読切小説
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大樹の陰で寄り添って
 暗く、深い森を歩いている。
 木々に打ち付ける強い雨が、耳を聾するほどの音を立てているばかりで、他の音は何も耳に入らない。自分の歩く音さえも。
 ブーツは中まで浸水しきって、爪先はもう感触がなく、歩いているという実感すら薄れてゆく。
 おそらく、今は日が暮れて間もない時分。まだ凍えるほどで済んでいるが、このまま森で夜を過ごす羽目になったらどうなるか。考えたくもない。
「森で迷子、か……」
 遭難、という言葉は恐ろしくて口に出せない。
 やはり、思いつきで森へ散歩になど繰り出すものではなかった。物書きらしく、宿に篭って机にでも向かっていればよかったのだ。
「宿から眺めたときには、これほど広い森には見えなかったが……」
 
 取材と休暇を兼ねて訪れた、欧州の片田舎にある小さな町。
 気分転換に軽く散歩しようと、宿のすぐそばにある森に繰り出してはや数時間が経っていた。
 この辺りの森で度々行方不明者が出るという噂を思い出したのは、迷子になってからだった。
 とりあえず歩き出したものの、同じような景色が続く森の中ではどこを歩いているのかさえわからず、次第に夜闇に包まれてくれば、足元さえ判然としない。
 ――闇雲に歩いても仕方ない。
 夜が更けるまで待って、月の位置で方角を確かめるか。
 足腰の疲れもあり、私は適当な木の根に腰を下ろした。尻からじっとりと這い登る冷気に身震いする。
「はあ……」
 もはや何度目か分からないため息をついたとき。

「――そこの方」

 不意にかけられた声に、飛び上がりそうになる。
 振り向くと、黒い外套を纏った人影が私の傍に立っていた。
 打ち付けるような雨音が、その人の周りでだけは不思議と鳴り止んでいるかのよう。
 深々と被った黒いフードからはその素顔を伺えず、ただ澄んだ声からして女性であることはわかった。
「大雨の中、このようなところで如何なされたのでしょうか?」
 ざあざあと木々に打ち付ける雨音のなか、その女性の声はやけに通った。
「ああ、ええと……その、道に迷って――」
「左様でしたか。近くにわたしの住む村がございます、よろしければそちらへご案内致しましょう」
「すまない、恩に着る」
「いいえ、当然のことです」
 彼女が小声で何事か唱えると、青白い光球が宙に現れて辺りを照らした。
――魔物娘か。
 やや体が強張る。
 その存在が「発見」され、世間を騒がせたのはもう随分前のことであり、彼女らが人間に害をなす存在ではないことはつとに知られている――が。
 何を考えているのか分からないのは、魔物娘も人間も同じである。
 見も知らぬ他人についていって良いのかという不安が一瞬よぎるが、しかし他に為す術もない。
「失礼ですが、お手をお借りしますね……万が一にも、はぐれることが無いように」
 そう言って彼女はそっと私の手を握った。優しく、しかし逃れられない強さで。手を引かれることなどいつぶりだろうと思いつつ、その手の温かさには抗い難く、私はただ頷くだけだった。


 鬱蒼と茂る木々の中を、彼女は迷いもなく右に折れ左に折れ進んでゆく。しかし次第に、手を引かれる私の脳裏に、ある疑念が浮かんできた。
 彼女はすでに何度も道を折れているが――都会ならいざしらず、このような深い森の中で、かくも複雑な経路を辿ることがあるだろうか?
 彼女まで道に迷ったのか。あるいは私をいたずらに歩かせて、疲れきったところを――。
 いよいよ彼女への疑念が強まってきた頃、突然に目の前が開けた。辿り着いたのは丘のような場所。

「ここは――」
 私は言葉を失う。
 この鬱蒼とした森のなかで、そこだけが開けているというだけでも奇妙であったが――それだけではない。
 家ほどの太さもある巨樹が、丘の上に並ぶようにして聳え立っているのだ。
 それらの木々は生育に従って徐々に捩じれており、遥か上空の方では互いに絡み合いながら、見えぬほどの高みまで梢を伸ばしている。
 村、と彼女は言っていたが家は見当たらない。だが、よく見てみると巨樹の内部は刳り貫かれて家に仕立てあげられているようで、その幹のところどころにある窓からは温かい光がこぼれていた。

「ふう……着きましたね、ご足労頂いて申し訳ありません。ここは外からは秘匿された、いわば隠れ里のような場所でして――さあ、わたしの家にご案内いたしましょう。大して広くもない家ですが……」
「ああ……ありがとう」
 ひとつの巨樹の前で、私たちを先導していた光球が止まり、カンテラに灯った。
「どうぞ、こちらへ――」
 戸を開いた彼女が、外套のフードを外す。
「申し遅れました。わたしはルルシュラ――キキーモラのルルシュラでございます」
 濡れた灰色の髪。細面の顔に、生真面目そうな大きな瞳。
 暗くてはっきりとは分からないが、優しく、真面目そうな顔立ちをしていた。
「私は――」
 寒さで震えながら私も名を名乗ると、相手が聞き取れたかどうかも分からぬまま、家に足を踏み入れた。

