読切小説
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そよ風への贈り物
空気の微弱な変化を感じ、閉じていた目を開ける。
部屋の外の空気の流れが変わった。いつもの新聞配達の子か。
窓はまだ閉まっていたか。これではあのハーピーも入って来れないだろう。
窓の方へと移動し、力一杯に押し開けると、朝の眩しい陽の光と、心地よい風が歓迎してくれた。
眼下には街を行きかう人、少し遠くを見れば、海も見える。
ここは教会のとある見張り塔の一室。街を一望できるこの部屋は、マスターの要望により教会に用意させた部屋だ。

しばらく風景に見とれていると、開け放たれた窓から、ばさっ、ばさっ、と翼の音だけが聞こえてきた。
慣れたことなので特に驚くことも無く道をあけてやると、部屋の中に入り込む気配がした。
音だけのハーピーは部屋の中に着地すると、姿をくらます魔法を解除してにまっ、と笑顔を見せた。

「おいっすー、おはよーございます!今日の新聞でっせー!」

相変わらず朝から元気なハーピーだ。街の中には何人もの魔物が姿を隠して暮らしているらしいが、自分はまだ見たことが無い。彼女はこの街で"見かける"唯一の魔物なのだ。
大きなカバンから出された新聞を受け取りつつ、少し雑談を入れる。

「ありがと、今日は何か面白そうな話題はある?」
「おっと!それがですなぁ、この街にまた魔物が一人増えましたな!ネレイスの可愛い娘でしてねぇー、新しい商売先ですわ!」
「へー、それはまた面白いことになりそうじゃないの・・・、だけど、その話、出来ればマスターがいない時の方がいいんじゃないかなぁ・・・」

部屋の椅子に腰かけ、本を読んでいた自分との契約者に目を向ける。
良く言えば、いつも魔法についての学術本などを片手にしている勉強熱心。常に冷静で物静かな知的な男性。
悪く言えば、引っ込み思案で無愛想な日陰者。自分としては、こっちの方がしっくりくるんだが。
そして職業はこの街の教団魔道士。魔物と敵対するニンゲンの一人なのだ。

こちらの視線に気がついたのか、一瞬だけ目をこっちに向ける。

「・・・自ら進んで探すようなことはしない。教団に捕獲を命令されない限り、関係の無い話だ」

さも興味など無い、と言わんばかりにめんどくさそうに返答を返すと、また学術本へと視線を落とした。

「んー、旦那はほんま魔物に対して優しいなぁ、ほんま、今の職業向いてへんやろ・・・」
「あたしも思うんだけどねー、マスターいわく、ここ教会は羽振りがいいんだ、ってさ」
「んー、そうらしいが・・・、にしても皮肉な話やなぁ、魔物を嫌う教団が、対魔物勢力として精霊使いを集めたらしいけど、魔物化した精霊との契約者を使うだなんて・・・」

そう、自分は風の精霊、シルフ。名前はアリア。この名前はマスターに付けてもらったものだ。
昔は魔物ではなかったが、ある日マスターと仕事で魔界に入った際、風の魔力に魔物の魔力が混じって、今は「魔物化した精霊」という分類に入っている。

「教団いわく、『魔物ではなく、あくまで精霊だ』、ってさ。強い力を行使出来るんだから、多少のことには目を瞑るってことかな?まぁ好き勝手させてもらえるんだから、あたし達は助かるんだけど」
「なんやそれやったら利益があるんだったら魔物でもええんかなぁ。そや!やったらこの教会のみんなに新聞配達とかどうやろうか!お互いの利益になると思うんやが!」
「アンタの場合独身男性を見つけて襲う、とか考えてそうだから・・・」
「あちゃーバレたか。くぅ〜!ええんや!あっしの恋人は仕事や!!なんやお宅らなんて羨ましくないんやでこのぉ!」―――


―――一通りハーピーと話すと、彼女はまだ配達の仕事があるから、と部屋から飛び立つ。

「ほいではまた来週〜、毎度おおきにな〜」

そう言って飛び去ったハーピーを見送ると、もらった新聞に目を通す。
「えーと、今週の特集・・・『サキュバス直伝!確実な男の落とし方!』『男の理性が崩壊?アルラウネの蜜のご利用は計画的に』・・・まぁ、いつも通りって感じかなぁ」

しばらく無言で新聞を読みふける。その間も無口なマスターは口を開かない。
当然ながら魔物用の新聞なので、性に関する記事ばかり。
読んでいるうちに、思わず少し身体が熱くなってしまう。
新聞を丁寧に折り畳んで机に上に置くと、体を浮かせて本を読むマスターに近寄り、悪戯っぽく肩にもたれかかる。

