読切小説
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観察日記
僕の家の前にある茂みで不思議な植物を見つけました。
まだ芽が出たばかりの状態だから、何の植物かも分からないけど、
小さな2枚の葉っぱだけじゃなくて、小さな綿毛もついてました。
僕がこの植物を見つけたのは、なんか甘い香りがこの植物が生えてる辺りから漂ってたから。
あと、よくわかんないけど声が聞こえた気がして…。
なんて言ってたかよく聞き取れなかったけど、僕を呼んでいたような気がしました。
なんだかとても気になるので育ててみることにしました。
せっかくなので、観察日記もつけて記録していこうと思います。


観察日記 1日目

おうちの前で、ふしぎなしょくぶつを見つけました。
ぼくのおうちはかじゅ園をしているので、いろいろなしょくぶつを見てるけど、
みつけたのは今まで見たことがないしょくぶつでした。
めがでたばかりで、2まいの葉っぱと、ふわふわのわた毛がついてました。
せっかくなので、パトラってなまえをつけて育てることにしました!
育てたらどんなふうに大きくなるのか、たのしみです。

観察日記 おわり


今日は学校から帰ってきたら、また僕を呼んでいるような声が聞こえました。
僕のパパが言ってたけど、植物は人と同じように喋ったり、気分が変わったりするそうです。
音楽を流したり、話しかけられると喜んだりするって言ってました。
もしかすると、パトラが僕に喋ってくれてるのかなって思いました。
ジョウロにお水を入れて、パトラに掛けてあげることにしました。
あんまり水をかけ過ぎると、だめになっちゃうとパパが言ってたので少しだけにしておきました。
昨日と見た目は変わってないかな?
また明日も来るねって、パトラへ話しかけました。


観察日記 2日目

きょうは、お水をあげることにしました。
パパからしょくぶつのそだて方をきいているので、
ちゃんとお水はあげすぎないように気をつけました。
あんまり見た目はかわってなかったです。
お水をあげたあと、おうちにもどるとちゅうでこえがきこえた気がしました。
ありがとう、って言われた気がしました。
あしたもお水をあげよう!

観察日記 おわり


今日でパトラを見つけてから1週間経ちました。
成長はゆっくりだけど、少し大きくなった気がします。
だけど、あんまり元気よく育ってないみたいだったので不安になりました。
パパに相談してみたら、成長を邪魔しているのがいるのかもしれないねって言われました。
そういえば、周りに雑草とか多かったし、日当たりもあんまりよくなかったと思います。
もしかしたらそれが原因なのかなって思いました。
僕がパトラにしてあげれることってなんだろうなって考えてみました。


観察日記 7日目

きょうは、パトラをいどうしてあげることにしました。
まわりにざっそうが多くて、おひさまもあんまりあたってなかったからです。
パパが、根っこをきずつけるとパトラのせいちょうにえいきょうがでちゃうかもしれないよ、
って言ってたので、気をつけてまわりの土ごとほっていどうしてあげました。
まわりにざっそうがなくて、おひさまがいっぱい当たるおうちの前にうつしてあげました。
早くそだつように、ひりょうもいっしょにあげました。
またパトラにおれいを言われた気がしました!

観察日記 おわり


パトラを日当たりのいい場所に移してから1週間経ちました。
やっぱり元々生えてた場所があんまりよくなかったのかもしれません。
葉っぱも大きくなったし、数も最初の2枚から6枚に増えて順調に成長しているみたいです。
ふわふわのわた毛も少し大きくなっているように思えます。
少しずつ大きくなっていくのを見るのはとても楽しくて、
パパがいつも嬉しそうに果樹園を歩いているのが少しわかった気がしました。


観察日記 14日目

きょうもパトラにお水とすこしだけひりょうをあげました。
あげすぎるとぎゃくにかれてしまうからすこしでいいんだよってパパにいわれました。
はっぱもふえて、6まいになりました!
がんばっておおきくなってね、って話しかけたらパトラがうなずいてくれたようにみえました
風でゆれただけだったのかなぁ?

