読切小説
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さむーい夜には飛竜と布団
秋…それは、夏から冬への過渡期。
とはいえ、ただの中間地点ではない。
物静かな雰囲気を数々の実りによって彩る、そんな季節。
そして確実に、夏から冬へと向かう兆しを感じさせる、そんな季節でもある。
薄着でも蒸し暑くてたまらかったあの頃から、冷房をかけるのは風呂上がりで十分になって…
夜長い間ゲームをしていると寒さで操作が鈍くなってくる、そんな感じの。



「…っ…」
布団内でもぞりと動く。
時計は就寝前のトイレで見た時、分針と秒針が丁度12をさしてたっけか。
大学生が寝るには少々遅いかもしれない時間…
しかし明日は休日なのだし、どれだけ遅く起きようとまぁ問題はない。
…じゃ、何が問題なのか。
「…寒ぃなぁ…」
それはこの、身を震わす寒さである。
この前取り替えたシーツが、冷たくすべすべした材質のものである故…
「…ふ。」
も、あるけれども俺がめんどくさがって短パンと半袖のままなのが一番の理由かもしれないな。
そう思って一人で苦笑い。
だがここからわざわざ長いズボンやらを取りに行くのも、また億劫だ。
…このまんま寝るか。
幸いにして布団はふかふかのそこそこ厚手、シーツさえ体温で暖かくなれば…

「…やっぱりまだ起きてたね、良輔。」

等とぼんやりとした考えを巡らせていると、突如として寝室のドアが開いた。
布団に入っているためそれをした主は見えないが、声から察するに翼だと分かる。

翼、大学生で…まぁ、ざっくり言うと俺の彼女。
ついさっきまで一緒に深夜までゲームをしていた、俺より少しだけ背の高い女の子である。
眠くなってきたので、俺がお先に寝室へ行ったというわけだ。

「…ん、んんー…」
彼女の声に、寝たふりで答える。
「…なに、寝たふり?」
帰ってきたのは、笑い混じりのやや呆れたような声。
きっと、呆れ顔で腕組みなどしているのだろう。
姿は見えないが、俺にはその様がはっきりと想像できる。
「…」
さておき、それにも寝たふりを続けてみる。
どの道このまま眠るつもりだったのだ、問題はないだろう…やや冷たい気もするが。
「へぇ…そういうこと、するんだ。」
と、彼女がその声と共に歩いてくるのが聞こえた。
もしかして、のぞき込んでくるのだろうか。
それは…ちょっと恥ずかしいな。
「…よっ、と…」
などと思っていると、そんな声が聞こえた後に、やや遅れて軋むような音が耳に入ってきた。
同時に沈み込むような感触があったし…どうやら翼が、ベッドに上がってきたようだ。
「…」
…どうしようか…
俺は冷静に考えつつ、別の部分ではやや焦ってもいた。
翼は落ち着いた所があるが、基本的には積極的だ。
そんな彼女が俺の寝るベッドに上がり込んできて、何もしない訳がないからだ。
何をされても別に良いし、元はと言えば冷たい行動をした俺が悪いのだけど。
「…さって、と…どうしようかなぁ?」
翼が、つぶやくように言葉を放つ。
独り言のように聞こえるが、その言葉には間違いなく俺へのメッセージが篭められていた。
すなわち、このまま狸寝入りを決め込むつもりなら何かしてやるぞ、と。

「…」
無言のまま、静かに焦りを募らせる。
正直、ピンチである。
ゲームで例えるなら、次の行動を貰えば即死ないしは壊滅…
であるのにそれがなんなのか分からない。
そして分かってもきっと対処出来ない行動であろう予感もしている、そんな感じの。
そして、この場にコンティニューという選択肢も当然、あるはずはない。
「…ふぅ、なーんだやっぱり寝てるのかぁ…」
そんな俺の心持ちを知ってか知らずか、翼は着々と準備を進めていく。
…もはやこれまでかな。
「…んぁ…なんだよ、折角人が寝ようとしてるのに…」
そう思い、出来る限り眠い風を装ってぼやきつつ、布団をめくって起き上がる。

その先に見えたのは、彼女の姿。
窓からの夜の光と空気清浄機の青いライトに照らされ、ふふっと柔らかく笑っていた。
その身に、衣服と呼べるものは何一つ身に付けておらず、
その代わり、各所各所を覆う鱗が衣服の役割を果たしている。
後ろの方で先程からくねっている細長い鱗の塊は、尻尾だ。
腕と呼ぶ部分の先には普通あるはずの手がなく、爪があった。
加えて仰々しい翼が、腕の周りには畳まれている。
広げればどれほどの大きさになるのだろうという代物だ。
…そう、翼は人間ではなく、ワイバーンなのだ。

「ん、ふふ、ごめんね、起こしちゃった?」
それはさておいて、彼女はこう言ってくる。
謝る言葉だが、こちらの思惑を全て読みきった上でそう言っているのが分かる…
そんな優しくも妖しい笑みを浮かべながら。
「…良いよ別に。」
…全て、見抜かれている。
そう経験から悟った俺はこの言葉を口にする。
とりあえず話の流れを切ろうという魂胆だ。
「そっか、良かった。」
狙い通り彼女は微笑んだままそう言う。
よし、後は…
「じゃあ、俺は「ああ、ちょっとごめんね。」
寝るから、と続けようとしたところで、突如彼女に割り込まれ腕を両翼でぺたぺたと触られた。
「え…」
突然の行動に戸惑っていると、翼はその優しい微笑みのままこちらを見つめてくる。
瞬間、脳の奥まで見通されたような感覚を覚えてしまう。
「…冷えてるね。」
と、彼女が優しくそう言う。
気遣う短い言葉だった。
が、言うと同時にちろりと口の端をなぞった後に引っ込んだ艶めかしい赤色が俺の意識を捉えた。
別に大した意図はないのかもしれないが…
まるで、良い獲物を見つけた、と言っているかのように思われたのだ。
そしてその動きは、一瞬しか見えなかったにも拘らずやけに淫らに目の奥に焼き付いて。
それは、彼女の意識の中で獲物という振り仮名が俺につくことの意味…
そしてその結果訪れるであろうものを想像させ…
「あ、そ、そう…じゃ、俺はその寒さを忘れるために寝るから。」
やばい。
直感的にそう思った俺は布団を被ってそのまま寝入ろうとする。
いや、恋人がやるのになにもおかしいことでは無いし、嫌なわけでもないんだが…
「あそう…うん、それがいいよ、私が君を起こしちゃったんだものね。」
対して翼は、案外何もせずにただそう言う。
彼女らしい落ち着いた声音の落ち着いた言葉だ。
しかし、積極的な彼女が何もしないというのも…
それはそれで何か、良くわからないが、妙な薄ら寒さを感じさせる何かがあった。
…もう、本当に寝よう、翼が何かする前に。
彼女である翼に対してこの仕打ちは申し訳ないとは思うが、
俺は何も起きないならそのほうがありがたいタチなのだ。
…俗にはヘタレとも言う。