「ねぇねぇマスター、最近ずっとご無沙汰ですしー、魔力も減ってますしー、ちょっと朝ごはんがてら補充しておきたいなぁ、って思うんですけど?」

少しだけ魔力を込めて耳元でささやく、大抵の男ならイチコロに出来るような自信はあったのだが・・・。

「・・・・・・」
「・・・ちょっと!無反応とかどうなのそれ!?それでも健全なインキュバスなわけ!?」
「・・・いたって健康だ」
「あーはいそうですね・・・」

最近のマスターはいつもこうだ。あたしの誘いにも全く反応せず、ここ数日は抱いてもらえていないどころか、まともな会話すらしていない。
一週間ぐらい前なら求めれば応えてくれたはずなのに・・・どうも最近は怪しい。
あたしが寝ている間に街をうろついたり、突然黙って何かを考え込んだり・・・。
まさか浮気でもしているのだろうか。今はマスターと契約して丁度季節が一巡りする頃だ、あたしに飽きたとでも言うのだろうか。

「むー・・・!もうマスター!いい加減にしないと押し倒しちゃうよ!!こっちがどれほど欲求不満で・・・」

文句を言っている間のマスターは本に視線を落としてはいるものの、さっきから目が動いていない。
どうやら今も他のことを考えているのか、このあたしが真横で誘っているというのに・・・!
・・・と、思っているとマスターは突然立ち上がる。やっと乗り気になったか、と思ったが、外套やカバンを手に取り、外出の準備を始めてしまう。

「・・・少し出掛ける。大人しくしてろ」
「え・・・?ちょちょ、ちょっと!出掛けるならあたしも付いていく!!」
「いや、今日も俺一人で出掛ける。お前はここで待機」
「んな・・・!」
「夕暮れには戻る」

口応えする暇もなく、部屋のドアをばたん、と閉じる。
突然の出来事にしばらくぽかーん、と口を開けて茫然としてしまう。

「・・・なんでやねん!って、あのハーピーの子の口癖がうつってる・・・!」―――


―――結局、無理に追いかけて後で教会側に怒られるのも嫌なので、大人しく部屋の中でマスターの帰りを待つことにした。
しばらくは新聞を読んでいたが、読み終わると暇になってしまい、マスターの読んでいた魔法の本のページをぱらぱらとめくって時間を潰す。
と言っても、内容はさっぱり分からず。一つあくびを大きくつき、気分転換に窓の外を見るとすでに太陽は教会の真上を通りすぎていた。

「まだかなーマスター・・・。一体何してるんだろ今頃・・・。私も人に化ける魔法とか、姿を隠す魔法とか覚えようかなぁ・・・」

一人愚痴をこぼしてから、大きく伸びをして体の凝りをほぐす。
浮気・・・なんて考えたくもなかったが、段々その疑いも濃厚になってきただろうか。

本人がいないことを良いことに、マスターのベットに倒れ込む。小さな自分の体にはかなり大きめのサイズだ。
もう真昼間。少しお腹もすいてきたし、マスターが返ってくるまでゆっくりしていよう。

・・・丁度一年前ぐらい前。当時まだ『精霊』だったころのあたしと、精霊使いとしてまだ未熟だったマスターは、ある日教団から、魔界への侵攻の任務を受けた。
任務自体は大したことも無く、自分達が危険にさらされるような任務ではなかった。
だけど、数日間も魔界での生活を強いられ、純粋な風の魔力に魔物の魔力が混ざってしまった。
結果、あたしは『魔物』化。マスターも徐々にインキュバスと化してしまった。
まぁあたしにしてみればマスターと触れ合えるようになったし、ご飯も一緒に食べられる。
マスターは魔力が強くなって、教団での地位も上がった。
何も悪いことはなかったし、むしろ毎日が楽しくて、幸せになった。

なのに、ここ数日と来たら・・・。
いつも以上にそっけなくて・・・相手してくれない・・・。
自分が何か悪いことでもしただろうか?イタズラが過ぎたのだろうか?
それとも、単に飽きられたんだろうか?色んな考えが頭の中でうず巻き、思わずため息がこぼれる。

独り部屋でしょげていると、一羽のハーピーが窓の外から覗き込んでいた。姿は見えなくしてはあるが、羽の音と風の流れで分かるのだ。
・・・新聞配達の子、こんな時間に来るなんて珍しい。
体をベットから起こして座り直すと、新聞配達の子は部屋の中へと降りて、魔法を解いた。

「おいっすーアリアさん。なんやどうした?外からちらっと目についたんやが、えらい元気ないやないか?」
「・・・うん、ちょっとね」
「なんやー?なんかあったんかー?悩み事かー?ほれ、悩みがあるならこのあっしに言ってみ!こう見えてあっし齢百数歳や!どーんと受け止めたるで!!」
「・・・いや、大丈夫、大したことじゃないよ。ありがとね」

