連載小説
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21〜22日


チュンチュン…チチチチ…


「……」



……なんとまあ最悪な目覚めだろうか……



「はぁ…何時まで引き摺ってるんだよ私……よいしょっと!」

3年も経ったというのに、未だにあの出来事の夢を見る自分に悪態をつきながら、私はベッドから跳ね起きた。
背筋や翼をゆっくりと伸ばしながら、そういえば目覚まし時計のアラームが鳴る前に起きたなと思い、アラームを切りがてら今の時間を確認する。

「時間はっと…ん〜予定より20分も早いか…まあいいや朝ご飯食べよ」

目覚まし時計の時間を見たら、セットしておいた時間よりも早かった。
寝坊するよりはいいが、20分という中途半端な時間では何か変わった事をする気にもならない。
なので私は、何時ものように朝ご飯を食べる事にした。

「しっかし寒いな〜…そのうち雪でも降るんじゃないかな?」

なんて、寂しく響く独り言を言いながら、私は昨日小分けにして凍らしておいたご飯を電子レンジで温めながら、これまた昨日余分に作っておいた味噌汁に火をかけて、何かオカズも欲しいなと思って冷蔵庫の中を確認すると、特売していたからと大量購入してあったもやしと少量の他の野菜、あと卵ぐらいしかなかったので、もやしを塩こしょうやごま油で炒める事にした。

「もうそろそろ食材買いに行かないと駄目か…明日は終業式で補講も無いから半日で帰れるし、明日でいいかな…でもこれじゃあ今日の夜ご飯ももやしだしな…」

テキパキと朝ご飯の準備をしながら、私は冷蔵庫の中身をいつ増やすかを考えていた。

私は一人暮らしをしているが、まだ社会人でも大学生でもなく、高校3年生…しかも受験生である。
日々の勉強や補講等もあって朝は早く夜は遅くなってしまうわけで、なかなか食材を買いに行く時間がない。
しかも今は12月…外は寒いため学校帰りは早く家に帰りたくなるし、一旦家に入って暖かくなってしまうともう外出などしたくなくなってしまう。
その為どうしてもギリギリまで買いに行こうとは思えないが、今はそのギリギリなのでどうしようか悩んでいた。

「……って今日バイトあるからどのみち買い物出来ないじゃん!明日にしよう…」

だが、今日はアルバイトがあった事を思い出した。
その事をわざわざ声に出したが……反応してくれる人がいないと寂しさが増長するだけである。

「はぁ…何やってるんだろ私…」

おそらく今朝見た夢のせいでもの寂しさに苛められているのだろう…
やたら独り言を言う自分に溜め息を吐きながら、完成した朝ご飯を食べ始めたのだった……



………



……







「ふぅ…じゃあ身仕度して学校行くか…」

朝ご飯を食べ終え、手が痛くなるほど冷たい水で皿洗いを終えたので、私は学校に行く準備として歯磨きをするために洗面所に向かった。


「……」

洗面所にはもちろん鏡もあり、その鏡を見たらもちろん私の姿が映るわけだが…

「別に今更悔やんでも仕方ないってのに、どうしてそんな暗い顔してるんだよ……」

その鏡に映っていたのは…

「悪いのは黒羽美琴(くろはみこと)、お前じゃなくてさ……お前が堕ちただけで見捨てたふざけたエンジェルの家族だろ?」

紅い瞳に銀色の髪、頭上には紫色の輪が浮いていて、肌の色は青白くて腰から背中に掛けて漆黒の翼を生やした少女が

……

「だからそんな哀しい顔するなよ…らしくないぞ……」

今朝見た夢のせいで3年前の事を、私がエンジェルからダークエンジェルになった日の事を思い出して、今にも泣きそうな顔をしている黒羽美琴が…私が映っていた……

私は元々この日本では珍しい反魔物地区である神言(かみこと)市という街に、両親と妹との4人家族で住んでいたエンジェルだった。
毎日朝起きたら神に祈り、神に感謝しながら学校へ行き、神に仕える為に勉学に励み……今思えばなんと馬鹿馬鹿しい生き方だったのだろうか。
それでもあの頃は毎日充実していると思っていた。
毎日神に御祈りをし、毎日家族と笑いあって生活していた。
そう、中学3年生の冬まではだ……

「良いじゃないか…頭が固いエンジェルでいたままじゃ、今の価値観を持てなかったんだからさ…」

中学3年生のある雪の降る日の事、私は学校からの帰宅途中で一人の魔物と遭遇した。
まあ遭遇したと言っても、反魔物地区と言えど日本である事には変わらないため、時折魔物を町中で見掛ける事ぐらいある。
だからただ居るだけなら何も問題は無く無視をするだけだったのだが……その魔物は違っていた。
その魔物…ダークプリーストは、私の当時のクラスメートの男の子を堕落させようと…性的に襲おうとしていたのだ。
勿論そんな事許される訳がない。だから私はそのクラスメートを助ける為に割って入り、しつこいダークプリーストの手からなんとか逃す事ができた。
だがしかし……今度は私自身が捕まってしまい……





『暴れないで…快楽(しあわせ)に満ちた世界を教えてあげる♪』





と、耳元で囁かれたと同時に何かされたのか自由に動かなくなった私の身体に、勿論当時は一度として感じた事の無かった快楽を全身に感じさせられてしまった……

……鮮明に思い出そうとすると興奮のあまり下腹部が疼いてしまうのでなるべく思い出さないようにする…堕落神様への御祈り(オナニー)は夜寝る前以外にするとずっとシたくなって勉強どころでは無くなってしまい受験生として非常にマズイ…というかまだ朝だから流石に自重しないとね……

「あの時はただ気持ち良くて幸せだった…のに…」

ダークプリーストに身体のありとあらゆる箇所を弄りまわされ、気付けば性的な事を自ら貪っていた私は…案の定行為が一通り終わる頃には堕落神様の僕、ダークエンジェルになっていた。
だが私はその事を悲しむ事は一切無く、むしろこんなに気持ち良くて幸せな気持ちになれる行為を教えてくれたダークプリーストさんに、堕ちた事に対して感激の涙を流しながら感謝していたくらいだ。
しかし、ダークエンジェルになってしまった私に待っていた現実は……残酷なものだった。

「くっ……な、泣くなよ私……ぐすっ……悔しいけど……ひくっ……くそっ……」

夢の事を…家族に縁を切られ、見捨てられた事を思い出そうとすると…悔しさのあまり涙が溢れてくる……
私は何も悪くない…私は私に変わりないのに…有無を言わさず私を捨てた家族に対しての悔しさが、前日まで当たり前だった家族との時間が無くなった悲しさが、そんな自分が惨めに思えてきて……涙が止まらなかった。

