読切小説
[TOP]
春風に吹かれて馬車は往く
天気は快晴、太陽が中天に至るまで、あと二時間前後。
木々がまばらに生える、起伏に乏しい草原を突っ切る街道にて、
小ぶりな一台の馬車が、南方の都市群に向かってゆったりと進んでいた。

手綱を取るのは、暗褐色の髪を短く刈り込んだ、
どこか頼りない雰囲気を漂わせる中背の青年。
ひと振りの長剣を抱えたまま、彼に寄り添うのは、
背の中程まで届く銀髪をうなじで束ねた、やや小柄な女性だった。
彼女は、御者を務める青年の左肩に頭を預けると、心地よさげな唸り声を漏らして呟いた。

「愛の逃避行ね」
「初陣終えたら、そのまま騎士辞めるデュラハンなんて聞いた事ねえぞ……」

青年のぼやきに反応するように、口の端を吊り上げ、女性は笑った。
赤い瞳が輝く吊り気味の眼と、尖った長い耳のせいだろうか。
どことなくキツネめいた顔立ちだと、青年は思った。

「いいのよ、わたしなんて、木っ端騎士の分家筋の末っ子なんだから。
 いなかったら食い扶持が減って、実家が助かるくらいのもんよ。
 ……それに、剣を振ったり馬に乗ったりするのは好きだけど、人殺しなんかやだし」
「そっか……早めに落ち着く先を探さないとな」
「うーん……わたしはのんびりと行きたいかな。 新婚旅行みたいで素敵じゃない」
「実際は駆け落ちだろ、これ」

「ま、いざとなったらどこかの山で暮らしましょうよ。
 わたしが獣を捕ってきて、あなたがそれを捌いて……」
などと、隣席の女性が嬉しげにのたまうのを聞き流して、
青年は、昨日体験した出来事の数々を思い返していた。

ただ、それらは、余りにも桃色な情景が多過ぎた。
よって、若く健康で、その上、左手に寄り添う女性以外、
抱いた経験が無い彼の分身が、せっせと血を集めだすのを抑えられるはずも無く。

「…………♪」

目ざとくそれを察知した――先日彼に純潔を押しつ…捧げたばかりの――
デュラハンが、微笑を面映ゆげなものに変え。
馬車を街道の傍らに止めて、彼を薄暗い車内に引っ張り込むのもまた、
どうにも避け難い事なのであった。




「……何をやってるのかな?」

昨日の朝の事である。
馬車の内部に敷いた毛布にくるまっていた彼は、下半身に肌寒さと重圧を覚えて目覚めた。
それらの原因であるデュラハンは、赤い舌をちろりと出し、

「朝ごはん作ってくれないお寝坊さんに代わって、
 もう起きてる息子さんに、朝のミルクをご馳走してもらおうとしてるのよ。
 というわけで、いただきま〜す♪」

いたずらっぽく嘯くと、先程あらわにしたばかりの、いきり立つものにむしゃぶりついた。

「ん、む、んぐ……。 ふふ、昨夜あんなにしたのに、まだカッチカチ……」

青年が呻くのにも構わず、デュラハンは嬉しげに目を細めて、
唇でペニスをついばみ、舌で亀頭を転がした。
アンデッド種らしく、冷たい滑らかな肌と、それとは裏腹に熱く濡れた口内の感触に耐えかね、
青年の腰が思わず動き出す。
それに合わせて銀髪の頭を上下させながら、彼女は口中のモノを吸う力を強めていった。

「んふふふ……む……う……んっ……ちゅうぅ……しょっぱいのが、にじんで、来たね……」
「わり、ちょ、やめ……」
「だ〜め♪ んく、んんんんん〜♪」
「で、出るっ……」
「〜〜〜〜♪」

わざとらしい吸引音とともに、ひときわ強く吸われたのに釣られるように、
膨らみきった青年の欲望は、首無し騎士の口内で爆ぜた。
射精が治まってからもしばらくは、デュラハンは強弱をつけてペニスを吸っていたが、
尿道内の最後の一滴まで精液を啜り出すと、
幹の中ほどへの甘噛みと、亀頭へのキスを置き土産に、青年の分身から唇を離した。

「ふふ、ご馳走さまでした……ねえ、もう二、三回してもいい?」
「か、勘弁してくれぇ……」
「こんなカチカチなのに? おへそまで反り返りっぱなしじゃない」
「硬くなっても、一回イったらしばらく出ねーからやめてくれ」
「そうなの? 残念ね……」