観察日記 おわり


パトラを移動してあげてから、1ヶ月位経ちました。
相変わらず何の植物かわかんないけど、すくすく育ってるからこのまま頑張って育ててみます。
そう言えば今日は学校の帰り道で声が聞こえました。
助けて、助けてって言ってるような感じがしたので、声がする方に走りました。
そしたら僕の家の前でした。
家の前まで来ると声が聞こえなくなっちゃったけど、パトラを見たらなんか昨日と違う感じでした。


観察日記 35日目

きょうはパトラを見てみたらいつもとちがうかんじがしました。
さいしょはわからなかったけど、よくよくみるとパトラの葉っぱの上になにかがいました。
しゅるいはよくわからないけど、ちいさないもむしさんがなんひきかくっついていました。
葉っぱがすこしかじられてるみたいだったので、いもむしさんはしげみのほうへもっていきました。
パパにきいたら、まだそだってない小さなしょくぶつは虫がつきやすいんだよって言われました。
パパおてせいの虫よけざいをふきかけて、あみをパトラにかけてあげました。
これでだいじょうぶかなぁ?

観察日記 おわり


あれから1ヶ月位経ちましたが、パトラに虫もつかなくなって順調に育っています。
葉っぱの枚数も10枚以上になって、大きさも随分と大きくなりました。
最近、わた毛を中心に包むような感じで葉っぱが生えてきているように見えます。
キャベツとかのような包被型の植物なのかな?ってパパが言ってました。
そのうち食べれるのかな?
あと最近雨季になって雨が多くなってきました。
水やりをやらなくて楽だけど、やりすぎはダメだよって前にパパが言ってたので少し心配です。


観察日記 66日目

パトラもだいぶ大きくなってきてすこしずつ形がかわってきました。
はっぱも大きくなってきて、わた毛をつつむようなかんじになってきました。
あとあまいにおいが、たまにぼくのへやまでとどくようになってきました。
パパやママはにおわないよ?って言ってたのでぼくだけなのかな?
あとさいきんすこし雨がおおくなってきたのですこししんぱいです。
たくさん雨がふったら、パトラおぼれちゃうかなぁ?

観察日記 おわり


その日は夜にふと目が覚めました。
目が覚めたのは、外の雨と風が強くて窓がガタガタいってたのもあると思います。
でも、それ以上に誰かに呼ばれた気がしました。
女の子の声だったけど、ママの声じゃなかったと思います。
気になったので窓の方へいくと、また声が聞こえました。
助けて、助けてっていう声が聞こえた気がしました。
まだ暗い外を見ると誰かが居るようには見えませんでした。
でも、ふとパトラが生えてる方へ目を向けると風で凄く揺れていました。
今にも折れてしまいそうなパトラを見て、僕は気がつけば家を飛び出していました。


観察日記 74日目

よる目をさましたら、こえがきこえた気がしました
いっぱい雨がふって、ビュービュー風がふいていました。
まどから見ると、パトラがいまにもおれてしまいそうなくらいゆれてました。
パトラがぼくにたすけてって言った気がして、すぐパパのレインコートをきて外にとびだしました。
ぼくも風でとばされそうになったけど、パトラをまもるようにレインコートでおおってあげました。
そのまま雨や風がやむまで、ずっとパトラのそばにいたぼくはかぜをひいてしまいました。
パパとママにもたくさんたくさんおこられてしまいました。
でもパトラはおれずにすみました。
かぜをひいてねているとき、ふしぎなゆめを見ました。
かおはよくみえなかったけど、ひやけしたはだで
しろいモコモコのふくをきた女の子におれいを言われました。
きみはだぁれ?って聞いたらくすくすわらってどこかへきえちゃいました。
そこでぼくはめをさましちゃいました
あれはだれだったんだろう?

