連載小説
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第四十六話〜コンバート〜
周りの味方が全て敵になってしまう、という経験をしたことがあるだろうか。
裏切り、集団催眠、何らかの危険なものが自分へと着てしまった場合etc…
そうなってしまうと取れる方法はさほど多くはない。
自力で解決方法を見つけるか、周囲の味方を殲滅および鎮圧してしまうか、だ。
味方に銃を突き付けるのは正直俺でも遠慮したい。
だから、最後まで全員生き延びられる方法を模索するんだけどな。

〜冒険者ギルド ロビー〜

姉さん、事件です。

「貧乳には貧乳の良さがあるのじゃ!稀少価値なのじゃ!」
「無駄に大きいだけとは違うんだよ!」
「しかし一般世間の男性の趣味嗜好としてはやはり大きい方に傾くだろう。男性の気を引くにはやはり成熟した体が一番だと思うがな。」
「第一子育てとかどうするのよ?小さかったら出るものも出ないでしょうが。」

第一次おっぱい戦争が始まっています。
きっかけはニータの「アルは大きいのと小さいのとどっちが好き?」
という一言が発端。
俺が何かを言う前に女性陣があーでもないこーでもないと騒ぎ始めた。
当然当事者であったはずの俺は蚊帳の外だ。

「胸など放っておけば誰でもそれなりに大きくなるではないか!それに比べれば小さく美しく保つことの苦労をおぬし達はわかるのか!?」
「小さいほうが感度が高いんですよ!大きいだけとは違うんです!」
「ちょっとばかり大きいからって調子にのるなー!」
こちらは貧乳派のニータ、エルファおよびプリシラだ。
というかエルファ、お前は何もしなくても小さいままだろうが。

「大きいほうが男性にやすらぎと満足感を与えられるではないか!与えるものがない胸など胸ではない!洗濯板だ!」
「無い奴の嫉妬も見苦しいねぇ。無いなら無いなりに諦めたらどうなの?」
こちらは巨乳派のミストとチャルニ。というか二人とも背が高いから威圧感が凄い。

「はわ……みんな、けんかはだめぇ……」
「ん〜……ねむい〜……」
『そもそも私は話に加わることすら出来ませんね。少し悔しい気もします。』

こちらは中立及び無関心派。
アニーを始め、メイやフィー、ラプラスなどで構成されている。
ちなみにフィーは自分の武器の手入れに余念がなく、話すら聞いていない。

「ツーペアだ。決まりだな」
「悪い、フルハウスだ。いただき。」
「ぬぉぉぉおおおおお!?」
こちらは蚊帳の外の俺とロバート。あまりに暇なもんで二人でポーカーに興じている。
ちなみに負けたほうが俺だ。

ミリアさん?あぁ、あの人はこの喧嘩をギルドのカウンターの椅子に座ってニヤニヤ眺めているよ。
さすが子持ち、貫禄がちg(ドグォ



一方シェリアはというと……

「せんぱ〜い!仕事してくださいよぉ!」

たった一人で朝のクソ忙しいクエスト受注業務をこなしていた。



〜クエスト開始〜
―怪樹の調査―
『ミルトリム樹海と呼ばれる密林地帯で怪現象が発生したわ。                       
今までは普通の森林が広がるだけだったのが、一夜にして巨大な怪樹が発生したの。       
周囲には奇怪な生物……巨大なスズメバチとか食虫植物、果ては巨大な野人なんかも確認されているわ。                                                        
おそらく例の物絡みだと思うわ。至急調査に赴いて、可能であれば事態の沈静化を行って頂戴。 
                         モイライ冒険者ギルド支部 支部長 ミリア=フレンブルク』



「ってぇ……まさか植木鉢が飛んでくるとは……」
『妙な事でも考えていたのではないですか?女性は感が鋭いと言いますし。』
完全に否定できないのが痛いところだ。

「恐らく今回もアレ絡みだろうな。気を引き締めていくぞ。」
『了解。サポートは任せてください。』
「あの……いつも聞いていると例のアレとか一体何の話なんですか?」

不審に思ったのか、プリシラがツッコミを入れてくる。
おっぱい争論は一先ず引き分けという所に落ち着いたらしい。

「お前は知らなくていいよ。首突っ込むと戻ってこられなくなるぜ?」
「危ない山なんてここで働いていたら嫌でも見ることになりますよ……そんなに私って信用できませんか?」

