愛するあなたに祝福を
いよいよ冬の厳しい寒さを感じさせるある朝のこと。
「へっ…くしょんッ！！」
山の中腹にある澄み切った清水が湧き出る大きな湖の傍に建てられた、まだ新しさを感じさせる綺麗な神社に大きなくしゃみの音が響き渡った。
「ん、すん。だいぶ寒くなってきたもんだ。さぶさぶっ。」
洗濯物を干す手を止め、くしゃみをした水上(みなかみ)英彦は鼻をすする。
ついこの間まで暑い暑いとぼやいていたというのに、指先に触れる水気を含んだ洗濯物は容赦なく手のひらの体温を奪っていく。悴むとまではいかないがそれでも寒さを感じるのには十分な温度だ。確実に季節は移ろい、冬の訪れ迎えていることを英彦は実感せずにはいられなかった。
「おい、英彦。」
その冷たさから逃れるためにも洗濯を早く終え、熱いお茶にでもありつこうと手早く作業をしていると、突然背後から声をかけられた。この神社で、朝のこの時間帯に声をかけてくる人物は一人しかいない。ちょうど手に持っていた最後のシャツを物干し竿に干し終え振り向くと、想像通りの女性が視界に映り込む。
そこにいるのは何度見ても見惚れてしまう美しい妻の凛だ。
その昔、高貴なるものにしか許されなかったという紫色の、濡れたような光沢を放つ長髪。柔和で安心させるような温かさ、その反対に見るものに身を正させる、竦むような冷たさを併せ持つ切れ長の眼。小さく可愛らしい鼻と、アルカイク・スマイルとでもいうのだろうか親しみや神秘性を感じさせる微笑みが常に湛えられた口。それらは計算されたような完璧なバランスで顔の上に整っており、彼女が喜怒哀楽を表す度に違った魅力を英彦に見せてくれる。そしてその顔を支えるたおやかで細い首から視線を下げていくと、ジョロウグモが作り出す糸を丁寧に染色した深緑色の、最高級の糸を織り込んだ着物から零れ落ちてしまいそうなほど豊かな胸部に目が釘づけになる。その二つの大きな胸を誇る彼女の肌艶はよく、ただ白いだけではなくほんのりと赤くそまった血色の好さが、彼女の魅力を何倍も高めている。
しかし、凛が人の姿をしているのはそこまで。
規格外の美しさを誇る人間と同じ上半身から延びる下半身は、エメラルドのような輝きを誇る緑の鱗に覆われ、臙脂色の鬣が生えた蛇身をしている。だが彼女はただのラミアではない。頭頂部からは鹿を思わせる二本の角。頬からは翼竜が持つ飛行期間の、飛膜のような対になる二つの突起。蟀谷や胸部上方には黄金に輝く勾玉の、胸部下方には珠の形をした黄金に輝く彼女の魔力が浮かぶ。そして彼女の腕はその細身な上半身には似つかわしくない、爬虫類を思わせるごつごつとした鱗に覆われ、指先には鋭い爪がのぞく。
彼女は八百万神が住む国ジパングで、その一人に称される魔物娘の龍。
元々彼女は遠く離れた西国で両親と共に住んでいたのだが、この土地の治水や天候を安定してもらうため、数年前にこの場所に来てもらったのだった。この神社も彼女を奉るためその時に建てられたもので、英彦は住み込みで彼女の生活を支える貢物として選ばれそれ以来ずっと寝食を共にしている。紆余曲折はあったが二人は多くの人の思惑通り結ばれ夫婦となり、この土地に住む人々の支えとして生きていた。今はまだ二人の間に子供は誕生していないし、彼女の生家のように仕える白蛇や稲荷もいないが、それでも水神としての役目を果たし、夫婦としてお互いを支え合っている。
「どうしたのって、近い！？」
そんな愛しい妻に名前を呼ばれ、振り向いた英彦は驚いた。
というのも彼女が想像以上に近い距離、鼻と鼻とが触れてしまうほど近くにいたからだ。彼女はその強力で膨大な魔力を完璧に使いこなす魔物娘、こちらに気配を感じさせることなく近寄ることができると分かっていても、それを実際にされると驚かずにはいられない。
