連載小説
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潮湯
 
〜潮の香り〜

本日の夜釣りの釣果はいまいち、と。ふわぁ〜〜、ちょい眠いな・・。さて、釣れたのがアジ19匹にタコが一匹か・・・。アジは今晩のおかずには最適なんだが、こっちのタコはどうしたもんか。〆方知らないんだよなぁ。確か、首(?)の後ろ辺りに針みたいなのをプスッとすればいいのは知ってるんだけど、俺みたいなド素人がやっても意味ないし。失敗したらタコを傷めるだけだしなあ。うーん、ぶつ切りにしてマリネにでもすっかな。

「・・・やっぱ帰そう。調理出来んし、そんなに大きいわけでもないしな。んじゃ、次は簡単に引っ掛かるなよ」

おうおう・・、タコって泳ぐの速いなあ。一気に沖のほうまで逃げたな。んじゃあなー、次はもっとでっかくなってから来いよー。ん?今何か沖のほうで大きな獲物が見えたな。いつかはあんな大物釣り上げてみたいもんだ。さ、今日はこのへんで止めて帰ろう。


アジ2匹は焼いて食うとして、だ。残りはどうすっかな。17匹か・・・ちょっと多いよな。近所に配るか。ちょうどお隣さんの奥さんがネコマタだったし、食べてくれるかも。それでもちょい余っちまうな。ま、後はなんとかするか。んぁ、少し眠い。夜釣りの欠点はどうしても明け方まで起きてなきゃいけないのが辛い。とりあえず、お隣さんに何匹か渡そう。


『ありがとニャーー♪』


凄い勢いで尻尾振りながら喜んでくれるのはこちらとしても嬉しい限りなんだけど、娘さんの目が怖い・・・。どう見ても魚を見てる目じゃない。俺を美味しそうな目で見てるよ。お願いだから俺じゃなく魚を見てくれ。渡す物は渡したし早く部屋に戻ろう。このまま居たら娘さんが魚じゃなく俺に飛びかかってきそうだ。

俺を見つめ続ける視線からそそくさと逃げ出すように部屋に戻る。ふぅ、好意を持たれるのは嫌いじゃないんだが、あの目だけは勘弁して欲しいな。ずっと俺の股間を眺めていたし。んん、ふわぁぁぁ〜〜、部屋に戻れて安心したら眠くなってきた。ちょっとだけ仮眠を取るか。それじゃ、昼の12時にセットして。

「んじゃ・・・おやすみ〜・・」



-PiPiPiPiPiPi・・・・-


んぁ、・・もう12時か。それじゃ、釣ったアジの鱗を剥いで焼くか。包丁の背で一気にガリガリと・・・ふんっ!・・・よし、こんなもんかな。後はグリルに放り込んで待ってる間に飯焚くか。ん?なんで飯があるんだ?あ、そうか・・焚いた後に夜釣りに行ったんだ。昨日晩飯食わずに釣りに行っちまったのをすっかり忘れてた。ま、儲け儲けと。んじゃ、後はアジが焼き上がるのを待つだけだな。

うん、いい匂いだ。やはりアジはシンプルに醤油のみだな。友人はマヨネーズをつけていたが・・・、あれじゃあツナ缶みたいな味になるじゃないか。・・やっぱ大根おろしも付けよう。ジアスターゼたっぷりなんだぜ。胃にいいんだぞ。とりあえず食うか・・、うめぇ。やはり釣りの醍醐味と言えば新鮮な魚を食える事だ。うん、ウマウマ・・。・・・ん、ごっそさん。んじゃ、明日も休みだし晩からまた夜釣り行こうかな。次は大物掛かるといいなあ。でも、その前に・・・潮風のせいで体中べたべたして気持ち悪いから風呂入りたい。ああ、そうだ。金玉行こう。ついでに魚も差し入れとして持っていこう。まだ10匹ぐらい残ってたはず。



