連載小説
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24〜25日
「いらっしゃいませこんにちはー!」

今は24日…つまりクリスマスイブの夕方、私はコンビニでバイトをしていた。
今日は朝から夜までバイトだ……これ入れた時は彼氏なんかいなかったからヤケで引き受けたのだが、今となっては後悔している。
しかし、自分でいれてしまったのだから誰にも文句は言えない。それに遊びに行くお金を稼いでいるんだと考えれば悔しさも半減する。

「お弁当は温めますか?」

バイトが終わるまであと1時間程……終われば円治君に会える。
今日はバイトの後に会おうと予め約束しておいた……なので私のバイト終わり時間位にコンビニに来るそうだ。

「ありがとうございましたー!」

円治君が来るまでは真面目にバイトだ。
その後は私の家で一緒にご飯を食べて……ぐふふふ♪

「次のお客様どうぞー!」

なんて想像する暇はあまりない……
クリスマスだからか、やたらとケーキやお菓子を買いに来るお客さんがさっきから多いのだ。
実際何人か同じ高校の奴も見かけたし、普段より客足は確実に多かった。




「ふぅ……」
「お疲れ様黒羽さん」
「あっお疲れ様です店長」

丁度お客さんの流れが途切れ一息ついていたら、店長が珍しくレジの方まで歩いてきた。
メロウなので普段は店の奥にある水槽の中に入りっぱなしなのだが、わざわざ足を魔力で人のそれと同じにしてまでいったいどうしたのだろうか?

「何かあったのですか?」
「ううん、ただの気まぐれ……というか、たまにはバイトの子に任せず自分で商品棚のチェックでもしようと思ってね」
「あーそうでしたか」

どうやら珍しく自分で商品棚のチェックをしに来たようだ。
普段は疲れるからとずっと水槽の中から動かずに指示を出したり書類仕事をしているだけなのに……私達が忙しそうにしているのを見て自分も表の仕事をしようと思ったのだろう。

「そういえば黒羽さん、あれからあの男の子と何かあった?」
「あの男の子……あー円治君の事ですか?」
「そうそう……って名前で呼ぶって事は……」
「ええまあ店長の言った通り私の事が一目惚れして好きだったらしくて、あの日から付き合ってます」
「きゃー♪やっぱりそうだったのね!もうエッチした?」
「いえ、受験生ですし学校もあったのでまだ……ですが、今日の夜これからシようと企んでるところです」
「あらそうなの!?クリスマスの性夜って事ね。きゃー♪」
「ちょっと店長!ここレジですから叫ばないで下さいよ!」

だがすぐには行かないで私に円治君とどうなったかを聞いてきた店長。
隠す必要もないので素直に伝えたらやたら興奮して叫び出した……盛り上がるのはいいが、お客さんに聞こえるので叫ぶのはやめてほしい。

「今日上手く行くといいわね♪あっでも残りのバイトもきちんと仕事してね」
「わかってますよ店長」

もちろんこれからの事に期待して変な妄想とかしてはいるが、バイトはきっちりとするつもりだ。
その事を伝えたらちゃんとやってくれると思ったのだろう、店長はトレードマークのピンクのベレー帽のポジションを直しながら上機嫌で商品棚の確認をしに行った。

「へぇー、黒羽さんとうとう彼氏できたんだねー」
「はい。まだする事シてないですけどね」
「あ、うんそーだね」

店長が行ったと思ったら、今度はバイト仲間の人間女性の大学生が話に乗ってきた。
とは言っても、私が早々に下世話な話にしたので引かれてしまったが……魔物が普通にいる環境で育っていても、人間女性には引かれてしまうようだ。
そんな彼女には彼氏もいるようだが、今日は彼氏がタイミング悪くサークルの大会と被ってしまったようで夜まで会えないからと今日のバイトを入れたらしい。お互い悲しいものである。

「そういえば店長って彼氏とか旦那さんっているのかな?」
「あーまあそこは魔物というかメロウの生態について調べればわかると思いますよ」
「ん?まあわかったわ。さて、お客さんもまた増えてきたし話はここまでにしましょうか」
「そうですね」

話をしているうちにまた混んできたので、私達は話を切って真面目にバイトを続ける事にした。
後1時間、頑張りますか……



…………



………



……








「お疲れ様です!では私はまだコンビニ内にはいますがこれで」
「お疲れ黒羽さん。今日この後から頑張ってね♪」
「はい頑張ります。応援ありがとうございます!」
「いえいえ、それよりどんな感じだったか次のバイトの時に教えてね♪教えてくれたらお礼に私の血あげてもいいわよ♪」
「えっ、あ、はい。まあ考えておきます」

あれから1時間経ち、今日のバイトは終わった。
しかしまだ円治君は来ていないようなのでコンビニの中の座るスペースで待つ事にした。

「まだかな円治君……うわ……」

円治君が早く来ないかなと外を見ていると、空から白い物が……雪が降り始めた。

「そういえば降るって言ってたもんな……」

前々から天気予報では雪が降ると言われていたが、さっきまで明るかったので降らないと思っていたのに、今丁度降り始めたようだ。

「……雪……か……」

私は雪は嫌いだ……それは何も冷たくて寒くなるからという理由だけじゃない。

「あの日も……こんな風に雪が降ってたな……」

私が家族に捨てられたあの日……途方にくれていた私を嘲笑うかのように降り始めた雪……
拠り所をなくした私に追い打ちを掛けるがの如く降り積もる雪は、私の身体と心を凍えさせるのには充分だった。
そして何処にも行く宛てがなかった私は、ただその身に雪を積もらせるしかなかった。



そして……雪が降り掛かった自分の姿は……



「あれ?黒羽じゃないか!」

しんしんと降り積もる雪を見ながら物思いに耽っていたら、突然私を呼ぶ声が聞こえてきた。
これが円治君の声だったら嬉しかったのだが、そうではなくて今みたいな心境で1番聞きたくない声だった。

「……なんだよ天野、私に話し掛けてくるなよ。というかなんでここにいるんだ?」
「あーそれは……」
「お、黒羽じゃないか!てっきりもう黒井とどっか行ったと思ってたけどまだコンビニに居たんだな!」
「あ、リア充2号だ」
「八木さんその言い方はどうかと…というか1号はあたし?」
「うん。リア充なんて爆発すればいい。爆発したくないならわたしのサバトに入って」
「どっちも断る。ねえ黒羽さん?」
「えっあ、うん。そうだね愛里花」

天野の声に反応して振り向いてみたら、天野だけじゃなくて小澤や八木、愛里花までいた。
つまりは、ロリファイブが集合していたのだ。

「皆なんでここに?」
「アタイ前に言ったろ?ロリファイブ皆で集まって勉強会とクリスマスパーティーやるってさ」
「あーまあ言ってたけど……」

そういえばそんな話も2日ほど前にしていた気がする。
ここのところは円治君の事で頭がいっぱいだったからすっかり忘れていた。

「とりあえず勉強……というか小澤さんへの集中講義だったけど、それが終わったからパーティーの準備をしていたのよ」
「それでさ、折角のパーティーだからクラッカー欲しいよなって話しになって、他にも色々と買いにきたってわけだ」
「ヒカリの家から1番近いコンビニはここだからね。小澤さんの話じゃもう黒羽さんもいないだろうから問題無いかなと思ってね」
「成る程ね……」

どうやら皆はクリスマスパーティーに使う小物を買いに来たらしい。
というか天野の家もこの近くだったのか……全く興味無かったから知らなかった。

「というか愛里花は彼氏の有吉君はいいの?」
「スバルは今日親戚の家に強制連行なのよ…帰ってくるまであと3時間程ってメールがさっき入ってたから、それまでは皆とパーティーしようかなってね」
「あー……」
「その後は〜……今日こそあたしの初めてを貰ってもらうんだ〜♪」
「あーはいはいアリスだからいつまでも処女だもんねでもそれ何回目の初めてでしょうね羨ましい」
「あたしにとっては初めてなんです〜……というか八木さんもすぐにいい人見つかるって!」
「あーはいはいそうだといいな」

そういえば愛里花は幼馴染みの彼氏である有吉昴君と一緒じゃないんだと思ったら、どうやら有吉君に予定があったらしい。
それでもケータイにメールがあったようで、帰ってくるまで小澤達と一緒にいるようだ。


ん?ケータイにメール……


「あ、そうだ!」
「ん?いきなり大声出してどうした?」
「円治君にメールか電話すれば……って天野には関係ない事だ!」
「あーはいはい」
「天野…それ八木のマネか?」

中々来ない円治君をじっと待ってたけど、連絡を取ってみたらいい事に気がついた私。
円治君の連絡先は昨日きちんと聞いておいたし、未だ現れる気配も無いので早速ケータイを取り出して電話を掛けようとしたら……

「あ、円治君からメール着てた……」

丁度バイト終わり辺りの時間に円治君からのメールが入っていた。
円治君の事しか考えていなかったからすっかりケータイを見るのを忘れていた事をものすごく後悔しながらも、私はメールの内容を確認した。

「ん〜……20分程遅れるか……」

その内容は、思った以上に準備に時間が掛かってしまったから20分程遅れて到着するからコンビニで待っててというものだった。
準備ってのがなんの事だかわからないが、とにかく何かあって遅れるとの事だ。
バイト終わってからそろそろ10分なので、あと10分程待てばいいという事か……

「なあところで黒羽、お前明日は黒井とデートか?」
「え?あ、うん。どこ行くかは円治君に全部任せてるけどその予定。それがどうかしたの?」

とりあえず円治君が遅れてくるという事がわかったのでおとなしく座って待ってようと思ったら、買い物に行かず私が座っている横に座った小澤が話し掛けてきた。
私が明日は円治君とデートかどうかを聞いてきたが……それがどうかしたのだろうか?