「…それじゃ。」
とか何とか思っていると、突如布団の端がめくり上がった。
「っ…?」
戸惑いと本能的な一瞬の恐怖を感じていると、それをした者が、布団の中に入り込んでくる。
「お、おま、翼…!」
半身を起こし、慌ててその名を呼ぶ。
「え?ああ大丈夫だよ、布団は傷つけないようにしてるから。」
すると彼女は微笑んでしれっとそう言った。
まるで分かっていないような勘違いの素振り、しかし絶対に分かってやっている。
「違う、そうじゃなくて」
訂正しようとする。
それが悪手だということなど、いつものやりとりで分かりきっている事だというのに。
「…あ、そっか、そうだよね。」
首を傾げキョトンとしたあと、緩やかな底の見えない笑みを浮かべる翼。
そうだ、ワイバーンに、翼に、次に移るための踏み台など与えてはいけないのに。
「いや「んっしょっと…これで、良いんだよね。」
後悔と共に、それでもと繰り出した足掻きはまたしても彼女の行動によって遮られる。
ゆっくりと翼を広げ、だが決して逃げられないようにしっかり、俺の体を抱きしめてきたのだ。
「だっ…ぁ…」
その瞬間上半身を包んだ暖かさに、安心感に、
口から発されようとしていた言葉が音を無くしてこぼれ落ちていく。
背筋を暖かいものが伝う感覚、先程恥ずかしさから止めようとしたその行為に、
今はただ為すすべもなく口をぱくぱくさせてしまう。
「ん…やっぱり。
嬉しそうにしてくれて良かった。」
優しげに翼は笑む。
翼というその名の如き包み込むような笑顔。
それだけでも更に力が抜けていってしまうというのに…
彼女はダメ押しとばかりに、起こされかけた俺の上半身をベッドにゆっくりと押しやっていく。
「…ぅ…っ…」
口からうっかり吐息が漏れる。
布団に勝る彼女の安らぎに心まで緩んでいき、ほとんど無抵抗のまま、布団に身を沈めてしまう。
「ふふ…子供みたいだよ、良輔?」
そんな俺を見て翼はそう言う…顔にはやはり優しげな微笑み。
しかし、布団を尻尾で掴みつつ自らと俺に被せる今の彼女のそれには…
どこか色気も含まれて見えた。
捕食者の優越と魔物娘の悦への欲求の入り交じりが魅せる、妖艶さが。
「っ…それは、お前が…」
その妖艶さが取らせる次からの彼女の行動の全て。
それに俺自分が期待してしまっているという事実を振り払うように声を絞り出す。
「もう…良輔は本当に正直じゃないんだからぁ…」
すると彼女は、俺に体を擦りつけてきた。
彼女の柔らかい感触や鼻から入り込んでくる甘い匂いが、思考すら絡め取ろうとしてくるようだ。
「…私、知ってるよ?」
布団を被ったまま、翼はそう言いつつ体を動かしていく。
俺が下、彼女が上になるようにゆっくりと…
それでいて俺が抵抗できないように、背筋を優しく撫でさすりながら。
「っ、ぅ…」
再び、息が漏れる。
その直後背中を圧していた感触がすっと消え…代わりにベッドの感触が背に当たる。
彼女が背中に回した腕を、抜いたのだ。
「ん、ん…?」
スキンシップを好む翼がわざわざ接触を少なくした。
そのことを不思議に思って見上げると、そこには俺に覆い被さる彼女がいた。
俺の肩口に両の翼爪を…
人間なら指にあたるだろうそれをやんわりと引っかけ、前のめりに俺に跨るような格好で。
口を舌が見えるか見えないかくらいに開けたその顔の中の双眸は、
先程よりも妖艶さの度合いが増して見える。
まるで、俺を征服してみせたことを誇示しているかのようだ。

「っ…」

征服。
屈したことと、もはや自分ではどうにもできない事を認めるその言葉…
それが脳裏に浮かんだその瞬間、身をブルッと震わせてしまう。
感じているのは興奮と、快感。
「ふふ…さっきの続き。」
そんな俺を見て翼は、両翼を動かし…
ゆっくりと俺の両手の平にそれを乗せた後、ベッドに押し付けてきた。
「…ぅ…!」
両の腕が封じられ、そして良いように操られる。
抵抗したいのならば絶対に避けねばならない状況だ。
だが、そうなってしまったという事実も、掴もうとする手から伝わる彼女の翼爪の尖った触感も…
押し付けられシーツと擦れ合う手の甲の感触さえも、
より一層の興奮を俺にもたらす材料にしか今はならなかった。
…何故なら。
「…良輔がこういうふうにされるの大好きな、コト…ちゃんと、分かってるから、ね?」
「ぁ…」
…そう。
抵抗を試みるだけ試みて、その尽くが失敗に終わり、そしてなすがままに貪られる。
それが、俺が抱える性癖であるからだ。
「…」
無言で、熱くなってしまった顔ごと視線を逸らす。
そうは分かっていても…
それが翼から与えられるものだとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいから。
男として、だとかそういう…
翼に言わせればどうでもいいものが、それを素直に受け入れることを阻む。
…我ながら、めんどくさい男だと思わざるを得ない。
「良いよ…そういうところも含めて、好きだから。」
しかし彼女はそう言って身を乗り出し、俺の顔を覗き込んでくる。
「…そういうのをこじ開けるのも…楽しいから…あむ…」
そして俺のそんなこだわりを噛み砕くように、俺の唇を奪ってくれる。
甘美な、いつもの感覚。
「っ、あ…」
なんの抵抗もできず、せず、口を明け渡す。
…正直な話。
この崩される瞬間のためだけに、こんなプライドを持ち続けていると言っても過言ではないだろう。
それほどまでに、彼女に奪われるのは心地よいのだから。
「んっ…ふふ、やっと、いやらしい顔になってくれた。」
そんな事をぼんやり思っていると、口を離した翼からそんな言葉がかかる。
見れば、頬を上気させて目を濡らす、完全に発情した彼女がいた。
いや…表現こそ違えど、自分もこんな感じなのかもしれない。
「…お前もだろ。」
そう思いつつ、返す。
すると翼は、嬉しそうに口を一回開閉して唾を飲み込んだ後、顔を俺に近づけてこう言ってきた。
「うん…じゃあもう、ベロチューで、良い…よね…?」
一応は質問の形、しかし俺に回答権などない。
「んぁ…む、るぅ…」
少し後に答えを発していたであろう口は、もう既に塞がれているのだから。
「っ、るぁ…む…」
だから、もし答えられるとすれば一つ。
どうぞこの身を味わってと、彼女の舌に自分のそれで示す他にない。
余りにも強引で、強力。
思考の暇も選択肢さえもなく答えなど選ばせてはくれない、自分勝手極まりない、要求。

「んふっ、んじゅ…るむ…」
…だが、それがこの上なく心地いい。
絡まれるがままに絡ませ、求められるがままに差し出す。
手の平を、体を、まるで敵わない強い力でベッドに押し付けられる。
「ん、むっ…ん、ぅ…」
自らの存在そのものが彼女の支配下に置かれようとしているその感覚が、堪らなく愛おしい。
「ン…んむっ、んじゅっ、ん、んんん…っ…」
舌を伝う唾液を飲まれながら…
そして、征服する快感に酔いしれるように薄く煌めく翼の瞳に射抜かれながら。
「ん…ん、んぁむっ…んっ…!」
彼女が俺の全てをじっくり…
ある意味暴力的なまでに求めてくれるこの感覚が、嬉しくて、幸せで、たまらなくて。
「んっ…ぁ…!」
その感覚が体を駆け抜けていく。
幸福感が、満たされていく思いが、俺からわずかばかりの余裕さえ奪い去る。
「ン…ふ…っ…」
鼻から、漏らすような息をする。
その一息一息ごとに、思考の正常で冷静な部分が抜け出ていくようだ。
「ん、じゅぅ…む、んっ」
抜け出ていったその隙間を埋めるように鼻から入り込んでくるのは、甘さ。
爽やかとかそういうのではない、抉るように強烈な甘さ。
平時に味わえばくどいと顔をしかめてしまうだろう香りだ。
「んっ、ん…んぁ…む…」
しかしそんな香りが今は、口を動かしている。
理性を失っていく俺の頭が、それを求めているのを感じている。
この香りが俺の理性を追い出して、頭を狂わせているのかもしれない、そうとさえ思える。
「ん、あむ、じゅりゅぅ…ん、みゅぅ…るぅ…ぅぇおれろぉ…」
だがそんな思考も、翼のキスの前には掻き消えていく。
とはいってもペースは決して速くない。
むしろ俺にとってはもっと獰猛に舐め尽くして欲しいと思うくらいのもの。
では何が俺を感じさせるのか、それは舌使いである。
じっくりと口の中をなぞったかと思うと俺が身を震わせた所で止まり…
舌先をフルフルと小刻みに揺らしては誘ってくるのだ。
「っ」
「んゅ…んふぁ、ん、む…」
誘われるがままに舌で触れると、良いように弄ばれ。
「んぁ…ん…るぇぉ…れぅれる…」
そして散々弄ばれたかと思うと、今度はまた別のところから誘いをよこしてくる。
「んぁ…」
「んっ、ゆ、んむ…」
何度も何度も、繰り返すと分かっていても意のままに動いてしまう。
「んふ、んっ」
「んりゅ、りゅむぅ、んっ、ぇぉ…るぉ…」
もはや体だけでなく思考さえも彼女に明け渡していく感覚。
快楽を与えられるがままに享受する、喜び。