「あ〜、太陽が黄色い……」
「眠そうね? 御者、代わってあげようか?」

連日連夜の強姦…もとい交歓と、朝の一件で、目の下にうっすら隈が浮いた青年が呻くと、
デュラハンは気遣うように彼の顔を覗き込んだ。
手綱をとる青年は、やや赤みが増した顔を、気まずげに逸らして口籠もる。

「いや、いい……ぶっちゃけ、野盗とかに襲われたら、お前さんの剣だけが頼りだからな。
 ……情けねえな、俺」
「いいのよ、そのかわり、暇な時にはたっぷり気持ちよくしてもらうから」

シメのため息とともに、がっくりと落とされた伴侶の肩に、デュラハンは頭を預けて目を閉じた。
それに応じるように首を左側に傾げ、青年は苦笑いしつつぼやく。

「……なんか、ふつーの夫婦と、やる事が逆転してる気がする……」
「まあ、わたしの先祖、五分の二くらいはアマゾネスだからね」

「ついでに、ほんの少し、リザードマンの血も交じってるのよ」と、
白いブラウスの右袖を捲り上げ、二の腕に生えた数枚の鱗を見せて来る女性をあやすように、
青年は左手で彼女の左肩を数度軽く叩いて言った。

「でも首は取れるんだよな」
「ご先祖さまは普通のデュラハンだったけど、とびきりの剣術馬鹿だったみたいでね。
 代々、互いに技を高め合える相手を、奥さんにもらい続けたんだって。
 今の魔王さまに代替わりしてからも、武芸自慢の騎士の冷飯をお婿さんにもらったり、
 旅の勇者を倒してかどわかして来たり、ベッドの中に引きずり込んで骨抜きにしたり……」
「おふくろさんは、最後のケースだったんだっけ?」
「うん。 お祖母さまと上の伯母さまはお見合い結婚、
 下の伯母さまは、戦場で拾った、孤児の男の子とくっついたんだけど……」
「何かあったのか?」
「……十二歳差は犯罪だと思う」
「確かに……そういや、結婚した時、下の伯母さんは何歳だったんだ?」
「二十五歳」
「うわぁ」
「母さまは十四歳で、ひとつ年上の父さまをさらって来たし……ウチの家系、極端よね」

と、その時。
車輪が大きめの石でも踏んだか、馬車が大きく揺れた。
その拍子にデュラハンの首が転げ落ちたが、とっさに伸ばした青年の手が届く。
そのまま抱きかかえられた首と、抱きかかえた腕の持ち主は、
数拍の間を置いて、同時に長い息を吐いた。

「あ、ありがと……」
「いや、危ねぇ危ねぇ。 こんな高さでも、頭打ったら死んじまうだろ……。
 何より、馬車の下に落っこらなくてよかったな」
「うん……ところで、ね?」
「……何故、俺の服を脱がし始めてるのでしょうか、あなたの身体は?」
「首がはずれちゃったから、急におなかがすいてきちゃって……」
「朝搾り取ったばっかじゃねえか!」
「口で一回しただけじゃ足りないわよ。 やっぱり、その、普通にしたいなぁ……三回くらい……」
「せ、せめて馬車止めるまで待ってくれぇええ!」




「ふぅ……ご馳走さま。 でも、やっぱり首ははずしてした方が気持ちいいかな。
 今夜は、そっちの方向でよろしくね」
「…………もうダメ、ムリ、枯れる」

薄日が差し込む馬車の中、生まれたままの姿で、満足げに微笑む女性の下で。
これまた全裸で、彼女と繋がったままの青年は、息も絶え絶えに呻いた。
先程まで彼女に、一度も身体を離さず、当初のリクエストの倍、
膣内へ精を放つ事を強いられたのだから、無理もない事ではあったが……。

「まあまあ、このペースで行けば、一月かからずにインキュバスになれるから大丈夫よ。
 そうすれば、父さまや伯父さま達みたいに、
 一日で三十回くらいしても、目の下に隈ができるだけで済むようになるから!」
「……お前さんに姉さんが四人もいる理由が、分かった気がする……」
「……子供は最低三人ね?」
「…………」

伏し目がちながら、真っ直ぐ目を見つめて懇願して来る伴侶に耐えかねて。
青年は彼女の頬に手をやり、微苦笑とともに承諾の意を返した。




「よかったわね、きれいな川があって」
「ああ、飲み水や晩飯が手に入ったのはいいんだけどさ」
「なぁに?」
「なんで脱ぐかな?」

満月の光が皓々と射す林の中で、半眼の青年は、
シンプルなデザインのブラウスとスカートを脱いで、
黒い下着姿になったデュラハンから、視線を外さずにぼやいた。

昼間に散々搾り取られたと言うのに、懲りずに透明な粘液を滲ませながら
硬直するナニを誤魔化そうと、腰を引いているのはご愛嬌。
対して、やや下卑てはいるが、コケティッシュな流し目を返すと、
脱いたショーツを左手の人差し指に引っ掛けて回しながら、
彼女は、キツネめいた笑みのままに言い放った。

