んで遊んで遊び尽くした。

そうして喪失感を感じている事に気がついた。

誰も私の事を覚えていない。

虚しくなって、今度は食事やお酒に時間を割くようになった。体型を気にする事なく食べられるし、2日酔いも気にしない。

でも、それすら楽しめなくなっていった。

どんなに美味しいと評判のフレンチやイタリアンも砂のようで、どんなに強いお酒も甘いスイーツも心を満たしてはくれなかった。

怖い……

自分だけが違う時間を生きる事が怖くなった。

こうなる前は未来が怖かった。

将来の事とか、歳を取る事……若さと美しさを失う事。自分の価値が無くなる事。

いつまでもこんなふうに生活は出来ない。

稼げるのは若い間だけで、だからもし玉の輿に乗れなかったらどうしよう……って。

不安で不安で仕方がなかった。

でも今は未来が来ない事が怖い……。このデジャヴが永遠に続くかも知れないと思うと気がおかしくなりそうだ。

そして私はまたベッドに戻る。

何回デジャヴをしたのだろうか?500?600?

時間にすると3〜4カ月程だろうか?

とにかくとても長く感じる。

身体は疲れていない。デジャヴの毎にリセットされるから。でも疲労を感じていた。

『ねぇ……いつもアナタは何をしているの?』

不意に声が出た。思えば久しぶりに彼に話しかけた。なんとなく知りたくなったのだ。

最初こそ彼は困惑していたけど、今は楽しんでいるように見える。いったいこの終わりの見えないデジャヴの中でどうしているのか?そう思ったら声が出ていたのだ。

『…………え?』

『あの……どうしたの?』

彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

『あ……ごめん、ちょっと驚いて。君からそんな事を聞かれるとは思って無かったから。えっと……いつも僕が何をしてるか?だっけ?』

『うん。』

『……勉強だよ。』

『勉強?』

『そう。勉強。……ループ?いや、デジャヴって言うのかな?始めの頃はこの状況を解決する方法を探してたんだ。でも、結局何もわからなかった。だから、君同様に僕もこの状況を楽しむ事にしたんだ。デジャヴの中で起きたありとあらゆる状況がリセットされる。君も気付いているでしょ?』

『ええ。』

『身体はリセットされても記憶は引き継がれ、蓄積される。これは凄い事なんだ!』

彼はとても活き活きしているように見える。

『……大学を卒業してからずっと仕事で忙しかった。このあまりある時間を使ってずっとやりたかった英語とフランス語をマスターした。今はスカイプを使ってハーバード大の教授から経済学のレッスンを受けてる。……時々、実際に口座を作って株やFXやバイナリーを。4時間で稼ぎは消えちゃうけどね。……このデジャヴを抜けた時、僕は一回りも二回りも賢く、より優秀になって元の世界に戻るんだ。』

『いつ戻れるか分からないのに?』

『そう。だからやるんだよ。これはチャンスなんだ。……勿論、それだけじゃ息が詰まるから当然、息抜きもするよ。動画サイトやインターネットTVとか最高だよ?僕と君なら全作品見る事も可能だ。』

ああ……そうか……。

『君も一緒にどう?』

やっと、わかった……。

『うん。』

私は1人じゃない。この状況を共有出来る人がいるんだ。

そして、彼と一緒に過ごすようになった。


それから何度目かのデジャヴ


彼とインターネットで映画を見ている。

『う〜〜ん……。流石はマイナーB級映画……』

『つまらなかったわね。……と言うか終始訳わかんなかったわ。ストーリーとか支離滅裂で。』

『ソーデスネー。じゃあさ……次コレなんかどう?』

『うわ、またいかにもB級な……。チャレンジ精神は認めるけど……。』

『ダメかい?』

『……良いわ。コレ見ましょ。どうせ時間はたっぷりあるもの!』


とあるデジャヴ……


『ねぇ……そう言えば、どんな手を使ったらハーバード大の経済学の授業を受けられるの?』

『あぁ、簡単だよ。でも説明は長くなるかも。』

『大丈夫。知りたいの。』

『そうかい?……まず、8:30pm頃に英会話教室のスカイプレッスンを飛び込みで受けるんだ。友達からの紹介とか何とか理由を付けてグレッグ・モリソン先生を指名する。』

『彼はハーバード?』

『そうなんだ。日本の文化に興味があって日本に来ているらしい。グレッグ先生とのスカイプ英会話で経済学の話しで盛り上がる。その時に経済学を学びたいから英語のレッスンを受けてると言う。そこで僕の英語が合格点なら彼はハーバード大の恩師、デイビッド・ゴールドマン教授を紹介してくれる。』

