連載小説
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Wake Up Girl! ― 脱出 ―
ヒュンヒュン・・・・

水素を燃料とする電気駆動式の推進装置が鳴らすプロペラ音を響かせながら、次元間連絡飛行船「フライング・プッシー・ドラゴン」号は外地の空を行く。

「ねーたん!あれはなんなの?」

年若いハーピーが白い巨体を見ながら、傍らの顔つきの良く似たハーピーに声を掛ける。

「あれは門の向こうの国から来たお船だよ」

「え〜〜?お船って海にぷかぷか浮かんでるものだよ!そんなのが空を飛ぶ訳ないよ!!」

「そうね・・・。でも門の向こうの国じゃ、馬の要らない鉄の馬車や遠くの人と話ができる板とかあるから、不思議な事じゃないわ」

「なにそれすごい。決めた!あたい、絶対に門の向こうの国に行く!」

「あらあら。それはすごいわね」

ヒュウォォォォォォォ!!!

「きゃっ!」

何かが通り過ぎ、彼女達が止まり木にしていた大木から落ちそうになった妹を姉のハーピーが捕まえる。

「門の向こうの国に行くにはちゃんと飛べるようになってからね」

「うん!」

二人の眼前には三頭のワイバーンが編隊を組んで飛行船を追うように飛んでいた。


― フライング・プッシー・ドラゴン号、メインラウンジ ―

「ねぇねぇ、これ見てよ!」

飛行船に乗船して以来、妻の「若葉」は事前に京香からもらったドラゴニアのガイドブックに夢中だ。
無理もない。外地への旅行は憧れの旅行先の一つだ。特に今回二度目のハネムーン先である「竜皇国ドラゴニア」は多種多様な竜種が住んでいて、それこそドラ〇ンクエストやファイナル〇ァンタジーなどをやり込んだRPG世代からすれば夢の場所であり、適正があれば彼女達に跨れる竜騎士になることもできるとあれば猶更だ。無論、伴侶のいない独身者のみの人気ではない。ドラゴンステーキやパムムなど他では見られない独自の食文化が味わえるとあれば既婚者でも行きたいと望むだろう。故に法人用の乗船券ならいざ知らず、一般販売でドラゴニア行きの乗船券はなかなか手に入らないのだ。どうやって手に入れたのかわからないが、これには彰も京香に頭が上がらない。

〜 みんなにもお土産を買ってこなきゃな 〜

若葉はちゃっかりと船内で自分用に土産を購入していた。
彰が若葉の手にある白い買い物袋を見る。中には幼児化薬を飲みやすい飴状にしたものが入っている。・・・彰は若葉に敢て使用目的は聞かなかった。

〜 今夜は大変そうだ・・・ 〜

彰がそう思っていた時だ。

― こちら本船の船長をしております、本田皓造と申します。本船はあと一時間で目的地ドラゴニアに到着致します。今回、ドラゴニア竜騎士団からの申し出でちょっとしたサプライズがあります。皆様、メインラウンジへお集りください ―

「ドラゴニア竜騎士団?」

「ああ、ドラゴニアは昔は軍事国家だったらしくて、今でも竜騎士団が残っているんだよ」

「竜騎士っていうには人が竜に乗ってるの?なんだか凄そう・・・」

「そういう人もいるけど、独り身の人も多いって話を前にクーラがしていたよ」

「へ〜。クーラが・・・・。もしかしてクーラってワイバーンだし、元ドラゴニアの軍人だったりして」

「かもしれないな。実際、僕もクーラの事をあんまり知らないんだ」

若葉と彰がペイパームーンに通うようになった時から、ワイバーンのクーラは店員として働いていた。彼女はあまり自分の過去は言わないし、二人もクーラにわざわざそれを尋ねることはしない。彼女にも事情があるのだろう、二人はこの関係を壊すことは望んでいなかった。

ガクン!

微かに聞こえていたプロペラ音が止まると同時にフライング・プッシー・ドラゴン号がゆっくりと下降を始める。

― お客様、ご心配ありません。当船はサプライズの為に一時運行を止め下降しております。ラウンジ前部搬入口をご覧ください ―

プシュ!プシュウゥゥゥ!