「ん…はぁ…っふふ…」

それが毒のように体を回り、脳すら溶かそうかという辺りで、彼女はゆっくりと口を離した。
…意図は、その欲望に歪む口元を見ればすぐに分かった。
とどめを、刺そうというのだ。
これまで散々いじり尽くしたそれの、とどめを。
それを遮る術など俺には残されていないし…無論、遮る理由もなかった。
「…ん…ぁ…」
自ら口を大きく開ける。
雛鳥が親鳥を待ちわびる時のそれのように。
「ん、ふ、ふ…」
その様を見て愛おしそうに、そして満足そうに、翼は微笑むと。
「んぁ…あ、むぅっ…」
俺と同じかそれ以上に口を開け、焦らすようにゆっくり迫り…奪ってくる。
「んじゅっ、じゅっむ、んゆ…ぅ…むりゅ…!」
と同時に、俺の口に舌を突っ込み、猛烈にかき回してきた。
さっきまでとは違う、文字通りむさぼるようなディープキス。
「ん…ふぁ、ぅ…!」
口を動かして応える。
ちゅぶり、ちゃぴぃ…と、耳に残る水音。
「んっじゅっ、ふゅあっむぅん、っ…じゅりゅぅ…」
それが鳴る度に目の前の鋭い、そして濡れた瞳が艶を増していく。
そしてその瞳の中に映るそいつは、だらしのない姿でとろけていた。
「っ!?ん…っぅ!」
それを認めた瞬間、目を見開いて体全体をピクンッ、ピクピクッ…と跳ねさせてしまう。
自分自身の痴態を見て…例え分かっていたことであっても…
改めて意識に刻みつけられることで、弾けるような悦楽に襲われたのだ。
「んじゅっる…っ」
その跳ねさえも翼の体に抑え込まれ、封じられる。
耐えられない、という無意識の抗議がいとも容易く踏みにじられる。
「んっむ、ぅ…っ、ぅっ…」
しかし、それすらも俺の体は快楽へと変えてしまう。
自分の抵抗という抵抗全ての意味…
それが彼女によって無駄に塗り替えられるその事実が、何よりの悦びになってしまっているのだ。
無力感と…全てを彼女に委ねているという、安心感。
何をやっても無駄で…そして、何をやっても抑え込んでそれを無駄にしてくれるという、信頼感。
それらが、翼がくれる快楽に身を委ねていいんだと心の底から思わせてくれる。
「んじゅりゅむ、ぅんむぅ…」
その一方で激しく襲い来る彼女の舌。
手足を包み込む安らぎとは正反対の、もう一つの快楽。
「ん、ぅじゅ…っ、ん…」
ややもすればそのまま沈み込んでいこうかという意識を、それが引き上げ、高めていく。
その舌の動きだけが、もはや動けるだけの力も無い筈の俺の体を震えさせる。
「んじゅるっ、じゅっれぅ、んむ…りゅ…」
「んむ、ぅっ…!」
体から力を抜ききられ、なおかつその体と心を貪るように求められ。
俺は、もう舌を動かすのにも意識を踏ん張らなければならない程に高められていた。
「んむ、ぅ…?」
そんな俺の状態を見抜いたのだろう、彼女は目を丸くして二、三度瞬かせた後、すぅっと細め。
「ん…りゅむっぅ…ぁれぅる…ぇろぉ…ん…」
俺の舌を掬い上げるように自らの舌で絡め取り、付け根まで一気に舐めまわしてきた。
「っれ、ぁ…」
ねっとりと、全てを嬲ってくる彼女の舌。
俺も応えようとするが…如何せん上手く動かせず、殆どなすがままになってしまう。
「っ、ぅ、ふぁ…んふ…」
それでも、となんとか動かそうとする。

と。
「ん…」
彼女が突如舌を止め、俺を愛おしそうに見つめてきた。
「んふ…ぁ…?」
何をするつもり…と、こちらも止まって見つめ返す。
「…」
しかし、彼女は何もしない。
ただただ、俺を濡れた瞳で見つめてくるだけ。
「っ…んふ…」
そうしている内に、俺は段々恥ずかしくなってきたので、誤魔化すように鼻で息を一つした。
その時である。
「っ…」
俺の両手に、ぐぐぐぅっ、と表現されるような圧力がかかった。
彼女が、翼爪で押し付けたのだ。
この行動の意味を、俺は知っている。
相手の指の隙間に自分の指を入れ絡ませる、それの代わりだ。
体の構造上そう出来ないための…彼女なりの、愛してるのやり方。
「…っ、ぁ…っ…」
それを思った途端、体の奥底からうねるような衝動が湧き上がってきた。
うまく言葉にできない、しかしとても心地の良い、狂おしいほどの幸福感とでも呼ぶべき感情。
俺をこんなにまでする獰猛な彼女が見せる、いじらしさ。
なんて可愛らしく…そして愛しい一面。
「っ…っ…!」
考えれば考えるほど体で渦巻くうねりが大きくなり、俺は身を震わせてしまう。
彼女が、愛しくて愛しくて、たまらない。
そう思った俺はお返しにと、その翼爪に指をゆっくりと触れ合わせる。
動かせないと思っていた指は、案外スムーズに動いてくれた。
…人の肌のように暖かくも柔らかくもない、しかしそこはかとない安心をもたらしてくれる硬さ。
「ん…じゅりゅ、ず、れぅ、んぇぉろ…」
それを感じていると、彼女は再び舌を動かし始める。
決して早くはなく、だが確実に追い詰めてくる動きだ。
イかせようと、絶頂させようというのだろう。
「ん…ぁ、ぅゅんぁ…」
それでも、良かった…今が一番気持ちよくイける。
イかされる、のではなく、自らの意志でイくことを選んだから…とでも言えばいいのだろうか。
彼女の舐め回す舌が、押さえつけてくる腕と爪が、体が、全てが愛していると言ってくれるから。
狂おしく動き回るこの想いを、同じように彼女に伝えたい。

