読切小説
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ありがとうの気持ちを
「ありがとう」

ボクは彼に感謝の言葉を伝える。

「いきなりどうしたの?」

彼は少しきょとんとしながらボクに尋ねてきた。

「ほら、キミは小さい頃からボクを支えてくれてたじゃない。他にもライブの裏で本当は怖くて怯えてた時も元気付けたりしてくれたりね。色んなこと思い出してたら、キミはどんな時もボクのそばに居てくれて、キミがいたからボクは色んなことができたから『ありがとう』って言ったの」

「そんなことか、でもお前は自分の気持ちを素直に言えて羨ましいな」

彼はそう言って少し笑いながらボクの頭をクシャクシャと撫でる。少し雑だけどボクが慣れ親しんだ撫で方、彼の手のひらから体温が伝わってきてなんだか落ち着いてくる。ボクがたった一人だけ異性として愛する人が彼でよかった、そう思っていると自然とボクの顔から笑みがこぼれてくる。

「ありがとな、俺もお前に支えられてきたんだよ。どんな些細なことでもお前が居たから俺はやってこれた、お前の笑顔のおかげで何度も元気を出せたんだ」

今度は彼がボクに感謝の言葉を告げた。なんだか聞いてると恥ずかしくなってしまう、ボクが言っていた時の彼もこんな気持ちだったのだろうか?だけど、ボクも彼の支えになれてたことが分かると安心する。お互いに支えあってることが分かったんだから。

「それに、またお前のおかげで勇気が出せたしな」

その言葉と共に、彼は一つのペンダントケースを差し出してきた。ボクが開けてみると、ペンダントトップに透き通った空色の魔宝石をあしらった指輪をつけられたネックレスが入っている。空色の魔宝石は間違いなく彼の魔力が込められたもので、でもこれをプレゼントするってことは……。

「まぁ婚約指輪みたいなもんだ、本当はもっと前に渡そうと思っていたんだけど、なんだか言い出せなくてさ……俺と結婚してくれないか?」

彼が恥ずかしそうな、でも少し嬉しそうな笑みをしてトンでもない事を言った気がする。
結婚?ボクが?彼と?わかっていたはずなのに実際に言われてみると頭がこんがらがってしまう。

「えっと、本当にボクでいいの?」

「いや、お前じゃないとダメなんだけど」

ようやく理解できてきた。さっきのプレゼントは彼からの婚約指輪で、それで彼はボクに結婚を申し込んだんだよね。
……なんだか心の奥から温かいものがこみ上がってくる、それとともにボクの目から涙がこぼれた。

「ありがとう……えっと、なんて言えばいいんだろう?」

「無理に言わなくていいよ、ありがとうだけで十分伝わったから」

彼はギュッとボクを抱きしめてくれた。なんだろう、やっぱりボクは彼がとても愛おしくてたまらないや。だって抱きしめてもらっただけで胸の鼓動が速くなってしまうんだから。たぶん今歌ったら間違いなく『特別な歌』になってしまうのだろうな。

だからボクは抱きしめてくれたお返しにそっと彼にキスをした後に、彼の耳元で小さく歌を歌った。
14/09/17 08:41更新 / アンノウン

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