「なあ、英彦。」
しかしなぜそんなことをするのか彼女に聞こうと口を開くが、凛は英彦を見つめる美しい瞳を意味ありげに細めたかと思うと、こちらが質問の言葉を口にするよりも早く予想外の行動を始める。
「Bless you…んちゅ、ちゅ」
「へ？む、ちゅ…」
突然そう呟いたかと思うと、凛は英彦の顎を掴んで上を向かせ熱い口づけを施してきたのだ。勿論誰よりも愛する妻との接吻が嫌なはずはない。だけれども何の脈略もなく英語で話しかけられた後に、いきなりキスをされたのでは何が何だか全く分からない。
「ん、んふ………んっ♡」
そんな混乱に慌てふためく英彦をよそに、凛の舌が強引に口を割る。
咄嗟に頭を横に動かしてしまいそうになるが、凛はその無骨な手でがっしりと英彦の後頭部を抑え込み動くことを許さない。いくらただの人間より身体能力が高いインキュバスだとしても、龍の膂力にかなうことがないことを英彦はよく知っている。だからすぐに抵抗するのをやめ、ゆっくりと体から力を抜いていくしか選択肢はなかった。その様子を観察しながら愛する夫を自分の手中に収めたことで満足そうな笑みを浮かべつつ、凛は英彦の動きを奪うためにしゅるしゅると蛇の下半身を絡みつかせながらさらに熱をこめて唇を重ねていく。
レロ、ネチャ…クチュ、ンッチュ
手始めにたっぷりと唾液を纏った舌が、縦横無尽に口内を舐めつくす。
歯は舌を扁平に広げて一本一本丁寧に舐めつくし、敏感な歯肉は舌先で優しく、そして頬肉は舌全体で抉るようにして貪られる。その動きは大胆であって繊細。既に数えきれないほど交わしたからこそできるお互いを知り尽くした甘いキスで、触れ合う二人の体温をじくじくと上げていく。気が付けば長く太い凛の蛇体でその身を完全に覆われた英彦の体は、みるみるうちに早鐘のように鼓動が高まり、先ほど感じていた冬の外気を忘れさせるほど体温が高揚していった。
ちゅ、ちゅぱっちうぅ
二人はそうして高まった熱をぶつけあうように、お互いの舌を絡みつけていく。
まるで蛇が性交するように少しでも相手の舌に自身のそれを密着させようと、舌を伸ばし絡みつけ、口内に残る空気を吸出し密着を強めていく。しかしそれだけでは凛は不満なのか、彼女は一段と顔を蕩かせながら英彦の口内に深く舌を侵入させて唾液を流し込んでいく。顔の上から覆いかぶさるようにキスをされているおかげで、魔物娘ならではの強く甘い芳香を漂わせる体液を途切れることなく流し込まれた英彦は、軽い酸欠に鼻息を荒げながらなんとか喉を動かして飲み込んでいった。
そうして時間の感覚が曖昧になるほど唇を重ねた後
「ん、ちゅぅ…ぷはぁ、ふふ。これで安心だな、英彦♡」
「はぁ、はぁ……一体…どうしたの、凛？」
たっぷりと英彦を味わった凛が、満足げに微笑みながら顔を離していく。
既にどちらとも分からない混ざり合った唾液が口の周りを汚す二人の間には、先ほどまでの熱い交接を惜しむように一本の銀色の橋が渡る。その堪らなく淫靡で、匂い立つほどの色気に満ちた様子を眺めていたくなるが、何故このような行動を凛がするのかを知る方が先だと思い、上がった息をなんとか抑えながら質問した。すると彼女はその瞳に悪戯っぽい光を浮かべながらゆるゆると理由を語り始める。
「実はな、昨日西洋に根付く文化について書かれた本を読んだんだ。ジパングの文化とそれらの文化を比較しながら軽妙な文章で紹介する、なかなか面白い本だった。」
「…へ？」
「それで、な。その本の中でくしゃみに対する文化の違いが紹介されていたんだよ。ほら、ジパングにはくしゃみをした回数によって人が噂しているだとか、誰かに笑われているだとかあるだろう？」
妻が語るその話がキスとどうつながるのか、全く分からない英彦は黙って頷き次の言葉を待った。
