読切小説
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旅商人と恋するラミア
 砂漠の旅は厳しい。
 昼間は暑く、夜は寒い。何度往復した道であろうと、吹き付けてくる砂交じりの乾いた風には辟易する。
 僕は外套の前を締め直しながら、ラクダの上から目を凝らして周りをよく見て回る。同じような風景ばかりで下手をすると道を見失いかねないのだ。
 遠くにオアシスの緑と青が見え始め、僕は安堵の息を吐いた。


 泉近くのヤシの木にラクダを繋ぎ止め、僕は泉の水で顔を洗った。
 水面には子供っぽい僕の顔が写っている。頭が冷えると、考えも落ち着いてくる。
 教国や中立国、砂漠の都を回って商売をしているけれど、いつまでこんなことを続けられるんだろう。同い年の人間にはもう大きな店を持っている奴も居るのに。
 いかんいかん。僕は頭を振って余計な考えを払う。
 ここまでくれば旅は折り返し。日が暮れるまでには目的地である砂漠の都に付けるだろう。今回の商品は砂漠の都じゃ手に入らないものだから、きっと高く売れるはず。
 いつかは僕だって店を構えて、お嫁さんを貰いたいし。そのためには頑張るしかない。
 そういえばこの先はこの間ギルタブリルを見かけた道だ。気を引き締めてかかるためにも、とりあえず今は体を休める事に専念しよう。
 一息ついて泉の向かい側に目をやると、顔なじみのサリアが居た。
 こっちに気が付いて大きく手を振ってくれている。僕も手を振りかえした。機嫌がいいのだろうか、彼女は楽しそうに蛇の尻尾をくねらせていた。
 褐色の肌に、蛇の下半身を持つ魔物、ラミア。
 サリアはこのオアシスの近くに住んでいるラミアだった。魔物と言っても人を殺して食べる事はしない。昔はそうだったらしいのだけれど、僕の生まれたころには魔物はみんな人間並みの知能や感情、そして女性の身体を持っていた。
 ただ、彼女たちの人間の男性に対する気持ちは強いのだという。僕も魔物娘と言えば男を見つけたら見境なしに襲い掛かるものだと思っていた。だけどそれは誤解だったらしい。なぜなら、僕とサリアはそれなりに知り合ってからしばらく経つけれど、言葉を交わすことはあっても、強引に迫られることもなかったからだ。
 こちらとしては、彼女はすごい可愛いし、あんな子が嫁になってくれたらと思ってはいるんだけど。いろいろアプローチはしているつもりだけど、どうやら僕はお眼鏡には敵わないらしい。
 ため息が出てしまう。やっぱり第一印象が悪かったんだろうか。


 あれは初めて砂漠を旅していたころの事だった。
 まさにこのオアシスに向かう道の途中で、女性が行き倒れているのを見つけたのだ。助けなければと近づいてみれば、その女性は下半身が蛇で、つまりそれがサリアだった。
 砂漠ではラミアやギルタブリルと言う魔物が出現する。旅をするときには彼女たちにくれぐれも注意しろと言われていた。
 砂漠を生きる場所とするラミアがどうしてこんなところで倒れているのか疑問ではあった。もしかしたら倒れたふりで助けに来た男を襲うつもりなのかもしれなかった。
 だが本当に倒れていたら。この灼ける砂漠で長時間も日向に晒されていては命に関わる。
 僕は彼女を抱き起した。
 彼女は真っ赤な顔をして目を回していた。触れる肌の温度もかなり高かった。
 慌てて彼女をラクダに乗せてオアシスへの道を急いだ。
 運よくオアシスにすぐに付き、木陰の下に彼女の身体を横たえ、しかし僕ははたと迷ってしまう。
 運んだはいいが、この後どうすれば彼女を助けられるのか。泉に入れてしまっては急激に体温が下がって危険かもしれない。
 彼女は苦悶の表情で小さく呻き声を上げる。考えている時間も無い、僕は泉の水で濡らした布で彼女の身体を拭いてやる事にした。
 少し幼さの残る顔、首元、腕、わきの下、胴体。そして蛇の下半身。順に拭いていく。
 他意は無かったのだが、薄い生地越しに感じる彼女の肌は見た目よりも柔らかくてどぎまぎした。
 自分の下半身に血液が集まりそうになるのを、何とか平常心でこらえながら彼女の身体を拭き続けた。
 僕は蛇が嫌いでは無かった。体をのたくらせるたびに不思議な光沢を放つ鱗に覆われた体を美しいとさえ思っている。魔物娘の身体にも昔から興味はあって近くで見てみたいとは思っていた。
 彼女の身体もまた美しかった。木漏れ日を照り返すその鱗に覆われた下半身。つるつるとした鱗の感触の下に感じる柔らかさ。そして彼女を苛む熱さ。
 早く助けてやりたくて、僕は必死になった。
 彼女のまつ毛がピクリと動き、目が開いた。
 向こうからしてみれば、気がついてみれば見知らぬ男に体を撫でられているという状況だ。しかも運悪く僕は彼女の胸元を拭っている最中だった。
 驚かないわけがない。彼女は悲鳴を上げて僕の身体を突き飛ばし、そして僕は頭から砂に突っ込んだのだった。
「あ、あなたは何なの」
 僕は頭を上げ、振った。
「ほふほははへは」
 口の中が砂まみれで上手く喋れなかった。彼女は怖がっていた顔を次第に緩め、僕を見て噴き出した。
 僕は彼女が元気を取り戻してくれたことに安堵し、落ち着いて泉の水で口をすすいでから話をした。
 僕は旅の商人で、彼女が行き倒れているのを見つけて運んできたのだという事を。
 すると彼女は少し顔を赤くして、でもちゃんとお礼を言ってくれた。
 それから僕と彼女の付き合いが始まった。ここを通るときには少し話をしたり、彼女の服がぼろぼろだと思ったので服を贈ったり、お返しにと彼女が珍しい鉱石や薬草をくれたり。


 泉の向こう側で、サリアは目が合うとにっこりと笑う。素直に可愛いなぁと僕は思う。でも、やっぱり住む世界が違うのだろうか。
 今サリアが身に着けている服も僕が贈ったものだ。ちょっと派手だけど、体のラインがはっきりしている彼女には良く似合っていると思う。
 泉の向こう側の彼女は、服の結び目を外して裸になる。ほら、その下にはやっぱり形のいいおっぱいが……って。え?
