encounter
とある週末の夜、空のコーラの缶がころがる小さな部屋でキーボードをたたく音がカタカタと部屋に反響している。
「……はぁ……終わった」
最後のエンターキーを押し込むと後ろに大きく伸びをして息を吐き出しながらカーソルを上までスクロールして最後の推敲の作業に移る。
私は自作のSSを締めくくる最後の数百文字を打ち込んでいた。思ったより時間がかかっていたこの話もそろそろ終わりが見えてくる。
学校での文芸部の活動とは別に、私は自分の部屋でただ一人趣味全開のSSをつらつらと書く日々を送っていた。
いつからやっているかは覚えていない、ただ暇だったので検索していたらこのSSサイトに流れ着いたのだ。
投稿しているサイトはいわゆる成人向け、本来なら学生である私みたいなのがいるべきところではない。
だが、残念ながらこのネットという世界では匿名という防御壁により守られている。このくらいのことでは少しも罪悪感を感じないのだ。
今書いている内容はラミア族の少女がとある場所で遭遇した人間族のショタ少年を押し倒すという、いってしまえばひどいご都合展開である。
自分でもしょうもないものを書いているなと思うが、性に興味が湧いてくる年頃なのだから仕方ないのである、と賢者の自分がそう言い訳をする。
だが、自分の周りにはそんなものを書くより実際に経験したほうがいいじゃん（笑）という別次元の話をする人が大半である。できるものならやっているとは言えなかった。
そんなマジョリティを羨む自分を慰めるかのごとくまたSSを書く……というもはや無限ループに陥っていた。
「……なにやってんだろ」
私は後ろに身体を反って椅子の背もたれに体重を投げ出す。自分の欲望をまき散らした駄文を見直すほど今の私には余裕がなかった。
倦怠感が私の左クリックを阻害する、目の焦点が合わず渇くような不快感が脳裏を走る、典型的なドライアイだろう。
こんな状態で推敲してもきっと意味がない――私はSSを途中保存してPCのシャットダウンを開始した。
PCがジィィ……と音を立てはじめることを確認すると私はデスクに突っ伏す、ふと頭に浮かんできたのは思い出したくもない昼間の喫茶店での出来事だった。
――――――
「魔物娘図鑑っていうのにハマってるんだ」
私のその一言に同じ文芸部員のユウはカフェラテを持ったままぽかんと口を半開きにしてこちらを見ていた。
「…え、なにそれ？なんかの漫画？」
私ははやる気を抑えながら私はユウに説明を始める。
サイトのSSを書く仲間が欲しかったわけではないが、自分の好きなものをほかの人と共有したい、そんな気持ちが自分の中でくすぶっていたのだ。
ユウは私の話をちゃんと聞いてくれる数少ない部活仲間だ、きっと布教すれば受け入れてくれるだろう。
「あのね、PCで見つけたジャンルでね、ラミアと人間が種族を越えてイチャイチャするのよ、それがねすごくよくてねネットのSSをみるんだけど…」
「まって説明下手すぎ、なんなのラミアと人間？なんかのSSサイト？」
ユウの冷静なツッコミが話を遮る、私は高揚した胸を落ち着かせるように深呼吸をした。
いけない……落ちついてうまく説明せねば布教どころではない。
私はポツポツと切り出した。
「…あーそうそう、とあるSSサイトのことでね？ユウはラミアはわかるよね？」
「馬鹿にしてんのか」
「ごめん（笑）まぁラミアだけじゃなくてケンタウロスとかスライムの女の子たちもいるよ、で……人間たちとキャッキャウフフするわけ」
「ふーん、つまりそういうのとエロいことするわけか」
「身も蓋もない…ユウだって経験ないでしょ」
「まぁな」
ユウはしらっとした顔で答える。
どうにも調子が狂う、普段からこういう喋りをする子だが布教する時は少し面倒だと思ってしまう。まぁユウだから否定することはないだろう。
私は言葉を選ぶようにそれから布教話をしばらく続けた。