「あら、いらっしゃ〜い♪」

「久しぶりです、これ明け方釣ったばかりのやつです。どうぞ」

「えっ!?こんなに貰っちゃっていいの!?」

「ええ、一人だと食べきれませんので」

「ありがとうね〜♪・・・んふふ、今日の御飯は決まりね♪」

「それじゃ、二百円置いときますねー」

あー、やっぱ番台の妖狐さん美人だなー。いいもん見れたなー。あの笑顔見れただけで今日も釣れそうな予感がする。いや、絶対に釣ってやる。おっしゃ、気合も入ったし風呂入ろう。この脱衣所も久しぶりだ。まだ棚に籠を置いてるんだな、・・ま、誰も荷物盗ろうなんて思わないから大丈夫なんだろうけど。俺も籠に入れておこう。ぽいぽいぽいっと・・、ん?壷・・・、なんで脱衣所に壷があるんだ・・。ま、どうでもいい事か。さてと。


<カラララララ・・・・>


はぁ〜〜・・・、やっぱ此処はいい。なんというか落ち着く。何が?と言われればそれまでかも知れないが、やはり此処は何故か落ち着く。どこからどう見ても普通の銭湯なんだけどな。んじゃ早速湯を被ってタワシで・・、必殺!高速垢擦りぃぃぃー!

「いたたたったあーーー!ひぃ・・・ひぃ・・、ぁぁ・・でもこの痛みが気持ちいい・・」

べ、別にマゾじゃないぞ。これをやるとすっきりするんだよ。言っておくけどタワシは今はブームなんだぞ。嘘じゃないぞ!童貞賭けてもいいぞ!ウッ!?今なんか凄い寒気がした・・。気のせいか。ちょっと体中がヒリヒリするけど、この痛みのまま俺の好きな潮湯へ・・・。

「くはっ!・・・タワシで擦った所がいってぇ〜・・・。んぐ・・、口の中にしょっぱい湯が・・」

あーでも、この潮の味がたまらん。こういうのって・・海に癒されてるなぁ感がたっぷりでついまったりしちまう。ああ、ええ湯や。っと、・・・何だ?なんかイイ匂いする。これ、どこかで嗅いだ事のある匂いなんだが思い出せん。食欲をそそるような匂いなんだが・・。うーん?

「ま、いっか」

思い出せないって事は後から考えてもいいって事だ。でも・・・。

グゥゥ〜〜〜キュルル〜

すっげえ腹減った!やっぱこの匂いどこかで嗅いでるよ。それも俺の大好物かもしれん。そうじゃなきゃここまで腹が反応するわけないし。でも・・どこから匂ってるんだ?

あかん、わからんかった。しょうがない、匂いの出所は諦めて潮湯を堪能しよう。は〜〜、癒されるぅ〜。風呂から上がったらどうすっかなぁ。夜釣りに行くまではまだ時間あるし、先に晩飯食っておくか・・。昨日みたいに飯だけ炊いてそのまんま放置ってのは意味無いし。ぁ、おかずどうしようか。アジは昼食ってしまったし。なんでもいいか・・。いざとなりゃ、米と漬物で充分だ。さ、上がろう・・の前にシャワーで塩分落としていかないとな。


<カラララララ・・・・・>


「あーすっきりした。さて、帰って飯食って釣りの用意を・・・お?おおおおお!?無い!無いぞ!?俺の下着がねぇぞ!?」

どこだ!どこに行ったんだ、俺の下着!まさかと思うが盗られたのか!?男の下着盗むってどこの馬鹿だよ!普通盗るんなら財布とかの貴重品だろ!なんでよりにもよって下着なんだよ。やばい・・このままだとノーパン直ズボンという情けない状況に・・。まじどうしよう・・・。って、あれ?あれってもしかして俺の下着・・じゃないか?なんで壷の縁に引っ掛かってるんだ?もしかして俺が知らずに落として後から誰かが引っ掛けてくれてたんかな?もしそうなら感謝だ。あー、良かったぁ。焦って損した。

「・・う、なんだこりゃ・・なんか下着の縁が滑ってる・・。まぁ、我慢すりゃ穿けない・・事も無い」

壷の縁に何か付いてたんかなぁ・・。ううぅ・・気持ち悪いけど我慢我慢・・・、これしか替えの下着無いんだし。

「・・・ねとねと滑ってちょっと・・」

でもこれならなんとか我慢出来る、んじゃ穿いて。・・・やっぱ変な感触。早く家に帰って別の下着に穿き替えよう。くっ・・股間のとこまで滑ってきた。これは急いで帰らないと。

