連載小説
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OtherworlD
俺がそいつと出会ったのは半年前の事になる。
そいつは初めて会った時から面倒見がよく、まだ初心者だった俺に対してアドバイスや、クエストの手伝いなど、様々な事で世話を焼いてくれて、気が付けば俺はそいつの事をイルモンドの先輩であり、頼れる友達だと思うようになっていた。
ああ、そうか。言い忘れていた。そいつと出会ったのはイルモンド。つまり、そう。ネットゲームの中で、だ。
だから、あの日あいつがあんな事を言ってきたのは意外だったし、驚いた。


Dogs:くそ、ここ、抜けらんねぇ。


あ、この「Dogs」ってのは俺だ。俺が使ってるアバターの名前。え?何で複数形なのか?
別にいいだろ。なんか語呂が良かったんだよ。ただそれだけだ。


神:そこはヴァルキュリエ装備の大爆撃で破壊しないと通れないよ。右側から回り込んで。


で、この「神」ってのが“そいつ”。酷いアバターネームだとは俺も最初は思ったさ。でも、こいつは実際このゲームでも指折りの上級者らしくて、有名ギルドの集まりにも参加したりしているらしい。


Dogs:おk。合流した。
Dogs:で?どうすればいい?
神:ここで待ってればじきに来るよ。このエリアを通過するとき、彼は絶対この広場を通るんだ。
Dogs:了解。罠はいる?
神:まだ必要ない。体力が50%を切るとスタントラップの有効時間が1.5倍になるからね。
Dogs:じゃあ俺は背水陣発動して構えてるな。
神:そうだね。
神:さ…。そろそろ来るよ。


俺は「毒キノコS」を2個と、「毒キノコ」、そして解毒薬を飲んでHPを削り、スキル「背水陣」を発動させて軽銃弩を構える。
このスキルはHPが一定以下になると攻撃力が爆発的に上がるもので、短期決戦には持って来いだ。
「神」は俺とは違い、突撃槍を背負って、マップのやや左上で待機していた。
と、


――グオォォォォォォォン!!


モニター脇の2.1chスピーカーからけたたましい叫び声が聞こえて、モニターに大きな角を生やした獣が黒炎を纏って広場に飛び込んできた。


Dogs:うおっ!予想の倍はでかいぞ!?
神:ブレスの後に遠距離に向けて火球を飛ばしてくるから、それに気をつけて。ガンナーの装備だと即死だよ。
Dogs:こ、こえぇな…。
神:大丈夫。僕が「デコイ」を発動させてるから。たぶんこっちに引きつけられる。
Dogs:了解。じゃあ俺は撃ちまくるぜ。
神:角を重点的に狙ってね。角が2本とも折れたら、前足をお願い。
Dogs:了解だぜ、相棒。


登場イベントが終わり、戦闘が開始される。
このモンスターは「ディアボロ」。1級のクエストにしか登場しないモンスターで、イルモンド内では“門番”って呼ばれている。
こいつを倒す事が出来れば俺も晴れて上級者の仲間入りだ。
とはいっても、「神」がヘイトを稼いで引きつけつつ近接武器で戦闘してくれているおかげで、俺は遠距離から狙い撃ちすればいいだけなんだが…。
流石は「神」様だ。防御の低い囮装備で並のソルジャー以上の戦闘をこなして…。これは周囲も納得せざるを得ないわけだ。


Dogs:おk、角は折れたぜ。
神:了解。左周りに攻撃しつつ回避するから、前足を狙って。
Dogs:りょ〜かい!


言われたとおりに俺は前足を狙い、撃つ。時折ガンナー目掛けて飛んでくる火球を避けつつ撃つだけだから、下手な俺でも問題ない作業だ。
しかしまぁ、「ディアボロ」の奴、「神」を追いかけまわしてぐるぐると回っている。まるで自分の尻尾を追い掛けてクルクル回っているアホな犬みたいだ。


神:よし、4度目の怒り状態。そろそろマップの中央にスタントラップを仕掛けて。
Dogs:了解。


俺は武器を仕舞うと、アイテムのスタントラップを仕掛けに行く。


Dogs:おkだ。
神:了解。転倒したら背中に向けて撃ちまくってね。
Dogs:了解だぜ。


そう言うと、「神」は上手い具合に「ディアボロ」を誘導して罠に誘い込む。と、


――ギャオォォォン


「ディアボロ」の悲鳴が上がり、その巨体が倒れ、もがく。
俺は指示通り背中に回り込み、強化弾を撃ちまくる。その間に「神」は腹の方に回り込み、突撃槍の大技を叩き込む。


