連載小説
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No.06 勇者
「ごちそうさまでした♪」
「美味だった・・・」

 ざるそばを食べ終えた二人は手を合わせる。お勘定はレンジェが何処からかガマ口の財布を取り出し、雪女の店員へ硬貨を数枚手渡した。

「毎度ありがとうございます♪」
「悪いな。飯代をまとめて君に奢ってもらって・・・」
「いえいえ・・・私としては、まだあなたには返したりないぐらいです」
「・・・・・・ん? 何を返したりないのだ?」
「秘密です♪」
(言えないようなことを俺はしたのか?・・・)

 頭を抱えるようなことを言われて悩む青年。レンジェの方はというと、上機嫌に歩いている。

「じゃあ、そろそろ孔雀さんの落語でも見に行きま・・・」
カンッカンッカンッカンッ、カンッカンッカンッカンッ・・・
「半鐘? 火事か?」
「いえ、違います・・・これは・・・」

 突如、鳴り響いてきた鐘の音に、レンジェは鋭い表情をする。彼女はこの鐘の鳴り方に覚えがあった。

(四回・・・彼らがまた来た!?)
「只事では、なさそうだな?」
「ええ・・・“教会”の襲撃です」





 町の外周近くの街道で、多数の人が集まっていた。町の内側には、複数の軽装の剣士や武士が剣を構えている。対して、町の外側に居る者はたったの6名。しかし、内4人が厳つい鎧を持つ銀色の騎士。兜のない丸見えの顔付きからしても、相当な猛者に見える。

 4人の銀騎士たちは、向かって来る剣士や武士たちを見事な剣裁きで押し退けていく。町を防衛する戦士たちが劣勢になりかけていると、彼らの後ろから少し大き目の体格を持つ魔物が現れた。

 それは上半身が長髪の女性の姿をし、下半身は黒い毛むくじゃらの蜘蛛の身体。青緑の肌には赤い半被を羽織っており、額に赤い鉢巻が巻かれている。彼女は騎士たちの前に跳躍して立ち塞がった。

「随分と仲間を可愛がってくれたじゃないか?」
「姐さん!」
「姉御!」

 押され気味だった町の戦士たちが声を上げる。騎士たちは彼女の姿を見て一瞬怖気づくが、すぐに剣を構えて襲い掛かった。

「へえ、勇ましいねぇ・・・」

 彼女は腕を組んで、何もせず待ち構える。彼女の蜘蛛足に騎士の剣が突き刺さった。

「「「「!?」」」」
「・・・それだけかい?」

 蜘蛛の女性は足に剣を突き刺されても痛みを感じていないのか、その足で騎士たちを振り払う。突き刺された足は傷一つ無く、地面を力強く踏み入れた。

「そんなものじゃあ、ウシオニであるアタシには効かないよ」
「ウシオニだと?」
「くっ! ジパングの魔物か!?」

 たじろぐ4人の騎士。そんな彼らの居る後方から、1人の白い剣士が歩いてくる。まだ、若々しい彼は腰に付けた両刃剣を鞘から抜き、刃を蜘蛛の女性に向けて構えた。もう1人残された修道服の少女は少年を見守っている。

「此処は僕に任せてください」
「ああ、すまねぇ!」
「頼むぞ!」
「へぇ、今度は坊やが相手かい?」

 余裕の表情で身構える蜘蛛の女性。少年剣士は踏み込んで相手に突撃した。軽くあしらうつもりで爪のある右手を振り下ろす。しかし、彼はそれを右に避けて、剣でその腕を切り落とした。

「っ!?」

 慌てた彼女は残る左腕で横薙ぎをするが、少年は後方へ飛び下がって回避する。彼女は切り落とされた右腕の傷を左手で押さえた。

「くっ・・・再生しない!?」
「僕の剣はただの剣じゃないですよ。魔を切り払うための剣です」
「!?」
「こんな風に!」

 少年剣士は素早く相手に接近し、彼女の前面にある2本の蜘蛛足切り落とす。そして、彼女の左横の腹も斬り付けて、相手に深い傷を負わせた。思わぬ攻撃で動きづらくなった彼女は、出血する腹を左手で抑える。

「ぐぅぅぅ!」
「これであなたは満足に動けないはずです」
「これくらい・・・ぐうっ!?」
「無理に動かないでください。僕の目的はあくまでも一人だけです」
「・・・嬢ちゃんには・・・触れさせやしないよ!」
「そうですか・・・なら!」
「姉御!」
「姐さん!」

