読切小説
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ホルスタウロスさんの特濃ミルクゴクゴクしたい
 
 「ぬぅ…何故だ…!我が渾身の一撃が確かに直撃した筈…!それなのに何故、貴様は立っていられる…!?」
 「そんなのも…わかんねぇのかよ…はは……案外、神様の尖兵って奴ぁ頭が悪いんだな…」
 「魔の者どもに心奪われた軟弱者が減らず口を…!どの道、次で終わりだ!」
 「それは…どうかね…?…言っとくが…俺ぁ…しぶといぜぇ…?」
 「どれだけしぶとくても我が信仰は有象無象の区別無く遍く全ての魔の者を打ち砕く!!受けろぉぉぉぉ!!」
 「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 
 ―ガシャァァァン!!
 
 「な…何故だ…!?何故…満身創痍で我がメイスと…主神に祝福された筈の我が信仰の証と打ち合える…!」
 「…信仰…ねぇ…それじゃ俺には勝てねぇよ…」
 「なん…だと…!?我が信仰を…!生涯全てを捧げた我が神を侮辱するか貴様ァァァ!!」
 「だって、そうだろ?…信仰って奴は盲目的に神様って奴を信じるんだろうが。それがどんなことであろうと間違っているなんて考えず、受け入れる……その程度の芯じゃ俺の心は砕けねぇ…!」
 「ぬぅ…!!」
 「良いか…!教えてやる…!愛って奴ぁ辛いんだぜ…!相手が間違っているときもあれば、こっちが間違っているときもある。迷うことなんて数え切れないくらいだ。上手く行かないことなんて山ほどある。でも…それでも、愛って奴ぁ…キラキラしてて…だからこそ耐えられる…!」
 「愛…だと…!?魔の者に誘惑された身で何を血迷ったことを!貴様の抱いているそれは愛などではない!ただ、奴らに植え付けられた性欲だ!!」
 「…そうかもな。でも、それがどうした?」
 「なっ!?」
 「俺が愛だって言ったらそれが愛なんだよ!それを否定させることは誰にもさせねぇ…!貴様にも…神様って奴にもなぁぁ!!」
 「ぬ…ぐぉぉぉぉぉ!!」
 「貴様らが攻めてくるんだったら…それを愛じゃねぇって否定するのなら!!何度だって…どれだけだって戦ってやるさ…!お前らが否定するその性欲って奴を原動力にな!!」
 「ば、馬鹿な…っ!押し切られ……っ!!ぬぉおおおおおっ」
 「…はっ…テメェも一度…頭冷やして考えろよ。…信仰じゃなくて…テメェの頭と心って奴で…な」
 
 
 
 
 
 
 
 
 「もうやめて!!!俺のライフはとっくにゼロよ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 ― どうやら小芝居は終わったみたい。
 
 そんな風に思いながら厨房から顔を出すと、しっかりとした体付きをした男性がゴロゴロと悶えるようにカウンターに突っ伏していた。どうやらさっきまでの小芝居は彼に多大なダメージを与えているみたい。それがちょっと可哀想だと一瞬、思ったけれど、面白いから放置しようと思う。
 
 「いやぁ…まさかアレだけ大見得切るとは思わなかったんよ」
 「まるで主人公ですねー。いやぁ、憧れちゃうなぁ」
 「ショタ先輩にまで弄られた。死にたい」
 
 そんな男性の左右を固めるように二人の男性が座っていた。一人は少年のような若々しい姿をした人。何処か気弱そうなイメージが付きまとうけれど、それが何処か保護欲を擽られるタイプだ。けれど、思わず抱き締めたくなるようなその顔は強い安心感に満ちている。それだけ話している二人の事を信頼しているんだろう。それが透けて見えるような態度に思わず私の頬も緩んだ。
 その少年の逆側に座る男性はそこそこ整った顔立ちをしている。甘いマスクってこういうモノを指すんだろう。良くこの店に顔を出してくれるあのナンパ師さんほどじゃないけれど、街を歩いていれば視線を集めてもおかしくない。けれど、その顔はいやらしそうな笑みに染まっていて、まるでその素材の良さを感じさせなかった。意図的にやっているのか何なのか私には分からないけれど、もしこれがワザとやっているのであればかなりの曲者だろう。
 
 「でも、実際、格好良かったんよ。何より大手柄だったし」
 「へぇ…見てみたかったなぁ…」
 「もう勘弁してください……」
 
 そして、涙さえ流しそうなくらい重苦しい表情で突っ伏している男性は三人の中では最年長と言えるだろう。顎に無精ひげを少し生やした姿は歴戦と言える貫禄さえ伺わせた。引き締まった顔をしていればそれだけでも背筋が伸びていってしまいそうな姿ではあるが、その顔は今やとても情けないものに変わっていた。よっぽど今の話が彼の心に触れるのだろう。話を聞いている限り、ついこの間の戦いでの再現らしいが、その活躍に触れられるのは苦痛みたい。
 
 「俺が愛って言ったらそれが愛なんだよ(笑)」
 「信仰じゃ俺には勝てねぇよ(笑)」
 「元中隊長ですが、友人二人がガチで黒歴史を弄ってきます」
 
 ― 『ミルク・ハーグ』のママですが、カウンターの三人が楽しそうです。
 
 そんな楽しそうな様子にクスリと笑みを浮かべるけれど、あんまり放っておき過ぎるのも可哀想だ。カウンターに突っ伏すように倒んだ男性は今にも涙を流しそうな表情をしているのだもの。この人もまた意地っ張りな雰囲気をしているだけに泣き出す事はないと思うけれど、あまり辛そうな表情を見るのはいい気分ではない。そろそろ放置するのを止めて口を挟んであげるべきだろう。
 
 「はいはぁい。そこまでにしておいてあげてね〜」
 
 そう言って厨房から身体を出せばカウンターの三人の視線がこっちへと向けられる。それにクスリと笑みを浮かべながら、私はそっと彼らの隣に座った。もう閉店間際のこの時間にはカウンターの三人以外にはお客様はいない。この店の女主人である私が好きな場所に座っても何の問題はないのだ。
 
 「皆仲良くが一番よぉ♪」
 「そうだぞお前ら!そうやってよってたかって人の黒歴史を弄るなんて最低だ!!」
 「うーわ。ママが味方についてくれたからって調子に乗ってるんよ」
 「こういうのが小物って言うんですね。良く分かります」
 「おおおおまあああえええええらああああああっ!!!!!」
 「はいはい。ダメよぉ喧嘩は〜」
 
 尤も、彼ら三人が本気で喧嘩をした所なんて見たことがない。口では何だかんだ言いつつも、この三人はとっても仲良しさんなのだから。このやり取りだってじゃれあいの一種なのだろう。とは言え、この辺りでストップを掛けておかないと何時までも延々とエスカレートし続ける可能性もある。今、この場の私に求められているのはストッパー役であるという事も伝わってくる事だし、ここは適当に話題を変えるべきだろう。
 
 「それより大活躍だったらしいじゃないのぉ。凄いわ〜」
 「そ、そうっすかね?ま、まぁ、俺の実力っていうか隠された才能っていうか?そういうのが少し発現した的な何かが…」
 「うだつのあがらないおっさんが良く言うんよ」
 「というか鼻の下伸びまくってますよね。その顔グレースさんに見られたら幻滅されちゃいますよ」
 「…お前らは一々、人の心を抉らないと気が済まないのか」
 
 そう言いながら無精髭の男性はそっと肩を落とした。その頬は酒気とは違う色で赤く染まっている。どうやら鼻の下が伸びていたという指摘は思いの外、彼の心を刺激したらしい。そんな姿は間違いなく可愛らしく見えるけれど……――
 
 ― やっぱりうちの旦那様が一番よね♥
 
 人前では滅多にその表情を変えないどころか言葉を紡ぐ事もない寡黙な人。彼をよく知らない人はそんな姿を見てまるでゴーレムか何かだと思うかもしれない。だけど、その心の中はとても穏やかで、そして彩り鮮やかな人だ。そして、熊のように大きく、そして逞しい身体をしている愛しい人が私の前でだけその心を開いてくれる。そんな姿を見るだけで私の心は蕩けてしまいそうになるのだもの。
 
 「それに…幻滅なんてとっくの昔にされてるだろ。だって…お前…」
 「…それは言っちゃいけないんよ…」
 「止めてください。そういうのが嫌でこうして集まってるんでしょう?」
 
 胸中で惚気る私の前で一気に暗い雰囲気に包まれる三人はそのままそっとため息を吐いた。確か今日は彼らのお嫁さんたち――確か全員、デュラハンならしい――がガールズトークを繰り広げるからと追い出されたらしい。それを彼らは見捨てられてしまったからだと言っている訳だけれど……――
 
 ―まぁ…きっと誤解だと思うんだけれどぉ。
 
 種族が違うとは言え、私も彼女らと同じ生き物――魔物娘だ。その心にどれだけ愛しい人の事が刻み込まれているかは良く分かっている。確かにデュラハンは意地っ張りで魔物娘の中でも珍しい理性的な面を持つが、内心ではずっと愛しい人の傍にいたいと思っているはずだ。それでも尚、こうして女性だけで集まった…というのは偏にそれだけの理由があるからである。
 
 ― 流石にそこまでは分からないけれど…ねぇ。
 
 でも、こうして仲の良い彼らの様子を見ていれば何となく彼女らの意図も分かる気がする。まるで親友同士のように軽口を叩き合う三人はとても仲が良いのだ。話を聞く限り、それぞれ生まれも性格も違うし、出会ったのもこの魔王城らしいのだが、到底、そんなふうには思えない。そんな彼らを愛する彼女たちにとって数少ない男同士の触れ合いの時間まで奪い取るのは酷に思えるのだろう。だからこそ、理由をつけて彼らから離れる事でその余暇を創りだそうとしているのだ。
 
 「うぅ…世界で一番、愛してるっていうのにこの仕打は酷いんよ…」
 「ばっか。俺なんて三千世界に響き渡るほどに愛してるぞ」
 「そういう愛を比べるような真似はやめましょうよ。まぁ、この中で一番、愛してるのは僕だと思いますけれど」
 
 ― その一瞬で私のお店に剣呑な空気が流れ始めた。
 
 誰もが自分が世界で一番、お嫁さんを愛していると主張する。それはとても微笑ましくて暖かい光景だろう。しかし、今の彼らには程よくお酒が入っているのだ。良い感じにハイになった今の彼らにとって、それはなぁなぁで済ませられる対立ではないのだろう。少しずつその瞳に敵意が宿り、腰を浮かせ始めるのが分かる。
 
 「あ?やんのかコラ。俺の愛が最強だって証明してやるぞ」
 「流石、自分の頭と心で考える人は言う事が違うんよ。俺の愛が最強(笑)」
 「まぁまぁ、落ち着いてください。そんな無益な戦いはよしましょうよ。僕が一番なのは絶対に覆らない訳ですから」
 「ほぅ…何時も自信のないショタ先輩が随分と吠えるんよ」
 「ご主人様への愛情だけは他の誰にも負ける訳にはいきませんから」
 「良いぜ…!やってやろうじゃねぇか!!」
 
 
 「お店で暴れるのはだ〜め〜」
 「「「ぬわー」」」
 
 一触即発の雰囲気になり始めた瞬間、私の手刀がぺしぺしぺしと三人の頭を打った。瞬間、彼らの首がグキリと嫌な音を立てたけれど、まぁ、大丈夫だろう。殆ど力なんて入れてないし、角度だって危険なものじゃない。幾ら魔物娘が人よりも身体能力に優れていると言っても普段の健康に関わるようなものではない。
 
 「うぅ…ディーナさんは相変わらずの馬鹿力なんよ…」
 「ひっどーい」
 
 それでもクラクラと頭を振るいながら呟かれるのは納得がいかない。確かに私は普通のホルスタウロスよりも力が強いみたいだけれど、馬鹿力と言われるほどではないはずだ。お店のお皿を割る事だって最近はあんまりないんだから。
 
 ― それに私、馬鹿じゃないもん。
 
 旦那様は私の事を「発想が人と違う」とか「その発想はなかった」と褒めてくれるんだから。頭が良いと直接言われた訳じゃないけれど、悪くはないはず。勿論、魔術の行使を日常とする一部の魔物娘に食いつけるほどじゃないだろうけれど、そうやって馬鹿にされるほどじゃないと思う。
 
 「それにお店で暴れようとする方が悪いの〜」
 「返す言葉もございません…」
 
 私の一撃で冷静に戻ったのだろう。髭を生やした男性がカウンターに突っ伏すようにしながらそう呟いた。他の二人も申し訳なさそうに肩を縮こませている辺り、特にコレ以上のお説教は必要ないみたい。普段はマナーの良いお客さんだし、ちょっとヒートアップしすぎただけなんだろう。
 
 ― まぁ、それでも譲れないものがあるんだけれどね〜。
 
 「それにぃ世界で一番、相手のことを愛しているのは私と旦那様なんだもの〜」
 「えぇ、そりゃねぇっすよ」
 「横暴だー横暴なんよ」
 「流石にそれには意義を申し立てます」
 「ふふふ♪却下よぉ。このお店じゃ私と旦那様が法律なんだから〜」
 
 不満そうに三人が返すけれど、この辺りが落とし所だと思う。率先して悪者になるつもりはないけれど、私という上位者――勿論、この御店の中だけの話だけれど――がいれば、三人もまたこの話題に触れようとはしないはずだ。勿論、そこには私が世界で一番、旦那様のことを愛していると主張したいという考えがなかった訳じゃないけれど、それだけでもないのである。
 
 「じゃあ、二人の馴れ初めを聞きたいんよ」
 「あぁ、そういや俺も良く知らないんだよなぁ」
 「確かに。惚気は何度も聞いてますけれど、馴れ初めは一度も聞いた記憶が無いです」
 「えぇ〜そうだったっけぇ?」
 
 長い間、ご愛顧頂いているお客さんだっただけにてっきり話していた気はするけれど、どうやらそれは私の思い違いだったらしい。頷く三人の姿を見ながら、私はそっと笑みを浮かべた。もう何十年も昔になるけれど、決して色褪せる事のない私の大事で素敵な記憶。それを誰かに話すのは私は決して嫌いではないのだ。当時を思い返すだけでとっても幸せな気持ちになれるのだから。
 
 「えーっと…それじゃあちょっと恥ずかしいけれど……アレはね〜」
 
 そう前置きしながら、私はそっと記憶の中へと意識を飛び込ませていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ― 誰にだって向き不向きはあると思う。
 
 細かい作業に向いた子がいれば、力仕事に向いた子もいる。それは人間だけではない。私だって――魔物娘に属するホルスタウロスだって同じ事だ。人間ほど個性豊かでないにせよ、個体ごとの違いというのは確かに私たちにもあるのである。
 
 ― そして私はあんまり一般的な分野には向かない子でぇ…。
 
 種族柄、とてものんびりとした性格をしている私は細かい作業はあまり得意ではなかった。いや、それは細かい作業に限っただけの話ではない。普通よりも幾分、ドジな私は力仕事だってあまり得意ではなかった。勿論、頭脳労働は言うに及ばずであり、私は何処でも人並み以下の成果しか出す事が出来なかったのである。
 
 ― それでも…お乳の味は人並み程度はあるみたいだけれど〜…。
 
 ホルスタウロス。乳牛に近い声質を持つ私の種族は妊娠せずとも母乳を出す事が出来る。それは普通の乳牛が出すものよりもかなり上質なものらしい。栄養素でも味でも勝る私たちの母乳は広大な魔王城の中でもそれなりの値段で取引され、一人で暮らしていくだけなら十分すぎる金額を私の手元に運んできてくれた。
 
 「はふぅん…」
 
 そんな状態ながら私の口からはそっとため息が漏れでた。今の生活にはあまり不満はない。一日中ぼぉっとしているだけでお給金が貰えるんだから。生きていくだけでも必死になるらしい外の世界を思えば、不満だなんて思ってはいけない。
 
 ― だけれどぉ……。
 
 そう。だけど、私の心はそれでは納得出来ないのだ。確かに生きる上ではまったくの不満はない。しかし、人はそれだけで生きている訳ではないのだから。衣食住足りているからこそ生まれ出る不満というのもあるのである。そして、それは私の場合、労働に対する意欲という形で現れていた。
 
 「…働きたいなぁ」
 
 そう呟くのはそれが出来ないと分かりきっているからだ。勿論、魔物娘の性質から言って働くはあまり長続きしない。この魔王城の主な就職先である魔王軍でも慢性的に人手不足だし、きらびやかなお店の中でも働き手を募集している場所は沢山、あるだろう。それらにお願いをすればすぐさま迎え入れてもらえるはずだ。しかし、それを選びづらい理由というのもまた私の中にはあって……――
 
 ― それじゃあ私が迷惑を掛けちゃう…。
 
 私は一度だけお店で働かせてもらった事があった。しかし、その時は緊張とドジ加減で失敗ばっかりだったのである。数ヶ月経っても減る様子のない失敗を見ても店長さんや仲間たちは一杯、慰めてくれた。しかし、私が私自身を許す事が出来ず、結局、半年で辞めてしまったのである。その時の苦い経験が私の足を鈍らせていた。
 
 「んー……」
 
 答えの出ない不満になんとも形容しづらい不快感を味わいながら、私はそっと白亜のテーブルに突っ伏した。城下町の地上部分――いわゆる屋外に位置するこのオープンカフェには何組ものカップルが幸せそうにいちゃついている。何処か微笑ましいその様子に私はそっと笑みを浮かべた。今の暗く落ち込んだ気分を少し和らげてくれるその光景が私は大好きである。
 
 ― だけど、あんまりウラヤマシイとは思わないんだよねぇ。
 
 勿論、幸せそうなカップルを見て私も何れはそうなりたいと思う気持ちがあるのは確かである。だけど、今の私にはそれ以上の結婚願望はなかった。今すぐ男性を捕まえていちゃいちゃしたいと思うほどの衝動は私の中にはなかったのである。それよりも寧ろ私の中でくすぶり続ける勤労意欲の方が重大な問題であった。
 
 「やっぱり変なのかなぁ…」
 
 私と同じ頃に生まれたホルスタウロスの子は既に殆ど相手を捕まえて幸せな生活を送っているらしい。中には既に子どもが生まれているホルスタウロスもいるそうだ。しかし、そんな話を聞いても積極的に男性を手に入れようとアクションを起こす気は私の中には起こらない。仕事が出来ないだけでなく、魔物娘らしからぬ性質を持つ自分に私はそっとため息を吐いた。
 
 「ん〜…?」
 
 そんな私の視界に何人かのデュラハンたちが目に入る。魔物娘の中でも特に武闘派であり、魔王軍の中核を成す女騎士たちはうきうきと嬉しさを隠し切れない様子で何処かへと向かっていった。その後にも同じように続く魔物娘が何人も歩いて行く。元々、このオープンカフェは人通りの多いメインストリートに面しているものの、そんな魔物娘たちの姿が見られるのはあまり多くはない。
 
 ―そっかぁ。今日も勝てたんだ〜。
 
 私が生まれる少し前まで魔物娘――ううん。魔物と人は決して交わらぬ種族だった。一度出会えば血で血を洗うような闘争が殆どだったのである。勿論、魔王様の代替わりによって魔物は魔物娘となり、ホルスタウロスのような人に庇護される事を目的とした魔物娘も出てくるようになった。それに合わせて世界は急激に変革し、今では魔界と呼ばれる地域もぐんぐんと増えている。
 しかし、その一方で大規模な人との抗争は終わる気配がない。私達を目の敵にする教団との戦いは今も尚、起こっているのだ。流石に教団側の体力と資金が尽きてきたのかその頻度こそ大分、減ってきたものの、今も一ヶ月に一度は侵攻される。
 
 ― それをお見合いの場として楽しみにしている子もいるのよね〜。
 
 魔王城の中にいる男性は大抵が誰かの『お手つき』だ。勿論、幾つか例外はあるだろうが、全体から見ればそれは本当に極稀なケースであろう。そして、既に誰かのものになっている男性に興味を示す魔物娘はあまりいない。よっぽど理由があって心底惚れこめば話は別だろうが、基本的にどんな魔物娘も愛しい相手を独占したいと思うのが普通だ。それ故にこの城の中での出会いは壊滅的といって良い程にないのである。
 
 ― そんな魔物娘たちにとって誰にも独占されてない男性を手に入れられる機会というのが教団との闘争でぇ。
 
 若く、体力と精力に満ち溢れた男性たちが自分たちへと我先にと向かってきてくれる。そんな光景を見て魔物娘が我慢出来るはずがない。自然、無力化され、捕虜となった男性はそのまま捕獲した魔物娘のお婿さんになるのだ。そこからあぶれた男性や既にお婿さんを持っている魔物娘の手で捕虜にされた男性はその他の子へ――主に非戦闘員である種族の子へと供給される。
 
 ― だから、さっきの子たちもあんなにウキウキしてたんだよね〜。
 
 これから未来の旦那様になる男性を見に行くのだ。魔物娘にとって最高の幸せを得る為の第一歩でもあるのだから、待ちきれないのも仕方のない話だろう。普段はクールを通り越して冷たい顔すら見せるデュラハンちゃんたちでさえ、その頬を緩めてデレデレとしていたんだもの。
 
 「貴女は行かないの?」
 「ふぇ?」
 
 そんな事を考えながら、ぼぉっと通りを見ていた私の耳に聞き覚えのある声が届いた。それに驚きながら声の方へと視線を向ければ、真正面の白い椅子にとても綺麗な女の人が座っている。透き通るような肌を見せつけるように必要最低限の衣服だけを身に着けたその姿はまるで魂の篭った芸術品のよう。しかし、『彼女』の幼馴染である私には相手が決して芸術品などではなく、血の通った素晴らしい人である事が分かった。
 
 「マリアンヌちゃん。どうしたの?」
 「見知った顔が見えたからね。たまには挨拶しておかないと貴女に忘れられちゃいそうじゃない?」
 
 そう言って『彼女』――マリアンヌちゃんが笑った瞬間、その下半身がゆらゆらと上機嫌に揺れた。そう。人の目には異形にも映る蛇の身体の先っぽが犬の尻尾のように。勿論、それは人を驚かすように作られたジョークグッズなどではない。彼女の頭から生える二対の蛇も、透き通るような青白い肌も、羨ましくなるほどに艶やかな蛇の身体も、全てが本物だ。そして、それらはマリアンヌちゃんが人ではなく、魔物娘の中でも上位に位置するエキドナであることを教えてくれる。
 
 「ひっどーい。私、そこまで馬鹿じゃないもん」
 
 勿論、私だってマリアンヌちゃんが本気で馬鹿にしたなんて思ってはいない。彼女はとても優しくて暖かい人なんだから。これまでも私のドジで何度か迷惑を被っても一度だって怒らなかった彼女が本気でそんな風に思っているはずなんてない。寧ろ、これは私たちの何時ものやり取りで…もっと言えば挨拶みたいなものなのだ。
 
 「ふふふ、ごめんなさいね。それより…」
 「行かないのって事?でも、何処へ行くの〜?」
 「あそこへ、よ。貴女まだ未婚でしょ?」
 
 そう言ってマリアンヌちゃんが指さしたのはさっきデュラハンちゃんたちが通って行った道であった。その先には今回の戦いで手に入った捕虜たち――主に男性がいるはずである。しかし、私の足はそこに向かおうとはしないままであった。
 
 「んー…そうなんだけど…ねぇ」
 「まだそんな気にはなれない?」
 「うーん…だって、自分のことで一杯一杯なんだもん…」
 
 あそこに行くと言うことは一人の人生を受け止めるという事だ。生涯の伴侶を決めるということも同義なのだから。しかし、今の私にはそのような余裕はない。答えのでない悩みでグルグルと思考が空回りし続けている私にとって、捕虜となって苦しんでいる男性を受け止めるのは少しばかり難しいのだ。
 
 ―勿論、不可能とまでは言わないけれどぉ…。
 
 少しばかり変わり種であるとは言え、私だって魔物娘であり、ホルスタウロスである。男性を迎え入れる事になれば、悩みも何も投げ捨てて未来の旦那様に尽くす事が出来るかもしれない。しかし、もし、失敗してしまった時の事を考えるとどうしても足踏みをしてしまう。一生を私の傍で過ごす人には出来るだけつらい思いをさせてあげたくはない思ってしまうのだ。
 
 「最初から結婚を前提に考えなくても良いのよ。お見合いの一種だとでも思って気軽に行けば良いわ。そもそも貴女の運命の相手がいるかどうかさえ分からない訳だし」
 「でも…マリアンヌちゃんは一回で結婚しちゃったじゃないのぉ」
 
 そう。眼の前に居る美しいエキドナはたった一度の出陣――しかも、最初に対峙した豪傑を生涯の伴侶に決めてしまった。彼女曰く『運命の相手』である男性とは今も仲良くやっているらしい。その仲睦ましい様子はとても微笑ましいけれど、そんなマリアンヌちゃんに気軽に行けば良いと言われても中々、首を縦には振りづらいのも事実である。
 
 「そりゃそうよ。私とあの人は運命の赤い糸で結ばれていたんだもの♥」
 「はいはい。ご馳走様ぁ」
 
 えへんとマリアンヌちゃんが自慢げに胸を張った瞬間、その豊満な胸がぷるんと揺れた。薄布でその頂点だけを隠している大きな胸はホルスタウロスの私にも劣らないほど大きなものである。第一子の出産からさらに大きくなったその胸に少しだけコンプレックスを刺激される。
 