「……まぁ、そういうわけで自分と違う種族との異種婚姻譚っていうのかな？そういうのをまとめたサイトなんだ、こういうの」
私は取り出したスマホにサイトに乗せられたイラストを映し出すとユウに見せる。この人の絵柄はかなりキャッチーだからきっと受けるはずだ。
「あぁ…絵柄は、好みだな」
気に入ったものしか褒めないユウが好印象だ、どうやら掴みはよさそうである。もしかしたら引きづり込めるかも…。
私は湧き上がる期待に思わずSSのサイトの自分のおすすめSSのページを次々と開いてしまっていた。
――――
今思うと、人にこのサイトのことを話したのは初めてだったので少々浮かれていたんだろうとおもう。
そのあとのことを思い出すと頭が痛くなる、これが数年後にいわゆる黒歴史と化してしまうのだろうか。
そんな頭痛を紛らわすかのように私は自分の秘部に手を下ろし軽くこすり上げる。
「ん…ふっ」
自慰をしているときだけ、現実逃避ができていた。
一般の学生の平均回数は知らないが、かなりの数をこなしているとは情けないながらも思っている。
最近は、自縛をしながらの行為がとても感じることが分かってきた。どうしようもないなと己を卑下しながらも、今日もまた自分への拘束の動きは止められなかった。
――――
「…ごめん、よくわかんないわ」
私のおすすめを読み終わったユウの言葉は切り捨てる言葉だった、予想だにしなかった私は胸をえぐりとられる錯覚すら覚えた。
同時に今までの自分の布教行動を思い出して、後悔する。
――しまった、浮かれすぎた、ひかれたかもしれない。どうしよう……？
「…はは、やっぱ…キモい、かな？」
ひきつった唇から力が抜けない。唾が震えてうまく呑み込めない。
どうしよう……？どうしようどうしようどうしよう？
審判を下される罪人のように、私はユウの返事を待つしかなかった。
「いやまぁね、別にこのサイト自体がどうのってわけじゃなくてな？人それぞれだしさ」
「あっ…うん」
ほとんど反射で声を出すだけだった、ユウはいつも通りの表情で、でもどこか優しげに話を続ける。
「でもね、ラミアなのに人間って違う種族襲うってどうなんだろうね？とは思った」
「それは…そういう設定で」
「うん、それはわかるよ、あんたもこういうのがいいって思うんでしょ？それを否定する気はないよ」
ユウはやさしかった。
あくまでこちらを認める姿勢だった、それが辛かった。
サイトそのものを否定してくれればまだ逆恨みができたかもしれない。
「でも、悪いけど…こういうのは無理だわ、いくつか読んだけどちょっと面白いと思えない、あたしが悪いんだけどさ」
直接的な否定はあくまで自分の価値観の問題だと言っている、勧めてきた私へのせめてもの配慮だろう。
「悪いね、せっかく勧めてもらったけど…そういうことだから」
ユウは立ち上がりながらそう話を占める、私もそれに続いて会計の準備をする。
「ううん、いいよ。私も…ユウなら何でも受け入れてくれるって思い込んでたから」
「そっか…うん、じゃあ他に面白いのがあったら教えてくれよ」
私は声が震えないように、頷くのが精いっぱいだった。
――――
そう、ユウは何も悪くないのだ。
ただ私とは感じ方が違っただけで、明日からも私との付き合いは変わらず続けてくれるだろう。
それでも、理解されなかった苦痛は消えるわけではなかった。
私は自分で自分のの身体を締め上げていた。胸の部分から腰に掛けてギシギシという音が響き渡る。
肉を内側に抑え込むように、上から下へとぞうきんを絞るように、私は夢中で己自身を縛っていた。
最近はまってしまった自縛プレイ、SSで青年がラミアに巻き付かれて締められるシチュが好きだったのが原因だろう。
正直とても苦しい、だが自分の意思でやめられるはずなのが自縛、それでも快感が上回ってやめられない。そんな情けない自分に呆れながらも縛り上げるのが気持ちよくてたまらなかった。
空いた手で性器から漏れだす光る液体をこねくり回して刺激を与える。