「んっ、ぅ、んむっ…ッ!」

瞬間、体が硬直して手足が震えた。
そして、その後にずるずると漏れるように力が抜けていく。
自分が精神的絶頂を迎えたのだと分かる、心地の良い脱力。
「んむっ…ん…れぉぅ…」
それを感じている最中も、翼は舌を動かしてくる…しかし今はさっきのような激しさはない。
むしろ癒すような、じっくり、ゆっくりとした動き。
「ん…」
今ほとんど動かせないが、何とかこちらも舌を動かそうとする。
動かして応えてやりたいと、思ったから。
「ん、は、ぁ…っ、あ…」
しかし、口から感じるのは心地よい温さでなく、冷たい空気の味。
俺が動かした瞬間、翼が舌を抜き去ってしまったのだ。
「ぁ…」
残念そうな声が俺の口から漏れる…自分でも笑ってしまいそうだと思ったくらいのものだ。
「っ…ふふ…」
翼が微笑んだ…彼女にとっても同じだったようだ。
「…っ…はは…」
息も絶え絶えに、笑って返す。
絶頂の後だが、それくらいの余裕はもう出来ていた。
…彼女との長いつきあいのおかげだな…
「ん…」
等と思っていると、翼は微笑んだまま頭を俺の首元に寄せ。
「ん…ん、んん…ぅ…」
その顔を、俺の首元に擦りつけてきた。
俺自身の顔で全部は見えないが、目を閉じてリラックスしているということは分かる。
「ん、ん…」
と、彼女が顔を離す。
いや、離したと思ったが今度は俺の顔にその頬をすっ、と触れ合わせてくる。
「…ありがと…」
そして、そんなことを言ってきた。
「…翼…?」
意図が読めないぞ、と込めて名前を呼ぶ。
すると翼はゆっくりと顔を持ち上げ、額を俺の額に近づけて触れ合わせると…
「お、おい翼…」
「ん…私が手を繋ぐアレしたいっていうのに、ちゃんと気付いてくれたから。」
慌てる俺に構わず、そう言ってきた。
赤くなった顔で笑いながら、だ。
「いや、あれは…」
目を逸らす。
…恋人として当然だろ…そんな言葉を続けられるわけなどなかったからだ。
なんとなくキザで格好つけている言い回しに思えたのと…やはり一番は恥ずかしかったから。
「…ふふ。」
そんな俺に翼は、額を離し…改めて笑う。
唐突で、時として分からなくなる彼女の行動だが、今回は分かった。
俺の手の平を、太い感触がググッと押し込んできたからだ。
「…ん…ふふ…」
その感触を指で包み込むように触れ、そして彼女と同じように笑う。
地味と言えば地味かもしれないが…幸せだ。
「こういうの、恋人やってるって思えていいね…」
彼女もそう思ったらしく、そう語りかけてきた。
「ああ…そうだな。」
短く返す。
それだけの言葉だったが、逆にそれだけで十分に心地よい会話でもあった。
言葉以外のものから、十分すぎるほどに翼の思いや感覚が伝わってくるからだ。
どれだけもらっても飽きることなどない、それを。

「…んっ…」

と、突如彼女が下半身を動かす。
その理由も目的も分からなかったが、少なくとも無意味ではなかったと言っていいだろう。
「あ、おっきくなってる…♪」
何故なら俺の股間のそれ…
彼女との触れ合いで既に屹立していたそれが、短パン越しに彼女に伝わったからだ。
「っ…」
動かれ、大きくなったモノがくにっ、と曲がる感触に息が漏れる。
「…んふっ。」
それを見て気を良くした翼が、再度左右に揺れ動いてきた。
「っ、翼、お前ね…」
その感触に身を震わせつつ、呆れ気味に声をかける。
すると彼女はズイッ、とこちらに顔を近づけて…

「…ね。
今度はこういう、『恋人』っぽい事…しようか?」

そんな甘い囁きをしてきたのだった。
「…ん。」
無論断る理由なんてない。
「んふふ…」
すると彼女は俺の手に乗せていた翼を動かし、俺の体を持ち上げ、抱きしめてきた。
「っ、ふ…」
暖かい。
胴回りをぎゅっ、と優しく締め付けられる感覚に俺はただそう思い。
「じゃあ…俺も。」
それに応えるように、俺も彼女の胴に腕を巻き付ける。
腕と指先から伝わる硬質な鱗と柔らかな肌、その二つの組み合わせが絶妙な心地良さだ。
「んぅ」
少し、彼女が身を揺らす。
笑顔でするところを見ると、心地よさからだろう。
「んっ…ふ…」
…俺の手が、体が、翼を気持ちよく出来ている。
そのことに小さいながらも確かな幸福を感じていると。
「んっ、んっんっ…」
彼女はそんな声を出しながら、脚をもぞりもぞりと動かし始めた。
何を…と一瞬思ったが、その目的は経験と感覚からすぐに分かった。
短パンの裾が、何かに掴まれるような感じがしたからだ。
「翼。」
俺が自分で脱ごうか、と言外に告げる。
「だめ…私が、君を脱がせるの…」
すると翼はやんわりとした拒否を見せた。
その顔は仄かに赤く、興奮していることが分かる。
征服の続きは、もう始まっているのだ。
「…ん。」
じゃあ、任せる。
腕に力を込めてそう伝える。
「ん…ふふ。」
対して彼女は俺の額に自らの額を重ね、目を閉じて笑った。
うん、任せて…とそう言っているようだ。
直後、それを示すように俺の尻の辺りに硬質な細長い感触が当たる。
脚と尻尾、両方で脱がしにかかろうというのだろう。
パンツの中にまで尻尾が入り込んできているのを考えると、一気に両方とも脱がすつもりらしい。
「ん、しょっ…と…へへ。」
しかしてそれは行われた。
瞬間、足全体が硬質なざらついた感触に包まれる。
彼女の脚が俺の両足を挟み込んできたのだ。
「っ…ぅ。」
さらけ出された無防備な感覚に襲いかかるその硬さに、つい身を震わせてしまう。
「あ、ごめん…冷たかった?」
翼がそう言ってくる。
心配しているような口調だが…違う。
俺にはすぐにそれが分かった。
何故なら、その顔が妖しい微笑みを浮かべながら俺の耳元に動いていき。

「でも、すぐに暖かくなるから…良いよね?」

そう、囁いてきたからだ。
暖かくなる。
その意味が分からない程俺は馬鹿ではなかったし…
「っ…」
それが分かって心揺らされぬほど、大人なわけでもなかった。
「ふふ…もう、いい加減慣れてくれても良いと思うんだけどなぁ…?」
もぞもぞと狙いを定めるように動きながら、彼女は続けて囁く。
「慣れろって、ぁ…言われた、ってぇっ…」
股間のそれが圧せられるのと耳への息、その両方にたまらず身を捩りつつ抗議する。
「よっ、と…ふーっ…」
それも虚しく襲い来る再びのゾクッ、とした感覚。
やはりというべきか彼女がしっかりと力を入れて俺を捕まえ、追撃に息を吹きかけてきたのだ。
「ーッぁ…!」
ブルッ、と体が震える。
するとそのその拍子に股間から、濡れた暖かい感触が伝わってきた。
「…なぁ、っ翼…」
顔を動かし、これって…と訊こうとする。
「まぁ慣れてくれない方が良いけど、れろぉ…」
「っぁ…!」
が、耳をなぞるぬめりにその言葉は阻まれてしまう。
いや、それだけではない。
ゆっくりと、先程感じたあの感じが大きくなってきていた。
「つ、翼…!」
股間がどんどんと熱くなっていくのを感じる。
ここまで来て察せられないほど俺も鈍感ではない、さっきのだって、ただの確認だ。
「さて…お待ちかね、かな?良輔…」
そんな俺をよそに、彼女はゆっくりと顔を俺の正面に持ってきつつ、そう言った。
「っ…」
対して、生唾を飲み込む。
それが答えだった。
「ふふ、はぁい…」
彼女はそう言ってくる。
どうやら、誤解なく伝わったようだ。
「じゃぁ…ふふっ…」
彼女が動く、すると段々と股間のそれ…
ペニスがゆっくりと何かに入り込んでいく感覚に襲われる。
いや何か、ではない、それは既に知っている。
最も獰猛でそして優しい、まるで彼女そのものを体現したかのような…彼女の膣。
そこに、自らの分身が沈み込んでいく。
熱く火照り、涎を垂らすように濡れている貪欲なそこに、俺のペニスがくわえ込まれていく。
「っ…ぅ…」
未だ中途であるにもかかわらず凶暴さを想起させる快楽と…
そして、これから起こることに対する期待と興奮。
それらが俺を震わせ、息を漏れさせる。
「ふふっ…可愛いよ、良輔…」
そんな俺を見て、翼は笑う。
どこまでも優しい声音で、溶かすように。
「は、ぁっ…」
その声にすら感じてしまい身を揺らす間も、ぬぷぬぷと俺のペニスが飲み込まれていく。
既に飲み込まれた部分が奥へ奥へと蠢く肉に動かされる。
敏感な部分が、優しくも捉えられて。
「っ、ぅ、くぁ、ぅっ…」
正直、これだけでもイってしまいそうだ。
それくらいに、気持ちいい。
「ん…」
と、突如彼女の飲み込む動きがピタリと止まる。
「つ、ぅ…っ?」
しかしながら膣内の蠢きは依然止まらないまま。
だから、極度に気持ちよくはないが緩やかに持続的な快楽に漬け込まれるという…
そんな生殺しを味わう羽目になってしまう。
「ふふ…ちょっとやりたいこと、あってさ。」
一方翼はそんな不穏なことを呟きつつ、俺の顎の下…首筋にその顔を近づけていった。
何を…と思ったその時、つんつん、と舌先がそこに触れてくる。
「…!翼、それは…っ!」
そこから導かれた、彼女の言うやりたいこと。
それがなんとなく分かり、止めようとして…いや実のところ煽るように…声を上げる。

