読切小説
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一言の歌
「大好きだよ」

俺の幼馴染である漣の明るい緑色をした瞳がこちらを真っ直ぐ見つめている。
この部屋には俺と漣しかいない、必然的に漣の言葉は俺に告げられた言葉となる。

「それは友達としてか?」

俺は目を合わせないようにしながら言葉を返す。
目を合わせたなら、付き合いの長い漣には俺の本音が悟られてしまいそうだったから。

「友達としてもだし、異性としても海人のことが大好きだよ」

漣の言葉に俺の胸がズキリと痛む。俺だって漣のことが好きだ、だけど俺は漣のように自分の気持ちに素直になれるわけじゃないし、その一言を言える度胸があるわけでもない。

「そうか」

だから俺は自分の気持ちからも、相手の気持ちからも逃げて、どうでもよさそうに呟く。

「あっと、そうだ今日はこんなものを持ってきたんだった」

漣は話題を変えるようにバッグからリングケースのような箱を二つ取り出した。
俺はそのうちの一つを受け取り箱を開けてみるとガラスの破片のような小さな透明な石が入っていた。

「知り合いのドワーフさんに譲ってもらった魔宝石の原石だよ、純度もあんまり高くないし加工の途中で割れちゃって売り物にならなくなったものらしいんだけどね」

試しに俺が魔宝石に触れてみると、触れた部分から淡い紫色に染まっていった。

「海人は薄紫なのか、ボクは薄緑だったよ」

漣はケースごと俺に渡してきた。

「あのさ、海人の答えが出てからいいんだ。答えがNOだったらボクのを、もしYESだったら海人の魔宝石をボクに渡してくれないかな?」

「わかった」

俺はケースを受け取り約束する。

「じゃあ、ボクはもう帰るね」

俺は窓から寂しそうに飛び立つ漣を見送って、ベッドに倒れこんだ。
そして大きくため息をついて後悔する。漣の気持ちに答えるタイミングなんて何回もあった、漣が帰るときに俺の魔宝石のケースを渡す事だってできたはずなのに。
涙が出てくる、自分の気持ちを伝えられない自分が情けなくて、漣の気持ちにすぐに答えられなかった自分が情けなくて。
そして魔宝石のケースを開けて薄緑色の宝石を見つめる。
その色は漣の瞳の色にそっくりで、まるで漣に見つめられているように感じた。
そうだ、いつまでも逃げることなんて出来ないんだ、答えは出ているのだからそれをどうにかして伝えないと。





ボクは自分の部屋で泣いていた。ボクが大好きだと伝えたとき、海人は気まずそうに顔を伏せたから。改めて異性として好きだと言った時には苦しそうな顔もしていた。
たぶん、答えられないことはそれが答えなんだろう。だから、本当はお互いの色に染めた魔宝石を交換したかったけど海人が断りやすくするために両方を渡してきた。
だから、今日はおもいっきり泣こう。それでもって笑顔で自分の魔宝石を受け取れるようにしよう。
そう思っているとピンポーンとインターホンが鳴り響いた。
ドアスコープを覗くとそこには海人がたっていた。なんだよ、せっかく今日は泣いていようと思ってたのに答えを出すのが早すぎるよ。

「思っていたよりずっと早かったね、やっぱり答えは出ていたんだよね」

涙を拭いてから笑顔でドアを開けて海人を部屋の中に入れる。本当は泣きたいのにボクは海人が大好きなのに。

「まあ、漣の言うとおり答えはでてたよ。でも、言えなかったんだ。だからさ、言うためのちょっとしたズルは許してくれよな」

海人はそのままボクに真っ赤な果実を差し出してきた。どうやらこれを食べろということらしい。
一口食べてみると、かなり甘くて口の中にだいぶ甘味が残る。でも、なぜだか諦めようと思っていた海人と一緒にいたいと思う気持ちがだいぶ強くなっていく。
いやだよ、せっかく笑顔にしてたのにこんな気持ちが強くなったら、また涙が出てきちゃうじゃないか。
それなのに海人の顔はだんだんボクに近づいてきて、そして唇同士が触れ合った。
ボクは突然のことに驚いてわけがわからないのにボクの体はもっと海人を求めようとして口を開けた。
そして海人もそれに気づいてお互いの口の中で舌が絡み合うような激しいキスになった、海人の口内の酸味がボクの口内に残っていた甘味と絶妙に交じり合ってとても気持ちがいい。

「ゴメンな、こんなずるい方法しか考え付かなかったんだ」

口付けを終えてから海人が言った。ボクはようやく真っ赤な果実の正体が分かった、あれは夫婦の果実で海人はあらかじめ青い実を食べていたんだ。

「それと、俺も漣のことが大好きだ」

海人が魔宝石のケースを渡してくる、中の魔宝石の色は見なくてもはっきりと薄紫だと分かる。

「ボクも海人のことが『大好きだよ』」

ボクはたった一言の特別な歌を海人に歌った。
14/09/17 08:41更新 / アンノウン

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