 僕は慌てて目を反らした。
 ざぶん。と言う大きな水音が遠くから聞こえてくる。
 水浴びか。なら一言言ってくれればいいのに。
 僕はそちらを見ないように、ラクダに水をやろうと紐を外し、そして近い場所からまた水音がしたのでびっくりして振り向いてしまった。
「サリ、ア?」
 手から手綱が滑り落ちて行った。すぐそばにずぶ濡れの、裸のサリアが居た。
 体に張り付いた砂色の長い髪。女性らしい丸みの帯びた体を、惜しげもなくさらしながら彼女は妖しく微笑んでいる。僕は口を半分開いたまま、目が離せなかった。
「旅人君。暑くない? 一緒に泳ごうよ」
 彼女は僕にすり寄り、外套を脱がせてシャツのボタンに手を掛ける。僕はその手を掴んで制止した。
「ちょっと待った。どうしたんだよサリア。いつもの君らしくないよ」
「いつもの私ってなぁに? どんな私?」
 サリアはまっすぐに僕を見上げてくる。いつもの笑顔なのだが、それが少し怖い。
「だから、お話したり、僕が持ってきた品物を見せたり」
「ねぇ旅人君。この間、ギルタブリルに襲われそうになってたよね?」
 確かに前の旅でギルタブリルに襲われた。だがなぜそれをサリアが知っているのだろう。
「うん。あの時は怖かったよ。運良く先に気付いて投げナイフを躱せたから良かったけど、毒にやられてたら今頃は……」
 彼女の目が冷たく光る。
「怖かったなんて嘘よ。本当は嬉しかったんじゃないの? だって帰り道だって同じ道通っていたし、これから街に行くのだってその道を通るんでしょ」
「そうだけど。それには理由が」
 なんだ。いきなり一体どうしたというんだろう。どの道を行こうが僕の勝手なのに、彼女は何に怒っているんだ。
「言ってよ。その理由」
「それは……。ちょっと」
 彼女の前では恥ずかしくて言いづらい。しかし僕の気も知らず、彼女はむっとした表情になり、頬を膨らませる。
 あ、怒った表情もちょっとかわいい。と間の抜けた事を考えていたせいで、彼女の尻尾が僕の背後に回っていることに全く気が付いていなかった。
「あんな女になんて渡さないんだから。君に先に目を付けたのは私が先なんだから」
 彼女の尻尾の先が僕の首に絡み付く。
 手で引きはがそうと思う隙すらなかった。僕の意識は一瞬で闇の中に沈んだ。


 ほっぺたに水滴が落ちている。
 はっと目を覚ますと、目の前にサリアの顔があった。頬を染めて、緩んだ唇からよだれが垂れている。
 頬に掛かったのはこれか。
 彼女は赤い舌で唇のよだれを舐め取った。
「気が付いた? 旅人君」
 薄暗くて、ここがどこかは分からない。ただほんのりと差し込んでいるわずかな明りが、彼女の一糸まとわぬ裸体を浮かび上がらせている。
 彫りのある割には可愛らしい顔。傷一つない滑らかな肌。腕や胴回りはほっそりとしている割に、胸にはしっかり肉がついているのが、見下ろされているとよりはっきりと見えた。
 柔らかそうな二つのふくらみの先端には、ほんのり色づいた小さな果実。
 思わず手を伸ばそうとしてしまったが、体が動かない。それもそのはず、僕の身体は彼女の蛇の下半身にぐるぐる巻きにされてしまっていた。しかも、僕も裸だ。
 ちょっと堅いけれど、彼女の温もりが直に僕の肌に伝わってきている。裸なのに寒くなかった。
 僕が何か言おうとする前に、彼女の唇が僕の口をふさいだ。
 いきなりすぎて、柔らかい感触が触れたことしか分からなかった。
 初めてだったのに、ろくに味わえなかったなぁ。と少し残念に思っていたら、彼女は唇で唇をついばむ様に何度もしてくれた。暖かくて、濡れていて、お互いの唇の形を確かめ合うような口づけ。
 僕は自分の顔が次第に熱くなっていくのを感じた。
 彼女は顔を離すと、僕に笑いかける。
「人間のキスってこうするんでしょ。えへへ、ずっとこうしたかったんだ。ついにしちゃった」
「サリア、君は」
「でも知ってるよ。人間のキスはこんな風にもっとえっちなのもあるって」
 再び彼女の顔が下りてきて、再び唇が触れ合う。
