読切小説
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サーカスの兎娘
やあ、ボクの名前はロビン!ロビン・エオストレ

 ニンジンとおしゃべりが大好きなワーラビットさ。世界を見るのが夢で、故郷を飛び出してそのまま世界を渡り歩いてるんだ。そのままぶらぶら気ままに歩いていたんだけど、一年前とあるサーカス団の団長ステラと意気投合したんだ。
 ある時ステラに誘われてグローミータウンで一緒に見世物をしないかと誘われたんだ。今でも玉乗りやお手玉は得意でみんなに見せれば大体の人は喜んでくれるよ。あっボクの大好きなことに、「人の笑顔」も追加ね。

 グローミータウンは最近になって魔物娘の受け入れを開始した町で、ついこの前まで教団やその配下の騎士団がいて、彼らの武器が横流しされたという噂があるんだって。治安も不安定だから、魔物娘はそんなには多くはないみたい。今までのスポンサーだった教会が移動してしまってまだ魔物娘に産業が引き継がれておらず、金回りが悪いんだって。
治安は良くないけどなかなかいいところだよ。故郷のように住み安くはないけど、僕は気に入ってるんだ。町の人達もめげずに熱気があって好きだなあ。
 そしてその街で僕は…あの人に出会ったんだ。

 その人はサーカスの備品を直すためにテントに来ていた。僕が彼の持っていたビンを見てそれおいしいの?と聞くとその人は不機嫌そうな顔で「危ないからあっち行ってろ」とボクの方を振り向きもせず言ったんだ。後で相棒の人がすまなさそうに「悪いな、エディは人嫌いなんだ」と教えてくれてお詫びにリンゴをくれたんだ。

 エディ(エドワード)・フォックスはいつもむっつりしていて、酔っていた。いつでもウイスキーを持ち歩いていて、なんて酒好きなんだろうと思ってたよ。
 おしゃべりも好きだけど、笑わせるのが大好きなボクはなんとかエディを笑わせて見せようと町で彼をみつけるといろんなお笑い話や、芸、歌を聴かせたんだ。……いつも結果は同じ、「失せろ!」と怒鳴られたり。でも、僕は次こそはあいつを笑わせようと思ったんだ。サーカスのみんなに言ったらそれは「ロビンにも恋の季節がやってきたな」とからかわれたけど。

 僕は思い切ってエディの家を訪ねてみることにしたんだ。ニンジンパイを持って、町中の人にエディの家を聞いて回ったよ。あっちこっち跳ね回って、ようやくエディの家に着くとドアをノックしてもいないから家に入り込んだんだ。不法侵入?違うよ、お邪魔します!と叫んでから家に入ったよ。
家に帰ってきたエディはボクを見るなり、出ていけウサギ野郎!と怒ったんだ。女の子に向かって野郎はないよね?
いつものことだからめげずに酒浸りで胃が荒れているだろうからって言ってニンジンパイを渡したんだ。ぼくの故郷の特性のニンジンで、病気の人でも食べれる優れモノなんだ。
友達のミルアもおいしいって言っていたしね。
 エディも「これを食べたら出ていくか?」って聞くからうなづいた。渋々食べていたエディも食べ終わるころには穏やかな顔になっていた。小さくポツリと聞こえた。

 「誰かと飯を食ったのは久しぶりだな」

エディはぽつぽつと話始めた。職人の弟がいたこと。独立した後、一緒に店を開いたこと。
「あの頃は忙しかったが何もかもが楽しかった」
腕輪を眺めながらそうつぶやいた。
いつしかロイ(弟の名前)は一番になることに取り付かれ、弟が無理に無理を重ねるようになったこと。心配だったけど弟の方針に疑問を持たずに付き合い続け、体調が崩れた時には弟の体はぼろぼろになったていた。そして。
「10年も昔の話だ。お前たち魔物娘がここに現れるようになったころ、俺は一人でも食っていけるようになっていた。俺はその時には酒浸りになってたがな」

