サラナは空を飛んでいた。それも猛スピードで。
レイナの忠告を聞いてすぐに飛び出した後、翼を使って飛び上がり上空からハーリストクの姿を探すためだった。

「どこ・・・いったいどこにいるの！」

村の周囲をくまなく探っているとその数メートル先で何か塊が動いているのをサラナは見つけた。その塊は村に行くための唯一の一本道の所でじわじわと動いているのが見て取れた。

「あそこね！」

サラナはその場所に向かうためにさらにスピードを上げて飛ぶのだった。

　−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ちぃっ！」
「いいぞ！皆の者！奴の体力はなくなってきている！このまま押し込めば勝てるぞ！！！」

たった一人で始めた防衛戦に陰りが見え始めていた。最初の奇襲作戦で大体の戦力を削ったとはいえ、１００人以上はいる敵の前に次第におされ始めていたのだ。
立地条件で５人までにすることが出来たが、それもマーディブルックが指揮を整え始めてから崩れ始めていた。
まず後方からの弓矢攻撃が追加されたことが一番の難関だった。前線をおし戻したと思った瞬間に弓矢の攻撃が降り注ぎそれを切り払う、そこに再び前線の攻撃が再び始まる。
しかも前線の攻撃はただの力押しから２、３人ほどの連携攻撃に変わっていたのだ。
一人が攻撃を仕掛けて、かわされるか防がれたりした次の瞬間にフォローに入り反撃を許さないようにする。
呼吸は乱れ、体中からは汗が滴り、動きが鈍くなっているのは誰の目から見ても明らかだった。しかしそんな状態でもハーリストクの闘志は萎えておらず、紙一重の所で攻撃をかわしていた。

「俺は負けるわけにはいかねえんだ！絶対に通さねえ！」
「ふん！粋がったところでそんなバテバテの状態でいつまで持つかな？」

攻撃を防いで前線を何度も押し戻し、鬼のような気迫をみせるハーリストク。
しかし、その均衡もついにくずれることとなった。
前線の攻撃を退けた後の弓矢攻撃をついに右肩に受けてしまったのだ。

「ぐわっ！」
「いまだ！攻め込むのだ！！！」
「その首もらった！！！」

怯んだハーリストクに兵士が一斉に切りかかる。

（ちくしょう・・・体が言うことをきかねえ。やっぱ、無謀だったのか・・・悪いなサラナお前を守ってやれそうにないわ）

まわりがやけにゆっくりとしたような感覚を感じながらハーリストクは心の中で謝っていた。そして迫り来るであろう死を慌てることなく受けとめようともしていた。・・・そんな時だった。

「ハーリストクさーん！！！！！」

ヒューン　ズガーン！！！

突然何かが強烈なスピードで上空から突撃した衝撃で土煙があたりに激しく舞いあがる。

「な、何事だ！？」

突然の事態にマーディブルック神官長も困惑の声をあげる。
激しく舞いあがる土煙も次第に晴れていき、人影が徐々に現れてその姿を鮮明に映し出していく。

「お、おまえ・・・なんでここに」

土煙の中から現れたのはハーリストクが守ろうとしていたドラゴン、サラナ
・ドラグーン本人だった。

「なんでって・・・それはこっちの台詞です！！！」

ハーリストクの声を聞き、振り向くと同時にものすごい剣幕で怒鳴り散らした。

「な、いきなり怒鳴ることは無いだろうが！」
「これが怒鳴らずにいられますか！！！どこの世界にこんな大勢の人間を相
手に一人で戦う人間がいるんですか！！！」
「うるせえな！！！ここにいるじゃねえか！！！」
「無謀ですよ！死ぬ気ですか！！！」
「死なねえよ！もちろん勝つ気に決まってるだろうが！！！」

戦場の中に二人の怒鳴りあいが響き渡り、この上なくシュールな光景になりつつあるなか、マーディブルック神官長が多少動揺しつつも、すぐに気を取り直して指示を出し始める。

「貴様か・・・この大陸に住まいし邪悪なるドラゴンというのは、これは好都合ではないか。皆の者目の前にいる者こそが我ら人間の怨敵たる邪悪な魔物ドラゴンだ！この邪悪なる魔物を討伐し、我らが主神にその首を捧げるのだ！！！」

その指示に兵士達は士気をあげ、声を高らかに上げて自らを鼓舞し、再び襲い掛からんと地鳴りをあげて突き進み始めた。

「くっ！怒鳴りあっている場合じゃねえな。おい！ここは俺が食い止めるからおまっ！？っておい！！」

ハーリストクが剣を構えなおしてサラナに声を掛けようとした瞬間、すでにサラナはハーリストクの前から姿を消し、教団の兵士達目掛けて突貫していた。

「あなたたちにハーリストクさんを殺させません！！！」
「いや！？お前人の話を聞いてたか！！！あいつらの狙いはお前だぞ！！！」

明らかに勘違いをしてサラナは聞く耳持たずの状態で走りぬき、先陣で兵士達を迎え撃ち始めた。
サラナが一振り拳を振れば風圧で人が吹き飛び、サラナが一蹴り地面を蹴れば地盤が粉々に砕け散り地割れに人が巻き込まれてゆく。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図、人間には真似の出来ない力任せなパワープレイ、普段のドジはどこに行ったんだと思わず言いたくなるほどのしっかりした戦いぶりにハーリストクは呆れていた。

