読切小説
[TOP]
嫉妬深い僕の彼女
今日もエリザの行ってきますのちゅーを強要されてそれに逆らうこともできず、また逆らうことなどもっての他で彼女の柔らかい唇にキスをします。
そんなキスをする僕と彼女をうらやましそう彼女の髪である蛇がじっと僕を見つめている。
正直にいえば僕も彼女の髪でありまたもう一人の彼女である蛇の一匹一匹にもキスをしたいのは山々だけど、そうするそのままベッドイン確定ですよ。
昨日はお楽しみでしたね。が基本な僕と彼女だけど流石に仕事に遅れるのは駄目なのだ。

「今日はもしかしたら遅くなるかもしれないから、先に食べていてもいいよ」
「……浮気?」
「えっ……違うけど」
「嘘。貴方が遅くなることなんて今までなかったじゃない」
「今日の仕事は一日かかるかもしれないからね。それにいつもは早めに終わる仕事を受けているんだけど」
「依頼で遅くなる……もしかして依頼主は女?」
「エリザ、君の感は相変わらず鋭いね。だけどただの依頼だよ。」
「……つまり浮気なのね。そう……なら貴方を監禁しなきゃね・・・・・・」
「だから違うよ。あっ、もう時間だ。それじゃあ行ってくるよ」


素晴らしく想像力豊かな深読みで殺気爆発な彼女に逃げるように僕は家を出た。
本当に僕の彼女は嫉妬深くてに可愛いな。
ただ家の中で彼女が何やらつぶやいていたのは聞かなかったことにするけど。



今回の依頼主の指定した喫茶店に入る。
カランカランと気持ちの良い鐘の音が鳴るのを聞きながら周囲を見渡す。
客入りはなかなか良いみたいでマスターもウエイターも忙しそうに動いている。すると既に依頼主のワ―ラビットのお嬢さんが窓際の席に座っていて、僕も彼女の面を向き合うように椅子に座る。


「初めまして、貴女がニアさんですか?」

突然声をかけられた事に彼女はは驚いたようだ。
そして不安げに僕を見る。


「はい、そうですけど……えっと貴方がアーリストさんですか?」


僕は頷き、話をきり出した。

「あのすみませんがいきなり仕事の話になりますがよろしいですか?」
「はっ、はい。えっと今回の依頼なんですが……本当にこの値段で引き受けてくれるんですか?このような仕事を頼むのは初めてで……もしかして他のギルドでもこのように対面して依頼の話をするのですか?」
「まず値段に関してですがその点は大丈夫だと言っておきます。僕の所属している組織はそこらのギルドより依頼料が値を張ることが多いのですが、初回という事と簡単な仕事なのでこの値段で充分です。それに必ず依頼主とは対面しないといけないというのもこの組織の特徴です」
「ならよかった。実は不安だったんです。こんな仕事を格安で引き受けてくれるなんて思わなかったので。それじゃあ仕事の話ですが……」



おずおずと今回の依頼主のワーラビットの依頼を聞きながら、意識を周囲に広げる。
そうすると窓の外からまとわりつくような強い殺気を感じた。
よく見てみると窓の外には街灯の陰からジッとこちらを睨みつけるエリザが立っていた。
おそらく彼女は見つからないと考えているのだろうけど、残念なことに彼女の体は隠れているけど、彼女の髪の蛇達は僕には丸見えです。
それに加えてエリザの殺気で人が寄り付かないせいで不自然な空間も出来ていますしね。
しかし困ったことになった。家でおとなしくしていて欲しかったエリザが追いかけてくるなんて。
さらに困ったことにおそらく彼女の位置では僕と依頼主のエリスさんが仲良く談笑しているようにしか見えないし、声が聞こえるわけでもない。
……冗談抜きで今夜は兎料理と監禁のフルコースになるかもなー、と気楽に考えながらニアさんに顔を向かい合わせ話を聞いた。
もちろん意識的にはエリザを最重要で見つめていたけど。



