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2人の最強の剣士の物語


とある山奥に一軒の家があった。
ちっぽけな家一つが。
その家の住人というと……

「……う、ここは……?」

先程まで寝ていたベッドから身を起こしたその黒髪の短髪の男の年は20代後半といった所か?
筋骨隆々な身体には無数の傷が付いており、包帯が身体中にされている。
一目見るだけで一般人ではない事がわかるだろう。

「……ようやく起きたのね?世界最強の剣士さん?」

声に反応してその方向に体を向けると、そこには1人の女性がいるではないか。
赤毛のショートカットで整った顔立ち、だが口元に大きな切り傷、それ以外にも切り傷が至る所に見られる。
そして背中には蜥蜴の様な尻尾。
その目には、戦士としての誇りと彼への慈愛が宿っている。
魔物娘の中でも特に戦士として有名なリザードマンだ。

「……ああ、俺はどれだけ眠っていたんだ?リル?」
「5日程かしらね……、ソウガがあんな事になってから……」

リルと呼ばれた彼女はどこか寂しげにそう答えた。

「そんなにか……。ちゃんとアイツは死んだんだよな?」
「ええ、貴方にした攻撃が正真正銘の最期の攻撃だったわ」

2人は……、いや彼らを含めたいくつもの戦士達は5日前にある者と戦っていた。

その名はスルト……。
現代のサキュバスの魔王の魔力でさえ、その性質を変える事は叶わず、願うは現世界の焼却。
世界の終末装置の一つである。

7年程前の事だ。
既に魔物娘を同じ生きる仲間と認める人間とそれを受け入れない最高神や過激派教団との戦いは終わり、一人一人自分が自分らしく生きたい場所で自由に生きていた。
魔王も其々の街の運営や人々の主義主張を尊重しあい、基本は非干渉を貫いていた。
自分が望む幸せを手に入れられる道を選べ。
それが今の世界のルールだった
だが、そんな平和な時が終わりを迎えようとしていた。

最初は雪女やメロウなどの氷や水の力を多く持つ魔物娘が熱さに悩ませれていたくらいだった。
だが次第にその力は、あらゆる所に影響を及ぼしていく。
あらゆる国の者達は、その原因を探っていたが分かった時にはいくつかの都市が焼却されていた。
この緊急事態にあらゆる国家、集団は主義主張を越えて集まり、スルトを滅ぼす為、最強の戦士団を結成した。
その名を黄昏の騎士団と言う

「長かったな…。お前と始めて出会ってからもう7年か……」
「ええ……、騎士団の結団式で出会ってからね…」

騎士団の団員は、身分や職業、所属を問わず魔法使い、剣士、騎士、鍛治師など直接戦う者以外も集められた。
スルトを滅ぼす為には、人魔両方の力を集める必要があった。
元々中立国家で有名だったとある国家でその結団式は行われた。

『スルトだっけ?そんな奴、俺が倒してやるよ!!何せ俺は世界最強の剣士だからな!!』
『何を言ってるの?私が世界最強の剣士よ!』
『何!?喧嘩売ってんのか!?』
『ええ!私の目の前でそんなふざけた事を抜かした事を後悔させてあげるわ!!』

集められた猛者達の中でも、群を抜いて強かった2人がいた。
ソウガとリルだ。
2人は同じ世界最強の剣士を目指す者同士、お互いをライバル視しぶつかり合っていた。

「ああ、あの時はこっ酷く団長に怒られて、しばらく雑用だぜ?大変だったよ」
「そうね。お陰で両親からもこっ酷く叱られたわよ」

だが決して仲が悪くはなかった。
最初の頃はお互いに意地を張り続けていたが命を懸けた戦いを生き抜いて行く中で、最大の戦友として認め合っていく。

『もう息切れかしら?なら残りの奴らは私が倒すわよ?不可視の刃さん?』
『はっ!ぬかせぇ!まだまだこれからだぜ!!お前の方こそどうなんだよ!龍姫将さん!!』

舞い踊る様に双剣を操り、敵を屠る、龍姫将ことリル。
その刃を見た者はおらず、だがその刃はどんな守りでさえ切り裂く、不可視の刃ことソウガ。
2人の剣士の名を知らぬ者はこの世界には、もはやいないだろう。



