読切小説
[TOP]
いつもの日常の中にぬこが居候してきました
仕事を終えて、作るのが面倒だからコンビニ寄って今日の晩ごはんを買って‥今日のドラマ何か面白いのやってたかな?なんて考えながら家に帰って…。
安アパートの1室。ここが私の家。安月給で住める分相応の家。
上京して独り暮らしを始めて‥このドアの先には誰もいなくて暗く、寒い私の家。
家の鍵を取り出してドアノブに挿して……鍵が開いている。
今朝‥遅刻寸前で起きたけど、確かに鍵を掛けた記憶があるのに、、。
泥棒?考えると同時にすぐに結論付けて、開けて中に居たらどうしよう。警察に電話?でも‥その前に裏手に回って様子を見る。

…………。物音が1つもしない‥。玄関にまた回って中の様子を窺うように恐る恐るドアをゆっくり開けて………

家に入って、電気を付ける訳にはいかないから薄暗い部屋をゆっくり歩いて……さほど広くないからすぐに見終わるのだけど…。
誰も居ない‥。盗られた後?そんな考えが浮かんだ瞬間、居間兼寝室の真ん中で足に生暖かい何かが当たって…電気を付けたら………

ネコのコスプレをした女の子が床で堂々と寝ていた。
幸せそうな顔をして、上の部分だけの浴衣のような服を着て、足を大きく広げているから、パンツがすごいよく見える。あと‥時々、手でお腹を掻いてる。その手‥リアルなグローブだよね?
耳がたまにピコピコと動いているんだけど…あれはカチューシャだよね?でも‥作り物の耳なのに中の毛までリアルに再現してるって凄い。興味でちょっと触ってみようと指を入れた途端にその子が目がぱちくりと開けて‥目が合った。

「あ‥」
その子は指が入ってくるのを防ぐように耳を頭にくっつけると、不機嫌そうな目で私をジーっと見てる。私が起こしちゃったからかもしれないけど‥そんなに嫌そうな目で見なくてもいいと思う。それよりも大事な事を聞かなくちゃいけないと思う。
「貴女は誰?どうして家にいるの?」
「ここはアタシの家ニャ。昨日ゴシュジンサマが連れてきてくれたのニャ。覚えていないのかニャ?」
ゴシュジンサマ?私の事?昨日、私がこの子を家に連れてきた?昨日も普通に仕事してて普通に帰ってきた筈だから全く覚えがない。
「忘れてるなんて酷いニャ。アタシは昨日、ゴシュジンサマが拾ってきた猫ニャ!!」
昨日‥仕事帰りに雨が降ってきたからすぐにコンビニで傘を買って‥近くでネコの鳴き声が聞こえたからそのまま連れて帰ってきたんだっけ‥。
「思い出したかニャ!それにニャ!猫に牛乳は良くにゃいのニャ!これは犬猫の世界の常識ニャ!危うく消化不良ににゃるところだったニャ!」
「ごめんなさい‥」
私‥拾ってきたネコ(?)に怒られてるよ。それに謝ってる‥。
「そこでゴシュジンサマには責任をもってアタシを家におくニャ!」
「え?なんで?」
「拾った猫を家に入れる。これは立派に飼い猫とする証ニャ!これも犬猫の世界にゃ常識ニャ!」
「だって家、アパートだよ。猫を飼ったら大家さんに家を追い出されるから!」
「それは問題ないニャ。アタシがこうして人の姿をしていれば誰も猫とは思わないニャ」
………。拒否権もなく、強引にネコ(?)を飼うようになり……
「ところでゴシュジンサマ」
「ん‥なに?」
「お腹空いたニャ。おさかにゃが食べたいニャ」
「冷蔵庫の中にあるから勝手に食べててよ」
「冷蔵庫の中の肉とおさかにゃは食べ尽くしたニャ。冷蔵庫が開けられにゃかったから人の姿ににゃったのニャ。サンマやイワシは小さくて食べごたえがにゃいのニャ。カツオやブリ‥マグロを切り身にゃにゃくて、魚のままかじりついて食べたいニャ。だから買ってきてニャ。にゃいにゃら霜降り肉でも良いニャ」
「霜降りなら私も一度は食べたいから」
この大食いわがままネコ(?)を元いた場所に戻そうかな?って密かに思った束の間。
「ゴシュジンサマが居ない時に、おにゃかが空いたから外に出て‥人間の世界はお金がないと、にゃにも買えにゃいニャ。魚屋のオジさんは色仕掛けしても魚をただでくれにゃかったし…」
その格好で外に出たの?色仕掛けってなにしたの?
「じゃあ‥お金を渡すから買ってくる?」
「いやニャ」
………。仕事の疲れもあって買いに行く気になれないから代替え品を探して―
「ツナ缶じゃだめ?」
「少にゃいからだめニャ」
………。何でごく普通に断るかな‥。そこは遠慮しようよ。ねぇ?
「私も買いに行きたくないから‥回転寿司にでも行く?」
手と足にフサフサの毛や尻尾があっても『アクセサリーです』でつき通せばお店の中に入れる筈‥だよね…?
「お寿司!!おさかにゃ食べ放題かニャ?」
「うん。食べ放題」
「行くニャ!行くニャ!!」
目がキラキラ輝いてちょっとカワイイかも。
「その前に‥その無防備な服なんとかならないの?立っていてもパンツ見えそうだよ」
「猫の時は隠せないから、それに比べれば見えても関係にゃいにゃ!それにこの服は服はポリシーにゃ!ご飯の次に大事なものニャ!にゃから着替えにゃいニャ!!」
「わかった。わかった。はい。はい。はい」
「アタシが真面目に答えているにょに適当に返事をするのは酷いニャ!」
家に帰ってきても誰もいない生活が当たり前だったから…わがままで自分勝手で自由奔放なネコだけど‥誰かと話せて少し嬉しかった。だから‥今日はそのお礼。



