読切小説
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何処にでもあるような吸血鬼のお話
薄暗く少しジメジメした地下室と思わしき場所で、身動きが取れないように手足を縄で縛られた男がいた。
その男の前には椅子に腰掛け退屈そうに男を眺めている女がいた。

どうやら男は気絶しているようで、女は男が目が覚めるのを待っているようだ。

しばらくすると男が目を覚ました、そして男は手足を縄で縛られているのを確認すると、気絶する直前の記憶を探り出した。

そして男は目の前にいる女に敗れた事を思い出した、男はヴァンパイアハンターだった、そして女はヴァンパイアだ。

二人はお互いが宿敵とも言える関係だった、実力はほぼ同じで引き分けた事しかなかった、しかし今回男は女に敗れたのだ。

「クドラク、どういうつもりだ。俺を今から拷問にでも掛けるつもりか?」

男は女のことをクドラクと呼んだ。

そして自分が生きている理由、手足を縛られている理由と思わしきものをクドラクに問いかけた。

「クルースニクよ、やっと起きたか。しかしキサマの手元には聖剣は無い、その上に手足を縛られている、これでキサマはただの人間。くやしいのぅ、どぅゆぅのぅ。」

クドラクは男のことをクルースニクと呼んだ。

しかし、クドラクはクルースニクの問いとは全く関係の無いことを答えた。

「もう一度聞くぞクドラク、キサマは俺を拷問に掛けるために生かしているのか、それとも嬲り殺すためなのか?」

クルースニクはもう一度、クドラクに自分がここで生かされている理由を問いかけた。

「ふむ、『嬲り殺す』とは。クルースニクお前がそこまで我輩のことを好きだったとは。召使いを飛び越えて旦那様とは。流石クルースニク、すごいのぅ、うれしいのぅ。」

クドラクは頬を赤く染めながらそう呟いた。

「ちょ、ちょっと待てクドラク、俺はキサマと結婚するつもりは無いし、愛していると言った覚えも無いぞ。ちゃんと質問に答えろ。」

クルースニクは焦った、自分の質問に答えないのはまだいいとして、自分が何も分からないままクドラクの夫になることの話をされているのが理解できなかった。

「何を言うかクルースニクよ、お前は我輩に『嬲り殺すつもりか』と問うたではないか。そんなことよりハネムーンはどこへ行くか?魔界か?魔界がいいな、よしハネムーンは魔界に決定だ。」

クドラクは当たり前のようにクルースニクに言った。

「何故『嬲り殺す』が愛しているの意味になるのだ。クドラク詳しく説明しろ。」

クルースニクは自分にとって理解できない部分の説明を求めた。

「また質問かクルースニク、物分りの悪い男は嫌われるぞ。まぁお前には我輩と言う立派な妻がいるから嫌われても大丈夫だな。そうそう何故『嬲り殺す』が愛しているになるのかだったな、お前も知っているだろう我輩はクールスニクの名を持つものにしか殺せぬことを。だからこそ我輩にとっては『殺す』と言う単語は我輩に最後の眠りにつかせる愛すべき者が言わなくてはならないのだ。ところで結婚した後はお前のことをなんと呼べばいい?ダーリンか?アナタか?ご主人様……これは本来お前が我輩に使わなければならないが、お前がどうしてもと言うなら我輩は構わないぞ。」

クドラクにとって自分を『殺す』事ができる存在こそが愛せる存在だった。

だからこそ彼女はクルースニクの名を持っているこの男をを選んだはずだった

「クドラク、俺がお前を殺せる存在でだから俺のことを夫にしようとしているのか?だったら俺じゃなくてもいいだろう、俺以外にもクルースニクはいるのだからな。」

クルースニクはクドラクに聞いた。

自分がクルースニクの名を持っている、たったそれだけで自分を夫にしようとしている。そのことが彼は許せなかった。

「それは違うぞ、我輩はお前と戦ってわかったのだ我輩と同じくらいの実力を持っているお前だからこそ我輩の夫に相応しいと考えたのだがな。お前が嫌ならば我輩は諦めるぞ、すまんのぅ勝手に話を進めてしまって。っと、これでお前は自由の身だ、どこへでも行くがよい。」

クドラクはクルースニクの手足の縄を解いた。どうやら本気で彼に危害を加えるつもりは無いようだ。

そしてクルースニクはは目の前にいるクドラクのことを教会で言われているような恐ろしい吸血鬼には思えなくなっていた。少なくとも話は通じるし、人々を見境無く襲っていた訳でもない、何より彼女が考えていることは人間の少女でも夢に見るようなことではないか。

「どうした、帰らぬのか?それとも我輩の夫になることを決意したのか?」

「本当に俺がここから帰っても良いんだな?お前はそれで満足なんだな?後悔なんてしないんだな?だったら俺は帰らせてもらう。」

クルースニクは聞いた、クドラクの本当の思いを聞き出すために。

「満足なんてするわけ無いであろう、後悔しないはず無いであろう、我輩はお前とずっと一緒に居たいのだぞ。」

クドラクは涙目になりながら叫んだ。それはクルースニクに思いを伝えるには十分過ぎるほどの叫びだった。

「だったら無理矢理にでも召使いにでも何でもさせればいいじゃねぇか。お前にはそれができるだろ。」

「だが人間はお互いの合意の上で結婚すると我輩は聞いたぞ。それにその方がロマンチックではないか。」

クルースニクはその一言でクドラクが純粋に夢物語に憧れている乙女であることが理解できた。

「そうだな、確かにそっちの方がロマンチックだな。」

そう言うとクルースニクはおもむろにクドラクの唇に触れるような軽いキスをした。

「いっいきなり、何をするのだ、お前は。」

クドラクは顔を真っ赤にしながらクルースニクを突き飛ばした。

「おっと、こういうキスはロマンチックじゃなかったかな。」

「キっキスをするにもタイミングがあるだろうに、おっお前は何の合図もせずにするなど。」

「何でそんなに取り乱してるんだ?……もしかしてお前、初めてだったのか?」

クルースニクの質問にクドラクは顔を赤く染めたまま頷いた。

「それは悪かったな、じゃあもう一度やろう、今度はお前からキスをしてくれ。」

「我輩からでいいのだな、では目を瞑ってくれ、見られると恥ずかしいからのぅ。」

そして目を瞑ったクルースニクにクドラクはゆっくり、ゆっくりと唇を重ねるのだった。
14/09/17 08:46更新 / アンノウン

■作者メッセージ
「くやしいのぅ、どぅゆぅのぅ」
たったこれだけがやりたくて作ったのは内緒。

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