連載小説
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最終話 奴らこそが海賊!
「今日から再出発だな……」
「そうですね……」

夜が明けてから翌日の午後二時……もうすぐ俺たちは冒険を続ける為に無人島から出航する予定だ。今現在、俺の仲間たちはブラック・モンスターにて出航の準備を進めている。

「なんだか色々あって大変だったが……貴重な経験になったよ」
「ええ、でも……私はもうキッドと離れ離れになるのは嫌です……」

ふと、俺と離れ離れになってた日を思い出したのか、サフィアは少しだけ表情を暗くした。
そこまで想ってくれてる妻を……もう悲しませる訳にはいかないよな。

「心配するな。俺はずっとサフィアの傍にいるからな」
「……はい!」

俺が優しくサフィアの頭を撫でると、サフィアは暗い表情をパッと明るくした。
やっぱり、サフィアの笑顔は何時見ても癒されるなぁ……。

「懐かしのダークネス・キング号!再びこの船で旅が出来るとは……!」
「やっぱり私たちの我が家は、このダークネス・キング号ですね!」
「…………ベスト・マイホーム……」

そしてブラック・モンスターの隣に停泊しているダークネス・キング号の甲板では、エルミーラ、姫香、セリンが心から感激していた。
やっぱり、自分たちの船で旅が出来るのは楽しいんだろうな。その気持ちは分かる。

「フフフ……あやつら、子供のようにはしゃぎおって……」
「お、黒ひげ、そっちはもう準備が出来たのか?」
「うむ、何時でも出航出来る」

すると、黒ひげがダークネス・キング号にいる娘たちを微笑ましそうに見ながらこちらに歩み寄ってきた。

「やっほー!キッド君!サフィアちゃん!」
「……フン」
「おう、メアリー、バジル」

そして黒ひげに続くように、メアリーとバジルも俺たちに歩み寄ってきた。

「いやぁ、もうそろそろ出航かぁ……海賊船で海に出ると思うと、なんだかワクワクするよ!」
「ああ……と言うか、アンタは他所の船に厄介になるだけだろ?」
「あはは……い、今はね!でも私だって大きい船を手に入れて、海を自由に旅するんだ!」

子供のような笑顔を見せるメアリーをからかうと、メアリーは苦笑いを浮かべながら後頭部を撫でた。
ただ、他所の船ってのは……また俺の船に乗る訳じゃない。

「でも、キッド君には色々とお礼を言わないとね。短い間だったけど、私を船に乗せてくれてありがとう!」
「気にするな。短かったが、俺もアンタと冒険できて楽しかったぜ。黒ひげに世話になった後でも、しっかりと頑張ってくれよ!」
「うん!暫くは黒ひげさんのところで頑張るよ!」

そう……メアリーとバジルは今日から暫くの間、黒ひげのダークネス・キング号に乗せてもらう事になったのだ。
メアリー曰く、今から黒ひげたちが向かう目的地はリリム……つまり自分の姉が統治しているらしい。しかも、その目的地は大変豊かな国らしく、大きな船も比較的安価な値段で買える可能性が高い。
なので、その姉に会う為に……そして自分たちの船を手に入れる為にも、目的地に着くまで厄介になるとの事。黒ひげとその娘たちも快く承諾してくれて、共に旅をするのを許してくれた。

「それにしても、まさかバジルがメアリーと一緒に旅をするとはなぁ……ちょっと意外だな」
「意外と言う程か?」
「まぁ、一応賞金稼ぎで通ってたからさ、金も給与されないのによく海賊と同行する気になったな……って思ってさ」
「俺は、俺がやりたいように生きる。ただそれだけだ」
「はは!生意気にカッコ付けやがって!」