 ― 何もかも…マリアンヌちゃんの方が上なんだよね〜…。
 
 種族的特徴から人並み以上に育った柔肉。しかし、それも彼女に負けないだけで決して買っていると胸を張れるものではなかった。それ以外の所などは尚更であり、頭脳でも身体能力でも魔力でも美貌でも敵わない。勿論、彼女と私は敵同士というわけでも競争相手という訳でもないが、何もかも自分の上を行く幼馴染の姿を見て、胸の奥が疼くのは止められなかった。
 
 ― 醜いよねぇ…私。
 
 幼馴染の素晴らしさを心の底から喜んであげられない醜い自分。その身勝手さに私は内心でため息を吐いた。こんな自分のままでは働く事も、誰かと一緒になる事もままならないだろう。それを自覚した私の頭が自然と重力に引かれて、また白亜のテーブルの上へと突っ込んだ。
 
 「もぅ…随分と重症みたいじゃないの」
 「うぅぅ…」
 
 呆れたように言うマリアンヌちゃんに返す気力さえ私の中には残っていなかった。鬱屈とした事故嫌悪の感情は重く、私の心に纏わりついていたからである。重苦しい気分は唇を動かすことさえ億劫に感じさせ、私の口から意味のない呻き声だけを漏らさせた。
 
 「そうやって身体を動かさないから変なこと考えちゃうのよ。ほら」
 「わわわっ!」
 
 そんな私の腕をマリアンヌちゃんががしっと掴んだ。強引とも言えるそれに私の身体は無理矢理立たされてしまう。そのままぐいぐいと私を引っ張る彼女に私はたたらを踏むように引きずられていった。
 
 「ちょ、ちょっとぉ!」
 「どうせ予定もないんでしょ?それなら私に付き合いなさいよ」
 
 私の放った非難の言葉を半ば無視しながらマリアンヌちゃんはスルスルと移動していく。器用に蛇腹を動かすその速度は普段よりも幾分、弛めだ。きっとお世辞にも動きが早いとはいえない私に合わせてくれているのだろう。それそのものは有難いが、いきなりこうして引っ張られるとやっぱり驚く。
 
 「付き合うのは良いけどぉ、何処に行くの〜?」
 「貴女のお婿さんを探しに」
 「えぇぇぇ!?」
 
 さっきの私の逡巡を台無しにするようなマリアンヌちゃんの言葉に私は驚きの声をあげた。しかし、私を先導する彼女は躊躇う事なく移動し続けている。てっきり何処か気晴らしに遊びに連れて行ってもらえるものだと思っていた私はそんなマリアンヌちゃんに抗おうと蹄に力を込めるものの、きちんと舗装された石畳の上では踏ん張りが効かない。
 
 「そんな下らない悩みなんてヤっちゃえばすぐに吹っ飛ぶわよ」
 「み、身も蓋もないよぉ!」
 
 何処かの国の女王様のような上品な顔立ちをしているマリアンヌちゃんから飛び出したとは思えない言葉を私は否定する。勿論、彼女の言葉に一理あるのは確かだろう。変わり種とは言え私も魔物娘だ。旦那様を得ればこんな事を考える余裕はなくなり、年がら年中、愛しい人の事ばかり考えるようになるのかもしれない。
 
 ― だけどぉ…。
 
 「それに…そんな誰でも良いみたいな理由で生涯の相手を選ぶのなんてきっと間違ってるよ〜」
 
 そう。結婚とはもっと素晴らしくて暖かなものだ。私のお母さんがそうだったように幸せでポカポカしたものなのである。そんな素晴らしい関係を築けるのは相手の事を心底から好きになるからだ。そんな関係が欲しいからと言って結婚したところで手に入るはずがない。そんな理由で選ばれる相手にも失礼だし、何より可哀想だ。
 
 「相変わらず少女趣味全開ねぇ」
 「むぅ…別に良いじゃないのぉ。誰に迷惑を掛けてる訳じゃないんだし〜」
 
 そんな私に一瞬だけ振り返ったマリアンヌちゃんに私は頬を膨らませながら返した。確かに私の趣味嗜好は一般的な魔物娘から離れているかもしれないが、そんな呆れたように言わなくても良いと思う。寧ろ、この考え方のお陰であまり男性に興味を持たなかったのだ。そんな私の代わりに誰か別の子が生涯の伴侶を手に入れられたのだと考えれば、迷惑どころか利益を生み出していると言えるかもしれない。
 
 「あら?自覚ないの?貴女は今、多くの人に心配という形で迷惑を掛けているのよ?」
 「う…」
 
 しかし、その考えはマリアンヌちゃんの言葉にあっさりと打ち砕かれた。確かにこうして彼女がお節介とも言えるような行動に出ているのも私がマリアンヌちゃんに心配を掛けている所為だろう。そして、それは彼女だけではない。私と友人という関係を結んでくれている人達にも色々と気遣う言葉を掛けられているのだ。はっきりと誰かが口に出した訳じゃないけれど、何度も目の前で落ち込まれたりすれば、少なくともいい気はしないだろう。
 
 「それにね。貴女は夢を見過ぎよ」
 「え…?」
 「長年の友人が恋人になるのと一目惚れに一体、何の違いがあるの?どっちも同じ恋愛でしょう?それは結婚だって同じ事だわ。大事なのは過程よりも結果よ」
 
 ハキハキと言いながら私を先導するマリアンヌちゃんの背中には女としての自信に満ちあふれていた。『運命の相手』に一目惚れをした彼女はきっと今、とても幸せなのだろう。それが分かる背中が妙に眩しく感じて、私はそっと顔を俯かせた。
 
 「理由がどうであろうと幸せであれば問題はないの。それでも負い目があると思うのであれば、尚更、幸せにしてあげれば良いだけ。単純な話でしょ?」
 「でも〜…私じゃあ…」
 
 そう。確かに彼女の言っている事は正しい。実際に結婚を目的として今の旦那様に出会ったマリアンヌちゃんにとって、それは当然の言葉なのだろう。しかし、それは何をやっても人並み以上にこなす事が出来る彼女だからこそ言い切れる言葉だ。どんくさい私では到底、同じようには思えない。
 
 「自信がないって言って足踏みし続けてたらずっとそれの繰り返しよ。いい加減、そろそろ踏み出しなさい」
 「あ…」
 
 そう言ってマリアンヌちゃんがそっと私の手を離した瞬間、私の視界に大きな階段が入る。巨大な体躯を持つ魔物娘が悠々と入れるその階段の下には今回の戦いで捕虜となった男性が収容されているはずだ。魔物娘が放ったのであろう媚びた女声が聞こえるその階段の前で私は…――
 
 「…あんまりうじうじしてると突き落とすわよ?」
 「ひゃう!?」
 
 もじもじと立ち尽くす私の後ろからマリアンヌちゃんの冷たい声が届いた。微かに怒りを込めたその冷たい声音に私は彼女が本気である事を悟る。何だかんだ言ってどんくさい私に一番、根気よく付き合ってくれていたマリアンヌちゃんだけれど、長年、うじうじとし続けている私に限界に達してしまったのだろう。
 
 「貴女なら大丈夫よ。私が保証してあげる」
 
 さっきの怒りの表情から一転、そっと微笑んでくれるマリアンヌちゃんに少しだけ心の支えが取れたのを感じる。ここまでやって貰って流石に足踏みをし続ける訳にもいかない。年単位でうじうじとし続けていた訳だし、ここらで気分転換するのは悪い事じゃないはずだ。そう自分に言い聞かせながら私は自分の足で階段へと踏み出す。瞬間、カツンと乾いた音が石積みの壁を響かせ、反響していった。
 
 ― カツンカツン。
 
 しっかりと整備された階段を蹄の音が響くのを聞きながら私は一歩一歩確かめるように降りていく。空気中に満ちたサキュバスの魔力でぼんやりと光るその場所は足元が見えやすいとはお世辞にも言い難い。あまり夜目が利く訳ではない私は自然、一歩一歩ゆっくりと踏み出すしかなかったのだ。
 
 ― だけどぉ…それとは裏腹に焦る気持ちもあって…。
 
 先の見えない薄暗い階段の下から漂う汗の匂い。微かに苦さの混ざったその匂いを私は知らない。まだどんな魔物娘にも穢されていない男性なんて魔王城には殆どいないのだから。しかし、私へと漂ってくる今のこの匂いは紛れもなく男性特有の――誰にも専有されていないオス特有のものだ。嗅いでいるだけでうっとりとしてしまいそうになるその匂いに導かれるように私はまた一歩踏み出して…――
 
 ― そして私の身体は重力に引っ張られた。
 
 「ふにゃ!?」
 
 半ば夢見心地にも近い状態だった所為だろう。足を踏み外してしまった私はそのままべしゃりと床へと叩きつけられた。バランスを崩した場所が幸いにして目的地の少し前だったが故に大した傷はない。精々、酷く打った膝が赤くなっている程度だろう。
 
 「いったーい…」
 
 それでも痛みを否定出来ない私は膝を撫でながらゆっくりと立ち上がった。瞬間、ぼんやりとライトアップされた石造りの廊下が目に入る。その果てが見えないほどに伸びたそこには小さな個室が幾つも並べられ、中には捕虜となった男性が入っていた。
 
 「う…」
 
 しかし、その視線は決して好意的なものとは言えなかった。敵意や恐怖、中には殺意すら込めて私を睨んでいる人もいる。勿論、それは当然だ。ここにいるという事は殆どが熱心な教団の信者であるのだから。魔物娘が悪であると刷り込まれた彼らにとって、私は人を喰らう化物にしか思えないだろう。
 
 ― 別に…そんな事ないのになぁ…。
 
 彼らと私の間には教育という形で易々と埋められない溝がある。それを実感した私の口からは思わずため息が漏れ出た。暗がりの所為でその顔をはっきりと見る事は出来ないけれど、きっと四方八方を怒りと恐怖の表情で囲まれているのだろう。あまり勇気があるとは言えない私にとってその表情が見えないのは有難い。きっと見えていれば足が竦んでいただろうから。
 
 ― …まぁ、あんまり歩きたい場所じゃないんだけど〜…。
 
 ぼんやりとした灯りの廊下は愛しい相手と歩けばムーディにも思えるかもしれない。しかし、私の隣に未来の旦那様はおらず、周囲からは好意的とは言えない視線ばかり。思わず萎縮してしまいそうになる無理はないだろう。
 
 ― でも…逃げる訳にはいかないよねぇ。
 
 上では色々と世話を焼いてくれたマリアンヌちゃんが待っているのだ。多少、不愉快だからと言ってすぐさま逃げ帰ったら、優しい彼女だって本気で怒るだろう。それに、これまでも色々と心配を掛けてしまった身としては何の進展もないまま報告しに行くのは流石に気まずい。
 
 ― それに…とっても良い匂ぉい……。
 
 階段を下っている時にも感じた独特の匂い。それが今、濃厚な塊となって私の鼻を通り抜けていっていた。流石に不快感を全て帳消しにするほどではないが、逃げ出したくなる気持ちを抑えるには十分過ぎる効果を発揮してくれている。いや…それどころか一呼吸ごとに私の身体が少しずつ熱くなっていっているようにさえ感じるのだ。
 
 ― これ…なんだろぉ…。
 
 今まで感じたことがない体温の高まり。それは私のお腹の奥で最高潮に達し、そこをドロドロに蕩けさせ始めた。そこから滴り落ちるようなむず痒さが私のふとももを自然と擦り合わせ、唇からは熱い吐息を漏らし始める。胸はトクントクンと鼓動を強め、私の鼓膜を震わせるほどになっていた。
 
 「ん…?」
 
 そんな私の前にすっと手が伸びてきた。逃げられないようにしっかりと嵌った格子から伸びたその腕は私とは比べ物にならないほど太く逞しい。大きな熊でさえあっさりと絞め殺せそうな太い腕は指先を揃えながらチョイチョイと動かしていた。
 
 ― こっちに来いって事なのかな〜?
 
 それが私を呼び寄せようとするサインだと受け取った私はそのままふらふらとそちらへと歩み寄る。近づいたお陰で幾分、見えやすくなったその牢には逞しい腕に負けないほど大柄な男性が収容されていた。年の頃は30過ぎだろうか。微かに顎髭を蓄えた顔には隙の無さと経験が同居している。暗がりでもはっきりと分かる深い顔立ちは男らしく、こうして見ているだけでも胸の奥がキュンと反応してしまいそうになった。
 
 ― う…ち、違うもん。私、そんなにチョロくないんだから。
 
 決して整っているという訳ではないけれど、男らしさを感じさせる顔立ち。そして、その身体を包むカーキ色の服が筋肉膨れているのを見てドキッとしたのは確かだ。だけど、別にこれだけで惚れたりした訳じゃない。そう自分に言い聞かせる私の前で歴戦の勇士に相応しい雰囲気を漂わせる無骨な手は私そっと牢の中へと戻っていった。
 
 ― あれ…?
 
 一体、どうして私を呼んだのか。それを理解出来ない私はそっと彼の前で首を傾げた。瞬間、男性は自らの袖へと手を掛け、ビリビリと一気に破りさってしまう。彼の逞しさを一切、隠す事が出来ていないカーキ色の服から引き離された袖を目の前の大男はもう一度破り、一枚の細長い布へと変えた。
 
 「足」
 「え…?」
 
 瞬間、聞こえてきた声はとても短いものだった。だが、その短い言葉だけでも今の私にはハッキリと分かる。それがとても低く威圧的に聞こえるが、とても優しい意図で放たれたものだと言う事が。
 
 「足を出せ」
 「あ…はい」
 
 だからこそ、再び放たれた彼の言葉に私は素直に従った。彼ならばきっと私に危害を加えない。その判断は牢へと向かって差し出した足にそっと巻かれた布が肯定してくれた。強く打ち付けて赤くなった場所を隠すように巻かれたそれはきっと包帯のつもりだったのだろう。ゴツゴツした逞しい手からは想像も出来ないくらい優しく結んでくれるその手つきからもそれが良く分かる。
 
 「…気をつけろ」
 「あ…」
 
 最後にそれだけ言ってから彼はそっと牢屋の奥へと戻った。そのままベッドもない部屋の壁に座り込むようにして背中を預ける。その姿と膝に巻かれた包帯の間で何度か視線を彷徨わせた私の中でドンドンと熱が高まっていくのを感じた。
 
 ― こ、こんなの…私…知らないよぉ…。
 
 自分の中で高まる熱が身体そのものをおかしくしていく感覚。まるで今まで眠っていた何かを呼び覚ますような感覚に私は熱いため息を吐いた。しかし、昂ぶり続ける私の身体はどれだけ息を吐いても冷める事がない。寧ろ、彼を見れば見るほどに、熱いため息を吐けば吐くほどに、ドンドンと興奮へと傾いていく気さえするのだ。
 
 ― あ…で、でも先に…お礼言わないと…!
 
 「あ、あの…ありがとうございますっ!」
 「……」
 
 ぼぅっと数秒ほど思考に没頭してようやくお礼を言っていない事に気づいた私はそう言った。しかし、壁に背中を預けた彼は目を閉じたまま何の返事もしてくれない。それが今の私にはとても寂しい。彼に拒絶されたように感じる心が震えて、冷たさに凍えそうになってしまうほどに。
 
 「え、えぇっと…お名前は何て言うんですか〜?」
 「……」
 「わ、私はディーナって言います!種族はホルスタウロスでぇ…」
 「……」
 
 人を拒絶するような彼に興味を持ってもらおうと私は必死で格子越しに話しかける。しかし、彼は一度だって目を開かず、一瞥だってくれない。まるで死んだように無反応な彼に向かって、私は必死に語りかけ続けた。自分のこと、友人のこと、家族のこと。しかし、そのどれも彼の関心を引く事も出来ないままだった。
 
 「…えっと…それで…えっと…あのぉ…」
 
 元よりお喋りが得意ではない私にはそれほど話の種がある訳ではない。相手の反応も期待できない状態ではあっという間にネタが尽きてしまう。それでも何故か諦めきれない私は格子にしがみつくように彼に向かって語りかけようとしていた。
 
 「ディーナ」
 「は、はい!な、何ですかぁ!?」
 
 そんな私を見かねたのだろうか。彼はそっと目を開いて私の名前を呼んでくれる。それだけでも私は飛び上がりたくなるほどに嬉しい。さっきまでの凍えるような寂しさが反転して嬉しさになったようなそれに私は嬉々として返事をした。
 
 「早く帰れ」
 「う…」
 
 しかし、そんな私に告げられた次の言葉はとても冷たいものだった。明確な拒絶にも近いその言葉に私の顔が俯く。やっぱり私では捕虜となって傷ついた彼の心を開かせる事なんて出来なかったのだろう。勿論、そんな事は最初から分かっていたとは言え、こうして拒絶の言葉を受けると泣き出したくなる。
 
 ― でも…諦めたくないよぉ…。
 
 ここにいるのはもう彼の迷惑でしかないのだと分かっている。だけど、それでも私は彼の傍から離れたくなかった。ここに来るまでの私であれば…ううん、彼に会うまでの私であればきっと心折れて諦めてしまっていただろう。しかし、今の私はまるで彼の犬になったかのように、その傍に侍らせて欲しくて仕方がないのだ。
 
 ― あぁ…そっかぁ…。
 
 そこでようやく私は理解した。これが恋なのだと、身体の中を駆け巡るようなこの熱い衝動こそが私の本能が彼を伴侶だと認めた証拠だと理解したのである。
 
 ― 今ならマリアンヌちゃんの言ってた事が分かる…。
 
 自分の何もかもを捧げたくなるような強い衝動。それは拒絶されている今は決して充実へと向かわず、私の中で出口を求めてグルグルと渦巻いている。それは正直、気持ち良い感覚などではない。満たされないその力には悲しい感情が伴っているのだから当然だろう。
 しかし、その一方で私はそれが充実した時の素晴らしさを夢想する事が出来るのだ。これまで私が抱えていた満たされなさなんて比べ物にならないそれが満たされたら一体、どうなるのか。そう思うだけで私の胸が高鳴り、一歩を踏み出す勇気を得られるのである。
 
 「あ、あの…私…あ、諦めませんから〜」
 「……」
 「絶対っ!ぜぇぇったいですからねぇ!」
 
 それだけ言い残してから私はそっと踵を返して駆け出した。そんな私を敵意がこもった視線がいくつも貫くが、今の私にはそんなものはもうどうでもいい事だったのである。来た時はあんなに気になった視線が気にならないほど彼に傾注していっている。そんな自分に素晴らしささえ感じながら、私は…――
 
 「ぅきゃんっ!?」
 
 ― 最後の最後におもいっきり転んだのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 「って事なのよぉ♥」
 「……」
 「……」
 「……」
 
 ― あれ?
 
 私の自慢のエピソードを語り終え、ほぅっと満足のため息を吐いた私を迎えたのは気まずそうな沈黙であった。しかし、私にはその理由がまったく分からない。別に秘密でもなんでもないのでたまにお客さんにこの話をするけれど、これまでの聞き手さん達は「良かったわね」とか「分かる分かる」と同意をしてくれたのである。少なくとも目の前の三人組のように何かを言おうと迷うように顔を見合わせるような事は一度もなかった。
 
 「いや、流石にちょろすぎやしません?」
 「なんよなんよ。流石に転んだ手当をしてもらっただけで惚れるのは免疫なさすぎると思うんよ」
 「正直、あんだけ言うって事はもっと劇的なエピソードがあるんだと思ってました」
 「え、えぇぇ…」
 
 そんな彼らからダメ出しを喰らった私の口からは困惑の声が漏れ出る。しかし、狼狽えるばかりではいられない。今の話は旦那様と私が出会った大事な大事な思い出なのである。それをこうして否定されるのはやっぱりどうしても納得がいかないのだ。
 
 「でもぉ、誰かを愛するのにそんな立派な理由は必要かしらぁ?」
 「いや…それは…」
 「貴方たちだって別に好きになった時に胸踊るような冒険譚があったわけじゃないでしょぉ?」
 「「「う……」」」
 
 切り返すような私の言葉にダメ出しをしていた三人が呻いた。彼らだって別に劇的なエピソードを経て今の伴侶を得た訳ではない。勿論、それが当然なのだ。小説に出てくるような冒険譚を乗り越えて伴侶を手に入れるなんてこの世界でもほんの一握り。そうでない事を誰が責められるというのだろう。
 
 「ぶっちゃけ一目惚れなんよ」
 「…僕は…その…ご主人様が優しかったから…」
 「ま、まぁ…アイツの笑顔が綺麗だったから…なんてのは大した理由じゃないよなぁ…」
 「でしょ〜。人を好きになる理由なんてそんなので十分なのよぉ」
 
 そう。あの時、マリアンヌちゃんが言ってくれたように人を好きになる理由なんて薄っぺらくて大丈夫なのだ。問題はその気持ちをどうやって高めていくかであって、その大本はそれほど重要ではない。マリアンヌちゃんの言うように最終的にその人と幸せになれればそれで良いのだから。
 
 「それよりそれから後はどうしたんよ?」
 「えぇ〜?普通だよぉ。あの人を引き取る手続きを取ってぇ、お部屋に連れ帰ってぇ、色々盛って襲ってもらっただけぇ」
 「…女って怖ぇ…」
 
 ブルリと無精髭の男性が震えるけれど、私がやった事はそれほど珍しい事じゃない。そうでなくともこの城には欲望を掻き立てる食べ物が沢山あふれているのだ。特に選ぼうとしなくてもそれらの食材は自然と食べ物の中に混ざってしまう。勿論、伴侶を得られた幸運な私達はそれを選んで用いている訳だけれど……――
 
 ― まぁ、その辺りは言わない方が良いよねぇきっと。
 
 きっと彼らが普段、食べている食事の中にも本能を燃え上がらせるような食べ物が沢山、混ざっているはずだ。しかし、それを怖いと感じる彼らにそれを伝えるのはあまりにも酷である。勿論、その対象は彼らに惚れ込んだデュラハンさん達であり、彼ら自身ではないのだけれど。
 
 「まぁ、女の子のほうが強かなのは昔からそうなんよ。ウチもこの前、大百足さんとチュッチュする妄想してたら何時の間にかメイドコスで十回は絞られたし」
 「大将、まだ懲りてなかったのかよ…。まぁ…グレースもそうかなぁ…。この前の休みなんか首ついたままなのに色々と理由つけて一日中離してくれなかったぜ」
 「僕のところは…」
 「いや、良いや。ショタ先輩のところの性活は」
 「どうせ女装とか尿道責めとか前立腺グリグリとかそんなのばっかなんよ」
 「そ、そんなのばっかじゃないですよ!ちゃんと抱き合って愛を確かめ合うようなのもやってます!」
 「ちなみにそれ何時間くらい?」
 「え?12時間くらいが基本じゃないんですか?」
 「…やっぱショタ先輩のレベルは一歩飛び抜けてるんよ」
 
 ここぞとばかりに惚気る三人を見ながら私はそっと微笑みを浮かべた。話の流れからまたさっきのように落ち込むんじゃないかと思ったけれど、どうやら杞憂だったみたい。きっとそれは彼らがとてもその思い出を大事にし、何より相手のことを想っているからなのだろう。そう思うだけで妙に嬉しくなった私は三人に気付かれないようにそっと席を起った。
 
 ― それに…お迎えも来たみたいだし〜。
 
 チラリと入り口に視線を向ければ、そこからそっと中を覗く三対の視線と目が合った。どうやらガールズトークに飽きて――というか、きっと我慢出来なくなって――それぞれの大事な人を迎えに来たのだろう。しかし、楽しそうにじゃれつく三人の姿を見て二の足を踏んでいる。悲しみの寂しさの混ざった6つの瞳を私はそう解釈した。
 
 ―それのお手伝いくらいはしてもお節介にはならないよねぇ♪
 
 「ほらぁ、そんな風にいちゃついてないで準備してぇ。そろそろ店じまいだからねー」
 「えー…まだ時間はもうちょっとあるんよ」
 「ていうか日が落ちたばっかじゃないっすか」
 「何時もはこの時間じゃないですよね?」
 
 不満を口にする三人の言うとおりだ。私のお店――『ミルク・ハーグ』の閉店時間はもうちょっと先である。しかし、ここは私のお店だ。私が閉めると言えば、その時間が閉店時間になるのである。勿論、普段はこんな風に強権を振りかざしたりしないけれど、今日はもう他にお客さんもいないし、従業員の子たちも皆、休んでいるから別に良いだろう。
 
 「さっき思い出話をしてたらムラムラしちゃったからぁ♥これから旦那様といぃっぱいチュッチュするのぉ♪」
 
 それにその言葉は決して嘘じゃなかった。大事な旦那様との思い出に私の身体は軽く火照っていたのである。今すぐ覚まさないといけないほどじゃないけれど、じんわりと湿った下腹部に思わず内股になってしまう。お昼と夜との間にあるアイドルタイムなどに旦那様といちゃつく事はあるけれど、今にも本格化しそうになる疼きはそれでは物足りない。がっつりねっちょりと私の身体を貪って貰わなければ気が済まないのだ。
 
 「それなら仕方ないっすね…」
 「今のこの心境で目の前で濡れ場演じられるよりかはマシなんよ…」
 「まぁ、夜メインでやってるお店はありますし、ハシゴしましょうか」
 「はぁい♪でも…私、ハシゴするのは難しいと思うなぁ」
 「え?いや、まだまだ酒は飲めるんよ」
 「そうですね。まだまだ宵の口も宵の口ですし」
 「独り者が三人集まった寂しさは酒と女でしか癒せないっすよ…」
 「そういや新しくこの辺にガールズバーが出来たみたいなんよ」
 「へぇ…んじゃ次はそっち行ってみっか」
 「ぼ、僕ガールズバーとか初めてなんですけど…ど、ドキドキします」
 