「あーくそ…ひぐっ…こんなもの冷たい水で顔を洗えば止まるんだよ…!」

それでもどうにかして涙を止めようと……いや、どちらかといえば泣いている自分自身を誤魔化す為に、私は蛇口をひねって顔を勢いつけて洗ったのだった……




…………



………



……








「はいじゃあ今日の補講はここまで。きちんと風邪予防をしながら、無理の無い範囲できちんと勉強するように。センター試験まであと1月もないから気を抜く事は絶対無いようにな」

国語の補講も終わり、寂しさが消えないまま受けていた今日の授業は全て終わった。

「うぐぅ…漢文とか難し過ぎてわけわからねぇ…」
「ふーん。でも小澤、悪いけど今日私バイトあるから教えられないからね」
「マジか…黒羽は文系科目は得意だし天野達より聞いててわかりやすいからあてにしてたのに…」

案の定同じクラスの成績最下位クラスであるドワーフの小澤梶子(こざわかじこ)が私に泣きついてきたが、今日はバイトがこの後からあるのでキッパリと断らせてもらう。

「少しは自分でなんとかしなさいよ…まあ天野の奴よりわかりやすいっていうのは嬉しいけどさ…」
「褒めてやったんだからバイトサボって教えてくれよー!」
「バイトのほうが重要だっての。この高校特例以外バイト禁止なのに私がバイトしてる意味わかってる?」
「うぐっ…一人暮らしで親からの資金援助無しだし稼がないと駄目だもんな…」
「そういうこと」

別に小澤の事は嫌いじゃない…というか、私自身が堕ちてから出来た初めての魔物の友達なので出来ればそのお願いを聞いてやりたいが、自身の生活の為にもアルバイトをサボる訳にはいかない。
ただでさえ年明けからセンター試験までの間はアルバイト出来ないのだから、稼げるうちに稼いでおかなければ。

「誰かに教えてもらいたければ天野だか他のロリファイブだかに教えてもらえば?3人とも私より成績良いんだしさ」
「八木の文系科目はとにかく残り2人はどの教科でも成績離れ過ぎてて教えてもらっていても何言ってるのか理解出来ない事が多いんだよ…」
「ああ…まあそれは仕方ない」

なので他のロリファイブの面々に教えてもらえば?と提案したのだが……たしかに私達以外はこの学校内の成績上位ばかりだから小澤があまり教えてもらいたがらないのもわかる。
私は中の上くらいだから残り3人と比べたら小澤の成績に近いし、どこがどうわからないのか検討がつきやすいのもあってよく頼ってくるのもわかるが…だからと言ってバイトをサボる訳にはいかないからこう提案するだけしてみたのだ。

ちなみにロリファイブというのは、同じ学年にいる魔女を除く5人のロリ体型をした魔物達の総称だ。魔女が除かれているのは、この学年に数人居る魔女は皆入学時は人間だったからである。
誰が言い始めたのかは定かではないが、いつの間にかこんな総称を付けられていた…まあ個人的には嫌いな奴も含まれている事以外は気に入っているので良しとする。
それで肝心のロリファイブのメンバーだが、ダークエンジェルの私にドワーフの小澤、それと理系である6組にいるアリスの藤木愛里花(ふじきえりか)と同じく6組にいるバフォメットの八木晶子(やぎしょうこ)、そして……

「ん?今私の事を呼んだか?」
「は?別に呼んでないから!いちいちこっち来なくていいから!」
「……相変わらす黒羽は私に突っ掛かってくるな…」

私がこの学校にいる全員の中で最も嫌いな人物…私を捨てた家族と同じ『エンジェル』の天野光里(あまのひかり)だ。

「私としては仲良くしたいものなんだがな…」
「てめぇがダークエンジェルにならない限りは絶対無理だね!たとえなったところで仲良くしたいと思えないけどね!!」
「本当に相変わらす黒羽は天野の事嫌いなんだな…」
「ああ、大嫌いだね!」

たしかに私は天野が嫌いなので、毎回私は天野に突っ掛かっている。
別に天野自身に嫌がらせを受けたわけじゃないが、エンジェルであるという事と、やたら私を気にかけて話し掛けてくるのが気に入らなかった。

「だがな黒羽…」
「てめぇの話なんか聞く気は無いね!というか今から私はバイトがあるんだ、そこ邪魔だ!」
「わっと……」

そんな天野が私に何か言ってこようとしたが、私は天野の話を聞く耳など持ってはいない。
私はバイト先に行くため、天野を突き飛ばして教室から出ていった。

「まったく…いい加減少しは心を開いてくれてもいいものなんだがな…」
「まあ…でもあんな過去がありゃあエンジェル嫌いでも仕方ねえとは思うぜ?」
「まあな…でもこのままっていうのもどうかと思うし、妹やその友達に相談してみるかな…」
「妹って…あれはまた黒羽とは違うだろ…それより天野、アタイに漢文わかりやすく教えてくれよ」
「仕方ない…じゃあこの後しょーこの家で勉強する予定だから小澤も一緒にやるか」

二人の会話が僅かに耳に届いたが、気にする事無く私はバイト先に向かった……



「……合計525円です……丁度お預りします。レシート…要りませんか。ありがとうございました」

補講が終わった後から、アルバイト先である家の最寄りのコンビニでレジをしている私。
寂しさはまだ引きずってはいるけど、それを表に出さないようにバイトしている。

「いらっしゃいませこんばんはー!」

今はそんなに人がいないため、まだゆっくり出来て楽だ。
それでも気を抜く事は無いようにしなければ…お客さんにサボってるなんて思われたくないしね。

「黒羽さん、今お客さん少ないしレジは私1人でやって黒羽さんには商品の数のチェックしておいてほしいって店長が」
「はい、わかりましたー。ではレジはおまかせしまーす」

と、お客さんの数が少ないからやはりレジを縮小するみたいだ。
レジは人間の大学生であるバイト仲間に任せて、私は店長に言われた通り、表に出てる商品の数をチェックする事にした。