――キャイィィィン!!…

――てててて〜ん、てててて〜ん♪


最期の瞬間は驚くほど突然だった。
クエストクリアのメロディが流れて、「ディアボロ」の巨体が倒れ伏す。
リザルト画面に特級ソルジャーの称号が獲得された事が表示され、俺の中で何とも言えない感動が巻き起こった。
この半年、長かったもんだ。
俺はこの手のゲームを今まで一度もやった事がなかったし、前作から参入している人間の多いこのゲームでは正直、相手にもされないほど弱かった。
そんな中、こいつと出会い、こいつに指導されて、やっとの事で得られた一人前の称号だ。


神:おめでとう。これでワンちゃんも一人前のソルジャーだね。


この「ワンちゃん」ってのは「神」が俺を呼ぶ時の呼び名だ。


Dogs:おお、マジでうれしいぜ。ありがとな!
神:よし。じゃあ街に戻ったら、早速特級の装備を揃えないとね。
Dogs:う…。やっぱ特級に上がってもその作業が待ってるのか…。
神:当り前だよ。ここから先は今までよりずっと強いモンスターが出てくるからね。
Dogs:こえぇな…。
神:まぁ、最初は勝てないとは思うけど、僕も出来る限り手伝うよ。


「そうだな」と返そうと俺がキーボードで打ち込んでいると、


神:あ、そうだ。後で僕のマイルームに来て。


「ん?」

俺は入力しようとしていた文字を消し、


Dogs:ん?どうした?


と打ち込む。


神:話があるんだ。前からワンちゃんが一人前になったらしようと思ってた話なんだけどさ。
Dogs:ん?まぁ、分かったとりあえずディアボロ装備見てから行くわ。


俺はそう答え、街に戻った。

「ちぇ、やっぱ一回じゃ装備は作れねぇか」
「しっかし、性能やべぇな。一応後でソロ狩りにも挑戦してみるか…」
「野良PTはこえぇしな…」

俺の脳裏にこのゲームを始めた頃の悪夢がよみがえる。

「まぁ、いいか。神っちの部屋だったよな?」

「神っち」ってのは俺の「神」を呼ぶ時の呼び名だ。


神:ようこそ。神の世界へ…。
Dogs:はいはい。テンプレ乙。
神:ワンちゃんノリ悪いよ。


ここに来た時のいつものやり取りだ。


Dogs:ところで、話って何?
神:あれ?そんな事言ったっけ?
神:てっきりワンちゃんが僕に会いたくて来たのかと…。
Dogs:……ちゃ〜っすぞ!?


「ちゃ〜すぞ?」って言うのは俺の口癖で、意味はどこぞの方言で「痛い目にあわすぞ?」的な意味だったと思う。
昔誰かが使っていてそれを気に入って使い始めた言葉だったように思う。
そうだ、転校生の大串君だ。あれ?竹中君だっけ?まぁいいや。


神:冗談だよ。
神:突然だけどさ。こことは違う世界に行ってみたくない?
Dogs:え?何?神っち、別のゲームでもやるの?
神:ん〜。まぁ、そんな所かな。
神:ところでさ、ワンちゃんはもう18歳以上だよね?


「ぶっ!」

突然の「神」のセリフに俺は思わず吹き出しちまった。
普段の「神」とは思えない発言だ。
そもそも、こいつは自分からこんな風に積極的に話す奴じゃなかったはずだが…。
俺のログには俺の発言よりも多くの「神」の発言が表示されている。


Dogs:何?そのゲームってエロゲなのか!?
神:いや、そうじゃないよ。
神:一応聞いておこうと思ってさ。
Dogs:まぁ、一応大学生だしな。
神:そっか、よかった。
神:じゃあ、このURLで入ってみてね。
神:僕は先に行ってるよ。
神:じゃあね。
Dogs:え?おい、ちょっと…
―― 神 さんがログアウトされました――


「行っちまいやがった。なんだ?いったい…」

俺は色々と腑に落ちない事もあったが、とりあえずログに残っているURLをIEを立ち上げて、入力して見る。

「ん?重いな…」

――カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

そのページを開こうとPCが唸る。
しかしブラウザは真っ白なまんまだ。
なんだ?どこかのゲーム会社の公式サイトだろうか?中にはそういう所は重い所もあるからな。
と、

――カリカリカリ……

「お、開いた開い……ん?」

画面が突然に白く光り始める。初めは淡く、そして、


――ドォン!