不満そうに頬を膨らます魔女っ子(二十ピー歳)。
どんなにふてくされようが、どんなに拗ねられようがエクセルシアに関することはなるべく知る人が少ない方がいい。

「信用するしないの問題じゃ無いんだよ。この問題に関わっていいのは俺とミリアさんとソレが何かに気づいている極少数の奴だけだ。」
「仲間はずれ……ですか。寂しいですね、少しは親しくなれたと思ったのに。」

どうにも弱いな……こういうタイプには。
落ち込んでいるプリシラの頭に手を置くとグリグリと撫で回してやる。

「あぅあぅあぅあぅ〜……」
「お前は俺らの帰りを待っていてくれるだけで十分だ。帰るところがあるというのは素晴らしい事なんだからな。」

プリシラを慰めていると背後に誰かが立つ気配がする。
振り向くとそいつはチャルだった。どこか神妙な面持ちをしているのだが……

「ねぇ、アルが今から行く所……ミルトリム樹海って本当?」
「ん、あぁ。そうらしいな。どうにも妙な木が突如生えてきたらしい。例の物もあるみたいだしな。」

それを言うと、チャルニはいきなり俺の手を取ってきた。一体どうしたというのだろうか。

「お願い!アタシも一緒に連れて行って!」
「お、おい……」

今までにないほど焦ったようなチャルニの態度。
何か彼女にとって大変な事が……?

「そこ……アタシの故郷なんだ……もちろんアタシ達の巣もある。だから……!」

悲痛な面持ちで俺に懇願するチャルニを拒むことなんて当然できるわけもなく、一緒に連れて行く事になった。



〜樹海の街 マークウッド〜

街の中は騒然としていた。
今まで自由に出入りができた樹海の中へは全面立ち入り禁止となり、樹海に入ったきり戻ってこない魔物や人間達の安否を気遣う声で溢れている。
話を聞いてみると、樹海に入った魔物達が全て旧世代の魔物の姿へと変わってしまうらしく、自分の伴侶を助けに行こうとする魔物達を縛り付けてでも押しとどめているような状況らしい。

「街でこれだと樹海の中は……早く行かないと!」
「待て、話を聞いていなかったのか!?お前は街にいろ。俺が行ってくる。」

焦って街から出ようとするチャルニを引き止めるが……

「ここまで来て待っていろって!?今も家族がどんな目に遭っているかわからないのに指を咥えて見ているなんてできないよ!」

俺の手を振り切って町の外へと飛び出すチャルニ。このままでは……!

「チャル、待て!」
『私達も後を追いましょう。チャルニ様が心配です。』

言われるまでもなく俺も街を飛び出していく。番兵が止めようとしたが、冒険者の登録証を見せると黙って道を開けてくれた。



〜ミルトリム樹海〜

「チャルニ!」
「…………」

息を切らせながらもチャルニに追いついた。
立ち尽くしている彼女の足元にいるのは……

「スズメバチ……?」
「……多分、アタシの姉妹……だと思う。」

体長50センチはあろうかという巨大なスズメバチが地面に落ちていた。
時折足が動くことから恐らくは気を失っているだけだろう。

「お前は……なんともないのか?」
「アタシは大丈夫。特に理性が飛ぶような事もないし、どこも苦しくないから。」

村人の話が本当であれば樹海の中に入った魔物達は旧世代化するはずなのだが……

『今回の現象を暫定的にコンバートと称します。魔物がE-クリーチャーのなんらかの要因に反応してE-クリーチャー……この場合はコンバートクリーチャーと呼称しましょう。となるようです。尚、チャルニ様が影響を受けないのは過去にE-クリーチャー化した事によってエクセルシアに耐性が生じたためと推測します。』