 今度は唇を押し付けるように、強く。そして彼女は自分の唇で僕の唇をこじ開けて、舌を入れてきた。
 熱くて、濡れていて、何とも言えない柔らかいそれが僕の舌に絡み付く。
 唾液を出させるように舌をこすり付けてくる。かと思えば舌の裏側に回って舐めあげる。
 唾液がこみあげてくる。彼女の舌はそれを器用に舐めとり、啜りあげる。いやらしい音を立てて彼女が僕の唾液を吸い上げていく。
 舌が離れた。
 滴が僕の唇に落ち、彼女の白い喉が小さく上下した。
 彼女は舌で自分の唇をぺろりと舐める。僕は何となく、大都市のレストランで見た光景を思い出していた。特等席には身なりのいい男と、彼に連れられた高級娼婦が居て、肉汁たっぷりの肉料理を食べていた。
 高級娼婦が油の付いた唇を舐め取る仕草と、今のサリアの舌使いが重なってみえる。
 いや、サリアの方がずっと素敵だ。澄んだ金色の瞳。今は僕しか映っていない。
「どう、かな。見よう見まねだったけど」
「初めてだったからよく分からないけど。すごかった。……いや、いい意味でだよ。ぞくぞくしたっていうか」
 僕は興奮して胸がどくどく言っていて、正直自分がどんな顔をしているのかも分からなかった。あまり下品な顔をしていないといいのだけど。
「ふふ。じゃあもっとすごい事してあげる」
 彼女の唇が下りてくる。唇を割って、舌が入ってくる。僕の舌に絡み付く。
 なんだ、さっきと同じじゃないかと一瞬でも疑った僕が馬鹿だった。その考えはあっけなく蕩かされていく。
 彼女の舌が僕の舌にぐるぐると巻き付いていく。僕の舌が彼女の味で覆い尽くされる。否応なしに下半身が反応し始める。ヘソの上あたりがざわついて、下腹部が熱くなり始める。
 彼女の舌は止まらない。僕の舌を擦りあげながら、その先端が僕の上歯茎を舐めていく。歯の裏側を、付け根を。
 背筋にぞくりと冷たい電流が走る。びくりと体が震えてしまう。あそこが硬くなるのを止められない。
 彼女の舌は僕の唇と歯の間をゆっくりと撫でていき、そして最後に僕の喉奥に至る。
 嘔吐感を覚える境界のあたり。喉仏を舌先で転がし、喉奥の誰にも触れられた事の無い部分をつつく様に、味わうように愛撫される。
 息苦しいほどの快楽。下半身が跳ねそうになる。僕は怖くなる。これでいってしまったらあまりにも情けない。だが、いきそうになってしまう程の未知の快感だった。
 彼女の舌が一気に引き抜かれていく。口中を擦りあげながら、犯しながら。
 口の中が空になり、僕は喘いだ。それは空気を求めてなのか、強烈な刺激を受けてなのか、自分でもよくわからなかった。
 全身ががくがく震えている。あそこが痛いほど硬くなっている。
 でも、涙目で見上げれば荒い呼吸を繰り返しているのは僕だけでは無かった。
 サリアは瞼を半分落とし、頬を染めて唇に指を当てている。まるで初めて口づけした少女のように。
「こんなにすごいんだ……。お母さんやお姉ちゃんが夢中になるわけだわ」
「サリア?」
 彼女ははっと我に返り、照れ隠しするように笑いかけてくる。
「ど、どうだった。私のキス」
 本当なら抱きしめたいところだったけど、体が動かない。
「すごかったよ。もう一度したいけど、そしたら出ちゃうかもしれないから」
 彼女は僕から少し体を離して腰元を確認する。
 僕の物は血管が浮き出る程にぎちぎちになってしまっていた。女性の前で裸になったことなんて無いのに、そうまじまじと見られると恥ずかしくてたまらない。
 だが、彼女のそこも濡れて光って、ひくついていた。まるでごちそうを前にしてよだれを垂らしているように。
「旅人君、見た目より大きいね」
「小柄だからそう見えるだけだよ」
 それは僕の悩みでもあった。年齢としては大人なのに僕は背が小さい。商売をする身としては舐められやすいのだ。下の方だって公衆浴場に行けば僕より大きい人はいっぱいいるし。
 彼女は首を振って、自分のあそこに指をあてがい、開く。
「そんなことない。見て。私、君のが欲しくて欲しくてたまらない」
