読切小説
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溶ける従者は深く甘く
「おかえりなさいませ、ご主人様」

 僕が玄関を開けると、ダイニングでお茶の準備をしている御影(みかげ)さんがこちらを向いた。
 見違えるように綺麗になった自分の1DKのアパートを眺めながら、僕は呟く。
 余計な物やごみは袋に入れて纏められ、下駄箱や台所に薄らと積もっていた埃はどこにもない。
 というか、どこから用意してきたのか分からない家具まで置いてある。

「すごい……ほんとに買い物に行ってる間に綺麗になってるなんて」
「ワタシの方で必要かどうか判断できない物はこちらにまとめて置きました。
 お手数ですが、後でご確認くださいませ」

 御影さんは陶磁器のようなティーポット――これもどこから持ってきたのか分からないが――に紅茶の茶葉を入れて蓋をする。
 一連の流れるような動作に感嘆しながら、僕はテーブルに買い物袋を置いた。
 ここまでの口ぶりだけでは洗練されたお手伝いさんという印象だけを受けるが、何よりインパクトがあるのは彼女の外見だった。
 彼女、御影さんは『ショゴス』という、人間とは全く違った”魔物娘”という生命体だそうだ。
 御影さんの身体は黒く不定型な粘液で出来ており、薄紫色の肌をした淑女のような上半身と、青紫色の粘液から成るスライムのような下半身を持っている。腰から上だけを見ると、メイド服に似たエプロンドレスを着ている凛とした顔立ちの女性にしか見えない。
 さらに白目の部分が黒一色という特殊な眼をしており、それもまた人外じみた印象を受ける。
 しかし物腰柔らかい言葉遣いと立ち居振る舞いを見ていれば、彼女の異形さなど吹き飛んでしまいそうだ。

「えっと、これで良かったかな、御影さん」
「ああ、ありがとうございます。手が離せないとはいえ、ご主人様の手を煩わせて申し訳ございません」

 御影さんは買い物袋を受け取ると、中身を確認しながら冷蔵庫や戸棚に収納していく。どちらの中身も既に整頓された後で、買い置きしていたインスタント類の食品と調味料がきっちりとしまってあった。
 数分後、御影さんはソーサーの付いたティーカップに紅茶を注ぎ、部屋のテーブルへ持って行く。部屋の中も台所と同じぐらい綺麗に整頓されていて、まるで引っ越してきたばかりのようだった。しかも家具の外見まで変わっていて、それは僕が持っていた物より数段上の高級品ばかりに見える。
 僕がそれに付いていくと、お茶を用意し終えた御影さんがぺこりと頭を下げた。

「それでは、次はおゆはんの準備に掛かります。
 ご主人様はお部屋でごゆっくりなさっておいてください」
 
 御影さんが淹れた紅茶を飲みながら、片づけられて綺麗になった、いやそれ以上になった部屋を見回す。
 フローリングは綺麗に磨かれていてこの前作ってしまった凹みもなくなっているし、埃も汚れも見当たらない。テーブルは家具量販店では売っていないような綺麗な荘重の付いたモノで、天板は顔が映りそうなほど磨かれている。パソコンデスクはコード類まで纏められ、本棚はひとつひとつの巻数まで整えられている。奥の段に隠しておいた成年向け雑誌がどうなっているかまでは考えたくなかった。 
 そして巨大なベッド。僕が大の字になって寝転がることができそうなほど大きい。一体どうやってこの部屋に入れたのだろうか。
 ただ、あまりにも手持ちぶさただった僕は、紅茶を飲み干すと結局また台所を覗いていた。

「どうしましたか、ご主人様?」

 扉を開くと、ゆっくり御影さんがこちらを向く。

「えーっと……何か他に手伝うことはないかなって」
「まあ。ご主人様手ずからお手伝い頂けますなんて……。とてもお優しいですね」
「い、いえいえ。ここまでやって貰っていると気が引けて仕方なくて」
「ふふ、ありがとうございます。
 では……そうですね、まずサラダの盛り付けをお願いできますか?」




「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「お褒めいただき恐縮です。ご主人様にお助け頂いたおかげですね」