『へぇ〜。』

『画面越しのグレッグ先生はゴールドマン教授に電話をした後、私に教授のアドレスを教えてくれる。スカイプレッスンは9:30pmに終了。その後、9:40pmに教授にメッセージを送る。すると、5分後にメッセージが返ってくる。内容は『午前中に時間があるから、授業をしよう。スカイプは持ってるかい?』……それで、ありがとうございます!光栄です。……とでも答えて、pcアドレスを添付すると15分後の10:00pm、アメリカ時間で9:00am、カフェテラスでサンドイッチを頬張る老人ことゴールドマン教授が画面に表示される。授業スタートだ。0:00amまで質問しまくる。』

『すごいわ、まるで映画みたい……!ねぇ、その授業見てもいい?』

『構わないけど、つまらないかも知れないよ?』

『いいわ。飽きたら、スマホで動画でも見るから。』

『そうかい?……じゃあ、やってみようか。』




ある時のデジャヴ……




『どうせ2日酔いもしないから、たまには思いっきり飲もう!』

『賛成!!』

ループする毎に一晩ではわからなかった彼の優しさや良さを知った。

『いゃあ……ちょっとペース早かったね。』

『ごめんね、汚くて……。』

酔い潰れて、トイレに駆け込んだ私の背中をさすってくれている。

『大丈夫、大丈夫。気にしないで。』

今思えば、私はずっと演じ続けていた。



求められる姿を。完璧な私を。



稼げるから、喜んで貰えるから。

でもどれも本当の私じゃない。

でも誰にも見せられない。

失望されたくない。

私を見てほしいから。それが偽りの私でも。

だから、こんな状況でもなければ絶対に今も本当の私を彼に見せる事は無かったと思う。

だからなのかな?

この人に惹かれしまうのは……

言いたい。でも言えない。

もし、拒まれてしまったらこの楽しい時間が終わってしまうから。

それからこの回のデジャヴで私と彼はベッドの上で横になって休んだ。

『ねぇ……。前から気になってたんだけど、そのネックレス……』

『ん……これ?』

『うん。素敵だなって。見てていい?』

『うん。』

そうしてアルコールにやられた気怠い微睡みの中でネックレスの事を思い出した。

壊れて外れないネックレス。

アメジストのような紫の宝石の周りには不思議な銀の文字とそれらを囲むように銀色の蛇が自分の尻尾を飲みこんでいる一風変わった飾り。

1年前……と言っていいのか?ゲートの向こうの異世界に旅行に行った時の事だ。

人間の女性だからか、やたらと審査が厳しかったのを覚えている。異世界は男性が少ないらしい。故に女性は歓迎されないらしかった。

思えば異世界の街中を歩いているのは殆ど魔物娘か人間の女性だったような気がする。

私は異世界旅行で少し古い日本語とほぼ同じ言語を扱うジパングと言う国に行った。大正時代で止まってしまったような街並みと行き交う人々の和洋折衷の服装が素敵だった。

ただ、カタカナ中心で、横書きの文字を右側から読むのは大変だったのを覚えている。

銀ノ座と言う所に立ち寄った時、不思議なお店に入った。アクセサリーや雑貨を取り扱うお店らしい。

そこであるペンダントが目に入った。

そうしていたら狸みたいな魔物娘の店員さんに声をかけられて、あれよあれよと言う間に買わされてしまった。かなり高かった。

なんでも運命の相手に会えるらしい。

そうだったらいい。

この人が運命なら……素敵だ。





そして私達はまた振り出しに戻る。





『ねぇ……しよ?』

唐突にその言葉が出た。

『……うん。』

数えるのをやめた限り無いデジャヴ。

私は名も知らぬ彼に恋をした。

彼がバスタオルをゆっくりと取り払う。

『ん……は……❤』

重なる唇。くちゃりと絡み合う舌と舌。

甘くて切なくて……頭が幸せで蕩けていくよう。

彼の硬くなりかけた男根を頬張ると、彼はうめき声を上げる。どんどん硬くなる。私が育てたんだ。

嬉しい。

もう私のアソコはイヤラシイ涎を垂らしている。

欲しい。

彼に抱きついて、後ろに倒れる。

『待って、コンドームつけるから……』

『いらない。だから……ね?』

『………………。』

彼の硬い男根が私のアソコに触れた。

ずっ……

『『はぁっ……っ……』』

熱い吐息が出る。あぁ、SEXってこんなにキモチイイんだ……。

今まで感じた事の無い多幸感が私を支配した。

たん……たん……

乾いた音と粘膜が擦れる水遊びのような音。

それはだんだん早くなっていく。

お互いの身体はすぐ汗で濡れてしまった。

鼓動と息と動きが早くなっていく。

『やば……で、でそうっ!!』

『いやぁ、抜かないで!中に……中にちょうだい!!』

私は足を彼の腰に回して、彼の背中に手を回してしがみ付く。

『お願い!ぎゅっとして!ぎゅっとしてっっ!!』

彼は私の背中と頭に手を回してきつく、でも優しく抱きしめて、唇を重ねて舌を絡ませた。

『『ーーーーーーー❤❤❤❤❤❤!!!!!』

一緒に果てた。最高にキモチイイ。 

一緒にイッた後は暫く呼吸をするのも忘れて唇を奪い合った。

足りないもっと愛し合いたい。

そうして私達は男と女の事情の沼にはまり込んでいった。

デジャヴで性欲もリセットされるのだ。

何度も何度もイキまくった。

世界最高の絶倫男がいるとすれば彼だ。

何故って?だって、そうでしょ?

