連載小説
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(10)メドゥーサ
人里離れた深い森の奥に塔があった。煉瓦組みの壁面には這っては枯れを繰り返した蔦が、厚い層を成していた。
いつ建てられたか、何のために建てられたか分からぬ塔には、いつしか魔物が住みつくようになった。
だが、塔には宝が存在する、という噂が次から次へと犠牲者を招いていた。
宝を求めて塔にたどり着いた者を迎えたのは、塔を囲むように置かれた石像だった。
鎧をまとった戦士や杖を掲げる魔導師の像は、風雨にさらされてはいたものの、あまりに写実的だ。
石の戦士たちの間を抜け、塔に足を踏み入れると、何の家財道具もない殺風景な壁と床が目に入る。蔦に覆われた窓から差し込むか細い光が、薄く埃の積もった床に残る跡を照らしていた。
真新しい足跡と、何かを引きずったような帯状の跡だ。
二つの跡は塔の廊下を進み、階段を上って行った。そして最上階の部屋の中へと続いていた。
開け放たれた扉の中では、二つの影が対峙していた。
一つは軽装の革鎧をまとった剣士風の男で、肩で息をしながら剣を構えていた。
男の視線と剣の切っ先の指し示す方向にいたのは、蛇体を床に横たえ、人の上半身を起こした魔物だった。
一見するとラミア種の魔物のように見えるが、美女の頭髪は幾匹もの蛇と化しており、彼女がメドゥーサであることを示していた。
目を合わせれば相手を石と化す能力を持つ、非常に危険な魔物であるメドゥーサだが、不思議なことに男は未だ石となっていなかった。
それもそのはず、彼女の両の目は閉ざされていたからだ。
「はぁ…はぁ…」
男は荒く息をつきながら、数分前の会話を思い返した。
塔を上ってきた彼に、メドゥーサは背を向けたまま『退屈しのぎに相手をしてやる』と告げると、目を閉じて彼の方を向いたのだ。
男は圧倒的に有利な条件を利用すべく、全力で切りかかった。
しかし、初撃も返す刃も続く一撃も、ことごとくがメドゥーサの石のように硬質化した尾の先端によって受け止められ、受け流され、逸らされてしまった。
「はぁ…はぁ…」
「シュァァァァ…」
男が距離を取って呼吸を整え、メドゥーサの頭髪が威嚇音を立てる中、彼は尻尾の攻略法を考えていた。
石のように固い尾を切断できれば勝てるのだろう。ダーツェニカには石どころか鉄さえも切り裂ける剣士がいると聞くが、男にそのような技量や剣の鋭さは無い。
だとすれば、相手が男を見ていないことを利用するほかない。
男は呼吸を整えると、刺突の構えを取り、姿勢も低く駆け出した。
「……」
足音や剣が空を切る音で分かるのか、メドゥーサが尻尾を掲げ、先端を男の方に向ける。切っ先を尾の先端で受け、力を逸らすつもりなのだ。
だが、男は軌道を変えることも踏みとどまることもなく、突進を続けた。
数瞬後、剣の切っ先にほど近い刀身と、メドゥーサの尾が触れ合った。直進する切っ先に横方向の力が加わり、狙いが簡単に逸れた。
だが、思い通り刺突を逸らしたにもかかわらず、目を閉ざしたメドゥーサの顔にいくらかの戸惑いが浮かんだ。あまりにも素直に、剣が逸れたからだ。
男はさらに踏み込み、腕を繰り出しながら、剣ごと身体をメドゥーサに寄せていく。逸れた切っ先が、掠めることもなくメドゥーサの顔の横を通り抜けた。
そして男の腕の間合いに目を閉ざす魔物が入ると同時に、彼は剣を握っていない方の手で、腰のナイフを抜き放った。
下段から上段へ、メドゥーサの首筋を狙った不意打ちの斬撃が、彼女に迫る。
しかし、ナイフが彼女の細い首に食い込む寸前、メドゥーサは薄く笑みを浮かべて背を反らした。
「っ!?」
ナイフが空を薙ぎ、男の口から驚愕を孕んだ息が漏れる。
刺突の軽さとナイフの風切りから動きを読んだ?それともその前から動きを読まれていた?