 にちゃ、と小さく音を立てて、そこが口を開ける。綺麗な淡い色の、柔らかそうなそこ。僕は目が離せなくなる。
「旅人君は、童貞?」
 かぁっと頬が熱くなる。そのまま見続けるのも気が引けたのだが、顔を上げられなかった。
 ああそうだ。僕は女を変えるほどのお金の余裕は無いし、旅の商人に言い寄ってくるような女も居ない。それに、サリアのような綺麗な人を見てしまったら……。
 僕が小さく頷くと、彼女は僕の頭を胸元に抱き寄せる。
 むっちりしたサリアのおっぱいに包まれる。あったかい。なんだかいい匂いがする。日向の匂い。
 そして彼女の匂いにまた下半身が反応してしまう。
「良かった。まだ誰にも手を出されていなくて。君の精は、初めから終わりまで、全部私だけのものにしたいから」
「え?」
「他の女になんて絶対渡さない。君も、君の出すものも全部私のもの」
 彼女の手が僕の下半身の物を掴んで、導いている。
「キスしたら、私もいっちゃいそうだし。初めていくときはあなたと繋がっていたい」
 先っちょに柔らかくて濡れた粘膜の感触。それが亀頭を包み込んで、竿の部分もどんどん飲み込んでいく。
 彼女の中は熱くぬめっていて、奥に行くほど強く締め上げてくる。僕の先端が何かに引っかかり、そこで一旦動きが止まった。
 そのまま一気に押し込みたい欲望に腰が疼く。でも僕の身体は動かない。
 代わりに彼女の蛇の身体が痛いくらいに僕の身体に巻き付いている。彼女は涙目になっていた。僕と目が合うと、口元に笑みを浮かべる。
「だって、ずっと大好きだったから」
 そして僕は一気に彼女の中まで導かれた。愛液で濡れた襞が僕の物にぴっとりとまとわりつき、全体を締め上げ始める。
「いっ」
 彼女の小さな悲鳴に、僕の射精感が遠のいた。
 サリアが痛がっている。それなのに僕は、気持ち良さしか感じていなかった。
「サリ」
 彼女の両手が僕の顔を包み込み、僕の言葉を彼女の唇が塞いでしまう。
 舌が入ってくる。僕の舌を、歯を、優しく舐り、激しく擦り付ける。
 下の方では、彼女の膣が僕を奥へ奥へと蠢き、もみしだいてくる。もう我慢何て出来なかった。頭が真っ白に焼けついて、僕の下半身は激しく脈動を繰り返した。
 動きも取れないまま、僕は体を痙攣されながら彼女の中に全てを放出する。
 してしまった。初めて。ずっと憧れていた魔物の子と。
 その事実に心臓の鼓動は大きくなるものの、下半身の脈動は次第に落ち着いてくる。
 だが、脈動が落ち着いても、彼女は口も下も開放してくれない。
 敏感になっている肉棒がぬめぬめとした刺激に包まれて、喉の奥まで彼女に触られて、僕の身体は無様に何度も痙攣する。
 わけもわからぬまま、だけどまだ僕の下半身はさらに硬く、熱く。
 彼女の指が、僕の顔から背中へと回る。背筋をなぞり、そのしなやかな両腕が僕の身体をしっかりと抱きしめる。
 二人の身体がぴったりとくっついて、尻尾がそれをきつく巻き上げる。
 唇の隙間から微かに聞こえる、サリアの鼻にかかった息遣いに、喘ぎ声。舌の動く、湿った音。
 口の中は彼女の味と感触でいっぱいで。
 彼女の膣肉はもっともっとと締め付けてくる。
 全身がぞくりとする。下半身が熱くなり、睾丸から、自分の中心からすべてを放出するように、彼女の中に射精してしまう。出したばかりだというのに、さっきよりも多いくらいに。
 気が遠くなってくる。暖かいさざ波を体に受けているような心地よさと脱力感。
 彼女の顔が離れる。
 目元を潤ませ、頬を上気させて、激しい口づけの名残で唇が濡れている。
「君が悪いんだからね。わざと音を立てて水浴びしても見てくれないし。そばによっても触ってくれないし。
 助けてくれたから無理矢理襲うのは止めようって思ってたけど……。でもやっぱり他の女に取られるのだけは許せなくて」
 僕は朦朧としてしゃべれない。ただ、言葉を聞いているうちに僕の胸が熱くなってきたのは事実だった。
「こんなに幸せな気持ちになれるなら、もっと早くこうしていればよかった」