トラック一台が悠々通れるほどの大きさがあるラウンジの前部搬入口がゆっくりと開くと、扉の向こうに青い空が見えた。その眼下の蒼天に黒い三つの点が見えてくる。その点は段々と大きくなり、そして・・・。

ヒュン!ヒュォォォ!!ドュン!!

黒い何かが搬入口を潜り抜けた。巻き起こされた風にラウンジに集まった客が思わずかがんむ。

〜 お、おい!あれ!!あれ見てみろよ!! 〜

乗客の誰かが叫んだ。

〜 キャァァァァ!ド、ドラゴンよ!!! 〜

そこそこの高さと広さのあるラウンジの天井近く、竜化した三頭のワイバーンがホバリングしていた。それぞれ、桃色の髪や紫色の髪、銀のチョーカーなど違った装いをしている。

「お客人!驚かせて申し訳ない。少々お待ちいただきたい!!後、我々はドラゴンではなくワイバーンだ」

若い女性の声が茜色のチョーカーをしたワイバーンから放たれる。そして三頭のワイバーンが光に包まれていき、その光の中で身体が縮みゆっくりとラウンジに降り立った。

〜 すげぇ・・・・人間になった 〜

人間体をとった三頭のワイバーンの中から紫色の髪をした女性が前に出る。

「ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊隊長代理のジギー・カスケード少佐だ。こちらは部下のタロン・クロフォード大尉と・・・」

「竜騎士団のアイドル!ドラちゃんだよぉ!!よろしくぅ〜〜〜!!!」

「・・・・部下のドーラ・シェフィールド中尉だ」

部下のドーラが「門の向こうの国」から持ち込まれた「ラ〇ライブ」や「アイ〇ス」、「艦〇れ」といったサブカルチャーにハマって以来、ジギーは彼女の奇行に頭を抱えていた。それでいて軍人としては有能であり、彼女の言うアイドル活動は「本業」をないがしろにしているわけでもない以上、ジギーも彼女に強く言うことは出来なかった。しかしながら今回は失敗は許されない。「パッケージ」の確保、その為に仕組まれた「サプライズ」なのだから。

「我が祖国、ドラゴニアは諸君も知っている通り我々ワイバーンを始め、様々な竜種の魔物が住んでいる。特に、伴侶の背に乗り祖国を守る竜騎士は我ら軍人の誉れであり誇りである」

〜 おいおい、乗るって・・・・まさかあの娘達に乗るのか? 〜

メインラウンジに集まる乗客にざわめきが起こる。

「我らワイバーンやドラゴンは誰でも背中を許すわけではない。真に心の通じ合った相棒が必要になる」

ジギーが乗客を見渡す。

「もしかしたらここに集まる諸君の中に我々の仲間となる者がいるかもしれない。我が国では体験入隊コースもある。体験入隊するなら無料で宿舎に泊まることも食事をとることもできる。無論、訓練を通して気の合った隊員と一緒に空き時間でドラゴニアを観光することも許されている。我こそはと思う者はドラゴニア竜騎士団本部に来てくれ!隊員総出で歓迎するぞ」

タロンと呼ばれた銀のチョーカーをしたワイバーンが爪先を器用に操り、乗客たちにチラシを配る。

「一枚どうぞ」

彰がタロンから渡されたチラシを見る。


― 祖国の空を守るのは諸君だ! ―

ドラゴニアの国旗を背に白金の仰々しい鎧を着たドラゴンの女性が一昔前の自衛〇のポスターよろしく、勇ましく右手を掲げていた。凛々しくまさに竜の騎士という威容、・・・・ポスターの左端に「竜騎士団団長アルトイーリス、恋人募集中」と書かれていなければだが。


「では堅苦しい話はそこまでにして、隊員であるドーラの歌を楽しんで欲しい」

飛行船のクルー達が機器を設置していく。

「みんな〜!短い時間だけど楽しんでいってね!!曲は恋の対人爆雷!!」

ダンスや歌唱力は申し分ないが、しかし鎧姿のドーラがアイドルテンプレな曲を歌うのはシュールを極めていた。もっとも、そのアンバランスさが妙な魅力となってついつい彼女を見てしまう。狙ってやっているのか、それとも天然なのか。彰が周りを見るとそれなりに客もこのサプライズに満足しているようだ。

ギュッ!