「西洋では、くしゃみをした人に対して健康や幸福を願う言葉をかけることが一般的なのだそうだ。英語圏では『神の加護ありますように』と通りすがりの通行人にも声をかけたりすると本では紹介されていた。」
「そして英彦よ…何故西洋では、くしゃみをすると神に加護や祝福を求めるのだと思う？それはくしゃみをすると魂が外に出てしまい、その体に悪魔が入り込んでしまうという言い伝えがあるからなのだそうだ。だから近くにいる人がくしゃみをした時、そうならないようにbless youと話しかける文化が生まれたらしい。」
彼女の言葉を聞き、キスをされる前に投げかけられた言葉の意味をようやく理解する。
「そ、それは分かったけど…なんでそれがキスする理由になるの？」
だが理解しても、それが何故キスに繋がるのかいまだに見えてこない。
「ふふ、それはなあ…」
困惑する英彦の疑問を聞いた凛は、楽しそうに笑い英彦の頬に手を置き熱っぽい声で囁く。
「先ほど、英彦は大きなくしゃみをしたではないか。部屋の中まで大きな声が、聞こえてきたぞ。だから私は行動した。私の大切な、誰よりも愛しい夫の体を見知らずの悪魔なんぞに渡すわけにはいかないからなあ〜…。早速実践してみたというわけだ。」
「しかも幸か不幸か、私はこの土地で水神と称される存在。八百万の神々が住むこのジパングの他の神や、海の彼方にいる神にわざわざ祈願せずとも…自ら手で最愛の夫へ加護を与えることができるわけだ。少しの魂も外に出ないよう、そして一寸の悪魔も英彦の中に侵入することができないように愛の籠った…祝福を、な。」
「……っ」
見せつけるように口端についた唾液をゆっくりと舌で舐めとりながら、こちらが赤面してしまうような気障なセリフを、目の前の水神は表情一つ動かさずに口にする。じっと英彦を見つめる曇りのない金色の眼を見つめ返していると、己の全てを奪い取られてしまいそうな錯覚を覚え、恥ずかしさも後押しし顔を逸らそうとするが、右手で顎を掴まれ逃げることを禁じられる。
「さて、英彦。ここで提案だ。」
「提案？」
「実は、もう一つ私が行える祝福があるんだよ。英彦のここを使った、英彦だけに行えるとびっきりの祝福がな…。」
凛は一段と瞳や声に色欲を滲ませ、顎を掴んでいた手をするすると英彦の下半身に伸ばし、先ほどまでの甘い接吻で既に痛いほど勃起した男根を優しく摩りながら誘惑する。
「さあ、どうする。どんな悪魔でも諦めてしまうような、祝福が欲しいか♡？」
「…………ほ、欲しいです」
「ふ、ふふ…♡」
咽るような女の色気と発情した匂いを漂わせる凛に迫られ、それを断ることができるはずがない。ためらうことなく並びたてられる飾り立てられた言葉を受け、まるで遊び慣れた色男に口説き落される世間知らずの御嬢様のように顔を真っ赤に赤面させて俯きながら、英彦は小さな声でお願いする。すると凛はわが意を得たりとにやりと口を釣り上げながら己の秘所をさらけ出し、ゆっくりと剛直の先をあてがう。
「それでは改めて…bless you♡」
ずっちゅ、ぶちゅぅ、ぐちゅ
再び祝福の文句を口にした凛は、粘度の高い愛液をとめどなく吐き出すヴァギナに、パンパンに膨らみ血管の浮かぶペニスを突き入れていった。
「……はぁ…ぁ……。り、んッ……！！！」
冬のひやりと冷たい外気に晒され敏感になった怒張が、蕩けてしまうのではないかと思うほど熱く火照る淫猥な蜜壺に飲み込まれ、たまらずうめき声を漏らしてしまう。
「うふふ、英彦ぉ♡」
凛はその声を心地よさそうに聞きつつ、受け入れたペニスを人外の女性器で咀嚼しながら甘い声を吐き出した。彼女の膣壁はまるでそこに意思を持っているかのように蠢き、敏感な亀頭や裏筋は労わるように優しく摩りあげ、固く勃起する幹は溜められた精液を搾り取るように力強く絞りあげていく。何十、何百、いや数えきれないほど彼女と身を重ねても決して慣れることのない身も心も溶かしてしまう名器は、容赦なく英彦を追い込んでいった。