「!?」

声もあげる間もなく極大音の爆発音がして、俺はキィィンという耳鳴りと共に視界が真っ白になった。

今になって思う。
俺が奴について行きさいしなければこんな事にはならなかったんだろう。
良かったにせよ悪かったにせよ、俺の人生は奴のせいで変えられちまったわけだからな。
まぁ、これはこれで悪くは無かったようにも思える。
少し楽観的過ぎる気もするがな。
でも、誰だって一度は思うだろ?
異世界に行ってみたいって















OtherworlD














「ようこそ。別世界へ…」
「ん…てて…」

聞き慣れない声の言う見慣れた言葉で目を覚ます。
ひどい頭痛だ。

「あぁ〜いてぇ…なんだぁ?つか、お前、誰だ?」

俺の目の前には少女とも少年ともつかない様な子供がニコニコと俺を見ていた。

「酷い事言うねぇ、ワンちゃん」

見慣れないそいつは、見慣れない服装で、見慣れない髪の色をして、見慣れない色の瞳で、見慣れない表情を浮かべ、見覚えのある呼び名で俺を呼ぶ。

「……お前、もしかして神っちか?」
「そうだよ。初オフ会だね、こんにちは。ううん、初めまして。かな?」

どうやら「神」であるらしいその子供は、何となく人を食った様な感じで、話しかけてくる。

「思っていたよりも若いな」
「意外と驚かないんだね」
「驚いてるよ。十分に」

少なくとも目が覚めたら見覚えのない場所に連れて来られてたってことにはな。
いや、色々と驚き過ぎて何が何だか分からないって感じだが。

「ここはどこだ?」
「ここはとある世界のとある国があった場所さ」
「とある世界?」

見渡せばどうやら明け方であるらしく、青い霧の様な靄が遠くの方にかかり、見渡す限り廃墟が続いている。
まるでファンタジー世界の中の様な風景で、赤煉瓦でつくられた洋風な建物の残骸がそこかしこに残っている。
しかし、ここがヨーロッパだとか、どこかのテーマパークの跡でない事を示す物もそこかしこに見られる。
例えば今俺と「神」がいる場所だ。
ここは随分と高い場所であるらしく、石畳の地面は途中で途切れ、遙か下には緑の大地が広がっている。
こんな光景、観光会社のパンフレットでだって見る事はできねぇだろう。
この場所はまるで山の様な構造物の上であるらしく、遠くの方にも緑の大地から生える様にしてこことよく似た山の様な建築物が見える。
しかしそれらは近代的なビルなどとは大きく違い、まるでジ○リで出てきそうな古い中世風の建築物が寄り集まって出来ている。
そして、これらは所々崩れ落ちているらしく、あそこに見える張り出した場所なんかは今にも崩壊して100メートルは下の緑の大地に落ちてしまいそうだ。

「ここは君のいた世界とは少し違う世界なんだよ。僕もここの創造に手助けをしたりしたんだけどさ、どうもあまり良くない事が起こっているみたいでさ」
「なんだ?創造って?お前は建築家かなんかなのか?」
「いいや。僕は少し手助けをしただけさ。でも、そうして手を掛けた世界で、あまり良くない事が起こっている。まぁ、どこの世界でもよくある事なんだけどね。でも、この世界で今起こってる事は少し特殊でさ」
「ん?何を言ってるんだ?あまり良くない事って何だ?」
「彼はどうやら彼女の事をあまりよく思っていないらしいんだ。自分の子供も同然だっていうのに。まぁ、彼としてはそうして育てた子供が非行に走ってしまったのを止めようとしているんだろうけど、それがあまり良くない方向に向かってしまいそうなんだ」
「なんだ?お前の知り合いは思春期の娘でも抱えてるのか?大変だな」
「そうなんだ。彼からすれば彼女のやっている事は非行と呼ぶべき様な事なんだろうけど、彼女自身はここをより良いものにしようとやっている事だし、僕の立場としてはどちらも応援してあげたくてね。でも、どちらかを応援する訳にもいかないし、どちらが正しいのかも判らない」
「ほんと、何を言ってるんだ?お前…」
「そこで、だ。僕の選んだ他の世界の人間であるワンちゃんの出番って訳だ」
「いや、意味が分からんから。つか、ここはどこだよ?俺、明日もバイトあるんだけど?」
「まぁ、面倒くさい事は置いといてさ、とりあえず、僕はワンちゃんを観察してるから、実際にこの世界を体験してみて、どっちがいいか選んできてよ。それを参考に僕も協力する事にするからさ?」
「いや、体験してみろって言われても、俺、ここがどこかも…。つか、バイトさぼるといろいろ面倒なんだってば」
「いいからいいから」