 思っていたより広い、というのが家に入って真っ先に浮かんだ感想だった。
 一軒家ほどの広さは優にある。温かい色合いの灯りが優しく照らしだす室内は、床も壁も当然ながらすべて木であり、滑らかに磨かれたそれは独特の温かみを持っていた。
 家の内部の構造じたいは然程変わったところはなく、ただ部屋の中央に大きな柱状の螺旋階段があり、地下や上階に通じている。
 ――奇矯な外見に反して、思ったより居心地の良さそうな空間だ。
 そんなことを思いつつ、どっぷりと雨水を吸ったコートを脱ぐ。
「コートはこちらでお預かりいたします――湯浴みの支度はもう出来ておりますので、まずは浴室へ」
 道中ですでに魔法を使って手配していたのだろうか。そういえば、キキーモラといえば家事に長けた魔物娘であったなと思い出しつつ、私は浴室に入り、震える手で半ばはぎ取るように濡れた衣服を脱いだ。

 湯煙漂う浴室は、浴槽も含めてやはり木で組まれていて、仄かに樹木の香りが漂っていた。
 家主であるあの女性は石鹸にこだわりでもあるのか、壁一つを占める大きな棚には石鹸がいくつも並べられており、見慣れた白い石鹸から黒や黄、はたまた赤い色のものまである。少したじろぎつつも、見慣れた色のものを取り、軽く身体を流してから湯船に浸かる。
 凍えた四肢には湯水がひどく熱く感じられ、思わず声が漏れた。それも最初のうちで、すぐに体がほぐれてゆく。
 小さな円形の窓の外を見やると、やや小雨になったものの、まだしとしとと降り続いているようだった。一晩中降り続くのかもしれない。
「ひとまず今晩はここに泊めてもらうとして、その後どうするか……」
 まさか宿まで送ってもらうというわけにもいかないだろうし。
 彼女の他にもこの村の住人はいるようだし、何かの用事で森を出るときについていくか。
「しかし、隠れ里、か……」
 つまり、ここには何かしらの事情があって隠れて暮らしたいという人々が集っているということか。
 私を助けてくれた彼女――ルルシュラは、いかなる理由でここに住んでいるのだろう。
 ぼんやりと思いを巡らせながら、私は湯船から上がった。


 入浴を済ませ、用意されていた衣類に着替えると。
「夕飯のご用意ができております。どうぞこちらへ」
 扉の向こうで待ち構えていたかのように、ルルシュラと先ほど名乗った女性が姿を現す。彼女も着替えたのか、黒を基調としたメイド服に着替えていた。目立たないながらも品の良さを感じさせる意匠で、首元に結ばれた鮮やかな赤いリボンが華を添えている。
「申し訳ない。あとで何かお礼を……」
「いいえ、とんでもございません。そのようなことはお気になさらず」
 軽やかに私の謝辞を遮って、彼女は私の前に立って歩いてゆく。

 客間に戻ると、既に食事が並べられていた。私が入浴を済ませる時間まで計算して作ったのか、どれもまだ湯気を立てている。野菜たっぷり熱々のポトフに、ふっくらした焼きたてのパン、粗塩のかかった肉汁滴るステーキ。
「突然のご来訪で、たいしたものはお作りできなかったのですが……」
 申し訳無さそうにルルシュラは頭を垂れたが、正直に言えば普段の食事よりよほど上等だった。
「とんでもない。ありがたくいただこう」
 はじめはなるべく上品に食べようとしていたが、腹が減っているところへこんな旨そうなものを出されて我慢できるはずもなく。
 気づけば、がつがつと貪るようにして口に運んでいた。どの食材も素材の味が際立っていて、さっぱりとした味付けと相まって、否が応でも食が進む。
 夢中でポトフを啜り、肉を咀嚼し。
気づけばあっという間に平らげてしまっていた。
「……どうやら、お気に召していただけたようですね」
 食べ終えて口元を拭っているところへ、笑いを含んだ声が後ろから聞こえてきて、私は赤面する。
「申し訳ない。あまりに美味しいものだから、つい夢中になってしまって……あ、そういえば貴方の食事は」
「いえ、わたしのことはお気になさらず。美味しそうに召し上がっているのを見て、なんだか胸が一杯になってしまいました。ふふ、お茶を淹れてきますね」
 手際よく食器を片付ける彼女。機嫌良さげにふりふりと揺れる尻尾を見て、そういえば彼女は魔物娘だったと思い出す。
 さすがはキキーモラといったところか、動作のすべてに無駄がなく、手際が良い。
「身体を温めるためにブランデーを少々入れても?」
「ええ。あと、良かったら二人で飲みたいな。なんだか一人で飲み食いするのは気が引けて」
「いえ、どうかお気になさらず。ですが、そう仰るのでしたらご相伴させていただきます」

 しばらくして、芳醇な香りとともに二人分の茶器をルルシュラが運んできた。
礼を言って一口啜る。味音痴の私にはどこの茶葉かも分からないが、しかし上等なものであると感じた。かすかに香るブランデーも悪くない。
「美味い。……ルルシュラさんはお茶を淹れるのも上手なんですね」
「ふふ。この家にはわたしひとり、女寡の暮らしなのですが――そうおっしゃっていただけると幸いです」