そして異変が起こった。

『ねぇ、それどうしたの?……』

ぱんぱんぱんぱんぱん…

『あっあ、あっ……ん?えっ?……なにこれ?』

私の身体からピンク色の毛と小さい角と透けた羽生えてきたのだ。

『あっ、わから……ない❤キライ??』

『いや、すごく……はぁ、スキだよ。』

『あっ❤嬉しい!』

加速する鼓動と想い。彼は私を受け止めてくれる。それが嬉しくて、嬉しくて。

私達はまたベッドを揺らす。

そして気付いた時には完全に魔物娘、サキュバスになっていた。

これが魔力?……なのかな。その魔力と言うのも記憶と同じくデジャヴの中で引き継がれていたらしい。

どのくらい時間が経っただろうか?

10年くらい?幸せな4時間を繰り返した。

一緒に勉強して、つまらないB級映画を見て、デートをして、食事をして、SEXをした。

名も告げぬまま、想いも告げぬまま最早夫婦と言っていいほどの時間を過ごしていた。






そしてある日突然……






チュンチュン……チュンチュン……

夜が明けたのだ。

裸のまま抱き合っていた。

目覚ましのアラームが鳴る。

彼を起こして着替える。角と羽と尻尾はしまえと思ったらしゅるりと身体に吸い込まれた。

とにかく着替えてテレビをつけると朝のニュースが流れて、外に出ると出勤中のサラリーマンやOLで溢れかえっていた。

時間が進み始めていた。

時間にして数分。私と彼はその場でぼぅっとしていた。

彼の携帯から会社からの電話が鳴る。

私の携帯からも。お店からだ。

『じ、じゃあ、会社行かなきゃ……。』

彼から一番聞きたくない言葉が出た。

またね。なのか、さよなら。と言うべきか迷っていると

『あ、あのっ……僕と結婚して下さい。』

彼の口から今度は一番聞きたかった言葉が出た。

その瞬間、玉の輿とか将来の不安とかお金の事とかどうでも良くなった。

私は迷わず

『……はい。』

つまり"YES"と応えた。




その後…………




私はデジャヴを抜けたその日にデリヘル嬢を辞めた。

あのデジャヴの中で幾つかの外国語と経理を勉強したので、大学を出たら翻訳の仕事をするつもりで実際に今、その仕事に付いている。

当時、21歳だったのに心も経験も周りよりも10歳年上で時が普通に流れているのが奇妙な感じだった。

大学を出て直ぐに就職。彼と結婚。

そして、現実に翻弄された。

体調を崩せば治るのに時間がかかるし、飲み過ぎれば翌日二日酔いで頭が痛くなる。

食べすぎれば……まぁ、魔物娘だからそこまでだけど、太る……。

でも、夫と一緒に歩いてゆけるのが幸せで。人生を噛み締めている。

それから子供が出来て、あっと言う間に10歳になった。

そして今日、結婚記念日に私と夫が出会ったホテルのレストランで食事をする。

ホテルのロビーで受け付けを済ました時……


『ねぇ、ママ!ここでパパとママと出会ったの?』


『……え?』


聞き覚えのある言葉だった。そうだ。デジャヴに入る前と1回目と3回目のデジャヴであのサキュバスの子供が言ってたセリフだった。

時計を見ると夜8:00pm……時間も場所もぴったりだ。

もしかしたら、私はあの時未来の自分の娘を見ていたんだ。

私は辺りを見渡した。もしかしたら過去の私がいるかも知れない。

でも見つからなかった。

娘とエレベーターに乗ってホテルの10階に。当時私と夫がいたあの部屋の前に着くと。

"配管作業中"

の張り紙がしてあった。

『あ、ここ工事してますんで気をつけて下さい。』

と中から汗だくの作業員さんが出て来た。

ほっとしたような、少し残念なような。

その時電話が鳴った。

『もしもし?レストランに着いたんだけど……君らはまだかな?』

『今いくわ。』

ピッ……

私は首元の外れないネックレスにそっと触れた。

『パパ、レストランに着いたって。いきましょう。』

『うん!……ねぇママ?』

『なぁに?』

『ここなの?パパと出会ったの?』





『そうよ。ママはね?あの場所でパパと10年間、出会い続けたの。』





おわり。
20/09/15 20:38更新 / francois

■作者メッセージ
最近忙しくて(とあるソシャゲのアニバーサリーで)久しぶりに書きました。
あ、振り袖5人揃いました。振り袖艦隊設立です。ほくほくです。

やりたかったんです。ループ物。
ありふれたお話しでした。B級映画みたいなお話しですがいかがでしょうか?

次は音楽街物語の続きを。

ではまた!

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