マスターの浮気を疑っている、なんて言うのも少し気が引ける。
今まではずっと仲良くやってたし、突然よそよそしくなったのは気になるが、このハーピーに余計な心配をかけさせたくもない。

「・・・まぁ、大方あの旦那のことやろ?最近よう街中一人で歩いとるしなぁ、アリアさんほってどっか出てっとるとなれば、浮気だって疑ってまうで」
「っ・・・!だ、誰もまだ浮気を疑ってるだなんて言ってないよ!!別にっ!マスターは多分仕事の何かが・・・っ!」
「あー、いやー、そこまで分かりやすく慌てんでも・・・。まだ、って言っちゃってますぜ」

ハッ、と我に帰り、自分の発言に思わず顔を赤く染め俯く。なんて分かりやすい反応をしてしまったのか・・・。
その様子を見てハーピーはケタケタと笑っていたが、しばらくして落ち着くと、何か悪戯を思いついたような顔で語りだした。

「まーあんま心配せーへんでもええでー。んー・・・、あんま詳しくは言えへんけど、旦那がやっとること知らないこともないしなぁ」
「な!何してるのマスターは!」

ハーピーの発言に思わず座っていたベットから立ち上がり、飛びかからん勢いのあたしをハーピーは手でいなすと話を続けた。

「はーはーはー!それは言うなと口止めをされてるでな!あっしの口からは言えへんのや。ほれあれや、プライベートやな、うん」
「もったいぶらないで教えてよ!ほ、ほら、アイツとあたしは精霊と契約者なんだし、ちゃんとお互いの行動とか把握してた方がいいから・・・さ。精霊は信頼も大切なんだから!その・・・大切な二人の時間を何に使ってるのか・・・気に・・・なるし・・・」

威勢よく話し始めたものの、言ってるそばから恥ずかしくなり語尾が弱まってしまう。
その様子をしばらく苦虫を噛み潰したような表情で見ていたハーピーが突如頭を抱えて叫び出す。

「う・・・うえぇぇぇ!!なんやそののろけっぷり!!このピンク色のオーラ!!これやから番は困るんや!!なんや!独り身の魔物に対する嫌がらせかいな!!」
「あっ、いやそんなつもりじゃないんだけど・・・あのさ、えっと・・・」
「見るな!その哀れみの視線を向けるな!!もうええわ!せっかくやでヒントぐらい教えてやろうと思ったのに!」
「あわわわわ、ちょっと待ってって!」

目尻に大粒の涙を抱えたハーピーは窓の枠に足をかけると、慌てて引きとめようとする私を一瞥し

「このっ!二人揃ってイチャラブしよって!もう面倒見とれへんわ!末永くお幸せに!!」

と、謎の捨て台詞を吐いて窓から飛び出し、街の空へと消えてしまった。

「・・・何しに来たのよあなた・・・」

それより彼女が去り際に残した言葉が気になった。
二人揃っていちゃらぶ・・・?それはマスターがちゃんと私のことを想ってくれているということなのだろうか。
それとも他の女の人と・・・

一瞬頭によぎった考えを振り払うと、窓の外に見える街を眺め、この街のどこかにいるマスターのことを想う。

「・・・とにかく!今日こそマスターを問い詰めてやるんだから!」

誰に言うでもなくそう気合を入れると、マスターが表れるはずの部屋のドアを睨みつけた―――



―――・・・自分で言うのもなんだが、シルフと言うものは種族がら何かと飽きっぽい。
ただただマスターの帰りを待ち、どう尋問してやろうかと考えている、だなんて長いこと続くわけも無く、早々に飽きて寝てしまっていたようだ。
ぼんやりとした意識の中、毛布から顔を出し誰も閉めなかった窓に目をやると、星空と街に灯る少しの明かりだけが見えた。
一度起きるか、と思い包まっていた毛布から出ようとしたところで、やっとうたた寝をしてしまったのになぜ毛布をかぶっているのだろう、と疑問に思う。

「・・・・・・ぁ、あれ?・・・マスター?」

椅子に腰かけいつも通りに学術本を読んでいたマスターが、自分を呼び掛ける声に反応し視線を上げる。

「・・・・・・」

無言のままなにか気まずそうにあたしから目をそらすように本へ再度視線を落とし、読書を再開するマスター。
だけど視線が相変わらず泳いでいた。その様子と寝起きの起源の悪さが相まって、思わずムスッとした表情を作る。

「マスターいつ帰ってきてたんですか?・・・いや、今はそれよりも!ここ数日こんな遅くまで一体街で何を・・・!」

・・・と、人が話しているにも関わらず、マスターは椅子から立ち上がり、鞄などの荷物が置いてある玄関近くへと歩きだす。
また逃げ出すつもりか、と思いベッドから飛び上がる。