 どことなく嬉しそうに微笑む彼女の横顔を、蝋燭がぼんやりと照らしだす。陶器のようになめらかな肌は白く、細く流れるような眉の下には、綺麗な二重瞼に生真面目そうな大きな瞳が並んでいる。思わず触ってみたくなるような、形よくつんと尖った鼻の下には、桜色の控えめな薄い唇。
 家事に慣れた、細長くしなやかな指先は器用にティーカップの持ち手を摘んでいる。
 肩ほどの長さの灰褐色の美しい髪は家事の邪魔にならぬよう後ろで束ねられ、サイドに細く垂らされた横髪が、彼女の生真面目な表情を彩っていた。

 ――美しい女性だと、ぼんやりと思う。
「どうなさいましたか?」
「いや――よくよく考えて見れば、若い女性の家に突然転がり込むなど非常識もいいところだなと。それと、改めて自己紹介を――」
 改めて自分の名を名乗り、お礼を言う。
「いいえ、独り者で退屈を持て余していたところですから――。それと、これは無礼な質問かもしれませんが……そもそもなぜ森の中で迷子に?」
 不思議そうな彼女の瞳。若干の羞恥を覚えつつ、正直に答える。
「ええと――まあ、文筆業のようなことをしていて、ここには休暇で来たんだけれど、ちょっと宿の近くの森で散歩でもしようかと思ってね。森に入った辺りで雨が降り始めて、慌てて引き返そうとしたら、来た道がわからず……」
「なるほど――」
 一瞬、彼女の顔に笑みが浮かんだような気がした。けれどそれはすぐに消えてしまったから、蝋燭の火の揺らめきが見せた錯覚だったのだろうと思った。

「この辺りの森は地形が少々特殊でして――というのも、先ほど申しましたように、ここは隠れ里ですから、この丘を中心にして人除けの結界が張られているのです。そのせいでやや空間が歪んでいる場所がありますから、そこに迷い込まれたのでしょう。この辺りではしばしば、そのようなことがあると聞きます」
「それはぞっとしないね……」
 はた迷惑な結界だ、と思ったが、それは口にしないでおく。この辺りの森で行方不明者が度々出るのは、そういうことだったのだろう。

「ちなみにルルシュラさんはなぜあそこへ?」
「結界に反応があったので、たまたま家に帰る途中だった私が確認に行ったんです。まあ、若い人間の男性が迷子になっていたと知っていたら、もっと多くの仲間たちが『助けに』来ていたと思いますけれど。ふふ」
 そういって彼女は微笑んだが、私からすれば笑い事ではなかった。
「さて、今日はもうお疲れでしょう。寝室にご案内しましょう」
 ブランデーも手伝って、確かにもう瞼がずいぶん重い。
「何から何まで申し訳ない。ありがとう」
 そこでふと気になって尋ねる。
「来客用に寝室まで用意しているの?」
 彼女はばつの悪そうな顔をした。
「いえ……その、ベッドは一つしかないので、わたしはソファで休みます。わたしの布団を使うのは嫌かもしれませんが、清潔にしてありますのでどうかご寛恕ください」
「嫌ではないんだけれど、流石に家主から寝床まで奪うのは申し訳なくて。私がソファで寝ますよ」
 そう言って私はソファに寝そべる。良い綿を使っているのか、そのまま埋もれていきたくなるような寝心地だった。私の家のベッドよりむしろ上等で、寝るのに全く困らなさそうだ。
「で、ですが、ソファなどで寝たら身体を痛めますし、万が一風邪など引かれたら……」
「いや、大丈夫。仕事柄ソファで寝落ちすることはよくある……し……」
 睡魔が意識を飲み込んでゆく。
「あ、あの……?」
 ……。



****



 腕の中に、なにか温かいものを抱いている。
 柔らかくて、良い匂いのするもの。
 いや――私が押し当てている、のか。
 布一枚隔てた女の尻肉に、陰茎をねっとりと擦り付け、押し当てている。
 これは自分のメスだとマーキングするかのように。
「……っ、や、あ……んっ」
 クロッチを指先でなぞると、それは既に湿りきっていた。
 もはや下着として用を為していないそれを、そっとずり下ろして――
「……ん?」
 そこでやっと意識が覚醒した。

 ――私は何をしている?
 昨日は確かルルシュラに遠慮してソファで寝たはずだが、何故か今は温かい布団の中にいる。
 窓を見やると、外では依然として雨が降り続けており、夜は明けているようだが辺りは暗い。室内の空気もやや冷たいが、布団の中は二人分の体温で心地よい温さを保っていた。
 二人分。
 そう、腕の中にいるのは――

「おはよう、ございます……」
 戸惑ったようにこちらを見返す、ルルシュラだった。
 髪は肩のあたりで緩く結わえられて、寝間着であろうローブは半ばはだけ、その下の柔肌が見えている。
「や、やあ……えっと、これはどういう……」
「その、ですね――」
 彼女曰く、ソファで寝入ってしまった私は暫くするとくしゃみをし始め、風邪を引くのではないかと危惧した彼女によってベッドに移されたらしい。
 そして彼女も、ベッドで私の様子を伺っているうちに寝入ってしまった、と。
「で、寝ぼけた私があなたに抱きついていると……。意識がなかったとはいえ、申し訳ない。他に疚しいことをしていないといいのだが」
 兎にも角にも謝って身体を離そうとすると、何故かルルシュラはそれを拒むように私の袖を掴んだ。