ラプラスが今現在起こっていることを簡潔に纏めてくれた。
俺としても概ねその仮説に同意だ。

「影響が無いなら好都合だよね。この事件、アタシも噛ませてもらうよ。」
「……しょうがない。元々お前に手伝ってもらうつもりで連れてきたからな。遅れを取らないなら許可するよ。」

まぁチャルニが一緒に行動可能だとわかってほっとしているのも確かなんだけどな。



チャルニが俺を抱え上げて空へと舞い上がる。
全身に風を受け、水色の空へぐんぐん上昇していくとありえないものが目に映った。

「おいおい……流石に今回は反則だろ……」

巨大な樹木が鎮座している。大樹ミーテリアにも匹敵しようかというそれは禍々しい気を放っており、何者も寄せ付けない雰囲気をまとっていた。
枝は常にザワザワとざわめいて、まるで接近する者を拒むかのようだ。

「ラプラス……エクセルシアの反応は?」
『勿論あの大樹の中です。反応は樹木の幹の上部あたり。まずは光学兵器で穴を空けるなりHHシステムが届く範囲まで削るなりしなければ抜き出すことは不可能です。』

やはり直接穴を穿たないと駄目なようだ。
中心部までどれほどの距離があるだろうか……300メートルは下らない気がする。
さらに大樹の表面にはE-クリーチャー特有のバリアフィールドまで張ってある。並大抵の火力では傷ひとつ付けられない筈だ。

「チャルニ、どこかに丘とか岩山とかは無いか?」
「確か……こっち。景色のいい山があったんだ。」

チャルニに運ばれて俺は灰色っぽい岩山へと近づいていった。
あのぐらいであれば狙撃ポイントとしては申し分ないだろう。



ゴツゴツとした岩の一つにバイポッドを展開した鵺を載せて狙いを定める。
距離は3キロメートルくらいだろうか。大樹の全体像がよく見える。
ゆったりと吹き抜ける風が汗に濡れた体を少しずつ冷やしていった。

「ラプラス、ミハエルブラスターを。とりあえずエクセルシアがある地点まで削るぞ。」
『了解。E-Weapon、『ミハエルブラスター』展開。』

別ウィンドウが開き、エクセルシアの大まかな位置が表示された。全体の中ほどより若干上あたりだろうか。そこへ照準を向ける。

「毎度思うけれど反則臭いよね、それ。間合いの外はおろか視界の外から攻撃できるんだもん。」
「人類は傷つく事を恐れ、一方的に相手を殺害する手段を考えた。それの発展形がこいつだからな。名誉や正々堂々は二の次三の次だ。」

トリガーに指を掛ける寸前疑問が浮かぶ。
俺はそれをラプラスへと確認してみた。

「エクセルシアってビームで焼失したりしないよな?」
『エクセルシアの耐久性実験ではガンマ線レーザーですらも歯が立ちませんでした。例えE-Weaponであろうとそれは変わらないでしょう。』

確かあらゆる物を貫通して焼き払うような恐ろしい兵器だった筈だ。
それに耐えられるならこいつでも大丈夫そうだ。
改めてトリガーへ指を掛け、よく狙いを定める。


余談だが、実弾による狙撃と光学兵器による狙撃は別々に世界記録が取られている。
なぜなら実弾兵器は風向やコリオリ力など複雑に関係する要素が多いのに対し、光学兵器は気温や湿度による空気の屈折のみを考えればいいので、その狙撃距離は飛躍的に伸びる。
空気がない宇宙空間ではさらにブレる要素が減るため、高精度の狙撃用CPUを使えば事実上その有効射程距離はビームの威力が完全に減衰する距離とほぼ同じになる。
ま、あまり関係ないけれど。


「ちょっと熱いけどガマンしろよ……!」

トリガープル。空気中の水分を蒸発させる音と共に口径を絞られた光線が真っ直ぐに大樹へと伸びていく。
イオンが空気を焦がす匂いが鼻をつき、少し顔をしかめる。
直撃したビームは大樹に焼け焦げた穴を……

