連載小説
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悪戯の街道と戯れる子供達
※タマゴの里・診療所※
※シャンプ視点※


「先生、もうすぐ仕事ですよ」

あたしはベッドにいるナース先生の説得中。


「まだまだ治療の必要がありますね、退院はもう少し先ですよ」
「先生、僕はどんな病気ですか?」
「それは恋の病ですよ♪」


「ナース先生〜自分の旦那様の診察してないで〜」


「おーいシャンプ〜」


大柄の男性が診療所の裏口を開ける。

「リンス」
「手伝いに来たぞ」
「丁度良かったわ、これから魔物娘の精接種があるから手伝ってくれない」
「任せろ、オレはシャンプの夫だからな」


※精接種※


「あー精液ほしいー」
「精補給剤を注射しますね」プスッ
「……精補給して元気千九百十九倍!せんせーありがとー」

マーチヘアの女性がウキウキしながら診察室を後にする。

「次の方ー」

チェシャ猫親子が入室する。

「今から元気の素を注射しますからね」
「お注射やだー」

幼いチェシャ猫が母の腕の中でジタバタする。

「飴細工で出来た注射器ですから、痛くないですよ?」
「針がこわーい」

あたしは暴れ続けるチェシャ猫の前に手の平を出す。

「お姉さんの手を見て……」

手に魔力を込め、泡を出す。

チェシャ猫は突如現れた泡に興味を持つ。

あたしは続けて泡を放出させ、室内は泡の飾り付けに包まれる。

「シャボン玉だーママーシャボン玉が浮いてるよ」
プスッ「はい、お注射終わり」
「おわり?」
「元気になったでしょ?」
「うん♪」
「好きな男の子が出来たら、その子に元気の素を貰うのよ」
「はーい♪」

少女は元気よく答えた。





「本日分の精接種終了」
「おーいシャンプ、精補給剤のストックが少ないぞ」
「そうなの?ホントだ、精不足の未婚の患者が押し寄せた時が大変よね……ナース先生」


「前回の診察よりも精液の量が多くなってますよ」
「先生の手付きが気持ち良すぎて」
「ますます病状が悪化してますね〜おくすりを飲ませてあげましょう、ハイ口あけてー」
「あーん」
「私の口に溜まっているおくすりを口移しで飲ませてーー」


「ナース先生、精補給剤のストックが切れそうなんです!」


「……そうなの?」
「そうなんです」
「困ったわね。トリックストリートに住むジュリーに頼まなきゃイケないけど、夫におくすりを飲ませないといけないし、その後は陰茎の血圧測定もーー」
「あたしとリンスでトリックストリートに行きますから、ナース先生は夫の診察を続けて下さい」
「いいの?」
「当然です、あたしはナース先生の助手ですから」
「なら必要な物を渡すからお願いね」
「はい」


※タマゴの里・西側の道※


「リンス、大丈夫?」
「元傭兵のパワーをなめるなよ、シャンプのためなら箱十個分を背負うくらいなんてことない。おい見ろよ、カボチャ色の大きな花だな、オレとシャンプを包めるぞ」
「あの花がトリックストリートへのワープスポットよ」

花がひとりでに開く。

「入ってくださいと言わんばかりの開き方だな。どうやってワープするんだ」
「きて……」

あたしは花の上に横たわり、リンスを誘う。起動条件に従い舌でリンスの太い首筋を舐め、濡れた部分を軽く噛む。

花が閉じてゆき、あたし達を転送させる。


※トリックストリート入口※


「お菓子と悪戯の街、トリックストリートに到着」
「相変わらず昼間でも暗い街だな」
「魔灯花のおかげで視界は良好よ」
「だがそのせいで不気味な家がより明瞭に……廃屋とかモンスターハウスとか、怪獣型の家もあるぞ」


「お菓子の詰め合わせは如何ですか〜」


お菓子売りのマーチヘアがあたし達に声をかける。

「二つ下さい」
「銀貨二枚です〜」
「はい、銀貨二枚」
「夫婦仲良く楽しんできてくださいね〜」

お菓子売りは笑いながらその場を去る。

「リンスの分のお菓子よ」
「美味しそうなクッキーだな、いただきま「ストップ、それはあくまで子供達にあげるお菓子よ」
「焼きたての香ばしい薫りに猫や兎に型抜きされたクッキーだから、一枚くらい……」
「子供達にイタズラされるよ?」
「イタズラ?」

リンスの頭にハテナマークが浮かぶ。

「お菓子は里に帰ったら、あたしの身体と一緒にたっぷり食べさせてあげるから、今は我慢してね」
「シャンプが言うなら」
「街に入るわよ」



「トリックオアトリート」
「お菓子をくれなきゃ」
「噛み付いちゃうぞー」



「うおっ!見ろよシャンプ、布オバケと首なし騎士と狼男だぞ」
「リンス……」
「魔物にもオスがいるのか」
「リンス、その子達は仮装をしてるだけの人間よ」
「そうなの?」