 『従者が食事を共にするわけには……』と言う御影さんを説得し、二人で一緒に晩御飯を食べ終えた。
 すでに食器は片づけられ、皿洗いも済んだらしい御影さんが部屋へ戻ってくる。
 御影さんが淹れてくれた緑茶を飲みながら、僕は彼女に感謝を告げる。

「何から何まで……ありがとうございます」
「そんな……頭をお上げください、ご主人様。
 ご感謝頂けるのはとても有り難いことですが、気に病まれる必要などございませんから」
「でも掃除から食事まで、身の回りのことを全部やっていただけるなんて。
 仕事で疲れててそっちに気が回らなかった所なんで、本当にありがたいです」

 僕がそう言うと、御影さんは意味ありげにニッコリと笑った。両端の上がった口元は人間とは思えないほど――いや人間ではないのだが――妖しい笑顔に見えた。

「いいえ、ご主人様。まだ全てではありませんよ。むしろこれからが本当の奉仕です」
「えっ?」

 空になったカップに緑茶を注いだ後、御影さんは僕をじっと見据えて言う。

「失礼ながら……棚に置いてあった写真立てを拝見しました。
 ご主人様のご両親と、とても小さい頃――赤ん坊であるご主人様が映っておられる写真です」
「……」
「あの写真を……いえ、ああいった写真を飾っておられるということは、それなりの理由があると思われます。
 円満な家庭であれば、写真を飾る事すら珍しいことではないでしょうか」
「……その通りです」
  
 そんな所まで見ていたのかと、その目敏さに僕は驚く。彼女の特徴的な黒白目に見つめられていると、心の底まで透かされるような気がした。

「僕は、写真でしか母と会ったことがありません。ずっと父子家庭で育ってきました。
 母は僕を産んですぐに亡くなったと、父が」
「……」
「あの写真は父に見つからないよう、こっそりと借りてきました。
 父さんは無口だったけど、僕を男手一つでちゃんと育ててくれたし……気にしているとは思われたくなくて」
「そう、だったのですね」
「あ……すみません。湿っぽくなっちゃいましたね。
 今思うと、母さんがいなくてむしろ良かったのかもしれないです。
 きっと母に甘えきって、頼りない男になってたと思いますから……はは」

 苦笑いを浮かべた僕を見る御影さんは、何かに気付いたように表情を引き締める。
 
「……。なるほど、やはり……ワタシはまだ何も、奉仕などできておりませんでした」
「えっ?」
「掃除や食事、家具による内観の見栄えなど、どれだけ手を尽くしても身の回りの雑務でしかありません。
 ワタシはそんなコトでは埋められない、それ以上の、より深き献身を望むべく参りました」
「……というと?」

 ぬるり。
 胡坐をかいて床に置いていた僕の左手に、液体のようなものが触れた。

「まずは――入浴のお世話でございます」

 そのぬるっとした感触に下を向くと、青紫色の粘液が床のフローリングを埋め尽くしていた。
 御影さんを形作っている名状しがたいスライムだ。
 テーブルの下で蠢くそれが這い寄っていた事に全く気付いていなかった僕は、驚いて体勢を崩して後ろに倒れ――

「お召し物をお脱がせしますので、少々お待ちを」

 斜めになったところで、後頭部から背中をぐにゅんとした粘液で包まれる。
 テーブルの向こう側にいた御影さんが僕のすぐ傍まで来ており、薄紫色の手が僕のシャツに掛かる。

「ご主人様、腕を上げて、足を延ばして……」

 御影さんの言われるままに身体を動かすと、服をすーっと脱がされていく。
 子供に戻ったような感覚と、裸体を見られる恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。
 あっという間にシャツとズボンを脱がされ、

「ふふふ……次は下着ですね」
「み、御影さん。さすがにこれは……」
「何もヘンなコトでは御座いませんよ、ワタシはご主人様のご入浴をお手伝いするだけですから。
 さあ、もう一度足を伸ばしください……」