いつもより乱暴に扱われているせいか、普段よりも愛液の量が多く感じる。
そのまま私は指の勢いをさらに早くする、愛液に満ちた己の性器をネチャネチャと音を立てながら苛める。
―――私の好きなものを分かってほしかったのに
「……悔しい」
ようやく本音が出てくるころには、すでに達する直前であった。
悔しさとともに、性器の奥からは絶頂の波が押し寄せてくるのが分かる。
「ん…ふぅ…」
行為の終わり、先ほどまでの熱がすうっと抜けていく。虚しさがこみあげてくる前に、ティッシュを手元に引き寄せる。
身体と心のクールダウンを頭の隅で感じながら、私は自慰の後処理をしていく。
我ながら恥ずかしいと赤面しながらふとあることを思いついた。
この気持ちをこのままにしたくない。でも、親友は理解してくれなかった。
ならば
ネットで生まれた気持ちは、ネットで処理してしまおう。
私はふと起き上がるとふたたびPCを立ち上げる。電源が切れたばかりのPCは
私の気持ちをよそにのんびり起動音を鳴らす。
ようやく立ち上がるのを確認すると、私はマウスを乱暴にクリックする。
さっきまで書いていた魔物娘のSSサイトを立ち上げ、私は書き終えたばかりの小説のメッセージ欄に稚拙な想いを書きなぐった。
勢いで書いた恋文のような文字列をろくに読みかえさずに書きおえて投稿する、こんなチラシの裏みたいなものはとてもじゃないが推敲なんかしたくない。
私の世界に存在しないものへのメッセージ、中2病全開の恋文をネットへと送り込む。
パラレルワールドなんてものを信じているわけではない。
だが、ネットを普段から活用していると、どこかに私のあこがれた種族がいるはず、そんな期待が自分の中で湧いて来るのだった。
画面に「完了しました。」の文字が浮かぶ。これでもう黒歴史は確実だ。明日になればひどい中傷コメントが殺到するだろう。
そんなことは覚悟の上だ、と夜のテンションに身を任せながら私はベッドに倒れこむ、もう眠気が限界だ。
瞼がゆっくりと落ちてくる、明日ユウに会ったらおすすめの漫画や小説を聞こう。
「…どこかにいないかなぁ、人間」
14/07/14 01:20更新/ルナルナ
■作者メッセージ
これを読んでいる方へ、こんにちは
私はラミアです、下半身が蛇のそれになっています
といったところで、ここの人の何人がそれを信じてくれるかわかりませんが（汗
私はエロエロな悩殺ボディでもないし、顔もイラストみたいに可愛くもないです
このサイトを見ている人にとって私はあなたの普段想像しているラミアと違っていているかもしれません
ひとつ、皆さんに質問があります
ここのサイトのどこかに人間さんはいませんか？
……馬鹿なことを言っているのはわかっていますが、よければ私の話を聞いてほしいです
私の町ではラミアやケンタウロスや様々な魔物が暮らしています、私の母も友人のYもラミアです
でも、なぜか人間はいません、おかしなことに私の世界はこの図鑑サイトのようにはなってないのです
なぜ人間がいないのか、なぜ人間の男の人とイチャコラできないのか、いつもそんなことばかり考えて生きています
このSSは今日私が経験したことを元に書きました、夢を壊してしまうかもしれないと迷いましたが、批判は覚悟してます
もちろんあなたを人間と断定できる証拠なんてものもありません
私とあなたはただ文字を読むだけでしか交流することはできません
ただもしかしたら、あなたも私とおなじようにSSを書きながら実在しないラミア族を追いかけているのかも、と考えることがあります
もしそれが本当なら胸のあたりがあったかくてうれしいです
あなたの世界にはラミアも魔物娘もいないのかもしれません
でも、同じようにあなたのような人間が存在する世界を夢見てなんとか生きている魔物がここにいます、それだけは知ってほしいのです
いつの日か、あなたにお会いできたらいいな