 僕の心は彼女の言葉に鷲掴みにされた。ああそうだ。こんなに彼女に愛されているのならば、もっと早く彼女を抱きしめていれば……。
 彼女は蕩けた顔で僕を見下ろしながら、腰を振り始める。
 動いていなかっただけで二回も連続で出してしまったのだ。これで動かれでもしたら一たまりもない。
「我慢してた分、搾り取ってあげる。
 君も我慢してたんでしょ? だってほら、まだこんなに硬いんだから」
 彼女の優しい抱擁を感じながら、僕の意識は飛んだ。


 頬を撫でる風に気が付いて目が覚めた。
 ぼんやりとした明りが周りを照らし出している。僕の身体に絡み付くサリアの尻尾。その尻尾や肌に付いた汚れ。
 多分、僕の体液だろう。
 顔が熱くなるのを感じる。めちゃくちゃにされて、思いっきり彼女に……。
 しかも意識まで失ってしまうなんて、勿体なかったなぁ。どうせならもっと彼女の身体を堪能したかったのに。
 サリアは疲れてしまったのか穏やかな表情で寝息を立てていた。先ほどまでの雌の顔とは対照的な、子どものような安らかな寝顔だ。
 僕はその頬にそっと触れる。ずっと触ってみたかった。
 あんなに激しく交わったけど、僕はほとんど彼女に触れていないんだ。
「ぅうん」
 起こしてしまうのも悪いので、僕は手を引いた。
 ふと光源が目に付いた。どこかで見たことがあると思ったら、かつてサリアに贈った魔光石のランプだった。
「大事にしてくれてたんだ」
 胸にじんわりとした暖かさが広がるとともに、僕は決心する。
 サリアと身を固めよう。親魔物領のどこかに小さな家を買って、そこで商売をして暮らしていく。
 そのためには元手も必要だ。商売道具や交易品はオアシスに置いてきてしまった。盗まれる前に手元に置いておきたい。
 周りを探れば、僕が来ていた服と外套があった。
「ごめんサリア。荷物を取ったらすぐに戻るから」
 手早く身にまとい、風の吹く方へ向かう。
 手探りながらも、しばらく歩くと満月の下に出ることが出来た。


 もうすっかり夜になっていた。朝は身をあぶるようだった風も、今は骨身にしみるほど冷たい。
 外套の前をしっかり合わせて周りを探る。中天に上った大きな満月のおかげで視界は効いていた。オアシスもすぐ近くだ。
 砂に足を取られながらも何とかオアシスまでたどり着く。泉にたどり着くころには全身がガタガタと震えるありさまだった。
 やはりラクダは逃げてしまっていた。彼女に襲われたときにちょうど手綱を離してしまっていたのだ。
 だが商売道具と交易品は無事だった。今回運んでいたのは陶器や装飾品の類だから、日が経っても悪くなる事は無い。
 荷物を背負って元来た道を戻る。だが、途中で方向が分からなくなってしまった。
 月の位置は相変わらず高いまま。そして月が明るすぎるせいで、星もあまり見えないのだ。
 焦って歩を進めようとするも、自分がどこに向かっているのかも分からなくなる。足はもつれ、身体は冷えていく。
 自分はこんなに体力が無かっただろうか。いや、思えばさっきサリアに搾られるだけ搾り取られたのだった。ふらつくのも……当たり……前か。
 気がつけば僕は砂の上に倒れている。寒い。サリア。
 憧れていた魔物の気持ちすら気づかなくて、想いを寄せられたと知ったら勝手に舞い上がって、夜の砂漠で迷子になって。僕は何て間抜けなんだろう。
 眠い。でも寝ては駄目だ。意識があるうちにあの洞窟に。
 暖かい手が僕の身体を持ち上げる。尻尾が僕の身体をしっかり抱きしめて、運んでいく。


 周りの感覚が良くわからない中、僕はまた暗いどこかに下りて行った。そしてそこで冷たい服を脱がされて、暖かい物に包まれた。
 暖かくて柔らかい。
 耳元で嗚咽のような声が聞こえる。ほっぺたが冷たい。濡れているのかもしれない。
「そんなに私が嫌だったの? あの女の方がいいの? 夜の砂漠に逃げ出すなんて。
 そんなに、そんなに私が」
「ちが、うよ」
「無理矢理しちゃったけど。だって、大好きで仕方なかったんだもん。本当は、好きって言って欲しかったのに」
「サリア」
 僕の声が届いていないのか?
