連載小説
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悪への導き
「へえ。あの姫様意外といい人じゃない。…性格は悪いけどね」
 ベルはものすごく忌々しそォに言った。目の前であンなことされたからだろォな。
「確かにかなりひねくれてますね」
「まるでお兄ちゃんみたい」
 デビーとクリスがオレを見ながらしみじみと言った。
「ひねくれ方は違うがな。オレは勝手にひねくれたが、あいつはまわりが曲がってる中でまっすぐ育とうとした結果、周りとは違った曲がり方をしたって感じだろォよ。あいつ根は素直みてェだったからな」
「どこが素直なのよ。あの姫様親や教育係の言うことに反発してたって言ってたじゃない」
 ベルは信じられネェと言う顔で言った。
「確かにあいつはそォ言う意味では素直じゃネェよ。だが自分が納得いかネェと思ったことに答えを見つけよォとするって言うのもある意味素直って言えるだろ?」
 オレの言葉にベルは難しい顔をした。
「うーん。確かにそう考えると素直って言えるかもしれないわね。ひねくれてるのは確かだけど」
 まァそォいうのは人の見方次第だからな。納得できネェのもムリネェだろォさ。

「それにしても悪逆勇者ねえ。なんかこっちの方があんたにはしっくりくるかもしれないわね。…ちょっと言いにくいけど」
 ベルがそォ言うとデビーとクリスもうなずいた。どォやら気に入ったみてェだな。
「ハインケル殿にはピッタリですね。あまりきれいじゃないですけど」
「お兄ちゃんらしくていいよ。舌噛みそうだけど」
 確かにゴロはあまりよくネェな。オレには合ってると思うがな。
「別にきれいな響きなンて必要ネェよ。どォせ悪名しか立たネェンだからよ」
 オレの言葉に全員苦笑した。そりゃ裏切り者の勇者がどォ呼ばれるかくれェ誰だって想像できるだろォさ。

 次の日いつも通り訓練をしたオレは教団の図書室に向かった。丁度一昨日借りた兵法書を読み終わったから新しい本を探しに来たンだよ。
『もう読み終わったんだ。マスター読むの早いね』
 シンカがそンなことを言ってきた。
「今は少しでも多く知識を吸収しておきてェからな。来るべき時のためによ」
 オレたちはそンなことを話しながら図書室に入った。そして借りた本を返してから戦術とかの本を探しに行った。
「とりあえずもォ少し基礎を見てみるか」
 オレはとりあえず本棚を探してみた。
「へェ。よく見たら違う国のも結構あるンだな。反魔物領の最前線だから一杯入ってきてンのか」
 しばらく見てから適当なのを選ンで読ンでみた。
『ふーん。色んな策があるンだね。こんなの覚えきれるの?』
 シンカがめんどくさそォに言った。
「覚えるのにつまづいてちゃ話にならネェよ。本当に大変なのはどォ使いこなすかと、味方に策を理解させるかだゼ」
『うわめんどくさ。私聖剣でよかったよ』
 そりゃ話したり振り回されたりするだけだから楽だろォな。あまり考えネェでいいしよ。
『失礼な。私だってちゃんと考えてるもん。どうやったら敵を多く葬れるかとかさ』
 お前それでも聖剣かよ。まァ今さらだけどな。

「やはりここにいたか…」
 声がした方を向くと沈ンだ顔をしたアメラとセレネがいた。
「ああアメラ殿にセレネ殿。何か用ですか?」
 オレが聞くとセレネは一瞬ためらった後口を開いた。
「実は貴公に話さなければならないことがあるのだが」
 オレはとりあえず辺りを見た。思った通りかなり注目集めてやがる。そりゃ勇者と双日、双月の双子騎士が集まってたら目立つだろォゼ。前は偶然人がいなくてよかったよ。
「場所を移しましょう。どこか人が来ない所はありませんか」
『もうやっちゃうの?まだ2回しか会ってないのに大胆だねマスター』
 シンカが楽しそォに言った。
「こいつの言うことはスルーして下さい。聞くだけムダですので」
 顔を赤くしていたアメラとセレネはそれを聞いて複雑そォな顔をする。…いや、まさかな。単に免疫がネェだけだろ。
「ひ、人が来ない所か。それならいい場所を知ってるぞ」
「つ、ついてこい」
 オレは読んでた本を借りてからアメラとセレネの後を追った。

