連載小説
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天国の狂犬 (前編)
 一つの完璧な物を作り上げようと、人はそれを作ることにただひたすら没頭する。
 だがしかし、彼らは「作り上げる」ことしか考えていない。
 その為、最初は作り上げた物の極上の出来具合に大いに喜んでいるが、後々になって出てくる致命的な欠陥に大いに嘆くのだ。

 〜魔物娘調査機関 副最高責任者 ザグロ・グレンウォル〜

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 ある反魔物国で、恐るべき計画が立てられていた。

 「司祭様!?それは本気でございますか!?」
 「あぁ、本気だ。」

 とある教団国ににある教団本部の指令室。驚愕している小太りの部下の態度を、豪華な椅子に座っているスキンヘッドの男、司祭は冷淡にあしらう。

 「恐れながら、その研究はとても危険すぎると思います!もう一度、考え直してください!」 
 「お前の態度はよく分かる。だが、我が国は常に隣にある親魔物国の脅威にさらされている。幾度も撃退してきている奴等だが、回数を追うごとにその勢力の規模は増している。その為には、奴等を上回る戦力を確保しなければならない。」
 
 司祭は本当に申し訳なさそうな態度で机に両肘をつき、手で顎の半分を隠す。

 「君を呼ぶ一時間前、電報が入った。魔物軍がここへと進撃を進めていて、移動速度からして一週間でここに到達するという知らせだ。この事態は一刻も争う事態であり、速やかに事を実行する必要がある。」

 パチンと指を鳴らし、司祭は映像用の水晶を召喚する。
 そこに映し出されていたのは、この国に向けて進軍する魔物軍だ。
 オーガやヘルハウンド、デュラハンといった血気盛んな兵士が一心不乱に歩みを進めている。
 その後ろでは、黒い毛並みの馬に跨った部隊の大将とおぼしき鎧を着たヴァンパイアが居る。

 「心優しい君にはさぞかし辛いだろうが、どうか理解して欲しい。」
 「左様でございますか…かしこまりました。その指令、承りましょう。」

 司祭の部下は深々と頭を下げ、指令室を後にした。

 「すまない…許しておくれ…」

 拳を握りしめ、涙を流しながら、司祭の部下、コブットリ助祭は任務を実行するべく、ある場所へと向かう。

 「……。」

 コブットリ助祭は教団本部から出ると、門を出て左側の道を歩く。
 その足取りは重々しく、できるだけ足を進めるのを遅めたいという心境が現れていた。

 「すまない…本当にすまない…」

 目的地へと近づくにつれ、コブットリ助祭の罪悪感は募っていく。
 握る拳も固くなり、目から出る涙の量も多くなる。

 「……入るぞ。」

 彼が着いたのはこの国で一番大きな農場、ホッカ農場であった。
 犬と人が笑顔でトウモロコシを分け合って笑い合っている構図のサビついた看板が悲壮感を漂わせている。
 この農場は、国民の食糧を生産するだけではなく、それとは別のもう一つの役割がある。

 「……。」

 コブットリ助祭は牧場の中心にある館の呼び鈴を鳴らす。
 ボロボロになった銀色の鈴が、か細い音色を立てる。

 「はい。どちら様でしょうか…助祭様!?」

 中から出てきたのは、質素な衣服を着た少年だ。
 彼はこの牧場主、ホッカ・ラクノー。
 両親は幼い頃に病死してしまい、たった一桁台の年齢でこの牧場を継ぐこととなってしまった。
 幸い、国の援助と良心のある農業大臣の助言によって経営は安定している。
 しかし、今、度重なる魔物の襲撃により国の予算の大半が軍事費に割かれてしまい、この農場の経営は悪化していた。

 「さぁ、上がってください。」
 「すまないね。」

 コブットリ助祭は一礼した後、ラクノーの屋敷へと上がる。
 ラクノーはコブットリ助祭を椅子へと案内する。

 「ラクノー君。実は、君に話さなければならないことがある。」

 コブットリ助祭は一呼吸して心の準備を整えると、冷静な口調で話す。

 「実はキミの…だが、…に利用する計画が立てられているんだ。」
 「えぇっ!?」
 
 ラクノーは計画の内容を聞き、愕然とした。

 「なんとしてでも…達だけは!…達だけは…にさせたくないんです!お願いします!」
 「ああ、…達は君の…だからな…。」

 自分の不甲斐なさを詫びるのに、コブットリ助祭は何度も頭を下げる。

 「そうなんです!…達は僕の大切な…です!お世話になった司祭様や貴方でも渡したくありません!」
 「キミの気持ちは分かる。しかし残念だが、これはもう決まってしまったこと。私も君の為を思い、懸命に反対したのだが、どうしようもなかった。本当にすまない……」

 必死に懇願するラクノーだったが、コブットリ助祭の意志の強さに折れ、彼の話に同意した。

 「分かりました…」
 「本当に…すまないね。せめてもの労いとして、…した…達は大切にするよ。」
 「はい…」
 「…達を連れて行く時間は、明日の朝だ。それまでに…達は精いっぱい可愛がってあげると良い。以上で話は終わりだ。それでは、失礼させてもらう。」
 
 コブットリ助祭は重々しく立ち上がり、出口へと歩みを進めると、ラクノーの方を振り返り、深く礼をして外へ出た。

 「……ぐずっ、ひっく、うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 助祭を見送ったラクノーは、それまで堪えていた感情をさらけ出した。
 自分達を慕ってくれている国民や、司祭やコブットリ助祭といった教会の人間、貴族や王族にすら見せた事の無い年相当の泣き顔をさらけ出して泣いていた。
 
