読切小説
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縁側で一服
サッ… サッ…


あら?あなたは何時ぞやのお客様。
まだ開店の時間には少し早いようですが、どうされましたか?

もしかして…待ちきれずに来てしまわれたのですか?

ふふふ…
いえ、ごめんさないね。
あまりにも可愛い反応だったもので…つい。

ああ、お待ちになってください。せっかくきたのですから慌ててお帰りになることも無いじゃないですか。もう少ししたら開店しますのでご一緒にお茶などいかがですか?

大丈夫ですよ。今しがた掃き掃除も終えた所ですし、ちょうど一服しようと思っていた所でしたので、もしよろしければ一服お付き合い願えませんか?

ふふふ…ありがとうございます。では、こちらへ付いてきてください。

ああ、違います。そっちではなくこちらからですよ。
今回は特別です。玄関からではなくお庭から失礼しちゃいましょう。

大丈夫ですよ。いま店の旦那様はお出かけ中なので、黙っていればわかりませんもの。
ささ、遠慮なさらずにどうぞ。


ザリッ ザリッ ザリッ ザリッ


着きましたわ。ここはワタクシのお気に入りの場所、この縁側に座ってお茶を飲むのが楽しみの一つなんですよ。
さあ、こちらで座ってお待ちくださいな。
お茶の用意をしてきますから。


タン タン タン タン……




……タン タン タン タン


お待たせしました。はい、お熱いのでお気おつけください。
今日はほうじ茶を入れてみたんですが…
もしかして苦手…でしたか?

大丈夫ですか…
それは良かったです。
ああ、それとお茶請けにお饅頭を用意しましたので一緒にどうぞ。

はい、お召し上がりください。


ズズー
フー


温まりますねー。
暦の上ではもう春を迎えているのにまだ肌寒さが残っていますから、こうして温かいお茶を飲むととても落ち着きますね。

あっ、お饅頭もどうぞ。このお饅頭は小さいからとても食べやすくて、よくおやつの時に用意するんです。
このお饅頭の良い所はズバリあんこですよ!
あんこの甘さがしつこくも薄くも無く、絶妙な加減で生地に包まれているのです!
一つ手をつけると、それこそもう止まらなくなってしまうほどの美味しさなんですよ!

……こほん。
ともかく、お一つどうぞ。


パクッ モグモグ 


どうですか?

ですよね!ふふふ……私とても嬉しいです。
やっぱり好きなものを分かち合えると気分が高揚してしまいますね。

“お茶でも飲んで落ち着きましょう”…ですか?

あらやだ…私ったら。


ズズー 
フー


はい。落ち着きました。
ごめんなさいお客様。柄にも無くはしゃいでしまって。
ワタクシ甘い物に目が無くて、気に入っている物を他の人に認めてもらうとさっきみたいについ。

“可愛かった”……
お、お客様!その、あまりからかわないでくださいまし!

もう。今回だけですからね。次からかったら怖いですからね。


ズズー
フー


………お茶、おかわり入りますか?

では、湯のみを頂戴します。


カチャ コポポポ…


はいどうぞ。


ズズー
フー


………まどろみますねー。


ホー ホケキョ 


あっ、ウグイス。
この声を聞くと春が来たっていう気になりますよね?

えっ?“確かにウグイスも実感する時はあるけど、お花見の方が春っていう感じがする”ですか。
確かにそれも春の要素の一つですよね。
ちなみにお花見は宴会のお祭り騒ぎで楽しむのと静かに楽しむのとどっちが好きですか?

そうなんですか…

えっ?ワタクシですか?
ワタクシはどっちも好きですよ。
殿方の熱い活気に触れることが出来るお祭り騒ぎも…
月光を浴びた綺麗な夜桜を肴にゆったりと楽しむ花見酒も…
どっちもその時にしか味わえないものが有るんですもの。
だからワタクシはどっちも好きなんです。

“じゃあ今度一緒にお花見を一日堪能しようか”ですか?

ふふふ…それは大陸言葉で言うところの『でえと』のお誘いでしょうか?

あら?大陸言葉はご存知ありませんか?
要するに異性をお誘いする時の言葉を『でえと』と大陸では使われているのですよ。

ふふふ…わかりました。それではお仕事が休みの日にでもご一緒しましょ。ん?

ピクピク

いけない。店の旦那様が帰ってこられたわ。
そろそろお店を開ける時間ね。
それではお客様。そろそろ開店の時間ですので玄関の受付までお越しください。

ええ、静かに庭先を歩いてくださいね。
見つかったら、後で怒られちゃいますから。
ああ、それと少しお耳を失礼して。


『御指名お待ちしておりますね…旦那様』


では、失礼しますね。


タン タン タン タン……


ホー ホケキョ
15/04/16 13:00更新 / ミズチェチェ

■作者メッセージ
お久しぶりです。今回気晴らしにSSを書こうと思い立ち、ツイッターでリスエストを募集してみた所、ぼーっとしてる話が見たいってことだったので書いてみました。イメージ的に縁側でお茶を啜ってる稲荷さんが思いついたので、オレの持ちキャラである睡蓮に登場して頂きました。
ぼーっと出来たら幸いです。では次の作品でお会いしましょう。

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