依頼の話が終わるとニアさんと僕は喫茶店を出る。ちなみに勘定は僕持ち。
そして喫茶店を出ると同時に殺気も僕達の後を追いかけ始めた。
今回の依頼主のニアさんの話では依頼は近日中でよいとの事で、正直助かったとしか言いようがなかった。
だけど後ろの嫉妬深い彼女の殺気をもう少し浴びていたいという気持ちでいっぱいの僕はニアさんと依頼とは全く関係のない世間話をすることにした。
案の定僕とニアさんが談笑すればするほど殺気の質も濃度も高くなり、途中グシャとまるでレンガの壁が何者かの手によって圧壊されたような音と歯ぎしりの音が聞こえた。
その彼女からの殺気を感じるだけで僕にとっては至福で正直ズボンの中の逸物もガッチガチになりました。
ただし僕はマゾヒストではありません。ただエリザの嫉妬した姿が好きな普通の人間です。
嫉妬に狂う彼女の視線を感じながら談笑に夢中になっているふりをしてさらニアさんとの会話に花を咲かせながら、街の中をデートしているかのようにふるまいました。
ちなみにデートコースとして衣服店、アクセサリーショップ、レストランとなるべくデートに無難でエリザに浮気しているように見せる所に行きました。
これらはすべて割り勘にしてもらいましたけど、そんな姿もエリザには仲の良い二人に見えたはずです。
それぞれの店から出た後、道端で数体の男女の石像が見つかり、明らかにエリザのやつあたりだと気付きました。
やつあたりはよくないですよエリザ。やるなら僕だけを狙ってほしいのに、と身勝手な願いを思い浮かべます。
でもここまで怒ってくれれば、僕の計画も完璧になった事を証明しています。



「それではアーリストさん。依頼お願いします」
「こちらこそニアさん。近日中に伺いますのでよろしくお願いします」


次に会う時の指定場所と彼女の家の地図を受け取って僕とニアさんはにこやかに別れた。
ニアさんは最後までエリザの殺気に気づいていないようだった。いやー無知って本当に素晴らしいね。
彼女が帰った方向はちょうどエリザがいる場所と正反対で、もしも同じ方に行っていたら間違いなく●されていただろうな。
しかし殺気は今のところ僕だけに集中されている。浮気相手より恋人を狙うなんて本当に出来た恋人です。もしも試験だったら優は余裕でつく事でしょう。

「さーてどうしよっかな」


僕はわざとエリザに聞こえるように呟くと、彼女の方へ向っていった。
彼女の現在位置は路地裏にいるはずです。だって殺気が強すぎて簡単に位置がわかるので迷わず進めます。
そしてエリザがいる路地裏に足を踏み入れた途端、彼女の体に巻きつかれ路地の壁に押さえつけられました。
両腕は彼女にがっしり固定されていて曲げられません。なによりエリザの形相は憎しみと怒りに満ちていて、心臓の弱い方は見ただけでショク死しそうです。
でも僕からしたら女神の笑顔を越えるくらい神々しいですが。

「えっと……来ていたんですかエリザ」
「……この、裏切り者。」

エリザの殺意を込めた低く美しい声が路地裏の中で響きました。
僕は浮気がばれた夫のように慌てるふりをします。
それを見たエリザは歯ぎしりすると、僕の目を睨みつけました。
ピキピキと音がして足先からゆっくりと石化していきます。
本気を出したら彼女は一瞬で石化させる事も可能ですが、まだ僕の言い訳を聞いてくれる余地はありそうです。


「ごめんなさい、エリザ。まさか君が来ているとは思わなくて……あのワ―ラビットさんはあくまで仕事の依頼人で新規のお客さんに対してのサービスで色々な店に回っただけです」
「へーそうなの。ならアーリストは楽しそうにあの女としていたの」

