「ボクは篤志の事なんかエサとしてしか見てないんだからな」

俺、安藤　篤志（あんどう　あつし）が弁当を食べているとトゲのついた尻尾を突き出して、頭のてっぺんにある獣のような耳をピコピコと動かしながら俺の幼馴染の万濃　心(まんのう　こころ)は言った。

「つまり、俺を食べたいほど愛してくれてると」

魔物娘が当たり前に暮らしているこの町で魔物が何を食べるのかなんて知らない人はいない、どう考えても俺が言ったことはあっている筈だ。

「ちがう！！そうじゃなくて、ボクは生きるために仕方なく篤志を食べるんだ」

尻尾をブンブンと振りながら、なぜか知らないが彼女は否定する。とりあえず、彼女の尻尾から淫毒が飛んできて俺の弁当に入りそうになるので弁当は避難させておこう。

「仕方なくなら俺じゃなくてもいいんじゃないの？そうなると、俺は失恋することになるんだけどさ」

「それは……その……そうだ、ボクが知ってる男は篤志以外みんな彼女がいるんだよ。だから、ボクだけのモノにするのは篤志以外選択肢が無いんだ」

ちょっと顔を赤くしてどぎまぎしている姿を見ると、やっぱり可愛いなぁと思う。それにしても彼女は素直に好きっていうのが恥ずかしいのか、それともプライドが許さないのか言い訳をしてしまうな。俺はずっと昔から好きだっていうのに。

「つまり、俺のことを自分だけのものにしたいくらい愛しててくれてるって事だよな？」

「だーかーら、仕方なくだって言ってるじゃないか！」

「心が仕方なくだって言っても、俺はそう受け取るって言ってるの。ってか俺は心がそうしたいなら別にいいんだよ、俺は心のことが好きだし」

「なっ……なんでそんな恥ずかしいことを普通に言えるんだよ篤志は」

わりと日常的に好きとか言っていたはずなんだけど。

「だって、心が好きとか言ってくれ無いから俺のほうから伝えるしかないだろ。心がトゲを刺して搾り取るのが愛情表現だっていうなら俺は全部受け止めるけど」

「うぐ……だって、ボクの虜にして篤志のことをボク無しでは生きれなくしたかったんだもん」

不機嫌そうな顔をして彼女はトゲを引っ込めた尻尾を振り回す。

「そんなこと心配しないでも、俺はとっくに心の虜だし、心が居なければ生きていけないって。それにさ、小さい頃に結婚しようって約束しただろ？」

「そうじゃないの、ボクは自分で篤志を虜にしたかったのに」

つまり彼女はその尻尾で俺を虜にしたかったって事なのか？

「そんなこと言っても、もうなったものはどうしようもないんだし」

「だったら、キスしてくれれば許す」

なんで唐突にキスを要求するんだ、まぁキスで許してくれるなら安いものなんだけど。とりあえず目を瞑っている彼女にキスをしようと顔を近づけていく。

ブスリ、とキスをする寸前に自分の横腹に彼女の尻尾のトゲが刺さっていた。

「あれ、どうしたの？具合悪くなっちゃったかな？ボクが保健室に運んであげようか？」

彼女が意地悪そうな笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。

「心……騙したな」

俺は湧き上がる性欲を抑えながら必死に訴えかける。

「騙すなんて、ひどいなぁ。ボクは篤志がもっとボクの虜になれるようにしただけだよ。それと約束覚えててくれてありがとう、ボクも大好きだよ」

純粋な笑顔で彼女は言って、俺の唇と彼女の唇が重なり合う。たぶん尻尾での不意打ちは照れ隠しのつもりだったんだろう。

そして俺は彼女に抱えられながら保健室へと運ばれる、その中で何があったかは語るまでもなかった。