読切小説
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ホタルよりも、花火よりも
「あのね、ボクのお父さんとお母さんはラブコメみたいな出会いだったんだって、お父さんが蔵の掃除をしていたら昔の道具が女の子になって……みたいな感じでさ」
「やっぱり、冬香でもそういうのに憧れたりすんの?」

目をキラキラと輝かせながら、両親の出会いについて語る冬香に俺はちょっとした疑問を投げる。

「まぁね、ボクだって女の子なんだからロマンチックな事に憧れたりするよ、ひーくんはどうなのさ!」
「俺はあんましロマンチックな事なんてわかんねえからなぁ」
「んー、こうやって一緒に夏祭りに出かけるのも十分ロマンチックな事だとボクは思うけどね♪ さぁ、早く行こうよ! わたあめ、リンゴ飴、やきそば、たこ焼き、色んな出店がボク等を待ってるんだから」

冬香は俺の手を引っ張って出店が並ぶ大通りまで駆けていく、これも彼女にとってはロマンチックな事なのだろうか?



一通り屋台を巡った後、何とか空いてるベンチを見つけて俺達はそこに座り込んだ。

「ひーふんほわはあへはへふ?」
「食べながら喋るのは止めなさい、行儀が悪いし日本語になってない」

冬香はわたあめを頬張りながら俺に何かを伝えようとするが、何一つ伝わらない。

「んっと、ひーくんもわたあめ食べる?」

注意された後に急いでわたあめを飲み込むと笑顔で言いかけてくる冬香だが。

「わたあめ食べる? って聞かれてもな、お前が今食いきっただろ」
「あっ……じゃあ、もう一本買おう!」
「俺は焼きそば食べたからいらないし、お前は片手に持ってるリンゴ飴はどうするんだよ」
「食べるよ、ひーくんはリンゴ飴の方が食べたかった? でもこれはボクのだからね、どうしてもって言うなら半分くらいあげないこともないけど」
「お前の分は食わないから安心しろ」

そんな会話を繰り広げていると、空にドンと低い音が響く。

「ひーくん花火だよ、綺麗だね♪」
「あーそうだな」

夜空に色とりどりの花が咲くのを見ていても、俺は何故だかそこまで綺麗だなんて思わなかった。

「お腹いっぱいになっちゃたからあげる」

冬香は半分まで食べたリンゴ飴を俺に渡しながら言う。

「はいはい、だと思ってたよ」

冬香はいつも食べきれないまで買うからそうなる事はわかっていた。
俺が残りのリンゴ飴を齧っているのを彼女は笑顔でそれを見つめている、俺が食べているのを見てなにが楽しいんだか。

「そろそろお祭りも終わっちゃうし帰ろっか」

俺が食べきるのを見届けた後、冬香は言い出す。

「そうだな、あんまり遅くなるといけないからな」



「あっ! ひーくん、こっちこっち」

帰り道の途中、冬香は何かを見つけたようで来た時と同じように俺の手を引っ張って駆ける。
誰も居ない小川に着くと彼女は手を離し、そこで飛び回る幾つもの光と踊りだした。

「ホタルだよ! いっぱい飛んでる♪」

ホタルと一緒に舞うように動き回る冬香を見て、俺はさっきの花火を何であんまり綺麗に思えなかったかが分かった。
ホタルよりも優しく、花火よりも明るく、綺麗に輝き照らす冬香がずっと隣にいたから、わかってしまえばこんなに簡単な事なんてない、俺は冬香にずっと惚れていたんだ。

「なぁ、冬香」
「ひーくんどうしたの?」
「あのさ、上手く言えないんだけど……冬香にはずっと俺の隣で照らし続けて欲しいんだ」
「暗かった? ボクでよければいつでも照らしてあげるよ、なんたってボクは提灯おばけなんだから」

ちょっと、気取りすぎたか。まるで伝わってないなこりゃ。

「一応さ、俺はプロポーズしたつもりだったんだけど今の」
「えっ……プロポーズ!? ひーくんがボクに!?」
「そうだけど」
「えっと、よ、よよ、よりょこんで……ごめん今のなし、噛んじゃったから。 喜んでお受けいたしましまた……あれ? なんか違う、返事ってなんて言えばいいんだっけ?」

返事を待ってる相手に聞く事か? でも、今ので冬香の気持ちは十分に伝わったから。

「ありがとう、でいいんじゃないか」
「じゃあ、改めてありがとう。ひーくんボクを幸せにしてくれなきゃ恨むからね♪」

俺は返事の代わりに……



ホタルと花火の輝きは少しだけ重なった二人の影を映し出していた。
14/09/17 08:34更新 / アンノウン

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