 そんな事を言い合いながら三人はそっとお金を出し合う。請求した金額とまったくの同額。それを彼らから受け取った私の意図には気づいていないらしい。妙なところで鈍感というか迂闊な三人に私は内心、冷や汗を掻きながらそっとその場を離れた。
 
 「中々、面白そうな話をしてるじゃない?」
 「…そうだな。とても興味深い。出来れば二三日語り明かしたいほどに」
 「…浮気」
 「「「え…!?」」」
 
 私とすれ違うように店の中へと入ってきた三人のデュラハン。その声に三人組が驚いたように後ろを振り向くけれど、もう時既に時間切れ。さっきの会話は全部、彼女らに聞かれてしまったのだ。既に致命的な単語が出てしまった以上、どれだけ取り繕っても無意味である。
 
 「その程度で浮気と言うような狭量な女じゃないつもりだがな。…しかし、何故、ガールズバーが出来た事を知っている?」
 「え…えっと…その…」
 「へー貴方の寂しさは酒と私以外の女で癒せるようなものだったんだー」
 「いや…その…あれは言葉の綾っていうか…」
 「…浮気」
 「あ、あのあのあのあのあの」
 「……ひどい…」
 「…うぅぅぅ」
 
 三者三様に責められる三人が戸惑いの声をあげる。しかし、誰一人としてマトモな反論や言い訳を口に出来るものはいなかった。彼らも内心、ガールズバーへと行こうとしていた事に後ろ暗さがあったのだろう。一方的に責め立てる彼女らの前で叱られる子犬のように肩身を狭くしていた。
 
 「言い訳は良い。…どうやら絞りとる回数が足りなかったようだな。…今日からはもう1セット追加しよう」
 「私の寂しさは貴方以外じゃ癒せないっていうのに貴方って人は…!もう許せない…!!当分、貴方は外出禁止!ずっと私と一緒にいなさい!!」
 「…お仕置き」
 「またのご利用をお待ちしておりまぁす」
 
 その言葉とともにそれぞれのパートナーに引きずられ、三人組が外へと出ていく。今にも物悲しいメロディーが流れてしまいそうな背中に私は声を掛けた。しかし、彼らの誰一人としてそれに反応する事はなく、今にも死にそうな顔で――しかし、どこか幸せそうに――夜の街へと消えていく。
 
 ― まぁ…因果応報って奴よね〜。
 
 勿論、彼女らとてガールズバーに行くという事だけでアレだけ怒っている訳ではない。見るからにクールで無口そうなデュラハンは浮気と口にしていたけれど、本気で浮気と思っていた訳ではないだろう。ただ、たまの休みに自由にしてあげたのは良い物の自分たちが寂しさに耐えきれず、それぞれの相手を探しに来たというのに彼らがそれなりに楽しんでいたのが許せないだけだ。そんな彼女らの気持ちに気づけなかった鈍感な彼らにとっては相応しい罰になる事だろう。
 
 ― それに…悪いものじゃないだろうしねぇ。
 
 これから数日間、ずっと相手に束縛されて愛を確かめ合う日々。それはとても甘美で素晴らしいものになる事だろう。彼らとて落ち込むほどに彼女らのことを愛しているのだ。それほどまでに愛している相手と愛を確かめ合う尊い行為を厭うはずがない。
 
 ― ちょっと…羨ましいかなぁ。
 
 こうして店を構えている私にはそんな風に何日も相手ととろけあうようなセックスは出来ない。隔日で店を開いているとは言え、一日全部をセックスに充てる事など不可能なのだ。普段、出来ていない様々な家事もしないといけないし、他にも用事が入ったりもする。
 
 ― 昔は…こんな悩みなんてなかったのにね〜。
 
 ただ、満たされない勤労意欲に悩まされた時にはこんな悩みはなかった。しかし、それが満たされ、こうして旦那様という素晴らしいパートナーを得た今となっても細かい悩みが尽きる事はない。それは満たされているが故の贅沢な悩みという奴なのだろう。だからこそ、私はそれがとても……――
 
 「幸せだなぁ」
 「…何がだ?」
 
 思わずぽつりと呟いた私の背中から聞こえる優しい声。それにそっと振り向けば、そこに純白のコック服に身を包んだ男性が立っている。昼には何人もの食事を作っていたにも関わらず、シミ一つない純白。それはその男性が料理人としてかなりのレベルにある事を感じさせる。しかし、病的なまでに白い純白の上には料理人と言うには少し迫力の有り過ぎる強面があった。出会ったあの日からまったく変わっていないクマのような顔を硬い表情で固める姿は一見、不機嫌にも見える事だろう。しかし、彼と何度も夜を共にした私にとって、決して彼がそうでない事を見抜くのは難しい事ではない。
 
 「あ…旦那様…♪」
 「…ん」
 
 だからこそ、私は臆面もなく愛しい彼の胸へと飛び込み、胸の柔肉を押し付ける事が出来た。人並み以上のバストによって引っ張られた薄いシャツ越しでも彼の逞しさを感じる。あの日――初めて私の部屋に招き、私を犯した日からさらに男らしさを増したその胸板に私の火照った身体は蕩けそうな熱を広げた。
 
 「ふあぁ…♪」
 
 その熱の源泉となっている胸の柔肉。それが旦那様に押し当てられていると思うだけで私の心に暖かいものが満ちる。普段感じる幸せとはまた違ったその暖かさに私の目がそっと閉じていった。まるで春の日だまりのようなポカポカとした暖かさを感じるのだからそれも仕方のない事だろう。
 
 ― それに…ついさっき惚気られちゃった訳だしぃ…♪
 
 嫉妬を浮かべながらも仲睦まじい三組のカップルの姿。私を半ば無視するような彼女らの姿に幾分、当てられてしまった。その上、私はついさっきまで旦那様と出会った経緯を思い返していた訳である。未だに私の胸を踊らせてくれるそのエピソードは私の身体に火を点けるのに十分すぎた。
 
 「…ディーナ」
 「ん…っ♪」
 
 そんな私の額に旦那様がそっと唇を落としてくれる。長身な旦那様の胸の中にすっぽりと収まる私にマーキングするような優しいくちづけ。そんな事をされて魔物娘の本能が我慢出来るはずがない。愛しさという燃料を得て一気に燃え上がり始める私の身体はもじもじと内股を擦れ合わさせた。
 
 「まだ片付けがある」
 「うぅ…だってぇ…♥」
 
 そんな私を咎めるように――或いは呆れるように旦那様が言葉を紡ぐ。それは否定のしようもないほどに正論だ。いくら明日が定休日――と言うか2日に一回は定休日である――であるとは言え、片付けはしておかなければいけない。それが休日を目一杯楽しむ秘訣であると私も理解している。けれど、それ以上に胸の奥でゆらめく欲情を抑える事が出来ない。
 
 「もぉ発情しちゃったのぉ…♥」
 
 そう。私は発情している。身体中が火照って旦那様のたくましいオスが欲しくて仕方がなくなっているのだ。それを抑えて片付けをする事はきっと不可能ではないだろう。しかし、昔はどうであれ、今の私は愛しい夫を手に入れた幸せな魔物娘である。その逞しさを魂にまで刻み込まれた淫らな身体はあまりにも我慢弱い。
 
 「ね?ねぇ…良いでしょぉ…♪」
 「…仕方のない奴だな」
 「んぅ…♪」
 
 おねだりするように胸肉を揺らせば、旦那様がまた私の額にキスを落としてくれる。まるで駄々をこねる子供にするようなそれでさえ私の身体は熱を訴えた。しかし、当然だがそれでは物足りない。私が欲しいのはそんな誤魔化すようなキスではなく、お互いの身体をぶつけあうような激しくも気持ち良いボディランゲージなのだから。
 
 「これだけ〜?」
 「今は、な。作業が終われば幾らでも付き合う」
 
 そうやって不満を口にする私の頭をそっと撫でる手は傭兵をしていただけあってとてもゴツゴツとしている。しかし、私の髪を優しく梳くその指はその外見からは考えられないほど器用に動いていた。繊細かつ愛情を込められたその愛撫に不満に膨らませていたはずの頬が緩ませられるのを感じる。
 
 「それにこの店を開いた時の約束を忘れた訳じゃないだろう?」
 「う…」
 
 そんな私に対してトドメとなったのは旦那様との約束である。私が働く場所を求めている事を知った旦那様は私自身が店を開けるように色々と働きかけてくれた。お世辞にも頭が良いとは言えない私のために動いてくれた旦那様の姿がまた格好良くてさらにのめり込んだのをよく覚えている。そして、そんな旦那様が代償に求めたのは…――
 
 「途中で投げ出さない事と自分の店に責任を持つ事」
 「…はぁい…」
 
 ベッドの上では優しい――勿論、凶悪なまでに犯される時もあるけれど、愛情たっぷりなんだから♥――旦那様もこういう事には厳しい。元は飲食店の一人息子でコックを目指していただけあって私よりも遥かにそういった意識が高いのだろう。それが誇らしい反面、誘惑を完璧に退けられたのは少し寂しい。
 
 「…暇な時間にはちゃんと構ってやっているだろう?」
 「うぅぅ…だってぇ〜」
 
 そっと私の身体を手放して、手際よくカウンター席を拭いていく旦那様の目に私の寂しそうな表情が止まったのだろう。強面な顔に微笑みにも似たものを浮かべながら、旦那様はそう言った。確かにそれは一理あるだろう。お客さんのいない時間にはパンパンに張った私の胸からお乳を搾ってくれているし、ギンギンになったオチンポをしゃぶらせてくれたりもするのだから。でも、一度始まったら容易には止まらない魔物娘の本能はその程度で満足するような大人しいものではない。寧ろそうやって本格的なセックスに至らない愛撫ばかりを繰り返しているお陰で私の身体には潜在的な欲求不満がくすぶり続けているのだ。
 
 「旦那様がいけないんだよぉ…私の事、こんなにエッチにしちゃうんだからぁ〜」
 
 私だって昔はこんな事はなかったのだ。ドジばっかり繰り返してはいたけれど、仕事中に発情したりはしなかったのである。しかし、旦那様の精液の味を覚えてからは発情していない時間のほうが珍しい。勿論、そんな自分を嫌ったりしてはいないのだけれど……――
 
 「だから責任取ってぇ〜」
 「後でな」
 「ぶぅ」
 
 諦めきれずに求めてみたものの、軽く受け流されてしまう。私と同じくらいエッチな事が大好き――と言うか基本的に私の腰が途中で抜けちゃうほど今の旦那様は性欲旺盛だ――なはずなのに、どうしてそこまで硬派なのか。そんなストイックな姿も大好きだけれど、思わず頬を膨らませてしまう。
 
 ― でも…旦那様は本当に私に構ってくれる気はないみたいで〜…。
 
 どれだけ不満をアピールしても旦那様は振り返ってくれる気配すらない。それならば片付けを手伝って早く終わらせてしまったほうが良いだろう。ようやく思考をそちらへと導く事に成功した私は諦めて布巾を手に取った。
 
 ― とは言え、飲食店の締め作業というのは結構、大変なのよぉ。
 
 単純に掃除するだけでなく売上の計算や油やゴミの処理などやる事が一杯だ。ピーク時を除けば飲食店で一番忙しい時間は寧ろ閉店準備だとさえ思うくらいの作業量である。自然、一時間程度では作業は終わらず、私は自分の疼きと闘い続けるしかなかった。
 
 ― うぅぅ…じんじんするの〜…。
 
 欲求不満が最高潮にまで高まっている私の太ももがスリスリと擦れる。それだけで私の内股はクチュクチュといやらしい音を立て、透明な糸を引いた。勿論、それは薄布で覆われただけの堪え性のない秘所から愛液がドロドロとこぼれ落ちている所為である。一度、発情してしまった淫らな肢体は愛しい人に触れられずともこうして甘い涎を零すのだ。
 
 ― したいぃ…したいしたいしたいぃっ♪旦那様とセックスしたいよぉ…♥
 
 しかし、それを口にしたところで旦那様が譲歩してくれる訳ではないのはこれまででよく分かっている。押し倒す事が出来ればチャンスくらいはあるかもしれないけれど、私は旦那様に店を経営するという我儘を手伝ってもらっている身だ。どれだけ欲望が滾ったとしても、無理強いはしたくない。
 
 「…よし」
 
 そんな私の前で旦那様が最後のお金を数え終えた。特に眉をひそめている訳ではないのできっと計算は合っているのだろう。あまり表情豊かとは言えない旦那様からそれを感じ取った私は、綺麗にしたテーブルに向かう旦那様の背中にそっとしなだれかかった。
 
 「旦那様ぁ…♥」
 「…もうちょっとくらい我慢出来ないのか?」
 
 そのままぎゅっと胸を押し付ける私が耳元で囁くものの、旦那様は動揺に声を震わせる事はなかった。きっとこれも旦那様にとっては予想通りの行動だったのだろう。ここまで発情した私が胸を押し付けないなんて殆どないからある意味、当然なのかもしれない。
 
 「出来ないよぉ♪だって…今までずぅぅぅっと我慢してたんだから〜」
 「確かに…な。コレ以上は流石に酷か」
 
 呆れるように肩を落としてから旦那様はそっと立ち上がった。私の拘束から逃れるようなその動きにピンと張った乳首が衣服の中で擦れる。毛皮を模したような布地の刺激は乱暴で背筋に冷たくも気持ち良い感覚が通り抜けた。
 
 「ん」
 「あ……ぁっ♥♥」
 
 通り抜ける快感に背筋をピンと張った私の身体を旦那様は捕まえた。暴れ熊相手でも絞め殺せそうな逞しくも優しいその腕に抱かれる感覚は思わず目尻が潤んでしまいそうになるほど心地良い。しかし、旦那様は我慢した私のご褒美だと言わんばかりに私の足をそっと抱え、そのまま抱き上げてくれた。
 
 「…戸締りは?」
 「か、完璧…だよぉ…♪」
 
 旦那様が売上の計算をしている間に私は店中の戸締りを何度も確認したのだ。幾ら私がドジだからって戸締りの確認程度で失敗するほどじゃない。もうこの店は外部からは誰も入ってこれない密室のはずだ。
 
 「…そうか」
 「んやんっ♪」
 
 それを確認して気が緩んだのだろうか。私をお姫様抱っこの形で抱える旦那様の腕にそっと力が入った。全体的にむっちりとしている私の身体にぎゅっとめり込むようなそれは欲情の証なのだろう。やっぱり我慢していただけで旦那様も興奮してくれている。それを改めて理解した私の口から嬌声めいた声が漏れ出た。
 
 ― そんな私を抱き上げたまま、旦那様は店の奥へと入っていって…♪
 
 客席の奥にある階段。そこはこの店の経営者である私達の家への入り口だった。小さく狭いその階段を旦那様はしっかりとした足取りで上がっていく。抱き上げられた私が不安に感じる事などない力強いその足取りに私のお腹の奥がジュンとまた熱を広げた。同時に広がった欲求不満にも似た快感が私の太ももをフルフルと震わせる。
 
 「……」
 「ん…♥」
 
 そんな私を奥のベッドルームへと連れて行った旦那様はそのままゆっくりと私の身体をベッドへと横たえてくれる。勿論、口数の少ない旦那様はその間も無言であり、表情も殆ど変わっていない。しかし、窓の外から差し込むふわふわとした赤い光に照らされた薄暗い部屋の中で、その瞳は私と同じくらい欲情に濡れていた。
 
 「だんな…さまぁ…♥」
 「…ディーナ…」
 
 あまり華美な事が好きではない私達らしい寝台だけを置いたベッドルーム。もう何度も交わったそこで繰り返されるのはいつも通りのやり取りだ。目の前の愛しい人もまた私の身体に欲情してくれているという事実は私の身体を毎日、無意識に動かす。それは旦那様も同じなのだろう。ギシリと鳴ったベッドの悲鳴を意に介さず、私へとのしかかってきた旦那様の唇も同じように愛しい相手の名を呼んだ。
 
 ― 嬉しい…なぁ…♥
 
 生涯の伴侶として心と身体が認めたオス。それが私と同じように感じ、動いてくれている。それだけで私の心は初心な小娘のように舞い上がり、欲情とは違う暖かな熱を広げた。しかし、歓喜とも表現されるそれはすぐさま淫らな疼きへと変わる。
 
 ― もっと…もっとこのドキドキを伝えたいのにぃ…♥
 
 私達――ホルスタウロスという種族にとっておっぱいは他の種族以上に敏感で大事な部分だ。生きる為に凶暴性を捨て、人間に世話をして貰えるように進化した私達にとって胸から出るミルクは生き残るための武器であるとも言える。それほどまでに重要な胸を押し当てる、或いは預けると言うのはホルスタウロスにとって最大の愛情表現にも近い。
 しかし、ベッドに押し倒された今の私はそれが出来ないのだ。胸の先をジンジンとさせる疼きを、今にも蕩けそうなドキドキを、愛してるという言葉ではもう表現できない愛情を、何一つとして愛しい人に伝える事が出来ない。そのもどかしさはホルスタウロスの私にとって辛いくらいであり…反射的に私の腕が旦那様の背中へと回る。
 
 ― そんな私にゆっくりと旦那様が近づいてきて…♪
 
 深い傷跡の残るクマのような強面。男らしさを飛び越えてオスらしさすら感じさせるその顔がゆっくりと近づく光景に私の身体はまた欲情を高める。ピンと張った乳首がまた熱くなるのを感じながら、私はそっと目を閉じて顎をあげた。
 
 「ん…ふぅ…♪」
 
 もう数えきれないほど私とキスしている旦那様は私が早く口付けをして欲しいとおねだりのポーズをとっている事に気づいてくれたのだろう。少しささくれだった唇が私の唇へとそっと触れた。瞬間、ほのかに甘い香りが私の鼻を擽り、舌の下部から唾液を溢れさせる。
 
 「ちゅぅ…♥あぁ…♪」
 
 しかし、その唾液を旦那様へと送る間もなく、ささくれだった唇は私から遠ざかっていってしまう。勿論、そのすぐ後に旦那様は再びキスを降らせてくれた。しかし、それは唇を割る事もないバードキスである。子どもがするような愛らしい口付けは勿論、嫌いではないけれど、今の私にとっては焦らされているようにしか感じない。
 
 ― もっと…激しいのが良いのに…ぃっ♥
 
 今の私の口腔内に溜まっているドロドロの唾液を絡ませ合うようなキス。もう完全に本能に火が点いた私にはそれでも我慢出来るか怪しい。それは旦那様だって同じはずだ。私へとゆっくりと迫ってきた瞳には今にも零れ落ちそうなくらいの欲情が湛えてあったのだから。
 
 ― あぁ…もぉ…だめぇ…♪
 
 旦那様の意図を考える余裕も今の私には残されていない。燃え上がった魔物娘の本能は私の腕を旦那様の背中から首へと移動させ、その顔を逃げられないように閉じ込める。一見、ぷにぷにとしている柔らかい腕ではあるが、原種をミノタウロスとしているだけあって私の力もそこそこだ。旦那様がどれだけ逞しくともこの拘束から逃れる事は出来ない。
 
 「甘えん坊だな…」
 
 そんな私を揶揄するように旦那様が囁く。瞬間、そっと目を開けば、旦那様の顔に浮かんでいるのは馬鹿にするようなものではなく欲情だけである事が分かった。何だかんだ言って旦那様は父性の強いタイプである。庇護欲と支配欲を擽るタイプ――私のようなメスが何より興奮を唆るのだ。
 
 「そぉだよぉ…♪私…旦那様がいないと何も出来ない甘えん坊なの〜…♥」
 
 ―だからこそ、私はこんな風に甘える言葉だって紡ぐ事が出来るんだから…♪
 
 人間の庇護を受けられるように進化してきたホルスタウロスの中では私は珍しい自立心の強いタイプだった。名も顔も知らない誰かの為に母乳を提供するのではなく、もっと具体的に役に立てる実感を欲しがった女である。しかし、それも過去の話だ。こうして旦那様に甘える為であれば、私はそんな自立心などかなぐり捨てて思うがまま依存する事が出来る。
 
 ― まさか…こんな風になるなんて…ねぇ♥
 
 働けないという事実に思い悩んでいた頃からは考えられない変化。それを自覚した私の顔にふわりと笑みが浮かんだ。幸せと歓喜の入り混じったそれは勿論、今の自分を誇らしく思っているからである。そして、旦那様との甘い生活の中で変質していった身体はこうやって見つめ合うだけで満足する事が出来ないのだ。
 
 「だから…いぃっぱい…甘えさせてねぇ♥」
 
 そう言いながら私は閉じ込めるように固定した旦那様の唇をそっと啄んだ。そのまま興奮で熱くなった舌で唇を割って、旦那様の方へと突き進む。それを旦那様は拒まない。欲情を浮かべた優しい表情のまま私のキスを受け入れてくれている。
 
 「ん…ぅ…♥」
 
 それに安堵しながら舌を進めれば、私の舌にトロトロとした甘い粘液が絡み付いてくる。シロップを彷彿とさせるその甘味は紛れも無く、旦那様の唾液だろう。旦那様が作るデザートに負けないくらい美味しいその熱い粘液を私は舌で熱心に舐めとっていった、
 
 ― ふぅ…ん…♥ジンジン…来ちゃうよぉ…♪
 
 魔物娘にとって心を捧げた相手の全ては媚薬のようなものだ。愛しい相手の一挙動でさえ欲情を感じるほどに淫らで貪欲な本能を持っているのだから。そんな淫らな身体が旦那様の唾液に反応しないはずがない。トロトロの甘い唾液を感じる度に私の口内で唾液が増え、半開きになった口から滴り落ちていく。その上、抱き寄せた旦那様とこすれ合う乳首がジンジンと疼き、乱暴に弄んで欲しくなってしまうのだ。
 
 ― 擦れるだけじゃダメぇ…♥もっと…もっと乱暴にして欲しいの〜…っ♪
 
 しかし、心の中でどれだけそう叫んでも旦那様には伝わらない。そのもどかしさに被虐的な感覚が通り抜けるのを感じながら、私は舌を奥へ奥へと進める。バードキスをしている間に旦那様も興奮していたのだろう。その口腔は私に負けず劣らず唾液に満ちあふれていて、ドロドロになっていた。
 
 ― んふぅ…♪クチュクチュいってる…ぅ♥
 
 舌を突き出すようにして愛しい人の粘膜を泳げば、クチュクチュと糸を引く音がかき鳴らされる。旦那様の粘膜と私の舌が奏でるそのハーモニーは性交を彷彿とさせるものだった。勿論、私と旦那様の性交はこんな音で終わらないくらい激しくも淫らな合唱である。しかし、粘膜から伝わってくる甘さと温い快感がその印象を加速させていた。
 
 ― やっぱり…精液に似てるよね〜…♪
 
 同じ体液だからだろうか。旦那様の口から伝わってくる甘味は何処か精液に似ているのだ。流石に骨の髄まで蕩けてしまいそうな濃厚な甘さはないものの、唾液を何十倍、いや何百倍にも濃くすれば精液に近くなる気がする。
 また舌も魔物娘の身体にとって敏感な器官の一つである。流石に胸やアソコほどではないにせよ、ねっとりとオチンポに舌を絡めるフェラチオで絶頂するのは魔物娘にはそう難しい事ではない。そんな舌でドロドロになった口腔を泳げば、気持ち良くなってしまうのも当然だろう。
 
 ― あはぁっ♪私のオマンコも…こんな感じなのかなぁ…♥
 
 いちゃつくカップルを見てムラムラして自慰をした事くらいはあるけれど、自分の膣肉なんて触ったことがないから分からない。旦那様と結婚するまでの私にとってそこはある種の聖域であったし、旦那様と一緒になってからはそこは旦那様だけのモノだったのだから。けれど、旦那様が言うには私の中はドロドロになった愛液で一杯になっている上にヒダヒダの生えた膣肉がゴリゴリとオチンポを洗い立てるらしい。流石に肉襞まではないけれど、私の舌が感じているこの感覚が私のオマンコに近いのではないだろうか。
 
 「ひぅぅっ…んっ♥♥」
 
 そんなバカな事を考えていたのを見抜かれたのだろうか。のびのびと旦那様の口の中を味わっていた私の舌に熱い何かが絡みつく。その気持ち良さに声をあげた瞬間、その熱い何かは表面のツブツブを私の舌へと押し付けてきたのだ。
 
 ― あぁ…っ♪扱かれちゃってる…ぅ♪
 
 突き出した舌の敏感な裏筋。そこをツブツブとした表面に撫でられるだけで思わず背筋が浮いてしまいそうになる。しかし、その瞬間、旦那様はそっと自分を支えていた四肢から力を抜いて私の方へと倒れこんで来た。筋肉質で100キロを超える肉体がのしかかってくる感覚。魔物娘の身体はそれに苦痛を感じる事はなく、寧ろ背筋を浮かせられないほどに旦那様と密着している事に悦びを訴えた。
 
 ― 胸もぉ♪私のおっぱいもぎゅううってされてるぅ〜♪
 
 重力に負けないように張った乳房がこすれ合うのではない。厚くて硬い胸板に思いっきり圧力を掛けられ、柔肉が変形する感覚。それは敏感なホルスタウロスの乳房に例えようのない喜びを感じさせ、胸の奥へと電流を走らせる。そして、ビリビリとしたその感覚に押し出されるように無防備に突き出た舌を旦那様の熱い何か――舌が蹂躙するのだ。
 