 少年が剣を振り上げて彼女に斬り掛かろうとし、周りにいた町の戦士たちが声を上げた。その時、少年と蜘蛛の女性の間に大きな氷の棘が突き刺さる。上からの不意打ちにすぐさま反応した少年は、その場から飛び下がった。

「っ!?」
「!」
「お止めなさい、若き勇者よ」

 空から飛び降りて来たレンジェは、傷で倒れかけているウシオニを庇うように立ちはだかる。彼女は首だけ動かして、後方にいる蜘蛛の女性へ声を掛けた。

「松さん・・・お怪我は?」
「嬢ちゃん、すまねえな・・・」
「皆さん、松さんをお願いします」

 レンジェの言葉に反応して、周りに居た町の戦士が数人がかりで蜘蛛の女性を運び出す。そんな中、レンジェと少年は互いに睨み合っていた。

「また、来たのですね?」
「この町から穢れを祓う。それが僕の使命です」
「他人を傷付けることが使命なのですか?」
「立ち塞がるのであれば・・・倒すまでです」

 少年は当たり前のような言葉を述べる。レンジェは静かにその言葉を聞いた。

「魔王の娘であるリリム。今日こそ、投降してもらいます」
「私はこの町を支える存在。あなたの理不尽な命令には従いません」
「なら、力尽くでも投降してもらいます」

 少年が構えると同時に、レンジェも魔刀を取り出し、鞘から刀を抜く。先に動いたのは少年。彼は上から剣を大きく振りかぶって相手に襲い掛かる。レンジェは右手に持った魔刀で、少年の剣を自身の左側へ受け流した。

「くっ! はぁ!」
「甘いわ」

 少年は弾かれた剣を斬り上げるように戻すも、今度はレンジェが左手に持っていた鞘で防がれてしまう。レンジェはその隙をついて、右手の刀を持ち替えて峰打ちを狙う。少年は慌てずそれを左手で掴み止めた。そこからすぐに三歩ほど後ろへ飛び下がり、再度レンジェに斬り掛かる。

キィン! キィン! キィキィィィィン!!
「せいっ! せやっ!」
「はっ! はあああああ!!」

 二人は互いの剣で火花を散らせるほど弾き合う。少年の気合いの入った攻撃に、レンジェは冷静に受け流していく。ここで彼女はある違和感を感じ取り、急いで後方へ下がった。

「!?」

 彼女の手元にある剣は傷だらけになり、先刻受け止めた鞘にも大きな傷がついている。そして、その原因が相手の剣だと瞬時に理解した。

「加護を受けた剣ですね?」
「教会が誇る“光剣”魔力を切り裂く神器とも言える代物です。あなたに勝つため、御使い様から献上されました」
(御使い・・・主神に使えるエンジェルが来たのね)
「今日こそ、あなたを倒します!」

 相手が走って来る間に、レンジェは傷ついた魔力武器を四散させて、新たな魔刀を創り上げる。しかし、相手の武器の特性で迂闊に受け流せず、避けるのに必死だった。

「氷よ!」

 レンジェは自身の周りに氷の棘を出現させ、相手に向けて飛ばす。だが、相手の素早い剣捌きでそれは全て切り砕かれた。怯まず突っ込んでくる少年に、彼女は左手の鞘を消して、水の球体を創り上げる。

「てぇやああああああ!!」
「押して!」

 レンジェは左の掌を相手に向けて、水球から直線状の水流を発射した。まともに受けた少年は後方へ吹き飛ばされかけるが、すぐに両足で踏ん張り留まる。水の魔法を放ち終えた相手に、彼は剣を上に挙げて斬り掛かった。

「隙あり!」
「!?」
「嬢ちゃん!!」
「姫さま!!」
「領主様!!」

 少年に斬られそうになるレンジェの姿を見て、町の戦士や蜘蛛の女性が彼女の名を叫ぶ。その時、二人の間の上空からキラリと何かが光って落ちてきた。いち早くそれに気付いた少年は剣で振りかぶるのを止め、すぐにその場から飛び下がる。

ザシュ!!
(槍?・・・新手か!?)
「これは・・・」

 レンジェの目の前に突き刺さったのは、彼女自身も見たことがあるジパングで武士が扱う薙刀だった。

「はぁ・・・・・・何も告げず飛んで行って、今度は妙な輩に斬られかけていたとは・・・とても姫君の日常とは思えんな」
「シンヤさん!?」

 彼女が声のした方向へ目を向けると、町の戦士たちの間から黒い学生服を着たシンヤが歩いてくる。彼はレンジェの傍まで行き、薙刀の右横で立ち止まった。

「この騎士の輩は?」
「反魔物勢力の方たちです。危ないので下がってください」
「・・・」
「シンヤさん?」

 彼女が下がるよう指示するが、シンヤはその場から動かず、騎士たちを見つめる。向かい側に居る騎士たちや少年剣士も、やって来た彼に視線を向けていた。少年はシンヤに鋭い視線を浴びせながら尋ねる。

