読切小説
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とろけの野菜の消費に関する考察
「ヴァイオレットちゃん。今ちょっといいかな?」
私が部屋でくつろいでいるとカトリーヌお姉様が入ってきました。
「いいですけど。とりあえず座って下さい。何か用意させますので」
私はメイドを呼んでカトリーヌお姉様に何か出すように命令しました。

「それで今日は何についての相談なんですか?」
私が聞くとカトリーヌお姉様は難しい顔をしました。
「えーと、ちょっと商売の話をね」
カトリーヌお姉様が変なことを口走ったのでおでこに手を当てました。
「熱はないみたいですね。ならなぜそのような世迷い言を?」
「ひどっ!私はただフラン姉に頼まれただけだよ!」
カトリーヌお姉様は顔を真っ赤にして抗議しました。
「わかってます。ちょっとした冗談です」
「…うー。ヴァイオレットちゃんのいじわる」
カトリーヌお姉様は涙目でにらみつけてきました。

「それでフランお姉様から何を頼まれたんですか?」
私が聞くとカトリーヌお姉様は額をおさえました。
「確か…何かとろけの野菜の消費量が急に増えたらしいんだよね。それでとろけの野菜を増やすべきなのかヴァイオレットちゃんに相談するように言われたんだ」
カトリーヌお姉様は思い出すように言いました。
「とろけの野菜って元々人気がある食材ですよ。目に見えるほど増えることなんてあるんですか?」
「そうみたい。特に寒い地域で急激に増えたってフラン姉は言ってたよ」
寒い地域?…なるほど。大体読めてきましたよ。

「それでルキお姉様は何か言ってましたか?」
「ルキ姉は…『凍える魂を豪火を用いて溶かそうとするなど無粋。雪融けを待つからこそ赴きがあると知れ』だって。一体どういう意味?」
どうやらルキお姉様も私と同じ結論に達したみたいですね。
「…おそらくとろけの野菜を買った人の狙いはグラキエスでしょう」
「グラキエス?聞いたことないけどどんな魔物なの?」
カトリーヌお姉様は不思議そうな顔をしました。
「簡単に言うと氷の精霊ですね。厳密に言うと氷の女王という魔物の魔力から作られた忠実なしもべです。最近魔物娘図鑑に載ったからちょっとしたブームになってるんでしょう」

「ふーん。それでそのグラキエスととろけの野菜にどんな関係があるの?」
カトリーヌお姉様はよくわからないという顔をしました。
「それを説明するにはグラキエスの特性を知る必要があります。まずグラキエスは男性に全く興味がありません」
「それってマンティスと同じってこと?」
カトリーヌお姉様が珍しく鋭い指摘をしました。
「確かに近いですね。それでグラキエスが男性に興味がないのは、サキュバスの魔力と本来持っている魔力の相性が悪いからです。グラキエスの体を形作る氷の魔力がサキュバスの魔力を凍らせてしまうから、魔物が持つ男性と交わりたいという本能が封じ込められてるんですよ」
「…それはちょっとかわいそうだね」
まあ魔物的な観点で見るとそうですね。本人は何とも思ってないんでしょうけど。
「グラキエスの中のサキュバスの魔力は、同じ人間と長い間一緒にいたり、同じ人間の精を取り込むなど人間と触れ合うことで活性化します。その結果凍っていたサキュバスの魔力が溶け出すんです。要は魔物でありながら人間に近い恋愛によって結ばれるというわけですよ」
私はそこで一旦言葉を切りました。

「そうなんだ。それでそれととろけの野菜がどんな関係があるの?」
カトリーヌお姉様が不思議そうに聞いてきました。
「とろけの野菜には魔物の魔力に対する抵抗力を弱める効果があります。体内に凍ったサキュバスの魔力を持つグラキエスがとろけの野菜を食べたら一体どうなるでしょうか?」
カトリーヌお姉様は頭を押さえて考え出しました。
「えーと魔物の魔力に対する抵抗力が弱まるってことは…。氷の魔力が溶けてサキュバスの魔力が漏れ出すってこと?」
カトリーヌお姉様は自信なさそうに言いました。
「多分そうなるでしょう。とろけの野菜を買う人もそう思うから買ってるんでしょうね」
「合ってたんだ!よかったー。そういうことなら作る量増やそうかな」
カトリーヌお姉様は張り切っています。

「そう決めるのはまだ早いですよ。この理論には根本的問題があります」
「根本的問題?」
カトリーヌお姉様は首を傾げました。
「確かに着眼点はいいですよ。人前に出ないでこっそり男性の精を吸い取って生きてる精霊であるグラキエスにどうやってとろけの野菜を食べさせるんですか?」
私がそう言うとカトリーヌお姉様は固まりました。
「今ある分を売り切ることはできるでしょう。でも作る量を増やして収穫するまで机上の空論だと気付かれない保証はないんですよ」
「…そっかぁ」
カトリーヌお姉様は落ち込んでいます。まあやる気を出した所で水を差されましたから仕方ないかもしれませんけど。
「とりあえずフランお姉様にはグラキエスのことを伝えてあげて下さい。フランお姉様の考え次第ではお役に立てるかもしれませんよ」
「わかった。フラン姉にはちゃんと伝えるよ!」
カトリーヌお姉様はそう言って意気揚々と部屋を出て行きました。

おわり
12/12/28 09:32更新 / グリンデルバルド

■作者メッセージ
衝動的に書いてしまいました。設定に色々無理があったかもしれません。

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