「痛ッ!」

「何よ彰くん!アイドルかぶれのワイバーンに鼻を伸ばして!!」


・・・・・彼の伴侶である「若葉」以外は。


「いきなり抓るなんて、痛いよ若葉・・・」

「隣にこんな可愛いお嫁さんがいるのに、他のコを真剣に見ているからよ!」

「そんなことないって」

「ふ〜〜〜ん?信じられないな〜〜〜」

「わかったよ・・・」

彰は若葉の腰に手を回すと彼女にキスをした。

「僕には君だけだよ若葉」

「もう彰くんったら・・・。今夜は寝かしてあげないぞぉ〜〜?」

若葉もれっきとしたホルスタウロスであり魔物娘だ。それなりに独占欲というものがある。

「さて、あともう少しでドラゴニアだし、レストランで何か食べないか?」

「なら私は期間限定のチョコレーホーンパフェが気になるな〜〜?」

「分かったよ。でも、食べきれるのかい?」

「女の子は甘いものは別腹なの!」

「ははっ。じゃあ行こうか」

若葉と彰がメインラウンジからレストランへと向かう時、船内ではもう一つ事件が起こっていた。



― フライング・プッシー・ドラゴン号 貴賓室 ―

一級の調度品に囲まれていた貴賓室はまるで暴風が吹き荒れたかのような惨状を呈していた。倒れ伏す三人の男達。武器を誰も手にしていないことから、不意打ちを喰らったと容易に推測できる。

「まず捕虜を捕まえたなら、いの一番に裸にすんのは軍学校じゃ基本だぜ?アタシの通っていた軍学校じゃ、ブーツも武器の一つってことになってんだけどな」

この惨状の元凶たるワイバーンのクーラが手にした捕虜に語り掛ける。
拘束服から抜け出したクーラは拉致した相手が様子を見に来るのを辛抱強く待っていた。そして、何も知らない拉致犯が様子を見るために棺桶を開けた瞬間に魔界銀製の鋲が打ってあるコマンドブーツの一撃で倒したのだ。

「し、知らないわよ!!」

「まあいいさ。お前たちがプロであっても軍人じゃないことはわかったしな。で、だ」

クーラが翼の端で壁に押し付けているフェアリーのキッカを見る。

「アタシを連れてこいって言った相手は誰なんだ?素直に教えるなら、アタシは此処を出ていく。だが・・・・」

キッカの鼻先に爪を突きつける。

「アタシもガキの泣き喚く声なんて聞く趣味はないが・・・・・。わかるな?」

伴侶が抵抗もできないままに倒された現況を見れば彼女に従うのが正しいと、フェアリーである彼女とて理解できた。

「あまり私も詳しいことはわからないよ・・・・。アルト何とかという人からドラゴニアに連れて来いって・・・・」

「竜騎士団団長のアルトイーリスか・・・。ってことはココは飛行船の中か!」

日本からドラゴニアまで三時間ほどだ。もう、とっくにドラゴニアについていておかしくない。

「えい!」

クーラは爪先で器用にキッカにデコピンを喰らわすと貴賓室を出る。後に残されたのはクーラのデコピンを喰らって目を回すフェアリーと倒れ伏す毒猿、毒虫、毒茸だけだった。


「ふ〜〜〜喰った喰った。パムムってケバブみたいだけど結構ボリュームがあったね」

飛行船内のレストラン、「ラブライド」。ドラゴニアで展開するレストランチェーンで、比較的安い料金で正にドラゴンサイズといえる料理を提供することから、ガイドブックにも必ず寄るように書いてあるくらいだ。もっとも、小さく「ドラゴンステーキを頼む際にドラゴンを食べさせてくれ!」と言わないようにと注意書きがされていたが・・・。