「6500円のお会計になります」
1皿100円なのになんで?この子、具だけ食べて舎利は全部私が食べて‥今月は食費を切り詰めよう。
「ごちそうさまニャ〜♪おにゃかいっぱいニャ〜♪ゴシュジンサマ大好きニャ〜〜♪」
でも‥この子の笑顔が見れたから、それはそれで少し得した気分。



「嫌にゃ!!お風呂入りたくにゃいニャ!昨日だってそうニャ!シャワーを勢いよく頭に掛けられる、あの嫌な気持ちを全く解ってにゃいニャ!あの時は殺されると覚悟したくらいニャ」
嫌がるこの子を強引に捕まえようとしたら、ネコの姿になって……このネコなら見覚えがある。確かに昨日、私が連れ帰ったネコだ。うん。
違う違う。納得している場合じゃない。私から逃げるように走ってジャンプして冷蔵庫の上にあがって‥警戒した目で私を見てる。手が届かないからイスを持ってきたらもっと奥に行くし……私も下着姿で何やってるんだろ?諦めて1人でお風呂に入って‥でも2人で入ると狭いけど、お風呂でも少し話しをしたかったんだけどね‥。


お風呂から上がったら床に肉球の跡が点々と……掃除して居間に行くと人の姿に戻って私に訴えるようにジーって見てる。
「その服、洗濯したいんだけど」
「嫌ニャ。脱がにゃいニャ。脱いだら寒いニャ。風邪引くニャ」
「じゃあどうするの?」
「ずっと着てるニャ」
「じゃあベッドに入れない」
「いいニャ。ゴシュジンサマが寝たらベッドの上で寝るニャ」
強引に捕まえようとしたらさっきみたいにネコの姿になって高い所に逃げそうだから、服を洗うのを諦めてコンビニで買ってきた晩ごはんを朝食にするために冷蔵庫へ入れて……さっき全部食べたって言ってたけど‥本当に肉、魚だけが全部無い。あれで私の3〜4日分のご飯になるのに……。
「にゃにニャ?にゃにか言いたそうな顔をしてるニャ?」
言いたい事はたくさんある。もうちょっと財布に優しくなってとか‥その性格なんとかならないの?とか‥他にもいっぱい。言い出したらキリがなさそう。
「色々諦めたら、なんかどうでもよくなった」
「にゃにを諦めたニャ?」
「あんたの事」
「え゛アタシの事ってアタシを捨てるって事かニャ?そんなの嫌ニャ!ゴシュジンサマと一緒に居たいニャ!!捨てにゃいで!!野良は嫌ニャ〜〜!!」
私そんなつもりじゃないのに‥大泣きまでして‥
「いいから!居ていいから!だから泣くのを止めて!!」
「本当にここに居ていいのかニャ?」
「居ていいから」
「ご飯はいつもいっぱい食べさせてくれるかニャ?」
………。
「にゃんでそこ即答しにゃいかニャ?」
………。今日はなんか疲れた。どっと疲れた。仕事より疲れた気がする‥。ドラマを見るつもりだったけど、髪を乾かして早く寝よう。
「ゴシュジンサマどこに行くニャ?」
「これから寝るから髪を乾かして歯を磨くの。あんたは歯を磨かなくていいの?虫歯になるよ」
「猫は人と違って虫歯ににゃりにくいから大丈夫ニャ」
「あ、そ」
「でも‥ゴシュジンサマが磨いてくれるにゃら大人しく磨かれるニャ」
「なんで私が?」
「それはゴシュジンサマの義務ニャ」
義務ね。この子はこの子で凄く嬉しそうな顔をして言ってる。でも‥それはそれで私も同じだよね。なんだかんだあっても一緒に居て楽しいのかもしれない。
「にゃんだ?にゃんで綻んだ顔で見てるニャ?」
「んーーなんか妹が出来たみたいだからね」
「アタシが妹かニャ?胸の大きさでいえばゴシュジンサマの方が妹ニャ!」