「私の体で…気持ちよくなって、くれ♡！！」
仕上げと言わんばかりに英彦の体に巻き付けた下半身をきつく何重にも巻き付け、痛いほどに抱きしめる。与えられる強い圧迫感が、彼女の体温や甘い体臭が、長いキスで焦らしに焦らされた英彦にいとも容易く限界を突き付ける。
「ご、ごめん、もう…もう！！！」
「中で…亀頭が、震えてる♡我慢せずに、たっぷりワタシの膣に出してくれ♡！！」
「出る！出ちゃう！！」
「あ♡来たぁ♡」
びゅる…ドクッ、ドクン、ドクンッ…びゅ、びゅるぅ
勢いよく輸精管を駆け上がったザーメンが、熱く脈動する子宮に向かって大量に吐き出される。放たれた精液は激しく凛の子宮口を叩き、それを受ける彼女の子宮は精子の一匹さえも逃すまいと貪欲に飲み込んでいく。その瞬間だけは彼女のも男根から精液を絞り出すことに躍起になり、膣全体で強く締め上げながら英彦にさらなる快感を注ぎ込んでいった。
「はぁ…はぁ…」
「さて、英彦…」
「？」
射精後特有の気怠さと心地よさによって体の力が抜け、全身を包み込んでいる蛇の体にその身を預けている英彦の耳元で凛は甘く囁く。
「このまま外で続けて風邪をひいてしまえば本末転倒だ。」
そして翼がなくとも飛行できるその力を存分に使い、英彦を器用に抱えたまま凛は体を宙に浮かべゆっくりと移動を開始する。
「寝室に行って…たっぷりと、祝福を与えようじゃないか♡」
「は、はは…」
これからどれほど長く彼女と交わるのかを彼女の言葉で理解し、期待と呆れが混じったような笑いが英彦の口から漏れ出る。
こうして水神様の、過剰なまでの加護と祝福を得た英彦は、過ぎ去っていく冬の間風邪をひくことも、悪魔に体を奪われることもなく幸せに妻と生活を送ったのだった。
「へっ…くしょんッ！！」
山の中腹にある澄み切った清水が湧き出る大きな湖の傍に建てられた、まだ新しさを感じさせる綺麗な神社に大きなくしゃみの音が響き渡った。
「ん、すん。だいぶ寒くなってきたもんだ。さぶさぶっ。」
洗濯物を干す手を止め、くしゃみをした水上(みなかみ)英彦は鼻をすする。
ついこの間まで暑い暑いとぼやいていたというのに、指先に触れる水気を含んだ洗濯物は容赦なく手のひらの体温を奪っていく。悴むとまではいかないがそれでも寒さを感じるのには十分な温度だ。確実に季節は移ろい、冬の訪れ迎えていることを英彦は実感せずにはいられなかった。
「おい、英彦。」
その冷たさから逃れるためにも洗濯を早く終え、熱いお茶にでもありつこうと手早く作業をしていると、突然背後から声をかけられた。この神社で、朝のこの時間帯に声をかけてくる人物は一人しかいない。ちょうど手に持っていた最後のシャツを物干し竿に干し終え振り向くと、想像通りの女性が視界に映り込む。
そこにいるのは何度見ても見惚れてしまう美しい妻の凛だ。
その昔、高貴なるものにしか許されなかったという紫色の、濡れたような光沢を放つ長髪。柔和で安心させるような温かさ、その反対に見るものに身を正させる、竦むような冷たさを併せ持つ切れ長の眼。小さく可愛らしい鼻と、アルカイク・スマイルとでもいうのだろうか親しみや神秘性を感じさせる微笑みが常に湛えられた口。それらは計算されたような完璧なバランスで顔の上に整っており、彼女が喜怒哀楽を表す度に違った魅力を英彦に見せてくれる。そしてその顔を支えるたおやかで細い首から視線を下げていくと、ジョロウグモが作り出す糸を丁寧に染色した深緑色の、最高級の糸を織り込んだ着物から零れ落ちてしまいそうなほど豊かな胸部に目が釘づけになる。その二つの大きな胸を誇る彼女の肌艶はよく、ただ白いだけではなくほんのりと赤くそまった血色の好さが、彼女の魅力を何倍も高めている。