そういって「神」は俺の方に近寄ってくる。
長身な俺の近くに来ると、子供の外見をしている「神」との身長差がはっきりする。

――ポン

「ん?」

いきなり胸に手を当てられた。

「厳正を規すために飛ばす場所はランダムにするね」
「なんだ!?飛ばすって!?つかなんだお前!?つかランダムってなn…

俺の言葉は突然の視界の暗転と共に途切れた。







「ってて、うが…また頭痛が…」

ん?ここはどこだ?
起き上がり周囲を見渡す。
どうやらまだ夢は覚めていないらしい。つか、これ、たぶん夢じゃないよね?リアルに頭痛してるし、何故か俺、池の中にポチャってるし…。水、普通に冷たいし。

「くそっ!神っち!?どこだよ?つか、ここどこだよぉぉぉ!?」

――………
――ザァァァァァ

「神」の答えは返ってこず、俺の声は池に流れ込む水の音で消えてしまう。
あぁ〜もぉ〜!訳わかんねぇ!
ついさっきまで俺は自分の部屋でネトゲをやっていたはずなのに、気づいたら漂流教室だ。
まぁ、目が覚めたら辺り一面砂漠でヒトデの化け物に襲われたりなんてことがなかっただけマシか?
にしてもここはどこだ?
見れば森の中みたいだけど…。
池は結構な広さがあり、向こう岸には風化して苔に覆われた人工的な建造物の跡がある。
あんなものがあるってことは、少なくともここには知的生命が存在する、もしくは存在していたってことだ。
酸素はあるし、太陽もひとつ。ここが地球ではないって可能性もあるが、身体に感じる重力も空気の臭気も元いた地球と何も変わりないように思う。
そう言えば「神」は言ってたな、
『ようこそ。別世界へ…』
ってよ。
って事は、あまり信じたくはないけどやっぱりここは別の世界なんだろうか?
奴の言っていた別世界って言うのが別の惑星や、別の宇宙であるという事も十分に考えられるが…。まぁ、どっちにしてもあんな魔法みたいな力で俺をすっ飛ばしたりなんて事が起こった時点で、俺の身にトンデモ現象が起きている事はたぶん間違いないんだろう。
だとしたら、俺はとりあえずは元の世界に戻る方法を探すべきなのだろうか?
いや、待て、そんな事よりもまず先に、この世界で生き抜いて行く事の方が先決だろう。
とりあえずは人間がいてくれりゃあだいぶ楽にはなるだろう。
つっても、それが宇宙人だったり、俺等とは想像もつかない様な思考を持ってて、俺を見るなり襲いかかってくるって事もあり得ないわけではないわけだ。
そもそも、ここがどこであれ、俺がいた日本でないのならば、まず言葉は通じない筈だ。
そして、生活習慣や文化が違うとなればジェスチャーも通じない可能性もあるわけだ。
あれ?これ、不味いんじゃねぇのか?