「あなた・・・何者ですか?」
「此処で世話になっている者だ。それ以外に言うことはないな」
「なら、あなたも異教徒(インキュバス)ですね?」
「いんきゅばす? 何の話だ?」
「とにかく、邪魔するのでしたら、容赦はしませんよ?」

 少年が剣を構えて走り出そうとした時、周りに居た騎士たちが彼の行く手を塞ぐように前へ出た。

「ここは俺らに任せな!」
「え? し、しかし!」
「心配するな。それよりお前にはリリムとの戦闘があるだろう?」
「勇者の力は温存させてやるよ」
「インキュバスといえど、俺らは絶好調だからな! 行くぞ!」

 余裕の言葉を口にし、彼らは少年を置いて、相手に立ち向かう。シンヤは薙刀の前まで歩いて直立のまま待ち構えた。

「シンヤさん!」
「そこから来るな」
「えっ?」
「さて、まずは手早く済ませよう・・・」

 シンヤは向かって来る4人の騎士の足の先から頭の先まで、舐め回すように視線を飛ばす。銀騎士たちは剣で思いっきり切り裂こうとして、相手に襲い掛かった。

「っ!」
「「「「くたばれえええ!!」」」」
「・・・」
ガキイイイイイイイイイン!!
「「「「!?」」」」

 あともう少しで振りかぶった剣が届きそうになった瞬間、いきなり彼らの動きが止まる。よく見ると、彼らの剣の刃には青白い光の球が付いていた。それはまるでシンヤを守るかのような存在に見える。

「なっ、なんだこれ?!」
「光? 魔法か!?」
キィィィィィィィ・・・

 その光はどんどんと細長い形になったと思いきや、そこからさらに大きな形を創り上げていく。やがて、彼らと同じ大きさになると、人のような形をしていき、光が徐々に治まっていった。

「「「「っ!?」」」」

 青い光が治まり、彼らが目にしたもの。それはなんと“彼ら”自身の姿だった。それはまるで鏡のように、彼らと同じ剣で受け止めている。不意に出現した“彼ら”が剣を押して、強烈な横切りで相手を飛ばした。

「な、なんなんだ? あの術・・・」
「魔法であんなのあるのか?」
「いや、見たことも聞いたことも無い・・・」
(あれが・・・・・・彼の式神・・・)

 町の戦士たちが話し合う中、レンジェは屋敷で聞いた彼の能力について思い出す。

 物や生き物を創り上げる術“万物の式神”彼女自身、魔法にある程度長けていたが、分身や幻影の魔法はまだ不十分であり、熟練した魔女やバフォメットですら完璧なものは無かった。それが出来る者といえば、変身が得意なドッペルゲンガーぐらいだろう。そうでなければ、相手の幻影を創り上げるのも時間を掛けなければならない。

 しかし、目の前で披露された術は違う。僅かな時間だけで、瞬時に相手を複製するかのように人間4人分の幻影を創り上げたのだ。顔や服装、所持している剣までも全く同じである。

「なっ、お、俺たちだと!?」
「違う! 俺たちじゃねえ!」
「幻影か!? ふざけやがって・・・」
「まねしただけで、何が・・・」
ジャリ、ババババッ!

 4人がしゃべっている間に、“彼ら”が同じ相手に襲い掛かった。慌てて迎え撃つ彼らは幻影の“彼ら”からの攻撃を防ぐ。だが、その剣捌きはとても素早く反撃が出来ないうえ、受け止めるので精一杯だった。徐々に押されていく騎士たち。その顔には焦りの表情が出ていた。

「くっ! こいつ!」
「早い!?」
「うおっ!? これは・・・」
「なんて力だ!」

 レンジェは“彼ら”が只の幻影ではないことに気付く。当然、本物の彼らの能力も常人より上であると解っていた。それでも、幻影の“彼ら”が本物の彼らより勝っている。腕力だけでなく、その素早さも常人ですらなかった。

(恐らく・・・複製しただけじゃない。彼の知っている剣技も・・・)

 彼女がそう考えている内に、4人の騎士たちはあっという間に剣を弾き落とされてしまう。それでも彼らは怯まず、己の拳で挑むも“彼ら”の強烈な蹴りや剣の柄による打撃で張り倒された。思わぬ激痛に身悶える4人は、その場でうずくまって動けなくなる。一部始終見ていた少年も驚きの表情をしながらシンヤに再度尋ねた。