しかし、凛が人の姿をしているのはそこまで。
規格外の美しさを誇る人間と同じ上半身から延びる下半身は、エメラルドのような輝きを誇る緑の鱗に覆われ、臙脂色の鬣が生えた蛇身をしている。だが彼女はただのラミアではない。頭頂部からは鹿を思わせる二本の角。頬からは翼竜が持つ飛行期間の、飛膜のような対になる二つの突起。蟀谷や胸部上方には黄金に輝く勾玉の、胸部下方には珠の形をした黄金に輝く彼女の魔力が浮かぶ。そして彼女の腕はその細身な上半身には似つかわしくない、爬虫類を思わせるごつごつとした鱗に覆われ、指先には鋭い爪がのぞく。
彼女は八百万神が住む国ジパングで、その一人に称される魔物娘の龍。
元々彼女は遠く離れた西国で両親と共に住んでいたのだが、この土地の治水や天候を安定してもらうため、数年前にこの場所に来てもらったのだった。この神社も彼女を奉るためその時に建てられたもので、英彦は住み込みで彼女の生活を支える貢物として選ばれそれ以来ずっと寝食を共にしている。紆余曲折はあったが二人は多くの人の思惑通り結ばれ夫婦となり、この土地に住む人々の支えとして生きていた。今はまだ二人の間に子供は誕生していないし、彼女の生家のように仕える白蛇や稲荷もいないが、それでも水神としての役目を果たし、夫婦としてお互いを支え合っている。
「どうしたのって、近い！？」
そんな愛しい妻に名前を呼ばれ、振り向いた英彦は驚いた。
というのも彼女が想像以上に近い距離、鼻と鼻とが触れてしまうほど近くにいたからだ。彼女はその強力で膨大な魔力を完璧に使いこなす魔物娘、こちらに気配を感じさせることなく近寄ることができると分かっていても、それを実際にされると驚かずにはいられない。
「なあ、英彦。」
しかしなぜそんなことをするのか彼女に聞こうと口を開くが、凛は英彦を見つめる美しい瞳を意味ありげに細めたかと思うと、こちらが質問の言葉を口にするよりも早く予想外の行動を始める。
「Bless you…んちゅ、ちゅ」
「へ？む、ちゅ…」
突然そう呟いたかと思うと、凛は英彦の顎を掴んで上を向かせ熱い口づけを施してきたのだ。勿論誰よりも愛する妻との接吻が嫌なはずはない。だけれども何の脈略もなく英語で話しかけられた後に、いきなりキスをされたのでは何が何だか全く分からない。
「ん、んふ………んっ♡」
そんな混乱に慌てふためく英彦をよそに、凛の舌が強引に口を割る。
咄嗟に頭を横に動かしてしまいそうになるが、凛はその無骨な手でがっしりと英彦の後頭部を抑え込み動くことを許さない。いくらただの人間より身体能力が高いインキュバスだとしても、龍の膂力にかなうことがないことを英彦はよく知っている。だからすぐに抵抗するのをやめ、ゆっくりと体から力を抜いていくしか選択肢はなかった。その様子を観察しながら愛する夫を自分の手中に収めたことで満足そうな笑みを浮かべつつ、凛は英彦の動きを奪うためにしゅるしゅると蛇の下半身を絡みつかせながらさらに熱をこめて唇を重ねていく。
レロ、ネチャ…クチュ、ンッチュ
手始めにたっぷりと唾液を纏った舌が、縦横無尽に口内を舐めつくす。
歯は舌を扁平に広げて一本一本丁寧に舐めつくし、敏感な歯肉は舌先で優しく、そして頬肉は舌全体で抉るようにして貪られる。その動きは大胆であって繊細。既に数えきれないほど交わしたからこそできるお互いを知り尽くした甘いキスで、触れ合う二人の体温をじくじくと上げていく。気が付けば長く太い凛の蛇体でその身を完全に覆われた英彦の体は、みるみるうちに早鐘のように鼓動が高まり、先ほど感じていた冬の外気を忘れさせるほど体温が高揚していった。
ちゅ、ちゅぱっちうぅ
二人はそうして高まった熱をぶつけあうように、お互いの舌を絡みつけていく。
