読切小説
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ハイ&ロー
「っと、次は体育か」
「えー、ボクは体動かすの嫌い」

隣の席に座っている真っ赤なショートヘアの髪の毛の俺の幼馴染はやる気なさげに呟いた。
まだ入学したばかりだというのにコイツは何でそんなにダルそうにしているんだろうか。

「純子は火鼠なのに本当に運動嫌いだよな」
「だって、疲れるだけだよ。次も体育の代わりにメロウ先生の猥談だったらなぁ、ほぼ裸で出歩いてたリッチさんの話の続き聞きたいし」

猥談が好きで運動は嫌いか……うん、やっぱり俺が調べた一般的な火鼠とコイツは全く一致しないな。本来の火鼠なら体を動かすことは得意であり比較的猥談は苦手なはずなんだから。

「まだ初回の授業だぞ、遊びみたいなことしかしないと思うぞ」
「遊びだろうとボクは嫌だね、どうしてもボクを参加させたいならボクをこの場所から動かしてみるんだね」
「ふざけんな。お前を担ぐのは簡単だけどな、体育なんだから女子更衣室まで連れてかなきゃならんだろうが!! どう考えても俺が変態認定されるっての」
「そのことだったら大丈夫だよ、この学園の更衣室って個室……というか試着室がたくさん並んでるみたいな感じだし」
「なにそれ、盗撮とか頻発しそうなんだけど大丈夫なのか?」
「ヒント1、この学園の女子は魔物です。ヒント2、よっぽど無頓着でない限りは魔物が簡単に好きな人以外に下着姿を見せるわけがありません。ヒント3、そんな魔物が簡単に覗けるようにしてたらどう考えても男を誘うための罠です」
「盗撮できてもお持ち帰りコースなわけか、心配する必要がないってことね」
「まあ、噂だと更衣室に彼氏を連れ込んで行為室にしちゃってるカップルもいるらしいけどね」

いつもはやる気が無いくせに何でその手の情報に関しては詳しいんだよコイツは。

「それよりもだな、お前が出て行かないと男子も着替えられないんだよ」
「あーそれもそうか……こうしよう、ボクは目を閉じてるからその間に皆は着替えちゃってください! ボクはこの場から動くのも面倒なんで」
「いいから出て行け!!」

俺は順子を持ち上げて教室の外に追い出してから鍵を閉める。アイツは面倒の一言ですべて許されるとでも思ってるのか?

「変わり者の友達がいると苦労するよね」

ちょうど鍵を閉めたところでクラスメイトから声をかけられた。まだ入学したててクラスメイトの顔と名前が一致してない中でなんとか苗字を思い出す。

「えっと……小田切くんだっけ?」
「そうそう、俺も火野くんと同じで変わり者の幼馴染がいるから火野くんの気持ちがよくわかるよ」
「小田切くんの隣で爆睡してたコカトリスの琴理ちゃんが小田切くんの?」
「そうなんだよ、琴理のやつどういうわけか知らないけど下ネタになると思いっきり寝始めるんだよ。ってか俺の苗字を思い出すのにはちょっと時間が掛かったのに琴理のことはすぐに思い出せるんだね」
「そりゃあ、人見知りなはずのコカトリスがクラスメイト一人一人に挨拶と自己紹介して回ってたらインパクトが強すぎて忘れるに忘れられないからね」
「……アイツ、俺がいない間にそんなことしてたのか」
「わかる、その気持ち俺にもよくわかるよ」

少し話していただけでもわかる。彼は俺と同類だ、間違いない。でもってそんな苦労をかけてくる相手が好きなことも。でなきゃあんなに嬉しそうにトラブルメーカーな幼馴染の話なんてしないからな。





「まったく、面倒くさいなぁ」

追い出されては仕方ない、さっさと着替えてくるかな。そう思いながら更衣室に向かっている時のことだった。

「あー!! ジュンちゃん探したよー、次体育なのに教室を出てなかったから探したよー」

ハイテンションなコカトリスに抱きつかれた。

「琴理ちゃん、何でそんなに嬉しそうなのさ」
「だって体育だよ! 思いっきり体を動かせるんだからテンションもあがるよ」
「ボクは運動は面倒だから嫌いなんだけど」
「火鼠なのに? 変わってるね!」
「ボクからしたら人懐っこいコカトリスも十分変わってると思うんだけど」
「じゃあ同じだ、ボクとジュンちゃんは変わり者仲間だ!」

さらに、なんか知らないけど仲間認定された。

「ところで琴理ちゃんは小田切君のことどう思ってるの? やっぱり恋人だったりするの?」
「ショーちゃんと? 恋人じゃあ無いけどボクはショーちゃんのこと大好きだよ」

……あーこれはどう考えても異性としての好きと友達としての好きの区別がついてない子だわ。
琴理ちゃんがフェロモン出してないのは小田切君が異性として好きだからだろうに本人が気づいてないよ。

「じゃあさ、ジュンちゃんはひのっちのことどう思ってるの?」
「ひのっち?」
「ほら、ジュンちゃんと一緒にいた火野君のこと」
「あぁ、頼人のことか……頼人はボクが面倒臭がりになった原因だしな、責任は取ってもらおうとは思ってるけど」
「原因?」
「えっと、ボクは生まれつき性に敏感な体質でね、頼人と一緒にいるだけで炎が弱まっちゃうんだ。たぶんボクの体が完全に頼人の事をパートナーだと認識してるんだろうね」
「うーん、よくわかんないけど大好きってことでいいのかな?」
「まあ、一言で言えばそれで合ってるけど」
「よし、そうとわかったら着替えてグラウンドに向かうぞー!」

ボクはそのまま琴理ちゃんに抱えられて更衣室へと連れて行かれる、まぁこの子なら仲良くなって一緒にいても退屈しないだろうしこのままでもいいか。





「なぁ火野くん、俺達親友だよな?」
「あぁ小田切くん、俺達は苦労人と書いてソウルメイトと読むくらいの親友だ」

着替えが終わり意気投合していた俺と小田切くんがグラウンドに着くとそこには信じられない光景が待ち受けていた。
そう、それは俺達にとって考えられる限り最悪の光景だった。

「だったら目をそらしちゃいけないと思うんだ」
「そうだな、戦わなくちゃ現実と」

そこには体育教師であるデュラハン先生の頭を手に掲げた順子を肩車して走り回っている琴理ちゃんの姿があった。

「いけー、このまま逃げ切ればボクは運動しないですむし、琴理ちゃんは目いっぱい走り回れるぞー」
「オッケー! ジュンちゃんボクに任せてよ走ることならボクに勝てる人なんていないんだから!」

「順子! 琴理ちゃんを煽るんじゃない! 今すぐデュラハン先生に頭を返してあげろ!」
「琴理! 今すぐ止まれ、順子ちゃんを下ろして一緒にデュラハン先生に謝りにいけ!」

「むっ琴理ちゃん、悪の手先が来たぞ逃げろ! 全速力だ」
「任せてよ、ショーちゃんはボクに追いつけるかな?」

どうやら俺たちの苦労は今日からよりいっそう酷くなるようだった。
14/11/16 00:37更新 / アンノウン

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