「いやまあそれならいいんだ。今日どうせこの後お前は性夜だろ?」
「え?ああ、そういう事か……一応私はそのつもりだけど……」
「その後の予定が無いんだったら明日も勉強会した後に皆で出掛けようって話になったからさ、もし空いてたなら黒羽も一緒にと思ってな」
「成る程ね……まあそういう事だから私はパスで」

どうやら小澤達は明日も一緒に出掛けたりするらしい。
だけど私は明日円治君とデートの予定がある。だから勿論小澤の誘いは断らせてもらった。

「なになに?デート?」
「うおっ!?」

そんな感じに話をしていた私達の間にひょっこりと割り入ってきた八木。
自分の分の買い物が終わったようで、ここのレジ袋を片手にジト目で私を睨んでいる。
見た目だけなら角の生えた女の子のかわいらしい表情ですむのだが、バフォメットという種族が持つ魔力を醸し出されながらだと妙に凄みがあり少し恐い。

「いいなぁ羨ましいなぁ」
「な、なあ八木……トーン落として喋るとさらに恐いんだけど……」
「仕方ないね告白されたとか羨ましいし妬ましいもの。黒羽さんに一目惚れという事は黒井君も立派なサバトの一員になれる可能性があったのになぁ……」
「あーそういう事……」

なんかさっきからキツくあたってくるのでもしかしたら八木も円治君の事が好きなのかと思ったけど、どうやらただ自分のサバトに入ってくれそうな人(私に一目惚れしたからロリコンじゃないかと考えたのだろう)を逃した事と単純に私に彼氏が出来た事への妬みのようだ。
そもそも八木のサバトはサバトという名の科学部だし、文系の円治君が入っていたとは思えないが。

「しかしまあよく降ってるなあ……」
「これは積もるわね……その前にはヒカリの家に戻らないとな……」

ここで外を見た小澤が話を変えてくれた……そのため八木のジト目も無くなり少しホッとした。
そして八木の言うとおり、雪はだんだん大きな粒になり地面に降り注ぐ。
既に道路はうっすらと白い層が出来ている程だ……このままなら確実に積もるだろう。

「なんだ、そんなに積もるのが嫌なのか?」
「そりゃあね。滑るわ寒いわ尻尾に絡みつくわでいい事無いもん。ヒカリは雪が好きなの?」
「いや別に何ともってところだな。たしかに寒いし滑るが憂鬱になる程でもないさ」

そこに天野の奴まで買い物が終わったからかこっちに来た。

「私は大嫌いだ……あの日の事をどうしても思い出しちゃうからね……」
「黒羽……そうだ、お前明日は……」
「行く気はない。その話はもう小澤に聞いた」

しかもさっき小澤が言っていた事を言おうとしたので、私は即断ったのだが……

「じゃあ少しだけでも家に来ないか?」
「はぁ!?何で?」

何をどうしたらそうなったのかわからないが、天野は何故か私に天野の家に来てほしいらしい。

「いやな、一回私の妹と会ってもらいたいなと思ってな……」
「はっ?冗談じゃない、嫌に決まってるじゃん!」

どうやら天野の妹とやらに会ってほしいようだが、勿論そんなものに会うつもりはない。
天野自身も嫌なのに、何故わざわざ更なるエンジェルに会わなければならないのだろうか。

「いや、だが…」
「とにかくそんなものに興味は無い。というかお前自身目障りなんだ、私に絡んで来ないでくれ!」

これ以上天野と話しているとストレスでどうにかなってしまいそうだ……なんて思い始めた時だった……

「ゴメン美琴さん!はぁ……遅れちゃって……ってあれ?ロリファイブが揃ってる……」
「あっ円治君!!」

丁度いいタイミングで円治君がコンビニにやってきた。

「はぁ……あれ?なんかあったの?」
「ううん、偶然揃っただけ。私が円治君を待ってたら他4人がコンビニに買い物しに来ただけだよ」

肩掛けの鞄を掛け、傘を片手に持ち、息を切らしながら入って来た円治君。
おそらく雪の中を傘もささずに走って来たのだろう……思ったよりも早くやってきた。

「それじゃあ早速私の家に行こうか!」
「えっ?もういいのかい?」
「お、おいくろhふむーっ!?」
「アタイらの事は気にすんな。元々今日は黒羽と別行動だ」
「ねえ黒井君、黒羽さんと一緒にわたしのサバトnむにゅっ!?」
「はい八木さんは口閉じててね〜。あたし達は黒井君を待ってる黒羽さんと話してただけだから問題は無いよ」
「んーまあよくわからないけどわかった。それじゃあ行こうか」

円治君が来たし、私は早速家に向かう事にした。
天野が引きとめようとしたり八木が勧誘してこようとしたけど、小澤と愛里花がそれぞれ止めてくれたので、私は円治君と一緒にコンビニを出発した。


「ぷはっ……おい小澤、しょーこはともかくなんで私まで……」
「そりゃお前彼氏来たのに引き止めるとか黒羽に悪いだろ。そもそもお前黒羽に対してだけは説明下手なんだよ」
「ん?そうか?」
「だってお前……黒羽は天野の妹の事なんか知らねえよ」
「あー……だからあんな反応だったのか……」
「馬鹿ねヒカリ……さ、わたし達も買う物買ってさっさと帰ろう!」




…………



………



……







「ゴメン……普通に傘持ってるものだって考えてたよ……」
「いいよ……そのおかげでこう出来るんだから」

コンビニを出た私達は、クリスマスだし2人で一緒にケーキやチキンでも食べようという建前で私の家に向かっていた。
チキンは昨日買っておいたし、店長がコンビニに置いてあるチキンを少し分けてくれたので十分だろう。
ケーキも今日の朝早起きして昨日の補講帰りに買った材料を使って作っておいた。
なので雪が止む気配なく降っている中で、私達は真っ直ぐに私の家を目指して歩いていた。

「でも……なんというかその……ちょっと恥ずかしいな……」
「いいじゃん。私達恋人同士でしょ?」
「そ、そうだけどさ……」

ただ、私は傘を持っておらず、円治君も一本しか持って無いので……

「円治君暖か〜い♪」
「あ、あまりくっついて歩くと危ないから……」
「だって雪が当たっちゃうも〜ん♪」

私と円治君は、2人でその円治君が持っていた1本の傘に入って歩いていた。
傘自体そこまで大きく無いので、あまりはみ出さないようにする為にも出来るだけ円治君にくっついて歩いていた……円治君から感じる温もりが心地良い。

「もうしょうがないな……って美琴さん、翼に雪積もってるよ」
「えっ?あ、ホントだ……!?」

だから円治君にくっつきながら歩いていた私だったけど、円治君に翼に雪が積もってると言われたので、確認してから払い落とそうとしたのだが……自分の翼を見た瞬間、私は身体が動かなくなってしまった。

「っ……!!」
「ん?どうしたの美琴さん……震えてるけど寒いの?」

なぜならば……雪が積もっている私の翼は、白く輝いて見えたからだ。



それは…エンジェルだった頃の私のように、穢れもない純白の翼のようだった……



「美琴……さん?」
「あっ……ご、ごめん円治君。何でも無いよ!」
「いやそんな事無いよね?尋常じゃない程震えてるし、それに……美琴さん泣いてるし……」
「えっ?私が泣いて……」

突然動きを止めて震え始めた私を心配してくれている円治君。
私は心配させないようにと精一杯元気良く応えたが……円治君に言われて気付いたが、私は泣いていた。

「本当にどうしたの美琴さん?」
「……あはは……だから雪は嫌いなんだよね……円治君って私が家族に捨てられたって話は知ってるよね?」
「え……うん。噂で聞いてたし、昨日メアド聞いた時に確認したから……」

私は雪が降っている日に家族に捨てられた。


私は傘など持たず、その身のままあてもなく彷徨っていた。


頭や翼、身体に纏わりつく雪を払い落とそうともせず、とにかく住んでいた街から出て行こうと歩き続けていた。



「そんな私が、あの街から出る辺りで、とある店のショーウィンドウを見た時ね……」



そこに飾られた物が目に映る前に、雪を纏っている自分の姿が目に映った。



「まるで自分がエンジェルに戻ったんじゃないかと思えて……家族に捨てられないんじゃないかと思えて……虚しくなったんだ……」



雪のせいで肌と翼と髪が真っ白になっただけなのに、そんな錯覚に陥る私……
堕ちた事には後悔してなくても、家族の事は未練が募っている。

自分が堕ちていなければ……こんなところで一人寂しく居ないで、今頃家族と取り留めの無い会話をしながら夜ご飯を食べていたはず……
私が堕ちていなければ……家族に捨てられる事無く、妹やお母さん、お父さんと一緒に笑っていたはず……