「・・・・・・忘れてた。あいつは仮にもドラゴンだったんだっけ」
「なんという戦闘力だ・・・くそ！聞いていた話と違うではないか！！！」

ハーリストクから聞いていた情報とあまりにも戦闘力が違うためマーディブルック神官長もさすがに焦りを隠せない。
しかし、それだけで終わらずさらにマーディブルック神官長は驚くことになる。

「はあああああ！！！！！」

サラナが雄たけびをあげるがごとく大声をあげはじめる。
するとサラナの体から膨大な魔力が溢れ始め、次第に肉体が変化を始めていた。人肌は鱗に覆われ、目つきも鋭く獰猛な目になり、人型の骨格から巨大な肉食獣の体躯へとその姿を変えていった。

「なっ・・・」
「ま、まさか・・・」
「な、なんだよあれ！？」

その変化を見た者たちは驚きを隠せなかった。当然である、目の前にいるのは古の時代より圧倒的な力を見せつけ絶対的な王者として君臨する存在。ドラゴンなのだから。

「くっ！？まさか太古の姿にまで戻れるとは！」
『今すぐここから立ち去れ、さもなくば貴様らを食らい尽くしてくれる！』

ドラゴンの言葉が・・・というより念話が周囲の人々の頭の中に入ってくる。

「くっ・・・くそ！ここまで来て・・・撤退しなければならんというのか・・・」
『立ち去らんのか？ならば遠慮なく食らい尽くしてやろう』
「うわあああ！く、食われちまうよ！」
「助けてくれ！！」
「早く走れよ！！俺はもう逃げるんだ！！！」

ドラゴンの言葉が届いた瞬間、兵士達は顔を真っ青にして勝手に撤退を始める。

「お、お前達！何を勝手に！？」
「・・・皆の者！撤退だ！今の我らに勝ち目は無い！！！今は撤退し戦力を整える事を先決とする！！！」
「りょ、了解！！！」

兵士長らしき男が逃げる兵士を止めようとした瞬間マーディブルック神官長の声が響き渡り、撤退が言い渡された。止めようとした兵士長もそれに賛同し、逃げ惑う兵士達に平静になるよう声を出しながら撤退活動を始める。

「・・・この屈辱は決して、決して忘れぬぞ。いつの日か必ず倒してみせる。その日を覚悟していることだ」

そんな捨て台詞を残し、マーディブルック神官長も戦場を後にするのだった。

「・・・・・・はは、ははは、はははははは！あははははははは！！！」

戦いが収束を向かえたとわかったハーリストクは呆然としていた状態から狂ったように笑い始める。

「なんだよ、これ。あんだけ苦労して戦ったっていうのに結局あいつ一人で勝っちまいやがったよ。一体何のために戦ってたんだろうな・・・本当馬鹿みたいだな・・・」
『・・・・・・あの・・・』
「くそ！・・・これじゃただのピエロじゃねえか！・・・やってられねよ！ちくしょう！！！」
『すいません！！！』
「なんだよ！！！」

ほとんど八つ当たりに近い形で怒鳴って返事を返してしまうハーリストク。
その表情は怒りと悔しさがにじみ出ていた。対してサラナのほうは心なしか困ったような表情を見せていた。

『そ、その、いいにくいんですけど・・・』
「俺は今機嫌が悪いんだ！さっさと言え！」
『えっと・・・どうやって元に戻ればいいかわからなくなっちゃったんですけど・・・』
「・・・・・・はっ？」
『だから、元に戻ろうとしても戻れなくなっちゃったんです』
「・・・・・・な、なんだってー！！？」
『えっと・・・どうしましょう』
「なんでだよ！そんなトンでも変身能力を持ってるのに戻れないってどういうことだよ！」
『いや、その本当は戻れるんですけど、なんか全力で魔力を動かした所為なのか私の意志で戻れなくなっちゃって』
「・・・・・・やっぱ、お前ってドジだな」
『なっ、ドジじゃないです！ちょっと戻れなくなっただけじゃないですか！』
「いいか、よく聞け。世間一般ではなちょっとしたミスを連発をすることをドジっていうんだよ」
『う〜、返す言葉が見つからないです』
「だいたいお前って奴はだな・・・・・・！！！」
『う〜勘弁してください」

何はともあれ教団の脅威を追い払うことに成功したのだが、何故かその立役者もしくはヒロインとも言うべきドラゴンは最後の最後にやらかし、主人公より説教を食らってしまう。先ほど教団を追い払った恐ろしいドラゴンとは思えないほどにシュンと落ち込んでしまい、説教を受けて頭を抱えるという珍しい光景が見られたそうだが、残念なことにそれが見れたのは主人公だけだったそうな。

■作者メッセージ
新年あけましておめでとうございます。
久しぶりのドジドラの更新です。
まあ今回はあまりドジっぽさが出ていなかったと思いますがそれは愛の力で一時的に消えたって事でご了承ください。
本当はもうチョイバトルを詳しく書きたかったけど、あの状況で詳しく書くと死屍累々になってしまうので簡潔に書かせていただきました。
とりあえず次回で最終回の予定です。
さて今回の感想返信です。

＞　の　様へ

皆殺しはしていないが・・・まあ展開的にそう見えても仕方ないか。
さすがバイコーンさんあっさり３Ｐを推奨するとは（笑）

＞ヒバゴン様へ
なにやらヒートアップしてくれていたようですが、もうヒートダウンしてますよね？本当に遅れてごめんなさい。

とりあえず１００００ｖｉｅｗ超えてて、さらには１６ｖｏｔａ超えている事態にマジでビビッています。意外と人気があるのな〜と驚いています。あっ、これって初驚きじゃね？
とにかく次回で最終回です！がんばってエロエロ書きますのでよろしくお願いします！