そしてスルトとの最終決戦の時が来た。
スルトは、世界各地から分身体を使って集めた魔力を貯めて、それらを全てを焼き尽くす終末の炎へと変換させていた。
巨人であり、炎であるスルト。
戦士団は力を合わせて、鋼や魔法がかかった剣など応戦するも、その炎の前に1人、また1人と倒れてゆく。

『我はスルト……。世界を焼却しよう……。我こそが終焉なり…!』

だが誰も諦めてはいなかった!

『終わるのは貴方だけで充分よ!みんな!!作戦通りに!』
『了解!』
『……!?我が炎が弱まるだと…!?』

スルトの炎の勢いが落ちていく。
世界各地から集められた魔法使い達によりスルトが奪われていた魔力を、逆変換して奪い返していたのだ。

『……邪魔をするなぁ…!』
『邪魔は幾らでもさせてもらうぜ?砲撃ようい!!撃てぇ!!』

更に、人間の科学技術と魔物娘達の魔法が組み合わせた魔法砲台がスルトへ砲撃をする。

『私の最強奥義を受けなさい!龍撃豪龍演舞!!』
『グ!ガァァァァ!だが我が魂は炎とともにぃぃぃ!』

彼女のふた振りの剣に魔力が宿る。
戦士団のみんなが作ってくれた剣に。
その剣による必殺の連続技が、スルトの巨人としての体を破壊していく。
だが炎でもあるスルトの本体は未だ健在!
息を切らしたリルをその炎の剣で焼き尽くそうとするが……

『残念!俺の剣は、全てを切る!炎も、水も、そしてお前の魂もな!!秘剣・神速一刀!』
『……!!おのれおのれおのれ!!終焉が終わるだとぉォォォ!?』

ソウガは見ていた。
スルトの魂の在り処を。
そして彼の剣が姿を現わす。
刃がない剣、人の精神力を剣に変える剣。
故に、心が思えば何でさえ切れる。
それが神の如く力を持つ者でも。

一閃
それと共にスルトの身体は崩れ去っていく。
終焉が終焉の時を迎えていく。

『じゃあな!!もうお前はこの世界にお呼びじゃないんだよ!!』

大歓声が巻き起こる。
ようやく世界は救われたのだ。
これで正真正銘、世界最強の剣士になった。
そういや実家の弟や妹達は今頃どうしてるのだろうか?
里帰りでもしようか?
そんな事を彼がふと思っていたその時だった。

『せめて……!貴様達だけでも!!』
『!?避けろリル!!っ!くそ!!』

スルトの残骸から、炎の矢が二つ放たれる。
2人に向かって!
彼はリルに叫ぶ!
だが気づいてからではもう間に合わない!

……ならそうするしかないだろう

『っ!?ソウガ!?ソウガァァァ!?』
『痛ってぇぇ!馬鹿野郎が……、余所見してんじゃ…ねえ、よ……』

身体中に走る激痛と何かが身体中に回る様な感覚。
気を失う、その直前に彼が見たのは必死にソウガの名を呼ぶリルの声だった。




「思い出したら、まだ体が痛いぜ。
そういや他のみんなはどうしたんだ?」
「都に戻って、今頃祭りよ。
ようやく世界が平和になったんだもの」
「俺を置いていくなんて酷いやつらだなぁ!ハハハハハハハハハハ! !
でもこの7年楽しかったなあ!いろんな所に行って、みんなからチヤホヤされて!
そして世界を滅ぼす悪魔をこの手で倒せたんだぜ?最っ高の気分だ!!」
「…………」