このサイトのどこかで自分の妄想を書きながらその日が来るのを心から願っています
「……はぁ……終わった」
最後のエンターキーを押し込むと後ろに大きく伸びをして息を吐き出しながらカーソルを上までスクロールして最後の推敲の作業に移る。
私は自作のSSを締めくくる最後の数百文字を打ち込んでいた。思ったより時間がかかっていたこの話もそろそろ終わりが見えてくる。
学校での文芸部の活動とは別に、私は自分の部屋でただ一人趣味全開のSSをつらつらと書く日々を送っていた。
いつからやっているかは覚えていない、ただ暇だったので検索していたらこのSSサイトに流れ着いたのだ。
投稿しているサイトはいわゆる成人向け、本来なら学生である私みたいなのがいるべきところではない。
だが、残念ながらこのネットという世界では匿名という防御壁により守られている。このくらいのことでは少しも罪悪感を感じないのだ。
今書いている内容はラミア族の少女がとある場所で遭遇した人間族のショタ少年を押し倒すという、いってしまえばひどいご都合展開である。
自分でもしょうもないものを書いているなと思うが、性に興味が湧いてくる年頃なのだから仕方ないのである、と賢者の自分がそう言い訳をする。
だが、自分の周りにはそんなものを書くより実際に経験したほうがいいじゃん（笑）という別次元の話をする人が大半である。できるものならやっているとは言えなかった。
そんなマジョリティを羨む自分を慰めるかのごとくまたSSを書く……というもはや無限ループに陥っていた。
「……なにやってんだろ」
私は後ろに身体を反って椅子の背もたれに体重を投げ出す。自分の欲望をまき散らした駄文を見直すほど今の私には余裕がなかった。
倦怠感が私の左クリックを阻害する、目の焦点が合わず渇くような不快感が脳裏を走る、典型的なドライアイだろう。
こんな状態で推敲してもきっと意味がない――私はSSを途中保存してPCのシャットダウンを開始した。
PCがジィィ……と音を立てはじめることを確認すると私はデスクに突っ伏す、ふと頭に浮かんできたのは思い出したくもない昼間の喫茶店での出来事だった。
――――――
「魔物娘図鑑っていうのにハマってるんだ」
私のその一言に同じ文芸部員のユウはカフェラテを持ったままぽかんと口を半開きにしてこちらを見ていた。
「…え、なにそれ？なんかの漫画？」
私ははやる気を抑えながら私はユウに説明を始める。
サイトのSSを書く仲間が欲しかったわけではないが、自分の好きなものをほかの人と共有したい、そんな気持ちが自分の中でくすぶっていたのだ。
ユウは私の話をちゃんと聞いてくれる数少ない部活仲間だ、きっと布教すれば受け入れてくれるだろう。
「あのね、PCで見つけたジャンルでね、ラミアと人間が種族を越えてイチャイチャするのよ、それがねすごくよくてねネットのSSをみるんだけど…」
「まって説明下手すぎ、なんなのラミアと人間？なんかのSSサイト？」
ユウの冷静なツッコミが話を遮る、私は高揚した胸を落ち着かせるように深呼吸をした。
いけない……落ちついてうまく説明せねば布教どころではない。
私はポツポツと切り出した。
「…あーそうそう、とあるSSサイトのことでね？ユウはラミアはわかるよね？」
「馬鹿にしてんのか」
「ごめん（笑）まぁラミアだけじゃなくてケンタウロスとかスライムの女の子たちもいるよ、で……人間たちとキャッキャウフフするわけ」
「ふーん、つまりそういうのとエロいことするわけか」
「身も蓋もない…ユウだって経験ないでしょ」
「まぁな」
ユウはしらっとした顔で答える。
どうにも調子が狂う、普段からこういう喋りをする子だが布教する時は少し面倒だと思ってしまう。まぁユウだから否定することはないだろう。
私は言葉を選ぶようにそれから布教話をしばらく続けた。
「……まぁ、そういうわけで自分と違う種族との異種婚姻譚っていうのかな？そういうのをまとめたサイトなんだ、こういうの」