「ポテチの数は…まだいいよね。でもビスケットの数が2袋って少ない気がするな…補充っと…」

もうじきクリスマスなんていう私には無関係なイベントがあるせいかやたらお菓子類を買っている人が何時にも増して多かったなと思いつつ、チェックをしていた時だった。

「あれ…もしかして2組の黒羽さん?」
「へ?」

後ろから突然男の人に名前を呼ばれた。
聞いた記憶の無い声だったけど、私の事を知っている様だったし…誰だろうと思って振り返ってみたら……

「あ、やっぱり黒羽さんだ。このコンビニでバイトしてたんだー」
「……誰?」

見覚えはあるような気はするけど、知らない男子だった。

「あ、僕は黒羽さんと同じ高校で3年3組の黒井円治(くろいえんじ)。まあ同じクラスになった事なければ部活も違うから黒羽さんが僕の事を知らなくても当たり前かな」
「あー…言われてみれば補講の時に見た事あるかも…」

どうやら同じ高校で同じ学年の隣のクラスの男子らしい…補講は2〜4組合同なので見た事あったわけか。

「で、私の事はロリファイブの1人として知っていたわけね」
「えっとぉ〜…ま、まぁ……」
「?」

私が相手を知らなくて相手が私を知っている場合は大体こんな理由なのでそうだと思ったのだが、どうにも黒井君の端切れが悪い…

「違うの?」
「えっいやぁ〜その〜…」
「まあ何でもいいや。今バイト中だからここで話切るね」

問いただしてもはっきりと言いそうにもない…
それに今私はバイト中だし、無駄話を続けるのは良くないので、黒井君との会話を切ろうとした。
したのだが…

「あ、あの黒羽さん…バイト終わり何時?」
「へ?22時だけど…」

そのまま作業に戻ろうとした私に、黒井君はバイトの終わり時間を聞いてきた。
突然予想外の事を聞かれた私は、特に考える事無く素直に答えていた。

「あーあと1時間ぐらいかー…じゃあ黒羽さんのバイト終わりまで待ってるよ」
「…………は?」
「ここのコンビニって雑誌の立ち読みオッケー?」
「え、うん…破ったり折り曲げたりしたら買い取ってもらうけどいいよ…」
「ん。それじゃあ読みながら待ってるからバイト頑張ってね」
「え、あ、うん…ありがとう……」

バイトの終わり時間を言ったら、なんと黒井君は私のバイト終わり時間まで待つと言ってきた。
何故かと聞く前に雑誌の立ち読みに行ってしまったし、バイト中なので聞きにいく事も出来ないので後で聞いてみる事にして、私はバイトに戻る事にした。

「商品のチェックと補充終わりましたー」
「お疲れー。ねえ黒羽さん、あの男の子って彼氏?」
「へ?違いますよ。同じ学校の男子ってだけです。話をしたのも今が初めてですし」
「へぇーそうなんだ…」

チェックを終え奥に戻って水槽の中にいる店長に報告したら、黒井君との関係を店長に聞かれた。
店長は魔物『メロウ』だし、そういった事は気になるのだろうけど…私は素直に初めて喋った間柄だと答えた。

「でもあの子多分黒羽さんの事気にしてるわ……というか多分黒羽さんの事好きよ?」
「へ?」
「だって恋人でもないのにバイトの終わり時間まで待つなんてそうとしか考えられないわよ♪恋っていいわね〜♪」
「はぁ…」

店長いわく黒井君は私に気があるとの事。
確かに私のバイト終わりを待つなんて不思議だが…今までまともに話した事すらない相手に好意など持つのだろうか?

「店長、色恋話はほどほどにして真面目に仕事しましょう」
「もう…黒羽さんダークエンジェルなのに真面目過ぎよ?」
「エンジェル時代の真面目さが抜けて無いだけですよ」

これ以上店長と話を続けるのもレジをやってるバイト仲間に悪いので、店長の話を切って真面目に仕事をする事にした。
不貞腐れた店長に真面目過ぎと言われたが……真面目にやる時は真面目にやるのは当たり前だと私は思う。

「ん〜…なんかうちの店のバイトの子って猥談は勿論ただの恋愛話にすらついてこられない子ばかりなのよね…」
「脳内ピンクなメロウ相手に猥談は流石に厳しいです。それに私特定の男子に惚れているとか無いので恋愛話も出来ません」
「うむむ…ダークエンジェルなら猥談のほうは余裕かと思ったんだけどな……」
「確かに真剣に勉強してたりする時以外は常日頃から色々とエッチな事や性行について考えている事は否定出来ないしエロい事を実行してみたいとか考えているのも否定しませんというか堕落神様の僕としてはそれが普通の事ではありますが、それを他人と共有するのは流石に抵抗があるので自分から進んでしません。たとえば私が元からダークエンジェルだったら問題無いのかもしれませんが元はそういった行為を忌み嫌っていたエンジェルだったうえに多少エンジェル時代の名残があると言われている私には自ら進んで猥談を繰り広げるだなんて事はとても出来ません。堕とされた時のダークプリーストさんのテクニックは勿論自慰をする時の脳内での妄想など恥ずかしくてとても口には…」
「黒羽さーん!店長と喋ってないでレジ入って!!」
「あ、はいわかりました!すぐ行きます!!」

店長に長々と私は猥談なんか恥ずかしくて出来ない事を言っていたらレジからヘルプ要請された。
表を見ると、さっきまでは黒井君含めて2人しかお客さんはいなかったのだが、今は10人ほどいた。
どうやらこの近くにある門星(かどぼし)大学の学生が一気に団体で来たようだ…見覚えのある門星大学に行ったハニービーの先輩がいるので間違いない。

「次にお待ちの方、こちらのレジにどうぞー!」

私は店長との会話を断ち切って急いでもう一つのレジに入りお客さんの対応を始めた……



………



……








「お、お待たせ黒井君……というかなんで待ってたの?」
「あ、お疲れ様黒羽さん。僕も買うものは買ったし、とりあえずコンビニ出ようか」

あれから特にトラブルが起こる事無くバイトも終わり、本当に待っていた黒井君と一緒にコンビニを出た私。

「それでどうして?」
「あー、まあ特にこれといった理由はないけど……しいて言うなら黒羽さんとお話したかったからかな」
「ふーん……へっ!?」

何故私を待っていたのかと尋ねてみたら、まさかの私と話がしたかったからとの事。

「実は前からお話してみたかったんだけど、なかなか話し掛けにくて…ちょうど逢えたし話し掛けてみようって思ってね」
「へぇそう……」

しかも前からそう思っていたらしい……店長の話じゃないけど、マジで黒井君は私に気があるのかと思えてしまう。

「ところで黒羽さん、晩御飯はもう済ませたの?」
「え?ううん、まだ食べてないけど…帰ってからコンビニで廃棄の弁当もらったからそれ食べるつもりだったけど……」

そして話し始めたと思ったらいきなり夕飯を食べたかどうかの話になった。
それがどうしたのだろうかと思いつつ、どうするかを素直に答えたら……

「じゃあさ、僕も今からさっきコンビニで買った弁当で晩御飯だからさ、一緒に食べようよ」
「……はい!?」
「あ、もしかして嫌だった?」
「あ、いや……別にいいけど……」