 ひんやりした御影さんの指が腰に触れ、思わず目を瞑ってしまいながらも僕は足を延ばす。
 少し大きくなりかけた肉棒がピンと主張した。

「それでは、お風呂場へお運び致します……」
「わっ、」

 にゅるんと全身を粘液に包まれたかと思うと、御影さんが僕を持ち上げる形になる。いわゆるお姫様抱っこだが、まさか女性にされるとは思わなかった。

「……ふふ♪」








 僕は風呂の椅子に座り、その後ろに御影さんが立つ。

「それではご主人様、髪の毛を濯ぎます……」

 御影さんの指で手櫛を入れられながら髪を洗われ、しばしうっとりとした心地に酔う。
 泡立てながらも丁寧なマッサージをされ、美容室でサービスを受けているような感覚だ。
 シャンプーとリンスで万遍なく髪を洗われると、思わず声が出てしまいそうになる。

「ふう。では次は、お身体のほうをお洗いしますね♪」
「あ、あの。御影さん、それは流石に……」
「ワタシに洗われるのは恥ずかしいですか?」
「は、はい……」
「うふふ……ですがこれは、ご主人様にとって必要な奉仕なのです、
 お止めするわけには参りません……ご観念下さい♪」

 そう言いながら、御影さんはどこからか取り出した白いタオルにボディソープを付けて泡立たせる。
 もこっと柔らかい泡が肌に触れ、肩から順に右腕、左腕と順番にタオルがごしごしと擦りつけられ、僕の身体は泡だらけになっていく。

「汚れが溜まりやすい場所は念入りに洗います。
 首筋、腋の下、脚の裏、内腿……少しくすぐったいかもしれませんが、ガマンしてくださいね?」

 他人の手で身体を洗われるというのは予想以上にくすぐったい。
 つい身を捩じらせたり、声を漏らしたりしてしまうが、御影さんは気にせずタオルを擦り付ける。
 いやむしろ、僕の反応がある部分はより長く洗っている気さえした。
 泡のついた部分を御影さんが一度シャワーで流すと、

「ではご主人様、少しお体を持ち上げます……」

 粘液が僕の両足と背中に纏わりつき、僕をゆっくりと抱え上げる。
 さらにそのまま足を大きく開かされ、僕の陰部からお尻にかけて股間が丸見えになってしまう。その体勢は大人がおしっこをする子供を持ち上げるような、とても恥ずかしい姿勢だ。
 
「み、御影さんっ、何を……?!」
「先程言いましたとおり、汚れのある部分は念入りに……ということです。
 特に”ココ”は、綺麗にしませんと……」

 泡の付いたタオルが僕の股間を包む。
 蟻の門渡りから陰嚢、そして肉棒をタオルが這い回り、泡でもみくちゃにされていく。
 さらにペニスは皮を剥かれ、亀頭の部分まで優しく磨かれてゆく。
 先端をくりくりとほじったり、カリ首を丁寧になぞったり。
 敏感な性感帯を触れられる快感で、あっという間にペニスが勃起してしまう。

「あ、あああ……!」
「あら……ボッキしてしまいましたね、ご主人様?
 まだお身体を洗ってさしあげているだけなのに……感じてしまったのですか?
 ふふ……いやらしいご主人様♪」

 足の間から御影さんがにんまりと微笑む顔が見える。
 恥ずかしさのあまり僕は目を逸らしてしまうが、御影さんの手は止まらない。

「触れられれば感じるのは男性として当然のことですものね、仕方ありませんわ。
 ですので、どうぞ好きなだけ気持ちよくなってください♪」

 肉棒から手が離れ、今度はタオルがお尻のほうへと滑っていく。
 尻たぶをごしごしと洗い終えると、今度はそっとアナルの方を愛撫される。
 つーっと敏感な穴の窄まりをほじられ、皺の間まで丹念に洗われていく。自分でも中々触れないその不浄の穴を、御影さんのような麗しい女性に洗われているというだけで興奮してしまう。
 大きく足を開かされ、背中を固定されているせいで、どれだけ身体をよじってもぞくぞくとした快感から逃げられない。