 ― あうぅん…っ♥やっぱり…される方が良い…ぃっ♪
 
 唐突に湧き上がった快感によって硬直した舌。それを舐めまわすように動く粘膜に私の頭はジンと蕩けてしまう。無論、旦那様の口の中を気ままに動き回っていたのは決して悪い気持ちではなかった。しかし、私は被虐的な嗜好の方が強いのだろう。こうして旦那様に思うがまま弄んで貰えているというだけで胸の奥で一定の充足感を感じてしまうのだ。
 
 ― 良い…よぉっ♪旦那様なら〜何をされたって…気持ち良いんだから〜…っ♪
 
 旦那様と出会って早十数年。その間、毎日休まずセックスし続けてきたけれど、未だに私の淫らな身体は開発されきっていない。昨日より今日が、そして今日より明日の方がより敏感で淫らに育ってきているのである。より深く旦那様専用のメスへと変わっていっている淫らな私の肢体。それはまだ完成してはいないものの、旦那様相手であれば乱暴に扱われても気持ち良くなってしまう事だろう。
 
 「ん…ぁ…ぁっ♪」
 
 それが伝わったのだろうか。旦那様の腕が唐突に私の手を解き、ベッドへと縫い付ける。それは一見、レイプする直前の乱暴な仕草にも見える事だろう。だが、旦那様の指先はまるで仲睦まじいカップル同士がやるように私へと指を絡ませてくれているのだ。俗に言う恋人つなぎの形で拘束された私の身体にまた被虐的な快感が通り抜ける。
 
 ― これじゃあ…私…抵抗出来ないよぉ…♥
 
 勿論、最初から抵抗する気なんてない。しかし、まったくの自由の状態と不自由さを感じる状態ではマゾの私にとっては大違いなのだ。その証拠に旦那様に押しつぶされたおっぱいからはドロドロに蕩けるような甘い熱が広がり始めている。旦那様の舌で弄ばれている粘膜などはヒクヒクと痙攣してまるで虐めてもらうのをオネダリしているようだ。
 
 「はぁ…っ♪く…ひゅ……♪」
 
 しかし、そうやって私が受け身なままでは旦那様は気持ち良くなる事が出来ない。私に合わせるように庇護欲を支配欲へとすり替えた旦那様ではあるが、やっぱり直接的な刺激は欲しいだろう。そう判断した私は突き出した舌をゆっくりと動かし、旦那様の粘膜へとすり寄せる。
 
 ― まるで…メス犬みたぁい…♪
 
 ゆっくりとした緩慢な舌の動き。それは指示している私自身にオスに発情した身体を擦りつけて誘惑するメス犬を彷彿とさせた。私は発情しているし、心を許したオスに擦りつけているのだから。ただ、イメージと少し違うのは私がメス犬などではなく、淫らでミルクを搾って貰えないと我慢出来なくなるメス牛だと言う事だ。
 
 「ひぃぅ…ぅ♪はぁ…く…ちゅぅ…♪♪」
 
 そんな淫らなメス牛の舌を旦那様は受け入れてくれた。私とは逆の動きを描くぷりぷりとした舌。円を描くように動き回るその粘膜に敏感になった私の舌は耐えられない。時折、潤滑油を求めるように旦那様の唾液を塗りこむ動きでさえ抑えつけられた身体が内股になってしまいそうになるほどビリビリしてしまうのだ。
 
 ― あぁ…♪またおっぱい…本格的に張ってきちゃったよ〜…♥
 
 アイドルタイムにあんなにたっぷりとミルクを搾り出して貰った――ついでに私自身も美味しいオチンポミルクを搾った訳なのだけれど――にも関わらず、私の淫乳はまた張り始めていた。きっと中にはホルスタウロス特製の甘くて美味しいミルクが開放の時を今か今かと待ち望んでいるのだろう。旦那様と結ばれてからさらに美味しく、そして多く出るようになったそのミルクは私の自慢だけれど、内側から肌が押されるような感覚はあまり良い気分ではない。
 
 ― 早く…搾ってぇ…♪旦那様のゴツゴツして手でいっぱいびゅぅびゅぅさせて〜っ♥
 
 一瞬で欲望に飲み込まれた思考がそう紡ぐものの、キスをしている状態ではそれを伝える事は出来ない。しかし、じわじわと快感と歓喜が身体中に広がるようなキスを辞める気にはなれなかった。欲望と本能に挟まれた身体がそれに満たされなさを感じる。それでも事態を動かす事は出来ず、私は火照る身体を押し付けるようにして必死に快感を求めていた。
 
 「はふぅ…う……♪」
 
 そんな事態が動いたのはそれから少しした後。ずっと旦那様へと向かって突き出され続けていた私の舌は流石に疲弊を訴え、ゆっくりと私の中へと戻ってくる。勿論、それを見逃す旦那様ではない。私の舌に追いすがるようにして私の口腔へと旦那様が入ってくる。
 
 ― はぁ…ぁっ♥クチュクチュって…私の中で動いてる〜…っ♪
 
 旦那様の口の中で舌を絡ませ合うのとはまた違った感覚。何処に触れても気持ち良いのではなく、何処に触れられても気持ち良いそのキスは私の被虐性を大いに刺激した。口全体を蹂躙されるように感じる肌が泡立ち、ゾクゾクとした感覚が神経を駆け巡る。
 
 「ひぃ…ふぅ…っ♪」
 
 それでも唇を突き出した姿勢だけは止めずに旦那様の唇へと甘えるように吸い付く。お互いの口の間に出来る僅かな隙間すら許さないように吸い付く唇も心地好さが伝わってくる。それと同時に…唾液とはまた違った味も。
 
 ― あぁ…ちょっとだけど…旦那様の味ぃ…♪
 
 お風呂も入らないままこうしてベッドルームへ私を連れ込んでくれた旦那様。その肌には汗の味と匂いが微かに残っていた。少しばかりツンと鼻を突くような独特の汗臭さと塩っぽさ。年頃になった人間の娘はこの匂いが嫌いになるらしいけれど…到底、そんな事信じられない。それくらい私にとって旦那様の汗は素晴らしく、そして何より身体を昂らせるものだった。
 
 「んちゅぅ…♥うぅんっ♪」
 
 そんな私をさらに追い詰めるように旦那様が私の口を吸い上げる。じゅるじゅると唾液ごと吸い上げられる感覚に脱力した私は逆らえない。無防備に脱力した舌を弄ばれながら、ドロドロの唾液を奪われていってしまうのだ。
 
 ―じゅるるるるるぅぅっ♪
 
 それに伴って私たちの口の間からはしたない音が漏れる。ストローで無理やり、ジュースを飲もうとしている音を何倍にも大きく、そして淫らにした調べ。それは自然と私に今の被虐的な状況を意識させ、腰の方まで冷たい被虐感を伝わせる。それまでは胸に集中していた快感が下腹部へと少しずつ移動していく。今までの経験からそれが劣情が爆発する予兆だと理解した私はのしかかってくる旦那様へとそっと足を絡めた。
 
 ― あっ…♥熱くて…硬ぁい〜…♥
 
 ごわごわとした厚手の服装を持ち上げるように張ったオチンポ。それは鋼のように固く、私の柔らかい太ももを変形させる。その上、汗ばんだ肌を蕩けさせるような熱が伝わってくるのだ。私の淫らなメスの身体を何度も鳴かせてくれた大好きなオスの昂ぶり。それを彷彿とさせる熱と硬さに私の背筋はブルリと震えた。
 
 ― 旦那様だって…したいんだよねぇ…♪
 
 わざわざ視線を向けるまでもなく滾った肉の剣。興奮の証であるそれはまるで甘えるように私へと擦り付けられ始めた。それは普段の逞しい夫の様子からは到底、考えられない仕草である。しかし、プライドが薄れるほどの性欲を向けられる私にとってはその仕草一つがとても可愛らしいものに思えるのだ。
 
 「あ…ん…ぁ…ぁっ♪」
 
 勿論、その間も暴力的なまでに旦那様の舌は私の口腔を這い回り、ドロドロにされた私を犯してくれている。まるで私の全てを奪い取り、私の全てを染め上げようとする暴力的な姿と、子どものように私に縋るような幼い姿。一見、相反するように思える二つの姿が今の私の目の前で一つの男性に重なる。その身体に宿す欲望の全てを私に叩きつけるようなその様子が私はとても愛しくて…――
 
 「…んふぁ…♥」
 
 そこまで考えた瞬間、旦那様が私からそっと離れていく。くちゅりと糸を引く音を立てて離れるその姿に私は寂しさを覚えて、ぎゅっと指先に力を込めた。行かないで、と主張するような幼くも朧げな自己主張。それに応えるように旦那様は私の手を優しく握り返してくれた。
 
 「んふ…♪」
 
 小さな仕草一つで私のして欲しい事を正確に感じ取ってくれる愛しい人。その喜びに半開きになって唾液がこぼれ落ちる私の口からは満足気な吐息が漏れ出た。それは大好きなオスを自慢するようなメス犬の鳴き声を私自身に彷彿とさせ、心の中に湛えられた愛しさを私に意識させる。
 
 「私…旦那様の事…だぁいすきだよ〜…♪」
 
 毎日、一緒に過ごす事で高まり続ける愛情。嵐のような激しさはなくとも静かで大きなその想いは一瞬足りとて途切れる事はなく、こうして旦那様に愛を囁かなかった日はない。だけど、どれだけ夫を愛していると言っても、どれだけ身体を重ねても、愛を伝える事を止める事は出来ないのだ。それはきっと愛している言葉が余りにも小さく、薄っぺらいだけではなくて…――
 
 ― きっと…私が旦那様に毎日、惚れ直してるからなんだろうなぁ…♥
 
 そう。旦那様の横顔一つ見るだけで私の心は『彼』に恋をしてしまう。旦那様に触れて貰えるだけで私の頭は『彼』で埋め尽くされてしまう。旦那様に優しくして貰うだけで私の身体は『彼』を求めてしまう。それらには果てなんてなく、旦那様が傍にいてくれるだけで永遠に続いていくのだろう。だからこそ、私は人間のように感情を色褪せる事なく維持出来て、幸せを見失う事もないのだ。
 
 「…俺もだ」
 
 そんな私に向かって旦那様が少しだけ頬を吊り上げながら言ってくれる。それは感情を表現する事が不器用な旦那様なりの精一杯の笑顔だ。夫もまた飽きる事なく繰り返される愛の言葉を喜んでくれている。それを感じさせる表情に私の胸の奥がズキンと強い疼きを走らせた。
 
 「うふ…♪それじゃあ…お揃いだね♥勿論…こっちもぉ♪」
 
 その言葉と共に太ももをスリスリと旦那様の股間へと押し付ける。男を魅了する事に特化した魔物娘の身体でも特に柔らかで張りのある肉。そこから繰り出される愛撫は興奮で滾ったオチンポには十分すぎたのだろう。厚手の生地の向こうでビクビクと震えてくれるのが伝わってくる。
 
 「旦那様とは違って…ここはとぉってもケダモノさんだね〜♪」
 「…俺だって我慢してるだけだ。本当は…店を閉めるもっと前からお前としたかった」
 
 ポツリと呟いた旦那様の顔を見ようとそちらに視線を向けたものの、そっと顔を背けられてしまった。夫はあまり恥ずかしがり屋という訳ではないが、やっぱり欲望を告白するのは恥ずかしいのだろう。興奮で上気した頬にも微かに羞恥の色が混ざっているのが分かった。
 
 「そんな風に我慢なんてしなくても良いのにぃ…」
 「そういう訳にはいかない」
 「お店の事が大事だから…?」
 「お前の事が大事だからだ」
 
 その言葉と共に旦那様の顔が再び私の身体へと降りてくる。しかし、それは私の唇へと向けられるものではなかった。愛しいオスの顔は発情したメスの匂い漂う首筋へと降りてきたのである。発汗で微かに蒸れるその場所を旦那様に嗅がれるという恥ずかしさ。それに私の淫らな身体が反応し、ビリリとした快感を伝わらせる。
 
 「責任感の強いお前は自分でやりたいと言った店を放置するのは我慢出来ない。今は欲望に飲み込まれて判断能力を失っているだけで、きっと終わった後で後悔するはずだ。特に…もうこの店は俺たち二人だけのものじゃない。雇っている子だっている訳だからな」
 
 普段は決して口数の多いとは言えない旦那様の言葉。それは長年、連れ添ってきた私にとっても初耳だった。きっとこれまでは夫なりに色々と考えて胸の奥に押し留めてくれていたのだろう。
 
 「俺はお前がそんな風に自分を追い込む姿を見たくない。だから、俺がストッパーになる必要がある」
 
 ― その言葉はとても静かだった。
 
 しかし、そこには確かな決意と覚悟が混ざりこんでいた。戦場という鉄火場で磨かれた旦那様の強靭な意思。インキュバスというオスの魔物と化して人並み以上の性欲を手に入れたはずなのに揺らぐ気配のないそれに私の胸はぎゅっと締め付けられるように感じた。そこにはそんな旦那様の決意に今まで気づかなかった事への後悔も勿論、含まれている。しかし、私の心はそれ以上にそこまで私を思いやってくれている旦那様への愛しさではちきれんばかりになっていたのだ。
 
 「…ごめんね」
 「そんなお前に惚れ込んだのだ。謝らなくても良い」
 
 そう言って旦那様の舌が私を慰めるように首筋をぺろりと舐めてくれる。それだけで欲情した私の身体は気持ち良くなり、全身に快感を走らせるのだ。勿論、それだけじゃない。愛しい人の愛撫は私の後悔を薄れさせ、より愛情を膨れ上がらせてくれる。
 
 ― だけど…私はぁ…。
 
 私が謝ったのはこれまで旦那様の真意に気づけなかった事ではない。さっきのは旦那様が愛しくて愛しくて仕方がなくなってしまった自分自身に対する謝罪だ。後悔する気持ちよりも遥かに大きなその愛しさに私は自分が何ら反省していないように思えたのである。
 
 ― 嫌…だな。この感覚…。
 
 中途半端で止められた身体は疼き、血が登った頭にもドロドロとした思考が止む事はない。しかし、それでも私の心には自己嫌悪が残り続けていた。それは真っ白な多幸感に残る微かなシミのようなものだろう。しかし、周りが真っ白な幸せで満ち足りているだけにそれは否応なく目に入り、そこに意識が向いてしまうのだ。
 
 「…それでも謝りたいというのなら…」
 「んぁ…っ♪」
 
 旦那様はそんな事を言いながらゆっくりと舌を首筋から胸元へと動かした。つつつと舌先を尖らせて浮いた鎖骨を舐めるそれに私の背筋が浮き上がりそうになる。しかし、未だに私の上にのしかかった旦那様はそれを抑えこみながら、そのまま舌を胸の谷間まで移動させた。
 
 「ここで償ってくれないか?」
 「あぁ…ん…♥」
 
 おっぱいで償ってくれと呟く旦那様に私は即答する事が出来なかった。だって、そんな事出来るはずがないのだ。私はホルスタウロス――魔物娘の中でも特に胸が敏感な種族なのだ。おっぱいを使ったご奉仕をするだけで多幸感で一杯になる種族にそんな事を求めてもご褒美にしかならない。そんな事は私と十数年一緒に生活して、毎日、身体を重ねている旦那様には良く分かっているはずだ。
 
 ― それでも…こうして言ってくれているのは…ぁ♪
 
 私が自己嫌悪を感じているのに気づいてくれたからころなのだろう。普段の旦那様はそんな風に償いを強要するような人では決してないのだから。そもそも私の身体はまるごとすべて旦那様に捧げられたものだ。償いだなんて理由を口にしなくても、夫がしたいと言えば何でも受け入れるのは分かりきっているだろう。
 
 「旦那…様ぁ…♥」
 「嫌…か?俺はお前のこの大きくて淫らな胸に肉棒を挿入してその谷間の中に思いっきり射精したいんだが」
 「ふぁぁ…っ♥」
 
 それでは償いになんてならない。そう主張しようとした私の言葉を胸元から離れた旦那様が遮ってくれる。これからするであろう行動を予告するその淫らな言葉に発情した私の頭はすぐさま妄想を始めた。もう何度も繰り返されたおっぱいでオチンポを挟み、上下に扱き上げる愛撫。その快感と心地好さを思い出した私の身体がビクンと跳ねた。
 
 「ディーナ」
 「はぁい…っ♥私のおっぱいを一杯…ズコズコって犯してぇっ♥」
 
 答えを急かす旦那様の前で私は欲望に屈してしまった。しかし、それはさきほどとは違い、悪い気分ではない。きっと私の中で「これは償いである」という大義名分が出来たからなのだろう。そこまで私の事を考えてくれる旦那様に感謝を覚えながら、私はそっと指先から力を抜いた。
 
 「分かった。その代わり…かなり乱暴にするぞ」
 「大丈夫…ぅっ♪旦那様ならぁ♥どんな事をされてもイイのぉっ♥」
 「…っ!ディーナ…!」
 「んあぁっ♪」
 
 私の言葉に興奮したのだろうか。旦那様が私の名前を強く呼びながら、私の服をぐいっと乱暴に引っ張った。しかし、糸と共に魔力が編みこまれた特製のシャツは多少、乱暴に扱われた程度では破けはしない。その伸縮性を遺憾なく発揮しながら、牛柄のシャツはポロンと私の柔肉を解放した。
 
 「もう…漏れてるな」
 「やぁ…♥」
 
 瞬間、私たちのベッドルームに甘いミルクの香りが漂い始める。旦那様に一杯開発されたメス牛のおっぱいからは既に発情ミルクが零れ落ちていたのだ。ホルスタウロスが誇る甘くて美味しい最高のミルク。それは私が自慢できる数少ないものであったが、絞られた訳でもないのにこうして漏れる姿を見られるのは少しだけ恥ずかしい。
 
 「そんなにキスが良かったのか?」
 「勿論だよぉ…♪旦那様のキス…とっても熱くて…いっつもドロドロにされちゃうんだもん…♪」
 
 それでも旦那様の問いかけにはスムーズに応える事が出来る。それはきっと旦那様に求められているか、だらしなく自分で発情したかの違いなのだろう。愛しいオスに求められたのであれば、幾らでも淫らに、そして気持ち良くなれる。魔物娘であれば誰でも備わっているであろうそんな本能が私にもきっと働いているのだ。
 
 「でも…これじゃ足りない…よぉ♥もっと…もっとドロドロにして欲しいの〜…っ♪」
 「…分かった」
 「きゃんっ♪」
 
 私の誘いに旦那様の手がそっと伸びた。そのまま双丘を根本から絞るように手を添えてくれる。汗とミルクで濡れた表面をゴツゴツした手が撫でるだけでゾクゾクとした感覚がおっぱいの中心にまで突き刺さった。子宮と同じく重要なメスの深奥がその快感に震え、乳首から真っ白な液体をドロリと滲ませる。
 
 ― あは…っ♪まるで…オネダリしてるみたい…♥
 
 ミルクを一杯捧げるからもっとこの快感が欲しい。そうオネダリするような身体の反応に私は小さく笑みを浮かべた。勿論、私がそう思っているのは否定しない。だが、口よりも遥かに饒舌なその身体の反応がホルスタウロスとして少しだけ誇らしかったのである。
 
 「んふ…ぅ♪おっぱいなでなで…気持ちイイ…♥」
 
 しかし、その誇らしさもじわじわと胸の表面から伝わってくる快感によって溶かされていく。元々、ホルスタウロスのおっぱいはとても敏感な場所だ。舌とは比べ物にならないそこを愛しいオスの手が優しく撫でてくれるのだから気持ち良くないはずがない。きっと私だけじゃなく他のホルスタウロスだってこうして胸をナデナデされたら多少の感情なんて揺らいでいってしまうだろう。
 
 「相変わらず敏感だな」
 「こんなにしたのは旦那様の癖にぃ〜♥」
 
 幾ら同性で仲の良い友人であっても敏感な胸を触らせる事はないし、異性相手は尚更である。自然、旦那様と出会うまではパンパンに張った胸からミルクを搾り出すのは自分の手であった。そうやって自分の手でミルクを搾るのが気持ち良くなかったとは言わないが、胸で絶頂するほどに気持ち良くなった事なんて一度もない。
 
 ― それが旦那様と出会ってから…こぉんなに敏感になっちゃってぇ…♪
 
 やっぱり愛しい人の手と自分自身の手ではまったく違うのだろう。旦那様とセックスするようになってからは私のおっぱいはどんどんと敏感で淫らな場所になっていった。今ではこうして表面を撫でられるだけでキスとは比べ物にならない快感が駆け抜け、触れられてもいない乳首がピクピク震えながら母乳を漏らす。そしてミルクが溢れる度に刺激された乳腺がすぐさま新しい母乳を作り出すのだ。
 
 ― んぅ…苦しい…よぉ…♪
 
 旦那様の手が触れているという事実があまりにも嬉しかったのだろう。私のおっぱいは溢れるよりも遥かに早い速度で新しいミルクを作っていた。何時間も放置されていた胸肉は既にパンパンに張っていて、私の胸の中で窮屈さが膨れあがる。自然、排泄欲求が私の中で高まり、おっぱいの中でミルクがグルグルと唸っているように感じ始めた。
 
 「はぁ…ぁっ♥」
 
 例えるならおしっこを出したい欲求をもっと甘く、そして淫らにしたような感覚。微かな快感すら伴ったその欲求に私は熱い吐息を漏らした。身体もまた耐え難い欲求を少しでも発散しようともじもじと身動ぎを始めている。自由になった手などは特にそれが顕著で気を抜けば自分でお乳を搾りだしてしまいそうだ。
 
 ― でも…そんなのダメぇ…♥
 
 かつて旦那様と出会っていなかった頃であればまだしも、今の私には愛しいオスがこうして傍にいてくれているのだ。身も心も全て捧げたオス以外に私のミルクを搾る資格はない。それは私自身でさえ例外ではなく、勝手に動き出そうとする手を私は必死に押し留めていた。
 
 「ディーナ…辛いのか?」
 
 そんな私に気づいてくれたのだろう。ゆっくりと柔肉を上下に撫でていた旦那様がそうやって尋ねてくれた。その問いに私は反射的に頷き、胸が張っている事を主張する。だが、その後、私の理性はこれがあくまでも『償い』である事を思い出し、微かな狼狽を心に浮かべさせた。
 
 「分かった…」
 「んぅぅんっ♪」
 
 しかし、その狼狽を表に出す前に旦那様の指先が私のおっぱいの根本をぎゅっと掴んだ。瞬間、締めあげられた柔肉が歪に変形し、重力に逆らうように張り出した胸の先からは白濁液が勢い良く吹き出す。今までのようにじわりと滲み出すようなものとは違い、噴水のように弾けるミルク。それが私と、そして旦那様の身体を白く染めた。
 
 ― あぁ…っ♪私のおっぱいミルクで…旦那様を…ぉっ♥
 
 自分の中から吹き出した体液。それが愛しいオスの身体に降りかかり、私の匂いを移していく。その光景は基本的に気性が大人しいホルスタウロスの身体に独占欲を覚えさせるのに十分過ぎるものだった。それと同時に限界ギリギリだった排泄欲求が満たされ、私の中に危ない快感が渦巻く。何処か嗜虐的で被虐的なその快感に私の口は知らず知らずの内に開いていた。
 
 「おっぱい出すの良いっ♪発情ミルクびゅるびゅるするの気持ち良いよぉっ♪」
 
 その口から飛び出す淫らな主張。それは紛れもなく私の本心であり、そしてオネダリであった。もっとこの気持ち良さが欲しい。もっともっとミルクを出させて欲しい。そんな欲望に染まりきった言葉に旦那様はすぐさま応えてくれた。
 
 「ひぃ…あぁっ♥」
 
 ぎゅっと根本を締めあげたまま旦那様の口がパクリと右の乳首を口に含んでくれる。自然、ジンジンとした疼きと共に溜め込んでいたミルクを吐き出す解放感で震えていた乳首に暖かい粘膜が襲いかかった。さっきのキスで興奮を高め、ドロドロになった粘膜と疼くほど勃起した乳首の邂逅。それに私の身体は耐え切れない。一気に膨れが上がる快感が胸から溢れ、子宮に突き刺さるのを感じながら私は旦那様の身体を持ち上げる勢いで背筋を反り返らせた。
 
 「ぢゅるるるるるるる」
 「あひぃぃいっぃぃぃんっ♪♪」
 
 しかし、それでも旦那様は容赦するつもりはないらしい。口に含んだ私の淫らな乳首をそのまま勢い良く吸い上げてくれた。根本を締めあげられて、乳腺から吹き出す勢いでは足りないと言わんばかりのそれに私のおっぱいは被虐的な快感を覚える。それは私の背筋を浮かせたほどの気持ち良さと結びつき、思考を埋め尽くすほどの快楽へと変わった。
 
 「旦那様ぁっ♪どぉ…っ♪私のミルクぅっ♥旦那様が大好きでたぷたぷになった愛情ミルク美味しいっ?♪」
 
 そんな私の口から味を尋ねる言葉が飛び出た。勿論、ホルスタウロスの母乳は何処に出しても恥ずかしくない一級品であるし、私の味は旦那様が何時も認めてくれている。しかし、それでもメス牛としての本能が愛しいオスに「美味しい」と言ってくれる事を求めているのだろう。
 
 「ん…はぁっ♪あ…もぉぉ…っ♥」
 
 だが、旦那様はそんな私に言葉もくれず、一心不乱に私の乳首を吸い続けている。それはきっと私の母乳が夢中になるほど美味しいからなのだろう。勿論、我を忘れるまでにミルクに没頭してくれるのは乳牛冥利に尽きる話だし、そんな夫の姿が可愛くて仕方がないのも事実だ。しかし、それでも充足しそこねた欲求は消え去らず、私の口から不満そうな言葉を漏らさせる。
 