そんなもしもばかりが頭に浮かんで……心が苦しくなるばかりだ……


「雪で白く染まり上がった自分の翼を見て……私は……ぐすっ……エンジェルに…………」
「美琴さん……」

その先の言葉が出てこない……
折角円治君と2人きりだというのに……雪降る路上で、私は声も無く泣き始めた……


「…………」
「ぐす…………っ!?」



でも、そうやって泣き始めた私に……



「円治……君?」
「大丈夫だよ美琴さん……美琴さんがエンジェルだろうがダークエンジェルだろうが、僕は美琴さんを捨てたりはしない……」




円治君は……後ろから力強く抱きしめてくれた……




「…………ありがと…………」


円治君の温もりを身体全体で感じながら、私は円治君の腕を抱き返した。
私を抱きしめる為に傘は地面に放り出されていて、変わらず降る雪が私達を更に白く覆うが……それで余計に悲しくなる事は無く、円治君からの安心感が私を守ってくれていた。



円治君のおかげか、私の涙はいつの間にか止まっていた……



……………………



「ふぅ……今日は流石に暖房つけるか……」
「はは……二人揃って雪で濡れちゃったもんね」

あれからしばらく抱き合っていた私達だが、流石に路上でしかも雪降る中でずっとそのままのわけにもいかないので、それからは冷えた手を繋ぎながら私の家に辿り着いた。
アパートの入口で私達に積もっていた雪は払い落したが、それでも衣類や髪は既に濡れていた。
このままでは風邪を引いてしまうので、普段は電気代節約で滅多に使わないエアコンを使う事にした。

「はい円治君。このハンガーに上着掛けてね」
「あ、ありがとう。ここに掛けておけばいい?」
「うん」

濡れた上着を乾かす為にエアコンの温風が当たるところに私と円治君の上着を掛けておく。
髪の毛も部屋を暖かくしておけばいつかそのまま乾いて行くだろう。

「まあズボンは……こたつ付けておけばいいか」
「そうだね……」

ついでにずぶ濡れのズボンもと思ったが、これまで脱いでしまうとそのまま私の理性が飛んで円治君を押し倒してしまうかもしれない。
まずはチキンとケーキを食べる予定なのにそれはマズいので、こたつに入りながら乾かす事にした。
特にケーキは私の手作りだからぜひ食べてもらいたいので、今ここで円治君を襲うのは望まない。

「それじゃあチキンの調理してくるからゆっくりしていていてね!」
「あ、僕も手伝うよ!」
「いいのいいの。キッチン狭いから二人だと大変だし、円治君は私の下着でも探してなよ」
「だから僕はそんな変態じゃないってば!!まあそういう事なら大人しく待ってるよ」

だからとりあえず円治君をこたつに入れ、私はチキンを揚げにキッチンに向かった。
昨日仕込んでおいたものと店長から貰った分を合わせたら相当な数になるなぁ……ケーキを入れる分のお腹の余裕はあるだろうか?

とまあチキンを揚げる事数十分……

「出来たよー♪」
「おお!」

全部揚げ終わった私は、一つの大きなお皿に盛り付けて円治君のいるこたつの上に運んだ。
ケーキは……チキンを食べた後、ケーキを食べる直前で良いか。

「それじゃあ食べよう!」
「そうだね!いただきます!!」
「いただきます!!」

という事で私達は早速チキンを食べ始めた。

「う〜ん♪ホクホクでおいし〜♪」
「これって市販の?」
「うん。平らの骨なしのやつはさっき店長に貰った奴だけどね。それ以外は味付けとかは自分でしたけどね」
「へぇ……味付けは自分でやったんだ。すごく美味しいよ」
「へへっ、そう言ってもらえたら前日から仕込んでおいた甲斐があったよ」

齧ると表面がパリッとした食感を与え、中は柔らかなお肉が、肉汁と共に口に入ってくる。
揚げ加減は丁度良かったようで、赤い部分も無ければ硬すぎる部分も無い。
味付けも毎年研究した甲斐があり、円治君好みに仕上がったようだ……

「あ、そうだ!食パンもあるけどいる?」
「食パン?なんで?」
「あのコンビニのチキンをトーストに挟んで食べるとより美味しいのよ。知らなかった?」
「へぇ…何度か買った事はあったけどそのまま食べてたよ……じゃあ試してみようかな……」

円治君と楽しくお喋りしながら食べるチキン……
去年までは一人寂しく食べていたからまあまあだったけど、今年はその為かコンビニのチキンは勿論、自分で味付けした物もすごく美味しく感じた。

「はむっ、むぐむぐ……ごくんっ…………美味い!」
「でしょ!今後もぜひ試してみてよ!!」
「うん!」

こんなに楽しいクリスマスはダークエンジェルになってから……いや、エンジェル時代を含めても初めてかもしれない。
まああの頃のクリスマスは神への祈りがメインだったから、ここまで大騒ぎ出来なかったからな……と言っても日本だからサンタのプレゼント程度はあったけど。

「あ」
「ん?どうしたの美琴さん?」
「い、いやなんでも……それより早くチキン食べちゃおうよ!!ケーキもあるからさ!!」
「う、うん……」

そういえば……円治君へのプレゼント用意してなかった……
チキンやケーキ作り、それにこの後の計画で頭がいっぱいだったからすっかり忘れていた……

「ふぅ……チキンは全部食べ終わったね」
「じゃあケーキ出してくるよ!まだ食べられるよね?」
「もちろん!ちょっと苦しいけど、まだまだ食べられるよ!」
「そう。なら出してくるね!」

円治君へのプレゼント、何あげようかと考えながらもチキンを食べ終えたので、私はケーキを取り出した。

「じゃーん!」
「おおっ!凄いじゃん!これ美琴さんが自分で作ったの?」
「うん。ケーキ自体も飾りのサンタ苺もね!」

私が作ったケーキ……それは二人で食べるには丁度良い程の大きさで、四角く形を整えたスポンジの間に小さく切ったキウイや苺をクリームと一緒に挟み、スポンジの上も白いクリームで塗り、サンタに見立てるように苺にチョコペンやチョコスプレーで顔を描いて飾り、中央には『Merry Christmas』と書いたホワイトチョコを乗せてある。
少しネットを参考にしたけど、紛れも無い私手作りのケーキだ。
虜の果実とか使おうとも考えたけど、それだと露骨過ぎるし、この時期は良く売れるから売り切ればかりで入手し辛いからやめた。

「チョコは円治君にあげるね♪」
「え、いいよ。半分こにしようよ」
「んーまあ円治君がそう言うなら……」

そのケーキを二人で分けて食べる。
真ん中に置いたチョコも円治君の提案で二人で分ける事になったので、包丁で真っ二つだ。

「はいどうぞ!」
「じゃあ早速一口……」

私が作ったケーキが、フォークで切り分けられ円治君の口の中に入っていく……

「……ごくんっ……」
「ど、どう?」

一応味見をしながら作ったから塩と砂糖を間違えて作るようなベタな事はしていないから自分では不味いとは思わないが、はたして円治君の感想は……



「すっごく美味しいよ!!下手な市販品よりはよっぽど美味しい!!」
「ほ、ホントに!?やったー!」



最高の評価と褒め言葉を貰えた。
私は思わずバンザイしながら喜んでしまったが、それほど嬉しいから仕方ない。

「よし、私も食べよっと!」
「うーん、この果物の甘酸っぱさが甘いクリームとマッチしてて更に美味しいね」

嬉しすぎて笑顔が戻らないけど、私もケーキを食べ始めた。
生クリームを円治君の精液に見立てて身体に塗りたくりたくなる衝動を抑えてきちんと作って本当に良かった。

「あ、そうだ……」

とまあ幸せな気分でケーキを食べている時に、私はある事を思い付いた。
それは……


「円治君、あーん」
「えっ……あ、あーん……」


恋人がいたらと誰もが一度は想像するであろう「あーん」を私は円治君にしてみた。
円治君は照れながらも、私がフォークに乗せた一口サイズのケーキをパクッと食べてくれた。

「じゃ、じゃあ僕からも……あーん」
「あーん♪」

そしてお返しにと円治君も私と同じようにあーんしてくれた。
気のせいか、一人でぱくぱく食べていた時よりも美味しく感じる。

「じゃあ次は私ね、あーん♪」
「えっ……まさか残り全部それで……」
「うん!駄目?」
「い、いや駄目じゃないけど……あ、あーん……」

そのままお互いのケーキが無くなるまであーんで食べあった私達。
最後まで円治君は照れながらも、きちんと私が口まで運んだケーキを食べてくれた。


「それじゃあ私骨とゴミ片付けてくるね。とりあえずテレビでも見ててよ」
「ん、わかったよ」

ケーキを食べ終わった私は、チキンの骨や油まみれの紙、それにケーキを食べた時のお皿やフォークを片付けに一旦部屋から出てキッチンに行った。



……………………



「さて……プレゼントどうしようかな……」

とりあえず何も買って無い私は、片付けながらも円治君へのプレゼントをどうしようか悩んでいた。
円治君がプレゼントを用意していなければそれで済むのだが、万が一何か渡してきたりしたら私が渡すものが無いなんて申し訳なくなってくる……
かといって今家の中にある物から選ぶとすると……

