連載小説
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穴熊〜姿焼きにと金を添えて〜
 村の外れにある古い小屋の中、用事から帰ってきたツミカに勝負を挑みに来たコウが、ケイの借金の取り立て方を愚痴る。

「そうか、かなり激しかったみたいだね」

「今でも尻が痛みます」

「痛むのか、ちょっと見せてくれ出掛けた先で貰った薬を塗ろう」

「いや、自分で塗りますから」

「遠慮するな……と、あったあった」

「……それは、どこで貰ったんですか?」

「サバトの関係者から貰った軟膏だよ、あらゆる傷を直すと共に塗った部分を性感帯にする物だそうな」

 ツミカは紫色の容器を片手に持って、コウに迫っていた。いやいやと顔を横に振って尻を抑えながら後ずさりするコウ、目線は紫色の容器に釘付けだ。
 
「いいです! 大丈夫ですから!」

「んぅ、そんなに嫌がらなくてもいいだろうに」

「尻穴が性感帯になったら人として何か欠けるような気がするので……」

 尻を撫でて俯いて呟くコウ、ツミカは渋々容器をしまうと今度は盤と駒を持ってきた。

「さぁ、始めようか」

「ええ、よろしくお願いします」



 振り駒の結果先手番はコウ、後手番ツミカとなった。
 比較的勝ちやすいとされる先手番、コウはやや緊張しながらも、初手をうった。
 手番が回り、コウは無事に穴熊を組む事ができた、対するツミカは四間飛車で美濃囲い、この前のように居玉で猛攻を仕掛けるような事もなく、丸い耳を時折ぴくぴく動かして淡々と陣の整備をしていた。

(良しこれからだ、攻め落とす! 絶対に、絶対に!)

 静かな熱意の籠った一手が、開戦を告げた。
 開戦の一手から手が進む、コウの猛攻が続きツミカは眉一つ動かさず受けに徹している、開戦前、時折動いていた丸くてふわりとした耳は、戦いが始まるとせわしなく動き回り、時々両耳をピンと立たせるとその時は決まって長考する、そして両耳をぺたりと伏せると更に長考する、耳を交互に伏せたり立てたりしている時、手は軽やかに進む。
 無表情な顔と妙に感情豊かな耳。

(こんなツミカさん初めて見るな……何か可愛い……はっ、集中集中!)

 コウは沸き上がる雑念を振り払って盤上に目を移す。
 更に手は進み、進んでいた攻めは陰りを見せる。

(あ……続かない? え、あっ!)

 徐々に攻めが潰されていき、押し返される、角飛車を詰まされてやっと潜り込んだ成り駒を刈り取られると、自陣に残ったのは隅に固まった団子のみ。
 盤上から目を離してツミカの顔をそっと見るコウ、無表情な顔は変わらない、そのかわり耳がゆったり動いて新しい表情を見せている。
 ツミカは駒台にある、飛車角金銀桂香歩の中から歩を選ぶとコウの陣に垂らして打った。
 それを繰り返して三つほど、と金を作る、そして二枚の龍が縦に並ぶ。
 と金を穴熊に添える一手が殲滅戦が始まる事を告げた。




「これで良し」

 寄せられたと金が自玉を潰す。

「詰み、だね」

 終盤に至るまでを思い浮かべるコウ、ツミカが受けに徹していた理由をぼんやりと探る。

(攻め合いになったら堅い方が勝ちやすい、だからツミカさんは俺の攻めを切らす為にずっと受けに回ってたのかな?)

 それが正解かどうかは、後ろから紫色の容器を持って忍び寄るツミカだけが知る。

「さぁさぁ、支払いの時間だよ……ふふふ」

「うわっ! え……それって……」

 驚いて後ろを振り返るコウは、紫色の容器をやや恐怖が混ざった目を向ける。

「そう、先程塗ろうとしてた軟膏だよ、お金も返せて傷も治せるなんて最高だね!」

「は、はははは……」

 乾いた笑いが口からこぼれる、ツミカはコウを組伏せて下着を剥くと、容器を開けて中から乳白色の粘り気のある薬を中指と人差し指に絡ませると。

「ふふふ……治療を始めようか……」

 微かに震える尻へ触れる手が延長戦の開始を告げた。



 この日、コウの人としてのナニかが欠け、新しいナニかが生まれた。
15/03/24 20:03更新 / ミノスキー
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