「ふふ…れェ、ろぉおぅ…んぇおるぉ…ぅっ…」

しかして、それは行われた。
首筋を、這いずりまわり始める。
ビチャビチャと淫猥な音を立てながら、ぬるついた、ざらつきが。
「ぁ…ーーッ!!?」
それを感じた瞬間…俺は体を真上に伸び上がらせていた。
自分でも一瞬わからなかった程の快感が体を突き抜けていったからだ。
ただ、原因は分かる。
「んァ…来、たぁ…♥」
彼女が恍惚の吐息を漏らしながらそう鳴いたことからも、それがわかる。
食われたのだ、俺のそれが彼女のそれに。
首筋を舌が舐め始めると同時、注意が逸れた瞬間に、だ。
首舐めという、俺が一番感じる行為を囮に使っての不意打ちは鮮やかという他にない。
「っぐぁっ、あっぁ…」
喘ぐ。
体中がぞわぞわと粟立ち…
不意打ちがどうのと考える自分の意識さえ、どこにあるのか分からなくなりそうになる。
それくらいに、彼女の柔らかな牙は甘美なのだ。
「んフぅっ…可愛いなぁ?良輔は…ぇろ…」
対する彼女は、満悦といった様子で更に首舐めを続けてくる。
当然だ、弱点を知っている彼女がそれをしない理由はない。
他ならぬ俺自身がそれを望んでいることを本能的に感じているであろうから、尚更だ。
「ぁっ、つばっ、ふぁ…っ…!」
しかしながら慣れというのは恐ろしいもので。
俺はこれまでの経験で耐性が出来ていたのか彼女の名前を呼べるくらいにはなっていた。
耐えられているのが不思議なくらいの快感が背を強ばらせているものの…
ひとまず、耐えられてはいた。
実のところ、一息にイきたかったところを耐えられてしまっている、だが。
「ンぅ…れぅ、ん…?へぇ、我慢できるように、なったんだぁ…?」
そんな俺を見て翼が口を開く。
評価するような口振りより見える歓喜…そしてその裏に感じる彼女の更なる手の内。
「ああ…っ、そう、みたいだ…」
答えつつ俺は、震えていた。
体を確実に追い詰めている快楽に対してなのは勿論の事だが、
それよりも今は、翼自身への期待の割合が大きかった。
だってそうだ、俺が彼女の急襲にギリギリ耐えられるようになったと思っていたら、
それを上回る手段を持っていることを余裕たっぷりに示される。
…俺のような被虐を楽しむ奴にとって、これ以上嬉しいことなどないのだから。
「んじゃぁ…」
彼女が俺の背に回した翼に力が込められた。
何事かが起こる前兆。
「んくぅっ…!」
しかしてそれは起こった。
彼女の膣が、俺のペニスをぎゅうぅぅ、と挟んできたのだ。
押し潰す、とまではいかないもののかなりの力である。
「っぁっ、ぐ、くぅ…んっ…!」
だが、俺は耐えられた。
首を仰け反らせ無意識に歯を食いしばりつつだが、耐えられた。
同時に思う。
彼女が用意していたにしては、優しいな?と。
確かにあらゆる方向からのペニスへの圧迫はクるものがあるものの、射精に至るほどではない。
正直なところ、それをされれば耐える暇もなく射精させられてしまう…
それくらい強烈なものを予想していたこちらからすれば、拍子抜けといっても良いくらいだ。
というかいつもされていることだったし…気持ちいいのは変わりないんだが。
「ん…くっ、翼…」
少々物足りない感覚の中、彼女の名を呼ぶ。
「んぁぅっ、れぅ…ん…?」
彼女が俺の首筋を舐めながら、目をこちらに向ける。
最初混じった吐息は、俺の肉棒の感触へだろうか。
そんなことを思いながら、また少し硬くなったペニスから膣肉の柔らかさを感じていると、
彼女はこう続ける。
「れぇっ…物足りない?」
その瞬間、膣肉がキュッと締まった。
穏やかに追い詰める感じから一変、勢い良く責め立てる感じへ。
「っぁ…!」
その変化につい喘いでしまっていると、翼はふぅと息を吐き。
「しょうがないなぁ…もぅ…♥」
顔を俺の真正面に持ってきた後、そんなことを言う。
その濡れた瞳は、恍惚の心の焔を映し出すように揺らめいていた。
「え…」
何がしょうがないななのか…
と考えようとするが、その思考は、妖しい輝きに魅入られたように鈍ってしまう。
「本当は、もっととっておくつもりだったけど…」
そんな俺をよそに、またもや読めないことを言いながら彼女は、再び首筋に近づいてくる。
俺の頭は、そこでやっと考えを巡らせ始める。
とっておく?何を?
もしかして、本当の奥の手は…と思い当たり、彼女の名を呼んでみる。
「つば…さ…?」
「んぁあ…」
返ってきたのは、口を開ける声。
「…ふ…」
これはもう、聞くまでもないかもな…そう思い、息を吐いた。
直後、首筋に痛みがかかる。
鋭い、とおそらくそう言うのだろうな、くらいの痛みだ。
「ん…?」
なにやってるんだ…?と、視線を下げてみる。

「っく、あっ…?」

その瞬間、腰の辺りと両足をえも言われぬもやもやした、しかし心地いい何かが走り抜ける。
…だがそんなものはただの序章に過ぎなかった。
首筋にかかっている痛みが更に鋭くなっていき…
快感を伴わない純粋な痛みだけになるその一歩半手前に…
俺がもっとも心地よく感じるやや鋭い痛みに…それに変じたまさにその瞬間。
「ひ、ぅっぁ、っ…!!」
それは襲いかかってきた。
感じる暇も、口を動かす余裕も、何が起きているのかを考えることすらも許さない程の快感が。
俺の意思など関係なしに体にググッと力が入り、
それでいてその体そのものはさっきからは考えられない程に敏感になって。
先程からしっかりと続けられていた膣の締めつけと合わさり、早くも俺は限界を感じていた。
ぎっちりと締め付ける肉の感触と、鋭く走る痛みの快感。
真逆の感覚が、俺の体の中で相互に、そして勝手に高まっていき。
その研ぎ澄まされる感覚…
それが彼女に首筋を甘噛みされた痛みによって生じたのだとやっと認識できたその時には…