まさかの一緒に食べようと言われた。
ほとんど知らない相手とはいえ、折角誘われたし、一人寂しく食べるよりはよっぽどいいので一緒に食べるのもいいかもしれない。
そう考えた私は、一緒に食べてもいいって伝えたけど…

「食べるにしてもどこで?」

流石に寒空の下公園とかでは食べたくないし、かといってコンビニ弁当を食べるわけだからお店に入るわけにもいかない。
だから一緒に食べるとしたらどこでなのか、なんとなく聞いてみたのだが……

「あー、えーっと……僕の家?」
「……はあ?」

なんと、黒井君の家という信じられない答えが返ってきた。

「いやいや、流石にそれはちょっと……それに黒井君の家の人に迷惑だし……」
「あーそれは大丈夫。家今僕しかいないから。両親不在だからね」
「えっそうなの!?」

流石に彼氏どころか知り合ったばかりの異性の家に、しかもこんな夜遅い時間に上がり込むなんて迷惑だろうと思いそう言ったら、両親が家にいないと言ってきた。

「うちは両親共にバリバリ働いていて、しょっちゅう海外とかにも出張に行ってるから基本いないんだ」
「へぇ〜……凄い親だね」

一瞬私と同じかと思ったがそんな訳は無く、どうやら黒井君の両親は仕事で忙しく家にいないだけらしい。
まあ基本いないって事は、実質一人暮らしなのだろう。

「それでどうする?僕の家に来る?」
「えっと……そ、それじゃあ黒井の家にお邪魔しようかな……」

それならばというわけでもないが、寒空の下で食べるよりは良いので私は黒井君の家にお邪魔する事にした。
私の家という手もあったが、男の子を家に入れるのはなんだか恥ずかしいので敢えて提案しなかった。



「はい、着いたよ。ここが僕の家」
「結構大きいわね……」
「まあ本来なら一家族が住む家だからね。一人だと寂しく感じて大変だよ」

しばらく歩いていたら、黒井君の家に着いた。
途中曲がる方向が逆ではあったが、私の住んでいるアパートが面している通りにあった。
それどころか、ここから家まで5分ちょっとというところだ。

「それじゃあ遠慮なく上がらせてもらうからね」
「うん、どうぞ」

私は早速黒井君の家に上がらせてもらった。
少しは抵抗もあるが、やはりこの時期の夜は寒くてかなわないのですんなりと上がらせてもらった。

「どうする?リビングで食べる?それとも僕の部屋に行く?」
「へっ!?ええっと……」

そしていきなり自分の部屋へのお誘いがきた。

「そ、それはちょっと……流石にどうかと……」
「へぇ……黒羽さんはそういうの気にするんだ……」
「まあ……どっちでもいいといえばいいけど……」

流石に付き合ってもない異性の部屋に行くのはどうかと思う。
でも魔物的に考えたらこれは襲ってOKと捉えて良いのかもしれない……けど、その考えに至る前に自重する方を思いついたのはやっぱりまだただのエンジェルっぽさが残っているのだろうか?

「それでどうするの?私はどっちでもいいよ」
「そうだなぁ……」

家の中に入ったからまだマシとはいえ、玄関でも十分に寒い。
早く温まりたいしお腹も空いているので、どっちでもいいから早くしてほしかった。

「じゃあリビングでいいか。僕の部屋のほうが狭いから暖房が暖まるのも早いと思ったけど、弁当温めるならリビングのほうが近いしね」
「わかった。じゃあ案内よろしく」

とりあえずリビングになったようなので、私は黒井君に着いていった。



「はい、温め終わったよ」
「ありがとう……じゃあ早速食べようか」

リビングに案内されて椅子に座って待つ事数分、弁当を温めてくれていた黒井君が戻ってきた。
私はその弁当を受け取り、同じく黒井君が淹れてくれた熱いお茶とともに食べ始めた。

「んー……あのコンビニにしか置いてない弁当ってやっぱり美味しいな……」
「あれ?もしかして黒井君よくあそこのコンビニ行くの?」
「うん。今日みたいにご飯を作るのが面倒な時はね。朝は学校あると昼ご飯買いに絶対行くけど、夜行くのは大体週に1〜2回かな」
「へぇ……あそこのコンビニでバイト始めてから1年ちょっとにはなるけど多分今まで1度も見た事無かったと思うけどなぁ……私週3から4日だからどこかで見そうなんだけどな……」
「多分無いと思うよ。今日行ったら居てビックリしたもん。というかそんなにあそこのコンビニでバイトしてたんだね」
「まあね。前のバイト先花屋だったんだけど潰れちゃってさ、丁度その時バイト募集してたからそのままバイト始めたってわけ」
「へぇ〜……」

弁当を食べながら、私達は他愛ない話をし始めた。
昼ご飯はともかく、夜ご飯を誰かと話をしながら食べるというのは久々だ。
そのためか自然と私の口から言葉が出てくる……

「そういえば黒井君は大学どこ目指してるの?」
「僕は魔乃(まの)大学の文学部だけど……」
「あ、大学は一緒じゃん!学部は私は教育だから違うけどね」
「へぇ……そうなんだ……」

どうやら志望大学も同じらしい。
まあ学部は違うのでライバルになる事はなさそうだ。

「それじゃあまあお互い合格出来るように頑張りましょうか」
「そうだね……」

話を一段落つけたところで、私達は黙々と弁当を食べていった……



「そういえば黒井君さ〜」
「ん?なんだい?」
「いや……物凄く変な事聞くけどさ……」

弁当も粗方食べ終わり、お腹が膨れてきた辺りで、ふと思い出した事を黒井君に聞いてみた。

「黒井君って……もしかして私の事好きだったりする?」
「へっ!?えっ!?」
「あ、いや、さっきコンビニの店長に言われたからなんとなく聞いてみただけだから気にしないで!」

バイト中に店長に言われた「あの子多分黒羽さんの事好きよ?」という感じの言葉が頭の中でずっと渦巻いていたので聞いてみたのだが、黒井君は目を見開いて物凄く驚いた顔をしてきた。
そんな黒井君の様子を見てたら流石におかしな事を聞いたと恥ずかしくなってきたので、慌てて誤魔化してみたのだが……