「……流石に私の下着を渡すわけにもいかないし、大人の玩具も引かれるよなぁ……」

いくつか思い浮かべてみたが碌なものがない。
そもそもぬいぐるみとか買わないから、それら代用が効きそうなものなんて最初からこの家には無い。

「うーん……どうしようか……」

何かないかと考えているうちに、あっという間に片付けが終わってしまった。
流石にこのままここで考えているわけにもいかないので、早く決めなければ……


「いっそプレゼントの件になる前に円治君を押し倒すとか……ん?あ、そうだ!!」

ただ早く決めようにもいい案はなかなか思い浮かばなかった。
だからいっそプレゼントどうこうの雰囲気になる前に、今回の最大の目的である円治君とのセックスに持ち込もうかと考えたところで妙案が浮かんだ。

「ちょっとベタかもしれないけど……プレゼントは私ってやっちゃおう……」

そうすれば一応プレゼントの問題は解決するし、上手くいけばそのまま円治君とヤれるかもしれない。
ちょっと恥ずかしいけど、これが最善策だろう。
そうと決まればこんな寒いところに長居する必要は無いので、私は早速円治君が待つ部屋に戻る事にした。


「お待たせ円治君……って持っている小さな包みは何?」
「ああこれ?はい、美琴さんへのクリスマスプレゼントだよ!」
「……えっ!?」


部屋に戻った瞬間、円治君が私へのクリスマスプレゼントを渡してきた。
あまりにも唐突かつ予想外だったため、私はさっき思いついた事も完全に吹き飛び頭が真っ白になっていた。

「クリスマスプレゼント……?」
「うん。本当は着てすぐに渡そうと思ってたけど、美琴さんすぐ調理しに行っちゃったからね」
「あ、ありがとう……嬉しいよ!」

私は頭からすっかり抜けていたのに、円治君はちゃんと用意してくれていたようだ。

「あ、開けていいかな?」
「もちろん。まあ大したものじゃないけどね」

中身が気になった私は、円治君から許可も貰い早速包みを丁寧に剥がしてプレゼントを見てみた。


「……わあっ!!」
「ど、どうかな?あまりセンス無いから気にいらないかもしれないけど……」
「全然良いよ!!嬉しい!ありがとう円治君!!」


円治君がくれたプレゼント、それは……


「早速着けてみるね……ど、どうかな?」
「……かわいいよ美琴さん……」
「えへへ……♪」


とても可愛らしい、小さな髪留めだった。
それは白と黒の羽を模っており、遠目に見たら二つが合わさってハートの形に見えた。
早速私は自分の銀色の髪を整え着けてみたら、円治君に可愛いと言われた。
とても嬉しくて、ついにやけてしまう。

「あ、でも……」
「ん?どうしたの?」
「ゴメンね円治君……私プレゼントの事頭からすっかり抜けてて用意してなかったんだ……」

しかし、こうしてちゃんと形ある物を貰ってしまうとなんだか申し訳なくなってきてしまう。

「ああ、別にいいよそんなの。さっき食べたチキンやケーキだって美琴さんが用意してくれたじゃないか」
「うーん……でもあれは私も食べたし、プレゼントって事にはならないし……」
「僕としては美琴さんの笑顔が一番のプレゼントだよ」
「それはそれで嬉しいけど……そうだなぁ……」

円治君も嬉しい事を言ってくれるが、それでも私の気は治まらない……
しかし、ここで先程の『プレゼントは私』をやるのもなんだかなとは思うので、私は……


「えっとさ円治君……じゃあ……ちょっと目を瞑って……」
「ん?目を瞑っていれば良いんだね……………………ん!?」


円治君に目を瞑ってもらい、そんな円治君の顔に自分の顔を近付けて……





円治君の唇に自分の唇を触れさせるだけのキスを……正真正銘ファーストキスを円治君にプレゼントした。





「い、今のは……その……」
「えっと……嫌だった?」
「え……う、ううん……あ、ありがと……」

唇を離して円治君を見ると……最初は何をされたのかわかっていなかった様子だったが、キスをしたとわかったのか顔が真っ赤になっていく。

「は、初めてだったけど……その……柔らかくて甘かった……」
「私も初めてだよ。今思えば私を堕としたダークプリーストは気遣ってくれてたんだろうな……」

初めてのキスの味はレモン味なんかでは無く、とても甘い味がした。
それはさっきケーキを食べたからなんかじゃなくて、円治君とのキスだったからだろう……


「ねえ円治君……この後何か予定あったりする?」
「ううん、特には無いけど……」

ファーストキスも済ませた事だし、私は早速本題に入る事にした。
むしろ今した軽いキスのせいで私の中に火が点いてしまったようだ……身体が火照る……
まるでメルティ・ラヴでも置いてあるかのような甘い雰囲気がこの空間を満たしている今ならその流れに持ち込めるはずだ。

「じゃあさ、今日はこのまま泊まってよ。明日出掛ける時に荷物が必要ならその時に取りに行けばいいしさ」
「え!?ま、まあ準備はしてあるけどさ……彼女とはいえ一人暮らしの女の子の部屋に泊まるのはその……」
「そこは気にしないでよ……それにさ……」

私は円治君を帰さないように出入り口に立ちながら話を続ける。
もう自分の中ではヤる事は決定済みなので、部屋の電灯を一段階暗くする……全部消したら雰囲気は出るけど、円治君の身体や顔がよく見えないからね。

「私……円治君ならいいよ」
「え……な、何が?」
「円治君となら、エッチしても良いよ……ううん、エッチしたいな……」

そのままゆっくりと円治君に近付く私……
少しだけ妖しい雰囲気を出して歩み寄る私に、思わず円治君は後退りして……

「ちょ、ちょっと落ち着いて美琴さうわあっ!?」
「ふふ……なあんだ……自らベッドに倒れ込むなんて円治君もヤる気満々じゃない……」
「え、ちが……!?」

見事に誘導されたように、円治君は私のベッドの上に倒れ込んだ。
倒れた円治君の太股の上に、私はゆっくりと乗り上げた。
私はそこまで重くない……というか、同年代の人間と比べたら軽いのでそこまで苦にはなっていないはずだ。

「円治君は私とシたくないの?」
「え、いや……その……そういうのはまだ早いというか……」
「なんで?もう付き合い始めてから4日だし、それに……」

そのまま円治君の身体の上をゆっくりと進み……


「今日はクリスマス……カップルは皆セックスしてるんだよ……ペロッ♪」
「っ!?」


ゆっくりと円治君の耳元でそうやって言ってから、私は円治君の耳たぶを舐めた。
密着しているので、円治君の身体が興奮と快感で震えているのがわかるし、少しアソコが硬くなっているのもわかる。

「ねえ……シない?」
「う、うん……」

どうやらその気になってくれた円治君……
私はそんな円治君の身体を服の上から弄る……さっき抱きつかれた時も少し思ったが、意外とがっしりとしている。

「ところで円治君……受けと攻め、どっちが好み?」
「えっ…そ、そんなのわからないよ……僕初めてだし……」
「初めてなのは私もだよ。じゃあ始めは私が攻めてあげるね」
「えっと……お、お願いします……」

私はいつも自慰の時にどちらでも妄想していたから出来るはずだけど、円治君は私と違う。
だからまずは私がリードする形でヤる事にした。

「じゃあまずは服を脱がせるね……それとも自分で脱ぐ?」
「う、うん……じゃあ自分で……」

暖房があるため現在そこまで部屋の中は寒くない。
それにシてるうちに身体も温まってくるだろうから、私は早速円治君の服を脱がせようとしたのだが、やはり恥ずかしいのか自分で脱ぐと言われてしまった。
円治君の服を脱がせながら胸とか背中とか脇腹とかを愛撫してやろうとも思ったが、まあそれは脱いだ後からでも出来るし、慌てない事にしよう。

「えっと……こ、これでいい……?」
「パンツはまだいいけどズボンも脱いで……は私が足に乗ってるから難しいか。まあズボンは私が脱がしてあげるね。

それと……わたしの服、脱がしてほしいな……」
「ええっ!?わ、わかった……」

上半身だけ裸になった円治君……さっき服の上から触って感じた通り、やはり締まるところは締まっていてがっしりとした身体つきだ。
私はそんな円治君に私の服を脱がすように促した。

「えっと……こ、こう?」
「うん……ひゃっ!」
「え、なんか変なとこ触った?」
「う、ううん……そのまま続け……んっ」

円治君がゆっくりと私が着ていた服を脱がしてくれる。
2枚重ねて着ているのでまだ肌には直に触れられていないが、私の素肌に小さく刻まれている快楽のルーンと円治君にしてもらってるという事実の重ね合わせで、触られる度に私に快感が流れる。

「じゃ、じゃあもう一枚も……わっ……」
「ん?どうかしたの円治君?」
「いや……ブラしてないんだなって……」
「だってするほど大きくないもん……」

そしてもう一枚も脱がしてもらい、ゆっくりと私の青白い素肌が外気に晒され始め、あとちょっとというところで円治君が驚きの声をあげた。
どうしたのかと思ったら、どうやら私の乳首がそのまま出てきて驚いたらしい。
私の胸はAカップだからブラなんて付ける必要無いから仕方ないよね。

「ほら……私のおっぱい、触ってみて……」
「う、うん……こう?」
「んっ……そう、そのままゆっくりと、撫でるように揉んでみて……」

全部脱ぎ終わり、私も上半身裸になった。
図鑑なんかではよくダークエンジェルの半身に快楽のルーンが刻まれているが、そこまでしたら私生活に支障をきたすどころではないため受験生である私には困るので、私はお腹から胸に掛けて小さく刻んであるだけで、残りは青白い素肌が鮮やかに存在しているだけだ。
それでもきちんと効果があり、軽く胸に触られているだけだというのにゾクゾクと私に快感が走る。