『大丈夫。言葉は通じるよ。こちらではパンドラの箱はまだ開かれていないからね』

「なっ!?神っち!?何処だ!?ここに居るのか!?」

「神」の声が聞こえ、俺はあわてて問う。

『言ったでしょ?僕はワンちゃんを観察している。って。でも、ごめんね。手助けしてあげる事は出来ないんだ。まぁ、もっとも、ワンちゃんに命の危険があったりしたら、流石に僕が助けてあげなくちゃいけないわけだけど。まぁ、きっと大丈夫だよ』
「おい、いい加減にしろよ!命の危険って何だよ!?もしかしてここには人を襲う様なモンスターでもいるっていうのか!?だったらせめて武器と防具をよこせ!出来るだけ強いのを!」
『ん〜。確かに言われてみればそれもそうだね。じゃあ、「ひのきのぼう」か「聖剣(笑)」のどっちがいい?』
「なんだ!?(笑)って!?つかなんだよその選択肢は!?選べねぇよ!つか、「ひのきのぼう」ってなんだ!?そんなもん適当に拾えるだろうが!もっとましなもんよこせよ!」
『も〜仕方ないな〜。じゃあ、「聖剣(笑)」か、「Stick of cypressダブルツインマークツーセカンド」で選んで』
「英語になっただけだろうが!!!つかダブルツインマークツーセカンドってなんだ!?2がいっぱいじゃねぇか!!要するに「ひのきのぼう2」じゃねぇか!」
『ごめん、手持ちがなくてそれしか買えなかった(笑)』
「ウゼェぇぇぇぇぇぇ!!!あぁ〜!もう!わかった!せめて具体的な武器ステータスとかスキルぐらい教えろ!」
『ん〜。「聖剣(笑)」別名エクスカリパー。聖剣に似せて大量生産された銅の剣』
「それ唯の銅の剣じゃねぇか!!」
『「ひのきのぼう2」ひのきのぼうよりも硬い。背中がかゆい時にこれを使うと掻く事が出来る。また、先端に引っ掛けられるようになっていて、遠くにある者を引き寄せるのに便利。今なら1本購入でもう1本付いてくる』
「それ孫の手じゃねぇか!!どっちも使えねぇぇぇぇぇ!!!!」
『あぁ〜もぅ、面倒くさいなぁ。じゃあこれあげるから、適当に頑張って。ちょっとこれからウカム倒してくるから』
「ちょ、おまっ!!!?」

――シャキン…

そう言って「神」の声は聞こえなくなった。
その代わりに、俺の目の前には1振りの剣が落ちていた。

「お…。なんかこの剣かっこいい…。ん?刀身に何か書いてある…。「Excalibor」…。ん?エクスカリボー? やっぱりパチもんじゃねぇか!!!」

あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何だよこれ!?何で俺、こんな目に合わなくちゃいけねぇんだよ!?
なんで別世界飛ばされてパチもんの聖剣持って冒険の書1をスタートしなけりゃいけねぇんだよ!?
あ、クソ!こんな事ならこの世界の通貨を貰っときゃあよかった!
せめて金があればどうにかなる気がするのに!
ちくしょう。
はぁ…。まぁ、落ちつけ、俺。
さっきの話を整理してみろ。
今の話の流れから察するに、この世界には言葉の通じる人間か、それに類する者が少なくとも存在しているはずだ。
そして問題は、だ。俺の命を脅かすような奴もいるってことだ、それがモンスターなのか、野犬とか狼とかの類なのかは分かんねぇが…。とりあえずこの剣でどうにかするしかねぇ…。
考えろ。次に俺がとるべき行動は何だ?
とりあえずはこの森を抜けて、人里へ行くべきだ。
この世界の人間に「俺は異世界から来ました」なんて言って信じてもらえるかは分かんねぇが、少なくとも今より状況は良くなるだろう。
と、その時だった。

――ざばっ!

「なっ!?」

俺の目の前に池から何かが飛び出してきた。

「ん?人間?か?」

飛び出してきたそいつは人の様な外見をしていた。
しかし、あくまで「人の様」であって、人ではない。
手足がゴツゴツとしていて、指の間には水かきが、そして指先には鋭い爪が付いている。
その上右手にはエグい形をした刃物の様な者が握られている。
しかしそれ以外はまんま人間の女の子の様だ。
しかもどちらかと言えば可愛い部類に入る子だろう。

「つか、何でスク水なんだ?」
「…………………」

俺の疑問にも戸惑いにも少女(?)は反応を見せない。
ただ、人間とは思えない金色の瞳でこちらを睨んでいる。

「うげ…。もしかしてこいつ、モンスターの部類に入るのか?半漁人ってやつか?」
「………………」
「いや、待て、もしかしたら言葉が通じるかもしれない。それに、流石に人間じゃなさそうだからって、こんな子に切りかかるのは気が引けるし…」
「………………」
「おい!お前、何者だ!!」
「……………………」
「あれ?聞こえなかったのか?おい!!!お前!!何者だ!!!
「………………」