「あーっと、その〜……はい……」
「……え?何が『はい』?」
「えっと……僕は黒羽さんの事が……その……好きです……」
「……ふぇ?…………ってええーっ!?」

なんと、店長が言った通り黒井君は私の事が好きだと言ってきた。

「な、なんで!?今日初めて話したよね?」
「えっと……一目惚れです……」
「ウソ!?ホントに!?」

しかも一目惚れしていたときた……嬉しいけど、それ以上に恥ずかしくなってきた……

「実はこの後でその事を言おうと思ってたのですが…まさか聞かれるとは思いませんでした……」
「えっあっいやその……ゴメンね?いやこのゴメンねは断るとかそういうゴメンねじゃなくてそのあ、ありがとう?」

突然の好きです宣言によって軽いパニックになってる私……自分が何喋っているのかもわからないし、背中の翼が忙しなく羽ばたかせてるせいで漆黒の羽根が舞ってしまっている程だ。

「ええええっとそその……」
「あ、あの……落ち着いて。一回深呼吸して」
「う、うん……すぅ〜……はぁ〜……」

取り敢えず落ち着く為に、黒井君に言われるま深呼吸する私。
何度かするうちに、まだ整理はついてないけどある程度は落ち着いてきた。

「それで……黒井君は私の事好きなの?」
「う、うん……」

どうやら黒井君は本当に私の事が好きらしい。

「だから……その……ぼ、僕のか、彼女になってほしい……」
「うん……そうね……」

そして、私と付き合いたいらしい。

「いいよ」
「……えっ?」
「だから、彼女になってあげてもいいよ」

私の答えは、OK一択だった。

「ほ、本当にいいのですか!?」
「うん。まあまだ様子見なとこも有りでよければだけどね」
「えっ……それってつまり……」
「私はまだ黒井君の事を知ったばかりだからね。本格的なお付き合いはもっと黒井君の事を知ってからね」

とはいってもまだ私は黒井君の事をよく知らない。
だからまだセックスなど深いお付き合いは出来ないが、これから彼女として黒井君の事を知って行こうと思う。

「えっと……僕が好きだって言ったから仕方なく付き合おうとか……」
「いやそれはないから。ちゃんとした理由はあるよ」

別にそれは黒井君への同情とかではない……

「まあ……まずは私も黒井君の事が結構好みに合ってたってのと、今少ししか喋ってはなかったけど、楽しかったからかな。それに……」
「それに?」
「寂しくなくなったからね」
「?」

私も、黒井君は好みの姿をしているので一目惚れとまではいかないものの好感は持てたし、今も話していて楽しかった。
そして、黒井君と話しているうちに、一日中感じていた寂しさがいつの間にかなくなっていた……そう、小澤や店長ですら埋められなかった寂しさを黒井君は埋めてくれたから、私も黒井君の事が好きにはなっていたのだ。
それに、そもそも好きだと言われたのが嬉しかったのだ。

「つまり私も黒井君の事が好きになった。だからいいよ」
「ありがとう!僕嬉しいよ!」

私も好きだと伝えたら、大喜びし始めた黒井君……そんなに嬉しかったらしい。

「それじゃあ今日はもう遅いし、明日も終業式とはいえ学校があるからそろそろ帰るね。また明日学校終わったら色々とお話しようよ…えっと……円治君だっけ?」
「へっ?」
「名前。折角彼氏彼女の関係になったんだからさ、名前で呼びあおうよ」
「そ、そうだね……円治で合ってるよくろ……美琴さん」
「そ、そうそうそんな感じ!」

自分で言っておいてなんだが、名前で呼ばれるのは少し照れる。

「じゃあまた明日、学校終わったら昇降口集合で!」
「うん、じゃあまた明日!」

照れを隠しながら、明日も学校があるからとせっせと先程散らかしてしまった羽根を回収して帰宅する事にした私。
もう少し話していたかった気もあるけど、受験生だし勉強も大事だし、朝も早いのであまり長居すると迷惑だからね。

「さてと……今日のお祈りは円治君にされてる妄想でしようかなっと……」

心も身体もほんの少し暖かくなったからか、あまり寒さを感じずに冬の夜空の下を晴れた気持ちで帰っていた……



====================



キーン、コーン、カーン、コーン……

「……という事で、明日から冬休みになるわけだが、受験生であるお前らにはそんなものはない。明日からも一日中補講があるから第一志望の大学に合格したい者はきちんとくるようにな。とまあそうはいっても、この学校はクリスマスイブと当日は学校自体が閉まるので、その日ぐらいは多少羽目を外してもいいぞ。勿論良識の範囲内で、それと今年ぐらいは少しは勉強するようにな。それでは号令を」
「きりーつ、れーい」
「はいお疲れさん。気をつけて帰れよー!」

終業式も終わり、ようやく帰宅時間になった。

「さてと……昇降口に行くか……」
「あ、なあ黒羽、ちょっといいか?」
「……何小澤?今日は人待たせてるから手短に言ってよね」

早速円治君と待ち合わせしている昇降口に行こうとしたら、小澤に呼び止められてしまった。
早く行きたいとはいえ無視して行こうとは流石に思えないので、手短にと話を促した。

「お前今年のクリスマスイブと当日さ、何か予定あるか?」
「予定?一応クリスマスイブはバイトあるけど……」

どうやら私の24日と25日、つまりクリスマス辺りの予定が知りたいらしい。
そういえば私24日はバイトがあったな……あの時はまさか一目惚れしたと告白されるとは思ってなかったからな……しまった、円治君と出掛けたり出来ないや……

「まあ夜からでもいいからさ、アタイらロリファイブ全員で泊まりがけで勉強会とクリスマスパーティーしようぜ!」
「へっ?」

私が24にバイトを入れていた事を後悔しているうちに話は進んでいたようで、小澤がロリファイブ全員で勉強会とクリスマスパーティーをしようと言ってきた。

「ロリファイブ全員でって事はつまり……」
「まあお前の嫌いな天野もいる…というか、天野の家でやる予定だ」
「やっぱりか……勿論断る」
「まあそう言うと思ったぜ」

ロリファイブ全員…つまり天野までいるという事だ。
それだけでも嫌なのに、さらにはあいつの家でやるとか地獄でしかない。
なので私は速攻で断らさせてもらった。

「でもな黒羽、天野はともかく皆で勉強するのとパーティーやるのはいいと思うんだが。最悪お前はアタイや藤木、八木辺りと喋っていればいいんだしさ」
「まあそれもそうだけど、他にも理由はあるわよ?」