 「すまない…ラクノー君…本当に…すまない…」

 ラクノーの様子が気がかりで、一旦戻って窓の隙間から中を見ていたコブットリ助祭は悲しみに暮れる彼の姿を見て感傷に浸っていた後、気を取り直して、教会へと足を進めるのであった。 

 「えっぐ、うぅぅぅ……こんな時こそ、泣いている場合じゃないな。最後になる皆のお世話をしなくっちゃ。」

 泣くだけ泣いて気が済むと、ラクノーは台所へ向かうと大きな鍋に調味料や野菜を入れてかき混ぜる。
 しばらくして、美味しそうな匂いのスープが出来上がると、調理器具を片付け、スープが入った鍋を持ち、台所の近くにある裏口から屋敷の外へ出る。
 そして、屋敷の隣に見えるとてつもなく大きな小屋へと入って行った。

 「……みんなー、ご飯だよー!」

 ラクノーが小屋の中へと呼びかけると、中から大量の何かが駆け寄って来る音がしてくる。

 「ごはんっ♪ごはんっ♪」
 「わーい!」
 「やったー!」
 「おなかすいたー!」

 小屋の中から出てきたのは皿を持った大人数のコボルドだ。軽く100人近くは居るだろう。
 そう、ラクノーが別れに悲しんでいたのは彼女らだったのだ。
 この国の教会は、魔物に対抗する手段をいくつも考えていたが、その手段はいずれも攻略されてしまい、手の打ちようが無くなっていた。
 教会は何としてでも魔物に対抗するべく、国の会議を開き知恵を振り絞っていたのだが、ある一つの事に気が付く。
 「人間の戦闘力には限界がある」と。
 最初は機械の兵隊を作って戦わせようという案が上がったが、予算と技術力が足りず断念せざるを得なかった。
 そこで、ある一人の人間、司祭がある案を提案する。

 「こちらも魔物の兵力を保持しよう」

 前代未聞の内容に会議では、司祭以外の者全てが動揺していたが、結局「ホッカ農場で働くコボルドを魔法で改造し、戦闘可能な兵隊にする」という作戦の詳細な内容を聞くとしばらく考えた後、その作戦を実行に移す決断を下したのだ。
 彼女らは農業国であるこの国のマスコット兼労働力であるため、国民からは非難されるリスクがあるが、戦局と国政が悪化しつつある為やむを得なかった。
 コボルドを改造する内容はというと、彼女らに聖なる魔力を注ぎ込んで魔物と戦う聖獣へとパワーアップさせるというもので、注ぎ込まれる魔力の負荷に耐え切れず人格の消失や死んでしまう個体も出てくるかもしれないという危険性がある。

 「さぁ、今日はみんなの大好きな野菜スープだよ。毎日頑張ってくれているご褒美として、お肉も入れたからね。」

 ラクノーは持ってきた鍋とお玉でそれぞれのコボルドたちの皿にスープを注いでいく。
 
 「ラクノーおにいちゃん!ありがとう!」
 「いただきまーす!」
 「ごっきゅ、ごっきゅ、おいしいー!」
 「おにくだいすき!ぶたさんありがとう!」

 コボルド達は無邪気な笑い声と感謝の声を上げてスープを飲み干していく。

 「(みんな、いつもいつも、ありがとう…僕が生まれてから、パパとママが死んじゃった後も…お世話してくれて…ありがとう…今まで…ありがとう…)」
 「あっ。」
 「えっ?」
 「ラクノーおにいちゃん、なんでないてるの?」

 これまでのことを思い起こしていると、気が付かずに涙が出ていたことにラクノーは気づく。

 「あははは…えっと…これはね…」
 「だいじょうぶだよ。こまったことがあったり、つらいかったりしても、わたしたちがついているよ。」
 「そうだよ!もっとわたしたちのことたよっていいんだよ!」
 「……みんな。」 

 コボルドたちは一人、また一人と笑顔になり、ラクノーを励ましていく。
 皮肉にも、それがラクノーの心の悲しみを生み出していることも知らずに。

 「ありがとう…みんな…、そうだ。言い忘れていたけど、野菜スープはまだまだあるよ。おかわりして欲しかったら、僕の所に来てね。」

 また泣き出しそうになるのを堪え、ラクノーは袖で涙を拭きとった。
 今度こそ、彼女との別れの覚悟を決めたようだ。
 
 「うん!それじゃ、おかわりー!」
 「わたしもー!」
 「あたちもー!」
 「ぼくもー!」
 「こらこら、ちゃんと並んでってば。」

 ラクノーとコボルド達が過ごす時間が減っていくのを示唆するかのように、野菜スープはみるみるうちに減り、ついに最後の一人の分を注いだ時に無くなってしまった。

 「あー!おいしかったー!」
 「またたべたいな〜」
 「ごちそうさまでした!」

 コボルド達はスープに対する満足感やラクノーに対する感謝を伝え、わらの床へと戻っていく。
 
 「明日は、楽しい場所へと行くからね。」
 「たのしいばしょー?」
 「どこー?」
 「それは秘密。もう遅いから早く寝るんだよ。おやすみ。」
 「はーい。おやすみなさーい。」

 電気が消され、コボルドたちは藁の床へと戻っていく。
 最後の一匹が戻るのをラクノーは見送ると、扉を閉め小屋を後にする。
 こうして、ラクノーとコボルド達が共に暮らす時間は終わり、時は刻一刻と過ぎてゆく。
 そしてついに、運命の朝を迎えた……

                        (後半へ続く)

 
 


20/07/17 00:13更新 / 消毒マンドリル
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■作者メッセージ
ここまでシリアスが続いたが、今度はそれらをひっくり返すぶっとびギャグをブチこむ予定だ!お楽しみに!

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