まるで蛇が性交するように少しでも相手の舌に自身のそれを密着させようと、舌を伸ばし絡みつけ、口内に残る空気を吸出し密着を強めていく。しかしそれだけでは凛は不満なのか、彼女は一段と顔を蕩かせながら英彦の口内に深く舌を侵入させて唾液を流し込んでいく。顔の上から覆いかぶさるようにキスをされているおかげで、魔物娘ならではの強く甘い芳香を漂わせる体液を途切れることなく流し込まれた英彦は、軽い酸欠に鼻息を荒げながらなんとか喉を動かして飲み込んでいった。
そうして時間の感覚が曖昧になるほど唇を重ねた後
「ん、ちゅぅ…ぷはぁ、ふふ。これで安心だな、英彦♡」
「はぁ、はぁ……一体…どうしたの、凛？」
たっぷりと英彦を味わった凛が、満足げに微笑みながら顔を離していく。
既にどちらとも分からない混ざり合った唾液が口の周りを汚す二人の間には、先ほどまでの熱い交接を惜しむように一本の銀色の橋が渡る。その堪らなく淫靡で、匂い立つほどの色気に満ちた様子を眺めていたくなるが、何故このような行動を凛がするのかを知る方が先だと思い、上がった息をなんとか抑えながら質問した。すると彼女はその瞳に悪戯っぽい光を浮かべながらゆるゆると理由を語り始める。
「実はな、昨日西洋に根付く文化について書かれた本を読んだんだ。ジパングの文化とそれらの文化を比較しながら軽妙な文章で紹介する、なかなか面白い本だった。」
「…へ？」
「それで、な。その本の中でくしゃみに対する文化の違いが紹介されていたんだよ。ほら、ジパングにはくしゃみをした回数によって人が噂しているだとか、誰かに笑われているだとかあるだろう？」
妻が語るその話がキスとどうつながるのか、全く分からない英彦は黙って頷き次の言葉を待った。
「西洋では、くしゃみをした人に対して健康や幸福を願う言葉をかけることが一般的なのだそうだ。英語圏では『神の加護ありますように』と通りすがりの通行人にも声をかけたりすると本では紹介されていた。」
「そして英彦よ…何故西洋では、くしゃみをすると神に加護や祝福を求めるのだと思う？それはくしゃみをすると魂が外に出てしまい、その体に悪魔が入り込んでしまうという言い伝えがあるからなのだそうだ。だから近くにいる人がくしゃみをした時、そうならないようにbless youと話しかける文化が生まれたらしい。」
彼女の言葉を聞き、キスをされる前に投げかけられた言葉の意味をようやく理解する。
「そ、それは分かったけど…なんでそれがキスする理由になるの？」
だが理解しても、それが何故キスに繋がるのかいまだに見えてこない。
「ふふ、それはなあ…」
困惑する英彦の疑問を聞いた凛は、楽しそうに笑い英彦の頬に手を置き熱っぽい声で囁く。
「先ほど、英彦は大きなくしゃみをしたではないか。部屋の中まで大きな声が、聞こえてきたぞ。だから私は行動した。私の大切な、誰よりも愛しい夫の体を見知らずの悪魔なんぞに渡すわけにはいかないからなあ〜…。早速実践してみたというわけだ。」
「しかも幸か不幸か、私はこの土地で水神と称される存在。八百万の神々が住むこのジパングの他の神や、海の彼方にいる神にわざわざ祈願せずとも…自ら手で最愛の夫へ加護を与えることができるわけだ。少しの魂も外に出ないよう、そして一寸の悪魔も英彦の中に侵入することができないように愛の籠った…祝福を、な。」
「……っ」
見せつけるように口端についた唾液をゆっくりと舌で舐めとりながら、こちらが赤面してしまうような気障なセリフを、目の前の水神は表情一つ動かさずに口にする。じっと英彦を見つめる曇りのない金色の眼を見つめ返していると、己の全てを奪い取られてしまいそうな錯覚を覚え、恥ずかしさも後押しし顔を逸らそうとするが、右手で顎を掴まれ逃げることを禁じられる。
