連載小説
[TOP][目次]
前篇
「はあ、はあ…。なんで…こんなことに。」
藤島洋輔は、山道を一心不乱に走っていた。
普段の運動不足が仇となってすぐに足はもたつき、体は新鮮な空気と休息を求めて悲鳴をあげる。しかも走っている山道は落ち葉や腐葉土が積りその陰に小石が散乱していて、平坦でアスファルトによって舗装された道に慣れきった現代人にとっては非常に走りにくい。既に三回はこけているし、数えきれないほど躓いてしまっている。

しかし、洋輔は決して足を止めようとはしなかった。

なぜなら…

「待てと、言ってんだろうが!!!」
後ろから魔物娘、ウシオニが追ってきているからだ。
ジパングでもその存在を怪物として恐れられる魔物娘は、邪魔な木々や岩をその大きな蜘蛛の足で蹴散らしつつ、洋輔のもとへ猛然と迫りながら吠える。周りに生える木々の葉がびりびりと震えるほど大きな声が後ろから響き、洋輔は思わず首をすぼませてしまう。その声を聴いていると疲れだけではなく恐怖も重なって足が震えてしまった。それでもなんとか足に力を入れ、前に足を踏み出すしかなかった。


そもそもこの逃走劇が始まったのは少し前のこと。


洋輔はこの山に流れる清流で渓流釣りをしていた。
渓流釣りが趣味の祖父と共に幼いころからかなりの頻度で釣りに行っていたせいか、渓流釣りは洋輔の数少ない趣味となっている。今日は天気に恵まれたこともあり登山口に設けられた山小屋で入山と釣りの許可を得て、朝早くから山に入り上流から徐々に下りつつポイントを変えながら糸を垂らしていた。水は清らかで冷たく透明度は抜群、自然は圧倒的に雄大で美しい。普段接することのない手つかずの森林で行う釣りは、本当に心が躍る。気分とは裏腹に釣果は芳しいとは言えなかったが、ボウズとは言えないほどにぼちぼち釣れてはいる。あと半時もすればお昼になるので、もう少しだけこのあたりの、山の中腹部に流れる少しひらけた沢で粘ろうかと、流れが速く白波がたっている沢の中心に投げ入れた釣糸の先を眺めながら考えていた時のことだった。

前方から水場に群生する葦などを踏み分ける音がするので顔を上げると、沢の対岸に裸の女性が一人立っていた。

恥じることなく堂々と裸体を晒す女性は、息をのむほど美しい。
顔は思わず何故このような場所に一人で、しかも裸でいるのだろうかと疑問に思うことや驚くことさえ忘れて見とれてしまうほど端正で、こちらをまっすぐに見つめる目は輝くような金色、胸はちょっとした小山のように大きく、しかしながら重力に従って垂れることもなくお椀のような美しい曲線を保ち、彼女が少し体を傾けるたびにゆさゆさと揺れて洋輔の視線を釘付けにする。だが胸以外に余分な肉は一切なく、腰はきゅっとくびれ体躯は引き締まっている。それでも決して武骨という印象をいだかせることはなく、女性独特の丸さや線の細さと程よくついている筋肉とのバランスがなんとも絶妙だ。

ワイルドさと女性のつつましさを兼ね備えた、魔物娘と人間が共存するこのジパングでもなかなかお目にかかることのない絶世の佳人。

そう、そこだけを見れば艶めかしくグラマラスな女性なのだが…。

彼女は美貌以上に人外であることを洋輔に知覚させた。
木々の間から洩れる太陽の光を鈍く反射させるきめの細かい彼女の肌は、青銅を思わせる人ならざる色に染まり、ところどころに入れ墨のような文様が浮かんでいる。さらに美しい黒髪をたくわえる頭の側頭部からはねじれながら天に向かって伸びる二つの角が生え、耳は馬やヤギを想起させる可愛らしい獣の耳をしている。そしてほっそりとした二の腕からのびる手の先は大きく肥大して鋭い爪が並び、黒々とした体毛が生え揃う様は耳とは対照的に獰猛な猛獣を思わせる。