ソウガは上機嫌で笑う。
だがリルの顔は暗いままだ。

「……なあ、リル?」
「……何?」

先程とはうってかわって、落ち着いた優しい声でソウガはリルを呼びかける。

「……俺の残りの命はどのくらいだ?」
「……!気づいていたのね……」
「……俺は戦士だ。自分の体がどこまで持つかなんて分かってるさ」

ソウガの命は残り少なかった。
原因はスルトの最後の一撃だ。
あの一撃にはスルトの怨念がこもっていた。
その怨念は呪いとなり、彼の体を蝕む事になった。

「団員のみんながすぐに解呪したり応急処置したお陰で、即死はしなかったわ。
でもそれが限界、貴方の体はもって約2年ほどよ」
「……そうか、すまねえな」
「私のせいで……!」

リルの顔に涙が浮かぶ。
今までどれだけ傷ついても流さなかった涙を。

「……泣くんじゃねえよ。幾ら俺がアイツを倒してもお前が死んだら後味悪いぜ。
そんなんじゃ世界最強の剣士を名乗れねぇよ……!」
「……でも!」

ソウガは彼女の頬に手を伸ばす。
柔らかな頬に。

「俺1人じゃ強くなれなかった。お前がいてくれたから、俺は強くなれた。
そして夢を叶えられたんだ」
「……夢?」





ソウガの住んでいた村はちっぽけな村だった。
人間と魔物娘が共存して平和に暮らしていた。
だが、ソウガはそんな村が好きだったがどこか満足していなかった。

『俺は世界最強の剣士になる!!この物語の様な剣士にな!!』

そんな彼が好きだった物語があった。
世界を滅ぼそうとする怪物を、仲間と協力し倒す剣士の物語。
ありきたりな物語だ。
だが、彼はその剣士に心を奪われた。
彼みたいな剣士になろうと心から誓ったのだ。
勿論、家族からは反対した。
最早、争いも殆どない。
別に騎士の家でもないのにそんな馬鹿げた夢を見るんじゃない。
それが家族の意見だ。
だが彼はそれでも諦めなかった。
何度も話し合って、次第に家族の方が折れた。

『ありがとな!かーちゃん!親父!あとガキンチョ!!』

父や母、弟や妹に見送られ彼は武者修行の旅に出る。
自らの剣術を編み出すために、ありとあらゆる技術を学んだ。
そうして完成させたのが、精神力を刃へと変えて、全てを切る不可視の剣だった。





「…ああ、最高の人生だ。後悔なんてないさ。剣の道に生きたことも、お前を守れた事も」
「ソウガ……!」

ソウガは満足していた。子供の頃からの夢を叶えられたのだ。
それに満足しない奴はいないだろう。

「……ああ、欲を言えば……、俺の剣を誰かに託したかったなぁ……。
俺が死んだら、俺の剣術は失われてしまう、それが悲しいなぁ…!」
「……貴方の剣は死なないわ」
「?」

リルは突如立ち上がり、その服を脱いでゆく。
所々に傷が付いている。
だが大きすぎではないが、ふくよかな胸。
愛する者の子種を受け止めようとする尻。
引き締まりつつも女を忘れていない緩やかなカーブを描く体。
戦士としての体と愛する者との子を育む女としての体が見事に融合してそこに立っていた。
ソウガは感動した。
今までで一番美しい光景を脳裏に焼き付けるように彼女の姿を眺めていた。

「私が貴方の子を産んであげる。
そして貴方の剣をその子に受け継がせるわ……。
世界最強の剣士の子よ、きっと誰よりも強い子に育つわ。
そして貴方の剣も生き続ける……!」
「……良いのか?俺の命は残り僅かだ。
俺以外の人と結婚して幸せに暮らした方が……」
「嫌よ!!」

彼女が大粒の涙を流しながら叫ぶ

「私が愛しているのは貴方よ!意地っ張りで、デリカシーもなくて、喧嘩っ早くて……、貴方がいなくなって1人だけで星を見るのは嫌なの!!
本当は私に生きる希望を与えてほしいの……。
貴方との子を、最強の剣士にするという夢を与えてほしいの……。
お願い……!
貴方の面影がない世界で生きるのは辛いのよ……!」