観察日記 おわり


雨季が終わって、暑い夏がやってきました。
気温も凄く高くなって、僕は家にいるととろけてしまいそうになります。
友達と一緒に川で遊ぶととっても気持ちがいいです。
でも、最近ちょっとパトラに元気が無い気がします。
どことなくしんなりとしているように見えて不安です。
パパに相談したら、暑さにはあまり強くないのかもしれないねって言われました。
お水も多目にあげてるけど、あんまり元気になった気がしません。
もっと涼しくしてあげないとダメなのかなぁ?


観察日記 121日目

パトラがさいきん元気がないように見えました。
きっとあつさにまけちゃってるんだとおもいます。
お水をすこしずつなんかいもあげてますが、かわらないみたいです。
ママにそうだんしたら、おひさまがつよすぎるんじゃないかしらっていってました。
ぼくもいまのじきのおひさまはあんまりあたりたくなりです。
だからパトラのちかくにパラソルをたててあげました。
お昼のあついじかんはこれでだいぶすずしくなるとおもいます。
がんばれ、パトラ!

観察日記 おわり


暑い夏も乗り越えて、気がつけば大分涼しくなってきました。
パトラも無事に夏を乗り越えてくれて本当によかったです。
大きさも随分大きくなって結球部分は50センチ位の大きさになりました。
結球部分の先端にあるふわふわのわた毛も少し大きくなっているように見えます。
でも何処まで大きくなるんだろう?
パパもわからないって言ってました。
濃い緑色の葉っぱを見ると苦そうで食べれなさそうな気がします。
でも甘い匂いもするんだけどなぁ…。


観察日記 189日目

パトラの大きさは50センチをこえるくらいに大きくなりました。
どれくらい大きくなるのかはわかりません。
でもまだまだ大きくなるように思いました。
さいきん、パトラのはっぱがなにかをまもってるようにおもえました。
葉っぱがあつまってるぶぶんのなかみは、なにがあるのかな?
あけて見てみたいけど、そんなことをしたらパトラがかれちゃうかもしれません。
がまんがまん!

観察日記 おわり


穏やかな秋が終わって、気がつけば寒い冬がやってきました。
秋の間はパトラもあんまり変化がありませんでした。
やっぱりお日様が当たる時間が短くなったからかな?
最近はとても冬らしくなって、寒くて朝お布団からでるのが辛いです。
パトラは寒さに強いのかよくわからないけど、頑張って耐えてほしいです。
……寒くて枯れちゃったりしないよね?


観察日記 265日目

さいきんはとてもさむくて、しもがおりていることが多くなりました。
パトラもなんだか元気がなさそうです。
ゆめのなかで、だれかがさむいよーって言っていた気がしました。
もしかしたらパトラが言ってたのかもしれません。
ぼくはパパにそうだんして、パトラようのあったかいビニールのへやをつくりました。
さむくならないように、なかにはいつでもあったかいふしぎな石もいれておきました。
きっとこれでさむくないと思います!
その日のよるにまたふしぎなゆめを見ました。
まえにゆめに出てきた女の子とおなじだったとおもいます。
その女の子はうれしそうにわらってて、ぼくをぎゅーってやさしくだきしめてくれました
とってもあたたかくて、ふわふわしていました。
あの女の子は………パトラなのかな?

観察日記 おわり



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観察日記 731日目

気がつけばかんさつ日記も5冊目がそろそろ終わりそうになります。
今日でパトラと出会ってから2年が経ちました。
2度めの冬も無事にこえることができてほっとしています。
パトラもずいぶんと成長して、いまでは直径1.3メートルほどにまで成長しました。
成長するのはいいんだけど、どこまで大きくなるのか楽しみのようなふくざつな気持ちです。
そういえば今朝パトラに水をあげにいったとき、初めてパトラの葉っぱが落ちていました。
今まで葉っぱが落ちたことがなかったので、少しおどろいています。
何か変な病気にでもかかっていたらと思うと少し心配です…。