「もう、お互い知らない身体じゃないんだからいいじゃない」
「そーだけど、何で俺の服まで脱がすかね?」
「一緒にみずあ…気持ちよくなりましょ?」
「何故言い直す……じゃねえや、汗を流すんなら別々でいいだろ」
「やだ。 身体洗ってちょうだい。 お返しに洗ってあげるから」
「……ちなみに、選択権は?」
「あると思う?」

いつの間にか全裸にさせられていた青年が、首を横に振るのを確認すると、
口の端を吊り上げたデュラハンは、鼻を鳴らして満足げに頷いた。
そのまま青年の背後に回り込み、清水に浸してから絞ったタオルを彼の背に添える。
青年の五体を清めながら、彼女は再び、女狐の笑みを浮かべて嘯いた。

「ふーん、まだまだ元気みたいね……期待してくれてたんだ?」
「……もう勝手にしろい」
「うん、する♪」

デュラハンの弾んだ声を最後に、しばし、川のせせらぎと、虫の音が辺りを支配した。
それを破ったのは、身を清められた青年が漏らした、間の抜けた疑問の声。

「……あれ?」
「どうしたの? 洗い終わったわよ?」
「襲わないのか?」
「もう、人をセックス狂いのサキュバスみたいに言わないでよ」

青年が無言で首を傾げるのを見て、デュラハンは眉をひそめ、口許をへの字にした。
そのまま憮然として呟く。

「……母さまじゃあるまいし、屋根の無いとこでする趣味なんか無いってば」
「おふくろさんはしてたんかい」
「ウチの両親、初めては青姦だったらしいから……。
 家族総出で狩りに行くたび、二人で雲隠れしてね……母さまが父さまに跨がってぱこぱこと」
「うわぁ」
「それを察した上の伯母さまが、顔を赤らめながら、
 苦笑いする伯父さまを木陰に引き摺り込んで……」
「ぬはぁ」
「おまけにお祖母さまが、満面の笑みでお祖父さまを、
 さっきの二人とは反対方向の林の中へ連れ込んで」
「……」
「最後に、里帰りしてた下の伯母さまが、
『みんなはあんな大人になっちゃダメだからね?』とか、
 自分の娘や姪っ子達にしみじみと言い聞かせながら、
 伯父さまに作ってもらった、串焼きやごった煮を食べる、と」
「伯母さんは作らないのか?」
「……ウチの家系ね、剣と手綱と旦那のアレを握るのは得意だけど、
 包丁握るのは苦手なのよ……」
「アマゾネスの血か……」
「正解。 じゃ、身体洗ってちょうだい」
「はあ……まあいいや……っと、こんなんでいいか? 力加減は」
「もうちょっと強く……うん、それくらいで……あ、はぁ……」
「……変な声出すなよ……」
「むりぃ…………襲いたかったらぁ、襲って、いいよっ? はぁ、ん……」
「ぜってー犯らねえ」
「ふふ、お行儀いいんだから……ふ……んっ……」




「む、ん、ふ……ぁ……ふふ、ん……」
「キス魔だな、お前さんは」

満月のもと、馬車の内部で、抱擁とキスを交わすさなか。
胡坐を掻いた青年は、膝の上に腰掛けて甘えて来る伴侶をあやすように、
彼女の頭と髪を優しく撫でながら呟いた。

「わたしとするの、イヤ?」
「んなわけねーだろ、イヤだったら駆け落ちなんてしねえって」

その一言とともに、青年がデュラハンの唇を奪い、舌を絡めると、
彼女は嬉しげな唸りを鼻から漏らし、軽くひそめていた眉を常態に戻した。
ふたりはしばし舌と唇を絡め、吸い合う音で互いの耳朶を満たした。

「しかし、たまにお前さんがデュラハンだと信じられなくなるな……。
 首をはずそうがはずすまいが一緒じゃねえか」
「やぁね、首が乗ってたら……」

「大好き♪」と満面の笑顔で告げながら、デュラハンは青年の唇を奪い返した。
ついでに、腕は彼の首を、脚は彼の脚をがっちりとホールドし、胴体を密着させている。
存分に青年の唇をむさぼり、名残惜しげに唾液の糸を引いて唇を離すと、
舌なめずりした彼女はいたずらっぽく囁いて、首を差し出した。

「と、これくらいで済むけどね……はいこれ」
「おっと……うわっ!」

はずされた首を受け取った途端、青年はデュラハンの胴体に、優しくも強引に仰向けにされた。
そのまま彼の衣服を脱がすと、それは青年の腿の辺りに陣取る。

“さてと、最低十回は抱いてよね?”