「……もう少し、このままでいてよろしいですか?」
「え?」
「お話ししたいことが、あって」
 ルルシュラと目線が合う。
「は、はい」
「その、それと関係あることなのですけれど」
 ルルシュラの右手が私の充血しきった陰茎を指差す。
 先程まで彼女の臀部に押し当てられていたそれは、性懲りもなく勃起したままだった。
「それが、見ていて、すごくお辛そうで――。この手を、ご覧いただけますか?」
 彼女がこちらに手をかざす。

 手。
 何故か、憑かれたように彼女の手から目を離せない。
 ほっそりとした、しなやかでよく動く指。爪は清潔に切りそろえられ、家事の邪魔にならぬよう装身具の類はつけていない。フリルのように美しく揺れる手首の羽根。
 あの指が、私の破裂しそうな陰茎をしごいてくれたら。白濁をその手にぶちまけてしまえたら。
「この手で、口で、身体で――あなたに奉仕したいのです」
 そして深く深く、私の目を覗き込んでくる。
「奉仕させて、いただけますか?」
「あ、ああ……」
「では、主従の誓いを立てましょう」
「主従……?」
「大したものではございません。わたしがあなたの侍従になることを了承していただければそれで良いのです。ただの形式的なものですから」

 にっこり。
 話しながら、彼女の右手はなおも私の陰茎に近づいてゆく。
 じわり、じわりと。
 手首の羽毛をさやさやと揺らして。
「そうすれば――わたしのすべてをあなたに差し上げます」
「すべ、て……」
「ええ。ご覧になりますか?」
 ルルシュラは膝立ちになると、すでにはだけていたローブを脱ぎ落とした。
 雨降りの朝の淡い光が、彼女の裸身を照らす。
 形よく、十分な大きさをもった乳房。淡く色づいたその先端の周りには、程よい大きさの乳輪。
 ウエストは細く括れているが、腰つきはそれとは対照的にむっちりとしていて、尻はよく熟れた果実のように丸みを帯びている。女陰は尻尾で隠されていたが、むしろ扇情的だ。
よく調律された楽器のようだと、麻痺しきった脳裏のどこかで思う。

「ふふ、お気に召しましたか? すべて、あなたのものです――でもあとひとつ、承知しておいていただきたいのは」
 私のもとに擦り寄り、耳元で囁く。
「わたしもはやく、自分をあなたに献じたくてたまらないのだということです」
 そういうと彼女は、秘部を隠していた尻尾をぴんと上げて、こちらに向けて両足を開いて見せた。
 露わになったのは、男を咥えこんだこともない、綺麗に閉じた桜色の秘裂。
 それがいまは清楚さの欠片もなく、はやく男根が欲しいといわんばかりに、潤みきって涎を垂らしている。
 ――ここに入れたい。
 あまりに原始的な欲求。
 ぴったりと閉じたそこを、亀頭で割り開き、押し入って、ぐちゃぐちゃに掻き乱したい。
 そしてそうする権利が、鼻先にぶら下がっている。
 もはや迷うこともできなかった。
「ああ……君の主人になろう。だから、はやく――」
「ええ、悦んで差し上げます。『ご主人様』」

 返事を聞くやいなや、私は彼女に挿入した。
「う、あっ……っっっ!」
 つ、と赤い染みがベッドにできる。私が奪ったのだと、どこか他人事のように思いつつ、膣のなかを押し拡げていく。先ほどまで男を知らなかったそこは、私の男根をぴっちりと締め付けつつ、ひくひくと蠢いて歓待してくれた。
「あ、は……ごしゅじんさま……♥」
「ルルシュラ――」
「ルルと呼んでください――ああ、わたしだけのご主人様……♪」
「ルル、好きだ」
 ゆったりと抽送を繰り返しながら、ルルシュラの頬や胸、首筋にキスをする。
「わたしもっ、すきです、ご主人様――森のなかで手をお繋ぎしたとき、あなたがわたしのご主人様だって、すぐに分かったんですっ」

 ――だから、他の誰にも渡しません。
 耳元で囁かれた独占欲は蠱毒のように深く染みこんで、私の嗜虐心を刺激する。
 彼女の奥深くにまで埋没させていた陰茎を、生ぬるい膣汗に塗れた亀頭が見えるぎりぎりまで引き抜き。
「やっ……ぬいちゃいやですっ……ぁっ、んひぃっ」
 一気に奥まで貫き戻す。
 既に膣奥が開発されつつあるのか、深く突き入れるたびにルルシュラは身体をよじらせて喘ぐ。カリ首で膣壁のヒダをぐにぐにと擦れば、内壁はますます悦びうねって陰茎に奉仕した。
「はひっ……んくっ、きもちい、ですか? ごしゅじん、さまっ――」
「ああ」
 この快楽は、彼女の懸命な奉仕によるものなのか、魔物娘の本能の為せる業か。それとも――
「ごしゅじんさま、すきっ、だいすきですっ――」
 これだけの痴態を晒して、なおも思いの丈を吐露してくる彼女がたまらなく愛おしい。彼女の胎内を、私で満たしてやりたくなる。
「っ……中で出して、いいか?」
「ええ……っ、なかで、たくさん出してください……っ、!!」
 びゅくり、びゅくりと膣内で思う存分に射精する。
「あ、は、ごしゅじんさまの……♥」
 精を放つごとに彼女の膣肉が欣喜雀躍するのがわかった。その動きがまた、次の射精を促し、精巣が空になるまで絶頂が終わるのを許さない。
「……っ、ふう……」
 ようやく最後の一滴まで出し終えて、彼女の上に倒れこむ。柔らかな乳房がぐにゅりと胸板の下で潰れた。
「ふふ……お疲れ様でした」
 ルルシュラは私を抱きとめると、そっと耳元で甘く囁く。
「すごくきもちよかったですよ……♥」