「あなた・・・本当に何者ですか?」
「先程申したはずだが・・・まぁ、そこの若造たちより頭は良さそうだな・・・」
「何を訳の解らないことを・・・・・・っ!?」

 少年がシンヤの言葉に理解できずにいると、幻影の“彼ら”が薄まるように姿を消していく。シンヤは少年に対し、あることを問いかけた。

「お前の魔を狩る理由はなんだ?」
「はぁ?」
「答えろ」
「言ってどうするつもりですか?」
「理由を聞きたい。ただそれだけだ」
「・・・」

 少年はシンヤの質問にため息を吐いてから返答した。

「魔物は人に害を与える存在。魔を祓うことが僕らの使命なのです」
「聞きたいのはそっちではない」
「は?」
「俺が聞きたいのはお前自身の意見だ」

 シンヤから予想外の質問の指摘を受け、少年は苛立つように眉をしかめる。

「僕の望みは人が安心して暮らせるよう、害を為す魔物を祓うためです! 主神の教えが僕らの望んでいることです!」
「・・・・・・・・・期待はしてたが、所詮は小僧だったか・・・」
「何を!?」
「誰も神の教えを説けとは言っていない。生ける者に刃を向ける理由を聞きたかっただけだ」
「僕を・・・主神を否定するつもりですか!?」
「神がお前にどう導いたかなぞ知らん。小僧、純粋な理由すら答えられんのか?」
「ふざけるな!!」

 まるで挑発するかのようなシンヤの問いに、少年剣士が怒声を上げて走り出した。シンヤは黙って両手で何かを持つような構えをする。レンジェはその動きに見覚えがあった。

(あれは・・・・・・トンボの構え!?)

 彼の両手に青い光が満ち始め、細長いものが生み出される。それは全長150cm近くの少し曲線になっている刀へと形作った。それは彼女自身も見たことがある武器で“野太刀”と言われる長身の刀だ。

 少年が剣で斬り掛かる瞬間、シンヤは相手の剣目掛けて横に大きく振りかぶった。その攻撃をまともに受けた少年は剣ごと、相手の左側へ吹き飛ばされてしまう。地面に転がり落ちた少年は急いで立ち上がり、再度挑みかかる。

「このおおおおおお!!」
「ふんっ!」
ガキイイイイイイイイイン!!
「ぐわっ!?」

 またも弾き飛ばされてしまう少年。それでも諦めず立ち上がり、シンヤに立ち向かった。走り向かい、飛ばされ、走り向かい、飛ばされ、それを何度も繰り返す。次第に息が上がり始める少年。それを見かねたシンヤは少年を突き飛ばさず、鍔迫り合いになるよう受け止めた。

「無駄に動くからそうなる」
「無駄な・・・ものか!」
「これでもか?」

 シンヤは少年の腹目掛けて蹴りを入れる。蹴飛ばされた彼は待機していた修道女の傍まで転がり倒れた。慌てて彼の傍に駆け寄る修道女。

「勇者様!」
「これくらい平気だ。下がっていて!」
「は、はい・・・」
「小僧、若造たちと同じように身体を強化しても構わんぞ」
「「!?」」

 シンヤが言い放った言葉に、少年は歯を食い縛るほど怒り、修道服の少女は驚きの顔をする。

(やっぱり、騎士たちは魔法で強化されていたのね。その魔法の使用者は・・・)

 レンジェの見つめる先にいる人物。それは修道服の少女である。

「勇者様、今、治癒と・・・」
「いらない! 僕自身で十分だ!」
「っ!?」

 少年は少女からの補助の申し出を拒否し、よろよろと立ち上がって剣を構えた。

「・・・諦めが悪いな。だが、その意地は嫌いではない」
「はああああ!!」

 少年が叫び、それに呼応するかのように剣が白く輝き始めた。彼は純白に輝く剣で相手に斬り掛かる。対するシンヤは構えず、少年を待ち構えていた。

「っ!?」

 少年の剣がシンヤに届く瞬間、レンジェは背筋が凍る程の殺気を感じ取る。その直後、シンヤが片手で野太刀を振り、少年の剣に当てた。剣のみを弾き飛ばす勢いだったためか、少年も剣ごと吹き飛ばされてしまう。打ち上げられるかのように後方へ吹き飛んだ少年は、地面に叩きつけられる。

