読切小説
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鎧の彼女は『隣』にいたい
「なあ、セテス」
『なにさ』
「後悔してない? いや、勇者でもない俺で」
『だから言ってんだろ? アタシは騎士道とかそっちより、旦那のやりてぇ事を一緒にしたいのさ』
「そうか……でも、すまないな、その」
『あん?』
「さっきから教団の方々に石投げられまくってて」


ガン、ガン、と響くのは金属音。
それは町を歩く俺と、鎧に取り憑く霊みたいな魔物、セテスの鎧に投げられる石がぶつかる音だ。
反魔物領、当然のごとく一人で、鎧と喋る俺へと石を投げるのは当然だろう。

数ヵ月前、教団の下っ端騎士だった俺は中立派の町で旅の防具屋を尋ねた際、今着ている立派なアダ〇ン製の鎧を見つけ、年齢も関わらずおおはしゃぎ。

試着してすぐ脱ぐつもりだったのだが、怪しい女の店員はいつの間にか消えていて、鎧は脱げないわ、その場で何故か気持ちよくなり射精して、賢者タイムに突撃していたのを憲兵に見つかって鎧のまましょっぴかれたり、牢の中でも幻聴(セテスの喘ぎと後に判明)が聞こえて、時おりムラムしたりと散々だった。

そして俺の着ている鎧は魔物だと判明した時にはもう遅かった、セテスと名乗る幽霊みたいなのは見えるようになるし、鎧は異様にフィットして脱ぎたくないしで、中立派の憲兵は困惑しながらも釈放してくれたが、魔物の鎧を着たまま騎士団に戻る訳にも行かず、セテスと話ながら(端から見たらブツブツ何か呟きながら)、今はあてのない旅をしている。


『こんなの豆鉄砲以下だ。なんなら砲弾食らってもいいんだぜ』
「俺が嫌だよ!!」
『す、すまねぇ。でも安心しな、旦那から精も貰ってるし、着てさえいれば槍が降ろうが炎が舞おうがアタシが守ってやる!』
「そうかぁ……あとは『ハゲ』の地味に蓄積する精神的なダメージを防いでくれ……」
『言われもないことなんだし気にすんなよ……』
「将来そうなるかもしれないじゃねぇか……」


セテスは昔、勇者に着られていた鎧だったが、その勇者が道中、仲間に裏切られて毒を盛られて殺され、高そうなセテスは質屋に売られ、埃を被っていたところを魔物の女商人に買われた。

リビングアーマーと呼ばれる魔物らしいが、俺もよく知らんし、セテスも気がついたら意識があったとか。


『今からワカメ食っとけよ旦那』
「海藻嫌い」
『ガキか!』
「あのヌルッとした食感が嫌なだけだ!! セテスは鎧だからわからんだろう、うおっ!? ……ついに砲丸が来やがった」
『避けなくても平気だって』
「そうだけど反射的にさ……」


見た目こそ、俺は長身な方でハルバードと鎧が相まって多少は様になるが、鎧と会話してる男なんて反魔物領の皆さんからしてみれば下手な魔物より怖いだろう。
しかも座ってるだけでも石を食らっても平気な鎧の奴、ただのお化け以外の何者でもない。

とまぁ、流石に居心地も悪いのでそそくさと町から出て、夕方の道を使い道のないハルバードへ荷物を提げて歩く。


「いやー、何て言うか旅も案外暇なもんだな」
『昔は町一つの移動にだって死にかけたんだ、暇なのがいいさね、旦那』
「そうだよなぁ。昔っつか、魔王が代わって良かった感じ?」
『当たり前だろ? 多分、代わってなきゃアタシは彷徨う鎧で、旦那の精じゃなくて腸を撒き散らしてたかもしれねぇし……そう思うとぞっとする』
「ゲロ吐くなよ……」
『吐くかよ!!』