「マスター!人の話を聞いて・・・!?」

また途中で言葉を区切られてしまう。しかし今度は何やら白い箱を両手に持ち、あたしに突きつける。
その行動が理解出来ず視線を白い箱から上げると、真剣にこちらの顔を見つめるマスターと目があった。

「・・・今日は何の日だ」
「えっ?」

突然の質問。混乱気味な頭にさらに疑問が増え、質問に答えるどころか瞳を丸くしてマスターを見つめることしかできなかった。
しばらくの沈黙の後、マスターがもう一度同じ質問をくり返す。

「今日は・・・、何の日だ?」
「きょ、今日・・・?別に仕事の日でも無かったし・・・年に一度の街のお祭りはこの前終わったし・・・」
「・・・・・・」

またしばらく沈黙が続く。
無言のままお互いに見つめあっていたが、マスターは全く表情を崩さず、先に自分が折れてしまう。

「・・・わかんない、何かあったかな?別に・・・特別な日じゃなかったような」

マスターの視線が理解できない子供を叱るような視線に思え、思わず顔をそむける。
今日は教会の予定も街の行事も何も無かったはずなのだが、自分の記憶違いだったろうか。

「いや、特別な日だ」

そう言ってマスターは白い箱を右手に持ちなおすと、空いた左手でその箱の上部を開けた。

そこには、真っ白なクリームの上にいくつもの果、真中に不器用に『Happy Birthday Aria』と書かれたチョコが乗せられた、ケーキが入っていた。

「ななな!何・・・これ・・・?誕生日・・・、あたしの!?」

目の前にあるのは紛れも無くバースデーケーキ。もっともケーキは一般的に貴族の食べ物で、実物を見たのなど初めてのことだが。

「今日で俺とお前が出会ってちょうど一年。俺が勝手に誕生日に決めた」
「え・・・」
「・・・・・・ダメか?」
「あ・・・えと・・・もしかして、最近ずっと街に出てたのって・・・」
「・・・材料を買い集めて用意していただけだ。それと・・・、作り方を教えてもらうために」

そう言ってマスターは少し照れたように顔をそむける。
じゃあ、今まで自分はとんだ勘違いを・・・?ハーピーが言っていたことって・・・?

「・・・気に入らなかったか?」

少し声のトーンを落としてマスターが尋ねる。その表情を窺おうと顔を上げたが、視界がぼやけて確認できない。
自分が要らない心配をしていたと知った安心感と、勘違いを笑い飛ばしたい気持ちと、自分のためにケーキを用意してくれたことへの喜びと、そんなサプライズを用意してくれたマスターへの想いと
色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざって、わけがわからなくなって。
気が付いたらマスターの胸元に抱きついていた。

「マスターは・・・っ!もう少しあたしの気持ちも理解しなさい!このバカ!こんな・・・ことしておいて。嬉しいに決まってるでしょ!」

悲しいわけでもないのに止めどなく涙が溢れ、マスターの服に染みを作る。
マスターは持っていたケーキを机の上に置いて、泣きじゃくるあたしを両手でおずおずと包み込む。

「まぁ、喜んでくれたならそれでよかった」

そう呟き、口を閉ざす。不器用で無表情なこの男にしては、今までになく嬉しそうな表情をしていた。



しばらくの間そうしていたが、やがて腕に力を入れマスターと少しだけ離れる。
いつも通りの穏やかな表情に戻ったマスターに、不意打ちに唇を重ね、両手を首に回す。
最初に短めのキス。その後マスターからのキスを合図に、もう一度キスをする。
今度はさっきよりも長く。唇をついばむように互いにまさぐり合った後、舌を滑り込ませる。

「ん・・・む・・・・・・うん・・・・・・ふぁ」

二人の舌で絡め混ざり合った唾液を呑み込む度、鼓動が早くなり、体温が上がるのを感じる。
もう一度唇を重ね、今度は攻守入れ替えでマスターの舌が咥内に入りこむ。
口の中を舐めまわされる奇妙な感覚を味わいながらも、こちらからも舌を絡め、相手の舌を吸い上げる。
淫らな水音が小さく聞こえ、お互いの口の間から唾液が一筋滴り落ちるのも気にせず、夢中で舌を絡め、唾液を交換する。
お互いを満喫するまで長いキスを交わし、そっと唇を離すと、名残惜しそうに一筋の線がお互いの唇を繋ぐ。
余韻に浸るように見つめあっていると、マスターが口を開く。