「は、恥ずかしい……降ろして……」
「うふふ♪ お尻の穴を擦るたびに、おちんちんがピクピクして……。
 こちらの方でも感じてしまわれるのですか、ご主人様?
 何度も言いますが、まだ洗っているだけなのですよ……?」

 アナルから手が離れたかと思うと、もう一度股間全体を洗うように泡で包まれる。
 ごしごし……こしゅっ、ぬちゅっ。
 しこしこと肉棒をしごくようにしてタオルで包まれ、泡の柔さが竿全体を優しくくすぐる。
 我慢しようとしても、その動きが的確に性感を高めてくるので抵抗できない。
 もはや愛撫としか思えないその刺激に僕は耐えられず、射精しそうになってしまうが、

「んん……では、泡を流しましょうか」
「あ……っ?」

 そこで御影さんの手は止まってしまう。
 快感はそこで止まり、ペニスが物欲しそうにピクリと震える。
 情けない声と共に御影さんの顔を見つめると、そこには楽しそうに口元を歪ませ、僕を見つめ返す御影さんの微笑みがあった。

「いかがいたしました、ご主人様?
 よもや……ただのお清めだというのに、達してしまいそうになったのですか?
 必死で耐えようとしたのに、ガマン出来ずに漏らしてしまいそうになったのですか……?」

 じっと僕を見る彼女の顔は笑うような、楽しむ様な表情をしている。責めるような言葉とは裏腹に口調は優しい。

「そんな切なそうなカオをなさらなくとも、すぐに満足させて差し上げますよ。
 もっとも……ワタシ以外ではもう、満足できなくなるかもしれませんが……♪」

 明らかに僕の状態を把握し、手玉に取ってみせたかのような動きだ。
 身体中の泡をシャワーで流し落すと、僕はまた御影さんに抱きかかえられる。

「それでは……お体のお清めも終わりましたので、夜伽に参りましょうか――」











「ではご主人様、仰向けにベッドに寝転んで、大きく手と足をお開き下さい。
 そう、大の字になるように……」

 お風呂から上がった僕は御影さんが促すままに、真白いベッドに裸で寝転ぶ。
 ベッドシーツはシルクのように肌触りがよく、ふかふかしている。全裸で横たわるとそれだけで気持ちがいい。
 僕のお腹に御影さんの身体が乗り、人間のように下半身を形作る。多量に余った青紫色の粘液は僕の身体中にどろっと纏わりついてきた。不思議な感触だったけれど嫌悪感はまったくない。
 しかし僕の心の中は、一体どんな事をされるのだろうと不安になっていた。

「まずは、忠誠の口づけを。
 ご主人様に、快楽だけを差し上げることを誓います……――んむっ」

 ちゅっ、と軽く僕と御影さんの唇が触れる。ひんやりとしてゼリーのように柔らかい。
 何度かついばむように優しいキスをすると、御影さんが長い舌をぺろりと出した。
 生物のようにうごめくその舌が、僕の口内にゆっくりと挿し込まれていく。

「んっ……ちゅ、んむ……っ」

 御影さんの舌は見た目通り柔く、弾力がある。舐めるとうっすらと桃のような甘味がする。
 れろれろと僕の舌をくまなく舐めたあと、歯の裏や頬の内側など、普通では届きにくいような場所まで丹念に舌がちゅるんと這いまわっていく。くすぐったさを伴う気持ちよさが僕の緊張をほぐし、身体から少しずつ力が抜けていく。
 深いディープキスを続けながら、御影さんは僕の胸元に手を滑らせる。

「それでは次に、緊張を解すためにお体の愛撫を。
 殿方といえど、乳首や腋の下を撫でられるのは気持ちよいのですよ……?」
「んくっ……」

 細い指先が僕の両乳首をそっと撫で、それから女性の胸を揉むように全体を揉まれる。
 腋の過敏な部分をつつーっと指先でくすぐりながら、もう一度乳首をくりくりと転がす。また腋を撫でる、乳首を弾く……というふうに、交互に御影さんの両手が愛撫をしてくる。
 御影さんの声が聞こえる間もディープキスを続けられているのが不思議だったが、そんな余計な事を考える余裕が少しずつ無くなっていく。口を塞がれているのに息苦しさもあまり感じなかった。