「離したくないのに、嫌がられたら、私」
 ああそうか。サリアが僕を砂漠から助けて、冷えた体を温めてくれているんだ。
 目の前に、おぼろげに彼女の少し尖った可愛い耳が見えている。僕はそれに噛み付きながら、力いっぱい彼女の身体を抱きしめる。
 僕としてはそうしたつもりが、実際腕には力は入っていないようだった。
「サリア、君が、世界で、一番、好きだ」
 耳元で精いっぱい声を出す。届いただろうか。分からない。
 でも、彼女の嗚咽が止まった。僕は安心してしまって、意識を手放してしまった。


 目が覚めればやっぱり彼女の胸の中だった。
 乾いた砂の匂いにも似た、彼女の暖かい匂い。
 でも彼女は人間の上半身で僕を抱きしめているだけで、蛇の身体は伸びたままだ。
「良かった。目が覚めた。大したことなくて本当に良かった」
「ずっとこうしていてくれたの? 尻尾は」
 彼女はぷい、と目を反らした。
「だって、嫌じゃないの? 逃げ出したくせに」
 僕が勝手に居なくなってしまったことを根に持っているらしい。
「サリアに巻き付かれるなら大歓迎だよ。まぁでも、僕からも君の身体を触ってみたいと思っていたんだ。これなら触れるね」
 僕は彼女の脇腹を撫で上げるように指を動かしながら、やわらかな乳房を持ち上げてその先端の突起を口に入れる。
 舌先で弄り、軽く歯を立てる。
「あっ、だめぇ」
 サリアは可愛い喘ぎ声を上げた。
 もう片方の乳房も何もしていなくては可愛そうだ。掴んでやろうとするが、手のひらには収まらなかった。
 代わりに優しく揉みながら、時折乳首を捻りあげるようにしてやる。
「やっ。駄目だって、言ってるのにぃ。……旅人君って意外とえっちだったんだね」
 僕は愛撫を止めて、彼女を見上げた。目は濡れていて、口元は笑っている。
「あれだけの事しておいて、えっちも何も無いと思うけどなぁ」
「……嫌だった?」
「とんでもない。気絶したのが勿体無かったよ」
「じゃあ、どうして外に?」
 やっぱり彼女はちょっと怒っているみたいだった。誤解を解くためには理由をちゃんと話さなければいけないだろう。
「サリアとずっと一緒に居たいと思ったんだ。人も魔物も一緒に住める街で一緒に。そのためにはお金を稼がないと」
「そんな事のために夜の砂漠に出たの?」
 サリアは驚いて目を見開いた。なんだかちょっと落ち込んでしまう。僕は僕なりに真面目に考えたんだけど。
「そんな事って……」
 サリアは僕を抱きしめて頬ずりする。
「ごめん。すごく嬉しい。でも旅人君、商売下手でしょ」
「うっ」
 返す言葉も無い。高く売れるからと言われて変なものを仕入れてしまったり、儲けが出ないほど値切られてしまう事だって少なくなかった。と言うか、どうして分かるんだろう。
「私は君が居てくれるだけで幸せだよ。ここで暮らそうよ? 嫌?」
「まぁ、サリアがそう言うなら」
 僕は本当に押しに弱いなぁ。でも、サリアが笑ってくれるならまぁいいか。
「でも私が好きなんだったら、どうしてギルタブリルの居る道を?」
「言わなきゃ駄目?」
「私よりあの子の方が綺麗だから? 胸が大きいから?」
 途端に機嫌が悪くなる。内心で苦笑いしながら、僕は小さな声で言った。
「だってあの道を通らないと、君の居るオアシスを通れないじゃないか」
「旅人君大好き!」
 そう言ってまたぎゅっと僕を抱きしめるサリア。あぁもう、サリアとこうしていられるなら他の事はどうでもいいかなぁって気分になってしまう。
 僕はまた彼女の胸にしゃぶりつこうとして、でも体を離されてしまう。
「やだ、そんな可愛い顔で見ないで。私も気持ちは一緒だから。
 ただその前にちょっと手伝って欲しいことがあるの」


 彼女は蛇の身体の付け根に指を這わせる。そこがささくれ立って、今にも鱗が剥げてしまいそうになっていた。
 何かの病気なのか? 僕は急に心配になって彼女の顔を見上げる。
 だが彼女は頬を染めて唇の端を上げるだけだった。
「だからそんな顔しないで。あとちょっと、あとちょっとの我慢だから」
 それは彼女自身に言い聞かせているようでもあった。
「ラミアはね、たまに脱皮するんだ。私は恥ずかしいから絶対誰にも見せないって決めてたけど……。君は特別」
 そう言って、彼女はゆっくりと指を下ろしていく。それはまるで最後の下着を脱いでいくようにとっても色っぽかった。
「ふぅ…あっ、あん」
「サリア?」
 彼女は全身を恥じらいで染めながら、はにかんだように笑う。
「えへへ。脱皮したての身体は敏感すぎちゃって。……手伝って、くれる?」
 彼女の声は魅力的過ぎて、断れる気がしない。僕は抜けかけの鱗に手を伸ばした。皮を剥ぐなんてなんだかとても背徳的でぞくぞくした。いや、別に彼女にとっては古い皮を脱ぎ捨てるだけなんだけれども。
 ずるりとそれを下ろす。
「ふあぁあっ」
「ご、ごめん。痛かった?」
 サリアは目じりに涙を溜めながら、首を横に振る。
「きもちいい」