 「良い…もんっ♪そんな旦那様はぁっ♥私がナデナデしちゃうんだからぁっ♪」
 
 そう言って吹き出したミルクで真っ白に染まった私の腕はそっと旦那様の頭を抱きしめる。瞬間、夫の汗の香りがふわりと立ち上り、私の鼻孔を擽った。甘いミルクの香りに負けない独特のオス臭さ。それにクラリと頭が揺らぐのを感じながら、私の手が旦那様の髪に張り付いたミルクを伸ばすように動き始めた。
 
 「一生懸命、ミルク飲んで良い子でちゅねぇ…♪もっと一杯ごくごくしよぉね〜♥」
 
 まるで子どもをあやすような赤ちゃん言葉。それはオスのプライドを痛く傷つけるものだろう。しかし、今の私には必死にミルクを飲もうとする旦那様の姿は赤ちゃん以外には思えないのだ。勿論、それはただの赤ちゃんなどではない。自らの血を分けた赤ちゃんよりももぉっと愛おしい私の最高のパートナーそのものなのだ。
 
 「はひぃぃぃぃんっ♥」
 
 そして、そんな私のパートナーは私の赤ちゃん言葉があまり気に入らなかったらしい。私の乳首をジュルジュルと吸い上げる唇の裏の粘膜をそっと左右に動かし始めた。それは人間の女性であれば、愛撫に変化を加える程度のもので声を荒上げるような愛撫では決してなかっただろう。だが、ピンと張ったホルスタウロスの敏感乳首にとって、それは悲鳴じみた嬌声をあげるに足るものだったのである。
 
 「あん…ぅ♪ミルク飲んでるのに、そんな風に唇プルプルさせてぇ…♪とぉってもスケベで…良い子でしゅよぉ」
 
 拗ねたにせよお返しであったにせよ、旦那様が私を気持ち良くしてくれたのに代わりはない。その感謝の気持ちを伝えようと私の口が夫を褒めた。だが、理性が殆ど効かなくなった私の口から飛び出たのはさっきと同じ赤ちゃん言葉であり、夫のプライドを再び刺激してしまう。
 
 「んっくぅっ♪」
 
 瞬間、根本から乳首へと動き出すゴツゴツとした男の手。しっかりと力が込められたそれによって私の乳腺に与えられる圧力が変わった。より乳首に高い位置から掛けられた圧力に母乳は勢いを増し、乳首の先の痺れるような疼きを激しくする。自然、それは快感へと結びつき、浮き上がった私の背筋をフルフルと揺らした。
 
 「あはぁっ♪またびゅるびゅぅ出るぅっ♥もっとお代わりしてねぇっ♪旦那様が搾ってくれるならぁもっともっともぉぉぉっと出るから〜っ♥」
 
 実際、今も作られ続けている私の母乳は尽きる気配がない。こうして旦那様に搾られ、飲まれているとは言え、まだまだ余裕を残している。流石に無限という訳ではないが、私の身体からミルクを作る為の魔力や栄養がなくなるよりも、夫が限界を迎える方が先だろう。
 
 ― それに…きっとそれより先に旦那様が我慢できなくなっちゃうし〜…♪
 
 ホルスタウロスの母乳はただ栄養価や味だけが優れている訳ではない。滋養強壮の効果だって魔界産の他の食べ物と比べても優秀だ。どんなお年寄りであってもコップ一杯でも飲めば、すぐさま身体が熱くなり、勃起を始める事だろう。そんな飲み物をお年寄りとは比べ物にならないほど性欲旺盛で健康な旦那様が飲んでいるのだ。きっとすぐさま我慢出来なくなり、私へと襲い掛かってくれる事だろう。
 
 「旦那様ぁ…♪右だけじゃ切ないよお…♪左もぉっ♪左の乳首もビンビンに張っちゃってるの〜…♥」
 
 旦那様の寵愛を受ける右の乳首に負けないほど左も張り詰め、勢い良く母乳を噴き出している。勿論、その奥底には作ったミルクを余すところ無く消費されている右の乳房への嫉妬がない訳ではない。私の本性は魔物娘であり、その次は乳牛なのだ。愛する人に母乳を捧げられる喜びは他の子と比べても大きい。その喜びが単純に考えて二倍になる方法がすぐ目の前に転がっているのだから、オネダリしても仕方ないだろう。
 
 「はぶ…ぅ…ん…っ」
 「ひぁあああんっ♪」
 
 そんな私の切実な訴えが余裕のないその胸に響いたのだろう。旦那様が一瞬、乳首から口を離したかと思うと今度は両方を咥えてくれた。ようやく味わう暖かでドロドロとした粘膜。それに包まれた左の乳首は喜びを訴えるようにブルリと震え、吸われるがままにミルクを捧げる。
 
 「りょうほぉっ♪両方の乳首良いよぉ…っ♪じゅるじゅるちゅっちゅってされる度にゾクゾクするぅぅ〜♥」
 
 二つの乳首から弾ける快感。それは期待していたように二倍にはならなかった。しかし、それでも旦那様に余すところなく自分のミルクを飲んでもらえているという喜びが私の子宮を大きく揺らす。私の身体の中でも特に貪欲で淫らなそこは胸から注がれる衝撃と快楽に揺れながら、愛液をコプリと膣穴へと垂らした。
 
 「あ…はぁ…ぁんっ♪」
 
 ジワジワと子宮を蕩けさせるような快楽。それに愛液が染み出しドロドロになっていくのを感じながらも、私の意識は未だにおっぱいにあった。勿論、魔物娘であるだけあって私のオマンコはとても敏感で貪欲である。だが、今こうして旦那様に貪られている胸もまたそれに負けないほどに淫らだったのだ。
 
 「あひっ…ぃぃぃっ♪」
 
 そんな胸から一瞬、雷のような鋭い感覚が伝わってくる。あまりにも激しく柔肉に突き刺さったそれを私は一瞬、快楽だと知覚出来なかった。しかし、胸の奥から被虐感を沸き上がらせ、甘い痺れを走らせるそれは快楽以外の何者でもない。ようやく身体がそれを認めた瞬間、私はその痺れが乳首に甘噛みされた所為である事を悟った。
 
 「あ…あぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっ♪♪」
 
 瞬間、私の口から壊れたような叫び声が漏れる。一瞬ではあったものの快楽だと理解出来なかったほどの感覚。それが身体中の神経を駆けまわり、全身を痺れさせていく。あまりにも激しくて被虐的なそれに発情した私の身体はビクビクと震え、悶えた。
 
 「あふぁっ♪それぇっ♪それ来るぅっ♥ビリビリくるぅぅっ♪」
 
 長年、私の身体を弄んできた旦那様にはそれは私が喜んでいる証であると分かったのだろう。じゅるじゅると吸い上げながら、時々、カリッと私の乳首を噛んでくれる。ドロドロになった柔らかい粘膜とはまるで違った硬質で凹凸のある歯。それに上下から乳首を挟み込まれるだけで私の神経には被虐的な快楽が通り抜ける。まるで私の全身から力を奪おうとしているようなその快楽は思うがまま私の身体を弄んだ後、子宮に終着した。
 
 ― だけど…それで終わりじゃなくってぇ…♥
 
 本来であればそこで途切れるはずの快楽。だが、私の淫らな身体は本当に貪欲なのだろう。途切れるはずの快楽はきゅんきゅんと唸る子宮に突き刺さり、その中でドロドロの熱へと変わった。私の身体の内側から蕩けさせるようなその淫らな熱は子宮の中に閉じ込められ、今は出てくる気配がない。だが、グルグルと暴れるように渦巻くそれは欲求不安を掻き立て、解放される時を今か今かと待っているように感じる。
 
 「あぁくぅぅ…っ♪おっぱいぎゅうぅぅってするぅっ♥」
 
 そして、それを助長するように旦那様の責め手は緩まない。響く被虐的な快楽に嬌声を強めた私の胸を夫の指先がぐにぐにと弄び始めたのだ。これまでのように搾り出す為に力を込めるのではなく、不規則に指を動かし快感を与えようとする動き。既に快楽でトロトロになってしまったおっぱいはそれに耐え切れず、旦那様の口の中で乳首をピクピクと反応させた。
 
 ― 私の中…指でぐにぐにぃ…っ♪
 
 人並み以上のサイズを誇る私のバストは旦那様の指先を飲み込むなんて容易い事だ。実際、今までもぎゅっと力を込める指先に抗うように柔肉がゴツゴツした手の間からあふれていたのだから。だが、今の旦那様はその柔肉で遊ぶように指先をバラバラに、そしてリズミカルに動かしている。愛しいオスに弄ばれる被虐感とそれに負けない幸福感。それが私の胸の奥でグルグルと渦巻き、快楽と共に私の肌をまた敏感にさせた。
 
 ― 私のおっぱい…旦那様の玩具にされてるよ〜…♥
 
 「ひぃ…いぃん…っ♪」
 
 敏感になった身体からまた甘い悲鳴が漏れる。それは紛れもなく、オスに媚を売るためのメス牛の声だ。もっと乱暴に、それこそ犯すように弄んで欲しいと主張する為の。それが分かったのだろう。旦那様は私の乳首の根本に歯を立てたかと思うとそのままギリギリと乳首をしごいてくれた。
 
 「ひぐぅぅぅっ♥♥」
 
 瞬間、私の頭の視界がチカチカと点滅し、全身がブルブルと断続的に震え始めた。これまで胸の奥に溜まった快感がその熱を高め、トグロを巻き始めたのが分かる。旦那様と結婚してから十何年と経過した私はそれを間違えるはずがない。これは絶頂の予兆だ。
 
 「イくっ♪私イくぅっ♪旦那様に乳首ゴリゴリされてイくおぉぉぉ〜っ♪♪」
 
 旦那様の身体を抱きかかえる腕に力が籠もり、その硬質な髪を受け止めるように柔らかなバストへと押し付ける。瞬間、敏感なおっぱいが旦那様の顔の形を情報として脳へと伝えた。視覚的情報ではなく、触覚的情報として伝わる愛しい人の顔。それは密着という言葉では生易しい今のシチュエーションを私に否応なく意識させて……――
 
 「来るぅっ♪イくの来るぅぅっ♥気持ち良いのが爆発しちゃうよ〜っ♥♥」
 
 その言葉と同時に私の身体がビクンと大きく跳ねた。まるで雷にでも打たれたかのような激しい反応。いや、それはあながち間違いではないのだろう。なにせおっぱいで爆発するように弾けた快楽が私の中を駆け抜ける。快楽神経を痺れさせるようなそれはこれまでとは比べ物にならないほど暴力的で、私の四肢を硬直させた。
 
 「あぁぁぁぁっ♪♪ふああああぁぁぁんっ♪♪」
 
 走り抜ける快楽に耐えるように硬直した私の身体。それはまるで自分を護ろうとするように縮こまろうとする。だが、上にのしかかった旦那様がそれを許さない。閉じそうになる内股はその太いの足が抑え、シーツを掴みそうになる腕を抱き心地の良い頭が引き止めるのだ。勿論、それは目の前の夫がしようと思ってした事ではないのだろう。だが、本能による動きを愛しいオスが押し留めたと感じるメスの本能はそれに歓喜を感じるのだ。
 
 ― あぁぁっ♪しゅごぉっ♥旦那様で…私…またぁっ♪♪
 
 ベッドルームに入ってから初めてのオルガズム。それは私の身体を硬直させるほどに気持ち良くさせてくれていた。だが、それ以上に今の私にとって重要なのは絶頂の快楽が駆け抜けた後の身体が甘い痺れと共に敏感になっている事である。ただでさえ、旦那様の顔の形がはっきりと分かるほどに敏感になった私の肢体。それがアクメから始まる快楽によってより敏感になったのだからタダで済むはずがなかった。
 
 「あひゅぅ…ぅぅうっ♪まらぁっ♥まらイくぅ…っ♪」
 
 淫らな私の肢体と密着する旦那様の感覚。それだけで私の身体は軽いオルガズムへと達してしまう。そしてその悦びを形にするように私の乳首から母乳が勢い良く吹き出した。ミルクを吸い出すのではなく、被虐的な快楽を与える為に立てられた愛しいオスの歯。それに負けない勢いで、搾りたてのミルクが旦那様の口の中一杯に広がっていく。
 
 ― あぁ…♪私の特濃アクメミルクぅ…♪
 
 ミルクと言うのは乳牛の精神状態や健康状態でその品質が大きく変わる飲み物である。それは魔物娘であるホルスタウロスにとっても変わらない。自然、ホルスタウロスにとって最高の瞬間――つまりセックスでの絶頂の瞬間に生まれるミルクこそが私達にとっての最高の母乳となる。きっと今の旦那様が飲んでいるのは先程までとは比べ物にならないほど濃厚で美味しいミルクなのだろう。そう思うだけで乳牛としての私の本能が強い充実感を覚えた。
 
 「んぅ…♥ふあぁぁ…♪」
 
 しかし、それが次のオルガズムへと続く事はなかった。旦那様は絶頂に達した私の前でその責め手を緩めていたのである。グニグニと好き勝手に弄んでくれていた指先は静止し、歯も乳首からゆっくりと離れていた。これがまだ私を追い詰めようと愛撫の手を緩められなかったのであれば話は別だが、こうして手を止められれば敏感な魔物娘の身体と言えども絶頂を続けられない。
 
 「は…ぁぁ…っ♥ん……ふぅぅぅんっ♪♪」
 
 それに少しの安堵と、そしてそれ以上の物足りなさを感じる私の乳首を唐突に生暖かい感覚が包み込む。口の粘膜よりも少しだけ固く、そしてねっとりとしたその何かは私には慣れ親しんだものであった。
 
 「んふ…ぅ♪そんなに一杯ペロペロするなんて…ぇ♥慰めてくれてるのぉ…♪」
 
 乳首を吸うのではなくねっとりと舐める舌の動き。唾液を刷り込むようなそれは硬質な歯の刺激によって、ささくれだった快楽神経を癒してくれる。勿論、敏感なニプルはハッキリとした快感として受け止めているが、それはついさっきまで私を支配していた被虐的なものとはまったく違っていた。冷たく鋭いオルガズムと対照的な暖かで優しい蕩けるような心地好さだったのだから。
 
 「旦那様…だぁいすきぃ…♥」
 
 旦那様だって本当は今にも私を押し倒したいくらいなはずだ。あんなにもホルスタウロスのミルクをごくごくと飲んだのだから。しかし、夫は欲望に容易く身を任せず、オルガズムでピリピリとした私の身体を気遣って後戯までしてくれている。そんな優しい旦那様の姿に自然とそんな言葉が漏れ出て、硬くなっていた私の身体に少しずつ柔らかさが戻ってきた。
 
 「ん…」
 
 そんな私の前で旦那様がゆっくりと私の乳首から口を離す。搾られる事も吸われる事もなくなった私の乳首からはもう母乳が溢れるような事はなかった。夫が一杯搾りだし、そして飲んでくれたお陰だろう。身悶えするような排泄欲求もなくなり、胸の奥もスッキリとしていた。
 
 ― だけど…お腹の奥がぁ…♥
 
 簡単に火が着きやすいおっぱいとは違い、スロースターターな子宮。そこにはもう完全に火が入ってしまっていた。燻るような欲求不満ではなく、身の内を焦がすような業火。自分ではどうする事も出来ない欲望が私の奥で快楽を貪りながら、ゆっくりとその鎌首をもたげ始めていた。
 
 「ディーナ…っ!」
 
 それはきっと旦那様も同じなのだろう。口の端から白いミルクを零したその顔には誰の目にも分かるほどの欲情が入り込んでいた。夫の無表情さでも取り繕う事の出来ない激しい欲望。それに胸をときめかせる私の前で旦那様はそっと上体を起こし、甘ったるい匂いのついたコック服に手を掛けた。
 
 「く…!」
 
 しかし、あまりにも興奮した身体は旦那様の思う通りには動かないのだろう。震える指先はこうして見上げる私にもはっきりと分かるくらいで上手く脱げる様子がない。一向に進まないそれに焦りを浮かべる夫の姿に私はそっと手を伸ばした。
 
 「そんなに焦らなくても大丈夫だよぉ…♥私は…ずぅっと旦那様の傍にいるんだから…♪」
 
 そう。この世がどんな風になっても私がいるのは旦那様の隣ただ一つだ。私がコツコツ貯めたお金で建てたこの店なんかじゃない。この無愛想だけれどとっても優しくて暖かい人の隣こそが私の居場所なのである。だから、焦らなくても、苛立ったりしなくても大丈夫。その気持ちのまま私は伸ばした指先をそっと動かし、旦那様の真っ白なズボンを解いた。
 
 「さぁ〜…♪もう出来る…よねぇ♥」
 「…あぁ」
 「きゃんっ♥」
 
 焦りの消えた顔で力強く頷きながら旦那様が自分の手で赤と黒のトランクスを下ろした。ズルリと勢い良く下ろされた衣服を乱暴な手つきで部屋の隅へと投げる。勿論、普段の夫は型がついてしまうからとそんな無茶苦茶な脱ぎ方をしない。一度、火が点いてしまうと私以上のケダモノになる旦那様ではあるが、それを自覚しているのだから。普段ならここまで冷静さを失う前にきちんと脱いでいるはずだ。
 
 「ふぁぁ…♪オチンポの匂いぃ…♥」
 
 しかし、今の私はその違いに気を配る余裕なんて欠片もなかった。それも当然だろう。だって、私の目の前にはビンビンになったオスの証が誘うようにピクピクと震えているのだから。私の片手では到底、握り切れない太くて大きな黒い肉の塊。数えきれないほど私の身体を貫き、信じられないほどの絶頂へと押し上げてくれたオチンポの前では理性が紡ごうとする思考なんて塵芥にも等しい。
 
 ― あぁ…♪私の頭の中…オチンポで一杯になっちゃうよぉ…♥
 
 一度の絶頂で少し冷静さを取り戻した思考が目の前の肉の槍によって欲望に塗れたドロドロとした思考へと変えられていく。その一番の原因は私の鼻を擽るツンとしたオスの匂いだ。ちょっぴりクドくて刺激臭もするけれど、旦那様を唯一の伴侶と定めた私の身体には最高の媚香に感じられる。ましてや私の嗅覚はセックスの度にその匂いを溺れそうになるほどに感じているのだ。自然、性的なモノへと結び付けられた良い匂いに身体が期待にブルリと震えてしまう。
 
 「それ…どぉするの…?」
 「決まってる」
 
 快楽への期待を込めたメスの声で尋ねれば、旦那様が覚悟を決めた顔でこちらへとズイと腰を突き出した。夫にマウントポジションを取られた形になっている私にはそれに抵抗する事は出来ない。熱に浮かされたようなぼぉっとした視線で先走りを滴らせた黒い肉棒が顔へと迫ってくるのを待つだけだ。
 
 「んぁ…ぁ♪」
 
 そして私が動けないまま、旦那様のオチンポが私の胸の谷間へと触れた。瞬間、触れたそこが火傷してしまいそうな熱が私の肌を焼く。勿論、それは錯覚以外の何者でもない。だが、何度、その逞しいモノで鳴かされてもその最初の印象だけはどうしても消えないのだ。
 
 ― それとも…本当に焼けちゃってるのかも…ね〜…♥
 
 勿論、それは私の肌なんて物理的なものじゃない。もっと根源的で本能的なもの――例えば魂みたいなものだ。もう完全に夫のモノにされてしまった魂に再び所有印を刻まれるからこそ、これほどまでの熱を感じるのかもしれない。それは私の妄想以外の何者でもないものの、どうしてもそんな印象を拭い去る事が出来なかった。
 
 ― それに…とっても硬くて…ぇ♪
 
 豊満な双丘の間は窮屈でお世辞にも動きやすいとは言えないだろう。だが、旦那様のオチンポはそんな谷間を押しのける力強さを備えていた。メスの身体には到底、身につかないであろうその逞しさに私のお腹の奥がまたキュンと唸り声をあげるのが分かる。
 
 「…犯すぞ」
 「うん…♪一杯犯してぇ…♥私のおっぱいの中…グチョグチョに犯して欲しいの〜…っ♥♥」
 
 私がそう返事をしたのを皮切りに旦那様の腰がストロークを開始する。幸いにしてさっき夫に搾ってもらったミルクが胸の谷間にも一杯あった。城下町で買ってきたローションを潤滑油に使わずとも、スムーズに腰を動かす事が出来るだろう。
 
 「く…!相変わらずお前のおっぱいは…気持ち良いな」
 「えへへ…♪嬉しいなぁ♪」
 
 こうして旦那様に犯される私には分からないけれど、どうやら私のおっぱいはとても気持ち良いらしい。魔物娘だって肌もツヤツヤとしてるだけでなくちゅっちゅと吸い付いてくるようだし、何もしてなくとも乳圧が大きいそうだ。オスの精を搾り取る為に特化したオマンコとはまた違った吸い付きと柔らかさに夫が夢中になったのは一度や二度ではない。私には旦那様のような立派なモノがないので共感は出来ないが、自分の数少ない自慢の種を褒められるとやっぱりどうしてもいい気分になる。
 
 「でも…それは私も同じなんだよぉ…♥」
 
 そう。こうしておっぱいを犯されて気持ち良いのは何も旦那様だけじゃない。敏感な柔肉の合間で逞しいオスの律動を感じる私もまた気持ち良いのだ。流石に乳首を直接愛撫されている時ほど気持ち良い訳ではないが、愛しいオスのオチンポで敏感な胸を犯されているというシチュエーションは私に心地良い昂ぶりと快感を与えてくれる。
 
 「んふ…ミルクでくちゅくちゅぅ♪」
 
 そんな私の谷間で潤滑油になった母乳とカウパーが混ざり合い、くちゅくちゅといやらしい水音を立てる。キスの時のようにお互いの口の中で鳴り、骨に響くようなものではない。おっぱいからかき鳴らされるそれはもっと大きくて、そしてそれだからこそいやらしさを自覚させられる。
 
 「それに…匂いも凄くなってきちゃってるね〜♥」
 
 そう。こうしてカウパーとミルクが混ざり合っているということはそれだけ匂いも混ざり合っているという事である。それは一般的にはあまりいい匂いとは言えないだろう。独特の青臭さを持つカウパーと甘い匂いのミルクが一緒になって感じられるのだから。しかし、その先走りを出したオスに心奪われた私にとって、それは子宮をまたジュンと潤ませて愛液を滴らせる媚香だったのだ。
 
 「えへへ…♪とぉっても良い気分ぅ…♪」
 
 自分の胸を愛しい人に犯され、その匂いに包まれる感覚。ある種、ホルスタウロスとしての幸せが詰まったシチュエーションに私の顔が自然と笑みを浮かべた。きっとそれはニヘラと緩んだ締まりのない顔だったのだろう。だが、それを見下ろす旦那様もまた欲情に滾った瞳に優しげなものを浮かべてくれた。
 
 ― それは〜オチンポも…ねぇ♪
 
 私の胸は人並み以上だが、旦那様のオチンポだって人並み外れたサイズをしている。私の両手を縦に並べてもまだ足りないほどの長さをしているのだから。今の谷間の大きさではどうしても余り、クチュクチュという音と共に私の顔に挨拶してくるそのオチンポからはまたカウパーがドロリと零れたのが分かった。
 
 「旦那様もいぃっぱい悦んでくれてるんだねぇ…♥だけど…もぉっと悦んで欲しいな〜♥」
 「うぁ…!」
 
 その言葉と共に私の腕がそっとバストを抑える。両脇から柔肉を圧迫するようなそれに張り出したお椀型のおっぱいが歪み、急勾配を描いた。勿論、それだけではない。無理矢理、身寄せるような形になった双丘の間には隙間らしい隙間が消え、乳圧を膨れ上がらせる。私の胸の中で敏感なオチンポを振るう旦那様にとって、それまでおおらかだった乳肉が急に締め付けて来たように感じるだろう。
 
 「悦んで…くれてる…?」
 
 それが気持ち良いのはこうして尋ねなくとも、旦那様の顔を見なくても分かる。一瞬だが驚きの声をあげた旦那様の歯が噛み締めるような力を込めていたのだから。どれだけ圧力が上がったとは言え、所詮は柔肉だ。どれだけ窮屈であろうとも痛みを感じる事なんてあり得ない。ならば、何かを堪えるようなその表情は痛みではなく、気持ち良さを我慢していたのだろう。あまり頭の良いとは言えない私でもそれくらいは分かった。
 それでもこうして尋ねたのは自分に自信がないからでも、気持ち良くなってくれているか不安だったからでもない。ただ、旦那様の反応が見たかっただけなのだ。愛しいオスが自分の身体にのめり込み、それでも必死に答えようとする姿は私にメスとしての充実感と共に愛されている実感をもたらすのだから。
 
 ―ふふ…♪こうして考えると私も案外、Sっぽいのかなぁ…♪
 
 そんな事を一瞬、考えるけれど、私のドロドロになった思考はすぐさまそれを否定する。だって、それは別に特別な考え方なんかじゃないはずだ。どんな恋する乙女だって愛しているという実感を欲しているし、どんな魔物娘だってメスとしての充実感を求めている。その二つを同時に得ようとしたところで、特別にSに偏っているという訳ではないだろう。
 
 「あぁ…すごい…良いぞ…」
 「嬉しい…っ♪」
 
 そんな私の前で旦那様が息を荒上げながら期待通りの反応をくれる。その言葉にご奉仕しているという実感が湧き上がった私の身体がまたじんわりとした熱を広げた。愛しさと快感を混ぜあわせた心地良くも淫らな火照り。それはやっぱり私が夫を支配するよりも、支配される方が好きだという証なのだろう。
 