「はい、お菓子よ」

「ありがとう」
「お姉さん」
「わーい」

子供達は嬉しそうに去ってゆく。

「この街の特徴は仮装した子供達がお菓子を要求するの。もしお菓子を渡さなかったらイタズラされるわ」
「つまり年中ハロウィンの街なのか」
「リンス、試練はこれからよ。お菓子のストックを切らさないようにね」


「お招きするわよ〜」
「魔灯花の花壇、幻想的でドキドキしてこない?」
「きゃー真っ暗でこわーい密着させてー」


「チェシャ猫の案内が多い街だな。ラピッドタウンよりも多いかもしれん」
「この街は住民からのイタズラが多い故に、チェシャ猫が案内する際によく訪れる場所の一つなの」

あたしが説明する合間にも討伐隊の女性がチェシャ猫に案内される。


「チェルさん、モンスターハウスが不気味…」
「家の外観で恐がってちゃ心臓が持たニャいニャ」

アァアァ……ヴァァアァンイグゥゥ

「オゥ!家の中から叫び声が!」
「あれはゾンビ特有の喘ぎ声ニャ」
「アンビリバボー、この国にもゾンビがいるとは驚きです」
「ワイト夫婦が不思議の国に迷い込んだアンデッド属を招集させた街道ニャ」
「ワオ、つまり不使者の国ということですね」
「因みにゾンビが多く、次点でチェシャ猫が多いニャ」

「つまりゾンビづくしの街なのか。早速ゾンビの少女が少年の後を追う姿を発見」


「う゛あ゛ぁぁ」バタン
「大丈夫か?」
「あ゛り゛かとう゛」


「転んだゾンビに手を差し伸べる少年、今オレは猛烈に感動している」


「おい、あのオッサン泣いてるぞ」
「水色の燕尾服着てるよ」
「それに帽子の形がへん」
「変な帽子」


「オマエラ、変と言ったな?これはシャンプーハットと言ってな、髪を洗うときに泡が目に入らないという画期的な帽子なんだぞ!」
「リンス、落ち着いて」


「わーオッサンが怒った」
「逃げろー」


「おい待て」「お菓子ちょうだい」「オカシ〜」

リンスの前に魔女コスのチェシャ猫とゾンビが立ちはだかる。

「悪いが構ってる暇は無い」「お菓子くれないの?」「ソレナラ〜」

子供達が緑色のボールを出しーー

「待って、お菓子をあげるからソレを投げないで」

「キャンディーだ」
「オカシ〜」

二人の魔女が嬉しそうに去る。

「ふぅー危なかったわ」
「ぐぬぬ、見失った」
「リンス、ちゃんとお菓子あげなきゃ、出ないとあんな風になるわよ」

「悪いな」
「もうお菓子が無いの」

「お菓子が無いなら」
「イタズラしちゃえ」

デュラハンコスの少年とヴァルキリーコスのチェシャ猫が、持っている剣でマーチヘア夫妻の衣服を斬り付ける。

すると夫妻の服が一瞬で塵と化し、すっぽんぽんになった。

「あなた、身体が火照って、抱き締めて」
「俺も肌が疼く、君とまとわりたい」

マーチヘア夫妻がその場で抱き合いながら交わる。

「服が元に戻るまで」
「そうやって抱き合うのよ」

「おい、何が起こった?」
「驚くのはまだ早いわよ。あの兵士とゾンビの少女を見て」


「クラッカー?」
「おーめでどー」パァン!
「ケホケホ何だこの煙は……」
「あだだめでー」
「か、可愛い。お兄さんが今すぐ君を暖めてあげる……」
「ああーん」


「アレってアリなのか?」
「幼いうちに伴侶を得るのは不思議な事じゃないわ。コーン夫妻がいい例じゃない」
「確かに……ん?ゴーストの少女が蛭みたいな生物で男の精液を奪ってるぞ」


「で、出るー!」
「タンク満タン、採取完了」
「き、気持ちよい……」


「あれは精液を採取してるわね」
「何のために?」
「精補給剤を作るためよ」
「ふーん、ん?家の前に子供達が集まってる」


「招待状を確認しました、パーティーをお楽しみください」
「わーい」
「にゃぉーん」
「あーうー」


「一体何なんだ?」
「プレゼントの山……お客様、パーティーの招待状は?」

グールはリンスを参加者と勘違いしたらしい。

「何それ?」

リンス疑問符。

「……申し訳ありませんが招待状の無い方は入れない決まりですので」
「は、はぁ」

「リンス、この街のお茶会は家の中で開かれるから、参加するには招待状が必要なのよ」
「へぇー里とはちょっと違うんだな……シャンプ見ろよ。でかいお城があるぞ」



リンスが町外れの丘にある城を指す。



「確かにでかいお城ね。遠くからでもよく見えるわ。だけどこの街にあんな城あったかしら?」


「あの城はつい最近現れたんだ」
「物凄く怖い吸血鬼の一族が住んでるんだ」


少年達があたしの疑問に答えてくれた。

「ヴァンパイアの一族?」

「ソウ、あたし達ト同じくらいノ女の子ガ窓から顔を出すノ」
「そのこはろざりーちゃんといって、いっしょにあそぼうといっても「わたくしにはおかあさまとおにいさまがいますので」ってことわられるの」