 その言葉にこっちの心臓までどきどきしてきた。息使いも荒くなってしまうし、下半身も勝手に反応して硬くなってきてしまう。
 生唾を飲み込みつつ、さらに指を下げていく。
 彼女の新しい体はさっきよりもずっと鮮やかで、透明感を持っていて、そして体液で濡れていた。
 甘酸っぱい柑橘のような匂いの中に、獣の脂のような、雌の匂いが混じっている。
 純粋な目で見ていられない。僕は彼女の蛇の身体に抱きついた。鱗の継ぎ目を指で撫で、舌で舐めて、歯を立てる。
 皮はまだ柔らかく、ぷにぷにとした不思議な感触だ。
「だ、だめだってばぁ……」
 それだけで彼女はびくりと体を震わせて、僕の肩を押して体を離そうとする。
 でもその手には全く力が入っていない。今なら彼女を好きにできるだろう。さっきの仕返しだって出来そうだ。
「わ、私だって我慢してるんだから。お願い。あとで好きにしていいから」
 泣きそうな声に、僕はぐっと自分の獣欲を抑えた。サリアが我慢しているのなら僕だって我慢しよう。
 彼女の皮に指を戻して、ゆっくりゆっくりと彼女を脱がせていく。
 喘ぐようなサリアの息遣いに僕自身もどうにかなりそうになりながら、尻尾の先まで全て脱がしてしまう。
 あたり一面にサリアの匂いが満ちて、僕の手には彼女の抜け殻が残った。
 僕はそれを顔に近づけた。サリアの濃い匂いがした。
 サリアは真っ赤な顔で瞬時にそれを奪った。
「や、やめてよ。旅人君のへ、へんたい」
「好きな人の匂いはかいでいたいじゃないか」
「そうかもしれないけど……。人間にとっては蛇の抜け殻かもしれないけど、私にとっては……」
「それ、僕にくれないか。記念に取っておきたいんだ」
 彼女は目を見開いて言葉を失い、激しく首を振った。
「だ、駄目だってば。こんなの取っておかなくていいから。この後いくらだって脱皮でも何でも見せてあげるから、ね、いいでしょ取っておかなくたって」
 そこまで言われると逆にどうしても欲しくなってきてしまう。
 僕は考えた。正直、交渉中もここまで真剣に考えたことが無いくらいに。……サリアの言っていた通り、本当は僕はえっちで変態だったのかもしれない。
「じゃあこうしよう。これからえっちな事して、最後まで意識が残っていた方が勝ち。僕が勝ったらそれを貰う。サリアが勝ったら、抜け殻は諦めるよ」
 サリアは歯を見せて笑った。
「さっきは砂漠で倒れてたくせに、えっちな事して元気になるなんて、旅人君って本当に……。いいわ、魔物娘にそんな勝負を挑んだことを後悔させてあげる」
 僕は彼女の、人間でいうところのお尻あたりを撫で上げる。
「あぁんっ! あ、え?」
「結構敏感だね。たまにはいじめちゃおうかな」
「ふ、ふんだ。脱皮の後は凄いえっちな気分になってるんだから、覚悟してよね」
 僕たちはお互い微笑み合うと、どちらからともなく唇を貪り合った。


 彼女の蛇の身体が二人の身体に巻き付いて密着させる。でも今度は両腕は開放してくれている。
「ん、ちゅ。……今度はあなたからもいっぱい触ってほしいから」
 彼女の頬に触れ、尖った耳を撫でて、髪を梳く様に指を通して。
 首筋を撫でて、背骨に沿って指を下ろしていって、下半身との継ぎ目をくすぐって、柔らかい鱗に軽く爪を立てる。
 僕の腰が濡れ始める。僕じゃなくて、彼女の愛液で。
「入れて」
 おでこ同士を当てて、彼女は言う。引き込まれるような金色の目。
 僕は彼女の入り口に先端を当てて、自分から少しずつ入れていく。彼女の中はもうとろとろになって、僕を迎え入れる準備が出来ていた。
 彼女の背中が震え、それをなだめるように僕は背中を撫で、抱きしめる。
 入っていく。入り口あたりはきつく、僕を押し返すようだったのに、途中からはきつさは変わらずに僕を積極的に飲み込もうとする動きに変わる。
「ぁあああぁ」
 彼女は目を閉じ、眉を八の字にして艶っぽい息を吐く。
 ゆっくりゆっくり、我慢しながらも感触を楽しむ様に入れていたのに、彼女は僕のお尻を掴むと自分から一気に奥まで入れてしまう。
 先端が、違う感触に触れる。彼女の中心に触れる。
 彼女の眉がぴくっと動いた。
「痛い?」
 彼女はゆっくりと半分瞼を開けて、何も言わずに僕の口の中を犯した。歯の付け根をしごきあげて、喉の奥をかき回すように舌を暴れさせる。
 そんなに激しい事をしながら、唇は僕の唇を愛撫するように優しく動いている。
 僕は自分から腰を動かす。混ざり合った愛液と絡み付く襞を掻き出すように肉棒を抜き、震えながら僕を待っている肉を掻き分けながら中へと押し入り、彼女の中心に触れる。
 尻尾は僕の身体に柔らかくぴったりとくっつきながらも、腰が動くくらいには隙間を開けてくれている。
 好きにさせてくれている。彼女が自分で言った通り。
 僕は胸が熱くなって、より激しく腰を打ち付ける。口と、あそこと、淫らな水音だけが洞窟内に響き渡る。
