読切小説
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パンドラのヴァルキリー
「はい、リュウトはとても能力の扱い方が上手くなってきましたね」
「そりゃー、ヴァルキリーに鍛えられてるからね」

どうも、異世界に飛ばされて勇者やってる元中学生、14歳です。
なんか教団さんに、『異世界から勇者適性を持つ者を特殊な召喚術で呼び出すと、強化勇者として呼び出せる』って魔法で呼び出されました。

その特殊な召喚術は、『その者の思い描く強者のイメージ』を具現化するもので。
自分はスターウォーズオタクだったために、フォースでできること一式と、光の魔力をワンピースの黄猿のごとく剣状に出力してライトセーバー代わりにしたり、ブラスターとして扱ったりする能力を得ました。
......今のところ、フォース・ライトニングは出ないみたいです。
安心したような残念だったような。

基本の戦闘技術を叩き込まれた後、勇者としてデビューした僕には専属のヴァルキリー様が付きました。
ブリュンヒルデさんという方です。
長いブロンドヘアをたなびかせた、碧眼の美女です。
天使のくせに人間の煩悩を煽りまくる、男泣かせな体形の方で、かつ僕より背が高いです。
自分が元いた世界の女性が束になっても勝てないと断言できます。

ある程度北欧神話の知識があった僕は最初こそビビったものの。
旅に出るまでに時間を共に過ごすことで、『この人は大丈夫だ』と確信を得ました。
確信が長く続くことを祈る日々です......。



ちなみに。
今しがた、剣術の稽古が終わったとこです。
旅と並行してブリュンヒルデさんに剣術を鍛えてもらっています。
最近は、剣でどうやって槍に勝つかを重点的に教わっております。


「さぁ、剣の次は心の稽古ですよ、主もそうおっしゃっています」

そう言ってブリュンヒルデさんは、槍をどこかにひっこめて、自分の前に両ひざをつきました。

「さ、いつものように私の感情を読むのです、私が何を考えているのか当ててごらんなさい」

......自分の能力は、『[フォースでできること全般]ができる能力』。
当然のように相手の心を読めます、今のところ表層なら。

それで相手の心を読みつつ的確に攻防を行うスタイルをブリュンヒルデさんは僕に身につけさせたいようです。
とはいえ、心を読む能力などレア中のレア。
鍛えるといっても前例などそうそうあるわけでもないし、実験台にする人も......という問題がありました。
それをこの人は、『主神様』の提案で、自分の心を使うことで解決したのです。
漢女です。


僕は、彼女の側頭部に両手を当てました。


「......『今日の晩御飯は何にしようか』と考えてますね?」
「それはそうですけど、もっと違うことを読み取ってください!!」

心を読む訓練で、本日の稽古を振り返るのが僕たちの日課です。
赤ペン先生とのやり取りみたいな感じでしょうか?

ですが、これをやっている最中、僕はいつも気になることがあります。

彼女の心の表層......ににじみ出てくる、深層からの思念。

なんというか、『押すなよ押すなよ絶対押すなよ!?』的な何かを感じてしまうのです。
ですが、誰だって心の中はプライバシーの極致です、彼女にだって見られたくないものだってあるでしょう。
僕は必死で自重していました......





(今日の稽古は心ここに在らずといった感じでしたね、何か気になることでもあるのですか?)
「いや、何も......」

今、僕はうそをつきました。
とてもとても気になります、彼女の心の中身が。

あれから一週間たちましたが、毎日このやりとりをしていれば気になってしまいます。
僕は、彼女が眠りについてから決行することにしました......。




「すぅ...すぅ......」

彼女は寝顔もまた美人です。
彼女の寝顔を見て罪悪感を感じつつも、僕は彼女の頭に手を置きました。

意識が無いせいでしょう、するっと彼女の心の深層に忍び込めました。
そこには日記のようなものが存在していました。

僕は見てはダメだ見てはダメだ見てはダメだ......と、シンジ君のようになりつつも、結局誘惑に負けて『日記』を開きました。





1日目
とうとう私にも専属の勇者ができました!!
愛情と厳しさを両立させる、それが勇者の鍛え方の作法だ。
勇者が一人前になるまで、それ以外に優先すべき使命はない。
それは、主にささげる供物。
私が嫌でも、主神様が命じているのだから仕方ない。
嫌だなんてないがな!
それは、古今東西のヴァルキリーに共通している。
勇者の大成を祈願し、今日から私は勇者と共にある。