彼女がここまで自分の心を露わにした事があっただろうか?
彼が今まで聞いた事のない声で彼女は訴える。

「……ちょっと待ってくれ」
「……?」

彼は自分が持っていたポーチの中を探り、1つの箱を取り出す。

「……それは?」
「本当は戦いが終わってから、渡すつもりだったさ。
残り僅かの命じゃなかったら……、でもお前が勇気を出して頑張ったんだ。
なら俺が勇気を出さないといけないだろう?」

箱の中をソウガは開ける。
そこにはとても綺麗なエメラルド色に輝く宝石がついた指輪があった。

「……ソウガ!」
「……リル、結婚してくれ。そして俺の子を産んでくれ。
たった2年だけだとしても……」
「……ええ!喜んで!!」
「……ああ、やっぱり泣き顔よりも笑顔の方がお前は綺麗だよ」

今までで見た事もないほど美しい笑顔だった。
嬉しいのに涙が止まらない。
リルにとって今までで一番幸せな瞬間だった。

「……ソウガ!ん!?ん〜!?あ、ああ♡」
「……まだ物足りないな。ン!」

リルの唇が塞がる。
ソウガの唇で。
一度じゃ物足りない。
何度も何度も口づけをする。
優しく、長く、深く。

「……もう我慢なんてできない。……良いか?」
「……ええ、もう私も我慢の限界。お願い、貴方の全てを私に刻み込んで!
絶対に貴方を忘れないように…全部」

ソウガはリルの体を抱きしめながら、ベッドへとその身を預ける。
ソウガも衣服を取っ払い、一糸纏わぬ裸へとなる。

「……私の体、傷だらけよ?それでも良いの?」
「その傷は、お前の戦士としての誇りだろう?恥じる事なんてないだろう。
お前は綺麗だよ……、リル」
「……ありがとう、ソウガ」

お互いの体が近づく。
お互いの熱が、体に触れているところから感じている。

「……行くぞ」
「……うん、来て♡あっ、ああ♡!」

2人の体が重なる。
初めての快感が2人の体を走る。

「……大丈夫か?」
「ううん、嬉しくて……気持ちよくて……♡。おねがい♡もっと貴方を感じさせて♡」
「……!ああ!満足するまで感じさせてやるさ!!」
「ああ♡ソウガぁ♡」

そこには最早剣士はいない。
ただ愛し合っている男と女がいるだけだ。

「ソウガ、ソウガ、ソウガ、ソウガぁ、ソウガぁぁ!!」
「リル、リル、リル、リルゥ、リルゥゥ!!」

お互いが離れないように、手足を、そして尻尾を相手の体に絡ませる。
お互いが愛おしかった。
あらゆる感情が頭の中に渦巻き、訳がわからないのに涙が出る。

そして……

「リル!出すぞ!お前の中に、俺の全てを!!」
「出して♡ソウガの全てを私の中に出して♡私にソウガを刻み込んで♡♡貴方の子を孕ませてぇぇぇ♡♡♡」

彼女の子宮が彼の分身を、優しく受け止める。
愛する人の子種を一滴も残さず受け取るために

「「あ♡ああああああああああああああああああああああああ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」」

聞こえる訳がないのに、2人には彼女の子宮に子種が注がれていく音が聞こえた気がした。
言葉に最早ならない。
いや言葉では最早この想いを表現することは不可能だろう。
2人は幸福の絶頂を静かに感じていた。

「……幸せ者だよ、俺は」
「私もよ。ソウガのが私の中に流れていくのが感じるわ……。
ねえ?もっと貴方を感じていたいの♡」
「ああ!当たり前だ!!お前の全てに俺を覚えさせてやるぜ!!」
「あん♡ええ♡私の全てを貴方で埋め尽くして♡♡♡」

2人は再び交わり合う。
今までの想いを……、これからの想いを相手に刻み込むように。
激しく、そして優しく愛し合っていく。
小屋から2人の愛し合う音が聞こえなくなったのは、暗闇も晴れる頃だった……