 でも口とあそこだけではもったいない。頬や首に触れて、おっぱいも揉んで、なめらかな背中に手のひらを滑らせて。足りない。もっとサリアのすみずみまで。
 サリアは急に唇を離して、僕にぐっとしがみついて背中に爪を立てる。
「脱皮したばかりで、感じやすくて、体全部が、おま……に、あそこになっちゃったみたい。全身に、君が入ってきて動き回ってるみたい。私、どうかしちゃいそう」
 そんなことを言われて僕の腰がぴくりと反応してしまう。僕なんかよりサリアの方がすごいえっちじゃないか。
 彼女はそれから僕の耳を長い舌で舐める。ゆっくりと、粘膜質のものが穴の中まで入り込んでくるようで、脳に直接快楽を流されているようで。
 僕は耐えられず腰を突き上げる。
 二人の中心が激しくこすれる。彼女の尻尾もあそこもそれに反応して強く締まり、僕は耐えられず彼女の中に精をぶちまける。
 二人して快楽に痙攣しながら、彼女は耳元でいう。
「まず一回目だね」
「ずるいなぁ。あんなこと言うなんて」
「あれは嘘じゃないよ。さぁ、長い長い夜を楽しみましょう」
 僕とサリアは微笑み合って、感じやすくなったお互いの身体をさらに求め合った。朝日が昇るまで、互いの身体を求め合った。


 いい風が吹いている。
 洞窟の外は太陽が砂漠の砂を炙っているが、オアシスの水源に近い洞窟の中は涼やかだった。
 だが、僕の身体は汗ばんでいる。
 胸の上では上の子が僕のへそあたりに巻き付きながら寝息を立てていて、右腕には下の子が巻き付いて、僕の首元に顔を寄せてこちらも眠っている。
 サリア一人でも僕の身体が蛇の尻尾で拘束されていたのに、ラミアが三人になって本格的に僕の生活は縛られることが多くなった。まぁ、それはそれで幸せなんだけど。
 だって二人とも天使のように安らかな表情なのだ。こっちの顔も思わず緩んでしまう。
「私の巻き付くところが無い」
 頬を膨らますのは最愛の妻であるサリアだ。
「……あぁあ。私だけを愛してくれる他の男を見つけようかな」
 冗談じゃないぞ。僕は焦って起き上がろうとすると、彼女はそっと僕の肩を押して留めた。いつものように言葉は唇で塞がれる。
「うぅん。ぱぱぁ。ままぁ」
「ほら、起きちゃうでしょ。今のは嘘。私にはあなただけだから安心して。でも、お母さんの気持ちも少しわかったかも」
「お母さん?」
「私のお母さんは私よりずっと独占欲の強い人で、この人に私以外の女はいらないのよって言って姉さんも私もすぐに家を追い出されちゃったの。
 そのあとしばらくは姉さんの家に居たんだけど、姉さんにも恋人が出来て。
 たまたま外出して帰ったら、部屋で姉さんが激しく抱き合ってるのを見ちゃって。……頭がぼうっとしながらも、もうここには居られないと思って」
 初めて聞く話だったけど、まさか。
「出て行ったら、のぼせて砂漠で倒れた?」
 サリアは苦笑いで頷いた。
「気がついたら綺麗な顔した男の子が私のおっぱいを触っていて」
「いや、あれは」
「ふふ、分かってるわよ」
 彼女は懐かしむような笑顔を浮かべる。
 僕はふと視線をそらし、魔光石のランプの方を見る。その隣に、いくつかの透明な鱗の束がある。
 初めて彼女の脱皮を見た日の勝負は、結局引き分けだった。僕達はいつの間にか繋がったまま疲れて寝てしまっていたのだ。
 結局全部はもらえなかったけど、僕の健闘をたたえて少しは残してくれたのだ。それにしても、あの夜は激しかった。上の子はあの夜の子だろう。
「ともかく、あなたを娘に取られてしまいそうで、たまに怖くなるし、すごく妬けるのよ。お母さんもきっとこんな気持ちだったんだわ。
 でも、この子たちにもいつか恋人が出来るのね」
「そうだろうなぁ……」
「何その残念そうな顔。あなたが旦那になるつもりなの?」
「そういうわけでは」
 サリアはちょっと意地悪な顔をすると、僕にいつものキスをする。最近は僕が慣れたからと、喉の奥の奥まで舌を入れるようになっていた。
 えも言われぬ感覚に、下半身は勝手に勃ち上がってしまう。
「駄目よ。今は腕と胸を少し娘に貸してあげているけれど、あなたの精は、あなたの放つものは、あなたは全部私のものなんだから」
 そして彼女は器用に硬くなった僕を自分の中に入れてしまう。熱くて、蕩けきったそこへ。布で隠れたその下で、僕のものがしっかり咥え込まれている。
「さぁ、あなた。娘たちを起こさないように、精々声を殺してね?」
 これが最近の彼女のお気に入りだった。
「愛してるよ、サリア」
 僕は空いている方の手で彼女の髪を撫でる。
「ふふ、分かっているわ。私もよ」
 彼女は僕の手に自分の手を重ね、幸せそうに微笑んだ。
12/06/26 22:37更新 / 玉虫色

■作者メッセージ
書きたいことを詰め込んでみたら、我ながら長くなってしまいました。
それでもここまで読んで下さった方に、感謝します。

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