勇者と共にある生活も一週間目を迎えた。

志熊リュウト。
異世界でスターウォーズなる物語が好きな、学生だったらしい。
だが、そのせいで悪目立ちし、いじめの対象にもなったようだが、闇にも落ちず真っ当に生きていたようだ。
真人間の彼を散々苦しめた奴らは、逆さ張り付けから、火炙りにして、からの金魂千切りの刑で、シメに市中引き回しにしてやりたい。
私はそう思っているが、彼自身は復讐を望んではいないのでとりあえずこれ以上考えないことにする。
私の使命はリュウトを天下無双の勇者へ育て上げること、主の名にかけて育てきって見せる!
私は決意を新たに今日も彼に稽古をつける。





勇者育成生活8日目
昨日、深夜に目が覚めたら、勇者の寝顔を見ることができた!!
視線を下半身に向けるとズボンにテントが張っているのを見てしまった!!
いかんいかん、私はヴァルキリー。
色にボケてしまっては魔物どもと等しい存在と化してしまう。
それだけはいけない。
やっとのことで彼の信頼を勝ち取ったのだ。
願わくは彼との、この平和な日々が続いてほしい。
立場を忘れかけたことを本気で反省し、ムラムラを抑えながら再び眠りについた。





勇者育成生活12日目
気づいたらここ数日、勇者以外と話した記憶が無いことに気づいた。
記憶をたどると、宿を取ったとき「あの、つり銭が銅貨三枚足りないのですが」が、明確に記憶に残っている、勇者以外と話した言葉だった。
宿を取ったからと言って、勇者との関係に動きはない。
......彼が部屋に備えてある風呂に入っているとき、彼の下着を見て鼻血を出したのは知られてないと思いたい。
私は緩んだ気を引き締めるように、部屋着に着替えて勇者と心の訓練に入った。





勇者育成生活15日目
今日は野宿である。
勇者に水浴びに行かせた時、主が『you、抱いちゃいYO』とかのたまったが全力で自制した。
そんなことをしては勇者に痴女と思われて嫌われてしまう。
ちゃんと互いに合意が無くてはいけないのだ。
しつこい主と問答している間に、勇者が水浴びから戻ってきてしまい、結局何もないまま一日が終わった。
このまま何も起きなかったらどうなるんだろう。
ふと考えた邪念を吹き払うように、今日も私は勇者を抱きしめて眠った。
そして、鼻血が出た。





勇者育成生活20日目
あまりにも勇者と進展がないので、欲求不満に陥った。
少しでも解消をしようと湖の水面に顔を突っ込み、
「A――urrrrrrッ!!!!!!」と叫んだら、
水底から『うるせぇー』とサハギンが石を投げてきて額に直撃した。
勇者以外と久しぶりに会話が成立した。

毎日毎日飽きもせずに私と稽古に勤しんでくれる勇者リュウト。
ニコニコニコニコと無邪気に楽しそうに笑って。
世の中にはもっといろんな刺激のある楽しい生活があるのに。
例えば......
『年上のお姉さんとラブラブエッチ 〜癒します! 愛します! 全ての欲望を満たします!〜』
......とか?
そんなことを考えながら今日もムラムラ感を抑えながら勇者を鍛えた。





勇者育成生活22日目
もういい加減にしてくれ。
いつになったら私は主の『勇者の筆おろしをしなさい』という命令を実行できるんだ。
相手にその気がない以上、こちらから強引に行くわけにもいかないじゃないか!
いつになったら私はムラムラの呪縛から解き放たれるんだ!
いつことがあってもいいように水場に滞在しているのに!!
サハギン「うるせぇー」
主神様ぁ!! 早く、早く命じてください!! このエンドレスムラムラから救い出してくださいィィィィ!!!
そんな願いを込めて私は石を天空に向けてスパーキング!!