「んっ、んんっ、それでいいよ……あんっ」
「凄い……張りがあって、小さいのに柔らかい……」
「小さいは余計よ……」
「あ、ゴメン……」

ぎこちない円治君の手の動きに合わせ、少しだけ動く私の胸……
大きくないから変形したりしないのが寂しいなと思っていたところで小さい発言されたので……

「許さないよ♪じゅぷ……えいっ!」
「ひゃふっ!?ま、待って美琴さはふっ!?」

私は少しムキになって、円治君の乳首を自分の唾液を塗り付けた指で弄り始めた。
普段自分の乳首を弄っている時と同じように先端を優しくこねたり、時折少しだけ強めにつねってみたりしてみると、面白いぐらいに円治君は反応してくれる。

「んふっ……もうビンビンじゃない。そんなに気持ち良い?」
「や、その……はい……」

そんな円治君の股間では、パンツを盛り上げるように勃っているモノがあった。
私の鼻奥を擽る濃厚な匂いに、私の秘部から蜜が溢れだすのを感じた。

「んふふ……ガチガチで大きいね」
「そ、そうかなうわっ!」

パンツの上から円治君のペニスを撫でる……撫でる度にピクピクと反応してくれる。
それはディルドを使った妄想なんかとは違い、確実に私の手で円治君が気持ち良くなってくれているのを感じられる。

「このまま出しちゃうともったいないから脱がしちゃうね」
「え、あ、わっ!」

先走り液も出てきたようで、亀頭が触れている部分に濡れた跡が見えるようになった。
このままパンツの上から擦り続けて射精されても……まあパンツにこびり付いたザーメンを舐めとるだけだけど……それよりは私に掛けてほしいので円治君のパンツを脱がした。

「……あはっ♪すご〜い!」
「うっ、そ、そんなにジッと見られると恥ずかしいんだけど……」

力強く跳ねながら私の目下に現れた逸物は、少し皮被りだけど、太く熱く滾っていた。
本物見るのは初めてだけど、ディルドなんかとは比べ物にならない程、私の身体は円治君のペニスを欲している。
そんな円治君の逸物を、私は両手で挟みこむようにしながら優しく包み、ゆっくりと上下に扱いてみた。

「初めてだから上手く出来る自信ないけど……気持ち良い?」
「あう……う、うん……うっ……」
「それはよかった。じゃあこのまま続けるね」

鈴口から垂れる先走りを潤滑油に、私は円治君のペニスをグチュグチュと音を立てながら扱き続ける。
時々両手を別々に動かしたりすると大きく跳ね、一段と硬く太くなる。
そして陰嚢が段々縮まっているのが外観からでも見てわかる……つまりそろそろ限界なのだろう。

「ぐっ、み、美琴さ……も、もう……」
「いいよ、このまま出しちゃって」
「う、ぐっ、うわあぁぁっ!!」

だから私は手の動きを速くして、円治君の男根の先端を自分の身体に向けながら強く扱いた。
カリ首を刺激しながら扱いているうちに大きく脈動し、そして……


「うわっ、はっうぅぅ……」
「きゃっ!?アツ…い……♪」


一際大きく跳ねたと同時に、私の胸やお腹目掛けて熱く白い精液が降り注いだ。
円治君の精液が私の肌に掛かる度に、円治君の精液の匂いが私の鼻腔を刺激する度に、自分の性器に全く触っていないにもかかわらず私は軽くイってしまう。

「ふぅ……ふぅ……ご、ごめん美琴さん……」
「謝る事は無いよ円治君。だって私が自分でやったんだもん……」

私の青白い身体を真っ白に染めた円治君のペニスも、十数回でその鼓動を止めた。
一部は翼の方にも掛かってしまったようで、羽の表面には白濁した粘液が垂れている。

「どれどれ……」
「あっ……」

射精も撃ち止めになったので、私のおへそに溜まっていた精液を指で掬い、躊躇い無く口の中に運んでみた。

「ん……精液ってこんな味なんだ……」

口に広がる青臭い苦み……でも、さっき食べたケーキよりも甘美で、幸せな気持ちになる味がした。

「はむっ、じゅる……」
「はうっ!?み、美琴さん、それヤバ……っ!」

もっと欲しいと命令する脳に逆らう事無く、私は射精したばかりで柔らかくなってしまった円治君のペニスを口に含み、先程の射精でこびり付いていた精子を舐め取り始めた。
だが射精したばかりで敏感になっている亀頭を刺激された円治君はたまったもんじゃないらしく、喘ぎながら身体を痙攣させている。

「んぷ……舐め取っちゃった……ってまだ円治君出し足りないようだね♪」
「こ、これは……美琴さんの舌が気持ち良かったから……」
「へぇ……ありがと!」

亀頭や竿に付いた精液を粗方舐め取り、尿道に残っている精液すら吸いとり口を離したら、円治君のペニスは再び勃起していた。


「じゃあそろそろ……」

だから私はもう我慢が出来ず、穿いていたズボンを自ら下ろし、既に愛液で意味を成していない下着も脱ぎ棄て、一糸纏わぬ姿になった私。
絶えず太股を伝い円治君の足に垂れる愛液……特に前戯はいらないだろう。

「んっ、クリが擦れて、気持ち良い……」
「あっ、あっ、まっ、待って美琴さ、あっ」
「ん、射精しちゃいそう?」
「う、うん、けっこ、ヤバいっ!」

それでもそのまま膣内に挿入というのは少し怖かったので、いつも自慰でしていたように円治君のペニスを陰唇にあてがい擦る。
さっきまで私の唾液まみれであった円治君のペニスは、今や私の愛液まみれになっており、部屋の灯りが反射してテカテカとしている。
そんな円治君の亀頭が私のクリトリスを刺激し、それだけでもイッてしまいそうだ。
それは円治君も同じのようで、必死に射精しないように我慢している。

「じゃあ仕方ない、挿入れるね……」

このまま暴発させても良かったけど、また勃たせるのに時間が掛かりそうなので挿入れる事にした私。
膝立ちになって円治君の股の上に移動し、右手で秘所をくぱぁしながら左手で円治君の逸物を調整して……

「ん……挿入って……きたぁ……♪」
「ふっ、くあぁ……」



ゆっくりと、私のナカに円治君のモノが挿入ってきた。



「ふっ、くっ……いた……」
「あ、ぐぅ……美琴さん、大丈夫?」
「う、うん……ちょっと痛い……けど……気持ち良い……」

あまりゆっくりしていると奥に入りきる前に射精してしまうかもしれない……そう思って気持ち早めに腰を下ろしていたので、あっという間に私の処女膜は破れてしまった。
痛みが走り、私はそれ以上進めず半分程挿入した形で動きを止めてしまった。
結合部から流れる血を見た円治君が心配してくれる……そのうちに言葉通り気持ち良さが出てきた。

「でもゴメン……もう……射精る……!!」
「も、もうちょっとだけ我慢して……奥まで……入れるから……!!」

気持ち良さが勝っていくうちに無意識にも円治君のペニスを締めようとする私の膣……
体格が小さいので只でさえキツいだろうに、そのうえ締められたら童貞卒業したばかりの円治君に耐えられるものでは無いだろう。
しかしやはり愛する人の精液は一番奥で受け止めたい……だから私はまだちょっと痛いけど腰を強く円治君に打ちつけた。


「あ、うああぁぁっ!!」
「あっ、ひゅうんっ♪射精てるぅぅう♪」


円治君の亀頭が私の子宮口に触れた途端、一際大きく波打って熱い物が私のナカに迸った。
それが円治君が射精した精液だとわかるまで時間は掛からなかったし、ようやく精液を得た子宮が喜びを快感として私の脳に伝え、私は絶頂に達した。
先程口で感じた円治君の味が私の中に広まっていく……それだけで身体の痙攣が止まらない……


「んっ、あっ、ハァ……ハァ……」
「ご、ごめ……すぐ射精しちゃった……」
「仕方ないよ。それだけ私のナカ、良かったんでしょ?」
「うん……」

まだある程度硬さは保ったままだけど、先程よりも多くの精を私のナカに注いだ後円治君のペニスは射精を止めてしまった。
子宮内に溢れる円治君の精……味わうだけでうっとりとしてしまう……

「ん……まだまだ硬いね……♪」
「ま、まあ……うん……」

それに、多少硬さを失ったと言ってもまだまだ円治君のペニスは勃起を保っていた。


「だったらぁ……」


まだまだ出来ると考えた私は、一旦円治君のモノを抜く……私の愛液と円治君の精液、それに処女膜を破った時の血が付いており、思わずしゃぶりたくなったが我慢して、円治君にお尻を向けるようにして四つん這いになった。


「今度は円治君から攻めてほしいなぁ♪」


そして、円治君に見せつけるように、私は自分のマンコを自分の手で押し広げた。
そこからドロッと私の足に垂れていく自身の白い欲望を見た円治君が生唾を飲む音が静かな部屋によく聞こえた。