「そんなに急いでどうしたの?・・・あら?」

「い・・いえ、なんでも無いです」

や、やばい。番台の妖狐姉さんが鼻ヒクヒクさせてる。このままじゃばれちまう。

「ぁ、居た居た。そろそろ上がってくる頃だと思ったよ」

「え?」

ス、スキュラ?俺にスキュラの知り合いなんて居ないのに。でも向こうは俺を知ってるみたいだし。どこかで逢ったっけ?っと、俺をどこに引っ張っていくんだ。なんだ休憩ルームか・・。

「ねぇ、これに見覚えは無い?」

「あ、その壷・・」

脱衣所に置いてあった壷がどうして此処に。

「それじゃあ・・これはどう?」

ん?壷の中に何か・・・。

「・・・んー?奥のほうに何か・・・。あっ!?」

蛸・・。壷の中に小さい蛸が居る。しかも今朝逃がしたやつそっくりなのが・・。まさか下着に付いてるこの滑りは・・。

「ふふっ♪この子から聞いたよ。アンタ・・この子逃がしてくれたんだよね」

「ぁ、・・ああ。確かに今朝逃がしたやつだ・・」

あんまりにも小さいんで食う気も無かったし〆方も知らないから放したんだ。でもなんでこの蛸が此処に。

「この子がねぇ、いい男が居たって教えてくれてね〜」

「へ?それって・・・まさか」

「もちろんアンタの事に決まってるじゃない♪」

何これ。鶴の恩返しじゃなく蛸の恩返し!?そりゃ俺は彼女無し、釣りが恋人の童貞野郎だけど・・、まさかこんな形で・・・んん?

「なんだか・・いい匂いがする。さっき嗅いだ匂いと同じ・・」

「ちょ、ちょっと!なんでアタシの足見てるのよ」

ああ、やっとわかった。潮の匂いに蛸の足・・おでんの具だな。あれって旨いよなあ。ヒッ!?痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいい!

「アタシの足見て涎垂らすなんていい根性してるじゃないの。この子の紹介じゃなかったら締めてるとこだったわよ」

「いだだだだだだっ!止めて!お願いだから頬に吸盤圧し付けないでええええ!」

蛸の吸盤って見た目ぷにぷにしてるけど実際はかなりぎざぎざで吸われたらすっげー痛いんだぞ。

「ふんっ!・・・ま、許してあげるわ。アタシ好みの男にあんまり傷付けたくないし・・」

「それって・・」

「こ、この子が言うからよ!この子の紹介で逢いに来ただけなんだから勘違いしないでよね!」

顔を真っ赤にしながら力説しても説得力無いんですが。

「それじゃ行くわよ!」

「い、行くってどこに・・。それに俺はこれから夜釣りに行きたいんだが・・」

「なっ!?アンタ馬鹿なの!?なんで釣りに行こうとするのよ!もうアタシを釣ったから行く必要な・・・じゃない!今の無し!無しだからね!今の言葉忘れなさい!」

なにこのツンデレ。俺の好み超ストライクなんですが。もしかしてこれって惚れられてると自惚れていいの?言っとくけど俺は誰とも付き合った事なんてないから舞い上がって自惚れちゃうよ?

「口に出てるわよ、バカ・・・べ、別に自惚れても・・いいわよ・・」

「ぇ?何か言った?」

「なんでもないわよ!さ、早くアンタの愛の巣へ行くわよ」

あ、愛の巣って。そんなに堂々と言われるとすごい恥ずかしい。で、でも・・・本当に美味しそうな匂いしてるなぁ・・、特に足から・・これでご飯3杯はいけそうな気がする。



             『いだだだだだああああっ!吸盤剥がしてえぇぇぇ!』


14/10/10 23:33更新 / ぷいぷい
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■作者メッセージ
今回のテーマは『スキュラ』『潮湯』『おでん』です。最近の銭湯は『おでん』も出せる・・。もちろんタコ足食べましたが。とても美味かったです・・いだあぁぁぁぁぁぁぁ!どこから吸盤があああああああ!?

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