観察日記 おわり


あれから2,3日に1度位のペースでパトラの結球部分の葉っぱが落ちています。
もしかして枯れ始めてしまったのではないかと不安な日々が続きます。
近づいてパトラに声を掛けてみても最近はあんまり反応が無い気がします。
もしかして本当に病気にかかってしまったのではないかと思うようになりました。
お父さんに相談はしてみたけど、葉っぱの状態を見ると枯れ始めには思えないと言われました。
病気だとしたら葉っぱの色も変わると思うって言われました。
でも落ちた葉っぱは濃い緑色をしたままで病気には見えません。
パトラ…大丈夫、だよね?


観察日記 755日目

パトラのけっきゅう部分の葉っぱは、どんどん落ちていきます。
最初は病気かなって思いましたが、本当はちがうんじゃないかなって思うようになりました。
どうしてかって言うと、けっきゅう部分の葉っぱのすきまからオレンジ色の果実が見えたからです。
もしかすると、パトラの葉っぱは果実を守るために包むような形をしていたのかな?
果実がじゅくしたから、葉っぱが落ちてきたのかもしれません。
少しだけ果実のところを指でさわってみると、とてもプルプルしててゼリーのようでした。
とっても甘いにもいもして、食べたらきっとおいしいと思います!
はやく食べれるようにならないかなー

観察日記 おわり


パトラの果実を守るように結球していた葉っぱは殆どが落ちてしまいました。
でもまだ大きな4枚の葉っぱが果実を守るように包み込んでいます。
この大きな葉っぱが開いたら熟したって言えるのかな?
隙間からは果実が見えているけど、何か別のものも見えるような…?
いつになったら全部開くのかなって、最近は毎日が楽しみで仕方ありません。
いっぱい丹精込めて育てたパトラはきっととっても美味しいと思います。


観察日記 763日目

今朝パトラに水をあげにいったとき、ついに葉っぱが開いていました。
オレンジ色のみずみずしい果実はとってもおいしそうでした。
でもぼくはそれを思うよりも、水をあげることよりも、まず最初におどろきました。
果実の中には、種じゃなくて女の子がいたからです。
羊さんのようなくるくるの角に、日焼けしたようなはだ、もこもこしたかみの毛。
ひざをかかえてすわるような姿勢で、果実の中でねむっているみたいでした。
よくよく見ると、たまに動いているようでした。
その女の子は何度かゆめの中で会ったことがある子にそっくりでした。
やっぱりあれは……パトラだったの?

観察日記 おわり


あれから1週間程度経ちましたが、まだパトラは目を覚ましません。
お父さんもお母さんも初めて見る魔物さんだって驚いていました。
でも、お父さんの知り合いの酪農家のおじさんがパトラのことを教えてくれました。
バロメッツという魔物なんだそうです。
美味しい果実と、とっても素敵な木綿が取れるそうです。
でも僕はそれよりも、はやくパトラとお話したいなと思いました。
おじさんは、葉っぱも開いているしそろそろ目を覚ますよと言ってました。
明日位にはお話できるようになるのかな?

次の日の朝、僕は朝一番でパトラのところへ行きました。
ジョウロを抱えてパトラのところへ行くと、まだ寝ているようでした。
今日も起きないかなって思いながらお水をあげてると、パトラがゆっくりと動き始めました。
僕は驚いて思わずジョウロを落としてしまいました。
パトラはゆっくりと果実の上側から身体を出すと、んーって身体を伸ばしました。
そのあと、すぐにこっちに向きました

「んーっ!元気ー!あはっ、おはよーです♪」

パトラが僕に話しかけてくれました。
僕が思っていたよりも高い声で、とっても可愛い声でした。

「んふふ♪やぁっと逢えましたー!私いまとってもうれしいです♥」

僕もとってもうれしいよって言いました。
パトラはニコニコと嬉しそうに笑ってて、僕もつられて笑ってしまいました。
ふわふわもこもこなわた毛の様な髪の毛と、マントみたいになっている木綿は真っ白でとても綺麗です。
日にやけた様な肌は、とってもすべすべで柔らかそうに見えます。