 「だから…もっとご奉仕してあげるぅ…♪」
 
 それが嬉しくて、私はそっとおっぱいを寄せる指先に力を込める。それだけで柔らかくも貪欲な柔肉はぐいぐいと指先を飲み込んでいった。旦那様に搾り出して貰ったとは言え、まだまだ私のミルクは尽きた訳ではなかったのだろう。胸の奥へと進もうとするような指に押し出されるような形で私のミルクが乳首からじわりと溢れだしてきた。
 
 ― 本当は…自分で搾るのは禁止だけど〜♪
 
 だが、別に今の私は母乳を搾っている訳ではない。ただ、力を入れた指先がミルクを押し出しただけだ。旦那様にもっと強い乳圧を味わってもらう為の副作用なのである。そう自分に言い聞かせながら、私はそっとミルクを出し続けた。
 
 「じゃーん♪オチンポのミルクソース掛けぇ…♥」
 
 そうしている間に歪んだ双丘を伝うように落ちるミルクが谷間のオチンポへと注ぎ始めた。おっぱいをこれでもかとばかりに愛撫されていた頃と比べて、今の母乳は少し薄いのが目で見て分かる。しかし、潤滑油になるには今にもヨーグルトになりそうな特濃ミルクよりもそっちの方が優れているだろう。
 
 「とっても美味しそ〜♪でも、これは私だけの特別メニューなんだからね〜♥他の子に出しちゃダメだよぉ♥」
 「そんな事する訳ないだろう…」
 「えへへ…♪」
 
 独占欲を混ぜ込んだ釘刺し。勿論、身持ちの固い旦那様がそんな事をしないと私も信じている。私たちのお店には沢山の娘が働いてくれているけれど、その誰にも色目を使った事なんてないのだから。
 だが、そうと分かっていても、やっぱり時折、不安になる。旦那様みたいな素敵な人であれば、私みたいなドジでトロい娘よりももっともっと良い娘を捕まえられたんじゃないか。私が見初めさえしなければ、もっと良い生活が出来たんじゃないか。そんな考えが頭を過ぎり、唐突に不安になってしまうのだ。
 
 ― 勿論…力強く否定してくれる事そのものが嬉しいっていうのもあるけれど…ねぇ♪
 
 こんなに面倒臭い女の質問に旦那様は面倒臭がらず毎回、否定してくれる。その言葉一つで私の胸にかかった嫌な霧は晴れ、暖かな気持ちになれるのだ。そして、欲情した頭はその気持ちをすぐさま淫らな事へと結びつけ、身体に新しい指令を下す。
 
 「じゃあ…ご褒美あげるぅ…♥」
 
 その言葉と同時に私はそっと首を持ち上げた。そのまま少しだけ唇を突き出せば、亀頭の先っぽと唇が触れ合った。ドロドロになった粘膜で感じるオスの象徴は肌で感じるよりも熱く、そして逞しい。だが、私にとって何より鮮烈に感じられたのはその熱でも大きさでも硬さでもなかった。
 
 「ちゅ…♥んふ…♪おいし…♪」
 
 唇の裏側の粘膜で触れられるのは亀頭の本当に先っぽでしかない。だが、それでも私がオチンポの味を――あんなにも青臭い匂いをしているのに頭の奥がジンと痺れそうな危険な甘さを感じるには十分過ぎる。
 
 ― これぇ…♪これが欲しかったの〜…♥
 
 何時だって魔物娘を悦ばせてくれる最高に素敵で美味しい味。それを味わった私の下腹部でコレまでにない勢いで熱が唸り始める。グルグルキュンキュンと威嚇するようなオネダリするようなその唸り声と共に激しい疼きが下半身を襲った。思わず膝を立ち上げ、内股を擦れ合わせたくなるようなそれに私は自身の限界が近い事を悟る。
 
 ― でも…それじゃあダメだよねぇ…♪
 
 それでも私は旦那様にご奉仕するのを止めるつもりはない。最早、私へのご褒美も兼ねているものの、これは『償い』であるのだ。それを忘れて自分からオネダリするような真似はしたくないし、何より私はパイズリとも言えないこのご奉仕を気に入っている。勿論、快楽という面で見れば、子宮が望むようなセックスには及ばない。だが、こうして落ち着いて旦那様の感じる顔を見るのは意外と難しいのである。
 
 ― 大抵…私はもっと興奮して…ドロドロにされちゃってるもん〜…♥
 
 フェラチオなんてしようものなら、オチンポの甘さに思考と身体がドロドロに溶かされ、旦那様以上に余裕がなくなってしまう。手コキならばそれも可能だろうが、不器用な私の手じゃ歯を食いしばるほどの快楽を与えるのは難しい。結果的に私が一番、冷静さを保って旦那様を気持ち良くさせられるのは魔乳と褒められた事もある胸でのご奉仕なのである。
 
 「もっと…して欲しいよね…♪だから…もっと激しく腰を振って良いんだよぉ…♥」
 
 誘うように呟く私に応えるように旦那様の腰の動きが早くなる。歪んだ乳肉に腰を打ち据えるようなその動きにパンと肉の弾かれるような音が奏でられた。瞬間、私の乳房にビリリとした被虐的快感が走り、甘い吐息を漏らさせる。
 
 「はぁ…♪ん…ぺろ…ぉ♥」
 
 だが、その快感に浸り続けている訳にはいかない。そう自分を律した私は先程よりも顔へと近づいてくれたオチンポにそっと舌を向ける。そのまま、口を半開きにして舌腹で亀頭を受け止めるような姿勢を取った。
 
 「はぁ…く…!」
 
 そんな私の上で旦那様が腰を振るいながら、声を漏らす。何処か熱に浮かされたような苦しそうな声。だけど、私の舌に飛び込んでくるオチンポが夫が苦しんでいる訳ではない事を教えてくれる。
 
 ― んふ…♪こぉんなにカウパーいっぱぁい…♥
 
 旦那様のオチンポの先っぽからは一回の抽送ごとに新しいカウパーが溢れるようになっていた。ずっと欲望を律し、我慢を続けてきた夫はもう大分、限界に近づいてきたのだろう。たまにビクンと跳ねるようなオチンポの震えもそれを肯定していた。
 
 ― 本当…可愛いんだから…♪
 
 何時も格好良くて素敵な旦那様の数少ない可愛い部分。それを敏感な胸で感じて、心臓がキュンキュンして苦しくなってしまう。結婚して十何年経つとはいっても私は未だに夫に恋する乙女なのだ。普段の凛々しい姿にも、こうして欲望を剥き出しにした姿にも、そして可愛らしいオチンポにも、私の胸はときめいてしまうのである。
 
 ― だからぁ…♪もっと可愛がってあげたくなっちゃう…♥
 
 その言葉が胸中に浮かぶのと同時に私の膝がゆっくりと折り曲げられていく。ベッドの上に垂直に起ったそれは今まで思う存分、腰を動かせていた旦那様のピストンを阻害した。突然の私の行動に躊躇いを浮かべて腰を止める愛しい人。それに一つ微笑んでから、私は無防備に突き出された亀頭をそっと口の中に咥え込んだ。
 
 「うあ…ぁ!」
 
 突然の口撃に旦那様の口から喘ぎ声が漏れる。それに一つ勝利の確信を深めながら、私はジュルリと音を立てて唇をすぼまらせた。勿論、それだけではない。頬の粘膜を扱くように密着させながら、私は舌を肉棒へと這わせるのだ。
 
 ― んふぅ…♪やっぱりここにもカウパー残ってるぅ…♪
 
 私のミルクの味とはまた違ったジィンと痺れるような甘さ。それを感じた私の鼻から満足気な吐息が漏れる。しかし、私の目的は自らの欲望のままカウパーを舐めとる事などではない。それを自分に言い聞かせながら、私は舌で円を描くようにして亀頭を舐めまわす。その度に旦那様のオチンポはビクビクと震えて、私に美味しい先走りをご馳走してくれた。
 
 ― でも…ここも弱いんでしょ〜…♥
 
 勿論、動かしているのは舌だけではない。きゅっとすぼまり、密着した唇はカリ首にまで侵食していた。亀頭に負けず劣らず敏感なプツプツとした部分。そこに這う唇を動かせば、旦那様の腰がブルリと反応を見せる。オスの中でも特に弱い部分を狙い撃ちにされているのだから、その反応も当然だろう。
 
 「ちゅ…ぅ…えへ…♪」
 
 しかし、私はそれにずっと没頭しているつもりはなかった。こうしてフェラするのは嫌いではないが、下手をすると私の方が我慢出来なくなってしまう可能性だってあるのだ。自分から旦那様を押し倒すという失態を犯さない為にも、口淫はご奉仕のアクセント程度にとっておくのが一番良い。
 
 「う…」
 
 しかし、それが旦那様には辛かったらしい。私が唇を離した瞬間、その男らしい顔に寂しそうなものが浮かんだ。それは一瞬だけであったものの、夫の顔をずっと見上げていた私が見逃すはずがない。そして思いも寄らない旦那様の可愛らしい姿を目撃してしまった私は痛いほどに胸がドキドキさせられてしまうのである。
 
 「そんな悲しくなる顔しないで〜♪ちゃんと…ご奉仕してあげるからぁ…♥」
 
 そのドキドキを誤魔化すように私はそっと旦那様へと言い聞かせる。そしてゆっくりとおっぱいを抑えた腕を動かし始めた。自然、私の腕に抑えられている柔肉もズリズリと動き、夫のオチンポを扱く。
 
 「ぐぁ…!」
 
 カウパーとミルクでドロドロになった谷間。それが動き出す刺激に夫の口から声が漏れる。しかし、それも一瞬の事であった。すぐに私のしたい事を理解してくれた旦那様は唇を噛み締め、おっぱいの動きとは逆に腰を振るい始める。自然、抽送の勢いは膨れ上がり、谷間を激しく犯される感覚が私を支配した。
 
 ― さっきよりも逞しくて…お腹キュンキュンしちゃうよぉ…♥
 
 太くて硬い肉の剣。それを受け止める私の柔肉はとても敏感で、そして貪欲なのだ。今にも射精しそうな逞しいものをこんなに激しく抜き差しされたら私のメスの部分が本格的に疼きだしてしまう。そこじゃない。もっとグチョグチョで気持ち良い場所を犯して欲しい。そんな訴えと共に足の指先まで神経を炙られるような欲求不満が広がった。
 
 「ふふ…♪どぉ…♥カリ首とかぁ…ビンビンでしょ〜♥」
 
 それはきっと旦那様も同じなのだろう。軽いフェラから解放され、乳肉で扱かれる亀頭は不満そうにプルプルと震えていた。勿論、こうしたご奉仕が気持ち良くない訳ではないのだろう。だが、ピンポイントに狙い打たれた弱点はより敏感になってしまっているのだ。すべすべとした突起もない肌よりもドロドロとした暖かい粘膜で包まれ、ゾリゾリと肉襞をひっかく快楽を楽しみたくて仕方がないはずだ。
 
 「おっぱいじゃ…もう満足出来ないかなぁ〜…♪旦那様も〜もうオマンコにオチンポねじ込みたくて仕方がないよねぇ…♥」
 
 楽しむように言っているが私自身がもう限界だった。子宮の疼きはそこしか考えられないほどに高まり、私の思考を支配しているのだから。旦那様が気持ち良くなる様を楽しむなんて余裕なんてない。ただ、愛しいオスに種付けしてもらう事を望むメス牛だけがそこにいたのだ。
 
 「私もそうだよぉ…♪もうオマンコ濡れ濡れで…キュンキュンしてるの〜♥旦那様のオチンポ欲しくてぇラブラブレイプして欲しくてぇっ♪くぱくぱしてるんだよぉ…♪」
 「ディーナ…!」
 「きゃんっ♪」
 
 そんな私の誘惑の言葉に旦那様が腰の動きを激しくする。私のオマンコを犯すのではなく、このままおっぱいを味わい尽くす事を夫は選んだのだろう。ならば、コレ以上誘惑するよりもラストスパートを駆ける旦那様に最高のご奉仕をしてあげる方が良い。
 
 「そうなんだ…最初は私のおっぱいに射精したいんだね…♪良いよぉ♥このまま犯して…っ♪私の発情ミルクじゃなくて、旦那様のザーメンミルクで私を飾りつけてえっ♥♥」
 
 その言葉と同時に私の手がそっと逆方向へと移動する。これまで双丘でオチンポをサンドするように動き続けていた乳肉の突如とした変化。それはケダモノじみた速度で抽送を繰り返すオチンポに大きな快楽を与えたのだろう。逞しいオスの証は私の中でビクンと震えたかと思うとムクムクと一回り大きくなった。
 
 ― もう射精そうなんだねぇっ♪ふふ…分かるよ〜♥
 
 旦那様と出会ってから十数年間、一夜足りとも欠かさなかったセックス。その経験が今のオチンポが旦那様の最高潮である事を教えてくれる。勿論、大きさだけじゃない。ジリジリと肌を焼くその熱も、おっぱいを蹂躙するように寄せ付けないその硬さも、何もかもがさっきまでとは一線を画している。だけど、それは蝋燭の最後の灯火のようなもの。射精する前の最高の快楽を得ようとするオスの本能が為せるオチンポなのだ。
 
 「イって…っ♪イッてイッてぇっ♪♪このままびゅるびゅるって来てぇっ♥♥美味しいザーメンぶっかけてぇぇ♥♥」
 
 それはきっと私も同じなのだろう。何かを思考するよりも先に私の口から飛び出る淫語。射精を懇願するそれは発情しきったメス以外の何者でもない。実際、私の子宮はもう限界に近くさっきから足が欲求不満でフルフルと震えるくらいなのだ。旦那様が射精前にその事しか考えられないように、それを受け止める私もまた夫の精液しか考えられない。その類似性に女としての喜びと、メスとしての悦びを感じた瞬間、旦那様のオチンポがコレまで以上の勢いで乳肉を貫いた。
 
 「ふぁぁ…ぁあああぁぁっ♪♪」
 
 真っ赤に腫れ上がった亀頭が胸の谷間から飛び出た瞬間、真っ白なザーメンが私の顔へと振りかかる。ビュルビュルと音を立てるように勢い良く吹き出す純白のマグマ。オチンポに負けないそれが私の髪や顔に張り付いてくる。しかし、私にはそれが決して不快ではない。寧ろ肌に染み込むようなその熱が私にその精液の濃さを教えてくれるように感じるのだ。
 
 「あはぁっ♪いっぱいびゅるびゅるしてるぅ…♥」
 
 しかも、それは中々、終わらない。インキュバスと化した旦那様にとって射精は数秒で衰えるものなどではないのだ。ビクビクと断続的に震えるオチンポも萎えないままに次の精液を私の顔へとぶっかけてくれる。それは一分を過ぎた頃からようやく衰えを見せ始めた。
 
 「んふ…♪」
 
 それでも尚、その先端からザーメンが溢れる。それを見ながら私はそっと顔に張り付いた精液を掬った。人差し指と中指の間で掬われた重力に引かれているのが嘘のように落ちる気配がない。真っ白で透明なところなんて一つも見当たらない、プリプリした特濃ザーメンだ。
 
 「ちゅぷ…♥」
 
 それを私は躊躇いなく口へと運ぶ。瞬間、私の脳にその甘い味が刻み込まれた。あの麻薬じみた甘さを誇る先走りを何倍にも濃くしたようなその甘さに私の脳髄が一瞬で蕩ける。勿論、私はそれを数えきれないほど味わっているが、何時まで経っても慣れる気配がない。寧ろ、魂までふにゃふにゃにさせるような甘さは味わえば味わうほど、より中毒性を高めるように思えるのだ。
 
 「旦那様のザーメン汁ぅ…♪とっても美味しい…♥」
 
 美味しくて堪らなくなってしまう白濁液が今の私の顔にたっぷりとついている。それを自覚して我慢出来るほど今の私は冷静な状態ではなかった。ドロドロの甘さで蕩けさせられた思考が命じるままに、私はそれを必死に掬い取り、口の中へと運び続ける。そして、その度にこの世のどんなお菓子よりも甘くて幸せな味に脳を蕩けさせていた。
 
 「ディーナ…」
 
 そんなメス牛の名前を旦那様がそっと呼んだ。さっきまで必死に腰を振っていた人とは思えない優しくも穏やかな声。だが、その瞳にはまだ欲情がメラメラと燃え上がっているのが見て取れる。私の子宮が未だ満足していないように、夫のオチンポもまだまだ射精したりないのだろう。
 
 ― その証拠に…旦那様のオチンポまだまだバッキバキだもん〜♥
 
 そう。ついさっき数分間にも及ぶ射精を行なっていたにも関わらず、旦那様の肉棒はまだまだ元気さに溢れていた。流石に射精直前の大きさからは小さくなっているものの、萎える気配は欠片たりとも見えない。寧ろ自らの白濁液を美味しそうに舐め取る私の姿を見ながら、ピクピクと興奮を高めていっているようにも思えるのだ。
 
 「んふ…♪旦那様ぁ…♥」
 
 甘えるような声と共に私の足がゆっくりと動く。いや、動かしている。私の理性が、思考が、愛情が、本能が、愛しい人を求めて股を開いているのだ。それは到底、他の人には見せられない恥ずかしくも淫らな姿。だが、今、私たちの居城にいるのは私と旦那様――愛しあう一組の番だけ。そこで裸体を隠すような遠慮など今更、私がするはずもなく、むっちりとした足でMを描いた。
 
 「あんまり焦らされちゃうと〜…私、拗ねちゃうよぉ…♪」
 「…そうだな。お前が拗ねると怖い」
 
 冗談めかした言葉に旦那様が軽く笑いながら答える。だが、それが決して冗談だけではない事を夫は悟っているのだろう。私の上から軽い身のこなしですっと降りた旦那様はそのまま下半身へと回った。そのまま自分の何もかもを魅せつけるような姿勢を取る私の膝をそっと掴み、ゆっくりと私の身体へとのし掛かってくれる。
 
 ― あぁ…もうすぐぅっ♪もうすぐ旦那様に種付けしてもらえるよぉぉぉ♥♥
 
 「可愛いな」
 「ぅー…っ♪」
 
 ゆっくりと近づいてくる旦那様の逞しい身体。それに私の身体は反射的に悦びを訴える。そして、その悦びが私の顔をみっともなく緩ませたのだろう。短く、けれどストレートに私の心を揺さぶった。誰だって今から挿入される!というタイミングでそんな嬉しい事を言われれば、ドキドキしてしまうだろう。
 
 「だから…手加減は出来ないぞ」
 「あ…ぁっ♪」
 
 そのドキドキが収まらないままに旦那様の手が私のズボンを掴んだ。青いオーバーオールを切り抜いて作ったようなそのズボンは少し特殊な形をしているものの、あっさりと夫の手によって剥ぎ取られてしまう。それを自分の衣服と同じように部屋の隅に投げ捨てながら、夫は現れた私の秘所へと手を触れた。
 
 「本当に濡れ濡れだな」
 「だから言ったのにぃ…♥」
 
 確認するような旦那様の言葉に私は拗ねるように返した。私はご奉仕の途中からもう我慢出来ないとご主人様に訴えかけていたのだから。本気で拗ねている訳じゃないけれど、疑うような真似をされて唇を尖らせたくなるのは仕方のない事だろう。
 
 「悪かった。…その分、激しくしてやるから許してくれ」
 「ん…ぅ♪」
 
 そう言いながら旦那様はそっと私の秘所で手を蠢かせた。ワーウルフほど毛深い訳ではないが、私のソコは牛柄の毛で覆われている。既に滴り落ちる愛液でドロドロになっているとは言え、私の陰毛は秘所を隠すには十分過ぎた。そんな毛深い場所に旦那様がこうして手を這わせるのも私の膣穴を見つける為である。そうと分かっていても昂ぶった身体は抑えられず、サワサワとした感覚が私に声をあげさせた。
 
 「よし…あったな」
 
 そんな私の秘所を弄り回した旦那様の親指がそっと私の大陰唇を抑えた。そのままゆっくりと左右に開けば、くぱぁという音と共に私の秘所が顕になる。勿論、私にはその姿を見る事は出来ない。だが、限界一杯にまで欲求不満を溜め込んだそこは充血させた粘膜を隠す事もせず、ヒクヒクと物欲しげに蠢いている事がありありと想像出来た。
 
 「ゴクッ」
 「やぁ…ぁんっ♥」
 
 いや、もしかしたら今の私のオマンコはそれ以上にいやらしい様相を呈しているのかもしれない。突き刺さるほどハッキリと感じる旦那様の視線と生唾を飲み込む姿にそんな事を思う。だが、どれだけ考えたところで私の一番、淫らな部分がどうなっているかなんて分かるはずもないのだ。もどかしさと恥ずかしさが混ざったようなその感覚に私の身体が身動ぎしてしまいそうになる。
 
 「挿入れるぞ…!」
 「うん…♥きてぇ…♪オマンコじゅぶじゅぶしてぇ…♥」
 
 だが、それよりも先に旦那様が宣言しながら、私の秘所へと亀頭の先端を押し付ける。両手で大陰唇が閉じないように抑えながらの挿入。それだって最初は上手くいかなかった。だが、毎日、私のオマンコを蹂躙してきた夫にはもうコツが分かっているのだろう。剥き出しになった粘膜にオチンポを突き立てるようにして固定しながら、ゆっくりと腰を進めてくれた。
 
 「はぁ…ぐっ…うぅぅぅっ♥♥」
 
 逞しいオチンポが膣穴を押し広げ、入ってくる。待ち望んだその瞬間に膣肉がきゅっと締まり、膣穴の窮屈さが増した。挿入を拒もうとするようにも感じられる肉の蠢きではあったが、男根には勝てなかったのだろう。締め付けをものともせずに、旦那様のオチンポは私の中を抉り始めた。
 
 「は…ぁぁあああぁぁぁっ♪」
 
 そして肉棒の中でも最高の太さを持つカリ首までが私の中へと入ってきた瞬間、私の口から嬌声が漏れ出る。メスの中へと強引に入り込もうとする形をしている亀頭が私のクリトリスの奥――Gスポットとも言われる弱点をゴリゴリと刺激しているからだ。そこから伝わるムズムズした快楽をずっと味わっているとおしっこが漏れそうになってしまう。だが、旦那様のオチンポに限界一杯まで広げられた私の肉穴に逃げ場などあろうはずもなく、どれだけ身動ぎしてもその気持ち良くも恥ずかしい部分を擦られてしまうのだ。
 
 「くぅぅぅぅぅぅっ♪」
 
 メスの弱点から伝わってくるムズムズとした快楽。まるで肉穴をくすぐられるようなそれに反射的に私は身体に力を込めた。勿論、それはオマンコにも伝わり、きゅぅんとオチンポを締め付ける。だが、そのお陰で窮屈になった膣穴とオチンポは激しく絡み合う事になり、私の快楽を高めた。
 
 ― グリグリぃ♪グリグリってぇぇっ♥♥
 
 そんな膣穴にオチンポがじゅぷじゅぷと水音を立てながら入り込んでくる。その度にびっちりと生えた肉襞が押しのけられ、痺れるような快楽が子宮まで駆け抜けた。オスに征服されるという被虐的で甘い快楽に私の子宮は悦び、その内側に溜め込んだ熱をグワリと持ち上げる。
 
 「あぁぁっ♪来るぅっ♥来ちゃうぅっ♪イくの来るぅぅっ♪♪」
 
 おっぱいで味わったオルガズムとは異なった絶頂。だが、私はそれが胸で弾けたそれよりも遥かに素晴らしく、気持ち良い事を知っている。そして欲望に支配された私の身体はそれに抗う事が出来ない。我慢しようと身を強張らせる事もなく、子宮から湧き上がる熱に身の内を焦がされていくのだ。
 
 「溶けるのぉっ♪オマンコ蕩けるぅっ♪全部グチョグチョになっちゃうのぉぉっ♥♥」
 
 身体の内側から肉が溶け、淫らな液体にされるような錯覚が私を支配する。だが、それは決して恐怖をもたらすようなものではなかった。寧ろ、身体中が快楽を感じる為の何かに変わっていく感覚に期待すら覚えていたのである。そして何よりそれ以上の欲求不満も。
 
 ― だって…私イッてないぃっ♪まだアクメしてないのぉっ♥
 
 そう。こんなに気持ち良くて蕩けそうなのに私はまだイッていない。これはあくまで絶頂前の身体が急激に昂ぶっていく段階に過ぎないのだ。言うなれば、子宮で弾ける熱をより美味しく、そして気持ち良く感じるための準備。この後にもっと大きな波が来る事を理解している私は早くアクメしたくて仕方がないのだ。
 
 ―ズンッッ♪♪♪
 
 「ひっ―――あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ♥♥」
 
 そんな私の最深――子宮口に旦那様のオチンポが突き刺さる。肉厚でぽってりとした貪欲な口が肉棒に突き上げられて歪められる被虐感。それがキッカケとなって私の子宮が弾けた。その中に溜め込んだ甘くて気持ち良いビリビリを一気に快楽神経へと載せ、メスの一番、大事な部分が震える。
 
 「あきゅぅぅぅぅぅん♪♪♪
 
 その震えが快楽神経を伝わって全身へと広がっていく。勿論、敏感で貪欲な私の神経が実際に震えている訳ではないのだろう。だが、電撃のような快楽が全身に蛇のように絡み付いているような感覚も、神経が震えるような錯覚も、決して嘘なんかじゃない。非現実にも程がある感覚ではあるが、絶頂に身体を震わせる今の私はそれほどまでに気持ち良いのだ。
 