こんな俺とバジルの何気ない会話を、メアリーは微笑ましく見守っていた。
バジルがメアリーの仲間になるって聞いた時は本当に驚いた。だが……驚いたのとは裏腹に、どこか納得している自分もいる。他の奴らはともかく、メアリーにだったらバジルも付いて行くだろうと思ってた。
なんて言うか、この二人……最近怪しいもんなぁ。もしかしたら近いうちに……そうなるかもしれない。

「……バジル、アンタとの決闘は楽しかったぜ。次に会った時には是非とも手合わせを頼むよ」
「……その時はリベンジを果たしてやる」

俺が徐に握り拳を突き出すと、バジルも拳を突き出して俺の拳に軽く当てる。その瞬間、互いに不敵な笑みを浮かべ合った。

「達者でやれよ!今度会うまでにくたばんじゃねぇぞ!?」
「貴様もな!」

互いに拳を戻し、何時の日か再び会う約束を交わした。
生きている限り、またバジルと会う日が来るだろう。だが、その時は俺も今以上に強くなっていなければならない。バジルと再び手合わせをする、その時まで……!

「私も短い間だったけど、キッド君たちと一緒に冒険出来て楽しかったよ。これから海賊団を作るのに色々と参考になったし……どうもありがとう!」
「まぁ、うちの船が参考になったんなら何よりだ。アンタが立派な海賊団を率いてくる日を楽しみにしてるぜ!」

メアリーがペコリと小さくお辞儀をしながら礼を言ってきた。
メアリーはまだ海賊になったばかりだが……こいつは必ずや大物の海賊になると、俺は本気でそう思っている。大した根拠は無いが……メアリーには人望がる。こいつの人柄に惹かれて自ら付き従う人物も少なからずいるだろう。
こいつが立派な海賊の船長になると思うと……俺も負けられないな。

「……キッドよ、貴様はこれから何処へ向かうつもりだ?」
「え?」
「この島を出た後……貴様らは何処へ船を進める?目的地は決まっておるのか?」

ふと、俺たちの会話を見守ってた黒ひげが訊いてきた。
何処へ向かうか、か…………それは……。

「……さぁな、特に決まってない。無人島を探検したり、色んな国を訪れたりと、自由で気ままな旅を続けるさ」
「……ほう……宝が欲しいとか、大した目的も無いのか?」

決まってないと言うと、黒ひげは大して驚いた様子も見せずにジッと俺を見つめる。だが、俺は構わずに話し続けた。

「宝ねぇ……まぁ手に入れられるんだったら欲しいけどな。だが、宝を手に入れるだけが冒険じゃない。旅をする一番の目的は……自由に海を渡る事だ」
「……何故自由に海を渡りたがる?」

そう訊ねる黒ひげは真剣な表情を浮かべていた。まるでこれから俺が発する言葉の真偽を見定めようともしているようだ。


「莫大な財宝を手に入れたり、複数の海賊を倒すだけじゃ立派な海賊になれない。無限に広がる危険な海を自由に渡れる事で……そこで真の海賊になれるんだ」


迷う事無く言い放った。
財宝も戦力も大事だが、それだけ極めれば良いってもんじゃない。無限に広がる海は自然の一部。その自然の中を自由に渡れる奴こそ……立派な海賊と呼ばれるんだ。

「……貴様のような若き海賊に……出会えた事に感謝しなければな……」

俺の言葉を聞いた黒ひげは、どこか嬉しそうな笑みを浮かべながら、懐から何か小物の様な物を取り出した。
それは……。


「……コンパス?」
「うむ、これを貴様に譲ろう」


黒ひげが取り出したのは……手の平サイズの薄くて小さなコンパスだった。黒ひげは取り出したコンパスを俺に差し出した。
だが、このコンパス……なんだか様子がおかしい。

「方位磁針が……回ってる……」

黒ひげのコンパスは……方位磁針がグルグルと時計回りに回転しており、止まる様子は全くない。
壊れてる……とは思えなかった。このコンパスからは……ただならぬ強力な魔力を感じる。