「……もう、昼くらいか?イテテ……!病み上がりなのに朝まではやり過ぎだな……」

そう言いながらソウガは隣で大人しそうに寝るリルを起こさないようにベッドから立ち上がろうとするが……

「うおっ!?リル、起きてたのか!?」

彼女の尻尾が体に巻きついて離してくれない。

「……もうちょっと、もうちょっとだけ貴方の熱を感じていたいの……」
「……ああ、俺もだよ……」

彼女の柔らかな体を抱きしめる。
お互いの熱を、感触を忘れないようにしっかりと……





それから一週間後、2人は結婚式を挙げた。
ソウガの生まれ故郷の小さな村の教会でだ。
お互いの家族、そして戦士団の人達も祝福してくれた。
事前に自分の余命の事を伝えていたが、彼等は心から2人の幸せを祈ってくれた。

「おめでとう、兄貴」
「ソウガ、おめでとう」
「ありがとな、団長にソウヤ!団長も傷とか大丈夫か?」

弟と団長からの祝いの言葉を受け取りながら、サテュロス特製のお酒を飲むソウガ

「久しぶりダネ、リルよ、料理の腕は上がったカナ?
あらゆる武器を使いこなすリザードマンならば、調理器具を使いこなすのも当たり前ダヨ」
「娘の結婚式なんだから落ち着いてください!姉さん!」
「まあ、母さんも落ち着いて……。ちゃんと料理の修行も頑張ってますから……」

世界屈指の料理人と呼ばれ有名な叔母と母親に囲まれているリル。

決して派手ではないが、幸せな結婚式だった。



尚、その後2人の結婚式に触発されて団員同士の結婚ブームが巻き起こったのはまた別の話……




2人はソウガの故郷で一軒家に2人きりで過ごした。
昼間は基本、剣の稽古を行う。

「……リル、俺の剣を覚えろよ!!」
「ええ!誰よりも貴方の剣を見てきたのよ。すぐに覚えられるわよ!!」

子に託す為に己の剣を彼女へ叩き込むソウガ。
リルは、嬉しそうな顔でその剣撃を己の剣で受け止める。

「……うん、あと少し煮込んだら……」
「ふう、ただいま〜!良い匂いだなぁ…、今日はなんだ?」
「おかえり、ソウガ。今日はカレーよ。
貴方の大好きな鶏肉とうずら卵が沢山入ってるカレーよ!」
「ああ!今日もお前の料理は最高だな!!」

そしてソウガが弟や姉、村の人々のお手伝いを終えた後、リルが最高の料理を作って待ってくれる。

「ソウガ……♡今晩も……、ね♡」
「……ああ!勿論だ!!」

勿論夜には体を重ねて激しく、時に静かに愛を紡いでいく……
満ち足りた日々が続いていた……。





そんな日々が4ヶ月程続いたある日の事。

「ソウガ、話があるの……!」
「……どうした、リル?」

いつになく真剣な顔で、声でリルはソウガに語りかける。

「……妊娠したの。貴方との子を!」
「!?本当か!?リル!?」
「ええ、3ヶ月ですってお医者さんが……!」
「やった、やった!やった!!俺たちの子ができたんだな!!
誰よりも強い俺たちの子が!!」

ソウガは喜んだ。
空に飛び出すほどに、天に上がりそうなほどに喜んだ。
大声でその喜びを叫んだ。

「まだ驚くわよ?実は……」
「な、何だってえ!ああ!ありがとうリル!!お前のお陰で俺は、今最高に幸せだ!!!」

ソウガは更に喜ぶ。
結婚式の時以上に、初めて結ばれた時以上に嬉しそうな笑顔で。



何とリルは双子を妊娠していた。
しかも男女の双子を……。
スルトが倒れた事によりの結婚ラッシュやベビーブームが起きた事で、神のルールからようやく魔物娘達は解放されたのだ。
魔物娘と人間がようやく真の意味で対等に生きる世界がやってきたのだ。