だがなにより彼女を人外たらしめているのは、その下半身。
美しい人間の上半身からのびるはずの足や臀部はなく、異形としかいえない八本の、蜘蛛に似た足が並んでいた。針金のような黒い毛に覆われた足の一つ一つは太く、足先は直感的に危険を感じずにはいられないほど鋭利にとがっており、ぬかるむ川縁の土に突き刺さっている。臀部があるはずの部分にはそれらの足に守られるようにして腹部とよばれる大きなふくらみがあり、彼女の心音に合わせているのか一定のリズムで小刻みに揺れていた。

そんな彼女の全体像を見た瞬間、何者であるかを理解した洋輔は身を震わせた。

彼女は間違いなく、ウシオニと呼ばれる魔物娘に違いない。
ウシオニはこの桁外れに魔物娘と友好関係にあるジパングにおいても恐れられる数少ない種族。なぜ恐れられているのかといえば、献身的で温厚な魔物娘が多いこの土地には珍しく直情的で好戦的な性格、そして群を抜く好色さで白羽の矢をたてた男を、暴力をふるってでも無理矢理強奪するようなところからきているらしい。勿論全てのウシオニが粗暴であるというわけではないらしいのだが、彼女がそうであるというという証はない。もし彼女が未婚で、夫に選ばれるようなことになれば、平凡ではあるが今まで過ごしてきた自分の日常を全て失うことになってしまうだろう。

なんとか、逃げなければいけない。

彼女から視線を外すことなくそんなことを頭で必死に考えていると、彼女の方から声をかけてきた。

「お〜い、そこのお兄さん。どうだい、釣れてるかい?」
対岸の魔性は、ややハスキーで色っぽい声色をしていた。
その声は川の音にかき消されることなく、不思議と洋輔の耳に心地よい余韻を残して浸み込んでいく。一度聞くだけで忘れられないようなその甘い響きが、何故かとても恐ろしかった。ぶるりと、全身が粟立ってしまう。
「…………まあ、ほどほどに。」
「実はワタシも昼飯用の魚を捕りに来たところさ。ここらへんは水が澄んでいるから、どの魚も美味いぞ〜。岩魚の塩焼きなんて絶品だ。」
「………。」
「あと、新鮮な山女魚なら刺身って手もある…ただ生魚を食べるなら寄生虫には気をつけなきゃ、いけないがなあ。」
「そう、ですか…」
頷く洋輔の背中に冷汗がこみ上げる。
というのも会話を続けるウシオニの彼女が、静かに一歩一歩こちらへ近寄ってきているからだった。話しかけてくる口調や表情は一様に友好的で明るいのに、洋輔に悟らせまいとしているのか下半身をゆっくりと動かしてじりじりと迫る様が、獲物を仕留める為に忍び寄る肉食動物を思わせる。広くはないが川をひとつ挟んでいるというのに、少しでも気を抜けば一瞬で彼女の餌食になってしまうような予感が消えず、今すぐにでもここから逃げなければいけないと頭の中で警鐘が鳴り響いた。

「なあ、お兄さん。ワタシの名前は茜ってんだが…」
けれども、体はまるで金縛りにあったかのように動かない。
瞬きもせずこちらをまっすぐに見つめる金色の双眸に見入られた洋輔は、蛇に睨まれた蛙のようにただ身を震わせることしかできない。一説にはそれまでの記憶を総浚いにして何かしらの打開策を考えているといわれる走馬灯にも似た体験を体感しつつ、このまま彼女に捕まってしまう、そんな考えに思考が支配された…その時のことだった。