勇者育成生活28日目
目が覚めるとここ数日の記憶が無い。
しかし、こんな私の変化とは裏腹にやはりリュウトとの仲に進展はない。





朝リュウト時リュウトをリュウトしてリュウトするのだ。
リュウトにリュウトをリュウトでリュウトがリュウトをリュウトだリュウトリュウトリュウト・・・





30にちめ


































「ウギャァァァァァァァァァァッ!!!!!」

なにこいつやんでるの!?
やんでるよ末期だよ!!

思わず絶叫してしまった!!
その大声に飛び起きるブリュンヒルデ。

「なに、なんだ、どうしました!? 悪い夢でも見ましたか!?」
「いやっ、あのっ、まじで何でもないんでスンマセン」
「本当ですか?」

こちらを思いやっているのはわかる......が、さっきのを見た後だと。
この二面性の切り替えに狂気を感じて仕方ない。

「なんでもないんですね? よかった......それはそうと私の夢にはあなたが出てきましたよ? 私が内緒で書いていた日記を見られてしまう夢でした」

!!!!!!!!!!!!!


「..................リュウト?」



僕は着の身着のまま脱兎のごとく逃げだした。







「おや、その様子だと私が寝ている間に心を読んだようですね」

森を駆ける自分を空から追跡してくるブリュンヒルデ。
その手には、本気を出した彼女が愛用する武器の、金色の身の丈より巨大な十文字槍と無尽蔵に伸ばせる投げ縄が握られていた。

俺は倒木を強く蹴ってジャンプした。
走っている勢いで前方に宙を舞いながら、体をよじって後ろを向く。
その後ろを向いている瞬間、両手を男チョキにして人差し指の先端からビームを発射した!!

キィンッ キィンッ

十文字槍で軽々ビームを弾いた彼女は高度を下げてきた。
本格的に僕を捕まえることにしたようだ。

僕は再度体をよじって元の前方を向いて着地して走り出した。
十数メートルも走ると目の前に巨木があったので、レーザーブレードを展開して真横に一閃して薙ぎ倒す。
薙ぎ倒した木を走る速度を落としながら念動力でブリュンヒルデに投げ飛ばすと。
彼女は十文字槍の刃をぶち当て『粉砕☆デストロイ!!』 してしまった。

これは勝てない!!
気づいて再度速度を上げようとしたときには既に遅し。
気づかないうちに地に這わせた投げ縄が左足首に巻き付いており、盛大にこけてしまった......


......かに思えたが大地に激突する前にブリュンヒルデがキャッチ。
僕よりも長身な上、かつ飛行中のままなので、僕は宙ブラリン状態であった。

僕は受け止められて彼女の大きな谷間に挟まっていた......
恐る恐る見上げると、ニコーッと笑う戦乙女が......




僕は悟った。
古今東西の『見るなのタヴー』を犯した者の気持ちを。

もう一つ悟った。
彼女のを一目見たときの予感が正しかったことを。

天空へと連れ去られ、元の野営地に連れ戻され。
「バレちゃった以上は、主の命を実行に移してもかまいませんよね」
......と、言いながら僕を犯す彼女を見て気づいた。

ヴァルキリーはどこの世界でも『こうである』と。
18/07/19 23:05更新 / 妖怪人間ボム

■作者メッセージ
ドーモ、妖怪人間ボムです。

銀魂を読んでいて、どうしてもザキのパロをヴァルキリーでやりたい衝動に襲われて書いてしまいました。
反省しております、後悔は......ほどほどです。

ヴァルキリーさんの脳内日記を書いているときの筆の進み具合は今までで1、2を争うほど筆の進みがよかったかもしれません。
21:30にそこに入ったら、気づいたら一時間経っていました。
浦島太郎の気持ちがわかったとです。


また次回もよろしくお願いします。
それでは〜。


次はヤンデレない......保証はできませんが。





余談

志熊リュウト
→シグマリュウト
→シグリュト
→シグルド

......ヴァルキリーさんの名前がブリュンヒルデ。
ショタ勇者が『シグルド』な以上、この話は宿命なのであった。

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