「あ、ああ……御影さん……」
「ふふふ。大分リラックスして頂けているようですね……。
 こちらは……もうこんなに硬くしてしまっていらっしゃいますけれど……♪」

 ペニスにどろっとした粘液が絡みつき、陰嚢から竿まで包み込まれてしまう。
 すると粘液が御影さんの身体と同じぐらいに硬さを持ち始め、しゅっ、しゅっとペニスを手でしごかれているような刺激が走った。

「ワタシの手は二本では収まりませんよ、ご主人様?
 お望みとあれば十人、いえ百人分の手で愛撫をして差し上げることもできます。
 ですが触れているのはもちろん、ワタシだけ。
 つまりご主人様は、ワタシの事だけを考えて気持ちよくなっていただけます……♪」

 ぐにぐにと、新しい御影さんの手が陰嚢を優しくもみほぐす。かと思えば、亀頭の表面をそおっと指でツンツンされる。
 乳首や腋への愛撫も行ないながら、さらに強烈な性感帯への刺激まで行ってくるのだ。
 両手両足は大の字のままがっしりと固定され、御影さんの舌と唇で口をふさがれたままの僕は、声にならない喘ぎ声を上げるしかできない。

「んんんん……っ!んーっ、んーっ……!」
「脚の裏に太腿の内側、脇腹に背中の裏、お尻の穴――。
 気持ちよいというよりは、まだくすぐったさの方が上かもしれませんが……。
 少しずつ、どの場所も触れられただけで感じるようになってしまうでしょうね……♪」

 脚の裏を円を描くように指先でくすぐられながら、太腿を両手でさすさすと撫でられる。敏感な内腿は特に念入りに指が這った。
 脇腹をマッサージするかのように二つの手が動き回り、背中の溝をつーっと撫でるように指が触れる。
 太腿の間に指を滑りこまされ、お尻の穴の表面を指先でくるくると撫でまわされる。軽く粘液を塗り込むかのように入り口を穿られる。
 さらに新しい手が作られ、快感のせいでわなわなと震えていた僕の両手をぎゅっと握る。恋人のように愛のある握り方だった。

「んむぐぅっ、んぅぅっ……!」
「ああ、快感に悶えるご主人様のカオ……堪りませんわ。
 まだ始まったばかりですのに、おちんちんが涎まみれになっていますよ。
 ゆっくりとおちんちん、撫でまわして差し上げますね……♪」
 
 ペニスに御影さんの手が触れる。それも二本もだ。彼女の手から溶けだした粘液の一部がローションのようにぬるぬるとして潤滑剤の代わりになる。
 片方の手は亀頭を掌でぐりぐり、にちゃにちゃと擦りながら、竿をじゅぽじゅぽと握った手でしごかれる。身体中の性感帯を責められて破裂しそうなほど勃起したペニスは、あっという間に射精してしまいそうだった。
 しかし絶頂しそうになると手の動きが極端にゆっくりになり、代わりのように他の性感帯を愛撫し始める。完全に射精までのボルテージを操られているかのような愛撫だった。

「……ぷはっ。もう蕩けきってしまったかのようなおカオですね。
 もう射精してしまわれたいのですか、ご主人様?
「あ、あああ……は、はやくぅ……」

 ずっと塞がれていた口をようやく離され、僕は情けなくも懇願の言葉を口にする。

「ふふっ……どうなされたいのか言ってくださいませんと、ワタシも困ってしまいます……♪
 どこを、どうされたいのですか、ご主人様?
 はっきりと申されるまで、このまま続けてしまいますよ……?」
「お……」
「お?」
「おちんちん……滅茶苦茶に、しごいて……イかせてくださいぃ……」
「ふふ……かしこまりました。 では、遠慮なく……♪」

 その言葉と共に、ペニスを触っていた二つの手がスピードアップする。
 さらに他の場所を触っていた粘液が集まって、さらに新しい手が作られ、ペニスに群がっていく。

「さあ、ご主人様。
 おカオを持ち上げますので、ワタシの手でイカされてしまう所をご覧ください……♪
 ほら、あんなにたくさんの手がご主人様のおちんちんをこねくり回していますよ?」