「ほら……そのガチガチおちんぽを……ドロドロおまんこにぃ……挿入れて♪」
「う、うん……」

返事をした後、ガシッと円治君の手が私の腰を掴む。
そしてしばらく経たないうちにお尻や太ももに硬くて熱い物が当たるようになった……紛れもない円治君のペニスだ。

「んっ、円治君…焦らさないでよぉ……」
「いや、そんなつもりはないんだけど……上手く入らなくて……」

やはり初めてという事でなかなか狙いが定まらないらしい……私の性器を擦っているだけで挿入まで行かない……

「ああもう仕方ないなぁ……」
「ご、ゴメン美琴さん……」
「いいよ。ん……これから上達していけばいいんだからぁっ♪」

これはこれで気持ち良いのだが、あの挿入感を早く味わいたい私にとっては焦らされ続けて堪ったものじゃ無かった。
だから私は腕を後ろに伸ばして円治君のペニスを持っている手に添え、自分の性器の入口まで誘導した。
そのおかげもあってゆっくりと、それでもさっきよりかはスムーズに円治君のペニスが私のナカに入ってきた。

「ふっ、んっ、は、挿入った?」
「う、うん……すごく締め付けてくる……」
「だって円治君のおちんちん、離したくないんだもん……円治君が気持ち良いように動いて良いからね♪」
「あ、うん……わかった……じゃあ動くね……」

私の膣壁を押しのけて最奥まで進んできた円治君のペニスの感触に、私の身体は自然と火照り高鳴る。
円治君の好きなように動いて良いと言ったら、始めはゆっくりと、そして段々早く前後に動き始めた。

「あっ、あっ、ふっ、んっ、はっ」
「う、な、なんか絡んでくる……き、気持ち良い?」
「うっ、うんっ!きもちいいっ!!円治君のおちんぽきもちいいっ!!」

ゴリゴリと私のナカを刺激する円治君のペニスに夢中になっている私……興奮のあまり翼をはためかせ、私達の周りに黒い羽根が大量に舞う。
それはさながら堕落神様が祝福してくれているようだ……いや、実際してくれているだろう。
ただ堕落神様には悪いけど、私はパンデモニウムに行くつもりは無い…こんな状況でも明日は円治君とデートだって事を覚えているからね。

「ん、くっ、み、美琴さん、僕、もう、また……」
「わ、私も、イキそう、だから、一緒に、い、イクのっ!!」

慣れてきたのか、私が感じるところを中心に攻めてくる円治君。
もうすぐイキそうなところで、円治君もイキそうになってきたらしい……

「ふっあっはっあ、イク、イクぅぅぅぅぅっ!!」
「あぐ、そ、そんなに締め付けられたら、で、射精る!!」

一緒にイキたかった私は、自分がイク寸前に自然と膣内を蠢かしていた。
そんな不意打ちに円治君は耐えられなかったようで、私の奥で強く脈動を開始した。
ドクドクと注がれる大量の精液に、私は頭が真っ白になる程の快楽を感じた。

「ふぁ〜♪気持ち良いよぉ……♪」
「ぼ、僕も……気持ち良いよ……」
「堕ちて良かったよぉ……円治君も私と一緒に堕ちようねぇ♪」
「うん……美琴さんと一緒なら……」

快感の中、何気なく呟いた事だったけど、円治君は答えてくれた。
堕ちた事によって家族に捨てられた私は、本当に堕ちて良かったのかとずっと心の片隅に引っ掛かっていたけど……この日の為に堕ちたんだと思うと、自然と嬉し涙が溢れてきた。

「円治君もっとぉ……」
「うん……うっ……その腰つき、凄く来る……」
「もっといっぱいシて、二人で堕ちていこうねぇ〜♪」

家族に捨てられた事は今でも悲しい……でも、それ以上に円治君と出会えた事は嬉しい。
私はもっと嬉しさを感じる為に……より二人で堕ちていく為に……腰をくねらせ円治君にセックスの催促をした。



「私をぉ……淫らな天使のように白濁で染めてぇ♪」
「淫らな天使のようにって……もう十分淫らだよ……」
「ひゃっ!つ、翼の根元、擦られると気持ち良いっ!!」
「やっぱり人に無い部分は敏感だったりするんだ……くっ、締め付けがまた強く……」






私達の性夜……もとい聖夜は、まだまだ続いて行くのだった……






====================



「お前はもう私の娘ではない」



またこの夢か……



「不潔です。近寄らないでください『姉さんだった人』」



おそらく円治君とシているうちに疲れて寝てしまったのだろう……



「せめてもの情けだ…この袋には数ヶ月分の生活費が入っている。これを持って家から…この町から出ていきなさい」



幸せな気分を打ち消すかのように、私を捨てた家族が出て来ては、私に辛い言葉を掛けてくる……



「この家から消えなさい『堕ちた者』!!」



お母さんのキツい言葉が、私の心を締め付ける……



「そして二度と私達の前に現れるな!!」



妹の冷たい視線が、私の心に穴をあける……



「早く行きなさい……私達まで穢れてしまう前に!!」



お父さんの辛辣な態度が、私の心に重くのしかかる……






でも……



「……大丈夫だよ……」



そんな私を……



「美琴さんは美琴さんだよ……」



優しく抱きしめてくれる……



「君は僕の大好きな、美琴さんだよ……」



円治君が、私の傍にいてくれる……



「一緒に堕ちてあげるから……僕と一緒に幸せになろう!!」



円治君の言葉が、私の心を治してくれる……



「僕はどこまでも、君と一緒だから!!」



私の心を、幸せでいっぱいにしてくれる……





いつの間にか、私を責める家族の姿は無く、私と円治君の二人だけになっていた……





====================



チュンチュン…チチチチ…

「んっ……ふぁ〜……ふぅ……ふふっ……♪」


なんとまあ最高の目覚めだろうか。
まさかあの日の夢の中に円治君が現れてくれるとは……おかげで悪夢は見ずに済んだ。

「すぅ〜……ぐぅ……」
「ふふ……ありがとうね円治君……」

目覚めた私の耳に寝息が聞こえてきたので顔を横に向けると……気持ちよさそうにすやすやと眠る円治君がそこにはいた。
男の子にこう言うのもアレだが、なんとも可愛らしい寝顔である。
そんな円治君に、私の夢の中に出て来てくれた事のお礼を言った後……

「すぅ……んんっ…………」
「ふふっ……昨日あんなに出したのに……んっ♪」

生理現象でガチガチに勃起している円治君のペニスを外気に晒し、私は口に含んだ。

「んっ……んん……」
「じゅる、じゅぷ……ん〜♪」

未だに私の子宮内に円治君の精液が感じるぐらい昨日は私の中にいっぱい出してくれたのに、まだまだ円治君からは濃厚な精の匂いが漂う。
もしかしたら昨日は夜遅くまでシていたから円治君は私の魔力でインキュバス化しているかもしれない……それなら遠慮はいらないだろう。

「んる……れる……じゅぅ……」
「んん……んんっ……」

ねっとりと竿を舐めあげ、鈴口を舌先で押すと、先走りが溢れ出る。
これも円治君の精の味はして美味しいのだが、ただ私が欲しいのはそんな薄い物では無い……

「じゅる、ぐぷ、んふ、じゅうぅ…」
「んんっ、んんっ!!」
「んっ!?んー♪」

私は顔を上下に動かし、口と舌で円治君のペニスを激しく刺激した。
その甲斐もあって、円治君は私の口内に青臭くて癖になっている精液を沢山射精した。
昨日あれだけ射精したのに関わらずより濃く、それでいて長く多く射精しているので、やはり円治君はインキュバスになっている可能性が高い。

「んく……ん……ん……ぷはっ♪」
「ん〜…………おはよ美琴さ……って何してるの?」
「おはよう円治君!何って朝フェラだよ」
「へぇ……へ?は!?」

円治君のザーメンをゴクゴクと味わって飲んでいたら、円治君が目を覚ましたようだ。
起きて早々下半身が裸でさらに私が自身のペニスを咥えている光景を見た円治君は軽く混乱しているようだ。

「もう一杯って行きたいところだけど…今日は出掛けるから一発だけにしておくね」
「あ、う、うん……」

折角円治君が起きた事だし、まだまだ元気そうだったのでもう一回出してもらおうとも考えたが、今日はデートなので軽くお掃除フェラだけして私は口を離した。
朝から一番の御馳走をいただいた私は、上機嫌で朝ご飯を作りに行った。



そして……



「ごちそうさまっと。ねえ円治君、それで今日どこに行くの?」

朝ご飯のベーコンエッグトーストも食べ終わり、そういえば今日の目的地を聞いていなかったなあと思い、円治君に聞いてみたのだが……

「んーと……聞いた後でも嫌とか言わないでね」
「言わないよ。円治君とだったらどこにでも行くよ!」
「そう……じゃあ……」

何故かやたらともったいぶっている円治君。
嫌とか言わないでって……どこ行く気なのだろうかと思ったら……


「ここから電車で7駅ぐらいの『神言(かみこと)市』に行こうかと」
「……えっ!?」


神言市に行こうと言い始めた円治君。
神言市……それは、私がエンジェルの時に住んでいた反魔物地区の名前だった。

「な、なんで……」
「美琴さんの家族に会いに、だよ……」
「い、嫌だ!!なんでそんなところ行こうだなんて言うの!?」

どこにでも行くとは言ったけど……そこだけは死んでも行きたくない。
私がどこ出身だとかは別に隠してない……周知の事実だから円治君が知っているのもわかるけど……なんでそんなところに行きたいなんて言い出したのかわからなかった。
それだけでなく、私を捨てた家族に会いに行くなんて……折角の幸せの気分がどこかに霧散してしまう……
だからその街に行こうだなんて言い出した理由を円治君に尋ねた。