それから彼は、いつもよりリルの体に気をつけるようになった。

「おい!!大分お腹も大きくなったんだ!料理は俺がやる!!」
「ソウガが作ったら、何もかも大雑把になってしまうわよ……。
なら代わりにそこの野菜を切ってくれない?」
「ああ、俺が切るから無理するなよ?」
「本当、リルもすっかり丸くなって……」
「貴方に言われたくはないわよ……」
「「ふふ!アハハハハハハハ!!」」

過度なほどにまで、リルの体に気をつけていた。
村の人々が笑ってしまうほどに……。





更にそれから、9ヶ月程がたったある日……。

「……!ソウガ!もうすぐ生まれるわ!!」
「何だって!?本当か!?」

ソウガはリルが優しく抱き抱える2つの大きな卵に顔を近づける。
よく見たら、少しずつ卵の殻にヒビが入っている。

「あ、ほらもうすぐ殻が全部割れるわ!」
「……ああ、頑張れ!2人とも!!」

2人は、今か今かと割れるのを待っている。
そして……

「「オギャアアアアア!!オギャアアアア!!」」
「ああ……!!よしよし、お母さんよ♪」
「……ああ、お前ら良く頑張ったな!」

卵の殻を破り元気な2人の赤ん坊が産声をあげた。

「よーしよしよし、綺麗に拭いてあげるからな」
「ちゃんと優しくよ?」
「分かってるさ」

ソウガは赤子の体にまだ付いていた殻を取っていきタオルで濡れている体を優しく拭き取る。

「……これが私達の子……!。ねえ?名前は決めてくれた?」
「ああ、こっちの黒髪の尻尾ある女の子がリザ、赤髪の男の子がリュウガだ」
「リザとリュウガ……良い名前ね」

リザとリュウガ、それが2人の子の名前だった。





子供が生まれると聞き、ソウガの両親以外にもリルの両親、そして戦士団の人もお祝いにやってきた。

「おめでとさん!育児用品なら俺の商店から宜しくな!!」
「ああ!お前の商店の商品は優良って有名だしな!」

かつて戦士団の後方援護を担当し、今では実家の商店を結婚したドワーフの女性と継いでいた悪友と再開するソウガ。

「リルさん、赤ん坊を育てるのが大変な時は私達が手伝うからね。
決して1人で無茶はしては駄目よ?」
「そうよ!リル、貴方は頑固だけど育児だけは1人でやり遂げようとしたらいけないわよ!」
「分かってるわよ、母さん達に困った時はちゃんと相談するから……!」

ソウガの母とリルの母に無理しないようにと心配されるリル

その後も両方の親や友達、しまいには村の人々まで家にやってきて、落ち着くのに1週間程かかってしまった……。





「よしよし、泣かないの。
はい、ミルクよ。こっちの方もね♪」
「沢山飲めよ〜!リルのミルクはめちゃくちゃ美味しいからな、ぐんぐん育つぞ〜!」

リザとリュウガは、リルの形の良い胸に一生懸命吸い付き、ミルクを飲んでいる。

「もう!そんな事大声で言って!……夜になってもあげないわよ?」
「おい!?ちょっと待ってくれよ!?勘弁してくれよ〜!?」

顔を真っ赤にしながらも、2人の赤子へと自らの母乳を飲ますリル。
そんなリルの姿がソウガにとって一番幸せな光景だった。





幸せな夢のような時間が流れていた。
しかし刻一刻とソウガの命は減っていた。

「……もうそろそろ限界だな……。時々意識が途切れる時がある」
「……ソウガ……!」

ベッドにソウガはその体を横にしていた。
彼の命は、後僅かとなっていた。
だが、その時家のドアを勢いよく音を立てて開いてソウガの弟が血相を変えて家に入ってきた。

「大変だ!!川の水が氾濫して村まで押し寄せてくる!
ここも危ないぞ、兄貴!!」
「何ですって!?ソウガがこんな状態なのに……」

ちょうどその時、大雨が続いていた。
それにより川の水が氾濫し村を飲み込もうとしていたのだ。

「……リル、俺の剣を持ってきてくれ」
「ソウガ!?何を言ってるの!?もう貴方の体は!!」
「だからこそだ。せめて子供達に最強の剣士の一撃を見せてあげたいんだ。
最後にこの街を救いたいんだ……!」