抱きかかえるデュラハンの首が無言で微笑んでいる事を確認し、
しばし胴体の胸元付近を見つめると、青年は誰ともなしにぽつりと呟いた。

「……首の辺りから、人の顔みたいなもやが出てるんだが」
『わたしの本音よ』

「満月で昂ぶっているからかしら、余計にはっきりしてるみたいね」と、
苦笑する首にはお構いなしに、

“せっかく首を抱きかかえてるんだから、キスしてくれてもいいじゃない。
 それとも、あそこにわたしの首を持ってって、無理やり口に突っ込んでみる?”

件の胴体は、軽く身をよじらせて嘯いた。
それに併せるかのように、首の方も甘えた唸り声を漏らしながら、唇を突き出す。

「…………」
「ん〜……」
“イラマチオさせられちゃうのかしら? ふふ……”
「ちなみに、どっちが本当の本音なんだ?」
『どっちもよ。 キスしたい? それともしゃぶらせたいの?』

「じゃあこっちだ、ん」
「……♪」
“あら、そっちにしちゃうの? ふふ……ならわたしはぁ……”
「!」
『……♪』

首の方にキスした青年を、やわらかくひんやりとした快感が襲った。
先程裸にされた下半身において、いきり立った分身が、
デュラハンの豊満な双乳に包み込まれたからである。
くつろげられた胸元の隙間から覗く、黒いレースに彩られた白いふくらみと紅い頂が、
青年を分身ともども、鉄石のように金縛りにした。

“ほらほら、舌が止まってるわよ? ついでに腰も動かしていいからね? ふふ……”
「うーむ、なんか三人でしてるような気分だ」
「イヤなの?」
“いつもより大きくなってるみたいだから、心底イヤってわけじゃないのよね?
 まあ、どっちにしても、もう一生離さないけど、ね……♪”
「俺も一生、あんたを離すつもりはねーよ」

ペニスに強い圧力が掛けられるのと同時に、青年は彼女の首を胸元にしっかりと抱きしめた。
嬉しげなアルトの『ならばよし♪』が二重に響いたところで、苦笑して曰く。

「ただな、濡らしてもらわないとイマイチ物足りねえかな、胸は」
「あー、やっぱりダメ?」
“むー、こんなに反り返らせてるくせにー!”
「だからな、いつものアレを……してほしいんだけどさ……」

自分からリクエストする事に慣れていない青年が、だんだん尻すぼみに語尾を縮め、
代わりに顔を赤らめるのを確認して、
伴侶の首と胴体は、陽気に声を弾ませて、彼に了承の意を返した。




『よいしょっと……ふふ』
「かっちかちのばっきばきだわ……あむ♪」
“そういえば、はじめての時と同じのを穿いてたのよね……嬉しい?”

脱ぎ捨てられたスカートが、床に落ちて蟠る軽い音に続いて。

男根を包み、雁首やエラを這いずり回る熱いぬめりと、
顔面にのしかかる黒く薄い生地越しの、芳しいぬくもりに溺れながら、
青年は歓喜の呻きを漏らした。
思わず振られた腰が、熱く弾力のある咽喉奥を、欲望の鉾先で穿ち抜く。

“あは、また大きくなっ……んっ!
 ねえ、悪いけど、咽喉をつつくくらい押し込まないでね? 噛み切っちゃうわよ?”
「ま゛、はふい」(あ、悪い)
“もう、ちっちゃくしちゃだめぇ……”

多少うなだれるモノを、慌てたように舌で愛撫して、
デュラハンは、股間を一層強く青年の鼻面に擦りつけた。
それに応えて、彼は唇と舌を使い、クロッチをずらして膣口をあらわにする。

“あ、いい、そこ、ぐりぐりしてぇ、ク◯トリ◯も噛んでぇ! 吸ってぇえ!!”