「・・・ケーキが先だと思っていたが」
「あたしはそんなに食い意地ははってません。それより今は、マスターがどれだけ私を好きか確かめたいから・・・」

最後に短くキスを交わし、マスターをベッドに寝かせる。
そのお腹側に馬乗りになると、背中越しにマスターの顔が見えた。

「たまにはこういうのも悪くないでしょ?」

そう言葉を投げかけ、前屈みになりマスターのズボンに手をかける。
ズボンの中から取り出されたそれは、すでに起立してこれからの行為に備えていた。
この体勢だとお尻をマスターの顔に突きだすことになってしまうのが恥ずかしく、気を紛らわせるために目の前の男根を頬張った。

「はぅっ・・・ふぅ、ん・・・・・・ちゅ・・・・・・んぅ・・・くぅ・・・・・・」

自分の体の大きさに対して巨大なものを咥え、ゆっくりと顔を上下し始める。ときたま歯でカリを刺激したり、先端に吸いついたりして感覚が単調にならないように心掛ける。
なるべく根元まで咥えこもうとするのだが、自分の小さい咥内では2/3程度しか覆えない。
勢いをつけて喉の奥に押し込み、涙と嗚咽を呑み込んで可能な限りの大きな抽送をくり返す。

とその時、不意に背中を撫でられ、思わずビクッと体を震わせる。
片手で背中を撫で、もう片方の手は凹凸の少ない胸へと伸ばされる。
胸の横側に大きな手を添え、親指で乳首ごと乳房をこねる。

「ぅんっ!?・・・んっ、ふぐっ!うぁっ・・・んむぅ・・・」

自分の弱点を攻め立てられ背中を弓なりにしならせてその手から逃れようとする。
だがその動きさえも逆に摩擦を増やすだけで快楽を生むだけだった。

やがて背中を撫でていた手が離れ、今度は無防備に開かれた足の間に触れる。
焦らすように蜜壷の周囲やふとももを指先でなぞると、滴り落ちるほどの愛液が溢れだした。

「ふあっ!!あ・・・はっ・・・あっ!はぁ・・・」

焦らされるような秘部と強くこすられる胸からの快感に身体が震え、上下する首の動きが止まるが、快感に流される誘惑を何とか追い払い、咥えた男根への奉仕を再開する。

「あ・・・マスタっ!ひあっ!!」

股に伸ばされていた手が蜜壷に触れる。割れ目にそって人差し指と中指をあてがい力を込め、ゆっくりと二本の指を挿入する。
そのまま指を膣内で動かし、中をほぐすと、今度は掻きだすように内側を刺激する。

「それっ!ん・・・っ!弱いからっ!力抜けちゃう・・・ってぇ!ひゃん!くっ、うんん・・・!っんあぁ!」

ガクン、と体が大きく揺れ、全身が硬直する。
軽い絶頂で身体に電気が走ったかのような錯覚を覚える。
少しの間小さく痙攣し、その後ぐったりと倒れ込んでしまった。
肩で息をしながら余韻に浸りつつ、目を閉じたままマスターに声をかける。

「っは・・・はぁ・・・もう、たまには先にイってよ・・・。あたしばっかり最初にイかされて、なんだか負けてるみたいじゃないのよ」
「・・・何の勝負にだ」
「え、えと・・・エッチの上手さ・・・?・・・んー、ともかく!マスターも一回出しちゃってよ!あたしも久しぶりに飲んでみたいし・・・」

それだけ言って、返事を待たずにフェラを再開する。
今度は邪魔されないだけ激しく、音を立てて吸い立てながら。
片手で体を支え、空いた方の手で口に収まりきらない部分も扱いて行く。
小さな口と手で執拗に攻め立てられた男根が、そろそろ限界だと告げるように脈を打ち始める。

「ちゅっ、ん・・・ふぅ・・・、ぷはぁっ!・・・イきそう?くすっ、それじゃ、いっぱい飲ませてね?」

後ろへと振り返り悪戯っぽく微笑みかける。
相変わらず表情に乏しく無表情のままだが、さすがに呼吸は荒くなってきている。
普段とはまた少し違った色気に気分を良くすると、前へ向きなおり奉仕を再開する。
舌を使い、喉の奥まで使って咥えこみ、すでに限界が近いそれの射精を促すように吸い立てる。
体全体を揺さぶるようにして動きを大きくしていき、勢いをつけて喉の奥へと突き入れたその瞬間、男根がひときわ大きく震えマスターの体に力が入った。

「っ・・・!んんーっ!!くふっ・・・!」

直後喉の奥に入ったままの先端から精液が勢いよく吐きだされ、否応なしに食道に流し込まれる。
自分の意思に関係なく精液を飲まされる不快感に身体は拒絶しようとするが、マスターの体に抱きつくようにして抑え込み、涙目になりながらも吐き出されるものを飲み干していく。