「っ…!?」
…更に体がグッと強ばり…

「ぁ…あぁああっ…あ…あ…っ…ぅ、っ…ぁ…」

その一瞬の間の後、俺は弛緩した体から精をドクドクと彼女の中に放ってしまっていた。
ピクッ、ピクッ、と体が勝手に時折跳ねる。
「んぅう…♥良輔の精子…ドクドク、来てる…っ♥」
と、聞こえたそんな声。
「っ…はぁ…」
息を乱しつつ視線を戻す。
すると、身を震わせ咆哮するように首を伸ばす翼の、うっとりとした表情が見えた。
「ぅくっ…!」
が、声をかけることは出来ない。
それと同時に膣が、もっとちょうだい、もっと…
という風に、ペニスを根元から先端へと揉み上げてきたからだ。
「ぃ、はぁ、ぁっ…」
ぞぞぞぞぞぉぁっ…という快感に、口から息が勝手に抜け出てしまう。
そうしながら俺は、射精の残滓がとろっ、とろぉ…っと吸い出されていくのを感じていた。
敏感なペニスの内部を、熱い液体がズルッ…ズニュルゥ〜ッ…
と通り抜けていく、痺れるような甘い感触。
それを感じていられる辺りまで来ると、痺れていた頭と体が段々とまともになってきて。
「っぅ…くぅ、あ…」
俺は、息を吐きつつ腕に再度力を入れ、
ならすようにゆっくりと彼女の鱗混じりの柔肌を撫でていた。
「ぁはぁ…良輔の、とろとろ、精子ぃ…♥」
翼はというと、征服の報酬にその身を揺らして酔いしれている。
とろんと緩んだ目で口をだらしなく開き吐息を漏らすその様は、果てしなく淫猥で。
そして、彼女に導かれての俺の射精が彼女を気持ちよくしたと…
先ほどの行為が、恋人同士の性行為の延長上であると再確認させてくれるものでもあった。
…しかし…

「っ翼…あのさ、なんで…」
一つ、気になることもあった。
何故、あそこで翼は俺の首筋を甘噛みするという手段をとったのか。
俺をイかせるのならば、膣肉をぎゅぐむぅっっと締めるだけでも効果はあったろうに。
「ん、んぅ…?あぁ…さっきの…?」
と、俺はそこで思考を置く。
俺の声を聞いた翼が、そう言ってこちらにその濡れた視線を向けたからだ。
「っはぁ…ぁあ…さっきのだ。」
答える。
さて…どんな答えが…?

「それはねぇ…君だから、かなぁ…?」

「え…」
結果、答えは返ってきた。
「どういう…」
しかしその内容が抽象的で、俺は戸惑ってしまう。
俺、だから?それは、どういう意味なのだろう…
「ふふ、ごめん、困らせちゃったね…まぁ、そんな戸惑う良輔も好きなんだけどさ…」
と、そこへ彼女が補足の意志を示してくる。
うっとり、そう表現するのがぴったりな甘えた声音で、微笑みつつ。
「お…おぅ…」
何十回何百回と言われた事とはいえ未だに心臓を跳ね上げてくれる「好き」という言葉。
そしてその笑顔に詰まりつつ、続きを促す。
「君ってマゾ、でしょう…?それも下手すれば、ドがもう少しでついちゃうくらいの…」
すると彼女は、その表情と声のままそんなことを言ってきた。
「ん…ああ、まぁ。」
詰まることなく肯定する。
彼女に攻められることを喜んでいる時点でそれは明らかだ。
そもそも前々から分かっていたことでもあった。
「だから…ね?」
と、彼女が続ける。
「…私の甘噛みでさえ、君を、感じさせてあげたいなぁって…そう、思ったんだ。」
「…ん…」
喉で息を鳴らし、聞いていると伝える。
すると彼女は、こうも言ってきた。
「舐めたりとかは、他の人でもするでしょ?でも、これは…」
と、気になるところで翼が言葉を切った。
思いつかない、という顔ではない。
きっと、少々待てば続けてくれるだろう。
「…これは?」
しかしその少々さえも、イかされて自制を失った俺の好奇心は待てない。
だが翼は、それを待っていたというように口を開き。

「これは、君がどれくらいマゾだって知ってる私にしか、出来ない…
私だけの、愛し方だから…さ。」

そしてそう締めた。
頬を上気させた微笑みとその瞳は優越感に浸っていて、そしてとても嬉しそうで。
私だけの、という言葉…
それにどれほどの想いが込められているかを想像するには、十分過ぎるものがあった。
が、同時に、それを推し量るというのもなんていうか無粋というものだろう。
そう思ったので俺はそこで思考を置き。

「…そっか。」
代わりに、短くただそう返した。
自分でも意外なほど、優しい声色だった。
「…ん、そう。
君への…私だけの…ね?」
それを聞いた彼女はニコッと笑って、首を傾げてみせてくる。
まるで、落ち着いた彼女の中にある無邪気さを凝縮したような笑顔だ。
それと私だけの、が合わさり、心の中が愛しい想いで満たされていく。
…これほどに幸せな気分にしてくれたお返しは、どうしてやろうか…

「…ぁ。」

と、答えを出したのは俺の体の方だった。
気持ちが言葉になるよりも先に、俺の股間のそれが再び自己主張を始めたのだ。
暖かい彼女の中でムクムクと、柔らかさを掻き分けて硬くなっていく。
…そうか…そうだな、翼が一番喜ぶのは、これだろう。
体の下した素直な判断に、ふ、と笑って内心頷く。
「んぅんッ…ん…ふふ、嬉しいなぁ。
もう、復活してくれたんだ…」
一方翼は自らの中の俺を感じて、更に嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ、そうみたいだ。」
彼女を見つめ答えるが、俺は少々早口になってしまっていた。
心中で、早く二回目の行為に入りたい、と思っていた結果だろう。
「ふふ、せっかちだね…んっ、良輔ってば…」
彼女がそう言ってくる。
自覚できていたとはいえ…いやだからこそか、余計に恥ずかしかったので…
「まぁ、な。」
俺は、曖昧にそう返していた。
無意識に、早く始めよう、と雰囲気で言外に告げながら。
「んふ…れぅ…ぅん…っふ…」
しかし彼女は、そんな反応すら楽しむようにゆっくりと、顎の下を舐め始めた。
「ん…っ…」
焦らすようにゆっくりと舐め回してくるくすぐったさに、つい顔が動いてしまう。
「ん、駄目…逃がさないよ…」
すると彼女はそう言って、言葉の通りに俺を抱きしめてくる。
足を挟まれ抱きつかれているという、もとより逃げられるはずもない状況で、
そもそも逃げるつもりもなかったが…
「…ふ。」
それでも、逃がさない、という言葉は俺に興奮を覚えさせてくれた。
証拠にまた、股間に血が集まっていく。

「んぁ…また、かったくなったぁ…」

彼女が言う。
その甘い声音や崩れてきた言葉使いから、彼女の野性が理性的な部分…
余裕ともいうそれをかなり押し退けてきているのが分かった。
彼女の思う恋人らしさと、本能に任せた魔物娘らしさとの狭間にいる状態。
「っ、ふ…」
膣肉が圧してくる。
にゅくっ、にゅくぅっというようなその動きは恋人らしさのそれだが…
すぐにでもぐにゅりっ、に変わりそうな気配を秘めているのも間違いなかった。
「ん、んんぅっ…♥」
彼女がふるふるっと身を揺らす。
このままねっとりと絡め取るように俺を沈めるか、荒々しく貪りつつ沈めるか。
どちらも十分に出来て、どちらも俺が喜ぶことを分かっているからこそ、迷っているのだろう。
「っ…ふ…んぅ…」

揺れた拍子の粘った擦れに身震いしつつ、そう思う。
それはそうだろう。
俺が喜ぶということは、彼女もまた喜ぶということ。
言ってみればその二択は、どちらも等しく幸せ。
同じくらい大好きな料理が目の前に二つあって、一方だけを選べる…そういう状態なのだ。
それは迷うというものである。
「っはぁ…ねっぇ、良輔…そろそろもう一回、イきたくなってきた…?」
…だが、幸せなのは同じでもどちらを選ぶかは場合によって変わるか。
同じ好みでも、昨日それを食べていたらもう片方を食べたいということもあるだろう。
彼女の誘いを聞きながら、俺はそう考えを締めていた。
その声が…俺に、ねぇ、早く動きたいよ、とそう言っているように感じたからだ。
もしねっとりと沈めたいならば、俺が我慢できなくなって言い出すのを待てばいいだけなのに。
「っ、ああ、お願いするかな。
というか…」
だから俺は委ねることをまず告げる。
「ん、ぇ…?」
疑問で返してくる彼女。
熱い吐息と体全体のもぞもぞという動き…
そしてするするっ、と足に絡みついてきた尻尾が、彼女の思いを何よりも雄弁に裏付けていた。
そんなことを思いながら俺は、翼のその思いを解き放つ言葉をかける。