「んーまあ一つのけじめと言うか……」
「けじめ?」
「いや、言ってやろうと思ってね…『あんたらが見捨てた美琴さんは、僕が必ず幸せにしてやるから貰う、あとで返せって言っても絶対返さないからな』ってね」
「……円治君……」

どうやら、私の家族に宣言をしに行きたいらしい。
他の人からしたら『何カッコつけてんだこいつ』みたいに思われるかもしれないけど……私からしたらその言葉は嬉しかった。

「それで、今日はそこに行くって事で良い?詳しい場所まではわからないから案内は任せたいんだけど……」
「……うん、わかった。行こう」

円治君の中ではもう言いに行く事は決まっているようだし、それに今朝見た夢みたいな状況だし、私は自分を見捨てた家族の下に行くことを決めた。
会うのは実に3年ぶりだが……そもそも会ってくれるだろうか……




…………



………



……








「ほとんど変わって無いなぁ……でも何軒かお店変わってるや……」
「ここが美琴さんの生まれ故郷……たしかに魔物の姿はほとんどないね……」

円治君と一緒に生まれ故郷までやってきた私。
別に魔物がこの街を歩いているからと言っていきなり襲われたりこそしないが、自分はこの街を出ていった身なので気分的にあまり姿を晒したくは無いので、私はフード付きロングコートで顔を含め身体のほとんどを覆い隠していた。
円治君と繋いでいる手だって、本当は直に触れあっていたいけど私の手は青白いから手袋を着けているぐらいだ。

「美琴さんの家ってあとどれぐらい?」
「んー、もう少ししたら見えてくるかな……あ、ここ右に曲がるね」

3年間全く近付いてすらいなかったが、あまり風景は変わらないのですんなりと自分の育った家まで辿り着けそうだ。
まあ幼い頃通っていた駄菓子屋や、3年前から経営が危なそうだったコンビニなんかは潰れて、シャッターが閉まっていたり、違うお店になっていたりしているけど。

「あ……ここは……」
「ん?この路地がどうかしたの?」
「いや……私はここでダークプリーストに遇って、堕ちたんだ……」
「へぇ……じゃあここが今の美琴さんの……」

家に向かう途中、私はある路地が目に入った。
それは3年前の冬、私が初めて快楽をその身に知り、ダークエンジェルになった場所だった。
ある意味自分の人生が再スタートした場所だ……思い出にもなるだろう。
あの日私がここでクラスメートに絡んでいるダークプリーストに遇わなかったら、私は今頃どうなっていただろうか……

「……じゃあもう少ししたら家だから、ちゃっちゃと行こうか……」
「うん……」

まあそんなもしの事を考えても仕方が無いので私達は歩みを進めた。
堕ちていなければ家族に見離されてはいなかっただろうが……きっと円治君に出会う事も無かっただろうから、どっちが良いかなんてハッキリと言えないからね。



「……着いたよ……あの青い屋根のちょっと大きな家が私の家……」
「ああ、あれかぁ……」

そのまま歩く事数分。とうとう私の家族が住む家に辿り着いた。

「……あれ?なんだこの紙……」
「空家って書いてあるよね……」

だが、何故か家の玄関には『空家』と書かれた紙が貼られていた。

「え、どういう事?」
「わからない……お母さんもお父さんもこの街の教会で働いているから引っ越しは考えにくいんだけど……」

空家という貼り紙があるという事は、もうこの家に家族は住んでいないという事だろう。
事実黒羽と書かれた表札も無くなっているし、この家から引っ越したのは間違いないだろう。
だが……何故引っ越したのかは見当がつかない……
一瞬家を間違えたのかもと思ったが、紛れも無くここは自分が15歳まで住んでいた家だ。

「うーん……とにかくここには美琴さんの家族はいないって事?」
「多分……」

どうしていないかはわからないが、とにかくいないのでどうしようかと立ち往生していたら……


「あら?どうかしたのあなた達?もしかして黒羽さん達に用があったの?」
「え?あ、はい……」


後ろから声を掛けられた。
振り向いてみると、昔から近所に住んでいたおばさんが買い物帰りか近くにあるスーパーの袋を持って立っていた。

「残念だけどもう黒羽さん一家はこの街にいないよ」
「え、そうなのですか?」
「ええ……あれは丁度1年前だったかな……ちょっとした不幸があってね……」
「不幸?」

おばさん曰く、どうやら何かしらの不幸があってこの街から引っ越したらしい。
いったい何があったのかと思ったら……



「いやあ……黒羽さん一家、皆堕天しちゃってね。この街に住めないからと近くの親魔物地区に引っ越していったのよ」
「はあっ!?それホントですかおばさん!?」


なんと、家族全員が私と同じく堕ちたらしく、この街に住めないからと引っ越したらしい。


「おばさ……あら!?美琴ちゃんじゃない!!久しぶりねぇすっかり変っちゃったのね〜」
「あ、ども……じゃなくて、皆堕天したって本当ですか!?」
「ええそうよ。なんでも妹の琴音(ことね)ちゃんがダークエンジェルに襲われて、そのまま琴音ちゃんがお母さんまで堕として、お母さんがお父さんを堕としたそうよ」
「なんとまあ……」

どうやら1年前……つまり私が堕ちてから2年後に、妹も堕とされてしまったらしい。
しかも私と違いお母さんをそのまま堕とし、一家全体を快楽の渦に叩きこんだらしかった。
あまりもの衝撃の事実に私の思考は停止してしまった。

「じゃあ今美琴さんの家族はどこに?」
「おや?あんたは……美琴ちゃんの彼氏かい?」
「はい。それで美琴さんの家族の引っ越し先はわかりますか?」
「わかるわよ。もし美琴ちゃんがここに来る事があったら伝えといてって言われてたからね。えっとね……」

驚きで一切動けない私の代わりに、円治君がいろいろおばさんから聞いてくれた。
どうやら堕ちた後、家族全員で私に謝りまた一緒に住もうと考えたようだが、私の行方がわからなかった為どうしようもなかったらしい。
そこでもし私が何かの拍子で戻ってきた時に、引っ越し先住所を教えてほしいと隣のおばさんに頼んでおいたようだった。

「ありがとうございました。それでは俺達はこのままここに向かってみます」
「ええ。美琴ちゃん、魔物でもおばさん気にしないから、たまには顔を見せに来てね!」
「はい。ではまた!」

とりあえず当初の目的とは変わってきたけど、私は堕ちた家族に会いに行く為に円治君と手を繋ぎながら教えられた住所に向けて歩き始めた……



…………



………



……








「……っと、ここかな?」
「……なんか禍々しいわね……」

教えてもらった住所は、丁度今私が住んでいる街と堕ちる前に住んでいた街の間ぐらいにある街だった。
今住んでいる街程ではないが、魔物の姿も沢山見掛けたので、さっきと違いフードは被らず、手袋も着けずに円治君と手を繋ぎ歩いていた。

「じゃあ呼び鈴押す?」
「ちょ、ちょっと待って……まだ心の準備が……」

そしてその住所の家に辿り着いた……黒い家で、なんか男女の交わりを表したような変な飾りが屋根に付いていた。
おそらくここに家族が住んでいるのだろうけど……たとえ相手も堕ちているとはいえ、一回は私を見離した家族……どんな気持ちで会えばいいのかわからなかった。
だから家の前で呼び鈴を押すべきか迷っていたのだが……



「あれ?うちにお客さん?わたしの家に何か用?」
「ひっ!?」

後ろから、昔はよく聞いた声が聞こえてきた。
それは……紛れも無く妹の琴音の声だった。

「え、えーっと……」
「ん?あれ……あなたもダークエンジェル……ってまさか!?」

恐る恐る振り返ってみると……



「まさか……美琴姉さん?」
「や、やあ……久しぶり琴音……だよね?」


そこには琴音の顔をしたダークエンジェルと、友達だと思われる知らないダークエンジェルの二人がいた。
琴音の顔をしたほうのダークエンジェルの反応から、どうやら本当に堕天した琴音らしい。

「美琴姉さん!!」
「うわっと!?」
「不潔だなんて言ってごめんなさい美琴姉さん!!」

琴音も私だとわかった瞬間、勢い良く私に抱きついてきて、あの日私に言った事について謝り始めた。

「うん……いいよ……エンジェルだったらあんな反応でも仕方ないしね……」
「でも……わたし姉さんに向かってあんなにひどい事を……姉さんは姉さんなのに……」
「だからいいって……わかってくれたんだし、立場が逆ならきっと私もそんな態度取っていただろうしね……」

私の胸に顔を押し付け、涙を流しながら本気で謝る妹の姿を見て許せないなんて言えない。
私は琴音の頭を撫でながら、許したと伝えた。

「よかったね琴音ちゃん、お姉さん帰ってきて」
「うん……」
「そういえば……あなたは琴音のお友達?」

ひとしきり落ち着いた後、私は琴音と一緒にいたダークエンジェルの事が気になったので、友だちかどうかを聞いてみた。

「はい。私は琴音ちゃんの友達の美夜(みや)です」
「えっとね……美夜ちゃんはわたしにエッチな事教えてくれた子なの……」
「へぇ……美夜ちゃんが琴音をね……」

どうやらこのダークエンジェル……美夜ちゃんは琴音を堕とした張本人らしい。
また妹とこうして話を出来るようになったのは美夜ちゃんのおかげか……そう思うとこの子は恩人という事になるのか……