 アメラとセレネが連れてきたのは教会の裏庭だった。
「…昨日勇者パーティーを迎えに行った騎士に魔物の襲撃の真相を聞いてみたんだ」
 セレナが何かをこらえるよォに言った。
「そうですか。それでその騎士は何て言ってたんです?」
 まァ大体予想はつくがな。
「ああ、上機嫌でベラベラ話してくれたさ!村を滅ぼしたことも、仲間がやられたのは自警団のせいだってことも全部な!」
 アメラはそォ言って壁を殴りつけると、壁の表面が溶け出した。すげェな太陽神の加護。

「…貴公はどうするのだ?本当の敵が教団だと知ってなお教団に従うと言うのか?」
 セレネはどこか迷ってるよォに言った。
「…勇者は反魔物領の人々の期待を一身に背負ってます。当然教団に従わないといけないでしょうね。個人的な理由で裏切るわけにはいけませんから」
 オレの言葉にアメラとセレネはうつむいた。
「−−−だがオレは悪逆勇者だ。反魔物領のやつらの希望を踏みにじるのなンざ当然だし、裏切るも何もハナからクソッタレな教団なんかに従う気なンざこれっぽちもネェよ」
 オレの言葉にアメラとセレネは目を見開いた。
「悪逆勇者…。それが貴公の本性か」
 セレネが呆れたよォな目でオレを見てきた。
「…だったらなぜ教団を出ていかないのだ?」
 アメラはわけがわからネェと言う目で見てきた。
「そンなの今裏切っても勝てネェからに決まってンじゃネェか。それに自分で敵を育てちまったって思わせた方がショックを与えられるだろ」
 オレの言葉にアメラとセレネはあきれ果てた顔をした。

「それを私たちに話してしまってよいのか?」
「上に報告するかもしれないぞ」
 アメラとセレネは何かを押さえ込むよォに言った。
「あンたたちはそォ言うことはしネェだろ。それにもしバラすならオレが何か勘付いてるって上に報告してたはずだ。そォしなかったのはあンたたちに迷いがあるからだろ」
 2人とも大きく目を見開いた。どォやら図星みてェだな。
「教会の腐ったやり方に従うのは自分の信念を裏切ることfs。でも仲間を裏切りたくネェ。そンな感情で板ばさみになってンだろ」
 オレの言葉に2人は顔をうつむけた。

「…私たちはどうすればいいんだ?」
 それを普通敵に聞くか?どォやらかなり切羽詰ってるみてェだな。
「簡単だ。オレたちと組めばいい」
 オレがそォ言うとアメラはオレをにらみつけた。
「ふざけるな!無力な民を傷つけることになど協力できるか!!」
 やっぱりまっすぐだな。少し足りてネェけど。
「元から無関係な市民を巻き込むつもりはネェよ。魔物が人を食べるなンつーことがネェのはよく知ってるはずだ。それに教団と王国の方がよっぽど無力な人々を傷つけてるだろ。魔物が人を食べるなンて言うデタラメを広めて人々の恐怖をあおって寄付金をふんだくる教団。エロいだけで害がネェ魔物に一方的に攻撃をしかけると言う名目で高い税金をかけて、本来必要ネェ軍事費や私腹を肥やすためにムダに金を消費する王国。そンなモンぶっ壊しちまった方がよっぽど民のためだろ」
 アメラはそれを聞いて何も言えなくなったのか黙り込ンだ。
「だがそれだと仲間を裏切ることに」
「どォせいずれ快楽に溺れンだから同じことだ。大体仲間が道を間違えたンなら止めてやれよ。あんたたちは仲間がクソ主神への信仰で狂っていくのを黙って見てるつもりなのか?」
 セレネも何も言えネェのかうつむいた。

「信仰にとらわれた仲間の魂を救えるのはあンたたちだけだ。教団にいながら主神を嫌ってるあンたたちにしかできネェンだよ」
 オレは2人に両手を差し出した。
「このまま誰かを傷付けることしかできネェ正義を貫くか、それとも誰かを救える悪に寝返るか。好きなほ方を選ぶンだな」
 2人は目を見合わせて、アメラはオレの右手を、セレネはオレの左手をとった。
「「これからよろしく頼む。…悪逆勇者」」
 そォ言う2人はどこか吹っ切れた顔をしていた。
「あァ。よろしく」
 そォ言うオレの顔には悪どい笑みが浮かンでただろォさ。

           つづく
11/05/04 22:31更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
少しあっさりしすぎてたかもしれません。次はもっと話を進められたらいいと思います。

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