「お兄さんの名前を教えてくれない…って、おわっ!?」
彼女の足元に生える低木にとまっていたミソサザイが、ウシオニが接近していたことに気が付き、鶯にも似た甲高い警戒の声を発しながら突然飛び立った。洋輔の方に意識を向けていた彼女もさすがにそれは予測していなかったのか、驚きの声をあげ視線を飛び立っていった小鳥に向けたのだった。
「今だっ!!」
彼女の視線が外れた瞬間、突然それまで動かなかった体に力が入った。
こつこつ貯金して買った釣竿や祖父から貰った道具を置いていくことに躊躇したが、捕まっては元も子もないとすぐに考え直し、洋輔はそれらを全て川縁に置き、茜と名乗ったウシオニに背を向けて走り出した。少しでもいいから彼女と離れなければいけないという一心で、森の中へ飛び込み疾走する。

「あ、待て!!逃げるな!!!」
だが当然、茜がその場でじっとしていてくれるわけもない。
それまでの穏やかな声を一変させて、こちらを牽制する威圧感をたっぷりと込めた声色と口調で叫びながら追いかけてきた。八本の強靭な蜘蛛の足を使って流れの速い川や草深い川縁を苦も無く進むその姿は、さながら戦地を駆ける戦車のようだ。その様を見て、洋輔の中にさらなる恐怖心が巻き起こる。

とにかく少しでも彼女から逃げる時間を稼ぐためにできるだけ蛇行し、木々が生い茂る狭い道を選びながら逃走を続けた。


その作戦はどうやら正解だったらしく、即かず離れずではあるがなんとか彼女に捕まることなく逃げきれている。

とにかく、麓に出なければいけない。
公共機関を利用してこの山までやって来たので、バイクや車など特別に逃走経路があるというわけではないが、人のいる麓まで逃げ切れればなんとか活路は見いだせるだろうという、冷静に考えればなんとも甘い希望的観測を心の支えとして、洋輔は山道を走り続けていた。

「あ、あれは!!」
するとそんな洋輔の目に、木で作られた看板が飛び込んできた。
見通しをよくするため周りを切り開いた場所に建てられた看板の、その無造作に組み上げられた板目材の表面には赤いペンキで中腹までの距離と、麓までの距離が書かれている。どうやらそれによると残りは百メートル。山道での百メートルなので平坦な場所同様に時間を計算することはもちろん出来ないが、それでも闇雲に山の中を駆け回るより何倍もマシだった。

ずっと緊迫してきた洋輔の心に、わずかな安堵感がこみ上げる。

だがそこで、洋輔は痛恨のミスをしてしまった。
明確な数字を与えられたことからくる安心感からか、思わず力を抜いてその場に立ち止まってしまったのだ。今まで通ってきた山道とは違い遮蔽物のない開けた場所で、その無防備に佇む姿をさらせばどうなるか、全く考えもしていなかった。

「ははは、止まったな…おらぁッ!!!」
そんな絶好の好機を、彼女が逃すはずがない。
「うわ、なんだこれ…あぁ!?」
「よし、捕まえた………ふふふ、待ってろよぉ〜今、傍に、行く、から、な。」
突っ立つ洋輔に向けて、茜が蜘蛛の糸を吐き出した。
茜が繰り出す糸は西部劇でカウボーイが放つ投げ縄のように正確に洋輔の四肢に絡みつき、それらを逆らうことのできない強い力で引っ張り洋輔の身体を地面に引き倒す。細いのに驚くほどの強度で纏わりつく蜘蛛の糸からなんとか逃れようと地べたで無様にもがくが、茜はそれをあざ笑うかのように次から次へと糸を吐き出して上乗せしていき、洋輔の抵抗を確実に封じていく。そうなってしまっては、もう満足に体を動かすこともできない。茜は自由を奪われた洋輔の恐怖心を煽るように、言葉をわざとらしく切りながら蜘蛛の足を大きく持ち上げゆっくりと近寄ってきた。