 陰嚢を優しくもみもみしたり、竿の部分をろくろを回すようにしごいたり、亀頭の表面をぬるぬるした掌で擦ったり、裏筋をやさしく粘液の付いた指で弄ったり――。
 それはまさに滅茶苦茶な光景で、ペニスが無数の手に蹂躙される壮絶なものだった。
 あっという間に精液が上り詰め、僕は精を吐き出してしまう――。

「あ、ああ、ああああっ――!!」

 マグマのように熱い精液がペニスから放たれる。
 ほとばしる精液は包むようにして他の掌たちに受け止められ、跳ねかえった白濁液が僕の身体をも汚す。
 長い長い射精は何十秒間も続いたかのように思え、僕は吐息を吐きながら身悶えるしか出来なかった。

「こんなにたくさん出してしまわれるなんて……よほどガマンなさっていたのですね。
 ご主人様のセイエキ、とても熱いです……♪
 全て残さず、ワタシの糧とさせていただきますわ……♪」

 ペニスを包んでいた手が元の粘液に戻ると、僕の下半身を包み込んでいく。精液の飛び散った箇所を這い回ると、何もなかったかのように綺麗に吸収していった。

「はーっ、はーっ……」

 射精の余韻に浸っている僕の耳元で、御影さんがささやく。

「ふふ……もうお疲れでございますか? 
 ショゴスである私たちにとってはこの程度――まだ前戯の一つでございますのに」
「え……」
 
 射精を終え、萎えかけたペニスが再び青紫色の粘液でどろりと包まれる。 
 さらに御影さんはもう一度僕のお腹に乗り、僕を見下ろしながら口を開く。

「たっぷりと射精していただいたおかげで、ワタシの身体もすんなりと入り込めると思います。
 上と下から……同時に、ワタシの身体そのものを味わっていただきますよ……♪」

 御影さんは上半身を傾けると、豊かな乳房を僕の眼前に降ろす。
 ぽよん、と僕の頬にその大きな膨らみが触れた。
 薄紫色の肌で出来たおっぱいは、色こそ違えど女性のそれと同じような形と柔らかさを持っていた。

「んっ……ワタシの乳首を口にお含みください。
 そしてゆっくり吸い上げて……ワタシをお飲みいただけますか?」

 ツンと勃った御影さんの乳首が僕の唇に触れる。
 魅入られるようにそれに吸い付くと、夢中になって僕はちゅうちゅうと吸い上げていた。
 更によしよしと後頭部を御影さんの掌で撫でられ、何とも言えない落ち着くような感覚に陥ってしまう。

「あぁっ、そう、そうですっ……んあっ、いいですよ、ご主人様っ……♪
 あふっ……わ、ワタシのおっぱいのお味はいかがですか……ひぅっ……♪」

 コリコリと硬い乳首の感触を楽しみながら、赤ん坊のようにしゃぶりつく。
 口を通り、喉に流れ込んでいく御影さんの粘液は、果実のように甘さで溢れていた。

「そ、それでは……おちんちんの方からも、失礼いたします……♪」

 粘液によってまたペニスをしごかれたかと思うと、硬さを取り戻した肉棒の先端にくちゅり、と液体が触れる。
 そして尿道口を少しずつ押し広げながら、にゅるにゅるとその中に粘液が入り込んでくる――。痛みこそまったく無いものの、普段出すことしかないその穴に液体が入っていく感覚は、言いようもなくぞくぞくとした。
 その間も口からは御影さんから授乳を続けられ、体内がどんどん満たされていく。

「うふふ……ご主人様、おちんちんの中までワタシの身体で包まれてしまいましたね♪
 ではさらに、お尻の穴のほうも埋めてしまいましょうか……♪」

 両膝の裏に新しい手を挟みこまれ、ぐいっと持ち上げられた後に大きく開かされる。
 正常位の女性のような格好を取らされたまま、粘液が股間に纏わりついた。
 肉棒のような硬さを持った粘液が、つんつんとお尻の穴を優しくつつく。穴の周りにある粘液はまたローションのようにぬるぬるとしたものになり、穴の滑りを高めていった。