今度はゾンビ少女達が答える。

「ヴァンパイアってプライドが高いからな〜」
「特にあのおばさんはプライドとヒステリックの塊だったよな」
「でも『白百合の花園』ニ住むカミラさんハ優しいヨ?」
「うんうん、わたしたちにりょうはしがきのこのあめをくれる」
「あの人は女の子には優しいけど、男には冷たいんだよ」
「それでもあのおばさんよりはマシだけどな」
「ウンウン、今ハ静かニなったけど最初ノ頃ハ煩かったヨ」
「やっとしろにはいれるとおもったら、こんどはへいしさんがじゃましてはいれない」

「相当ワケアリのようね」

子供達が城の話で盛り上がる中



「これはオレのチョコだ!」
「ぼくのチョコだよ!」




甲高い二つの声が場を凍り付かせた。


「あの子達、お菓子の取り合いをしてる」
「おい、お前等ーー」

リンスが仲裁に向かおうとしたら



「二人共ケンカしないの」



退発的で怪しげな美貌を持つ女性が少年達の合間に入った。

「「ジュリーさん」」

「どうしてケンカなんかしたの?」

「コイツがオレのお菓子を取ろうとしたんだ」
「先に手にしたのはぼくのほうだ」

「じゃあ半分こしましょう」

「えー半分?」
「チョコ全部食べたいのに」

「私のチョコを半分ずつあげるから、これなら文句はないでしょ?」

「しょうがない」
「ありがとうございます」

「Stop、その前に二人共やるべきことがあるでしょ?ケンカをしたら?」

「ゴメン」
「ごめんなさい」

「よし、ok」

「オレの家で一緒に食おうぜ」
「うん。バイバイ、ジュリーさん」

「あんまり喧嘩しちゃダメよ」

ジュリーさんは子供達を見送ると、あたし達を見る。

「貴女達、ここではみかけない顔ね。男女揃って燕尾服と帽子……タマゴの里の住民ね」

「何故判った!」
「リンス、燕尾服と変わった形の帽子のペアルックと言えば十中八九タマゴの里の住民よ」
「残りは?」
「サンドラ洋服店でペアルックを購入したカップルよ」

「ここで話をするのも何だから私の家においでよ」


※町長宅※


「改めてトリックストリートの町長、ワイトのジュリーよ」
「秘書で夫のロミオです」

「ワイト?ゾンビの親戚か」
「リンス、説明は後よ。ナース先生の助手のシャンプと言います。こちらは夫のリンス。本日は精補給剤を貰いにやって参りました」

「成る程、精補給剤ね。譲ってあげてもいいけど一つ頼みがあるの」
「ナース先生から聞いております。パーティーに参加して子供達のお祝いをするのですよね」
「ううん、今回はちょっと違うの」
「男の子用と女の子用、両方のプレゼントを持ってきてーー違うの?」

これは想定外。

「町外れに巨大な城があるでしょ?」

「吸血鬼の一族が住む城って街の子供達が言ってました」
「女の子が顔を出すって聞いたぞ」

「二人には城に侵入して、ヴァンパイアハンターの安否を確認してきてほしいの」



※続く※
14/12/20 19:59更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ
おはようございます。
ドリルモールです。

 不思議の国のお話。
 今回はトリックストリートという、固有種以外の種族が暮らす街が登場しました。
 ハートの女王様が気まぐれで様々な種族をこの国に招待してると思うので、固有種以外の種族が多く暮らす街があっても不思議じゃないと思います。
 ただ思考や価値観はすっかり不思議色に染まっていることでしょう。

 今回出てきた吸血鬼の城及び吸血鬼の一族は、妄想ヶ原様の作品『彼女はゾンビですか?』に登場します。
 妄想ヶ原様許可をいただき誠にありがとうございます。


12/20 チェルの名前を間違えてましたので訂正しました。





キャラクター紹介@
【名前】シャンプ
【性別】女
【年齢】18(外見年齢)
【種族】マッドハッター
【容姿】ボブカット シャンプーハット 水色の燕尾服
【一人称】あたし
【能力・特技】水・泡の魔術
【概要】
 タマゴの里のマッドハッター。
 診療所でナースの助手を勤めており、夫が出来た今でも現役。
 水の魔術が得意で、手の平から泡を出すことが出来、キャンサーのような細かい泡でリンスの髪や身体を洗うのが日課。
【補足事項】
 女王様公認の注射器使用の資格を持つ。





キャラクター紹介A
【名前】リンス
【性別】男
【年齢】22(本人談)
【種族】インキュバス
【容姿】190センチのオッサン シャンプーハット 水色の燕尾服
【一人称】オレ
【能力・特技】力仕事
【概要】
 タマゴの里のインキュバスにしてシャンプの夫。
 ラピッドタウンで力仕事全般を勤める。
 パワーはあるがおつむが足りない。
【補足事項】
 シャンプと出会うまでは髪を洗うのを嫌っていた。

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