蜘蛛の巣に囚われた虫同様に、現状の洋輔はその様を震えながら見つめるほかにない。

「さあ……捕まえたぁ!!」
いよいよ魔性の手が洋輔へと届く。
無駄だと分かってはいたが、真っ直ぐに彼女を見据え少しでも抵抗しようと身を固くする。
「頑張って逃げてくれたもんなあ。まったく骨が折れたね。」
茜はその様子を楽しげに見ながら、絡まった糸ごと洋輔の体を片腕で鷲掴む。
そして成人男性の平均的な体格をしている洋輔の体を軽々持ち上げる彼女の膂力に驚く暇も与えず、茜は自分の目線に合わせるように高さを調整して看板に洋輔を押し付ける。体を押さえつける彼女の腕は、糸も合わさりまるで岩のようにピクリともしない。絶望的な強さで洋輔をその場に縫い付けてしまった。
「だが、ワタシの夫になる男なんだから…それぐらいタフであってくれなきゃ困る。…んふふふ、んふ。ますますあんたのことが気に入ったよ。」
「…くっ」
「じゃあ、まずは味見といこうか…。」
言葉を続けながら、茜はゆっくりと顔を近づけ囁く。

「真っ白なお前を隅々までワタシの色で染めてやるよ。覚悟しな」

彼女の声色は、全身の毛が逆立つほど蠱惑的な色気を孕んでいる。
その声を聞いた洋輔は、頭では非常にまずい状況に陥っていると分かっているのに、簡単に魅了されてしまいそうになる。何も考えられず目の前で艶美に笑う魔性をずっと見ていたいという欲望にかられてしまう。だがすんでのところで我に返り、雑念を消すため頭を横に振ろうとしたが、既に遅かった。

むちゅ、んちゅぅ…ちゅうぅ
「ん、んぐっ…む、む…!!」
彼女の熱い吐息が迫ったかと思うと、肉厚で瑞々しい唇が荒々しく押し付けられた。
茜はそれまで誰とも触れたことがない洋輔の唇を時には慈しむように柔らかく食み、時には弄ぶように強く吸いつく。金色の潤む双眸にじっと見つめられながら、濃厚ながらも緩急がつけられた接吻を交わす行為は、想像する以上に気持ちがよかった。それまで緊張で固まっていた体はあっという間に愉悦で解され、唇はわなわなと震えてしまう。茜は僅かにできた隙間を逃さず、洋輔の口内にずるりと舌を滑りこませた。
「(な、なんだ、これ…?)」
ねっとりと甘い唾液を纏った茜の舌が、縦横無尽に暴れまわる。
一見するとただ乱暴に洋輔の口内を貪っているように思うが、その実茜の舌は丹念に口の中にある凹凸やひだを舐めていく。歯の一本一本を磨くように舐めるさいにきゅっきゅっとなる音や、頬肉や歯肉を舐める際に唾液が混ざり合う卑猥な音が空っぽの頭に響き渡り、確実に抵抗する力を奪っていく。もはやなすすべなくされるがままウシオニの愛撫を受け入れるほかなかった。茜は無抵抗になったオスを満足げに見つめながら、本丸である洋輔の舌へ自身の舌を絡めていく。まるで蛇が交尾をするように舌を絡ませ、二人の唾を撹拌する行為は実に激しかった。

じゅる、むちゅぅ、ちゅぷ…ぴちゃぁ、にゅぷぷっ
それから茜の舌は口内でぐちゃぐちゃとすべり、絡みつき吸い出された洋輔の舌は音を立ててしゃぶられ、吐き気がするギリギリの、気持ちよさだけを感じる喉の奥あたりまで丹念に舐め溶かされていく。もはやどちらのものとも区別できない撹拌されたよだれが二人の口の合わせ目から、くぐもった悲鳴にも似た声と共に漏れ出した。