 ― はっぁ…ぁぁっ♪私…ぜぇんぶドロドロになっちゃうよ〜…♥
 
 そして、その錯覚が通り抜けた後、私の身体には芯がなくなってしまう。ぐにゃりと脱力し、感覚がすっと薄れるのだ。それでも未だ私の中で暴れまわるアクメだけははっきりと感じて、断続的にブルリと身体を震わせる。
 
 「はぁあぁぁっ♪♪」
 
 だが、その震えが新しい絶頂の呼び水となる。それも当然だろう。だって、私のドロドロオマンコはまだ旦那様のオチンポを敏感な奥まで咥え込んでいるのだ。オルガズムを迎える度にキュンキュンと唸る淫らな口はアクメの余韻に任せるまでもなく敏感で淫らである。腰をビクンと跳ねさせた振動でさえしっかりと受け取り、快楽へと変換するのだ。勿論、そうして迎えるアクメは最初と比べて弱々しいものの、余韻を感じる余裕もなく繰り返される絶頂は被虐的で蕩けるように感じる。
 
 「ディーナ…」
 「ふにゃ…あぁぁっん♥♥」
 
 連鎖的に始まるアクメ。それに身を震わせる私の頭を旦那様がぎゅっと抱いてくれた。瞬間、オルガズムの事だけしか考えられなかった淫らなメス牛の思考に逞しいオスの胸板が入り込む。次いで感じる汗の匂いにトクンと心臓がときめいた瞬間、旦那様の腰がゆっくりと子宮口から離れだした。
 
 「っくぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっっ♪♪」
 
 動いてない時でさえ次のアクメへと雪崩れ込む敏感な肉穴。そこをオチンポで抽送を繰り返せばどうなるのかなんて分かりきった話だろう。さっきのようなオルガズムを繰り返しながらも、ゆっくりと下降していく絶頂ではない。文字通り何処までも高まって気持ち良くなっていく――いや、気持ち良くさせられてしまうアクメ。自分ではどうあっても制御出来ないそれに突き上げられるのを感じながら、私の足はすっと夫の腰へと絡みついた。
 
 「旦那…様ぁっ♪」
 
 まるでいかないでと未練がましく告げるような言葉。それに応えるように私のオマンコもキュッキュとリズミカルに収縮する。だが、勢い良く引き抜かれるオチンポは肉襞の静止を振り切るようにして私の肉穴から引き出されていった。
 
 「あ…はぁ…っ♪カリ凄いぃっ♥ビンビンってなってるトコ気持ち良いよ〜っ♪♪」
 
 そんな私の膣穴を最も刺激するのはカリ首の部分だ。ピンと突き出したオチンポの中でも一番、太くて逞しい場所。そこが逃すまいとオチンポに絡み付こうとする肉襞を引き倒し、ゴリゴリと抉る。その度に挿入された時とはまた違った被虐感が私の子宮を打ち、奥から愛液を滴らせた。
 
 「ひっぅぅぅぅっ♥♥」
 
 そして再びの挿入。中腹から一気に引き返して私の子宮を打ったオチンポの勢いは最初よりも激しいものだった。ぱっくりと開いた柔らかい子宮口でも消しきれない衝撃が子宮まで響く。それは揺れるというには小さ過ぎるものではあったが、発情したメスの奥には心地良く、肉穴が再び収縮した。
 
 ― だけど…気持ち良いだけじゃなくって…ぇ♪
 
 最初の一突きは欲求不満の解消された事もあったのだろう。まるで電撃でも流されたような快楽に頭の中が一杯だった。しかし、欲求不満が解消されつつある今の私にはそれ――オチンポの先端から微かに溢れる精液の味が分かる。
 
 ― 甘くって…濃厚でぇ…♥何よりゾクゾクしちゃう〜…♥♥
 
 精液だけに関して言えば舌以上に敏感な子宮。そこが旦那様のオチンポに残ったザーメンの味を察知したのだ。だが、それだけでは終わらない。元がザーメンを受け止める場所である子宮口は、一滴残らずお掃除すべきオスの味にチュルチュルと亀頭へと吸い付くのだ。そして、ミルクよりも尚、甘いその白濁液に種付けされているような錯覚を覚える子宮が快楽と共に充実感を身体中へと広げる。
 
 「く…ぅ…!」
 
 そんな私の上で旦那様が呻き声をあげる。敏感な亀頭を子宮口で念入りにちゅっちゅされているのだから当然だ。その上、子宮口の周りにびっちりと生えた肉襞が好機とばかりに肉棒へと絡みつき、舐めるように蠢いているのである。一度、射精を経たとは言え、まだまだ欲望が色褪せない旦那様に耐えられる訳がないだろう。
 
 ― ふふ…♪ 裏筋も…ペロペロしたげるぅ…♥
 
 その言葉と共に奥へ奥へとオチンポを引きずり込むような溝が動く。その凸部分で裏筋を扱くようなそれに肉棒がピクンと跳ねるのが分かった。オチンポの表面に浮かんだ血管もドクドクと脈打ち、興奮を血液という形で伝えている。それが嬉しくなった私の肉穴で男根へと密着した溝がゾリゾリと音を立てながら、裏筋を這いまわった。
 
 「まったく…ディーナ…は…!」
 「あ…ひぃぃんっ♥♥」
 
 だが、インキュバスと化した旦那様を留めるにはそれでは足りなかったらしい。肉襞と絡みあうオチンポがジュルジュルと私の中から再び引き抜かれる。あんなに熱烈な歓迎をしてあげたのだが、夫はもうそれに適応してしまったらしい。再び開始される力強い抽送には欠片も迷いはなかった。
 
 「好きだ…ディーナ…!」
 「〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥」
 
 ぱちゅんぱちゅんと肉の弾ける音を響かせる力強い抽送。その最中に耳元で囁かれた愛の言葉に私の背筋が跳ねた。そのあまりの愛しさと快楽に嬌声をあげる事すら一瞬、忘れてしまう。勿論、私が言葉を失っている間も饒舌で貪欲なオマンコはキュンキュンと唸り、オチンポに行う淫らなご奉仕をより熱心なものにしていた。
 
 「も…ぉっ♪そんな…不意打ちで言うなんて…卑怯だよ〜…っ♥♥」
 
 ようやく言葉を取り戻した私が最初に言ったのはそんな可愛げのない言葉だった。無論、私だって旦那様の愛の告白が嬉しくない訳じゃない。寧ろ、嬉しすぎて一瞬、言葉を失ってしまったくらいだ。だが、それでもこうして肉欲に溺れている最中に愛の言葉を囁かれると普段以上にキてしまう。
 
 「…ダメか?」
 「ダメじゃない…けどぉ…♪」
 
 そう。ダメなんかじゃない。寧ろもっとずっと囁いて欲しい。大好きだって、愛してるって囁き続けて頭の中をトロトロにして欲しい。耳まで犯して、旦那様の事しか考えられないようにして欲しい。それでもこうして素直じゃない言葉を紡いでしまうのは明日の事を考えてしまうからだ。
 
 ― そんな風に囁かれたら…私止まんなくなっちゃうよぉ…♥
 
 お店を開いている私達の夜の性活は一般的な魔物娘よりも短い。勿論、それを望んだのは私自身とは言え、物足りなさを感じるのも事実だった。友人から話に聞くようにお互いの境界線がわからなくなるようなドロドロのグチョグチョになるまでセックスをしてみたい。このまま愛を囁かれ続けたら、自分の胸の奥に押し込んだその欲求を誤魔化しきれなくなってしまう。
 
 「好きだ」
 「あ…ふぅ…♪それ…ダメだよぉ♥」
 
 再び紡がれる愛の囁きに私の背筋から寒気が走る。露出した肩もを震わせるゾクゾクとしたそれは私を力強く抱きしめる旦那様の熱によって溶かされた。だが、それは寒気と共に背筋を駆け抜けた快楽がなくなった事を意味しない。同行者を冷たい興奮から暖かな愛情へと変えた快楽は私の肌を這い回り続けていた。
 
 「そんなに好きだって言われたら…私…おかしくなっちゃう…ぅ♥」
 「おかしくしたいんだ。…言っただろう?手加減しないって」
 「あひぃぃぃぃんっ♥♥」
 
 その言葉と共に旦那様のオチンポが私の最奥へと叩き込まれる。愛の言葉で普段以上にドロドロにさせられた子宮はオスの再来に悦び、熱い愛液を肉棒へと垂らした。だが、旦那様のオチンポはそんな歓迎には興味がないらしく、すぐさま子宮口から離れていく。
 
 「俺が見たいのは…自分を抑えこんでるディーナじゃない。俺に…何もかもさらけ出してくれるメス牛なんだ」
 「そんなのぉ…♪そんなの…卑怯だもん…っ♥♥」
 
 こんなにオチンポでグチョグチョにされた上にこの殺し文句だ。抗える魔物娘なんているはずがない。そんな事はずっと私を暮らしていた旦那様にだって分かっているはずだ。なら…分かっているのにこんな事をする旦那様は…旦那様が…ぁああぁっ♪♪――
 
 「悪いの…旦那様なんだからねっ♪私〜本当にもう止まらないからぁっ♥もう本能全開で…旦那様とセックスするよ〜っ♥♥」
 
 その言葉と共に縛り付けられていた私の身体が動き出す。そこには今まで私の四肢を縛り付けていた明日の為に遠慮するなんて鎖は一切ない。愛しい人と交わる魔物娘の本能に任せて、手と足をオスへと絡ませる。そして、これまで受け身であった身体は絡みついた四肢を力点にそっと腰を浮かせ、自ら旦那様の方へと腰を動かし始めた。
 
 「んっふぅぅぅぅっ♪♪奥ぅくりゅぅ…♥」
 
 正常位と立位の中間にあるような特殊な体位。宙に浮いた身体は抵抗する事は出来ず、また挿入の勢いを殺す事も許されない。オマンコの最奥――子宮口でオチンポの全てを受け止めなくてはいけないそれは私の逃げ場を完全になくし、夫に貪られるだけの肉穴に変える。だが、ギリギリの部分で私を押し留めていた鎖を失い、ただのメス牛と化した私にはそれが何より気持ち良く、そして幸せな気分になるのだ。
 
 「あはぁっ♪空中セックス良いっ♥じぇんぶ旦那様に預けると幸せらよぉっ♥♥」
 
 歯止めの消えた悦楽が私の中を駆け抜け、絶頂の渦を激しくさせる。私の何もかもを飲み込むような暴力的なアクメが続き、抗う事すら考えられない。そのあまりの気持ち良さに口が思う通りに動かず、舌足らずな言葉を紡いでしまうほどだ。
 
 「じゅんずんされると頭クラクラぁっ♪オチンポの形もぉ…すぐに分かっちゃふよ♥♥」
 
 勿論、私はもう旦那様以上にその逞しい逸物の事を知っている。何処をご奉仕すれば気持ち良いのか、どう可愛がってあげれば悦ぶのか。それらを熟知しているだけではなく、瞳を閉じた状態で脳裏にオチンポを正確にスケール出来るくらいだ。だが、それでもまでに精通していても、こうして全員を揺らすそうに犯されると夫の肉棒の形を覚えこまされてしまう。
 
 「ディーナ…っ!」
 「ふぁぁ…あんっ♥♥」
 
 そんな私に我慢出来なくなったのだろうか。旦那様は腰を振るいながら、抱きしめた私の唇を強引に奪った。そのままねじ込むようにして侵入してくる舌はやっぱりぎこちない。だが、そのぎこちなさが私の身体の気持ち良さの証のようで、私の意識がクラリと揺れた。
 
 「ふぅ…んっ♪ちゅ…♥は…ぁ♪」
 
 だが、私にはそんな事関係ない。どれだけ舌足らずになっても快楽を求める魔物娘の本能は健在なのだ。ぎこちなく舌の周りを回る旦那様に向かって、私の舌はクルクルと華麗に踊る。口の中を舞台にして繰り広げられる粘膜同士のチークダンスに私の心臓も踊るよう揺らいだ。
 
 ― らけどぉ♪ダンスしてるのはお口だけじゃなくってぇ…♥
 
 グチュグチュと水音を鳴らしながら、抽送を繰り返すオチンポとドロドロになった柔肉とびっしり生えた肉襞で受け止めるオマンコ。その二つの間でも新しいダンスを繰り広げられている。それは舌のようにお互いの身体を擦り寄せながら、快感を高め合うチークダンスではなく、荒々しく感じるほどに躍動感を高める情熱的なパソドブレだ。時に男性の荒々しさをそのまま受け止め、甘くその身を委ねる淫らなダンスに私の肉穴が熱く滾ってしまう。
 
 ― うはぁ…っ♪そこぉゴリゴリされるの弱いぃっ♥♥
 
 私が旦那様の弱点を知り尽くしているように、夫も私のオマンコを知り尽くしているのだろう。私の肉穴に数多く存在する弱点を旦那様はゴリゴリと抉っていく。入り口のGスポットだけでなく、最奥近くの肉襞も、そして今も尚、精液を待ち望んでいる子宮口も、一度の抽送でこれでもかと刺激されるのだ。その度に私の頭の奥でバチリと電流が弾け、アクメの波が全身へと広がる。
 
 ― まらあっ♪またアクメ〜ぇ♪♪幸せアクメしちゃったろぉっ♥♥
 
 上の口でも下の口でも激しく愛しいオスに求められて幸せじゃない魔物娘なんていない。私もまた例外ではなく、多幸感と共に感覚を薄れさせるオルガズムに身を任せた。もう今日のセックスだけで数えきれないほど味わわされた愛しくて気持ち良い感覚に蕩けた肉穴がまたドロドロになっていく。
 
 「ふあ…!ディーナ…好きだ…!!」
 「ぷあぁっ♪わらひもぉっ♪私も…旦那様の事大好きぃ♥♥」
 
 それでもキスを中断しての旦那様の必死な告白を私が聞き逃す事はなかった。女であれば何時だって言って欲しい最高の言葉を例え意識が揺らぐほどの悦楽の中でも聞き逃すはずがない。その返事こそ私が意識して紡いだものではないにせよ、私の身体が旦那様をコレ以上なく愛しているのは本能でも認める事実なのだ。
 
 「じぇんぶぅっ♥じぇんぶ愛してるにょぉ♥♥何時もの格好良いところもっ♪ちょっぴひいじわりゅなところもぉっ♪しゅてきなオチンポも全部〜ぅ♪♪じぇんぶぅぅぅぅっ♥♥」
 「ディーナ…!!」
 「ん゛にゃああああんっ♥♥♥」
 
 瞬間、私の身体にズドンと衝撃が走る。それは今まで私を抱きしめていた旦那様の手が私の腰を乱暴に掴み、挿入と共に思いっきり引き寄せたからだ。まるで性欲処理の道具に扱われるような乱暴で激しいピストン。それに視界がバチバチと白く弾けるのを感じた私の口からは発情しきったメスの鳴き声が飛び出る。
 
 「あひぃぃっ♪しゅご…ぉっ♥しゅごいぃぃっ♥♥頭の奥までじゅんって来りゅぅっ♪♪」
 「お前は…ここが…っ!一番…弱い…からな…!!」
 「んくぅぅぅぅっ♥♥」
 
 その言葉と共に旦那様の亀頭が私の子宮口をグリグリと抉る。ぽっかり開いた肉の縁をなぞるようなその腰使いに背筋が思いっきり反り返った。今にも背中がベッドに預けられてしまいそうなほど反った背筋に負けないほどに子宮も震え、湧き上がるアクメを貪る。
 
 「また…!イッた…な…!」
 「ううんっ♪しゃっきからイキっぱなしらよぉっ♥旦那様のオチンポがぁっ♪グチョグチョって来た時からぁっ♥私の身体イキっぱらしだよ〜っ♥♥」
 
 私のオマンコはずっと旦那様に犯され、旦那様専用のメス穴になっているのだ。世界で唯一、私を気持ち良くしてくれる肉棒を突っ込まれて、イかないはずがない。快楽の波こそ上下しているものの、私の身体は挿入から殆どイキっぱなしで休む余裕なんて一刻たりともなかったのだ。
 
 「らからっ♪何処触られても良いにょ〜っ♥わらひ、どこでもイッちゃうんだからぁっ♥♥」
 「なら…思いっきりこの穴を弄り倒してやる…!」
 
 その言葉と同時に旦那様が腰を大きく引く。私の身体を持ち上げるのと同時に行われたそれは膨らんだカリ首をこれでもかと肉襞に引っ掛ける事になった。それだけで視界が瞬くほどに敏感になった私に向かって、今度は逆の要領でオチンポが突っ込んでくる。快楽が過ぎ去らぬ内に叩き込まれる新しい悦楽。それに私は振り落とされないようにしがみつくのが精一杯だった。
 
 「ひぅ…ぅっ♪はげしひぃ…よぉっ♥♥」
 「これくらいの方が…好きな癖に…!」
 
 意地悪そうに言う旦那様の言葉は否定のしようがないほどに事実だった。だって、こうしてしがみつくのが精一杯な状態でオマンコを好き放題にされても、私の細胞一つでさえ嫌がっていないのだから。寧ろ、その乱暴さが否応にもオスを意識させ、私の肉穴の奥から愛液を漏らさせる。そしてその発情したドロドロの本気汁はカリ首によって抽送の度に少しずつ私の外へと掻き出され、白いベッドシーツに黒いシミを作った。
 
 「そうだよ〜っ♪れも…しょれはだんなしゃまもいっしょぉっ♥♥」
 
 そんな私の肉穴を抉る腰のストロークは少しずつ早く、そして大きなものへと変わっていく。中腹くらいで折り返していた抽送は少しずつその折り返し地点を入り口へと変えていったのだ。勿論、そこには私を悦ばせようと言う旦那様の意思も働いているのだろう。だが、それ以上に夫が射精へと近づいている事が余裕のないその顔を見れば分かった。
 
 「あぁ…!そろそろ…俺も…限界…だ…っ!」
 
 途切れ途切れの言葉の合間に必死に空気を取り込みながらのストローク。それはさっきまでのような私の弱点全てを抉っていくテクニカルなものではなくなっていた。ただ本能に任せて最奥を目指すケダモノじみた抽送である。自分が射精する為だけの独り善がりなピストンは普通であれば気持ち良くないのだろう。だが、自分の身体で愛しいオスが射精に至ろうとしているのを感じ取った私の子宮はキュンと唸り、またアクメを全身に広げた。
 
 「だから…行くぞ…!思いっきり…犯すからな…!」
 「うんっ♪キてぇっ♥思いっきりぃっ♪だんなしゃまのケダモノオチンポでぇっ♥私のメスマンコせぇふくして欲しいよぉっ♥♥」
 
 私がそう応えると同時に腰を掴んでいた旦那様の指先にギュッと力が入る。私の恥骨を凹ませようとするような容赦のない力にも私は苦痛を感じる事はなく、前言通り快楽だけを感じていた。そんな私の腰を乱暴に振るいながら、夫は絶頂へと上り詰めていく。
 
 「ディーナ…!ディーナ!ディーナ!ディーナ!」
 「あ゛ぁぁっ♥♥だんなしゃまぁぁっ♥旦那様ぁぁぁ〜っ♥♥」
 
 お互いの名前を呼び合う間に旦那様のオチンポはビクンと激しく震えて、大きくなっていく。傘のようになっているカリ首の部分をグワリと広げた今の姿は肉穴から抜けないように進化したようにも思わせる。だが、その肥大化したカリ首でも加速するストロークは止める事が出来ず、結合部ではグチュグチュと粘ついた水音と肉の弾ける音を奏でるままだった。
 
 ― しゅごぃっ♥ケダモノオチンポしゅごいぃぃっ♥♥
 
 勿論、それで貫かれる私にはそれが何を意味するのか分かっている。肥大化したにも構わず子宮口とオマンコの入り口を行き来するオチンポは愛液が蒸発しそうなほど熱く、そしてビクビクと震えているのだから。きっとその内側では私の一番奥に種付けする準備が始まっているのだろう。そう思うだけでオルガズムを繰り返して満足していたはずの私の子宮は疼き、欲求不満を肉穴に伝えた。
 
 ― あはぁっ♥わらひ…やっぱり…ざぁめんぢる無いとダメなんだぁ…♪
 
 アクメやオルガズムである程度、誤魔化す事は出来ても、魔物娘の本能は消えはしない。こうして種付けされる幸せが身近に迫っている事を感じるだけで、早くそれをよこせと訴えてくるのだ。その貪欲で何よりも私らしい衝動に抗う事は出来ない。肉穴は子宮から命じられるまま入り口からキュッキュと収縮し、搾り上げるようにオチンポを奥へと引きずり込もうとしていた。
 
 「うぐ…っ!ディーナぁぁ…!」
 
 それに抗うように旦那様が大きく腰を引いた。そのまま夫の背中は綺麗な弓の形を描く。それはあまりにも綺麗で武術か何かの構えだと何も知らない私が思うほどであった。だが、実態は違う。それは最後の――メスの最奥を貫き、精液で屈服させる為の一突きを最高のものにする為の構えだ。きっとそれが放たれた時、私はきっとメスとしての最高の瞬間を迎える事が出来るのだろう。その予感――いや、確信に子宮がキュンと身悶えした瞬間、力を込められた背筋は解放され、私の最奥までオチンポが滑りこんできた。
 
 「ひっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅぅぅぅぅぅっ♥♥」
 
 瞬間、鈴口と子宮口が濃厚なキスをする衝撃が私の身体を悦楽として駆け巡る。だが、私はそれを感じていられたのは一瞬の事であった。次の瞬間には子宮で弾けた熱によって、私の意識が真っ白へと染まる。
 
 「あ゛あ゛ぁぁ  ぁぁぁ  ぁっ♥♥♥」
 
 自分が何を叫んでいるのかさえ今の私には殆ど分からない。意識が真っ白に染まって何も見えなくなってしまった私に感じられるのはただひとつ、子宮から弾けるオルガズムだけ。今まで繰り返してきたアクメを何倍にも濃縮した気持ち良さの前では他の事を考える余裕なんてまったくない。
 
 ― 熱いぃっ♪♪溶けるぅっ♪♪♪甘いぃぃぃぃっ♥♥♥
 
 そんな私の心を支配しているのはその三つの単語だった。自分のお腹の奥で弾けるドロドロとした熱が熱くて、身体が溶けるようで、そして信じられないほど甘い。それが愛しいオスの精液である事にさえ思い至らない私の心はそれを最高に素晴らしいものであると認識し、それがもっと欲しいとばかりにお腹の奥を蠢かせた。
 
 「  ぐぁ…!」
 
 その瞬間、何か苦しそうな、それでいて気持ち良さそうな声が私の耳を打つ。何か大事なことを思い出しそうな愛しくも甘い声。だが、それよりも先に私の耳に悦楽が流れ込む。何もかもを押し流すようなその気持ち良さにあっという間に聴覚が飲み込まれ、私の耳にその甘い声は聞こえなくなってしまった。
 だが、それは別に聴覚だけの話ではない。視覚を始めとする他の五感も殆ど私の中から消え去っていた。例外はただ一つ、私のオマンコだけ。そこだけはまるで五感が集中しているように今の状態でもハッキリと認識する事が出来る。そしてそこで生まれる情報が悦楽となって私の全身を駆け巡り、私の全てを埋め尽くした。
 
 「う……   あ…ふぁぁ…っ♥♥」
 
 その状態から少しずつ復帰出来たのは射精が始まってから少ししてからである。ようやく最初の衝撃から立ち直った私は少しずつ意識を覚醒させていた。だが、そうやって復活した意識にも終わらない悦楽は容赦なく牙を剥く。まだまだ胡乱でろくな思考を紡げない頭を信じられないほどの心地好さは右へ左へと乱暴に揺らすのだ。
 
 ― あっはぁ…♥まるで…じぇんしんオマンコみたぁい…♥♥
 
 そんな私の思考が最初に感じたのはそれだった。五感が肉穴へと集中し、その悦楽を貪る事に全身の神経が集中している今の状態はまさに全身がオマンコになったように感じる。だが、それも悪い気分ではない。私の子宮口に密着しながら震える亀頭の震えや、血管の浮き上がりながらも必死になって精液を送り込もうとしている陰茎、そして甘すぎて蕩けそうなザーメンの味を全身で感じる事が出来るのだから。ある意味、メスの境地とも言うべき悦楽を厭えるほど私は理性的な生き物ではない。
 
 「ふあぁぁっ…っ♪♪あふゅぅぅ……ぅんっ♥♥」
 
 だが、そんな心地好さも永遠には続かない。私の子宮を叩いていた射精の勢いが弱まるのと同時に全身がオマンコになったような感覚が薄れていくのだ。代わりに全身の五感が少しずつ復帰するのを感じるけれど、それではどうしても割に合わない。そう主張するように肉襞がキュルキュルとオチンポを扱くけれど、二度目の射精はなかった。
 
 ― あふぅ…♪わらひ…おっぱいもらしてたんらぁ…♥♥
 
 ゆっくりと身体へと戻ってくる感覚がようやくそれを知覚した。それほど激しい勢いではないが、背筋に余韻が駆け抜ける度にドロリと先端から漏れ出ている。きっとアクメが最高潮に達していた頃にはきっと搾られていた時と負けないくらいの勢いだったのだろう。私たちの全身を白く染める生温かいミルクからは搾りたての濃厚な匂いが立ち上っていた。
 
 ― えへ…♪私のぉ…一番、おいしひミルクぅ…♥♥
 
 メスとして幸せの絶頂にあった頃に搾った母乳。これまで以上に濃厚なそれを私はそっと片手で掬い取った。そのまま口へと運べば、ミルクの甘さを凝縮したような甘さが私の咽喉を通り抜けていく。それは市販されるミルクには到底、及ばない領域の味だろう。だが、そんなものでさえ私の子宮を内側から暖めてくれる精液には太刀打ち出来ない。
 