「それは……一体……?」
「いずれ来たるべき時が訪れれば、そのコンパスが指し示すだろう。貴様が向かうべき方位を……」

来たるべき時……俺には何の事だかさっぱり分からないが、黒ひげがそこまで言うのなら相当重要な物なのだろう。

「いらぬか?」
「いや、ありがたく受け取るよ」
「うむ」

俺は素直に黒ひげからコンパスを受け取った。改めてコンパスを見直しても、やはり方位磁針は回り続けたままだ。
このコンパスがこれからの旅にどう関わってくるのか……それは俺にも分からない。だが、今ここで知る必要も無い。これから旅を続ければ、いずれ分かる事なのだから…………。

「……貴様が真の海賊へと成り上がる姿を見届けるまで……我はしぶとく生きるとしよう。海賊稼業も楽しみたいからな」
「アンタならあと1000年近くは生きられるだろ?だから……早死にだけはしないでくれよ」
「フハハハハ!ぬかしおって!」

黒ひげは愉快そうに高笑いを上げた。
伝説の海賊との出会いは……俺にとって良い思い出となった。黒ひげからも大切な事を色々と教わって……本当に貴重な経験になった。
俺にとって黒ひげは……目標でもあり、本気で超えたいと思えるライバルでもある。機会があれば、是非とも黒ひげと再会したい!
その時までに……俺は今以上に立派な海賊になってみせる!

「……そろそろ旅立ちの時だが、別れの言葉は言わぬ。いずれまた巡り会う時が訪れるであろうからな」
「……ああ……」

そして黒ひげは徐に右手を差し出した。それは……握手を求める合図。
俺は躊躇うことなく、その右手を握った。


「突き進むが良い!己が信念の下に!」
「おう!」


必ず黒ひげを超えてやる!
俺は心の中で固く誓った…………。



〜〜〜数分後〜〜〜



「……じゃあな、みんな!何時かまた会おうぜ!」
「うん!キッド君たちも元気でね!」
「再び巡り合うその時まで、互いに生き残ろうぞ!」

ブラック・モンスターの甲板にて、俺はすぐ傍のダークネス・キング号の甲板にいるメアリーたちに別れを告げた。どちらの船もすぐに出航出来る状態となり、後は号令を出せばすぐに出航する。

「よし!それじゃあ、行くか!」

俺は背後にいる仲間たちに振り返り、出航の号令を出した。

「野郎ども!そろそろ出航するぞ!碇を上げろ!帆を張れ!」
「ウォォォォォォォ!!」

仲間たちの雄叫びが上がると同時に、船の碇が上げられ、風を受ける為の帆が張られた。

「うむ!我らも行くぞ!」
「父上!待ってましたのじゃ!」
「いざ、無限に広がる海へ!」
「…………出発進行……」

続いて黒ひげも懐から指揮棒を取出し、ダークネス・キング号に向けると、自動で帆が張られると同時に巨大な碇も上げられた。
それぞれの海賊船が少しずつ前進し始め、やがて互いに進行方向が変わる。ここでブラック・モンスターはダークネス・キング号とは真逆の方向へと進み始めた。

「あばよ!達者でな!」
「みんなー!色々とありがとう!さようならー!」
「また機会があったらお会いしましょう!」
「……生きろ!若人よ!」

船に乗りながら互いに去り行く姿を見送った。
姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた…………。



***************



「……もう見えなくなっちゃった」

ダークネス・キング号の甲板にて、私は海のずっと先を見つめていた。さっきまでキッド君たちを見送ってたのに……もう姿が見えなくなった事に少しだけ寂しさを感じた。

「……寂しくなったのか?」
「うん……でもまた会えるよね!」
「ああ……」

私の隣にいるバジル君が訊いてきたが、私が笑顔を見せるとお返しとばかりに温かい笑みを浮かべた。
キッド君たちとの出会い、そして共に過ごした日々は私にとって貴重な経験となった。これから海賊団を結成するのに色々と参考になったし、何よりも海賊とはどういったものかを改めて考える事が出来た。
今はキッド君や黒ひげさんと比べたらまだまだ未熟だけど……私も必ず立派な海賊になる!そう改めて決意を固める事が出来た。