私は取り出したスマホにサイトに乗せられたイラストを映し出すとユウに見せる。この人の絵柄はかなりキャッチーだからきっと受けるはずだ。
「あぁ…絵柄は、好みだな」
気に入ったものしか褒めないユウが好印象だ、どうやら掴みはよさそうである。もしかしたら引きづり込めるかも…。
私は湧き上がる期待に思わずSSのサイトの自分のおすすめSSのページを次々と開いてしまっていた。
――――
今思うと、人にこのサイトのことを話したのは初めてだったので少々浮かれていたんだろうとおもう。
そのあとのことを思い出すと頭が痛くなる、これが数年後にいわゆる黒歴史と化してしまうのだろうか。
そんな頭痛を紛らわすかのように私は自分の秘部に手を下ろし軽くこすり上げる。
「ん…ふっ」
自慰をしているときだけ、現実逃避ができていた。
一般の学生の平均回数は知らないが、かなりの数をこなしているとは情けないながらも思っている。
最近は、自縛をしながらの行為がとても感じることが分かってきた。どうしようもないなと己を卑下しながらも、今日もまた自分への拘束の動きは止められなかった。
――――
「…ごめん、よくわかんないわ」
私のおすすめを読み終わったユウの言葉は切り捨てる言葉だった、予想だにしなかった私は胸をえぐりとられる錯覚すら覚えた。
同時に今までの自分の布教行動を思い出して、後悔する。
――しまった、浮かれすぎた、ひかれたかもしれない。どうしよう……？
「…はは、やっぱ…キモい、かな？」
ひきつった唇から力が抜けない。唾が震えてうまく呑み込めない。
どうしよう……？どうしようどうしようどうしよう？
審判を下される罪人のように、私はユウの返事を待つしかなかった。
「いやまぁね、別にこのサイト自体がどうのってわけじゃなくてな？人それぞれだしさ」
「あっ…うん」
ほとんど反射で声を出すだけだった、ユウはいつも通りの表情で、でもどこか優しげに話を続ける。
「でもね、ラミアなのに人間って違う種族襲うってどうなんだろうね？とは思った」
「それは…そういう設定で」
「うん、それはわかるよ、あんたもこういうのがいいって思うんでしょ？それを否定する気はないよ」
ユウはやさしかった。
あくまでこちらを認める姿勢だった、それが辛かった。
サイトそのものを否定してくれればまだ逆恨みができたかもしれない。
「でも、悪いけど…こういうのは無理だわ、いくつか読んだけどちょっと面白いと思えない、あたしが悪いんだけどさ」
直接的な否定はあくまで自分の価値観の問題だと言っている、勧めてきた私へのせめてもの配慮だろう。
「悪いね、せっかく勧めてもらったけど…そういうことだから」
ユウは立ち上がりながらそう話を占める、私もそれに続いて会計の準備をする。
「ううん、いいよ。私も…ユウなら何でも受け入れてくれるって思い込んでたから」
「そっか…うん、じゃあ他に面白いのがあったら教えてくれよ」
私は声が震えないように、頷くのが精いっぱいだった。
――――
そう、ユウは何も悪くないのだ。
ただ私とは感じ方が違っただけで、明日からも私との付き合いは変わらず続けてくれるだろう。
それでも、理解されなかった苦痛は消えるわけではなかった。
私は自分で自分のの身体を締め上げていた。胸の部分から腰に掛けてギシギシという音が響き渡る。
肉を内側に抑え込むように、上から下へとぞうきんを絞るように、私は夢中で己自身を縛っていた。
最近はまってしまった自縛プレイ、SSで青年がラミアに巻き付かれて締められるシチュが好きだったのが原因だろう。
正直とても苦しい、だが自分の意思でやめられるはずなのが自縛、それでも快感が上回ってやめられない。そんな情けない自分に呆れながらも縛り上げるのが気持ちよくてたまらなかった。
空いた手で性器から漏れだす光る液体をこねくり回して刺激を与える。
いつもより乱暴に扱われているせいか、普段よりも愛液の量が多く感じる。