「……あ?」

開けたとたんに逆再生するかのように塞がってしまった。
焼け焦げ跡すら残っていない。

『分析結果が出ました。大樹の内部に強力な再生ユニットが存在。ユニットは大樹が受けたダメージを瞬時に回復させるようです。再生速度を遅らせるには再生ユニットを破壊するしか方法は無さそうです。』
「再生ユニット……ね。」

Xレイビジョンを起動すると、確かに大樹の中心部辺りに強い反応が存在する。
恐らくはそれが再生ユニットだろう。

「無駄なあがきはやめとけよ……っと」

俺がトリガーを引こうとすると……

「待って!ちょっと待って!」
「何だよ?何かあるのか?」

慌ててチャルニがそれを制止してきた。何か思うところがあるのだろうか。

「ねぇ……もしあの大樹がエクセルシアで変質した魔物だったとしたら……あれはドリアードって事になるよね?」
「まぁ……そうだな。」

ドリアード、木の精霊。
一つの木に一生寄り添い続ける精霊の一種だ。
恋愛ごとに関して非常に情熱的で気に入った男性を木の中に閉じ込め……

「……まさか!」
『詳細な分析結果が出ました。再生ユニットのサイズはおおよそ1.7メートル前後。成人男性の平均身長とほぼ同じです。』

あの木の中にある再生ユニットってのは……木に閉じ込められてインキュバス化した人間か!
あまりの事態に頭がクラクラする。まさかこの戦闘に一般人を巻き込むハメになるとは。

「どうすんだあれ……エクセルシアまで掘り進めようにも再生しちまうし、その再生をしているのが……恐らくあのドリアードの恋人か何かだ。まさかそいつを撃ち抜く訳にもいかねぇぞ……」

いくら任務の支障になるとはいえ、あまり一般人には銃を向けたくない。
かといって現状ではエクセルシアを回収する手段がない。

『マスター、今は任務優先です。彼女には酷ですが、再生ユニットを破壊するプランを推奨します。』
「しかし……!」

手詰まりの状況。こうして立ち往生している間にも犠牲者は増えているかもしれない。
早く決断をしなければ……!


その時、手が誰かにギュと握られた。


「アル……お願い!なんとか……なんとか殺さないであげて!」
「チャル……」

涙ながらにチャルニが懇願してきた。こんな姿を見せる彼女は初めてかもしれない。

「私も……アルが必要だからって殺されるのは……嫌。それはあの子も同じなはず。だから……!」

もはや、引くことは出来ない。
立ち止まることも出来ない。
出来るのは……進むことだけ。

「ラプラス、やるぞ。」
「アル!」

俺はラファエルブラスターを格納した
代わりに呼び出したのは……

「BAGブレイドだ。」
『了解。E-Weapon『BAGブレイド』展開』

重力制御式の斬艦刀……ただし、今は刃が出ていない。

「チャルニ……俺をあの大樹の所まで運んでくれ。」
「え……?」

俺の発言に呆気にとられるチャルニ。どうやら理解が追いつかず、俺の言っている意味が分からないようだ。

「あいつ、助けたいんだろ?ならやれるだけのことはやらないとな。」
「アル……ありがとう!」

感激のあまりチャルニが抱きついてきた。
柔らかくて大きい物が押し当てられているが、今はそれどころではない。
一刻も早く事態を収拾しなくては……!