「うん!それにチョコレーホーンパフェも最高だった!!あれならもう一個食べれるよ!!」

基本的にドラゴンは大食漢だ。故に、必然的にその食事量も多くなる。ただの大盛りではない。魔物の中でも高い知性を誇る竜種だ。盛り付け一つとっても下品にならないよう、細心の注意を払って盛り付けられている。ガイドブックにも、「盛り師」と呼ばれる専門の役職が各ラブライドに設けられていると書かれていた。
今、彼らは食後の運動代わりにこうして飛行船内を散策していた。壁にはドラゴニアの歴史や風俗がパネルにまとめられており、廊下の窓からは草原を走るケンタウロスやのんびりと昼寝しているワーシープなどが眼下に見える。

「こうして見ると、私達別世界に来たってわかるね」

「そうだな。外地には日本から様々なインフラが輸入されているけど、やっぱり外地は別世界だよ若葉」

インターネットに代表される高速通信網の発達が「旅」から神秘的な装いを剥ぎ取った。VR技術の発展で、そこに行かなくとも世界の名所を短時間で巡ることさえ可能だ。おまけに深海や宇宙空間まで体験することもできる。だが、「外地」は違う。
空気中には化石燃料が出す煤や汚染物質は含まれておらず、原初の自然がどんなものであったかを身体全体で楽しむことができる。特に、ボローヴェに代表される明緑魔界ではそれが顕著だ。彰も仕事で足を運んだことがあるが、長閑で優しく何度だって訪れたくなってしまう。

〜 今じゃない、もっと先だけど若葉と一緒に「外地」に移住してもいいかもしれないな・・・・ 〜

彰がそう思っていた時だ。

「キャッ!!」

「若葉!!」

〜 油断した! 〜

彰が目を離した隙に何者かが若葉の手を引き脇道に引きずり込んだ。彰が素早く指輪をナックルダスターに変形させて拳に装着する。
彰が脇道に飛び込み、若葉を掴む相手に殴りかかった。

「駄目よ!彰くん!!」

「へ?」

妻の若葉を掴んでいたのは彼らが最も知る人物の一人だった。

「ク、クーラ!何でこんなところに!!」



― フライング・プッシー・ドラゴン号 一等船室 ―

数時間のフライトといっても、魔物娘も多くこの飛行船を利用している。未婚の魔物と独身の人間が出会ったらヤることは一つだ。そんな「目的」でトイレを占拠されてはたまったものじゃない。その為、多少グレードの違いはあるが乗客にはそれぞれ船室があてがわれている。

「・・・・・事情を話してくれないかクーラ」

「ああ」

言葉少なく彼女は答えた。そこに明るく陽気ないつものクーラの姿はない。

「アタシは・・・その、ドラゴニア竜騎士団に所属してたんだが・・・・」

クーラが口ごもる。

「ちょっと下手うっちまって・・・・軍を脱走したんだ」

組織としての規律を重んじる軍において脱走は重罪だ。それはドラゴニア竜騎士団とて同じ。流石に銃殺はないだろうが、それでもある程度の極刑は免れないだろう。

「どうやら古巣の奴らがアタシが門の向こうにいるのを知ったらしい。不意打ちでアタシは拉致されてこの飛行船に乗せられていたんだ。なんとか逃げていた時に、若葉の姿が目に入って・・・・」

バツが悪そうにクーラが目を伏せる。
フライトスケジュールに無かったドラゴニア竜騎士団のサプライズ。恐らくは飛行船内でクーラを確保するのが目的だろう。

「クーラ・・・・」

彼女のような人物が軍を脱走してしまうような事件。彰も若葉もクーラが何の理由もなく逃げる様な人物ではないことを知っている。だからこそ・・・・。

「今、船内には武装したドラゴニア竜騎士団がいる。クーラ、僕らに出来ることがあれば・・・・力になるよ」


ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊隊長代理であるジギー・カスケードは焦っていた。
サプライズを装って飛行船に乗り込み、「パッケージ」を確保する。単純で失敗しようのない計画だ。だが、あのヘボ共は詰めが甘かった。クーラのコマンドブーツに気が付かずまんまと逆襲されてしまったのだ。
もうこうなればなり振りかまっていられない。

「タロン!A区画はどうだった?」

「臨検に異常はなかったよ。ドーラにも手伝ってもらったらどう?」

「ドーラにはこの事態をごまかすためにも、もう少し道化を演じてもらわなければな」

「じゃあ、あとはC区画か・・・」

「保安員からの連絡によると三組の乗客が船室にいるようだ。しらみつぶしに探すぞ」



コンコン!