ピキピキという音がスピードを増して一気に腰くらいまで石化しました。
それと同時にエリザの髪の蛇たちも相当怒っているようで僕の首元に最低限呼吸と会話ができるぎりぎりの強さで締め付けてきます。


「くっ苦しいです、エリザ。このままだと僕は死んでしまいます」
「なら質問に答えなさい、アーリスト。なんであの女と楽しそうにしていたの」
「ただ久しぶりに君以外の女性と話せたか……っ…っ……」

問答無用でエリザの髪の蛇たちは僕の首を締めました。なんとか呼吸は出来ますがしゃべる事は出来そうにありません。


「……つまり私はもういらないという意味ね。分かったわ、アーリスト。貴方を監禁して私しか見れないようにしてあげるから」


エリザはなにやら色々吹っ切れてしまい、あの怒りと憎しみに満ちていた形相は狂気に染まりました。


「まず貴方を監禁して、あの女を●さなきゃ……ふふ、ふふふふふふふ。貴方に色目を使って誘惑したあの女は酷く凄惨に醜い肉塊にしないと」

狂気に歪んだ笑顔で高笑いするエリザには悪いのですが、路地裏といってもそこまで奥の方でもないので路地裏を覗いてしまった通行人には丸見えです。
見てくださいエリザ。通行人の方々が僕らを見て驚いて逃げていますよ。それと、こんなに美しい笑顔と声を他人に聞かせないで欲しいです。
君の全ては僕の物です、と声高らかに言いたかったのですが首を絞められている以上言えません。
通行人に見られている程度の事を気にするエリザではないようです。


ですが彼女を人殺し…もとい同族殺しにさせるわけにもいかないので、そろそろ僕の計画のネタバレをしましょう。


「むー、むっー……」
「あら?何かしら裏切り者のアーリスト。何か言い訳でも考えついたの?」

僕は首を縦に肯定します。
優しいエリザはそんな僕の言い訳を聞くために首元の蛇たちを緩めてくれました。首から離れていく時、蛇たちの顔は僕を許す気はないと語っているようでした。
しかしエリザは首を絞めることは止めてくれましたが、石化の方は全然止める気がないようで、石化した部位が遂には胴体の半分以上が石化しています。
ただ運がいい事にまだ腕は石化していません。これはチャンスです。


「ぷはっ。……ありがとう、エリザ。僕に弁明のチャンスをくれるなんて」
「ふん。ならその言い訳を聞こうかしら」



狂気に歪むエリザの顔は可愛らしい。ですが僕はそれ以上にエリザの笑顔が好きなのです。
だから僕はエリザを笑顔にする事にしました。



「エリザ。君に渡したいものがあるんだ」
「……何言っているのアーリスト?」


エリザはきょとんとした顔になり腕を押えていた力が弱まりました。
そして僕は彼女に隠してた物を取り出しました。

「婚約していたけど、これはまだ渡していなかったよね。これは僕からの気持ですよ、エリザ」

隠していた物、それはニアさんとのデートのような行動をとっていた際に宝石店で買った、指輪でした。
この日の為にコツコツと貯めたおよそ僕の給料三カ月分の、エリザに似合いそうな指輪を彼女に送ったのです。
これで僕の計画上、エリザの性格と僕に対しての感情にその他もろもろの要素が加わってエリザは笑顔になってくれる……筈でした。


「なるほど。あの女に送る指輪を私に渡す事で逃げようとしているわけね。……いい度胸じゃないの、アーリスト」

驚きの顔はより深い狂気の顔に変貌しました。
ちょっと待ってください、エリザ。僕は君に似合う指輪を渡そうとしているだけですよ。


「しかも私が気に入るようなデザインの物なんて……私に対しての当て付けという事ね」
「ちっ違いますよ、エリザ。普通に考えてください。これは君の為に買った……」
「黙っていなさい裏切り者。私の愛している貴方は、あの女に毒されてしまったのよ。その毒を私が何年かかっても、必ず救って見せるから」