「ぐぅ!?」

 レンジェはシンヤの圧倒的な力にも驚いたが、それ以上に気になることがあった。一瞬だけ感じ取った殺気。以前、彼女は剣術の修行で殺気を浴びることがあった。その時の相手が古くから存在し、巨大な力を持つ経験豊富な年長者の“龍”である。リリムである彼女でもその殺気に慣れるのには時間が掛かった。

 だが、今し方目の前で感じ取った殺気はそれと同様。いや、それをも超えるほどのものだと彼女は悟る。事実、まともに受けた少年だけでなく、周りに居たもの達全員がそれに震えていた。

「く・・・あ、あなたは一体・・・何者なのです?」
「何度言わせる? ここで世話になっている者だと言ったはずだ」
「違う!・・・あなたは・・・異教徒でも、いや、人間とも言い切れない。それに・・・」
「?」
「何故・・・僕と同じ力を持っているのですか!?」
「!」

 少年の問いにレンジェは目を丸くする。シンヤは冷ややかな態度で答えた。

「それは思い違いだ。小僧の力なぞに縁などない」
「でなければ!・・・僕の光剣を防げたりは出来ないはず!」
「あの程度で自信があったのか? 愚かだな。力は放出するより、集束させる方が効率はいい。覚えておけ」
「それほどの、力を扱えるなら・・・何故、魔物に味方するのですか!?」
「時代や世界がどれだけ変わろうが、俺自身の目的は変わらん。ここの者たちやお前に関わったのも興味本位だ。小僧に言っても無駄かもしれんが・・・」
「くっ・・・」

 悔しさともどかしさで血を垂らすほど歯を噛みしめる少年。再び立ち上がろうとするが、よろめいて膝をついてしまう。その様子を見つめるシンヤは手に持つ野太刀を消失させた。

「さっさと帰れ、小僧。こう見えても忙しい。でなければ・・・」
キィィィィィィ・・・
「!」

 シンヤがそう言うと、彼の右隣に青い光が集束し、人の姿を形作る。輝きが治まると、それは少年と瓜二つの幻影が姿を現した。その“少年”も同じ姿の相手に剣を向ける。

「こいつと戯れることになるぞ」
「・・・・・・くっ!」
「やめて!」
「待ってください!」

 追い打ちを掛けようとするシンヤに、レンジェと修道服の少女が割って入った。レンジェはシンヤの左隣へ行き、少女の方は少年を庇うかのように立ち塞がる。

「もう十分です。シンヤさん、止めてください」
「勇者様をこれ以上傷付けないでください!」
「・・・・・・ふぅ・・・」
シュゥゥゥ・・・

 彼女たちの必死な願いに、シンヤはため息を吐いて“少年”を消失させた。彼は後ろを向いて腕を組む。レンジェはその様子に安堵し、少女たちの手前まで行って立ち止まった。

「申し訳ありませんが、今日のところはお帰り下さい。これ以上、あなた方に危害は加えません。この町を治める領主として約束します」
「は・・・はい・・・」
「ま、まだ・・・」
「あなたも強がりはしないで下さい。それに、あの方は私たちも最近出会ったばかりです。あの方の逆鱗に触れても、私たちで止められるかどうか解りません」
「・・・・・・引き上げるよ・・・」

 少年の言葉で銀騎士たちが肩を貸し合って、町の外へと向かう。少年も少女に支えられながら歩き出そうとしたが、シンヤに向かって話し掛けてきた。

「僕はレグア・ランバート。教会所属の勇者です。あなたの名前は?」
「・・・玉川シンヤだ」
「タマガワシンヤ・・・次こそは、僕があなたを倒します」
「・・・威勢を出す前に養生しろ、小僧。とは言っても、自身も養生している最中だがな・・・」
「・・・・・・」

 彼の言葉に少年は何も言い返さず、ゆっくりと歩き出す。町の戦士の内、武士の1人がレンジェの傍まで近づいて跪いた。

「姫様! 彼奴らへの監視は!?」
「カラステングの部隊に『町から完全に離れるまで監視せよ』と伝えてください」
「御意!」

 彼女は指示を出した後、シンヤの元へ近寄って問い掛ける。

「まだ、お身体に支障があるのですか?」
「全快とまではいかないが、動くのに問題はない。少々、運動不足だったのでな。いい相手になったよ」
「無理しないでくださいね」
「まだ、朽ち果てるつもりはない」

 彼はそう言い放ち、屋敷の方へ向かって歩き出した。レンジェもその後を追う。

(・・・シンヤさん・・・・・・あなたは・・・)





(いえ・・・あなたは一体・・・?)
12/05/19 17:57更新 / 『エックス』
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