男の脳裏を推測が飛び交った瞬間、メドゥーサの尻尾が大きく動き、男の剣とナイフを弾き飛ばした。
「しまっ――」
手の中の衝撃に、男が我に返るが、動く間もなくメドゥーサの蛇体が絡み付き、男を締め上げた。
「うが、あ、は…!?」
胴を締め上げるひんやりした身体に、男の肺から息が搾り出された。
「目を閉じてるってハンデ付きなのに、なかなかやるじゃない」
男を締めながら、メドゥーサが口を開いた。
「ご褒美に、少しだけ吸ってあげるわ。好みじゃないけど」
蛇体が蠢き、男の腰のあたりに隙間ができる。メドゥーサはそこに手を差しいれると、ズボン越しに男の股間に触れた。
体を締め付ける蛇体に生命の危機を感じたのか、そこは固くなっていた。
「こんなにして…もしかして、宝じゃなくて私に締め付けられるのがお目当てだったの?」
本能的な肉体の反応と知りつつも、メドゥーサは目を閉ざしたまま笑い、ズボン越しにそこを擦った。
布越しの刺激に、男の肉棒は反応し、硬さを増した。そして数度の愛撫を経てからズボンの前を開くと、屹立が解放される。
「ふふふ、元気ね…」
肉棒が放つ熱気を察知したのか、メドゥーサは目を閉ざしたまま笑った。
「舐めてあげるわ」
腰をかがめ、顔を屹立に近づけると、形の良い唇を開いた。先の割れた細長い舌が伸び、小さく揺れる男の屹立に触れる。
少しだけひんやりとした、濡れた感触が、男の肉棒から背筋を伝わった。
「ひうっ!?」
ぞくり、とする快感に、男が声を上げながら体を震わせると、蛇体の締め付けが強まった。
「動いたら舐められないわよ」
全身の骨がきしむような力で締め上げながら、メドゥーサが言う。
そして男が完全に身動きが取れないことを確認すると、彼女は再び肉棒を舐め上げ始めた。
二股に分かれた舌先が、肉棒表面に浮かぶ血管をなぞりあげる。
一筋一筋、筆でくすぐるかのような感触が、屹立の表面を這いまわった。
刺激が皮膚から神経に染み入り、男の背骨を伝って意識へとどく。
そして、全身を締め上げられて呼吸もままならない男の意識は、入り込んでくるくすぐったさを伴った刺激に対し快感を覚えた。
どくん、どくん、と男の耳の奥で血の流れる音が響き、徐々に視界にもやがかかっていく。
快感が朦朧とする意識の中で増幅され、屹立がその固さと脈動を増す。
するとメドゥーサは、チロチロと舐める程度だった舌を、肉棒にぐるぐると巻きつけた。
長い舌とは言え、屹立を覆い隠すほどではない。だが、裏筋を数度横断し、カリ首の段差を埋め、鈴口に二股に割れた先端を押し当てるその巻きつけは、的確に敏感な個所を押さえていた。
「…っ…!」
うねうねと舌が蠢きだし、快感を生み出す。
締め付けるのではなく、蛇が地面を這うように蛇行する動きだ。もちろん舌の表面は唾液に濡れているため、屹立の表面を滑り、軽く擦りたてるばかりである。
しかし微かにざらつく表面が、ぬるぬると滑らかな裏面が、細く繊細に動く舌先が、血管を、裏筋を、カリ首を、亀頭を、鈴口を、的確に刺激する。
朦朧とする男には、もはやメドゥーサに何をされているのか理解できなかったが、その快感は着実に彼を昂ぶらせていった。
そして、メドゥーサが舌を軽く締め、舌先を鈴口に浅く挿しいれた瞬間、決定的な快感が男の背骨を駆け上った。
「ぁ…!」
搾り出すような微かな喘ぎとともに肉棒が大きく脈動し、巻きつく舌を押しのけんばかりに膨張した。
肉棒と蛇体に包まれた男の痙攣に、彼女は絶頂の気配を察知すると、口を開いて亀頭を加える。その直後、男が絶頂を迎えた。
肉棒に巻きつく舌と、亀頭を覆う口のぬくもりに、彼の腹の奥から欲望が迸った。
甘い快感と解放感と、一抹の苦悶を孕んだ絶頂感が、男を満たしていく。
どくん、どくんと脈を打つたびに、白く濁った粘る体液がメドゥーサの口を満たしていく。
彼女は注がれる白濁を少しずつ嚥下しながら、舌を蠢かせ、唇を窄めた。
快感が注がれ、絶頂が高まり、精液が搾り取られていく。
そして、メドゥーサの口を満たすほどの量を放ち終えると、射精が止んで肉棒が硬さをわずかに失った。
「はぁ、はぁ…」
「……」
蛇体を緩めて呼吸をさせながら、メドゥーサは口内に残る精液を嚥下し、肉棒を解放した。
そして、屈めていた腰を伸ばして、口を開く。
「たっぷり出したわね。そんなに気持ちよかったのかしら?」
快感と酸欠にあえぐ男に、彼女は続ける。
「このまま私に飼われる、ってのがあなたの本当の目的なのかもしれないけど、それは無いわ。だってそこまで好みじゃないもの。だから石にして、外に置いておくわ。あなたを気に入った誰かが持って帰るかもね」
目を閉ざしたまま、彼女はそう言うと、男の頬に手を添え顔を正面に向けた。
「さあ、私の目を見て」
朦朧とした男が、言われるがまま目を向けると、メドゥーサが閉ざし続けていた目を開いた。
鮮やかな緑の瞳が、男の目を捕らえた。
その瞬間、男の手足の指先から、感覚が消えた。
痛みも圧迫感も何もなく、ただただ指のあった場所を無が支配した。
「ああ…」
石化が広がっていくのに合わせるように、男は低く呻いた。
「痛くないでしょう?大丈夫よ」
男が不安を抱いているとでも思ったのか、彼女はそう言う。
だが、男が呻いたのは石化のためではなかった。
「ああ、宝って、あんたのことだったのか……」
「……」
男の漏らした感嘆の言葉に、彼女はぴくんと震えた。
すると、手足を蝕みつつあった感覚の消失が、ぴたりと収まる。
「……それ、どういう意味?」
眉一つ動かすことなく、落ち着いた表情のままメドゥーサは問いかけた。
だが、男は先ほどの一言を搾り出すのがやっとだったのか、あえぐばかりだ。
何故か頭髪の蛇をうねうねとざわめかせながら、蛇体の締め付けをメドゥーサが緩める。
すると男は数度せき込みながら呼吸を繰り返した。
「気が変わったわ」
涙を浮かべつつ呼吸を整える男に向け、彼女はそう言った。
「あなたはしばらくここで飼ってあげるわ」
あえぐ男を見下ろすメドゥーサには特になんという表情は宿っていなかった。
だがその頭部、髪の毛の様に生えた蛇たちは身悶えするようにのた打ち回り、互いに身を絡めあわせていた。
11/12/18 20:29更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
これで十体、と馬鹿は後ろを振り返って汗をぬぐった。
まだ十体、と馬鹿は前を見てため息をついた。
そして馬鹿は再び歩き始めた

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