「こちら船内保安官のダリオと申します。若葉様、斎藤様、臨検にご協力して頂けませんでしょうか?」

保安官である、ダンピールの女性が最後に残った船室のドアをノックする。船室からの返事はない。

「・・・・・」

ジギーはハンドサインでダリオにマスターキーでドアを開くように指示する。

「ドラゴニア竜騎士団のジギー・カスケード少佐だ!!動くな!!」

ジギーが目にしたもの。それは・・・・・。


「はぁぁん!!彰くんちゅきぃーーー!もっとちょうらいーーーー!!」


ベッドの上で情事に耽る二人の姿だった。

「・・・・邪魔をした済まない」

そう言うと静かにドアを閉めた。

「・・・・・行った?」

「うん。大丈夫みたいだよ。クーラも早く出て・・・・ゲッ!」

若葉が身を起こすと、若葉の巨乳と彰の胸板に挟まれクーラが白目を剥いていた。その体躯は幼稚園児ほどまで縮んでいる。
飛行船に逃げ場はない。わざわざ竜騎士団が乗り込んでいるのだ。クーラが逃げ出したと判明すればガサ入れを始めるだろうことは彰とて理解できる。

クローゼット? 

シャワールーム? 

どれもクーラが身を隠すには不向きだ。直ぐに見つかってしまうだろう。そこで彼らはクーラに若葉が売店で購入した「幼児化薬」を服用させた。一つ飲めば十年若返る代物で、それを服用させることでクーラを幼児化させたのだ。臨検に竜騎士団が乗り込んできても、こうして若葉と彰でクーラを挟み、ベットに潜り込んで適当に喘ぎ声を出せば竜騎士団の連中でもベットの中を暴くことはないだろう。・・・・クーラが若葉の「乳圧」で酸欠に陥るとは二人とも想定外だったが。

「川の向こう側で昔ウチで飼ってた魔界豚のピグ吉がブヒブヒ言ってたぜ・・・・」

解除剤を服用し元の姿に戻ったクーラが一息つく。

「ありがとうな若葉、彰」

「でもこれからどうするんだい?クーラ」

「彰、アタシはワイバーンだぜ?隙を見て飛行船から脱出するさ。手助けしてくれるツテはあるしな」

そう言うと、クーラが窓に近づいた時だ。


― 見つけた・・・・ ―


クーラと窓の外に浮かぶ朱鷺色の髪をしたワイバーンと目が合った。

「ア、アーシア!!!」

その刹那。

バリン!!!ビュオォォォォォ!!

ワイバーンの一撃で船室の窓が破壊され、嵐のような突風が吹きあがる。暴風の中、ズルリとクーラに「アーシア」と呼ばれたワイバーンが船室に入り込む。

「やっと見つけた・・・・・クーラ隊長」

ギシ

ギシ

コマンドブーツが割れたガラスを踏みつけ、ゆっくりとアーシアが近づく。

「さぁ・・・・」

アーシアがクーラに手を伸ばした。だが・・・・・!。

「だっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

若葉がアーシアにタックルを喰らわせ、よろめいたところを彰が拘束する。

「早く逃げるんだクーラ!!!!!」

彰に拘束されもがくアーシア。しかしインキュバスといっても魔物娘の力に及ばない。じりじりと拘束が緩んでいく。

「すまない若葉!彰!!」

そう言うと、クーラはアーシアによって破壊された船窓から身を躍らせた。
身体全体で故郷の風を感じる。もう戻れない、いや戻ることのできない懐かしい空。
それは三年前と同じく、彼女を受け入れてくれていた・・・・。











18/04/29 00:03更新 / 法螺男
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■作者メッセージ
飛行船からの脱走シーンを書いてるときに〇ピュタのあのシーンが脳裏を過ってしまう・・・・

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