 「ん…ちゅぅ…♪」
 
 だけど、それを私にたっぷりとご馳走してくれた旦那様にはその味が分からないらしい。ならば、この美味しいミルクを少しでもご馳走してあげよう。そう思った私の腕が再び旦那様の首筋へと周り、ゆっくりと唇を押し付けた。そのままくちゅりと音を立てながら私の舌が旦那様へと絡みつく。
 
 「はぁ…♪ん…♥」
 
 到底、器用とは言えない緩慢で鈍い舌の動き。だが、それは夫も同じだった。きっと数分続いた射精で精液を使い切ったのだろう。何時もは私をリードしてくれる優しい舌は性交中以上に鈍い。しかし、それでも私の拙いキスに応えようとしてくれているのが嬉しくて、私の胸にまた愛しさが燃え上がる。
 
 「ちゅ…♥どぉ…♪私の旦那様せんよぉアクメミルクぅ…♥♥美味しい…?」
 「あぁ。最高だ」
 「嬉し…っ♥♥」
 
 キスを終わらせての私の疑問に旦那様は力強く頷いてくれる。嘘偽りなど何処にも見当たらない誠実なその姿に私の胸が疼いた。その疼きのままに私の身体は未だ感覚の鈍い腕に力を込めさせ、私のおっぱいを夫の胸板へと密着させる。
 
 「あぁ…んっ♪♪」
 
 瞬間、旦那様の硬い胸板で押しつぶされた乳首からビリリと快楽が走る。それが敏感になった身体の中で絶頂へと結びついた。全身を駆け抜けるように広がるその痺れがどんどんと激しく、そして強くなっていくのを感じる。そんな私の前で夫は甘えるように顔を近づけた。
 
 「ぺろ…」
 「はぁ…ぅぅっ♪♪」
 
 そのまま私の顔や首筋についた発情ミルクを舐めとってくれる。興奮の所為だろうか。夫の粘膜は熱く、触れられた場所にジリリとした感覚が残る。欲求不満にも似たそれに身体はピクンと跳ねるのを感じる私の中で、オチンポがゆっくりとその力を取り戻し始めていた。
 
 ― んふぅ…♪まらまだ…こんなものじゃないよね〜…♥♥
 
 そう。無限にも近い精力と尽きぬ性欲を手に入れた旦那様はこの程度じゃ終わらない。その精嚢の中身を空っぽにするほどの射精をしても、すぐさま次の精液が作り出されるのだ。ある意味、私のミルクにも近いその生産能力に果てはない。少なくとも私がギブアップするよりも先に精液が尽きた事は一度としてなかったのだ。
 
 「また…大きくなっへるぅ…♪」
 「ディーナがこんなに蕩けた可愛い顔を見せるからだ」
 「やぁ…んっ♪♪」
 
 頬に一つキスを落としながら甘く囁いてくれる旦那様に身体の奥にジィンとした熱が走った。それは沈静化していた子宮に火を灯し、また欲情の炎を踊らせ始める。まだまだこんな精液の量じゃ足りない。孕めない。そう主張するような欲情が一瞬で私の全身へと広がり、鈍った感覚を急激に取り戻させる。
 
 「それに…」
 「ひあぁあっ♪♪」
 
 そう言いながら旦那様は私の身体をベッドへと倒し、クルリと反転させる。自然、急激に肉棒と擦れるオマンコから伝わる快楽に私の口から嬌声が漏れた。だが、夫はそれに構う事なく、私の脇腹をベッドに立て、足を旦那様の肩へと掛けるような体位へと変える。がっちりと捕まえられた足は私の自由を大きく制限し、逃げ場のない事を私の子宮へと伝えた。
 
 「…何もかも忘れて快楽を貪りたかったのはお前だけじゃない」
 「旦那…様ぁ…♥」
 
 この体位では旦那様の顔がとても見えづらい。だが、微かに見えたその顔と小さな声には苦渋の色が混じっているようにも感じられた。本当に今まで我慢ばかりさせてきたのだろう。それを感じさせる声に愛しさで一杯になった胸が微かな息苦しさを訴えた。
 
 「良い…よぉっ♪明日も明後日も…ううん〜♪♪ずっとずっと先までいっぱいセックスしよぉ♥グチョグチョってぇっ♥♥ドロドロってなるセックス一杯ぃっ♪♪」
 
 旦那様の苦渋を少しでも解消する為に私は甘い言葉を紡ぐ。……いや、違う。私もそれがしたいからだ。本当は私だって何もかも混ざり合うようなセックスをずっとずっとしたかったのである。だから、これは旦那様の為に紡いだ言葉なんかじゃない。私がしたいから紡いだメスの…オネダリの言葉だ。
 
 「手加減なんか…しないんだよねぇ♥しなくて良いよ〜…ううんっ♪そんな事しちゃ許さないからぁっ♪♪旦那様のオチンポが萎えちゃうまでぇ…♥寝ててもぉ起きててもぉ食べてる時もぉっ♪♪ずぅぅぅっとセックスしよぉっ♥♥」
 「ディーナ…!」
 「あはぁぁっん♪♪♪」
 
 私のオネダリの声に興奮が限界を突破したのだろう。旦那様のオチンポがビクンと跳ねてまた硬くなったと思った瞬間、その腰が一気に動き始めた。いきなり射精寸前の激しいストロークから始まったそれに未だ余韻から抜け出せていないオマンコは耐えられない。ようやく落ち着き始めた身体にまたアクメが走り、私の口から嬌声を紡がせた。
 
 ― でも…それが幸せぇっ♪♪
 
 限界一杯までセックスするという自分でも半ば諦めていた幸せ。きっとそれが今から始まるのだろう。しかも、それは私だけが望んでいた訳じゃない。旦那様もまた望み、そして諦めていたものだ。私だけじゃなく、旦那様の希望もまた叶えてあげられる多幸感に子宮が蕩けるのを感じながら、私はセックスに没頭したのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ― 世の中には数奇な巡り合わせというものがある。
 
 人はそれを運命と呼ぶのかもしれない。或いは呪いだと表現する者もいるだろう。だが、それでもそれが逃れられない、或いは逃れ難いモノであるという認識だけは一致しているはずだ。いや、寧ろ『そういったモノ』を運命や呪いと呼ぶ、という方が適切か。
 
 ― ならば…これも運命なのか…な。
 
 そう思いながら見るのは傍らに眠る美女の事だ。灰色のメッシュが入った銀髪をミルクで濡らし、あどけなさを残す丸い顔からも甘い匂いが立ち上っている。だが、その顔のすぐ上には曲線を描く硬質なツノとやわらかな耳がちょこんと飛び出ていた。人在らざるものだけが持ちうる魔性の証。だが、俺はそれを魔性だと思えなかった。
 
 ― 俺の生まれは教団の支配するある領地だった。
 
 飛び抜けて大きい訳ではないが、決して小さい訳でもない。特徴らしい特徴といえば交通の要所にある事くらい。そんな可もなく不可もない都市に酒場兼宿屋を構える夫婦の間に俺は生まれた。父親は口数が多くもムードメーカーな男で、母親もまたそんな父親に負けないくらいお喋りで気持ちの良い女だったと記憶している。そんな二人から生まれたにしては俺はあまり口数の多い方ではなかったが、二人はそれなりに愛してくれていた。
 
 ― だからこそ、だろう。俺にその店を継がせようとしたのは。
 
 どれだけ動乱の時代であっても王都に店を構える酒場兼宿屋が廃れる事はない。それこそ武力と武力の全てをぶつけあうような戦乱に巻き込まれない限り安泰なはずだ。両親はきっとそう考えてくれたのだろう。接客の仕方から料理の作り方までを朝から晩まで俺に教え込んだのだ。お陰で俺は教団が運営する神学校にも行けず、両親の元で修行の日々を送っていたのである。
 
 ― だけど、俺にとってはそれが凄いズレているように思えた。
 
 別に神学校に行きたかったとか、毎日、朝から晩まで拘束されるという自由のない日々に嫌気が差した訳じゃない。子どもながらに両親の愛情は分かったし、それが正しいとも思っていた。だが、何となく、俺のやりたい事からは少しピントがズレているような、そんな漠然とした違和感を抱えながら俺は生きてきた訳である。
 
 ― そんな中、両親が流行病に掛かった。
 
 元々、それなりに繁盛し、かつ人の出入りが多い店である。病が流行っていると噂になった頃にはもう両親とも寝こんでしまっていた。俺は店を閉めて医者へと駆け込んだが、二人の様態は重く、特効薬となる薬草も今は品薄で貴族や商人ばかりが買い集めているという。その薬草の偽物すら出回るような混乱の中でまだ十を超えたばかりの子どもが出来る事と言えば、両親の無事を祈る事くらいしかなかった。
 
 ― だが、そんなもので病が治るのなら世の中に不幸は溢れちゃいない。
 
 俺の祈りも虚しく、両親は一週間ほどで息を引き取った。それから少しして俺もまた同じ病に掛かったが、その頃にはもう特効薬が市場に出回るようになっていたのである。お陰で一人、この世に取り残された俺は両親の遺産として慎ましく過ごすのであれば一生暮らせる金額と、一等地に立つ店を手に入れたのだ。
 
 ― そんな俺に有象無象が群がってきて…。
 
 病で両親を亡くした子どもなんてものはその手の人間にとってはカモに思えるのだろう。一度も店に客としてやって来た事のない奴までもが同情を顔に貼り付けて、擦り寄ってきた。だが、幼い頃から接客の仕方を叩きこまれた俺に下手な嘘なんて通用しない。両親が俺に残してくれた店だけは護ろうとそれらを丁重にお帰り願う日々が続いた。
 
 ― だが…それでも疲れたのだ。
 
 両親の店は大事だ。だが、それはあくまで店の中にこれまでの思い出が詰まっているからに過ぎない。それ以外の付加価値は俺にとっては意味がなく、ただの家以上の何者でもなかった。そんなものを護る為にぎこちない笑顔を浮かべながら、今まで顔や名前も知らなかった親戚や常連客という名のウジ虫に対応する日々。それは俺に大きなストレスとなって、のしかかっていた。
 
 ― そんなある日、俺の前にバカでかい槍を背負った男が現れて…。
 
 俺より少し年上のそいつはキラキラと顔を輝かせていた。まるで世界中の全てが素晴らしいものに溢れているようなその顔を当時の俺は理解出来ない。いや、理解したくなかったのだろう。苦手な作り笑いを浮かべなければいけない自分と比べて、その男は本当に活力に溢れて…そして楽しそうだったのだから。
 
 ― そしてそいつは未だ休業を続ける俺の店の前で抗議をし始めて…。
 
 どうやら俺が店に出るようになった少し前に泊まった事があるらしい男は、昔にこの店で食べた味が忘れられないと主張する。両親が死んでからの俺はそんな人たちも例外なくお断りしていた。だが、その輝きに興味を持った俺は男を店の中へと招き、注文通りの品を作ってみせる。だが、男はそんな俺に渋い顔をしながら、ため息と共に一言呟いた。
 
 ― お前にゃ接客とかそういうのは向いてねぇよ。
 
 誤解する余地もないストレートな言葉。失礼とも受け止められるそれを俺は大いに笑った。笑って…笑って…そして思いっきり泣いた。両親が死んでから今まで、ずっとこらえ続けていたものを溢れさせるように、俺は初対面の男の前で崩れ落ちて泣いたのである。
 
 ― きっと俺は誰かに否定して欲しかったのだ。
 
 両親でさえ認められなかった、接客というものに対する俺の不適正さを。そうすればきっと…俺はもっと早く店を手放す決意が出来た。自分ではこの店の看板を汚すだけになるからと、この宿を懇意にしてくれている客まで追い返さずに済んだのだろう。それを涙の中で思い知った俺はポツリポツリと不器用な言葉で表現し始めた。
 
 ― んじゃ俺と一緒に来るか?
 
 その時の事は今でも良く覚えている。ニカッとバカみたいな笑顔を浮かべて、夕日の差しこむ宿の中で俺に手を差し伸べる男を。まるで後光が差し込むようなそれに俺は涙を拭いながら、そっと掴み返したのだ。
 
 ― …まぁ、着いて行くと決めた後に山ほど後悔した訳だが。
 
 世界最強を目指す!なんてバカな目標をぶちあげたそいつは本当に行き当たりばっかりなバカだった。あのキラキラと輝いていた顔は相手が底抜けのバカで、世界の事を何も知らないからだと理解した頃には俺はアイツを中核とする団体の中核に据えられてしまっていた。傭兵団――戦って人の命を奪う事で代価を得る卑しい職業になる奴なんて多かれ少なかれバカで救いようのないクズばかりだが、バカに釣られて集まった俺達は本当にどうしようもない連中だったのだろう。
 
 ― だからこそ、俺はそこに愛着を持ってしまった。
 
 自分と同じダメな連中。そんな歪んだシンパシーを持ってしまった俺は結局、その団を抜ける事が出来なかった。そして結果として俺は食事から洗濯、その他新人の教育などを一手に引き受ける事になってしまったのである。だが、それは…両親から適正のない事を教えられるよりもそれなりに楽しく、違和感を覚えない日々だった。
 
 ― だが、それも長くは続かない。
 
 殺し殺されの生活。それは自分たちだって例外じゃなかった。俺達の中心にいたバカが勇者でもない凡人にしてはそれなりに強かったとしても、全てを護りきれる訳じゃない。命を落とした者だっているし、再起不能の傷を負った奴もいる。それでも戦うしか能のない俺達は戦い続けた。時には山奥の小さな親魔物領へ、時にはこの戦乱の時代においても小競り合いを続ける大国へ、そして…時には俺の故郷の側へ。その最中に正規軍への登用を勧められた事もあったが、傭兵らしく根無し草であり続けた俺達は…ついに魔界にて敗れた。
 
 ― とは言え…それに不安を抱いていたかといえばそうでもなかった。
 
 教理でガチガチになっていた国を飛び出して自分の目で見た世界。そこは決して楽な場所ではなかったが、宿で旅人たちの口から語られるほど悪いものでもなかった。親魔物領には見たことのない食べ物や設備が沢山あったし、そこで人々がどんな生活をしているのかも理解していたのだから。自然、魔物娘が人間をどうやって扱っているのかを知っている俺にとって、捕らえられ収監されたという状況は絶望するようなものではなかったのだ。
 
 ― だけど、周りの連中は決してそうではなかった。
 
 脱獄を防止する為であろう。俺と仲間は引き離され、別々の独房へと入れられていた。薄暗く狭い房はお世辞にも居心地が良いとは言えず、陰鬱とさせる場所であったが、小さな町よりも多いであろう捕虜を収容するのだから仕方がない。だが、教団に嘘の情報を教えこまれている騎士様や兵にとってはそれが屠殺場の前か何かに思えるのだろう。自分の中に宿る恐怖を隠すように敵意を振りまいているのが分かった。
 
 ― そんな中には明らかに不釣り合いな女が俺の前にやってきて…。
 
 キョロキョロビクビクと怯えた様子を見せる一匹の魔物娘。それなりに名の知れた傭兵団として世界を旅した俺はそれが魔物娘の中でも大人しいホルスタウロスである事を一目で理解した。だが、魔物を全て一括りに考える神の下僕にはそれが分からないのだろう。殺意すら混じった目でその娘を射抜き、萎縮されていた。
 
 ― 冷静になれば怯えている事くらい分かるだろうに…。
 
 これが怒りや殺意もどこ吹く風よと言うような魔物娘であれば、こんな事は思わなかっただろう。だが、怯えながらも一歩一歩歩くその姿はあまりにもこの陰鬱な場所には不釣り合いだ。そう思った瞬間、俺は彼女の膝が少し擦り剥け、血が出ている事に気づく。恐らく何処かで転んでしまったのだろう。
 
 ― まったく…見てられないな。
 
 結局、その魔物娘を見過ごせなかった俺は彼女を呼び寄せ、簡単ながら手当をしてやったのである。その後、必死になって何かを話そうとする彼女に気づいていたものの、俺はそれを取り合わなかった。それは別に彼女の事が嫌いだったりとか、鬱陶しかったからではない。寧ろ、俺のような人殺しに縁を持たせてやるにはあまりにも彼女が純朴で眩しかったからだ。
 
 ― だけど…それも無駄な抵抗でしかなかった。
 
 結局、諦めてその場を立ち去った彼女ではあるが、そのすぐ後に鎧姿の魔物娘――恐らくデュラハンだ――を連れて戻ってきた。ニコニコと笑顔を浮かべる彼女に嫌なものを感じたのも束の間、俺の独房の鍵がガチャリと外され、勢い良くホルスタウロスが飛び込んでくる。その柔らかで暖かな身体は戦場続きでずっと性欲が溜まっていた俺には刺激が強すぎて…まぁ、勃起してしまった訳だ。
 
 ― そこからは本当に早かったな。
 
 俺の勃起を察知した彼女はニヘラと幸せそうな笑みを浮かべながら、より強くその胸を押し当ててきた。勿論、その頃には俺にだって性交渉の経験くらいはある。だが、今まで抱いてきたどんな女よりも柔らかでふわふわしたそれは俺に押し返す事すら考えさせず、まるで童貞の坊主のように棒立ちにさせていた。
 
 ― そんな俺は転移魔術であっさりと部屋へと移送されて…。
 
 結局、俺は自分の何もかもを受け入れ、飲み込んでくれるような柔らかな身体に負けてしまった。本能が理性を上回り、ケダモノと化した俺は彼女に乞われるままに襲いかかってしまった訳である。抜かずに三発なんて離れ業をやってのけたのもその時が初めてだ。もっともインキュバスと化した今ならば余裕どころか物足りない訳だが。
 
 ― そしてようやく落ち着いた俺達はベッドの中で抱き合いながら、自己紹介を始めたのである。
 
 その頃には精も根も尽き果て、抵抗する気力を失った俺は素直に自分の事を話し始めた。どんな場所でどんな両親の元に生まれたか。どんな教育を受け、どんな風に両親と死別したか。そしてどんな風に旅立ち、どんな風に人殺しに手を染めたか。それらは聞いていて決して面白い話ではなかっただろうが、彼女はそれを熱心に聞き、時には驚きの声をあげ、時には悲しみの涙を流してくれた。
 
 ― それから紡がれる彼女の過去。
 
 彼女――いや、つい数時間前まで嬌声をあげて乱れに乱れまくっていたとは思えない安らかな寝顔を俺の隣で浮かべるディーナの過去は俺と比べれば、穏やかな日々を過ごしているのが分かった。幸せな両親に幸せな友人に囲まれ、過不足なく生きる賃金を得ている。それで不幸と言えば世界中から罵られる事だろう。だが、そんな幸せな生活の中で彼女は昔の俺に似た悩みを持っている事を吐露した。
 
 ― だが、それは俺が立ち向かった壁よりも遥かに大きく、そして険しいものだった。
 
 俺が立ち向かったのはどう誇大表現をしても環境が精一杯だ。そして、その環境は場所が変わればすぐさま変化する。実際、その変化を求めて外の世界に飛び出した俺にとって、それはあまり強大な敵ではなかった。
 だが、ディーナは違う。彼女の壁として立ち塞がったのは生来の特徴だ。種族として殆どのホルスタウロスが持ちうる、のんびりとしていて一日の大半を寝食で過ごすという強大で険しい壁。その前でディーナは諦観を抱く事なく、悶々としたものを抱えていた。
 
 ― それを俺は…素直に凄いと思った。
 
 殆どの者ならそれを前に諦めるであろう。世の中には絶対にどうしようもない『区別』があるのだと自分に言い聞かせて。だが、ディーナはそれを諦めなかった。それは斜に構えた者からすれば諦めが悪いようにしか映らないのかもしれない。だが、俺は…『勇者』と『凡人』の壁にすら諦めず立ち向かおうとしたあのバカに惹かれた俺にはそれがとても眩しいものに思えたのだ。
 
 ― だから、俺は出来る限りの手を貸した。
 
 店を経営するノウハウも何も知らないディーナを助け、店の立地条件の選定や各種業者との交渉など様々な仕事をやった。それが実を結んで出来たディーナの店――『ミルク・ハーグ』は彼女の穏やかな気質もあって繁盛し、今では常連客も大幅に増えている。二人だけでは手が足りない時も少なくなく、他の魔物娘まで雇い入れる事が出来るようになったのは間違いなく行幸と言うべきだろう。
 
 ― だが、それが正しかったかどうか…俺には自信が持てない。
 
 確かに店は軌道に載った。これからは現状維持を続けるだけで俺たちにはそれなりの金額が入ってくるだろう。だが、その為にディーナは自らの欲望を抑えこみ、一度は仕事中に倒れてさえいるのだ。それは普通に働くことの出来る人間からすれば甘えにも映るかもしれないが、人知の及ばない性欲を誇る魔物娘にとってそれがどれだけ辛い事か。俺には想像すら出来ない。
 
 「…ディーナ…」
 「んふぅ…♥」
 
 俺の腕を膝枕にして眠る美女が呼びかけに応えるようにしてそっと身動ぎした。だが、キラキラとした紺碧色の瞳は閉じられたままで、艶やかな唇もまた規則的な寝息を立てている。休日をぶっちぎるようにして三日も繋がり続けていたのだから、当分、起きる事はないだろう。
 
 「…俺は…どうしたら良いんだろうな」
 
 臨時休業の張り紙を扉の前に貼ってから三日間。その間、溜まりに溜まったディーナの欲望を発散しようと思ったのはあの三人組のお陰だ。『ミルク・ハーグ』の常連客でもある彼らはデュラハンたちが良かれと思って作ってやった自由時間を持て余していた。善意で行っている事が決して相手に良い結果をもたらす訳ではない。そんな事はこれまでの人生で理解していたつもりだったが、ああしてハッキリとした例を見せられると自分がそうではないのかと気になってしまう。
 
 ― まぁ…結果として独り善がりだった事は分かった訳だが。
 
 今までかなり我慢を重ねてきたのだろう。明日の事は気にしなくても良いと言い聞かせたディーナはコレまで以上に俺を求めた。子宮の中に溜まったザーメンが妊娠したようにお腹を膨らませても尚、射精を乞うほどに。普段であればとっくに満足――いや、偽りの満足を告げるほどの姿になっても、まだ求めようとするその姿に俺は自らの間違いを悟った。
 
 ― だが…どうしてやれば良いんだろうな…。
 
 働きたいと思うディーナの気持ちは本物だ。だからこそ、普通であれば我慢出来ない欲求不満にも耐えて、これまでずっと働き続けてきたのだから。そして、それを満たす為にはこの店は必要不可欠であり…さらに言えばこの店はもうディーナだけが必要としている訳じゃない。この店で働いているのはもうディーナだけではなく、正式に契約を結んで従業員となっている魔物娘がいるのだ。彼女らの生活を考えれば安易に店を閉めるだなんて選択は出来ない。
 
 「…本当に因果なものだな」
 
 かつて両親から受け継いだ店を重荷だとして売り払い、外の世界へと飛び出た自分。そんな俺の背中にまた店という大きくて重いものがズシリとのしかかっている。その数奇な運命に俺は微かに笑みを浮かべた。何処か自嘲的で自虐的なそれはディーナに見つかれば、心の底から心配されるものだっただろう。
 
 「…そうだな。俺には…ディーナがいてくれている」
 
 一人で店を背負い込もうとしていた昔とは違う。人殺しでどうしようもない俺を受け入れ、旦那様と呼んでくれる妻がいてくれているのだから。その上、彼女は底抜けのお人好しでぽわぽわとしている天然娘だ。勿論、そんな一時足りとも目が離せないような手の掛かるディーナが俺の悩みの種でもある。だが、優しくて穏やかな彼女の為であれば、その程度の悩みや重荷など軽く感じられるのだ。
 
 「とりあえずは…休日を増やすか」
 
 一日ごとでの休日ではディーナを満足させる事が出来ない。それならば休日の数を二日に増やせば少しはマシになるだろう。勿論、一週間の内に半分以上が休みの店だなんて人間社会では考えられない。だが、ここは人間よりも遥かに長い寿命を持ちながらも享楽的な趣味を持つ魔物娘の巣窟――魔王城だ。別に俺たちはお金を目的として店を開いている訳じゃないし、ディーナのミルクだけで二人で生活する分には十分過ぎる。店で得られる利益の殆どを従業員の給金に回している事を考えれば、休日を増やすのは悪い考えじゃないはずだ。
 
 ― その分、賃金をもうちょっと考えないといけないけどな。
 
 まぁ、その辺りの事はまた出勤してきた子たちと――俺は口下手なので主にディーナが――相談すれば良い。そう思考を打ち切った瞬間、俺の身体に眠気が訪れた。一つ心配事が片付く目処がついたからだろうか。泥のように四肢に纏わりつく眠気は今までなかったはずだ。だが、今にも瞼が閉じようとするほどの欲求は間違いなく本物で、何より抗えないほど強大である。
 
 「…お休み、ディーナ」
 
 その言葉と共に腕枕をしているのとは逆の腕でそっと妻の柔らかい身体を包む。何処を触ってもむにむにとしたその身体はじんわりとした熱気を灯していて、触れた俺の腕を暖めてくれた。ディーナの気性をそのまま表したような優しい熱が全身に波及するのを感じた俺はついに眠気に抗えなくなり…――
 
 ― そして、俺は愛しい妻と寄り添うようにして暖かな眠りに堕ちたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
12/08/13 12:51更新 / デュラハンの婿

■作者メッセージ
ホルスタウロスさんのミルクで今日も一日元気になりたいお…

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