たしかに小澤の言うとおり、別に天野と関わらなけれはいいだけではある。
おそらくあっちは構ってきそうではあるが、適当にあしらえばいいだけだし、頭良い奴も集まっての勉強会や皆とのパーティーも楽しいだろう。
天野、つまりエンジェルの家というのも嫌だが、バフォメットの八木と家族ぐるみでの幼馴染みだという話だし、おそらくはうちと違い嫌な気もそうしないとは思う。
でも今の私は、天野が嫌いだからという理由以外にも断る理由がある。

「まだ言ってなかったけどさ、私昨日彼氏出来たんだ」
「えっマジ!?」
「うん。3組の黒井円治君。たまたまバイト中にコンビニ内で遇ってさ、昨日バイト終わりに一緒に彼の家で夜ご飯食べた後に一目惚れしたと告白された」
「マジかよ羨ましい……もうヤったのか?」
「ううん。次の日も学校なのにそうシないわよ」
「……やっぱり黒羽って妙に真面目だよな。まあそこが黒羽らしいけどな」

そう、彼氏……つまり円治君の存在だ。
折角のクリスマスだし、2人で何処か遊びに行きたいのだ。
24日にあるバイトはもうどうしようもないので、せめて25日だけでもデートしたいものだ。
なので私は天野の家に行く気など全く無いのだ。

「彼氏持ちの藤木は有吉の都合で夜以外行くって言ってたけど……まあ付き合い始めたばっかなら仕方ねえか。アタイから天野に言っておくよ」
「うん頼んだ!」
「しかし羨ましいわ……アタイも早く男欲しい……」
「はは、小澤なら結構すぐ出来たりすると思うよ!」
「うるせえ勝ち組に言われても嬉しくないわ!」

その事を小澤に伝えてから、私は急いで昇降口に向かった……



………



……







「お待たせ!待った?」
「いや、むしろ待たせちゃったかなって思った程ついさっき終わったばかりだから。友達と話してたの?」
「まあね。まあたいした事じゃなかったし気にしないでね」

昇降口に着いたら、既に円治君は待っていた。
待たせてしまったかと思ったが、一応今来たばかりらしい。

「それでどうするの?一緒にお昼でも食べに行く?」
「円治君が良ければそのつもり。あと、その後で買い物に付き合ってくれない?家にある食糧がもうもやしぐらいしかなくて買わないといけないからさ」
「いいよ。でもまずはお昼ご飯だね。どこ行こうか…」

私達は靴を履いて、お喋りしながら学校を出た。

「そういえば円治君、クリスマスの予定って何かあったりする?」
「いや、今のところは無いよ。どこか遊びにでも行く?」
「そうだね。でも私24はバイト入れちゃってるから25だけで行けるとこでいい?」
「うん。じゃあ当日までには僕が決めておくよ」

とりあえずお昼ご飯をどこで食べるかを考えつつ、私はクリスマスにデートをする約束を済ませる事にした。
とりあえず当日までには円治君が決めてくれるらしい……楽しみだ。

「ん〜……ファミレスでもいい?」
「勿論。なんならファストフードでもいいよ。そこまでお金持ち合わせてないしね」
「あ、お金はいいよ。僕が奢るからさ」
「ダメダメ、私自分が奢らないから奢って貰うのも嫌なの。割り勘ね」
「まあ美琴さんがそういうなら…じゃあ大通りにあるファミレスでいいか」
「そうだね。丁度スーパーまでの道のりにあるし、賛成!」

という事でまずは2人でお昼ご飯を食べに行く。
2人でご飯を食べる……しかも異性となんてほぼ初めて(よく考えたら昨日の夜円治君と食べたのが初めて)で少し緊張しているけど、円治君との食事だし楽しまないとね。



……………………



「ふぅ……お腹いっぱい!」
「だね……やっぱりここのファミレスって少し量多いよね」

ファミレスのランチメニューでお腹いっぱいになった私達。
味もよかったけど、なにより円治君と一緒に喋りながら食べたというのが私を満足にしていた。

「じゃあお次はスーパーか」
「そうだね。何か安売りしてるといいけどな…」

そのまま買い物をしにスーパーに向かう。
軽い運動にもなって、満腹感も少しは収まるだろう。

「ねえ美琴さん……一つお願いしていいかな?」
「ん、何?」

てなわけで早速スーパーに向かって歩き始めたら、円治君が改まって私にお願いをしてきた。

「あの……手繋いでもいい……かな?」
「ふぇ!?あ、うん!もちろん!!」

それは、私と手を繋いでもいいかという事だった。
もちろん私達は恋人同士なのだからいいに決まっている。
なので早速手を繋いでみた……もちろん指の間に指を通す、所謂恋人繋ぎでだ。

「おお、円治君の手温かいなぁ」
「そうかな?でもたしかに美琴さんの手は少し冷たいかな」
「ちょっと冷えてたからね。あと円治君の手、結構大きいね。私の手は小さいから余計そう思えるよ」
「そうかな……まあ美琴さんよりは大きいか……」

手を繋いで歩く私達……これで目的地がスーパーでなかったらもっと良い雰囲気だったろうに。
まあ、これだけでも私は幸せな気分になってはいる……手だけでなく身体も繋がりたいとか思ってる自分がいるのはきっと気のせい……でもないかな。
それだけ私も円治君の事が好きだという事なんだろう……

「えへへ……なんかこういうのって自然と嬉しくなってくるね」
「う、うん……」

ちょっと恥ずかしそうにしている円治君を見ながら、私は円治君の手をしっかりと握って歩いた……



……………………



「んー…あまり安くはなかったなぁ……」
「まあ夕方特売には早かったからね。でも混んでなかったからいいんじゃない?」
「それもそうか……」

スーパーで数日分の食料を買い込んだ私。
別に持ち切れない程買ったわけでもないが、円治君が買った物の半分も持ってくれていた。

「それで、この荷物を美琴さんの家まで運べばいいよね?」
「うん。ありがとうね!」

つまりは、今から円治君を私の家に案内するという事だ。
もしかしたらこうなるのではないかと思い、昨日は帰宅してから勉強もせずにずっと部屋の掃除をして結構綺麗にしたから大丈夫だろう。

「はぁ〜……しかしまだ昼だというのに寒いなぁ……」
「まあ冬だからね。それに24はもしかしたら雪が降るかもって予報が出てるしね」
「なるほどねぇ……」

それはいいとして、今は午後2時と一日の中で一番暖かい時間であるにも関わらずとても寒かった。
別に私は薄着をしているのではなく、普通に制服姿だからそれだけ寒いのであろう。
円治君曰く、どうやら24日に雪が降るらしい……雪でも降るんじゃないかとは思っていたが、まさか本当に降るとはな……

