読切小説
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ゆっくり歩いて
「ねぇねぇ、お父さん早く初詣に行こうよ」

12月31日、午後11時55分。
娘にコタツから引きずり出された、お父さん若くないからコタツから出たくないのに。

「とっくにお母さんは準備満タンなんだから、お父さん早く準備して!」

娘に急かされて上着を手に取ろうとすると。綺麗な、アメジストのような淡い紫色をした翼が俺の上着を取ってくれた。

「はい、アナタ。娘も待っているんですから早く行きましょう」

にこにこ、と笑顔で上着を渡してきてくれる。綺麗な烏の濡羽色をしたショートボブくらいの髪、そしてさっき俺の上着を取ってくれたアメジストのような淡い紫色をした翼、改めて『あぁ、綺麗だなぁ』と思う。
俺の大好きな、愛おしい人。彼女の翼の色は娘にもしっかりと遺伝している。

「二人してそんなに急かすなって、神社や来年は逃げたりしないんだから」

そもそも妻がそんなに早く行きたいのはおみくじを引きたいからだろうに。

「だって、少しでも早く今年最初のお願いしたいんだもの」

娘がはしゃいだ様子で翼をバタつかせた。

「今年最初のお願いかぁ、なんて願うの?」

「えへへー、まだ秘密!」

妻が娘に聞き、娘は秘密と答える。ほのぼのとした親子の光景だ。見ているこっちも自然と笑みがこぼれてくる。

「さてと、お父さんも準備できたし、そろそろ行くか。着く頃にはちょうど新年になってるだろうし」

俺は二人に声をかけて一緒に家を出た。



あぁ、やっぱり暖かい家の中とは違って外は冷たい。思わず手をポケットに入れそうになる、しかし何か柔らかく暖かいものにそれを阻まれた。

「寒いでしょ?」

そう言って、妻が俺の手を自分の翼で手と手をつなぐように温めてくれた。羽越しに彼女の体温が伝わってきて温かい。

「走ってもいいけど転ぶなよ」

娘は勢い良く走って近くにある神社へ一直線に向かう、俺はちょっと心配しながらその姿を妻と手を繋ぎながら後ろから見ている。

そして、妻と二人で手を繋いで歩いてることに少し恥ずかしいな、と思ってしまう。まだ恋人同士だった頃はいつもしていた事だったのに、子供ができてちょっとしてないだけでこんなにも恥ずかしく思うなんて。
妻はちょっとこっちを見て気持ちを悟ったのか、そのまま肩を摺り寄せてきた。

「少し早いけど、ボクから素敵な旦那さまにお年玉」

妻がそう言って、俺の頬に軽くキスをする。俺もお返しに彼女の頬にキスをした。
そして娘を見ながらゆっくりと二人で手を繋いで歩いていく、少しずつ恋人気分を思い出して『来年もいい年でありますように』と願いながら。
14/09/17 08:42更新 / アンノウン

■作者メッセージ
皆様が今年、いい年でありますように。

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