「ところで姉さん、後ろにいる男の人はもしや……」
「あ、うん。私の彼氏の黒井円治君。もちろん私の処女は彼にあげたわよ」
「へぇ……美琴姉さんの妹の琴音です。よろしくお願いします」
「あ、どうも。お姉さんの彼氏の円治です」

ここで琴音も円治君の存在に気付いたようだ。お互い自己紹介を始めた……

「あ、そうだ姉さん。もうお母さん達には会った?」
「いやまだだけど……」
「じゃあわたし呼んでくるよ!!待ってて!!」
「あ、ちょっと……」

そしてそのまま、家に駆け上がって行った琴音……
正直一番キツい言葉を掛けてきたお母さんに会うのはまだ緊張しているから待ってほしかったが、家の中から「お父さーん!!お母さーん!!姉さんが彼氏連れて家に来たー!!」なんて叫んでいるのが聞こえたので来てしまうのだろう……

「う〜……」
「大丈夫だよ美琴さん……きっと大丈夫……」
「円治君……」

緊張でガチガチになっている私の手を強く握ってくれる円治君……
そのおかげで、少しだけ緊張が和らいできた……本当に円治君がいてくれてよかったよ……

「ほらあれ!美琴姉さんだよ!!」
「ほ、本当なの琴音!?本当に美琴がいるの!?」
「美琴!そこにいるのか!?」

しばらくして玄関から出てきた琴音……それと一緒に聞こえてきた、お父さんとお母さんの声……
すぐそこにいる両親の声を聞いて、また身体が硬直してしまった私……

「美琴!!」
「ああ……本当に美琴だ……」

そして、玄関を開け、私の目の前に……

「お父さ…………え?」
「おかえり美琴!そしてゴメンね……馬鹿な事を言ったのを許してちょうだい……」
「すまなかった美琴!!よく私達に会いに来てくれた!!」
「あ、いや……えっと……」

聞いていたとおりダークエンジェルになったお母さんと、立派なインキュバスになったお父さんが現れ、私を見るなり『そのままの格好』で謝ってきた。

「あの〜……お父さん?お母さん?」
「美琴……堕ちる事の素晴らしさ、今になってようやくわかったわ……あの時は酷い事言ってごめんなさい……」
「あ、うん。それは琴音にも言ったけどもういいよ……それよりさ……」
「美琴……本当に済まなかった……今にして思えば少しエロくなっただけで美琴は美琴なのに……」
「あ、うん。それも琴音に言った……ってか二人とも?」

私に次々と謝ってくる両親……だが、私が気になるのは態度よりも今の姿だった。

「あのさ……何してるの?」
「何って……セックスだけど」
「いや……わかるけどさ……」

私の前に現れた両親は……お互いの性器で繋がった状態だった。
お父さんがお母さんを持ち上げて、背面立位の状態で今目の前でずっと喋っていたのだ。
二人から漂ってくる性臭からして、おそらくずっと繋がりっぱなしだろう……

「休日はずっとこんな感じ?」
「うん。むしろ家にいる時はこんな感じ」

どうやら二人ともずっとこんな感じらしい。
いくらなんでもヤり過ぎだろう……いや、堕落の使徒ならこれが理想的かもしれないけど……現代日本でこれはちょっと引く……

「……パンデモニウム行けばいいのに……」
「それも考えたんだけど……やっぱり美琴の事が心配でね……帰ってきた時にいなかったら会えないから……」
「とりあえず琴音が大学生になるまでは時折日帰りツアー気分で向かうだけにしたんだよ。それでもなるべくすれ違わないよう、短い時間でね」
「ああ、そう……ありがと……」

どうせなら時という概念が無いパンデモニウムに引き籠ればいいと言ったのだが、どうやら私の事がありそう行く気はなかったらしい。
若干呆れつつも、ちゃんと私の事を考えてくれていた事が少し嬉しかった。

「……」
「……美琴さん?もしかして……」
「いや、実行しようとか考えてないから安心してね!」
「……」

そんな二人の様子を見ていいなぁと思っていたが、気付いたら円治君が「まさか僕達もやりたいだなんて言わないよね?」とでも言いたそうな顔で見ていたので、とりあえず誤魔化した。円治君の表情からして誤魔化しきれてはいないだろうけどね。
でも好きな人と繋がりっぱなしとは……正直羨ましい。
受験終わったら、一回円治君に頼んでやってもらおうかな……

「そういえば美琴、その男の子は美琴の彼氏かい?」
「うん。ほら円治君、予定とは大幅に変わっちゃったけど挨拶しよっ!」
「あ、うん。えっと…僕は黒井円治と言います。少し前から美琴さんとお付き合いさせてもらってます」
「円治君ね。美琴の傍にいてくれてありがとう。美琴を幸せにしてやってくれ」
「も、もちろんです!!」


そんな円治君の紹介も済んだし……


「まあ皆堕ちたのも確認できたし、円治君の事も紹介できたし、私そろそろ行くね!」
「あら…もう少しゆっくりしていってもいいのよ?新しいお家見て行かない?ちゃんとあなたの部屋もあるのよ?」
「また年末年始辺りに来るよ!受験シーズンだから明日から大晦日まで学校あるし、それに今日は円治君とデートだもん!」
「なら仕方ないね。デート楽しんでね美琴姉さん!」
「うん!じゃあまた年末に!」
「美琴、いつでも気楽に帰ってらっしゃいね!」

堕ちたけど変わらない家族も見れた事だし、私達は家を出発する事にした。


「……良かったね美琴さん……」
「……うんっ!」

ある意味変わり果てたけど、変わらない家族に会えて良かった。
そして、私はもう家族の下に帰ってきても良いという事がわかって本当に良かった。
これも全部円治君が私の家族に会いに行こうと言ってくれたおかげだ……

「それでこれからどうする?美琴さんか僕の家に行って勉強する?」
「んー…折角のクリスマスだし、もう少しどこかに行きたいかな……」
「だったらちょうど帰り道に新しく出来たショッピングモールがあるからそこに行ってみる?」
「おーいいねそれ!ショッピングしよう!」

そんな円治君と私は恋人になれて良かった。
始めは一目惚れと言われ驚いたが、円治君が私に惚れてくれて良かった。

「そこで円治君へのプレゼント買おう!」
「え?昨日最高のプレゼント貰ったから別にいいよ!」
「いやいや、貰ったのと同じ分返さないとね」
「まあ……別にいいけど、買わないと気が済まないんでしょ?」
「おっ!私の事よくわかってくれてるじゃん!」

そして私達はクリスマスデートを続ける……
円治君の提案でこの街と私達が住む街の間にある街に出来たショッピングモールへ向かう事になったので、私はそこで円治君へのクリスマスプレゼントを買う事にした。


円治君がくれた最高のクリスマスプレゼント……



一つは、私を可愛く魅せられる髪留め。



もう一つは、円治君の童貞。



そして最後に、私の家族。



これらをくれた円治君に返せる物など売ってはいないだろうけど……それでも貰ってばかりじゃ悪いからね。

「じゃあ早速行こ……あ、雪……」
「あーまた降ってきたね……大丈夫?」
「……」

再び手をギュッと握り、ショッピングモールに向けて出発しようとしたら……空から雪が降ってきた。
私は雪が嫌いだ……寒いし冷たいし……


「……うん、大丈夫!」


でも、それだけだ。

もう自分が見捨てられた日を思い出したって、雪を纏った自分がエンジェルに見えたって、ただ懐かしいとしか感じないだろう。
それもこれも、円治君のおかげだ。


「ホワイトクリスマス……ロマンだね♪」
「はは……よく考えたら僕達二人とも黒なのにね」
「へ?ああ、名字か……たしかにそうだね!」


私達は楽しくお喋りを続けながら、雪降る街を歩いて行った……






ある雪の降る冬の日、私は堕ちて黒くなった。
黒くなったから、失ってしまった今までの人生……
それらを想うと、私はいつも寂しくなり、悲しくなっていた。

そんな私に、雪よりも白く、天よりも眩しい黒が手を差し伸べてくれた。
雪の中震える私を、温かな光で包んでくれた人がいた。
その人といたら、私の中の寂しさや悲しみは消えていた。
その人は、私が堕ちて無くしたものを、取り戻してくれた。

これは、私と円治君の物語。
独りの少女が、一人の少年に救われる物語……なんていうのはちょっとカッコつけかもしれない。
それでも私は、彼に救われた。
白き聖夜に、彼に救われた……


私は今日の事を忘れないだろう……


黒き者達の……白き聖夜の物語を…………
12/12/30 18:36更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
という事でクリスマス(を舞台とした現代)SS後編です。
あまりDエンっぽく出来ませんでしたがいかがでしたか?
はい、もちろんハッピーエンドですよ。

ちなみに物語自体はここで終わりです。
もう一話大晦日というおまけもありますが、エロは無いどころかまず円治が出ないので、読む気力がある方は読んで下さい。
内容はタイトル通り大晦日の美琴の話で、ここまでで明かしてなかった比較的どうでもいい真実が書かれているだけです。

誤字・脱字・クリスマスになんてもん投稿してんだゴルァ等ありましたら遠慮なく感想欄に書いて下さい。

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