「このウイスキーはロイの好物だったのさ」

「なんで人間が酒をやめられないか知ってるか?酒を飲んでるときは何もかも忘れられるのさ」

「もっとも、最近は唯の習慣だけどな……なんだ、お前泣いているのか。目が赤いぞ」

 「な、泣いてなんかないよ!目が赤いのは生まれつきさ!」

 エディは足は俺より速い癖に嘘は下手だな、と口を曲げて言った。何さ、エディがのろまなだけじゃないか。 エディは今日は遅いから泊って行ってもいいぞ、とこっちを見ずに行った。

「なら一緒のベッドで寝ようよ」

「冗談は頭とその足だけにしておけ、この兎女!」

エディはやっぱり怒りんぼだ。


その日からエディはボクを見ても邪険に扱ったり逃げたりしなくなった。相変わらず笑ってはくれないけどね。
一つ分かったことがある。
エディは機嫌がいいと腕輪を見せてくれる。
独立した時に二人で作ったものらしく、彼が持つ者の中では一番の値打ちのものだと思う。
 エディが思い出の品を見せたことで、ボクも段々と心の中で気付いた。だから、エディの家に行った時、つい言ったんだ。

 「ねえ、エディ」

「何だ」

「僕のこと、好き?」

「友人としてな」

「ボクはエディが好きだよ、異性として」

「そんなものはもっといい男にとっとくんだな」

 中年で髪が薄いのが好みなら自分の感性を直したほうがいいとエディは赤いワインに口をつけながら言った。
どうして人間はそう年齢や容姿をそこまで気にするんだろう。全く分からないし、わかりたくもない。

「エディは僕のことを異性として見れない?」

「そんなことを聞いてどうする?」

「……なんでもないよ。でも」

「でも、いつか絶対にエディを笑わせて見せるから!」

ボクはエディの家を飛び出した。なんだか、 夜風がやけに冷たい。

 サーカスで次の興行まで休憩していた。すると、最近ボクはエディの話をしないことについて、普段は寡黙なチュンファ(体が大きいから力仕事を担当しているよ)が喧嘩でもしたのか、と聞いてきた。大丈夫、と笑顔で答えたつもりだったけど、「お前の長い耳がしょげていたからな、無理をするな」と虎模様の尻尾をくるくるしながら言った。ありがとう、チュンファ。これでもっと元気なら彼女ももっとモテると思うんだけどね。


ある日、エディが通う酒場を覗くと、酒場のマスターから興行の依頼が来た。エディは断れ、と言った。酒飲みの連中はサーカスや曲芸に興味がない、行ってもからかわれるだけだって。けど、彼に心配ないから、と説得して酒場へ向かった。手狭だから三人くらいで行くつもりだったけど、手品師のレンと大道芸のサキが休養だからボク一人で行くことになった。どうしたんだろうね?

酒場は予測した通り景気の悪い顔や井深滋直が並んでいた。ボクが現れると野卑な声やからかいの声が飛んだ。やれつけ耳なのかだの足が大きくてかわいいねとか。言わんことじゃない、とどこからか聞きなれた呆れ声が聞こえたけど、気にしない。

「さーて!次は耳を使ったバク転をやっちゃうよー!」

おおお!と歓声が聞こえる。 僕が歌ったたり踊ったりして一時間もすると歓声が聞こえてきた。ぼくは険しい顔で眺めていた男ににっこりと笑った。めげずにちゃんとやり遂げたでしょ?ってね。
目の前に座ってた髭のおじさんが、「エディ!お前の嫁さんもやるじゃないか!」って
言い出したからびっくりしたよ。次々と結婚式はいつだとか子供は何人欲しいかとか。
 
もう!おじさんたちまでサーカスのみんなみたいなことを。その後おじさんたちがもう遅いからエディの家に泊って行けとか兎は性欲強いからなんたらと言っていた。何さ、ワーラビットは年中発情期なだけさ。それにエッチなのは魔物娘なら当たり前だもんね。用事が終わったらしいレンとサキがやってきて後は自分たちが引き継ぐという。「旦那さんと仲直り出来てよかったね」だって。余計なお世話さ!