┛ ┗
┓ ┏

「に゛ゃ〜〜何するニャ!!動物虐待ニャ〜〜〜」



髪が乾いた頃には、遅くなってスーパーがやってないから仕方なくコンビニに行って私のより高い歯ブラシとネコの缶詰を買ってきた。
「おかえりにゃさいませ〜〜♪♪」
「あ‥うん。ただいま」
反射的にだけど‥家で『ただいま』なんて言ったのも久しぶり。
「はい。これ。明日、私が居ない時に食べてね」
「缶詰1缶かニャ?」
「思ったんだけど‥ネコの姿なら食べる量も少なくなるんじゃないの?」
「に゛ゃ!!それは嫌ニャ!食べる時の幸せな気持ちが激減するニャ!美味しいご飯、嬉しいご飯、楽しいご飯ニャ!」
「はいはい。わかったわかった。ツナ缶も付けるから。でも、もうお店がやってる時間じゃないから明日はこれで我慢して。明日は帰りにサバとかシャケを買ってくるから」
「ゴシュジンサマが居ない時はどうするかニャ?」
「テレビとかつけて見てたら?」
「ふにゃ〜寂しいニャ」
「つれていく訳にも行かないんだから、家で待ってるの。これは飼い猫の義務よ」
………。
「ねぇ‥夜、一緒に寝てあげるからそれなら寂しくない?」
2本の尻尾を交互に激しく振ってるから返答を聞かなくても分かる。
「だ、大丈夫ニャ?」
「え?なんで?」
嬉しそうに振ってたのになんかちょっと意外‥。でも声が裏返ってるよ。
「ゴシュジンサマが眠いなら先に寝て良いニャ。猫は夜行性ニャ。にゃから暗い部屋でも普通に動けるニャ」
この子と私の歯を磨いて、目覚ましをセットして、電気を消してベッドに入ってあの子の様子が怪しかったからそのまま寝た振りをして、それから………
「ゴシュジンサマ寝てしまったかニャ?」
ん?何か言い始めた。
「恥ずかしいから面と向かって言えにゃいけど‥アタシ、ゴシュジンサマに拾われて幸せニャ。にゃからずっと居させて欲しいニャ。こんにゃアタシにゃけど‥よろしくお願いしますニャ」
私はなにも言わないで布団からゆっくり手を伸ばしてあの子を掴んだ。
「寝た振りなんてひどいニャ」
「大丈夫。私もあなたと居れて楽しいからここに居ていいよ。」
「ありがとうニャ」
身体を縦にして寝ると空いたスペースに私と背中合わせになるように入ってきて……尻尾を腰に巻き付けてきた。



「ゴシュジンサマって昨日もにゃけど‥男の匂いが全くしにゃいニャ。ゴシュジンサマは恋人とか居ないのかニャ?」


┛ ┗
┓ ┏


この子……やっぱり拾わない方がよかったかな?
12/04/12 01:16更新 / ジョワイユーズ

■作者メッセージ
「ネコマタにゃのニャ。ゴシュジンサマはすぐにアタシの事を大食い大食いってすぐ言うけど‥ちょっと考えてほしいニャ。回転寿司は1皿2貫ニャ。アタシが食べたのは具だけで、ゴシュジンサマは舎利を食べたニャ。にゃから会計金額から考えると130貫分の舎利を食べたのニャ。この量は十分大食いににゃるニャ。にゃからアタシの事を大食いと言うにょは変ニャ!その内おにゃかがプニプニに………に゛ゃ〜〜〜にゃにするにゃ〜〜〜」

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33