今のソウガの顔はリルが久しぶりに見た世界最強の剣士としての顔だった。

「……分かったわ……!でも命と引き換えにというのはイヤよ!!」
「……分かってるさ。俺は死ぬ為に行くんじゃない。
村を守る為に世界最強の剣士として行くんだ!!」

ソウガの弟に案内されて、彼等は川の中心近くへと歩いてきた。

「ここの水を割ってあの大石を壊せば洪水は防げる……。
だがそんな事が出来るのか!?」
「ハッ!俺を誰だと思ってんだ!ありとあらゆる物を切る不可視の刃!!それが俺だ!!」

彼は剣に手を置き、目を閉じて精神統一を行う。
リルはようやく目が開いた頃の双子を抱き抱えながらそんなソウガの姿から決して目を離さない。

「……2人とも見なさい……!あれが世界最強の剣士の奥義よ……!!」

そして……

「見えた……!秘剣・神速一刀……!」

一閃。
刃は見えない。
切るは石や水ではない。
そこに宿る魂を切る。
それこそが彼の秘剣なり。

「ああ!やった!やったぞ!!兄貴!!」
「……ああ!どうだ?この俺の生涯最後の剣は?」
「……ああ!スゲェよ!兄貴は俺の自慢の兄貴だよ!!」
「……ありがとな」

弟は、目の前で真っ二つに割れた石を、水を見て興奮しながら兄貴を賞賛する。
ソウガもどこか満足そうな顔で、その言葉を聞いていた……。
リルも、そんな夫の姿を優しく見守っていた……。




それから1週間後、遂にその時が来た。

「……本当にもう終わりらしいな……」
「ソウガ……!」

2人はベッドに横になっている。
その間に愛おしい子供達を挟んで……。

「……ああ、可愛いなぁ」
「……ええ」
「この子達の事……、頼んだぞ」
「……ええ!絶対に強く優しく育ててあげる!
誰よりも強くて誰よりも優しい子に……」

愛おしそうに天使のような寝顔の2人の子を撫でる。

「……なあ?」
「……どうしたの?」
「……抱きしめてくれ……。優しくずーっと……」
「貴方が私に甘えるなんて……明日は嵐かもね?」
「……ヒデェな」
「ウフフ……。良いわよ。ほーら、ギューっとね……!」

リルは尻尾も使って苦しくないように優しく抱きしめる。

「……ああ、あったかいなぁ。なあ、約束しないか?」
「約束?」

穏やかそうな顔でリルに抱かれるソウガは言う。

「……剣士としてどっちが強いか、決めてなかったろ?
だから……な、次会う時に決着をつけようか……!」
「……フフ!私はもっと強くなるわよ?」
「そうか……!なら俺も更に強くなるよ……」

2人は約束する。
次に会う時にどちらが強いかを決めようと……。

「……もう一つ、甘えて良いか?」
「……ええ。勿論よ」
「……キスしてくれないか?」
「…………チュ!」

彼女の柔らかな唇が、彼の唇に優しく触れる。
とても優しく、熱い想いが唇を通して伝わってくる。

「……ああ、お前の……お陰で……夢が……沢山……叶ったよ……、あり……が…とう……」
「……私の方こそありがとう……。
沢山夢を叶えてくれて……!
貴方はみんなよりもいつも早かったんだもの、だから今はゆっくりと休んでね……」

2人の子供のように穏やかそうな顔を浮かべて、ソウガは眠っていた。
その目が醒めることはなかった……。





それから数年の時が流れた。
ソウガの葬儀は静かに行われ、リルは2人の母親からの勧めでベビーシッターを雇い、2人を逞しく育てた。
時々、問題も起きた。
だが決して1人で抱え込まず、助け合ってもらいながらしっかり育てていた。