 行為が終わったあとも、私達はしばらく抱き合って呼吸を整えていた。
「……凄かったね」
「ええ……その……き、気持ち悪くなかったですか?」
 陶酔から覚めたばかりのルルシュラが、快楽の余韻と不安をないまぜにした瞳で見上げてきた。
「いや、気持良かった……違うな。可愛かったよ、すごく」
「ほ、本当ですか? その……ご主人様に奉仕している、気持よくさせてあげられているって思うと、お腹がきゅんきゅんしてしまって、うまく奉仕できたかどうか……」
 彼女の灰色の髪をふわりと撫ぜて、耳元で囁く。
「じゃあ、もう一回して確かめようか?」
「ま、まだ朝ですし……でも、わたしも――」

 と。
 バサバサ、と、甘い事後の空気には似合わぬ羽ばたきの音がした。
「きっと上階に住んでいるハーピーの子でしょう。覗かれていたかもしれません」
 そういってルルシュラはくすくすと笑った。あれだけの痴態を見られても、魔物娘同士なら気にならないのか。
「……樹の上の方は鳥人型の魔物娘たちが住んでいるのか。飛べる彼女らは良いとして、旦那さんたちは出入りが不便じゃないの?」
 この家、というか樹も、幹の相当高いところにまで住人がいるようだが、階段は三階――つまりルルシュラの居住区までにしか続いていないのが気になっていたのだ。
「ええ、そうですよ。だから良いのです」
「え?」
「自分の夫が、自分の手助けなしでは家から出ることもできない――彼女たちにとって、それはとっても素敵なことなのですよ」
 そう言って彼女は柔らかく微笑んだ。
「ふふ。そろそろお風呂に入りましょう。日が高くなってしまいます」


 それから二人で朝湯に浸かり、今後について話し合った。といっても、湯船で膝の間にルルシュラを座らせてその肢体を弄りつつ、ではあったが。
「少し、この土地について説明を追加しておきますね」
「ああ、うん」
 彼女の二の腕を撫でつつ、適当に相槌をうつ。
「実はここ、ある王族の別荘地なのです」
 思わず手を止める。
「王族っていうと……魔物娘の?」
「ええ、そうです。リリムというのですが。その方が、その……少し変わった方でして。人嫌いなのですが、近くに誰もいないとそれはそれで寂しいと仰って、わざわざこの村を作ったのです」
「この異様に大きな木々も、その人が?」
「ええ。育てたと仰っていました」

 色々とスケールの違う人のようだ。
「もちろん、こんな森の中に住めと言われて住む魔物娘はそう多くありません。ましてや人除けの結界など張られたら、旦那様に巡り会える機会も減りますし。ですが、その方が提示した報酬――ここに住めば、遠からず理想の殿方と出会えるよう、運命に偏斜をかけてやるという話を聞いて、誘われた人々は皆喜んでここに来たのです」
 運命まで弄れるのか。
 スケールが違うどころではなかった。
「なるほど――それで、君もその一人だと」
「ええ。そして、実際にご主人様と出会えたのです」
 彼女は満面の笑みを浮かべた。
「もう絶対にこの機は逃せないと思って――寝ているご主人様をベッドにお連れして同衾したのは大きな賭けでした」
「ああ、あれはやっぱりわざとだったんだ……」
「湯浴みなさっているところへ入っていく案もあったのですが、やや古典的すぎるかと思いまして」
「色々腹案があったんだね……」
「まあ、そういった経緯がありまして、わたしはここを離れるわけにはいかないのですが――」
 潤んだ瞳でこちらを見上げてくるルルシュラ。
「じゃあ、私もここに住むしかない、と」
「……嫌ですか?」
「いや、全然。正直、私の家よりここの方が住み心地も良さそうだからね……」

 といっても私の家が特別汚いというわけではなく、この家が快適過ぎるのだ。
「そうすると、泊まっていた宿には戻らず、行方不明扱いされている方がいいのかな」
 そう言って、湯に入らぬよう髪を上の方で結わえたルルシュラの、白いうなじに口付ける。
「ひゃ……ん、そうですね。何か取りに行くべきものなどありますか?」
「うーん……どちらかと言うと宿ではなくて自宅のほうにあるな」
「お仕事道具でしょうか?」
「いや、妻と娘」

 振り向いた彼女はこの世の終わりのような表情を浮かべていた。
「嘘だよ。独身さ」
「……心臓が止まるかと思いました」
 よほど焦ったのか、安堵して私に頭を預けてきた彼女の頬に口づけてやる。
「もし本当だったらどうしてた?」
「うーん……とりあえず急いでご主人様に孕ませてもらいます」
「ふ、ふむ……」
「それから奥様を拘束して……動けない奥様の前で、家事とセックスと子育て、奥様の代わりにぜんぶご主人様のためにやってさしあげるんです。そうしたらきっとわたしとの関係に納得していただけるでしょう」
「なるほど……」