「翼も…もっと俺を…したい、だろ…?」

「良、輔…!」
変化は、すぐに訪れた。
まずその言葉をかけた瞬間に、股間にかかる圧迫がグニュニュゥッ、と増す。
彼女の感情が、体を突き動かしたんだろう。
俺を抱きしめる翼にグッ、と力が入ったことからも、それは明らかだ。
「っ…ふ…っ…」
耐えつつ、微笑む。
自分の余裕を保つために。
快感を感じながらも、ここで潰れてしまわぬように。
正直な話をするならば、別にここで潰れても何ら問題はなかった。
ここでつぶれ、彼女に良いように気持ちよさを叩き込まれる…
それも悪くはないし…むしろ良いくらいだろう。
事実、そんな風になったことも一度や二度ではない。
しかし、今は耐える、踏ん張る。
それはなぜか。
それは…

「んぅっ…!良輔ぇ…君は…本、当にぃ…っ!」

彼女の、この姿を見るため。
瞳を蕩かせ、腰を振りつけ、口の外に出てしまうのではないかというくらい舌を出し…
それほどに乱れてまで俺を求めてくれるこれを、目に焼き付けるため。
被虐性変態の俺の望むがまま、そしてまたワイバーンである彼女自身の望みのまま…
俺に自分という存在を刻みつけてくれるその姿を感じるため、だ。
「…つば、さ…っ!」
名前を呼ぶ、先程は余裕で出来たそんなことが、今は息継ぎを要求する。
だがそれも、それさえも、彼女が俺を求めたが故に起こっているのだ、と愛おしく思えてくる。
俺の何気ない行動に力がいるという状況すらもが…
翼によって押さえつけられているような感触を与えてくれる。
「はっ、はっ、はっ、はぁっ…良、輔っ良輔ぇっ…!」
彼女が腰を振り、俺を攻めたててくる。
ただでさえ締め付けが強くなっているそれを振られるおかげでどんどん擦れ…
すぐに限界へと達してしまいそうな快楽を送り込んでくる。
まるでこちらに遠慮のない、ただただお互いの体で快感を感じようとするような動き。
その一振り一振り毎に、怖気のようにさえ感じるような何かが背筋を駆け巡っていく。
事実、最初の頃は怖気だと思っていた…だが、今は違う。
言いようのない快感なのだと、彼女が与えてくれる最高級の感覚だということを…知っている。
「っ、く…っ…」
軽く歯を食いしばる。
もっと俺をぐちゃぐちゃに、無茶苦茶に出来ることを、知っていて…
そしてそれがまた、彼女も一番気持ちいいことを知っているから。
「ぅ…っ…ふふ…っ…は…」
それを引き出すために、俺は両腕に力を込めた。
そして、指先で彼女の背をぐっ、と抱きしめるように圧す。
もっと来ていいんだぞ、と。
「はっ、んくぁう…っ…良輔…りょう、すけぇ…っ…!」
翼が身震いをする。
その振動が、そしてトクンとなった心の音さえもが、聞こえた気がした。
でも、本当に聞こえたかはわからない。
「ふ、つば、ふぁ…ん…!」
彼女に奪われた口で、頭が一杯になったからだ。
「んむぅっ、んム、ん…んりゅっ、ん、んじゅ、っ…ん…!」
お世辞にも恋人らしいとは言えない、荒々しい接吻。
舌を突き込み俺の感覚を直接舐められているような感覚。
それが俺の心を高鳴らせ、背筋をゾクリゾクリと突き動かす。
腕がヒクヒクと震え、ややもすれば痙攣しているんじゃないかと思うような動きをする。
「ん、り、ん、んびゅ、ん、んんっ、んむんぅっ…!」
だが、彼女は止めない。
止めないでいてくれる。
この苦しいとさえ感じることさえも…
彼女に与えられることで喜びへと変わることを知っているから。
「ん、んむっ、んっふ、んっ、んーッ…!」
息が苦しくなる。
鼻でする息がどんどんと余裕を失っていく。
目を開けているのさえ億劫になってくる。
「んっ…ん、っふ、ん、んッ…!」
それでも俺の体は、俺は、彼女を求め続ける。
それが一番の喜びだから。
上の口で、下の口で、翼に俺の体を好き勝手に貪り喰らってもらう事が…大好きだから。
「んっむ…っ…んふっ、んふ、んぅ…!」
股間のそれが擦れる。
それは、彼女の膣壁を、グニグニと押し分けていっていた。
奥へと進めば進むほど、きつく、そして苛烈に挟み込んでくるのを感じる。
「んっ、ん…!…ッ…!」
と、同時にさすがに息苦しくなってくる。
鼻でする息が、間に合わなくなってきてしまう。
…ダメ…俺は…もっと、翼に、苦しく、気持ちよくされたい…のに…

「んむ…んはぁっ…ぁはァ…♥」

と、そこで彼女が口を離す。
「っ、はっ、はぁっ、はぁっ…!」
息苦しさから解放された体が、酸素を取り込もうと必死に息をする。
そんな中俺の目は、ただ一つ彼女だけを見ていた。
「はぁっ…は…っ…」
目が合う。
その目は、獰猛な欲望でギラギラと濡れている。
「ッ…!」
瞬間、目を見開いたまま体をビクンと揺らしてしまう。
亀頭が、何かにくわえ込まれたからだ。
先端に至るまでを包み込む暖かさとは異質の何か…子宮口に。
「っ…あぅっ…!」
最も敏感なところを余すことなく触れられる感触に、体が尺取虫のように暴れようとしてしまう。
「ンッ…!」
無論、それは翼に押さえられる。
逃がそうとした快感の波は、それが成らなかったという別の快感と共に、体へと返ってくる。
「ぁっ…はっ、ぅっ、はっ、はっ、ぁ…!」
そろそろ、限界が近かった。
この感覚が味わいたいがために先伸ばしし続けてきた我慢の限界。
それを、もう触れられそうな程に近くに感じる。

「イきたい?イきたいでしょ?うん、いいよ…っ、だからっ…!」

そんな俺を見て、彼女が言う。
膣肉をここから更に引き締め…
「あはっ、くぅん、むゅ…!」
そして、再度俺の口を塞ぎながら。
これでは答えられない…が、それでよかった。
目を見れば、分かるからだ。
俺が、彼女がどれほど俺の姿で興奮し乱れているかが分かるのと同じように…
彼女も俺の真意などすぐに読めるからだ。
事実彼女は俺を更に追い込んだ。
俺が…イかされたいのを、分かっているのだ…
「んムッ、はぁっ…はぁっ…!」
と、彼女が口を離す。
「ぁ…ッ…!」
しかし膣は離さない。
ギチギチと、一歩間違えば潰れそうな程に締めてくる。
「ぁっ…あっ…あ…っ…!」
もはや口から言葉は出なかった。
限界だ、もう無理だ、とイきたいよ…
というような思いを乗せて、切羽詰まった息だけが短く小刻みに漏れ出ていく。
「ん…ッ…!」
それを見て翼は、恍惚の表情を浮かべながら身を震わせ。

「いいよ…私の全て…受け止めて…んむっ、ぁ…イってぇ…!」

一口の接吻の後、スパートをかけてきた。
ぎちゅぐちゅにゅちゅりと絶え間なく膣肉が動く。
ヒクヒクと揺れる子宮口はそれだけで亀頭を擦り、破壊的な快楽をもたらしてくる。
「ぁっ…アッ…が…ぁ…ッ…」
そして、息が、絶え絶えになっていく。
限界も限界、全てが崩壊する一瞬が、すぐそこに迫ってくる。
もう…イく…翼に、全てを扱かれ…扱かれ、抜いて…!
「ぁ…ああああ…!」
そして股間の欲望は爆発し、それが、訪れたーーーー