あれ?おかしいぞ?全く反応がないぞ?つか、なんか相変わらず睨んでるし…。
やべぇ、なんだこれ?普通にこえぇ。こいつがもし人間だったとしても俺はこいつとは関わりたくねぇ。

「あの?すみませ〜ん?聞こえてる?何でそんな物騒な物持ってるの?つ〜かこえぇよ。何で何にもしゃべらねぇの?何で無表情でじっとこっちを睨んでるの?」
「……………てゃぁ
「のわっ!!?」

その半漁人はあろうことか、俺に向かって突進してきやがった。
俺は思わず飛びのく。
しかし、今のではっきりした。こいつは人間じゃない。どっちかって言うとモンスターよりだ。

「そうと決まれば俺のとるべき行動は…………逃げろ!!」
「ぁ………ショボン」





俺は森の中へ逃げ込んだ。
どうやら追っては来ていないみたいだ。

「ふぅ…三十六計逃げるに如かずってね」

あんな得体の知れない生き物とチャンバラやるなんざまっぴらごめんだ。
そもそもこれは現実だ。ゲームみたいに戦闘して負けて命を落としてちゃ話にならねぇ。
それに、もし勝ったとしても、あの外見じゃあ絶対に後ろめたい気持ちになることは明白だ。

――ブゥゥゥゥン

「ん?ヘリコプター?」

突然頭上から大きな羽音が聞こえてくる。

「いったいなんd」
「隙あり!!」
「のわぁぁぁぁぁぁ!!!?」

見上げた瞬間、突然槍の様な物が付きたてられた。
俺はそれを住んでの所でかわした。

「あぁぁぁぁぁあぶねぇだろうが!!!」
「黙れ人間!大人しく私の毒針の餌食になれ!」
「誰がなるかぁぁ!!?」

うわぁ…。
今度はさっきよりも分かりやすい奴が来た…。
明らかに敵意をむき出しだ。
しかしさっきとは違い、言葉は通じているようだ。
しかし見た目は先程同様、「ほぼ人」だ。
でも、頭からは触角が生えているし、虫っぽい羽根で空飛んでるし、尻からは黄色と黒の蜂の腹部のような部位が見える。

「つか、なんで手足には鎧みたいなもん着けてんのに、服は水着なんだよ!?」
「これは我等の正装だ!」
「うげ…。ハニートラップスタイルキラービーってところか…」
「人間!大人しく私と一緒に来てもr

俺はヤバいと感じ、話も聞かずに逃げ出した。

「くそ!貴様!待て!!」
「誰が待つかよ!」

後ろからは音が迫ってくる。
くそ、やっぱり飛んでる分あっちの方が速いか?

「と、なれば………そりゃ!」

俺は直進から急激に曲がって、茂みの中に飛び込んだ。
しかし、

――ゴチン!