ぎりぎりと身体を強く巻き締め、さらに石化の進行を進める、エリザ。
既に僕の両腕も石化し、残っている部位は首と顔くらいなものです。あと少しで僕の石像が完成してしまいます。
……非常にまずい事になりました。おそらく石化は解かれる事でしょうが、このままではエリザの監禁は間違いなく確定してしまいます。
それはそれでいいのですが、それでもよりよい人生計画の為にそこはぐっとこらえて、もしもの為の切り札を使う事にしましょう。

「それじゃあね、裏切り……も……えっ?」

僕の体を見つめていたエリザがそれに気づき、今度こそ彼女の目は点になりました。
なぜなら、僕が見せた切り札は彼女を止めるには十分すぎるものでしたから。
いやー、良かった。まだ腕が動くときにこれを出しておけて。


「これ…って…」
「君へのもう一つのプレゼントです。これが僕の気持です」

それはエリザと僕の名前が書かれた婚姻届でした。


「えっ、えっ、ええええええええええええええええええ」
「秘密にするつもりはなかったのですが、もう少し時期を見て渡そうと…」

言い終わる前にエリザが全力で僕の体を抱きしめてきました。

「なっなんで教えてくれなかったの、アーリスト。教えてくれていたら私は、……ごっごめんなさい、すぐに石化は解くから」

慌てて僕の体中の石化を解くエリザの姿に僕は和んでしまいます。

「僕の方こそすみません。エリザの可愛らしい姿を見るためにこんなにも君を怒らせてしまって」
「いいわ。だってアーリストが誰かのものになってしまうなんて耐えられなかったから」

泣きそうになったエリザを僕は自由になった腕で彼女の体を強く抱きしめました。

「大丈夫ですよ、エリザ。僕は君からもう離れませんから」
「……ほんとう?」

涙目で可愛らしく僕を見つめるエリザに僕は首を振って肯定します。


「はい、約束です。これを破ったら君は僕を殺してもいいですよ」
「そんなことしない。それにアーリストが約束を破るはずがないもの」

断言するのはいいですけど、僕は君の可愛い表情を見るためなら平気で嘘をつけるし、約束を敗れる人間なんですけどね……


「それじゃあ、エリザ。左手を出してください」
「こう?」

僕はエリザの左手の薬指に指輪をはめました。
よかった、サイズは合っているようです。

「ア―リストにも指輪を……送った方がいい?」
「それは結婚式のときでいいですよ。もう遅いですしそろそろ家に帰りましょう、エリザ。君の手料理が食べたいです」
「分かったわ。それより…アーリスト」
「何でしょうか、エリザ?」
「大好き」

エリザは僕の体に巻き付き、笑顔でキスをしてきました。
そんな彼女に僕は笑顔を返しました。
本当に今日は、エリザの嫉妬深い姿とこの笑顔が見れたので僕の計画は成功したようです。
次はどうやって彼女を喜ばしましょうか。


「エリザ、今日は家に帰ったら寝かせませんよ」
「精一杯私を愛しなさい、アーリスト」

僕の愛しい愛しい嫉妬深い彼女。
君の為に僕は精一杯愛しますよ。



後日談

ニアさんへの依頼はエリザの監修のもとできっちりと完遂されました。
その際ニアさんと必要以上に仲良くなった僕をエリザはまた嫉妬深い目で睨みつけました。
本当に僕の彼女は可愛いです。
家に帰ったら間違いなく監禁間違いなしです。
10/12/19 15:16更新 / 影人

■作者メッセージ
まずは最初に謝罪(主にメドゥーサさんやその恋人さんに)を本当にすみません。
つい出来心で魔物嫁企画に感化されてこのような作品を作ったのですが、謝罪しつくしてもまだ足りないような作品です。
色々な意味で未熟すぎる小説ですが楽しんでいただければ幸いです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33