 とりあえず、独身でよかったと思った。
「ついでに確認しておきますけど……この辺りにはキキーモラがたくさんいますが、わたし以外の子を雇わないでくださいね? あの子たち、自分のご主人様探しに必死だから何をするのか分からないんです」
「それは良いことを聞いた」
「……」
「冗談だよ」
「もう……」
 心配性で嫉妬深いルルシュラが可愛くて、私はもう一度彼女を強く抱き寄せた。
 
 さんざんいちゃついてから風呂から上がり、ルルシュラの身支度が終わるのを待つ。
「お待たせしました」
 ややあって、いつものメイド服に身を包んだ彼女が出てきた。
 と、透き通るような紅色をした、羽根でできた飾りを前髪のあたりにつけていることに気づく。
「――綺麗な髪飾りだね」
「ふふ。これは『飾り羽根』でございます」
「飾り羽根?」
 ルルシュラは軽く頬を染めながら説明した。
「わたしの一族に伝わる風習でして、自分の主人を見つけた者はこれをつけるのが習わしなのです。魔力で自らの羽根を染めてつくったのですが……やはり、色が少々派手すぎるでしょうか?」
「いや、よく似合っているよ」
「ありがとうございます」
 嬉しそうに会釈する彼女は、以前にもまして美しく見えた。



***



 それから何とも気楽な生活が始まった。私は別名義で文筆業を再開し、一応はそこそこの収入を得ていたが、王族の別荘地を管理しているということで、何もせずとも定期的に生活物資は送られてくる。
 正直働く必要もないのだが、何もしないとそれはそれで暇だし、何よりルルシュラの視線が痛い。
 仕事の進捗管理も彼女によって厳格に行われるため、滅多なことでは原稿を落としたりしなくなった。
 
 とはいっても、ルルシュラもやはり魔物娘なわけで。
 たとえば今、書棚の整理をしている彼女の尻を撫でさすっても、顔を赤らめるばかりで止めようとはしない。
「そこのところ、どうなんだい。勤務態度に問題があるのではないかね」
 ロングスカートの中に手を突っ込み、生尻を揉みしだきながら白々しく言ってみる。
「その……わたしのなかにも、仕事の優先順位というものがあるのですよ」
 言いながら彼女はこちらに向き直った。
「ほほう」
「掃除は毎日しなければなりませんし……料理洗濯も、とても大事なことです。でも、一番大事なのは……」
「うん?」

 ルルシュラは頬を染めながら、言葉を継いだ。
「その、ご主人様の、性欲処理です」
 そして私の前に跪くと、ズボンの前をまさぐり、隆々と勃起した陰茎を露出させる。
「はむ……んちゅ、んちゅ、いくら侍従とはいえ……んぷ、ご主人様が性欲を持て余して、他の女性に手を出したら、嫌ですし……だって、ご主人様に奉仕していいのはわたしだけですから」
 小さな口で、ついばむように亀頭にキスを繰り返し、陰茎をゆるゆるとしごきつつ、彼女は話し続ける。
「それに、……主従の絆を一番深めるのは、んむ……性行為だとされています」
「なるほど。具体的にはどんな行為がいいのかな? 例えば今、このまま口に出すのと膣内で出すのだったらどっちが良いの?」
「ん、ぷはぁっ……それは……その、膣内のほうが……」
困ったようにこちらを見上げる瞳には、欲望の色がちらついている。
「おくちで、ご主人様の、おちんちんの、かたちとか舌触りとか、においと、味を確かめるのも、好き、ですけど……でもやっぱり」
「いれてほしいの?」
「は、い……」
「ふーん……でもルルの口の中にもだしたいから、両方にしようかな」
「わかりました……んぷっ」
 ルルシュラはゆっくりと、確かめるように私の陰茎を口に含んだ。カリ首をくすぐるように舌先を震わせ、竿まで舌を這わす。普段の仕事振りと変わらぬ丁寧さで。

 口淫をしている最中の彼女は、乱れつつも普段の生真面目さを残した、ひどく倒錯的な表情を浮かべている。それをじっと見ていると、上目遣いの視線がこちらを向いて、微笑んだように見えた。
 たまらない。
 陰茎の脈動で私の興奮を感じ取ったのか、ルルシュラは首の動きを早める。こらえきれずに私が白濁を溢れさせると、亀頭を丹念にしゃぶり回し、輸精管に残った分まで綺麗に吸い出す。
 薄い唇の端についた精液まで、舌先でぺろりと舐めとってから、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。
「んくっ……ぷはっ……ああ、またこんなに精を頂いてしまいました……おくちでばかり頂いていると、太ってしまわないか心配です」
 私の精液を堪能してから、ルルシュラは今更のように頬を抑えて困る素振りをみせる。そういえば、朝もルルシュラの口淫を愉しんだのだった。
「なるほど、むっちりとしたルルもきっと可愛いだろうね」
「もう……幸せ太りだと、周りの者に噂されてしまいますから……」
「じゃあ、その分動こうか――ほら、壁に手ついて。お尻突き出して」
 ルルシュラは言われるがままに壁に手をつき、スカートをたくし上げて尻をこちらに突き出した。肉付きのよい、むっちりとした安産型の腰。細くくびれたウエストとのギャプが、たまらなく肉欲を刺激した。