「生きている限り再び会える。その時までに貴様も精進しなければな」
「あ、黒ひげさん。改めてお礼を言わないと……私たちを船に乗せてくれてありがとう!」
「構わん。我とて貴様の成長を見届けたいと思っておったところよ」

後ろから黒ひげさんが話しかけてきたので、私は改めて黒ひげさんにお礼を言った。
でも少しの間だけとはいえ、まさか伝説の海賊の船に乗せてもらえる日が来るなんて思わなかった。これも生涯忘れられない貴重な経験になるだろう。

「ただ、目的地に着く途中で国や無人島に上陸する為か、長い道のりにはなるがな」
「それでも良いよ!航路の決定権は黒ひげさんにあるんだからね!」
「フフフ……聞き分けの良い王女だな」

それに……黒ひげさんも悪い人じゃなかった。以前の夢での黒ひげさんはやっぱり夢に過ぎなかったようで、本人はとても良い人で心から安心した。
ずっと前までは恐ろしい印象しか残ってなかったけど……今は怖いとは思わない。私もこんな海賊になりたい。心からそう思えた。

「……黒ひげ、その……実はな……」
「ん?」

ふと、バジル君が気まずそうな表情を浮かべながら黒ひげさんに話しかけた。
この表情……何か事情がありそうに見えるけど……急にどうしたんだろう?

「今更なんだが……これ……」


すると、バジル君は懐から黄金の髑髏を……って、これってまさか!?


「それは……ソウル・スカル!?」
「ああ、本当はもっと早く差し出そうと思ってたんだが、その機会が無くて……」


そう……バジル君が差し出したのは、今回の一連の騒動の原因であるソウル・スカルだった。
黒ひげさんとタイラントの魂を吸い込んでた秘宝が……なんでバジル君の手に!?

「数日前……ラスポーネルのアジトを破壊する際に、アジトの中で偶然見つけてな。あの偉ぶってる紳士に悪用されるくらいなら、俺が持ち出して処分しようと思ってたんだが……」

どうやらバジル君は、ラスポーネルに悪用される前に独断で持ち出したらしい。
まぁ、確かにあの紳士の手元に残しておくくらいなら持ち出した方が良いと思うけど…………。

「……魔力が……激減しておる……」

黒ひげさんは目を細めてソウル・スカルをジッと見つめた。
自分の魂を吸い込んだ物なんて見るのも嫌な気分だろうけど……この目は嫌な物を見る目ではない。まるで何かの状態を見定めてるようだ。

「……それを我に差し出せ」
「あ、ああ……」

すると、黒ひげさんはソウル・スカルを受け取るようにバジル君に手を差し出した。バジル君も徐にソウル・スカルを黒ひげさんに手渡す。
すると…………。


「ふんっ!」


突然、黒ひげさんはソウル・スカルを天に向かって投げ飛ばし…………!



パチンッ!



ドカァァァァァァン!!



ソウル・スカルを爆発させた!頑丈だと思われてたソウル・スカルは粉々に砕け散り、船の甲板にソウル・スカルの残骸が無残に鏤められた。
……どうなってるの!?ソウル・スカルってかなり頑丈じゃなかったの!?