「じゃあ今年はホワイトクリスマスか〜」
「あーそうだね。美琴さんってそういうのロマンチックに感じるほう?」
「全然。だって私雪は嫌いだからね。円治君は?」
「僕もロマンチックとかは思わないかな。雪は嫌いってわけでもないからね」



こんな感じに円治君と楽しく喋りながら歩いていたら……



「あ、もう家か」
「あーこのアパートか。結構近いね」
「でしょ?まあ家にあがってよ!」
「ああ……お邪魔しまーす……」

あっという間に家に着いてしまった。
なので私は自分の部屋まで円治君を案内して、部屋の中に入れた。

「おお……綺麗な部屋だね」
「まあ掃除したばかりだからね。普段はもう少し散らかってるよ」

私の部屋に入るや否や、そう呟いた円治君。

「いやいや、それでも綺麗だと思うよ。それになんか雰囲気が女の子の部屋って感じで清楚だし……」
「そりゃあまあ私これでも女の子ですから」
「あ、そういう事じゃ……うーん、なんて言えばいいのかなぁ……」

部屋が綺麗だと褒めてくれるのはとても嬉しいけど、昨日急いで片付けただけだから素直に喜べない。

「まあ部屋の事は置いといて、とりあえず買った物は冷蔵庫の前に、あと荷物はコタツの横とかどこか適当に置きなよ」
「うんわかったよ。じゃあ待ってるから」
「準備はちゃんとしておいてね」

とりあえずは買った食料を冷蔵庫にしまって、私達は家に向かう途中で決めたある事を実行する事にした。


それは……






「……あっ……円治君、そこ……」
「そこって……ここ?」
「うん、そこ……あっ!」
「えっ!?ど、どうしたの?」
「んんっ……なんか私とけちゃうかも……」






「……それって問題がだよね?」
「うん」

私達は受験生だし、私の家で一緒に勉強する事にした。
今はちょうど数学の問題を解いていたところで、途中の計算がわからなくなったから円治君に聞こうとしたら、なんか自己解決出来てしまったところだ。

「というかさっきから美琴さんの言い方がちょっと艶っぽいというか……」
「仕方ないねだって私魔物だから」
「……いや絶対に僕をからかってるよねそれ。まあいいけどさ……」

円治君が言いたい事は勿論わかるけど、自然とそういう言い方になってしまったのは本当だ。

「まあなるべく気をつけるよ。それで次の問題こそ全くわからなくてさ……」
「あー……ゴメン、それ僕もわからない」
「そうかぁ……じゃあ2人で考えようか」

まあ気を取り直して真面目に勉強を続けようと思う。
私達は共に文系のためか、2人揃って数学が苦手なので、まずは数学の勉強をしている。
どうも複雑に見える計算だと上手く公式に当てはめたり出来ない…どうにか出来ないものか……

「うーん、ここでこの公式使うんじゃないかな?」
「あー、成る程……それでこの式に代入すれば……」
「出来たね……成る程なぁ……このやり方は覚えておいて損はないかも……」

とにかく、2人で勉強するともの凄く捗る。
よく先生とかが、数人で勉強するといつの間にかただのお喋りになってたり遊んでたりするから1人でやったほうがいいみたいな事言っていたが、互いに教え合いながらやる方が遥かにいいと思う。

「……」
「じゃあ次はこの問題……どうしたの?僕の顔なんかジッと見てさ?」
「えっ?あ、いや、円治君の集中してる顔何時も以上にカッコいいなと……」
「そ、そう?そう言われると嬉しいし照れるけど、今は集中して勉強しないと!」
「そ、そうだね!」

まあたしかに少し気を抜くと、相手の顔をジッと見つめちゃったりしてしまうから、先生の言う事も一理あるけどね。



…………



………



……








「さて、とりあえず勉強はここまでにしようか」
「そうだね……ってもう7時か。5時間は勉強してたんだね」
「だね。結構集中出来たし、わからなかったところも解決出来たし、よかったね」

その後もずっと集中して勉強してた私達。
気がつけば外は既に真っ暗で、電気を付けていないコタツに入っているだけなので少し肌寒い。

「そろそろ帰ろうかな…」
「あ、円治君、今から夜ご飯作る気だけど食べていく?」
「えっいいの?」
「もちろん!ただ美味しいかの保証は出来無いけどね」

時間が時間だし、お腹も空いている……だから私は今から夜ご飯を作る事にした。もちろん円治君にも食べてもらうつもりだ。

「という事でちょっと待っててね。コタツとテレビの電源付けてジッと待っててもいいし、なんなら寝ててもいいよ。

でも部屋の探索はあまりしないでね。あとエアコンはなるべく使わないようにしてるから、寒くてもコタツで我慢してね」
「え、あ、うんわかった。おとなしくコタツに入ってテレビ観ながら待ってるよ」

なので、早速私はキッチンスペースに行って夜ご飯を作る事にした。
今日買ってきた材料から何を作ろうか……
とりあえずご飯は今から炊くと時間かかるから無しとして……そういえばパスタ買ったからそれにしようかな……

「ねえ円治君、パスタにしようと思うんだけど……って何してるの?」
「えーっと、テレビのリモコンどこかなと……」

パスタを作る事にした私は、ソース何がいいかを聞きに戻ったのだが、円治君は何故かあまりするなと言っておいた部屋の探索をしていた。
テレビのリモコンを探しているって言ったけど……普通にコタツの上に置いてあるので違うのだろう。

「で、いったい何を探してるの?」
「いやだからテレビのリモコンを……」
「机の上に置いてあるじゃない。正直に言いなさい」
「え?これエアコンのリモコンじゃないの?」
「……あー成る程ねー……」

どうやら本当にテレビのリモコンを探していたようだ。
たしかに私が使ってるのはエアコン用のと一体型のだからわからなくても仕方ないかな。

「あービックリした……円治君が私の下着や性具でも探してるのかと思ったよ」
「いやそれはないから。そんな変態じゃないからね!」
「まあ別に円治君になら私の下着をオカズに使ってくれてもいいけどね」
「ちょっ!?いきなり何を……ところで何か言ってなかった?」
「あーそうそう、パスタ作るけどミートソースとカルボナーラどっちがいい?」
「んー……作り易いほうでいいよ」
「了解。じゃあカルボナーラね」