常人では考えられないほどの量の射精のほとんどを飲み干し、尿道に残ったものも吸いだす。
その後脈動が落ち着くまで待ってから口を離した。
口の中に残った精液を舌で転がして味わった後、喉を鳴らして飲み込むと、そのままマスターの方へ振り向いた。

「けほっ・・・はぁ、今日は全部飲めた!ちょっと苦しかったけど・・・、なんだか勝った感じで気分がいいわね」

誇らしげに胸を張るあたしにマスターは小さく苦笑の表情を作り、荒くなった息を整える。
自分のお腹に手を当てると、いっぱいになった胃からマスターから放たれた精を感じ、何とも言えない幸福感に満たされる。

しばらく愛おしいもののようにお腹を撫でながら休憩を取った後、こちらも余韻に浸っているマスターの耳元に顔を寄せる。

「一回ぐらいじゃお互い満足出来ないよね・・・?もう動ける・・・よね、インキュバスなんだし」

火照った身体は先ほどの愛撫も相まってすでに我慢できなくなっており、うずく下半身をマスターに擦りつけるようにして物乞いをする。
マスターも無言のままあたしの髪を撫でると、小さな体を抱きしめ体を起こす。
お互いに抱き合った格好のままで向き合うとお腹の辺りに熱くたぎった物が当たった。

「マスター、今度は下の方もマスターでお腹いっぱいに・・・して?」

甘えるように囁き頬を赤らめる。その様子にマスターも照れるように頭をぽりぽりとかいて、表情を戻す。
両脇を持って抱きかかえるようにして持ちあげられ、巨大な男根の上に小さな蜜壷をあてがうようにして下ろす。
幼い身体にとって、その大きさの違いは到底収まるようには見えないが、あたしが小さく息を吐きだすのを合図にして、マスターはゆっくりと体を持ちあげた腕を下ろしていく。

「いっ・・・!!くあぁぁっ!!う・・・ぐ・・・!」

自身の腕ほどもある物がすんなりと収まるわけも無く、幼い身体は悲鳴を上げる。
何度やってもこの瞬間ばかりは対格差が出てしまい、少しずつ無理矢理膣を押し広げ侵入する度に激痛が走る。
吐き気を伴うような激痛を、歯を食いしばり涙を振り絞って耐え、身体を痛みに慣らせながら更に奥へ男根を呑み込んで行く。
長い時間をかけて膣の奥へとマスターをいざない、男根を半分ほど呑み込んだところで子宮口に辿り着きその動きを止める。

「かっ・・・はぁ・・・ちょ、ちょっと休憩・・・させて・・・」

挿入だけで息を荒げてしまい、全身から汗が噴き出す。
肩で呼吸をし膣から送られる痛みを耐える。少し急ぎ過ぎたか、先にもう少し慣らせばよかった。
知らぬ間に頬を伝っていた涙をマスターに拭われて上を見上げる。少し心配そうにこちらの顔を覗き込むマスターの顔が目に映った。
そんなマスターを安心させようと笑顔を作ってみせようとするが、まだ残る痛みに顔がゆがみ、余計に心配をかけさせてしまう。

「こうも毎回痛そうだといくら俺でも気が引けるんだが・・・、嫌ならやめるぞ」
「はぁ・・・はぁ・・・しん・・・ぱい・・・?・・・あたしだって本当に嫌なら自分から誘いません。もう・・・自分を抑えるのも精いっぱいなはずなのに・・・」

あたしの中でマスターの男根が快楽を待ち焦がれるかのように脈打つのを感じる。
きっと今すぐ動きたくて仕方がないはずなのに。変なところで心配性なんだから。
「そうか」とだけ小さく呟くとまたマスターは黙りこむ。
徐々に薄れていく痛みと、逆にわき起こるひとつになっている充足感から、自信もようやく落ち着いてきて身体は快楽を求め始める。

「ん・・・もう大丈夫。もういいよ。ゆっくり、動いて?」

頭の上でマスターが頷く気配がし、ゆっくりと腰を動かし始める。
膣内でマスターの物が動くたびにヒダが逃がすまいと絡みつくが、それを無視して強引に膣内を出入りする。
狭い膣で摩擦が起こるたびに背筋にゾクゾクと刺激が走り、脳みそを蕩けさせるような快楽を生む。
しばらく抽送運動を続けているときつく締めつけていた膣が緩み始め、それに伴って生まれる快感が強くなっていく。
動きやすくなったマスターは抽送のスピードをゆっくりと上げ、接合部からは卑猥な水音が生まれ始めた。

「気持ち・・・いいよぉ・・・頭の中、蕩けちゃいそう・・・。マスターのが、膣で・・・擦れて・・・」

抱き合った姿勢のままお互いに身体を揺さぶり快楽を貪る。
密着するような姿勢のため大きな抽送をされることはないが、相手の動きに自分の動きを合わせることで、少しずつ行為を激しいものへと変えていく。