青年の舌先が膣内の一点を抉るのに合わせ、
デュラハンの口も、彼の分身にとどめを刺さんと蠢く。
男女の呻き声を伴奏に、デュラハンの胴体が放った絶叫が、
即席の閨の闇を引き裂いて、どこまでも高く響き渡った。




「ん〜…………♪」
“あは、イかされちゃった……ねえ、首、返してちょうだい”
「んむ……」

絶頂の余韻が退くと、デュラハンは首を定位置に回収し、口の中に溢れたものを飲み下した。
そして青年の額と鼻先で、溢れた蜜を拭い去らんばかりに、濡れた緋裂を擦りつける。

「……おいしかったぁ……ふふ、ちょっとぐりぐりするだけでまた元通りね。
 ねえ、もう十分濡れちゃったし……そろそろ、しましょ?」
「ああ……で、どっちが上だ?」
「デュラハンは騎兵ですわよ? ん……ふ、あっ! あは、はいっ、たぁ……」

衣服の残骸を脱ぎ散らかしつつ、後退りしていたデュラハンは、
とある一点で腰を沈め、青年の分身を受け入れた。
この数日で、すっかり馴染んだ女性器の感触をいとおしく思いながら、
青年は鼻先に突きつけられた、伴侶の笑顔に問い掛ける事にした。

「で、何故に満面の笑顔な首を差し出して来るのでしょうか?」
「野暮な事言わないで……キスしててよ、ずーっと」
「ま、お前さんの動きは凄ェから、落ちちまうもんな、首……」
『だから、しーっかり抱いててね……ふふ、騎兵流の腰振り、どうぞご賞味あれ……』

その言葉を最後に、彼らの間で、触れ合う二箇所の粘膜が、淫らな水音を奏で始める。
薄闇の中の二重奏は、その後も昼夜問わず、ふたりの行く先々で、流れ続けたという。




Fin








蛇足

「でね、旅の途中で、お父さんとお母さんは、行商の人達に護衛として雇われて、
 この町に住むようになったのよ」
「お母さんが護衛になれたのは分かるけど、お父さんは何か役に立ててたの?」
「んー、お母さんの抱き枕兼、専属料理人?」
「悪かったな、どーせ俺はヒモだよ……。
 あと『せんぞくりょうりにん』は『ごはんくれるひと』なんて読めねえっつーの」
「まあまあ、なんだかんだで、その商会に雇ってもらえたんだからいいじゃない」
「内勤かぁ、お父さんが賄い以外の仕事で雇ってもらえたなんて、未だに信じられないわ」

こじんまりとした民家の居間、夕食の席において。
「スープおかわり」と、今年で十歳になった娘が、空にした皿を差し出してくるのを受け取り、
件の月夜から、変わらない容姿のままの青年は、再び皿に中身をよそいながらぼやいた。

「はいはい……父としての威厳は無いんだな、俺には」
「あると思ってた? 私、お父さんくらいの兵士なら、三十人がかりでも蹴散らす自信あるけど」
「夫として、男としての尊厳はあるんだからいいでしょ……というわけで。
 お腹の子のためにも、今夜も寝かせないから、ね……?」

大きく膨らんだ腹と、心もち肉づきのよくなった顔――

――お父さんの手料理と精、両方お腹いっぱいになるまで食べてるんだから、
  太りもするわよね……と、娘は常々呆れている――

――以外は、やはり十数年前と変わらないデュラハンは、頬にうっすら血の気を上らせながら、伴侶に艶っぽく囁いた……が。

『娘の前でその台詞はやめい、このサキュバスもどき』

……などと、夫と娘の双方から半眼で攻め立てられたので、
唇を尖らせた彼女は、未だ見ぬ第二子に愚痴をこぼす事にした。

「う〜……お父さんとお姉ちゃんが冷たい〜……あなたはこんな風になっちゃダメよー?」

ブータレ顔で腹を撫でる母に興を惹かれたか、
娘もまた、そこに手を添え、数ヵ月後に対面するであろう妹に、そっけなくも笑って告げた。

「まあ、せめて顔と剣の腕はお母さん似、性格と料理の腕はお父さん似で生まれてよね?」

最後に、青年は、妻や娘と同じように、膨らんだ腹に触れると、

「頼むから母さんのアホさと姉ちゃんの辛辣さは見習わないでくれよ?」

と、優しく撫でさすりながら、内心でこっそりと祈った。

……もし言葉に出していたら、娘にちくちくと言葉で嬲られた後、
妻にじっくりと身体で責め立てられる事を知っていたからである。

まあ、どの道、後者の責めは避け難く。
そして彼にも、避けるつもりがまったく無かったのは、言うまでもない事であった。
10/07/06 21:06更新 / ふたばや

■作者メッセージ
剣ではなく、腰ばっかり振るデュラハンさんがいてもいいですよね?

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33