 ボクとエディは夜道を歩いていた。エディはこっちを見ずにポツリとつぶやいた。「お前はすごい奴だ」って。エディが素直に褒められてびっくりしたよ。思わず気恥ずかしくなって先に走って行っちゃった。
 エディの家に入ると、誰もいないはずの家にガサゴソと音が聞こえた。
盗賊だ!
僕は取り押さえようとして、そいつが持っているものを見て背筋が凍った。その男が持っているのは教団が使用していた魔物娘用に作られたダガーだ。目の前の盗賊は体格こそすごいけどあの糞真面目で融通の利かなそうな教団兵には見えないけど、どいうことなんだろう。そう言えば教団の強硬派がこの町を離れる前に
破棄されてそのまま回収されてない武器があると言っていたような……。
 息をひそめて、どう巡回の衛視に知らせようかあれこれ迷っていると目に腕輪が飛び込んできた。あれは、エディの弟さんの……!

真っ赤な目が焼けるように熱い。絶対に許せない!僕は飛び上がると盗賊を思いっきり蹴り飛ばした。フットボールのように壁に飛んで行った。全く、汚いボールだなあ。
蹴った時に腕輪を取り戻すことに成功して、
ほっと一息。エディの大切なものを守ることはできたんだ。とりあえず衛視の人達や魔物娘に知らせないとね。
 ガタリ。
後ろを振り向いた瞬間、目のあざを作った男がナイフをかざして、こっちへ突進してきたんだ。
なんで、そんな!最悪だ、切り傷が出来ただけで致命傷は避けられたけど、男はそのまま僕に馬乗りになってきた。こいつ、セクハラで訴えてやる! 僕は息巻いてるけど、はっきり言って状況は最高だ。耳を掴まれ、切り傷から魔力が流れていく。

おかしいな、頭がくらくらして、エディの顔が見える。何度も僕の声を呼んでるや。
はは、馬鹿だな、ボク。こんな時に好きな人のこと考えてるなんてさ。おじさんの言う通りHだよ、まったく。

 「ロビン!ロビン!おい、しっかりしろ!」

え?嘘、本当にエディ?

 「エディ……ははっ夢じゃないんだね」

 とたんにエディは拍子抜けしたように呆けていた。ボクはエディの大事なものを守れたんだ。
「エディ!弟さんの腕輪を守ったよ!」

 「お前、まさかそのために盗賊と取っ組み合ったてのか」

「そうだよ!すごいでしょう」

「何がすごいものか!こんな傷を作って!
相手がの教団の騎士だったら死んでいたかもしれないんだぞ」

 エディの剣幕に思わず息をのむ。確かにボクは無茶をした。でも、ボクが頑張らなきゃ腕輪は戻らなかったかもしれないのに。悔しいというより寂しかった。

「怒鳴って悪かったこんな傷を……お前に無茶をしてほしくないんだ」

「エディに悲しんでほしくなかった」

「確かに腕輪は大事だ。だが、」

「それでお前を失っていい理由にはならない」

「ふ、ふーん。な、ならその証拠が欲しいなあ」

「そうか」

エディは顔をむすっとすると、いきなりその…キスをした。

「〜!!」

「ふん…あの日からお前の目の色と同じ色の酒ばかり飲んでるのにも気づかなかったんだろうな」

頭が沸騰しそうで…何も考えられない。エディはこっちの気も知らずプイと向こうを向いてしまった。
それだけでも恥ずかしいのに、ここまでばっちり警吏の人達に見られていたらしいとサーカスのみんなに教えられて、一週間ほど悶絶していたってわけ。もう。

怪我が治ったぼくは、エディと一緒に街を歩いていた。

「ねえ、エディ。ボクにもおそろいのあの腕輪を作ってよ」

「悪いが、もうお前に送るモノは腕輪じゃないことは決まっている」

エディはそういうと、懐から小さな箱を取り出した。ぼくは恐る恐るあけると。

結婚式でつけるような結婚指輪だった。

「これは…」



「こんな酔っ払いが嫌じゃなければ、俺と
夫婦になってくれ、ロビン」

 そう言ってエディはにっこりと笑ったんだ。

僕が大好きなもの、それは。

エディの……僕の旦那様の笑顔なんだ。



16/07/17 23:42更新 / カイント

■作者メッセージ
 僕っ娘のワーラビット毛玉を口に入れたい。


 どうも、カイントです。読んでいただきありがとうございました。
映画を見ていたらついボクっ娘のワーラビットが頭に思い浮かんでそのまま衝動で書きました。
 今回自分でも魔物娘視点にチャレンジてみましたが、いかがだったでしょうか。

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