チャルニに運ばれて一直線に大樹へと近づく。
頬を叩く風で息苦しい。

「結局どうするの!?」
「考えてない!」
「えぇ!?」
『またですか。』

そうだ、考えていない。だが、確信はある。
俺は展開されたBAGブレイドの柄を再び強く握りしめる。
手に汗が滲み、嫌でも緊張しているということが自覚できた。

「(やるしかない……無理でも、無茶でも!)」

闘志が燃える。
誰かを悲しませない為に。
信念を貫く為に。
そして、誰かを救う為に。

『BAGブレイド出力上昇中。EXLOAD突入まで、3、2、1』
「いけぇぇぇぇぇぇえええええ!」

EXLOAD起動。BAGブレイドをイルミナスモードへ変更。
出力制御および指向制御……完了。
展開開始、3、2、1、展開。

鵺の先端から巨大というにも生ぬるいほどの光の柱が迸る。
それはビーム砲などではなく……。

「えぇぇぇえええ!?何!?なにそれ!?」
「今は気にしなくていい!つっこめ!」

大型のモビルスーツが使うような巨大なビームサーベルだった。
長さは50M超、太さに至っては直径で5メートルもある。
しかも重さは殆ど感じず、まるで樹の枝でも持っているかのようだ。

「怖!マジで怖!それ絶対にアタシに触れさせないでよ!」
「触れないように努力しろ!消し飛ぶぞ!」
「いやぁぁぁぁあああ!助けてあげてって言ったのはアタシだけど消し炭になるのはもっと嫌ぁぁぁああああ!」

半泣きになりながらも猛然と飛翔するチャルニ。もしかしたら怖いだけかもしれない。
大樹まで残り半分程度と迫ったところで森の中から大量の何かが湧き出してきた。
先程の巨大なスズメバチだ。

「なんて……タイミングの悪い!」
「っくそ……!」

この巨大なサーベルを持ったままではあの集団も巻き込んでしまう。
なにより、あの集団はチャルニの姉妹かもしれないのだ。尚更に巻き込むわけには行かない。

「どけぇぇぇぇえええええ!」

意味が無いと思いつつも叫ぶ。すると、そのスズメバチの集団が森の中へと引っ込んでいった。

「一体何が……」
「好都合だ!突っ込むぞ!」

まもなく大樹へと到着する。
俺はBAGブレイドを振り上げ、切っ先をエクセルシアがある方へと向けた。
方向を伝えるためにチャルへ雑音に負けないように叫ぶ。

「この切っ先の方へ突っ込め!」
「了解!舵取りは任せて!」

先端がブレないよう、しっかりと脇を締めて固定し、一直線に突き進む。
先端が大樹の表面へ触れ、大量の煙と共に樹木が燃える音がして穴を焼き穿って行く。
煙が目にしみるが、今はエクセルシアの排除が優先だ!

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」

大樹の中を焼き切りながら掘り進み、600メートルほど進んだところで向こう側へと突き抜けた。
大樹からは大量の煙が上がっている。
焼き切られた穴が自己修復機能で塞がっていき、途中で止まった。
あたかも傷を治そうとして、完治直前で力尽きたかのように。

「ラプラス!エクセルシアの反応は!?」
『大樹の中には反応が無くなりました。あとはエクセルシアを回収するだけです。』

ほっと一息つくと、ビームサーベルが燐光と共に消え去った。
あとに残ったのは高熱を発する鵺だけだ。
迂闊に触ると危険なので柄は出したまま。

「これでよし……と。チャル、降下してくれ。」
「は〜い。お疲れ様。ありがとうね、アタシのワガママ聞いてくれて……」
「気にするな。俺としても一般人を無闇に殺すような事はしたくなかったからな。」

ゆっくりとホバリングしながら眼下の森へと降下していく。
エクセルシアの落下跡は、高熱で少し焼け焦げていたので分かりやすかった。



「お〜い、あったか〜?」
「だめ〜!全然見つからない!」

あの後、チャルニと手分けをして落下したエクセルシアを探したのだが、全く見つからなかった。
落下地点は元より、そこから転がっていったであろう場所にもさっぱり落ちていないのだ。

『エクセルシアの反応が全くありません。この場所には無いようです。』
「まさか……また新しい魔物に寄生していったとかは無いよな……?」
『その可能性は低いと考えられます。周囲の動体反応及び生体反応はマスターとチャルニ様だけでしたから。』