元は勇者の鎧と聞いて凛凛しいイメージだったのに、セテスはガサツな女の子だ。
ただ俺の事を守ってくれると約束してくれたし、面倒と言われて二回ほど女の子にフラれた俺と未だにこうして付き合ってくれる。
ウマが合うというか、なんというか。


「そういやセテスってさ、自分で動いたりできないのか」
『めんどくせぇ』
「そ、そうか……」
『それに旦那をいざって時守れないってのはアタシのいる意味がないからな!』
「男なのに情けねぇよな、俺、本当すまねぇ」
『気にすんなよ、こっちこそ攻撃ができねぇ癖して喋る面倒な婆鎧を着てもらってるしな』


いろんなとこを見て回ってきた、歴戦の鎧と言うことはあり、戦いは相手がこっちの要塞みたいな硬さと俺の無視の独り言で諦めるので兎も角、食える野草やキノコの見極め、それにハルバードやセテスの上手い手入れの仕方などを教えてもらうのも楽しい。
勇者について話すときはいろいろあるのか少し寂しそうだけど、自分が守ってやったという時などのエピソードはすごく楽しそうで。


「セテス、この辺安全だし手入れすっか?」
『ん、頼む。じゃあ……てりゃっ!!』
「おい飛ばすな!!」


セテスの掛け声と共にパーツが弾けとんで、それを回収する俺と全裸の姿で腕を組むセテス本体。
まぁ、セテスは俺以外には見えないから多分通りがかった魔物の子供を背負う男には俺が鎧を急に破裂させたと思われたかもしれない、慣れたからいいけどさ。


『旦那の手入れも上手くなってきたからなぁ。見てるのは楽しいぜ、ってか上達早いし元から色々できてビックリしたぜ』
「実家が板金屋でな」
『バンキン?』
「防具屋の下請けみてぇなの。鎧の元になる金属板とかを原石から加工して、それから防具屋とか武器屋に売るんだ」
『今はそんなのもあんのか。変わったねぇ』


まあ、魔物には鎧なんて意味ない。
でもこうして勇者の鎧を全盛期のまま維持できてるし、馬鹿にはできない技術なんだろうけどな。


「凹んでもねぇな。けど一応磨いとくか」
『旦那みてぇなのパーティーに入れば金が浮いたよなぁ、ほんと』
「騎士団でも言われた。整備担当のサボり板金野郎とかって」
『悪口じゃねーか!!』


軽口を叩きながらも紙ヤスリで磨いて、あとは組み立てるようにパーツを俺に着けていく。
最近は座って寝るのが当たり前だし、下手なベッドよりも鎧を着てた方が居心地いいしな。


「よしっと」
『すっかり暗くなっちまったな』
「だなぁ、今日は野宿か」
『番なら任しとけよ』
「頼むぞ、セテス」
『任せときな』


セテスに周りを視るのを任せて、御座を敷いてから寝転んで、星を見て会話しながら眠気を待つだけなんだけど。


「……なぁ、セテス」
『なんだ?』
「いつかさ、その、いつかはわかんねぇけどさ」
『おう』
「二人で一緒に寝れるように、なるといいよな」
『……そーだな』
「変なこと言ってごめん、んじゃあおやすみ」
『おやすみ』


***


『いつか、一緒に、ねぇ』


月も真上になった真夜中、アタシはそっと旦那から外れて、まだ本体のじゃ触れねぇもんで、固いかもしれないけど鎧を動かして膝枕してやって、籠手でそっと頭を撫でる。


『あんたが求めてくれりゃ――いつでも、寝てあげれんだけどねぇ。ヘタレが』


聞こえない呟きの中で、野犬の唸り声が聞こえたので急いで旦那をアタシの中へとしまい込んだ。
いつか『側』でなく『隣』で、鎧も必要なくなった時と場所で眠れることを、無防備過ぎる、年下の『旦那』を抱きながら――そう、願って。
16/03/28 06:07更新 / 二酸化O2

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