「私はずっと眠ってたです。でも、貴方が一生懸命私のことを育ててくれたのを知ってるです♪」

雨の日も、暑い日も、寒い日も、ずっと優しくしてくれたって言ってくれました。
沢山心配してくれて、沢山優しくしてくれて本当に嬉しかったって言ってくれました。
でも、僕がしたいからしていたんだよって言いました。
パトラを育てたいって思ったから、沢山悩んで、沢山がんばれたから。
それを聞いたパトラはまた嬉しそうに笑ってくれました。

「んふふ♪やっぱり私は幸せ者です。こんな素敵な方に出会えたのですから♥」

そういうとパトラは僕に向けて手招きをしました。
おいでーと嬉しそうに言うので、僕はパトラに近づきました。

「もっとです、もっと近づくですよー♪」

パトラが手を僕に伸ばしたので、その手をぎゅって握りました。
柔らかくてとっても温かい手でした。
そのまま僕は、パトラの果実の中に引き込まれちゃいました。
前に触ったときはプルプルとしたゼリーみたいな弾力があったのに、今は全然ありませんでした。
身体が果実に埋まったと思ったらそのままパトラに引っ張られてました。
そのまま体の半分が果実の上から出たような状態になりました。
身体が出ると、今度は少し固めのゼリーみたいな感じに変わりました。
1度完全に果実の中に入っちゃいましたが、洋服は濡れてませんでした。
キョロキョロと周りを見た後、目の前を向くと嬉しそうに笑うパトラの顔がありました。

「えへへ♪ぎゅーっ♥」

パトラが嬉しそうに笑いながら僕に抱きついてきました、
僕は驚きと恥ずかしさでどうすればいいのかわからなくなってました。
でもいつか夢で見たときと同じでした。
とても甘い匂いがして、とっても温かくて、なんだかとっても安心する感じでした。
僕もパトラのことをぎゅって抱きしめました。
パトラが嬉しそうに頬ずりしてきて、僕はもっと恥ずかしくなっちゃいました。
パトラはそのあと、顔を離すと、僕のことをじーっと笑顔で見つめてきました。

「うふふ♪これは、私のことを育ててくれたお礼です♥」

ちゅっと優しくパトラが僕にちゅーをしてくれました。
甘い甘い、唇も顔も、身体も溶けて、蕩けるような甘いちゅーでした。
僕は顔を真っ赤にして、固まってしまいました。
パトラはそれを見てとっても嬉しそうに笑ってました。
そのときでした。僕を見つけたお父さんがこっちに駆け寄ってきました。
パトラはもう一度ぎゅっと僕に抱きつくと、耳元でささやきました。

「お礼の続きは、また今度です♪くすくす♥」

そういうと、パトラは僕から離れると、ペコリと頭を下げました。

「これから、どうぞよろしくお願いしますです、旦那様♥」


観察日記 771日目

今日は、ついにパトラが目を覚ましました。
とってもかわいい子です。
パトラの手に引っ張られると果実の中に入っちゃいました。
プルプルしたゼリーみたいだったのに、そのときはもっとやわらかくなってました。
とっても不思議なかんじです。
パトラはぼくにいっぱいお礼を言ってくれました。
優しくぎゅって抱きしめてくれた時、前に見た夢のことを思い出しました。
やっぱりあれはパトラだったんだなって思いました。
そういえば、お礼の続きはまた今度って言ってました。
お礼の続きってなんだろう?楽しみです!