「それではご主人様……力を抜いてくださいね。
 大丈夫です、怖くありませんよ……すぐに気持ちよくなりますから……♪」

 その直後に熱い肉棒のようなスライムがお尻の穴に押し当てられる。ぬるっとした感触と共に、僕のアナルを押し広げながら、彼女の粘液がにゅるにゅるとゆっくり挿入されていく。
 さっきの指とは比べ物にならない異物感と、身体の奥を抉られる感覚に息が止まりそうになった。

「ああ、従者でありながらご主人様の穴を犯す背徳……なんと甘美なのでしょうか。
 これで準備が整いましたね。ご主人様には快楽の海で溺れていただきましょう……♪」

 ぬちゅにちゅ――と、ペニスの中にある粘液が再びうごめき始める。
 先程までは全く触れていなかった前立腺ににゅるっと触れると、粘液がそれを激しく愛撫し始める。
 そして同時に、僕のお尻の中にある肉棒が腸内を掻きまわすかのようにピストンを始めた。

「――ッ?!!」
「ふふふっ……普通の射精は、精液を出し切ってしまうと終わってしまいますよね。
 ですが、精嚢を粘液で埋められて、射精する感覚がずっと続くとなれば――どうなるでしょう?
 ええ。目の前が真っ白になるような快感を、ずうっと味わっていられるのです……♪」

 その刺激に少しも耐え切れず、絶頂を迎え僕の身体は射精の快感に包まれる。
 びくびくびくっ、とペニスが大きく震えると、そこから青紫色の粘液がぴゅっと飛び出す。ペニス内部に溜まった粘液が放たれているのだ。しかしペニスはそれが精液である事が分からず、ただ粘液を送り込み続ける。普通では触れられない前立腺というスイッチを触られ続け、その分だけペニスが射精を促す。
 そしてアナルに入った肉棒がずぽずぽとピストンを繰り返し、直腸側から前立腺をさらに刺激し、狂ってしまいそうな快感が身体中を走っていく。
 射精の快感が終わらない。
 男性が受けられる快楽の殆どを一気に受け続けることで僕の意識が消えかけていく。
 それでも口だけは御影さんの母乳を吸い続けようと、無意識に動いてしまう。

「――ッ!!!――!!!?」
「あはぁっ、ずうっと出しっぱなしになってますねぇ……♪
 ほら、ワタシのおっぱいも飲み続けて♪そうすれば、ずっとずっとシャセイ出来ますよ……♪
 んっ、あうんっ、もっと、もっとおっぱい、ちゅうって吸ってくださいっ……♪
 あ、あああっ……ご主人様の快感が、ワタシにもぉっ……♪
 わ、ワタシもイってしまいますっ……ご主人様ぁっ……♪♪」

 びゅーっ、びゅーっと永遠に続く射精の快楽。
 気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
 快楽以外の事を考えられず、頭の中が真っ白になっていく。

「ご主人様っ……ご主人様ぁっ……♪」

 最後に僕が見たのは、悦楽に蕩けきった御影さんの綺麗な顔だった。





 


















「……少し、やり過ぎてしまったかしら。
 けれど快楽に満ちたあの顔を見ていると……ふふっ」

 ワタシはすやすやと眠る彼の頭を自分の膝に寝かせながら、そっとつぶやく。

「身の回りの世話だけを焼いてあげようと思っていたのに……。
 こうして立派に成長した姿を見ていると、愛おしくて、けれどどこか悲しくて。
 今まで出来なかったぶん、そうしないと狂ってしまいそう――。」

 彼の頬を撫でながら、ワタシは起きないように優しく口づけをした。

  これからは、ずっとこの子を甘やかしてあげられる。
  もう母でも、ニンゲンでもないのだから――今度は貴方の恋人になってしまおうかしら、なんて。

15/11/02 20:23更新 / しおやき

■作者メッセージ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

最近どんな子にも母性を求めすぎているきらいがありますが魔物娘なのでしかたありません。

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