「んむぅっむぅうぅん♥」
「んぅううぐぅっ…!!」


瞬間。
その崩壊の声さえもが、彼女によって塞がれた。
目を見開くほどのおかしくなりそうな快楽の波を…
僅かばかりも逃すことを許されぬまま、全て味わわされることとなる。
下半身から流れ出ていく感覚と、それが貪欲に吸い出される感覚を含めた全てを、一身に。

ーークぁあああああああぁぁあ…ッ…!!!
心が、そんなことを言う。
事実、口が空いていればそんな声が出ていただろう。
しかし…

「んむっ!んっ!ん、んぅんんんっ!んっ、んんんんー!」
彼女に塞がれた口から聞こえるのは、そんなくぐもった声。
気持ちよくってたまらないのに苦しい…
しかし苦しいのさえ気持ちよくて、結果的に全てがその気持ちよさで押しつぶされて…
「んぅっ!んぅ、んぅんんんー!」
ダメだ、俺…もう…!
と、ふと彼女の瞳が見える。
それは…

「んふ、んっ、ん…♥」

それは、俺と同じくらいに余裕のないものだった。
覇気が消え、焦点が正確に定まっていない…
要するに、イっていた。
彼女も、イっていた。

「んむぅっ!」

それを認識した瞬間、意思とは関係無しに体が跳ねようとした。
だが、押さえ込まれる…おそらくはこれも俺と同じく無意識に。
無意識下でさえ、俺と翼は求め合っているのだ。

「…ッ!」
それを思った途端、先程出したはずのペニスが恐ろしい速さで膨らんでいった。
出したばかりなのに…限界を突き破って、もう、出そうとしているのだ。
「ん…!」
彼女がそれを感じて、俺を求めてくる。
触れ合わせた口を動かし、もう一回出してとねだってくる。
「っふ…!」
その誘いにそのまま乗りそうになる…が、それを、止める。
このままイくより…もっと…気持ちよくなりたかったからだ。
「ん…れゅ…」
そして、それを、した。
舌を、彼女の唇に触れさせた。
俺が至上の快楽を味わうための、俺からの誘いを、した。
「りゅっ、んりゅっ、んみゅっ…!」
彼女の反応は迅速、そして獰猛だった。
触れたそれを自らの中に引きずり込んだのだ。
その反応、そしてそうしてくれた嬉しさに俺は躍り上がり…そして…


「んむゅ、んむぅううぅううぅうぅぅうううッ……!!」
「ん、んゅ、ーんぅぅううううう…ん…ッ…!」

俺達は、腕で、膣で、舌で、全てで繋がりながら、果てた。

「ん、っ、はぁ…っっ…」「んぁ、ぁ、はぁ…」

直後流石に堪えきれなくなって口が離れる。
次に、体が動かせなくなり、俺は布団に体重を押しつける事となった。
翼はというと、その役目を俺の胸に任せている。
理由は考えるまでもない。
力が抜けきり…今はこれ以上何もできなくなっているのだ。
それと…
「はぁあぁ…はぁ、ぁっ…」
震えるように漏れ出る声と、翼の暖かな感触だけが、今は分かる全てだった。
というのも…
「っ…くっ…が、ぁ…っ…」
あまりの無茶と快感に体だけでなく頭まで痺れて、何もまともに考えられなかったからである。

「はぁあ…はぁっぁ…」
翼の息が聞こえる。
「は、ぁ…ぁっ…ああ…」
俺の息が聞こえる。
「っ…ぁ…あ…」
再びの翼の息。
「っ…ぐ…っ…くぅ…」
俺の息。
「っ、ふふ…はぁ…」
翼の息…少し、余裕が戻ってきたようだ。
「ふ…っ…はぁ…は…」
そしてそれは俺も…同じようだった。



「ぅ…気持ち…良かったぁ…♥」
また少しして。
大分落ち着いたらしい翼は、そう言って俺の胸に頬を当ててきた。
その顔は、幸せな微笑みを浮かべている。
それが分かるくらいには、俺も落ち着いてきていた。
「ぁあ…そう、だな…」
返す。
短い言葉だったが、今はこれで十分。
そう、思えた。
「うん…ほん、とう…」
と、彼女がゆっくりと動く。
俺の上から…横に行くような動きだ。
と、ここで俺はその意図が分かった。
位置関係を横合いにしようとしているのだ。
おそらくは…そのまま、繋がって寝るつもりで。
「ん…だな…俺も、気持ちよかったよ…」
それを理解し、ゆっくりと、彼女の体を落とすように体を動かす。
「ん…っふふ…っ、ん…」
すると、彼女は笑った。
気持ちよかった、という言葉と、抱き合ったまま横向きになれた事と…まぁ、その両方だろう。
「…ふ…」
等と考えつつ、俺は彼女と同じように笑って返す。
すると彼女は、甘えるように俺の顔に自分の顔を寄せ…

「…ねぇ…このまま…寝ちゃっていい…?」

これまた甘えるような声で、そう言った。
俺にしか聞かせない、獰猛である筈のワイバーンの、メスの声だ。
同時にとろんとした目で、顎をちょん、と俺の体に置いてくる。
俺だけが聞ける声で…そして俺に一番よく効く甘え方である。
「ん…ああ、良いぞ…俺も、そうしたいからな。」
それをされては、断れる訳などあるはずがない。
まぁ、そもそも断るつもりもなかったけど。
そう思いながら俺は彼女から右手を離し、近くにあった枕を掴んだ。
「ふふ…でも…さ…」
と、彼女が何事かを言おうと呼びかけてくる。
「ん…」
なんだ…という意味で、そちらを向く。
すると彼女は、赤くなった顔でゆっくりと言った。
「じゃあ明日、洗濯しなきゃ、だね…?」
聞いて思ってしまう。
なんだ、そんなことか…今更じゃないか、と。
「はは…なんだ、そりゃ。」
それが態度に出て、つい、俺は笑ってしまう。
「ふふ…だね…」
が、彼女も実のところ同じように思っていたようで、笑って返してくれた。
「っ、ん…」
そのことに心が暖かくなるのを感じながら、俺は枕を引き寄せて頭を乗せた。
ある思惑を胸に、やや横長の枕の、真ん中からちょっとこちらよりに。
「んっ、んぅ…ん…ふふ…」
しかしてその思惑通り、翼は枕に頭を乗せてきた。
真ん中よりちょっとあちら側、向き合って眠れる位置に、だ。
お互いの顔が、寝転がりながらでも正面から見える。
つい、それを見つめてしまい…

「ふふ…」「ふ…」

再び、二人で笑い合う。
特別な意味はない。
ただお互いに、恥ずかしさというか微笑ましさというかを感じて、それが形をなしたというだけだ。
だが何の意味もないわけでも、無い。
心が暖まるというシンプルで幸せな意味を、それは持っている。

…と、突如俺は、鼻につーんという何かを感じた。
涙が出てくる時に感じるような、それだ。
「ん、ふぁあぁ…」
直後、あくびが出てくる。
眠気が体に、もう寝ろ、と言っているのだろう。
「…ふ。」
気づいて、内心笑う。
そりゃあそうだ…あれだけやれば、眠くならない方がおかしいというものである。
…となると、この眠気も、翼がくれたもの、か…ふふ。
「じゃぁ…おやすみ、翼。」
そんなことを思いながら、彼女に言う。
「うん…おやすみ…良輔…」
すると翼は、笑ってそう返してくれた。




その後…目を閉じ、眠りに入ろうとするその瞬間。

…大好きだよ…良輔…

そう、聞こえたような気がした。
「ん…?」
微かに目を開き翼を見てみる。
「んぅ、ん、ふふ…」
だが、彼女は俺にしがみついて寝ていた。
…どうやら、寝言だったようだ。
しかし、だとしても別に俺の気持ち自体は変わらないか、と目を閉じながらそれにこう返す。

俺も、大好きだぞ…翼…と。

この言葉が、彼女の夢の中にまで届けばいいなと、そう思いながら。
15/11/22 11:36更新 / GARU

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