「さて、英彦。ここで提案だ。」
「提案？」
「実は、もう一つ私が行える祝福があるんだよ。英彦のここを使った、英彦だけに行えるとびっきりの祝福がな…。」
凛は一段と瞳や声に色欲を滲ませ、顎を掴んでいた手をするすると英彦の下半身に伸ばし、先ほどまでの甘い接吻で既に痛いほど勃起した男根を優しく摩りながら誘惑する。
「さあ、どうする。どんな悪魔でも諦めてしまうような、祝福が欲しいか♡？」
「…………ほ、欲しいです」
「ふ、ふふ…♡」
咽るような女の色気と発情した匂いを漂わせる凛に迫られ、それを断ることができるはずがない。ためらうことなく並びたてられる飾り立てられた言葉を受け、まるで遊び慣れた色男に口説き落される世間知らずの御嬢様のように顔を真っ赤に赤面させて俯きながら、英彦は小さな声でお願いする。すると凛はわが意を得たりとにやりと口を釣り上げながら己の秘所をさらけ出し、ゆっくりと剛直の先をあてがう。
「それでは改めて…bless you♡」
ずっちゅ、ぶちゅぅ、ぐちゅ
再び祝福の文句を口にした凛は、粘度の高い愛液をとめどなく吐き出すヴァギナに、パンパンに膨らみ血管の浮かぶペニスを突き入れていった。
「……はぁ…ぁ……。り、んッ……！！！」
冬のひやりと冷たい外気に晒され敏感になった怒張が、蕩けてしまうのではないかと思うほど熱く火照る淫猥な蜜壺に飲み込まれ、たまらずうめき声を漏らしてしまう。
「うふふ、英彦ぉ♡」
凛はその声を心地よさそうに聞きつつ、受け入れたペニスを人外の女性器で咀嚼しながら甘い声を吐き出した。彼女の膣壁はまるでそこに意思を持っているかのように蠢き、敏感な亀頭や裏筋は労わるように優しく摩りあげ、固く勃起する幹は溜められた精液を搾り取るように力強く絞りあげていく。何十、何百、いや数えきれないほど彼女と身を重ねても決して慣れることのない身も心も溶かしてしまう名器は、容赦なく英彦を追い込んでいった。
「私の体で…気持ちよくなって、くれ♡！！」
仕上げと言わんばかりに英彦の体に巻き付けた下半身をきつく何重にも巻き付け、痛いほどに抱きしめる。与えられる強い圧迫感が、彼女の体温や甘い体臭が、長いキスで焦らしに焦らされた英彦にいとも容易く限界を突き付ける。
「ご、ごめん、もう…もう！！！」
「中で…亀頭が、震えてる♡我慢せずに、たっぷりワタシの膣に出してくれ♡！！」
「出る！出ちゃう！！」
「あ♡来たぁ♡」
びゅる…ドクッ、ドクン、ドクンッ…びゅ、びゅるぅ
勢いよく輸精管を駆け上がったザーメンが、熱く脈動する子宮に向かって大量に吐き出される。放たれた精液は激しく凛の子宮口を叩き、それを受ける彼女の子宮は精子の一匹さえも逃すまいと貪欲に飲み込んでいく。その瞬間だけは彼女のも男根から精液を絞り出すことに躍起になり、膣全体で強く締め上げながら英彦にさらなる快感を注ぎ込んでいった。
「はぁ…はぁ…」
「さて、英彦…」
「？」
射精後特有の気怠さと心地よさによって体の力が抜け、全身を包み込んでいる蛇の体にその身を預けている英彦の耳元で凛は甘く囁く。
「このまま外で続けて風邪をひいてしまえば本末転倒だ。」
そして翼がなくとも飛行できるその力を存分に使い、英彦を器用に抱えたまま凛は体を宙に浮かべゆっくりと移動を開始する。
「寝室に行って…たっぷりと、祝福を与えようじゃないか♡」
「は、はは…」
これからどれほど長く彼女と交わるのかを彼女の言葉で理解し、期待と呆れが混じったような笑いが英彦の口から漏れ出る。
こうして水神様の、過剰なまでの加護と祝福を得た英彦は、過ぎ去っていく冬の間風邪をひくことも、悪魔に体を奪われることもなく幸せに妻と生活を送ったのだった。
14/11/19 22:30更新 / 松崎 ノス