「んふふ、ふふ…ぷはぁ、っはぁ…この味、最高だな♡」
「ぅ、はあ、はあ……」
長い間ディープキスを堪能した茜が、顔を離しながら歓びをあらわにする。
一方の洋輔は未知の快感に息を荒く吐き出しながら、彼女の腕の中で目を白黒させるほかなかった。ただキスをしただけだというのに、少し前まで想像もしなかった、心の底まで舐め溶かされるような気持ちよさに驚愕した。性に特化した魔物娘の実力は、まさに魔性のものだと改めて思わずにはいられなかった。そして濃厚なキスを終えた魔物娘がそのままじっとするわけもない。茜はためらうことなく次の行動を開始した。
「さてと」
「?」
洋輔を散々翻弄した茜は、一層愉快そうに眼を細めながら股間へと手を伸ばす。

「次はここを味見させてもらおうか♡」
「そ、そこは!!」
「何を嫌がるんだ。こんなに大きくおちんちんを勃起させているのによ♪」
彼女のいう通り、既に洋輔のペニスは痛いほどに勃起している。
異性にそれを指摘される恥ずかしさで、顔を背けてしまう。その行動がより一層茜を興奮させるというのに、どうしてもそうすることを止められなかった。
「まあ、そんな初心な反応が可愛くて…滾るんだけどなあ♡」
「ひぅ!!」
案の定、さらに鼻息を荒くした茜がいそいそとズボンを脱がし、パンツの上から陰茎に手を這わせ淫らに笑う。ただ触られただけなのに、性器は敏感に反応し情けない声をあげてしまう。
「ああ、もう…そんな可愛い声をだされちゃ、我慢なんてできないよ…御開帳といこうか」
「……っ」
「はい、オープン♪」
彼女は一気にパンツを下していく。
すると股間には激しく体を動かしたことで汗や熱気がたまっていたのか、パンツを下げたとたんにむわっと汗臭さや男臭さが匂い立つ。
「…すん、すん……この、匂い…たまんないな、もう我慢できねえ…じゅるり♡」
茜は迷うことなく鼻を近づけ、大きく深呼吸するようにそれを堪能し、うっとりとするように目尻をさげる。洋輔は初めて異性に性器を見られた恥ずかしさと、火照った体が外界の冷たい空気に触れる心地よさに目を固くつぶって耐え忍ぶ。

「あ、ぁあ…」
「いただきます♪」
まるでご馳走にありつくように掛け声をかけた後、茜が男根にむしゃぶりついた。
今までにないほど固く勃起したペニスが、先ほどまで嫌というほど味わった唾液がたっぷりと溜められた熱い口内に飲み込まれていく。唾液でぬめるその感触だけで言葉をなくしてしまうほど気持ちがいいのに、茜は追い打ちをかけるようにペニスに愛撫を施してくる。力強く吸引することで柔らかい頬肉を男根にぴったりと張りつけながら固い幹を擦りあげ、舌は亀頭、鈴口、裏筋と敏感なところを繊細な動きで執拗に刺激し、歯を使って痛みを感じさせない絶妙な力加減でペニスの根元に甘噛みをしてくる。ただ気持ちがいいだけではなく、様々な種類の刺激や感触を織り交ぜて絶頂へと追い込む彼女のフェラチオは想像以上に気持ちがよかった。
「ひぐっ、あ、いぃ…っ!!」
「んじゅ、んちゅ…ぐぷっ♡」
しかし、そこまではただペニスを口にくわえただけに過ぎない。
茜はそうしてしばらく根元まで飲み込んだままじっとしていたかと思うと、上目遣いにこちらを見上げる瞳に情欲を滾らせながらゆっくりと頭を前後に動かし始める。彼女が頭を動かすたびに口に残された空気や唾液が押し出されぐちょぐちょと卑猥な水音が立ち上がり、外気に晒された剛直が再び飲み込まれる気持ちよさに言葉にならない喘ぎ声を漏らすことしかできない。力強く吸引することに加え空気が押し出されたことでさらにぴったりと密着した頬の肉が、頭を動かすたびにぐにゅぐにゅと纏わりついて敏感なペニスをしごき上げ、ぷりぷりとした感触の上顎に亀頭を押し付けて与えられる快感は、今まで自慰で得ていたものを忘れ去るほど鮮烈だった。その圧倒的な優位に立つ茜の責めを受けて、少しの間も我慢することができずに限界が訪れる。びくびくと情けなく足腰が震え、鈴口からはさらさらとしたカウパー腺液がとめどなく漏れ、亀頭は限界まで充血して膨らみ、睾丸は今にも精液を吐き出そうとせり上がる。

