読切小説
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波打際に!キャンサーちゃん!
唐突に蟹が食いたくなって海に出かけた俺、陽太。

ヌィガタ住の俺は、近所に海があるし、何より親父は漁師だからこうして集りに行くんだけど、今日ほど来たことを後悔した日はない。



「……デカい」

「助けてー」



俺の前、そこにいたのはデカい蟹。

でも蟹の頭からは女の子が生えていて、無表情のまま人間の手と蟹の鋏と脚をじたばたさせている。

胸の所はわかめだろうか……それをブラジャー代わりにしてるし、蟹と人間の間のとこは泡で覆われてどうなってるかわからない……っと、俺は何を見てるんだ。



「お願いしますー、助けてー、なんでもするからー」

「えぇ……。うーん、仕方ないなあ」

「ありがとうございますー」



俺は何とか腕を取ると、女の子は何とか立ち上がる(?)、意外に軽くて助かった……。



「んー、珍しそうな顔ですね」

「え、いや、見たことない魔物だなあって」

「キャンサーです、蟹さんですよー」

「あぶねっ!!」



ブォンと鋏が振られた、結構鋭そうだから服どころか俺まで斬られてた……!?



「台風で流されましたがー、ここまで何とか生きれましたが転ぶとは。情けなく干乾びて死ぬところでした」

「ああー」



俺の住むところは年中暖かいからか、たまに道路でぬれおなごがちびっちゃくなってたり、河童が倒れてることがある。

まあでも今日は涼しい方だから大丈夫だと思う、この子少し大げさだなあ。



「そういえば何でもするって約束しちゃいましたねー、何かしましょうか?」

「え、いいよ別に……。そういうつもりで助けたんじゃないし」

「そうですかー。あー、でも助けてもらったのに悪いです、そうだ、私の泡で汗だくの体洗ってあげますよ」

「こ、ここで?」

「そんなわけないでしょー? 貴方のお家とか」

「そ、それなら」



俺はとりあえずキャンサーを連れて、家へとまた帰る。

マンションで特に魔物に対してのバリアフリーがない物件だから入口の自動ドアで引っかかるかな、と思ったけど横歩きで難なく入った。

蟹が横で歩くってこと忘れてた。



「では洗いますかー、脱いでください」

「え、あ、うん」

「いや、全裸にならないと。いくら私でも落とせませんよー」

「あ、はい……」



そして俺は黙ってパンツも脱ぐ。

するとキャンサーの人間と蟹の間からブクブクとどんどん泡が溢れてくる。



「ぬふー、落とし甲斐があります。このぐらいの子は垢とかもきちんと落とさないですし」



泡を手で塗るキャンサー。

すべすべしてて気持ちいいけど、ビックリしたのは下に流れていく垢や抜け毛の量。

暑いからと風呂にそんなに入らなかった結果だろうか……?



「魔力も洗い流せましたよー」

「え、魔力? 俺、彼女いないけど……」

「ああー、魔物は年中魅了魔法とか無意識で魔力を出してるんで、知らない間に童貞の子にも魔力ってくっつくんですよー。ほら、たまにいません? ムラムラしすぎてレイプしちゃう人とか」

「え、じゃあそれって」

「長ーく魔力に当てられた結果ですよー。でも安心してください、君のは落としたのでー」

「あ、ありがとう」

「いえいえー、喜んでくれたなら何よりです」



にへーと少しだけ笑うキャンサー、うっ、ちょっと可愛い。



「じゃあ私はこれでー」

「う、うん」

「あー、さよならは寂しいですし、縁があったらまた会いましょうー」

「……ああ、またな」



横歩きでキャンサーが玄関を通って、扉の閉まる音。

俺は何処かやりきれない気持ちで、綺麗になった体のまま腰にタオルを巻いて、暑い部屋にただ立っていた。

きっと頬に流れた冷たい水は、キャンサーの洗い残した物だと思いたい。







***







「助けてー」

「……何してるんだ?」

「ああ、昨日の子じゃないですかー、助けてー」

「わかったわかった」



そしてキャンサーを起こす俺。



「いやー、日本の海流怖いですね。すぐ戻ってきちゃいました」

「俺の涙返せよ」

「すみませんでしたー。あー、どうしましょうか、やることもないんで君の家にまた行きましょうか」

「いいけどさあ」



俺はとりあえず、昨日できなかったことを言ってみる。



「俺、蟹食いたいんだけど」

「……変態ですか、こんな真昼間に」

「ちげーよ、お前じゃねーわ。不快になったらすまん」

「いえいえ、別にいいですよー。まあ私も蟹ですがズワイガニ好きです」

「共食いかよ……」

「まあ気にせずに」

「じゃあ親父のところまで行くか、こっち……うおっ」



俺は鋏に引き寄せられる。

服は斬れてもないから、そこで安心した。



「また転んだらどうするんですか?」

「はえ?」

「支えてください、せめて、こうして」

「ふっ!?」



手が、繋がれた。



「また転んで起こすの、面倒でしょう。……不満ですかー?」

「い、いや! い、行くぞ、あ、親父に勘違いされたくないからしばらくしたら離せよ!」

「はいはーい」



と、キャンサーは何故か脚を以上に早く動かして、速攻でもつれさせて、俺まですっ転ぶ。



「……何してんだよ」

「……すみません」



暫く二人で青空を見上げて、それから俺が立って、キャンサーを起こす。



「そういや名前なんて言うんだ、俺は陽太」

「蟹子です、本名ですよ」

「まんますぎんだろ……」

「陽太さんよりは目立つ名前です」



何と言うか、こいつは俺がいないと転んで干乾びるんじゃねえかなあ。

そんな事を思いつつ、俺は蟹子と歩く。

当然、手は繋いだままだ。



「とりあえず早く行きましょう、お腹が空きました」

「はいはい」



多分これからも、蟹子が転ばないように、こうして歩くんだろうと思って。
14/01/24 22:53更新 / 二酸化O2

■作者メッセージ
お前らの喧嘩の種の蟹食っといたから……これ……やるからお前ら喧嘩するな(かにかま)

キャンサーちゃん可愛いですよね!そして蟹が食べたいです!腹減ってきました!!

何か下さい!!(お前は何を言っているんだ

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