「ますたぁ・・・はっ・・・ん・・・ますたぁ、きす・・・して・・・」

腰の動きを止めることなく、見上げるような姿勢で、首を下ろしたマスターと口づけを交わす。
咥内を犯されるように舌を激しく絡ませ、唾液を送りこまれる。それを飲み込み、こちらからも舌を積極的に絡め、舌の攻め立てに応える。

「ちぅ・・・ちゅっ・・・ぅ・・・ん・・・。ますたぁの・・・おいしい。もっと飲ませて・・・」

身体の上下から淫らに体液を滴らせ、音を立てて混ぜ合わせる。
口と秘部から生まれる水音、身体を揺らす度にベッドがきしむ音、時折聞こえるお互いの吐息で聴覚を支配され、耳から入った熱量が全身に染みわたるような感覚を覚えた。

その後どちらからとなく唇を離すと、片手で抱き抱えられて、ベッドにそっと押し倒される。
無防備にさらけ出された胸に腕が伸び、両手で身体ごとつかみ、親指で胸をこねられる。

「胸・・・今いじっちゃ・・・っ!ふぁっ!」

そのまま抽送運動を再開する。さっきよりも自由に体を動かせる分、動きが激しく大きなものへと変わり、膣内をより強くかきまわす。
抽送の動きに合わせて下腹部が男根の入ってる分だけ盛り上がり、お腹を強く圧迫する。

「だめぇっ!急にっ!んあぁあ!激しすぎっ・・・だってぇ!!」

子宮口が祈祷にこじ開けるように強く突き上げられ、その度に一瞬視界に白いスパークが走る。
自分の腕を胸にあてがわれた腕に伸ばし、力の限り掴む。
内臓ごと突き上げられるような感覚で理性を吹き飛ばされ、全神経が激しくかき乱される下腹部へと集中する。

「ますたっ!おっきすぎる・・・よぉ!深い・・・っ!深いとこ突かれるのっ、好き!なのぉ!」

強く腰を打ちつけられる度に肌と肌がぶつかる音が大きく響き、蜜壷から溢れる愛液を飛び散らせる。
侵入を拒んでいた子宮口も徐々に抵抗を失い、先端の侵入を許してしまう。
最初は入りきっていなかった男根も今は根元まで小さな身体にねじ込まれ、膣全体により快感を走らせる。
頭に走る強烈なスパークに何度も意識を飛ばしかけるが、その度に次に奥を突かれた瞬間にまた引き戻された。
華奢な身体が壊そうとせんばかりに身体を揺さぶられるが、むしろそれを望むかのように受け入れ、腰の動きを合わせて動き始めた。

「ひあぅっ!!あっあぁっ!!んく、ぅうっ!!ふ・・・っ!!っくあぁぁ!!」

次第に漏れる声も言葉にならなくなり、強すぎる快感のはけ口となって喘ぎ声しか出せなくなってくる。
気を抜いたら一瞬で達してしまいそうな状態のまま、ほとんど何も考えれなくなってしまった頭でいつか吐きだされる精を待ちわびていた。
胸を攻めていた手も、いつの間にか胸全体をこねるような動きから乳首を重点的に攻めるものへと変わり、指先ではじいたり、つまんだ状態のまま動かしたりしてより暴力的な快楽を生み出す。

「まぁっ!ますたぁ!!!ふあぁ!!ます・・・たぁっ!!ますたぁ!!」

トロトロに惚けた顔でマスターの顔を見つめ、名前を呼び続け言外に限界であることを告げる。
マスターの方もきつい締め付けと激しいピストンで生み出される強烈な快楽が蓄積し、もうそろそろ限界だった。
胸から手を離し小さな身体に覆いかぶさるように身体を重ねると、さらに抽送の激しさを増してラストスパートをかける。

「はっ!やっ、やあぁっ!!やらぁっ!!!らっ!らめぇ!!!も、もうっ!!!イ・・・っちゃ・・・っ!!!!」

最後に来る特大の快感に備え目をきつく瞑ると膣がきゅうううっ、と締め付けられ、小刻みに震えるていた全身は少しずつ痙攣を大きく変えていく。
その刺激に耐えきれず同時に限界が訪れた男根が一気に最奥に突き入れられ、亀頭が子宮口を貫いてさらにその奥の壁に押し付けられる。
それが合図となって、抑えていた快感のたがが外れて、一気に絶頂へと押し上げる。