 と、尻肉の狭間から、可愛らしい菊穴と濡れそぼった女陰が既に覗いていることに気づく。
「あれ……下着、いつの間に脱いだの?」
「その……さっき、ご主人様のをおくちでしゃぶっている間に、脱ぎました」
 顔は見えないが、声から明らかに羞恥の色が感じ取られた。
「なんで?」
「……ご主人様のをしゃぶっていると、あそこが、濡れてきてしまうから、です……」
「そうかな? 他の作業してるときも、いやらしいこと考えて濡らしてるんじゃないの?」
「そんなことは……ふあ、ぁっ――」
 返事を待たずに私は挿入する。柔らかい尻に腰を密着させて、潤びきった膣肉を最奥まで押し拡げてから、小刻みに動いて膣奥を刺激する。
「ひぁ、っ、おく、おくだめです、そこ突かれるとすぐいっちゃ、っ、あ、あんっ」
 背を弓なりに反らせて、ルルシュラは面白いようによがる。
「ルルはポルチオ弱いよね」
ついでに結合部に手を伸ばし、陰核を指で擦りあげてやると、嬌声はより甲高いものになった。

「はぁ、はぁっ……んっ、んううぅっっ」
 はやくも達してしまった彼女が膝から崩折れないよう、後ろから抱きしめる。
「ぁ、んん……えへへ」
 普段は直接的に甘えることが少ないルルシュラだが、達した直後に抱きしめてやると小動物のように頭を擦りつけてくる。
「私はまだ終わってないから、続きはソファでしようか」
「はい……こんどは、ご主人様のお顔を見ながら、したいです」
「はあ、分かったよ……」
 暖炉のそばのソファまで移動すると、ルルシュラの頼みに応じて今度は正常位で繋がる。
 正直、正常位では十分と持たない。
 彼女の淫らに蕩けきった表情を見ていると、まるでこらえることができないのだ。
 おまけに今は、お互いに最低限しか衣服を脱いでいないというのも興奮の材料になっていた。彼女の貞淑なメイド服の下に隠された欲望を暴き立てるかのようで、一糸まとわぬ姿での交合とはまた違う快楽がある。

「ごしゅじん、さま……」
 愛おしげに私に呼びかけるルルシュラ。しかしいつものあの生真面目な表情の代わりにあるのは、欲望に潤んだ瞳と、上気した頬。だらしなく緩んだ口元。
「ルル、そんな、顔をするのは……ずるいな……」
 彼女の膣内で陰茎が更に膨れ上がるのを感じた。
「ふふ……ごしゅじん、さまも、すごい顔してますよ……?」
 そういって彼女は私の頬に手を添えた。
「ごしゅじんさま、すき……大好きです……♥」
「ああ、私もだ、ルル……そろそろ出す、よ」
「はいっ、んっ、きてっ、くださ、なかにたくさん、んむ、んぅ……っっっ!!」
 ルルシュラに深く接吻して舌を絡め合う。互いの口腔を貪欲に貪りながら、私は彼女の奥で果てた。


 それから暫く真面目に仕事をし、一段落した頃。
「お疲れ様です、ご主人様」
 ルルシュラが紅茶を持ってきてくれた。
「ああ、ありがとう。君も少し休んだらどうかな?」
「ご主人様がそう仰るのなら――」
 天気が良かったので表にティーテーブルを出し、二人で暫しのティータイムを楽しむことにした。
 吹き抜ける風には早くも秋の気配が感じられる。こうして外で紅茶を楽しめるのもあと少しだな、などと思っていると、隣家のキキーモラが羨ましそうにこちらを見ているのに気づいた。
「あの子にはまだパートナーがいないのかい?」
「ええ、この前会ったときに少しお話しして。はやく『飾り羽』を付けられるようになりたいと言っていた、のですが――」

 ルルシュラの表情がどことなく暗いものになる。
「どうしたの?」
「いえ、なんだかあの子、よくご主人様の方を見ている気がして。ご主人様を狙っているんじゃないかと不安に……」
「なるほど」
 正直、気のせいではないかと思ったが、妙案を思いついたのでルルシュラに向き直る。
「ねえ、ちょっと提案があるんだけど」
「な、何でしょうか」
「たまには外で、してみようか」
「え、そんな――」
 ルルシュラの尻尾が、ぴくりと跳ねる。
「ほら、こっちにおいで」
 彼女の手を引いて、物干し場に誘う。

「ごしゅじん、さま――」
「ルル」
 隣家からの視線を感じながら、洗濯物の影で彼女に口付ける。熱くとろけるような唾液と、いつにない貪欲さで私の舌を求める動きから彼女の興奮が伺えた。
「んっ……ぷは、ほんとに、ここでなさるんですか……?」
「ああ」
 干している洗濯物で陰にこそなっているものの、シルエットや足元で何をしているかは丸分かりだろう。
「って言っておいて、ルルも期待しているんじゃないかな」
 そう言って私は彼女のスカートをまくり上げる。乳房と同様、豊かな丸みを帯びた白尻をまろび出させて、邪魔な下着を引きずり下ろす。

「ほら、やっぱり」
 控え目に茂る陰毛はぐっしょりと濡れ、淫らに蜜を垂らす花弁に張り付いている。その陰唇をくぱ、と開いてみれば、淫肉にねっとりと絡みつく大量の白濁。先ほど私が彼女の膣内に放った精か、溢れ出る愛液か、もはや判じがつかない。
「うう、だって……でも、こんな、お外でなさるなんて……ひんっ」
 話し終える前に、背後から固く膨れ上がった陰茎を挿入する。腕をがっちりと彼女の胸に回して、きつく抱きしめながら遠慮なしに突き上げる。
「ひ、ぁうぅ……あん、あぁううぅっ……ご、ごしゅじん、さま、しげき、つよすぎて……ぅ、あ……っ」