そのまま私は指の勢いをさらに早くする、愛液に満ちた己の性器をネチャネチャと音を立てながら苛める。
―――私の好きなものを分かってほしかったのに
「……悔しい」
ようやく本音が出てくるころには、すでに達する直前であった。
悔しさとともに、性器の奥からは絶頂の波が押し寄せてくるのが分かる。
「ん…ふぅ…」
行為の終わり、先ほどまでの熱がすうっと抜けていく。虚しさがこみあげてくる前に、ティッシュを手元に引き寄せる。
身体と心のクールダウンを頭の隅で感じながら、私は自慰の後処理をしていく。
我ながら恥ずかしいと赤面しながらふとあることを思いついた。
この気持ちをこのままにしたくない。でも、親友は理解してくれなかった。
ならば
ネットで生まれた気持ちは、ネットで処理してしまおう。
私はふと起き上がるとふたたびPCを立ち上げる。電源が切れたばかりのPCは
私の気持ちをよそにのんびり起動音を鳴らす。
ようやく立ち上がるのを確認すると、私はマウスを乱暴にクリックする。
さっきまで書いていた魔物娘のSSサイトを立ち上げ、私は書き終えたばかりの小説のメッセージ欄に稚拙な想いを書きなぐった。
勢いで書いた恋文のような文字列をろくに読みかえさずに書きおえて投稿する、こんなチラシの裏みたいなものはとてもじゃないが推敲なんかしたくない。
私の世界に存在しないものへのメッセージ、中2病全開の恋文をネットへと送り込む。
パラレルワールドなんてものを信じているわけではない。
だが、ネットを普段から活用していると、どこかに私のあこがれた種族がいるはず、そんな期待が自分の中で湧いて来るのだった。
画面に「完了しました。」の文字が浮かぶ。これでもう黒歴史は確実だ。明日になればひどい中傷コメントが殺到するだろう。
そんなことは覚悟の上だ、と夜のテンションに身を任せながら私はベッドに倒れこむ、もう眠気が限界だ。
瞼がゆっくりと落ちてくる、明日ユウに会ったらおすすめの漫画や小説を聞こう。
「…どこかにいないかなぁ、人間」
14/07/14 01:20更新/ルナルナ
■作者メッセージ
これを読んでいる方へ、こんにちは
私はラミアです、下半身が蛇のそれになっています
といったところで、ここの人の何人がそれを信じてくれるかわかりませんが（汗
私はエロエロな悩殺ボディでもないし、顔もイラストみたいに可愛くもないです
このサイトを見ている人にとって私はあなたの普段想像しているラミアと違っていているかもしれません
ひとつ、皆さんに質問があります
ここのサイトのどこかに人間さんはいませんか？
……馬鹿なことを言っているのはわかっていますが、よければ私の話を聞いてほしいです
私の町ではラミアやケンタウロスや様々な魔物が暮らしています、私の母も友人のYもラミアです
でも、なぜか人間はいません、おかしなことに私の世界はこの図鑑サイトのようにはなってないのです
なぜ人間がいないのか、なぜ人間の男の人とイチャコラできないのか、いつもそんなことばかり考えて生きています
このSSは今日私が経験したことを元に書きました、夢を壊してしまうかもしれないと迷いましたが、批判は覚悟してます
もちろんあなたを人間と断定できる証拠なんてものもありません
私とあなたはただ文字を読むだけでしか交流することはできません
ただもしかしたら、あなたも私とおなじようにSSを書きながら実在しないラミア族を追いかけているのかも、と考えることがあります
もしそれが本当なら胸のあたりがあったかくてうれしいです
あなたの世界にはラミアも魔物娘もいないのかもしれません
でも、同じようにあなたのような人間が存在する世界を夢見てなんとか生きている魔物がここにいます、それだけは知ってほしいのです
いつの日か、あなたにお会いできたらいいな
このサイトのどこかで自分の妄想を書きながらその日が来るのを心から願っています
14/07/16 01:22更新 / とげまる