「ああああぁっ、もう、だめ!!出る、出ちゃう!!!」
「!!」
限界を告げると、茜は勢いよく根元までペニスを飲み込み、今までにないほど強い力で吸い付いた。その刺激がとどめとなり、洋輔は彼女の口の中へあっけなく射精をする。
びゅる、びゅぐ…ドクッ、ドクン…
「かぁはぁあ…うぅ…」
まるで全てを吐き出すかのようにうめき声を上げながら、ザーメンを噴き出す。
ペニスは射精する度にびくびくと脈動し、与えられた快楽に比例したかのような粘度の高く大量の精液がびゅるびゅると鈴口から勢いよく飛び出していく。そしてオスの性なのか、茜の喉奥に少しでもペニスを侵入させて射精しようと、無意識のうちに腰を押し付けてしまった。
「んく、んく…んッ♡」
だが茜は嫌がるどころか、嬉しそうにそれを受け止める。
むしろその動きを歓迎するように積極的にペニスを飲み込み、つまることなく喉を鳴らしながらごくごくとザーメンを飲み込んでいく。人間であれば咽てしまう苦しいだけの喉奥での口内射精も、彼女たち魔物娘にとっては気持ちのいい行為でしかないのだろう。射精の余韻に霞む目でその様を眺めつつ、改めて彼女たちの好色さを実感したのだった。

「っちゅ、ぷはっ…ふふふ、たっぷり出してくれたじゃないか…ワタシの喉マンコが妊娠するかと思ったぞ♡」
最後の一滴まで精液を吸い出し、嬉しそうにペニスから口を離した茜が微笑みぺろりと唇を舌でなめる。そのしぐさが堪らなく情操的で、射精したばかりだというのに洋輔の中でむくむくと性欲が湧いてしまう。
「さて、味見もすんだことだし本題といこうか。」
そんな洋輔の心情を知ってか知らずか、茜は鼻が触れ合うほど顔を近づける。
「本題…?」
そうだと頷いた後、茜は口角をにやりと釣り上げて意地悪く選択を迫る。

「このまま大人しくワタシの男になるか、ごめんだと逃げ出すか…。好きな方を選びな。」
「……なっ」
「—――まあ、生憎ワタシは諦めが悪い性格だからなあ。逃げるってんならどこまでも追いかけてお前を攫いに行く。」
「………。」
「今までの人生を捨ててもよかったと思えるほど、愛しつくしてやるから安心するといい。」

「さあ、どうする…。ワタシと終わりのない鬼ごっこでも、してみるかい?」

真っ直ぐにこちら見つめてくる金色の瞳に、自分の顔が映り込んでいる。
長年見慣れたはずのその顔は、先ほど経験した強烈なエクスタシーでぐしゃぐしゃになっていた。涙の跡や口のまわりについたままのどちらのものとも分からないよだれが、ひどく卑猥に見えてしまう。そんな自分の姿を見ながら、一つの疑問を彼女にぶつける。既に体は彼女の性技によって陥落されてしまった洋輔にとって、それが最後の依代だった。