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観察日記 おわり


メガネを掛けた20代後半の男が、手に持っていた古ぼけたノートを閉じる。
懐かしさと恥ずかしさがこみ上げてくる感覚に、思わず彼は苦笑を漏らしてしまう。
まさかこんなところにしまっていたとはな、と胸中で呟く。
ずいぶんと昔のことのように思えて、でもまるで昨日のように1つ1つを思い出せる。
そんな懐かしさに思いふけっている彼の後ろから声が聞こえる。

「旦那様ー?お片付けは進んでるですかー?」

思い出の中と変わらないようで、時の流れの中で少しだけ変わった、彼女の声が聞こえる。

「あぁ、順調だよパトラ」
「本当ですか…?って全然進んでないですー!」

ぷぅっと頬を膨らませ、腰に両手を当てて怒ってる事を彼へと示すパトラ。
だが、その仕草すらも愛おしく、可愛らしいとしか思えない。

「もー、旦那様がお片付けするっていったですよ?」
「ごめんごめん、すぐにやるからさ」
「むぅー、ホントです?…………何を見てたですか?」
「あぁ…ちょっと懐かしいものを…ね」

思わず読みふけっていたそれをパトラへと見せる。
彼女が中身を見るやいなや、その顔に笑顔が浮かんでいく。

「これ…」
「ふふ、懐かしいね。パトラと出会った当時に書いていたものだよ」

1ページ1ページをゆっくり、大切に読んでいくパトラ。
自分の拙い文章を読まれる恥ずかしさから、彼はやはり返してもらおうと思った。
だが、彼女の顔を見てやめることにした。
目に涙を浮かべながら嬉しそうに読む彼女を見て、取り上げることなど出来るはずもなかった。

「パトラが目覚めてからは書かなくなっちゃったけどね。」
「旦那様…」

涙ぐむ彼女の頭を優しく撫でながら、優しく口づけをする。
甘い味は、あの時よりもより甘く、より甘美なものへと変わっている。
ぎゅっとノートを抱き締めるように持つ彼女を、優しく抱き締める。

「あの時、僕を呼んでくれてありがとう。パトラとこうしていられることが今は何よりも嬉しいよ」
「旦那様ぁ…わだしも、おなじぎもぢですぅ」

涙ぐみながらも答えてくれる彼女に、もう一度口づけをする。
あぁきっともうダメだと彼は胸中で呟く。
こんな状態で片付けなどやれるはずがない。

「パトラ、片付けは…明日にしようか」
「ひっく…でも、今日やるっていったです…」
「明日は必ずやるさ。それよりも…ね」
「あぅ…旦那様ぁ…♥」

あの時と同じ気持ちで、あの時以上の愛情をもって彼女を愛すること。
今何よりも優先してすべき事はそれだと彼は思ったから、優しく彼女を抱き締める。
ぎゅっと彼を抱きしめ返す、愛おしい妻の名を何度も呼びながら。



翌日、古ぼけたノートの最終ページに新たな記録が追加されたことは、彼しか知らない。



観察日記 XXX日目

僕のもとに来てくれてありがとう。
僕と出会うために一生懸命育ってくれてありがとう。
今君といるこの瞬間が何物にも代え難い宝物です。
これからも、ずっと君のそばに居ることを誓うよ。
だから、君のその太陽のような笑顔をいつまでも見せて下さい。

愛しているよ、パトラ。

観察日記 おわり
17/05/06 12:48更新 / クヴァロス

■作者メッセージ
バロメッツの果実のような甘いお話をイメージしましたが如何でしたでしょうか。
前半部分がひらがな多用で読みにくい部分もあるかもしれませんが、
時の流れの中で「彼」の成長も見て頂ければと思います。

パトラの成長過程を描写する上で、バロメッツを包被型の植物としていますが、
皆様のイメージとは少し異なってしまったかもしれません。
パトラはこのように育ちましたが、他のバロメッツには異なる成長過程があると思います。
是非ともこの物語を読んで違和感を感じた方は、新たなバロメッツのお話を書いて頂ければと思います。
新たなバロメッツの物語を、楽しみにしております。

なお個人的にですが、バロメッツの身体を余すこと無くペロペロしたいです。
まずは18時間くらいから。

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