 傍から見れば女中を手籠めにする主人といったところか。
 ルルシュラはこうして少し乱暴に犯されるのも好きだと、私は理解していた。
「ほら……もう少し声、抑えないと、みんなに聞こえるよ?」
 諭すような言葉とは反対に、腰の動きは激しくしてゆく。ぱんぱんに膨れ上がった亀頭で、彼女の慎ましやかな膣肉をめくれ上がるほどに擦り、子宮口を小突き、胸を揉みしだく。
「っ……、ルルのナカは何回犯しても慣れないな……もう出してしまいそうだ」
 もう少し腰の抽送を激しくしようと、胸から手を離して彼女のくびれを掴んだとき。
「ひあ、ぁ……ごしゅじんさま、わたし、立ってられなっ……」
 胸に回されていた手を離されたことで支えを失ったルルシュラは、咄嗟に洗濯物に手を伸ばそうとする――が、せっかく干した洗い物が地面に落ちてしまうことを危惧したのか、諦めて犬のように手を地面につく。

「おや、犬のような格好だね」
「ひ、んぐっ、こんなかっこう……はずかしい、です……っ」
 返答とは裏腹に、彼女の膣内はきゅんきゅんと私の亀頭を、竿を締めつけてくる。
「すごい締りだな……見られて興奮しているのかい?」
「ちがっ、ます、わたし、うれしくてっ……っ!」
「何が?」
「みんなにっ、わたしがごしゅじんさまの、ものだってこと、あぴーるっ、できてっ、うれし……あぁんっ」
「……はは、本当は逆だろう? 『私が』ルルのものだってアピールしたいんじゃないか」
 振り向いた彼女は、真っ赤に紅潮して、わずかに顔を振ってみせた。
「くっ……っ、もう、出すよ」
「はぃいいっ……! なかに、たくさん出してくださいっ……!!」
 彼女の最奥で精を放つ。熱い精液を浴びせかけられて彼女も絶頂に達したのか、そのまま膝をつきそうになる身体をすんでのところで抱きとめる。

「ああ、服に少し土が付いてしまったね。すまない」
「うう……っ、すごく……きもちよかったです……」
 でも少し休ませてください、と言い足してルルシュラは立ち上がろうとするが、腰に力が入らないようだ。
「抱っこしてソファに連れて行ってあげようか」
「えっ、いや、そんなことをご主人様にさせるわけには……」
「よっ、と」
「ひゃっ……!?」
 背と膝を抱える形で彼女を抱き上げ、室内へ運ぶ。
「大丈夫大丈夫、すぐだから」
 通りすがり、なにやら赤面している隣家のキキーモラに会釈をし。
 無事に彼女をリビングのソファに横たえる。
「ありがと、ございます……」
 頬を赤らめたままのルルシュラの髪を撫でる。
「……ご主人様、意外と力持ちなんですね」
「うん。見なおした?」
 力こぶを作ってみせる。ルルシュラは笑うかと思ったが、何故かにこにことしていた。
「ええ――侍女をあんな風に抱っこしてくれるご主人様なんて、滅多にいませんから――やっぱり、わたしのご主人様が一番です」
 そう言って、はにかむように笑ってみせる彼女だった。


 そうして一日が終わり。
「さ、はやく床に就きましょう」
 お互いに寝る支度を済ませ、寄り添うように寝室に入る。
 時刻はきっかり夜の十時。大の大人が寝るにはかなり早い時間だが――なにも、すぐ寝るというわけではない。

「ご主人様――」
 床に入って、まずは長いキスをする。溢れる唾液がどちらのものかも分からなくなるまで、労るように、慈しむように舌を絡ませ合う。
「――ぷは」
 唇を離すと、今度はもうすっかり親しんだお互いの身体をゆっくり愛撫する。湯上がりの肌はいつにもまして柔らかく、また石鹸の匂いの向こうに彼女の体臭を探して、鼻と舌で肌の上をあちこち探りまわるのが愉しい。
 こうして、寝る前は、昼間とは異なるゆったりとした交わりを楽しむのが私達の常だった。
 頃合いを見て挿入するものの、膣肉に陰茎をなじませるように、動かすことなくゆっくりと時を過ごす。今日もさんざん精を放った彼女の膣に栓をするように、奥深くまで貫いたまま。
 どちらかが眠りかけたところで身体をゆすり、ゆるゆると、絶頂には至らない快楽を楽しみながら、睦言を交わし合う。
 そうして夢うつつの中で、互いの身体に安らったまま、私たちは心地よいまどろみに落ちていくのだ。目覚めたときに、互いをもっとも近しく感じられるように抱き合いながら。
16/06/12 00:57更新 / しろはなだ

■作者メッセージ
最新家電を家庭に導入され、はじめは喜んで使っていたものの次第に自分の仕事が無くなるのではないかと不安がるキキーモラさんを安心させるために買った家電をすべて粗大ごみに出したい。

長いお話しを読んでくださった方、ありがとうございました。

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