まあ発見されて恥ずかしい物はそうないけど、詰め込んだだけだったりするのもあるからあまり色々と見られたくはない。
とりあえず円治君もおとなしくテレビを見始めたので、私はカルボナーラパスタを作りに再びキッチンへと向かった……



……………………




「美味かったよ美琴さん。料理上手なんだね」
「いやぁ、簡単なものしか作れないけど、そう言ってくれると嬉しいよ」

丹精込めて……って言うと大袈裟かもしれないが、円治君の為に作ったカルボナーラパスタは好評だった。
自分でも今までの中で1番の出来だとは思ったが、やはり好きな人から褒められると素直に嬉しい。

「それじゃあそろそろ……」
「ああそうだね。明日も学校あるし、仕方ないか……」

そして、円治君は自分の家に帰る。
私は1人暮らしだし、円治君だって似たようなものだから泊まってもいいのにと思いながらも、ベッドの都合上一緒に狭いベッドで寝ないと駄目だし、そうしたらきっと私は円治君とまぐわろうと考えてしまうだろう。
そうすると何が問題かというと、明日も学校があるという事だ。
初めての性体験で夢中にならない自信が無い。きっと夜遅くまで私はセックスをし続けようとするだろう……そんな事したら寝坊確定である。
なので今日はこれでお別れだ……少し寂しいが、受験生としてそこはしっかりしておかないとね。

「じゃあまた明日ね円治君!」
「うん、また明日会おう美琴さん!」

笑顔で手を振りながら、玄関の扉が閉まるまで円治君を見送った。



「……」

私1人のこの家は、今までと何も変わらないのに、円治君が居なくなっただけであの日の夢を見た時の様に寂しさを感じる……

「まあ……学校あるし仕方ないもんね……」

そう自分に言い聞かせながら、私は箪笥の奥からマイローターを取り出して……


「あっ……円治君、そこ……ああっ!」


コタツに入って下着を脱ぎ捨て、円治君に身体を好き勝手に弄られている自分を思い浮かべながらローターを女陰に押し当て、自慰に耽った。
何時もならもう少し遅い時間にするのだが、今日は寂しさを紛らわす為にももう始めたのだ。

「あっ、んっ、ひっああっ!」

昨日もそうだったけど、円治君に身体を弄られている妄想をしながら自慰をすると、いつも以上に感じてしまう。

「んんっ!やっそんな激しくぅっ!」

特に今日は円治君の大きくて温かい手を知ったので、その円治君の手で身体中を弄られていると想うと気持ちもより高まっていく。

「あっ、あっ、イク!イっちゃああああっ!」

そしてそのまま絶頂に向かうまでもかなり速い……いつもは20分前後はかかるのに、10分かからない程だ。

「あっ……ぁ……はぁ〜……」

だが、一回イっただけでは全く満足していない。

「ん……今度は私が……」

だから今度は箪笥の奥からディルドを取り出して、身体も温まってきた事だし今度はベッドに腰掛けるように座りながら、円治君のペニスだと思いながら口に含んだ。

「はむっ……じゅぷ……んあっ……」

そのまま自分の唾液を塗りつけるようにしゃぶる……無機質なディルドとは思わず、円治君のそれに奉仕するように舐めていると思いながらすると自然と下腹部が疼く。

「んっ、そこ…気持ちいい……?」

そのまま自分の唾液で濡れたディルドを、まるで円治君を焦らしているかのように自分の陰唇にあてがい摩る。

「ふふっ……ナカに入れちゃうね……」

ディルドが唾液では無い液体で濡れてきたところで、先だけを軽く挿入する。
先だけなのは、私の処女膜を破らないようにする為だ……破るのは本物の円治君の硬く滾るペニスの役割で、ディルドではないからね。

「ふふ、私のナカでビクビクしてる♪もうイくの?」

このディルドはバイブなんか付いていないので実際はピクリともしてはいないが、気分的にそう口にすると本当に出るのではないかと思えてくる。

「あっ、いいよイっても、わ、私もイっ、イクからっ!」

そのまま激しく擦るうちに、私は再び絶頂に達しそうになるのを感じ、自然と身体が弓なりになって……

「あっああっ!っ〜!!」

盛大に潮を吹きながら、私は再びイった。

「はぁ……はぁ……ふー……」

緩急する身体と共に、私の思考も少しだけ冷静さを取り戻す。

「……私充分に変態だよね……まあダークエンジェルだしいいか……」

ほんの少しだけ後悔するけど、まあ何時もの事なのですぐ気にしなくなる。

「そうだ……24日の夜、円治君を家に泊めよう!」

ただ、折角本物の円治君とシようと思えばできる環境なのにタイミングがなぁ…なんて思ってたが、よく考えればクリスマスとイブは学校が休みだから、夜遅い時間までシてても問題無い事に今更ながら気がついた。
23日は学校あるし、次の日は朝からコンビニでバイトがあるから夜は勉強したいが、その日なら特に問題はないはずだ。

「明日学校で円治君にさりげなく言ってみるか〜……」

なので私は、24日のバイト終わりに会えないかを明日聞いてみる事にした。
そして今更気付いたが、ケータイの番号を聞き忘れていたのでそれもついでに聞いておこう。

「よし!そうと決まればまたオナニーだ!」

明日する事も決まったので、未だ性欲が収まらない私は再び自慰に耽るのであった……
12/12/30 18:37更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
×クリスマスSS
○クリスマスという日を舞台にしたSS

という事できっと甘々なSSが多く投稿されてる中でややビターなSSです。
しかも相変わらず長くなってしまっているので2分割、今回はクリスマスという事ですがイブか当日かどちらに投稿すればいいのか迷った挙句二日連続で投稿するという暴挙にでました(まだ最後まで完成してないのは秘密)。
という事で後編は明日、クリスマスイブ〜当日を舞台に物語は進みます。

なお、本番も僕の現代SS皆勤賞の八木ちゃんも後編でありますのでお楽しみに。
あと今回の分の感想の返信は後編とまとめて大晦日付近に行います。

という事で以下は入れようとしたけどやめた台詞↓

「店長……エロ話もいいですけど、そろそろ本気で恋愛について考えないといつまでたっても店長の頭の上にはピンクのベレー帽が乗ったままですよ」
「大きなお世話よ……いいもん私は黒羽さんと違って大きなおっぱいがあるから男なんかイチコロだもん!!」
「……世の中ロリコンってのがいたりするので必ずしもイチコロってわけではないかと……」
「黒羽さん、ツッコむところそこじゃない……」

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