連載小説
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序章
新魔王歴899年…

「主神!無駄な足掻きはもうやめろ!」
「これで!最後よ!」

 天界の最深部…インキュバスの青年とサキュバスの夫婦が、純白の翼を生やした女神…主神に向けて全身全霊の攻撃を放とうとしていた。
 青年とリリムがお互いの片手で、手をつなぎ合うようにして構えられた西洋剣に七色の神々しい光が集まっていく。
 目まぐるしく色を変化させて煌めく様は、青年とサキュバスが旅先で紡いだ絆、世界中の二人を信じる者達の想いを表しているかのようだ。

 「まだです…!私は倒れる訳にはいかないのです…!お前達魔物の、好きにさせる訳には…なりません!」
 「往生際が悪いな。これならお前が嫌う魔物の方がまだ潔いんじゃないか。」
 「もう良い加減にしなさいよ。人と魔物は手を取り合って、平和に暮らしているの。昔とは…違う!」

  武器も鎧も砕け散る一歩手前になり、皮膚もところどころ傷つき破れて血が流れ落ちる。
 ボロボロという言葉がピッタリな程の重傷を負えど、青年とサキュバスの闘志は…想いは消えない。
 対する主神の方も武器を全て壊され、6対12本ある翼のうちの半数を失い、さらにエネルギー切れにまで追い込まれていた。
 世界に真の平和をもたらす…人と魔族を一つにする…
 それぞれの信念を貫き通すべく、二人は無謀にも「主神」を相手取り、そして追い詰めた。

 「大きかれ小さかれどんな問題も、お互い助け合って真摯に取り組んでいこうと決めた!」
 「分かり合い、助け合い、愛し合う。やっと築き上げた絆を…壊させはしない!」

 「愛する人を守りたい」二人の共通した想いは握りしめられた剣に込められていき、それが限界に達すると、刀身から強烈な閃光がほと走った!
 閃光の直後、剣先から放たれた七色の光線は真っ直ぐに主神の元へと突き進んでいく。

 「私は…大いなる存在!万物の母なり…!貴様ら等…遠く及ばぬ…存在…」

 最後の力を振り絞り、右手を振り上げて「裁きの光」を放とうとする主神であったが放たれた七色の光に貫かれた。
 胸を穿たれた主神はバッタリと倒れ伏すと全身を虹色の光に包まれ、溶けていくように縮んでゆき…浮遊する虹色の玉となった。
 その様子を青年とサキュバスはただ呆然と見届けると、自分たちの勝利を確信して口を開く。

 「終わった…これで…魔物と人間は…滅ぼされる事は…ない!」
 「やった…!私達…!勝った…のね!」

 長きに渡る因縁に決着をつけた事で、青年「魔王の夫」…とサキュバス「魔王」は歓喜の表情を浮かべ、抱き合った。
 抱き合った際の衝撃で傷が痛むが、そんな物は夫婦にとってどうでも良い。
 人と魔物の共存を幾多も阻んできた主神に打ち勝ち、真の平和を訪れさせた事に比べれば、そんな事などどうでも良かったのだ。

 そして100年後の新魔王歴999年…
 魔王夫婦が主神を封印した事により、人間と魔物娘は「一つになる」事に成功した。
 正直者が馬鹿を見る事などなく報われる、優しく温かい世の中が訪れた…かと思われた矢先の事、「奴」は現れた。

 「余はヴォレアス。救世の王。種としての尊厳を捨てた貴様らを………粛清する!」

 「救世王ヴォレアス」と名乗る謎の黒鎧をまとった男…本名「ヴォレアス・ミラ・ノワール」が全世界に対し、突如魔物…だけではなく魔物と共に生きる人間達にも宣戦布告してきたのである。
 彼は近年になって出現した巨大王国である「シュルイド王国」の主で、長いこと素性は謎に包まれており、魔物と魔物と共に生きる人間に対する憎しみがある事ぐらいと出現した今でも情報は乏しい。
 彼は予告通りに、魔王夫妻が拠点を構える「王魔界」に幾多の配下と共に侵攻をかけて魔王軍の本隊と激闘を繰り広げた後に撃退された。
 幸いな事に死者や重い障害が残った者こそ居なかったものの、城下町の大半が焼き払われた上、総力戦の末にヴォレアス本人を退けた魔王軍幹部達や魔界勇者達も負傷したりと被害は大きい。
 さらに、その数ヶ月後には王魔界周辺の国々を襲い、これも死者や重篤者こそ出なかったものの甚大な被害を出す破壊行為も確認され、さらにそれらに便乗するかのように各地では犯罪者集団も増えてきてしまい、魔界は彼等に対抗する戦力を得るべく再び魔王軍に次ぐ戦力「勇者パーティー」の育成を開始した。
 こうして、主神との戦争以来になる新たなる戦いの幕が開けたのだ………………
21/03/16 05:19更新 / 消毒マンドリル
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