「っく!アリアっ!!」
「あっあっはぁっ!!っやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ひときわ大きく身体が跳ね、まるで電撃が走ったかのように全身ががくん、と揺れる。
同時に子宮の中に直接大量の精子が流し込まれ、その快感が絶頂の快感を後押しする。
全身がこわばりがくがくと揺らしながらも、四肢でがっちりとマスターにしがみつき、膣内で脈打ち精を吐きだす物を絞りとる。
子宮内で吐き出された精はあっという間に子宮内を満たし内側からの圧力で子宮を広げる。それでも収まりきらずに膣へと逆流、お互いの接合部から大量に噴き出し、シーツを湿らせる。

まだ絶頂の快感が残る中、薄れる意識で目を開けると、すぐ近くにマスターの顔があった。
そのままどちらからとなく唇を重ねると、何か温かい安心感に包まれ、その感覚を味わいながら意識を手放した―――



―――行為を終えて後始末をした後、改めてケーキを箱から取り出し床に置く。
不器用なマスターが作った割には綺麗に作られており、見た目はしっかりしている。

マスターがいつもの感情がわからない表情でナイフを使って適当なサイズに切りだし、用意した皿に乗せる。
貴族が使うような銀食器はさすがに用意出来ないので木製のフォークでケーキの一部をすくい、大きく口を開けて一口頬張った。

「ぁ・・・おいしい」

ふわふわのスポンジにたっぷりの甘い生クリーム。スポンジを二段重ねにして、中にもクリームと色んなフルーツをはさんである。
イチゴやキウイやオレンジやベリーの類。他にも色んなフルーツがトッピングされ、食べる度に味が変わって飽きないようにもしてある。
つい夢中になって切り取ってもらった分の半分を平らげると、どうだ?と言わんばかりにマスターが見つめていた。

「時間をかけただけのことはあったか?」
「う・・・うん・・・。ちょっと予想外かも・・・。そんなに頑張ってくれたんだ」

普段はめんどくさがりで目立った愛情表現もしないクセに、変なところで力入れて・・・。
マスターがこの数日街の中を材料の用意をするために走り回っているのを想像して、想像ながらいつもの冷静なイメージとのギャップで非常にシュールな絵になる。
ケーキ作りをしているのも想像がつかない。コック帽をつけてケーキ作りをするマスターを連想して思わず苦笑いを浮かべる。
まったくいつもはそんなはりきらないクセに、たかが一つケーキを作るぐらいで何頑張ってるんだか。

そんなことを考えていると、不意にマスターの手が頬に触れる。
いつの間にか頬を伝っていた涙を丁寧に拭うと、少しだけ口元を綻ばせて頭を撫でてくれた。

「・・・なんだか機会が無くて言えなかったが・・・アリア」
「な、何よ?」
「これからも、ずっと、愛してるぞ」
「っ!」

改めて言葉に出され、思わず赤面してしまう。また目頭が熱くなり顔を俯けると、食べかけのケーキが目に入り、照れ隠しに一口頬張る。

「当たり前でしょ!マスターはあたしの契約者なんだから!これからも、ずっと、死ぬまで愛し合うんだから!」

涙声で叫び、もう一口ケーキを頬張る。甘くてしょっぱいその味はマスターからの愛情が体いっぱいに染みわたるように感じたのだった。
11/12/13 07:03更新 / 如月 玲央

■作者メッセージ
「はじめまして、如月 玲央です!・・・ごめんなさいいきなり嘘つきましたお久しぶりです。いやあの誰の記憶にも無いかもって思ってですね・・・」
「嘘つき。誰かに覚えてもらってるのを期待してるくせに・・・」
「な!何を仰いますかリティムさん!ワタシソンナコトカンガエテマセンヨー」
「なぜエセ外国人・・・。まぁ、マスターが言いづらいことを言うのもアシスタントの仕事かと思いまして」
「あ、ああ。初めての方のために紹介しますとこちらアシスタントのフェアリー、リティムです。当初の純粋幼女キャラから毒舌ドSっ子に成長しちゃってもうマスターである私は・・・私は!」
「はいはーい、そこまでー。ここあとがきスペースですよー」
「あ、そうでした。えと、今回はシルフで一つ書かせていただきました。相変わらずの拙い文章ですが、楽しんでいただけたなら光栄です。舞台はこっそり処女作の使い回しです。直接は関係しませんが、間接的なシリーズ物にしようかと・・・」
「この作品はこのサイトのチャットにお邪魔した時にシルフでリクエストをもらったので書かせていただいた物となります。・・・どちらにせよマスターのロリコン精神がシルフみたいな幼女を逃すとは思いませんが」
「二次元幼女は日本の誇るべき文化です。異論は認めません。・・・っと、そんなことを言っていたらまた長くなってしまいました。ほら、リティムも読んでくれた人にお礼!」
「「最後まで読んでくださってありがとうございました!!」」
「また次の作品でお会いしましょう!次はもう少し砕けたギャグよりで書けるといいなぁ・・・」

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