「いてぇ!?」
「あうっ!? きゅ〜〜〜…パタン」
「いってて…いったい何が?」

茂みの中に何かがあったらしく、俺はヘッドスライディングで飛び込んだため、それに激しく頭をぶつけてしまった。

「ね、姉さん!!?」
「きゅ〜〜〜〜〜」
「ん?姉さん?」

俺は身体を起こすと、茂みの裏に、さっきの蜂女とよく似た顔をしたやや小柄な蜂女が伸びていた。
そしてその蜂女(小)にさっきの蜂女(大)が駆け寄っていた。

「な…。おま、これ!!人間!!これどないしてくれるんじゃ!!おま…これ、姉さんの触角の先っちょが折れてしもとるやないか!!」
「え?ちょ、何でいきなり関西弁!?」
「おまえ…これ、針の一本や二本詰めるだけじゃ許されへんど!!?」
「え?いや…そんな事言われても…俺、針なんて元から持ってないですし…」
「待ち伏せしてた無防備な姉さんに頭突きかますたぁ何事じゃ!!」
「いや、そっちが悪いでしょ、今のは。そもそもあんたが追いかけなきゃ俺は逃げてなかったし」
「姉さんはなぁ!こない小柄な体してて、週に3回はハニービーの腰ぬけと間違えられて、それでもめげんと毎日毎日頑張ってはったんやぞ!!?その姉さんの触角がコレ…折れてしもとるやないか!!」
「あぁ〜もぉ〜。別にいいじゃないっすか?そんなのツバつけとけば治りますって」
「治るかボケぇ!!ウチ等にとって触角は一生もんなんじゃ!折れてしもたらしまいなんじゃ!!」
「あぁ〜じゃあ、あの、これ、偶然内ポケットに接着剤入ってたんで、これでくっつけてくださいよ」
「あぁ!?何じゃそのチッこい筒は!?そないなもんで姉さんの触角が治るっちゅうんか!?」
「はぁ、まぁ、一応瞬間接着剤だし…」

俺は伸びている蜂女(小)の触角なのか飾りなのかよく分からない物にセメダインを付け、折れていた部分をくっつける。
程なくして触角はくっついた。

「な…あんた…それ…」
「え?やっぱセメダインじゃ不味かったですか?」
「おま…お前は神か!!?メシアか!?」
「え?いや、違いますけど」
「これ…奇跡や!!奇跡が起きたで!!」

蜂女(大)はセメダインの存在を知らないのか、触角がくっついた事に大げさに歓喜する。

「おおきん、おおきんな!あんたのおかげで姉さんの触角が治ったで! …あぁ、お礼せんとあかへんなぁ」
「え?いや、いいですよ。そもそも折ったの、俺だし」
「そない謙遜しぃな。そや、コレ、ウチのお気に入りの槍や。ウチの麻痺毒が塗ってあって、ちょっとでも傷つけられたら、そいつはすぐに動けんようになる。これで身ぃ守るとえぇわ」
「え?あ、どうも」
「あんたを連れて帰れんのは惜しいけど、ウチ等は受けた恩は返さなあかん。あんたを無理やりに連れて行くんは勘弁しといたる。でも、次に会った時は…何としてもあんたを…///」
「え?何で頬染めてらっしゃるんですか?いや、出来れば次も勘弁してほしいんですけど?」
「じゃあな、兄さん。……ありがと な///」

そう言って蜂女(大)は蜂女(小)を担ぐとどこかに飛び去ってしまった。
まったく…何がしたかったんだ?
まぁ、この槍は使えそうだし、有難く貰っとくか…。






「ふぅ…どうやら森は抜けたか?」

それにしても、変なモンスター共がいるもんだ…。
今のところエンカウントしたのは全部メスか…。でも思っていたより危ないのにはまだ会ってないな。それに…モンスターじゃなければ普通に可愛い感じだったし。
でも襲ってくるって事はやっぱりモンスターなんだろうな。あの蜂も巣に連れて帰るとか言ってたし…。きっと巣に連れて行かれると食われてしまうに違いない。
外見に惑わされずに、用心するべきだよな。
まぁ、でも、なんていうか、少し楽しい気もするな。つっても、まだ身に危険が及んでないからこんな事言えるんだろうけど。
我ながら少し楽観的過ぎるか。
でも、まぁ、落ち込んでいるよか、ずいぶんとマシだろう?

「ん?道…か?」

森を抜けただだっ広い草原の中、道を見つけた。
道と入ってもアスファルトの舗装なんてない、ただ土が固められているだけの道。
近くで見れば轍の跡がある。どうやらこの道をたどれば人のいる所にいけそうだ。
しかしすごいな…。日本じゃまず見られない風景だ。緑の地平線。遠くの方に風車も見える。
俺のいた世界で言うならヨーロッパに近い文化なんだろうか?
点のようにしか見えないからよく分からないが、その風車の形は、地理の授業で教科書の挿絵にあったオランダの風車に似ているように見える。

11/01/10 02:06更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
はい、ここまで。

現代から図鑑世界へ主人公が飛ばされるという、ベタなお話です。
気づいた人がいたら、あなたはひつじソムリエです。はい。このお話、「エルシャダイ」の動画見てて突発的に書いたものです。
それゆえに突然で終わりました。
ぼんやりと、これ、第一話にして、二話以降、別の異世界から図鑑世界にいろんな主人公を「神」が飛ばしてくる みたいなはなしにしたいなぁ〜? なんて思っていました。
「神」の正体はたぶん神族か何かでしょう(あいまい)。

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