「なんで、こんな名前も知らない男に…そこまで言える、の?」
するとそれまでからかうような笑みを浮かべていた茜は、すっと真顔になる。
「一目惚れ、なんて理由じゃ納得できないか?」
「それ、は…」
「ワタシたち魔物娘は、節操がないだとか色狂いだとばかり思われがちだが、相手がだれであってもいいわけじゃない。自分が認めた、この男となら身も心も結ばれたいと思える相手にだけ、魔物娘の淫らな本性を向けるのさ。社会通念や常識に囚われがちな人間には分からないかもしれないが、自分にとって目の前の男が最良の相手ってのは理屈じゃなく感覚で分かる。それが何よりも愛に生きる魔物娘の特性であり、本能なんだろうなぁ。」
茜はそこで目を細め、瞳に真剣な光を宿らせる。
「あの川でお前を見かけた時、今までにないほど胸が高まった。誰の匂いもしない、魔力の痕跡の全くない純白なお前の姿がワタシには輝いて見えた。しばらくは何もできず釣りを楽しむお前をただひたすらに眺めていたんだが、徐々に下流へ遠退いていくお前の後姿を見ているとたまらなく、たまらなくお前が欲しくなった。…こんな感情を抱いたのは初めて、だよ。」
「………。」
「確かにいきなり襲っておいて、こんな状況を作っておいて、こういう質問するのは卑怯だとは重々承知しているさ。もしワタシが反対の立場ならそりゃ文句の一つも言いたくなるだろうな。だがそうまでしてもお前を逃がしたくない、肉体だけではなく心までも確実にワタシのものにしたい。その気持ちだけは本物だと信じてくれ。」
さて、と言葉を切った茜はその大きな手でそっと洋輔の頬を撫でたかと思うと、低く艶やかな声で尋ねる。


「これがワタシの偽りのない気持ちだ。それを頭に入れてもらった上で改めて聞こうか…お前はワタシの夫になるか、それとも嫌だと逃げ出すか。お前の名前と一緒にその答えを、ワタシに教えてくれないか。」


「僕の名前は…」
彼女は、ずるいと思った。
先ほどまでは恐怖しか感じなかったというのに、彼女の本音を聞いた今では、茜が自分に向けてくれる純粋な気持ちが嫌というほど伝わってくる。もう既に目の前にいる彼女は恐怖の対象ではなく、ただひたすらに恋い焦がれる一人の女性としか見ることしかできない。どこまで彼女の計算なのかは分からないが、そんな状況でこのような質問するのは、なんともずるい。
「…藤島洋輔。」
そして彼女の話を聞いて気が付いたが、茜はこちらが気づくよりもかなり前に洋輔の存在を認識していたようだ。きっとしようと思えばこちらのスキを窺い、抵抗する暇も与えず彼女の作り出す糸で洋輔を捕らえることができたに違いない。だが彼女はそうはせずに、笑顔を浮かべながら話しかけてコミュニケーションをとろうとしてくれた。
「洋輔ってのか、いい名前だ。ふふ、ふふ。」
だがそんな彼女から洋輔は血相変えて逃げ出してしまった。
与えられた先入観だけを信じて、意思の疎通すらしなかった。そんな自分を茜は許してくれるだろうか…。
「さっきは話も聞かずに逃げてしまってごめんね、茜さん。」
「いいってことよ。さあ、名前は聞いた。もう一つの答えを、聞かせてくれ。」

洋輔は真っ直ぐに彼女の瞳を見つめながら口を開いた。


「茜さん、こんな僕でよければあなたの傍に………いさせてください。」


「だから、嫌といってもお前をさらってでもワタシのものにしてやるっていってんだろうがよ〜。そんなこといわなくたってもうお前を放してやらないからな、洋輔♡」

憎まれ口をたたく茜は、心底嬉しそうに微笑んでいる。

その笑顔を見るだけで、なんだか洋輔の心はたまらなく喜びに包まれたのだった。



14/09/20 00:40更新 / 松崎 ノス
戻る 次へ

■作者メッセージ
突発的に自分の中でウシオニさん熱が再燃したのと、いくつかウシオニさんで書いてみたいことが頭に浮かびましたので、書いてみました。

本当は読み切りで投稿しようと考えていたのですが、想像以上に長くなってしまいそうなので、連載にしました。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33