だが、ベビーシッターに任せられない仕事が1つだけある。
それは……

「えい!はあ!やあ!おりゃあ!ってうわぁ!?」
「ぷぷぅ!引っかかった引っかかった!」

そこには10歳程に育った、リザとリュウガが剣の立ち稽古を行なっていた。
リュウガはリザの尻尾に足を払われひっくりかえていた。

「ズルいぞ!リザ!」
「ちゃんと気をつけないリュウガが悪いのよ。
でも……、えい!」
「きゃうん!?いきなり何すんのよ〜ママァ?」

リュウガに注意力の無さを叱っている途中、急にリザ目掛けてボールを投げるリル。

「言ったでしょ?ここは戦場、ここに来たら常に気を張ってなさい」
「「は〜い!」」

リルの稽古は厳しかった。
だが2人の子供達は一生懸命着いてきてくれた。
リルも2人に無茶な事はさせず、母として剣の師匠として強く優しく育てていた。

「さて!今からボール100個投げるから、最低80個は当てられる様になりなさい!
出来たら今日は貴方達が大好きなカレーを作ってあげるわよ!!」
「!?よっしゃ頑張るぜ!なあ、リザ!」
「リュウガの方こそがんばったら!?」
「喧嘩しない!あ、後ボールは……」

ゴウッ!!
そんな音をたててボールが後ろの壁にぶつかって2人の足元に転がっているではないか

「このくらいのスピードで行くから気をつけてね」
「「えええええええ!?」」

そんな日々が何年も続いた……。





それから何十年の時が経ち、
彼女は他の子供達にも剣を教えて、大勢の子供達は独り立ちしてそれぞれ愛する人と結ばれて子供を作り子に剣を教えていった。
それでも彼女は己の剣を磨き、そして自分の子供以外の人々にも教えるのを辞めなかった。
ある時、彼女の孫がある質問を彼女にした。

「どうして剣を覚えるの?もう戦いもないのに……」

彼女は優しく微笑みながら答えた。

「大きな戦いはなくても、自分の力を暴力として振るう人は出てくるかもしれない……、大きな世界を巻き込む様な天災が起きるかもしれない……。
そんな時に、力を使える人がいるのよ。
ただ傷つける為じゃない……何かを守るための優しい剣を覚えてほしいの……!」
「……うん!分かったよ!!私も何かを守れる様になるよ!!」
「……ありがとう!」




尚、そんな彼女の剣の腕はというと……

「「「「昔の先生(お母さん)と同じぐらい強くなった俺(私)達が数人がかりでも勝てないのって何!?」」」」
「まだまだ私は強くなるわよ!!約束があるしね!!」

老いてなお強くなり続けていた……。





そしてそれから曾孫ができてしばらく経った頃、彼女は家族に見守られてこの世を旅立った。

彼女は最後に笑顔である事を呟いたという。

「……ふふ!私強くなったわよ。
だから、ちゃーんと約束通りに……。ねえ……ソウガ?」





かつて世界を救った黄昏の戦士団、最強の2人はこの世から去った。
だが彼等の剣は、想いは人から人へと受け継がれていく……。












19/03/20 21:45更新 / ディケタス

■作者メッセージ


ご愛読ありがとうございました!

今までの作品が現代中心だったので、今回は図鑑世界、そのちょっとした一つの未来の話です。
魔物娘と人間が真の意味でお互いを尊重しあい共存共栄している世界。
神々の縛りから解かれようとしている世界です。
そんな一つの答えを破壊しようする、怪物に立ち向かう人々。
その戦いで勝ったは良いが、死の運命を背負うことになった男とそんな男を愛する女の話でした。

魔物娘でも剣を鍛えている人はいるわけで、ならそれは何の為なのか?
平和な世界で剣の道を生きる2人の物語でもありました。

やっぱり平和な世界でも剣の意味はあるのではないか?
そう思い、書いていました。

魔物娘のある意味一つのハッピーエンド。
この物語を読んで皆様の心に残ったら幸いです。

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最後までお付き合いくださりありがとうございました!!

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