その言語に安堵とすると同時に、またも不安が首をもたげて来た。


―一体、エクセルシアはどこへ消えたのだろうか。―




大樹の根本にはドリアードらしき女性が気を失って倒れていた。
樹木はエクセルシアが無くなったにも関わらず、元に戻る兆しを見せない。

『樹木とドリアード本体は別物なのでしょう。おそらく急成長した樹木は元には戻らないと考えられます。』
「まぁ、大丈夫か。もう変な気配は無いし。」
『肯定。コンバートが起こる要素が無くなったため、この大樹は普通の樹木と扱いは同じだと推測します。』
「それよりもさ、この子……」

先程からチャルニがペチペチとドリアードの頬を叩いている。
しかし、身じろぎはおろかうめき声すら出てこない。

「全然起きないよ?どうなっているんだろ……」

確かに頬をつねろうが、鼻と口を押さえてみようが、胸を揉んでみようが(チャルニに殴られたのは言うまでもない)無反応だ。

「一体どうなっているんだ……」
『頭にタンコブ作りながら言っても真剣味に欠けますよ。』

鵺を拳でグリグリして新しい火傷を増やしつつ、今回の事件は幕を閉じた。
いや、実際は幕をとじていないのかもしれない。
まだ、何も解決できていないのだから。


12/01/17 00:51更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
ライザァソォォォオオド!なんつって。
バトルのように見えて実はバトルではない。そんな今回。
様々な疑問を残しつつ幕を閉じた今回。さて、どうなる。

恒例の感想返信。この場を借りて謝辞を。

>>名無しさん
なんだかありえそうな気がしてきた……>ラプラスの強化版
ただそうすると鵺本体を使って戦うアルテアがAIの支援無しで戦う事になるわけで……弱体化フラグ?

>>ネームレスさん
そりゃB級映画っぽくしていますもの。
……ごめん、大ヒット映画みたいな脚本なんて書けません。

>>ぜろざきてきしきさん
手持ちの武器は無い、戦えるのは幼女だけ。さてどうすると来た時に使えるのは錬金術(科学知識)。
ちょっと料理ができる子ならだれでもジェイソンと戦えます!……無理か。

「問題はクリスタルレイクにガンショップがあるかどうかだよな。」
『解決が楽になりすぎるでしょう。』

>>チェチェさん
今回はちょいと頭脳戦を多めに。
いつもバカみたいな出力の兵器を振り回している印象がありますが、根本は兵士なのでこういう方面にも長けていたりします。

「爆薬作るときも妙に手馴れていたな。」
「わしの専門はどちらかと言うと薬学や呪術方面じゃからの。いつもの応用と考えればさほど難しいものではないぞい。」

>>けろたんさん
Blade=『エックス』さんの所のブレード。
なぜジェイソンなのかは感想を見て頂ければわかるかと……w
テキサス・チェーンソーが元かな、殺人鬼のチェーンソーは。
だけど恐怖を煽るという意味ならこれほど適した武器は無いかも。

>>おいちゃん
多分無効が拒否しますね……w以前一度ひどい目に遭っていますから。

>>『エックス』さん
ブレードのキャラ崩壊については変質した電脳世界に無理に押し込んだことで変わってしまった……なんてちと苦しいかもしれないですね。ノリノリでジェイソンの真似をしたってほうがしっくり来る気がします。
材料を調達した場所はホームセンター。しかもアメリカなので、いろいろ売っていると推測。ご都合主義の国パネェ。

「笑っているかもしれんが……本気で怖かったんじゃぞ?」
「まぁ気にすんな。(パリパリ)アメリカじゃよくある事だ。(ボリボリ)」
「兄様はもう少し真剣という言葉の意味を理解した方がよい気がするのじゃ。」

>>銀さん
巨大化じゃなくてアルテア縮小化ですね。
でも巨女相手でもアルテアなら……!
……だめだ、自分の想像力が追いつかない。

>>pi--sann
ホラーなんだけどどこかコメディチックでしたね。シリアスになりきれない自分が悪いのですが。

『という訳で巨大化薬が来ているのですが……』
「それをどうしろと……?」
『子供に人気が出ますよ?』
「いや、光の巨人じゃないんだから。」

明日におまけを投稿予定。IFエンドその3です。おたのしみに〜

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