「盲点であった……魂を吸い込む度に膨大な魔力を消費するが故に、その代償として自身の頑丈さが消え失せておったのか……」


私の疑問に答えるかのように、黒ひげさんが静かに言った。
つまり、ソウル・スカルは魂を吸う度に自身が頑丈でなくなる訳か。黒ひげさんとタイラント……二つの魂を吸った時点で耐久性が無くなって、脆くなってたんだね。

「だが、これで良い。このような凶器は人の手に渡らず、葬り去られるべきよ」
「……うん、そうだね」

黒ひげさんが言った通り、こんな恐ろしい秘宝は壊すべきだ。これが悪人の手に渡ったらとんでもない事態になってしまう。そう思うと、やっぱり粉々に砕いた方が最善の選択肢だろう。

「……さぁ、そんな事より、まずは目的地へと向かわないとな」
「うん!そこで早く船を手に入れなきゃ!」
「そうだな。もういい加減に、人の船の世話になる生活も卒業しなければ……」

ソウル・スカルが砕ける様を見届けると、バジル君は私に呼びかけた。
そうだ……バジル君の言う通り、早いとこ船を手に入れなきゃね。自分だけの海賊船が無かったら話にならない。

「あの国は本当に豊かだからさ、大きめの船も絶対に手に入るよ!」
「まぁ、お前の姉もいる訳だ……不本意だが、最悪の場合その姉に手を貸してもらうしかないな」
「大丈夫!その時はその時!色々と考えてなんとかするよ!」
「その根拠の無い自信が余計に不安にさせるんだが……」
「だから大丈夫!キャプテン・メアリーを信じて!」

確かに大丈夫だと安心出来る根拠は無いけど……それでも進むしかない。
だって前を向かないと、何時まで経っても前に進めないからね!何事もネガティブじゃなく、ポジティブにやらなきゃ!

「うむ、その意気で精進するのだ!」
「うん……って、え?なにこれ?」

突然、黒ひげさんから何かを手渡された。
これって…………モップ?

「これからダークネス・キング号の大掃除を始める!貴様らも手伝え!」
「大掃除って……こんな大きい船を!?」
「大丈夫じゃ!当然、わしらもやるぞ!」
「まずは船を綺麗にしましょう!」
「…………レッツ・クリーニング……」

何時の間にか、黒ひげさんの後ろにいるエルミーラさんたちは雑巾やバケツなどの掃除用具を持っていた。

「……まさか、たったの六人でこんな大きい船を掃除するの!?」
「仕方なかろう、現時点では人数が少ないのだから。ほれ、貴様はこれで砕かれたソウル・スカルの残骸を集めるのだ」

そして黒ひげさんはバジル君に箒と塵取りを半ば強引に手渡した。

「集めるって……本はといえば、この髑髏を砕いたのは貴様だろうが!」
「最終的な持ち主は貴様であろう?」
「何を屁理屈言って……」
「集めた残骸はお駄賃として全部くれてやる。元は純金であるが故に高く売れるぞ」
「……よし!任せろ!」


切り替え早っ!?


「随分あっさりと気が変わったね……」
「これも海賊船を購入する際の代金にする」
「あ、そう言う事ね……」

随分と素直に聞き入れたと思ったら、そう言う訳……まぁ船の事を考えてくれるのは嬉しいけどね。

「ほれ、メアリーは甲板をそのモップで拭け。その後はキッチンの床、その後にはダイニングの床も拭くのだ」
「ひぇ〜!ちょっと、ホントに!?」
「当たり前であろう?少しの間でも世話になるのであれば、少しは手伝え!」
「うぅ……は〜い」

……まぁ、確かに暫くはお世話になるんだから、お手伝いくらいやらないとね。さ、そうと決まればチャッチャと終わらせますか!

「……おお、そうだ……」

ふと、船の中へ向かおうとしてた黒ひげさんが、何かを思い出した様子で私たちの方へ振り向いた。

「どうしたの、黒ひげさん?」
「いやなに、先ほど重ね重ね礼を言われたのでな、余計なお節介ではあるが……我からも改めて言っておこうと思うてな」

そして、黒ひげさんは不適な笑みを浮かべ…………。



レスカティエに着くまでの間、よろしく頼むぞ!」
「……うん!」


私の返答を聞くと、黒ひげさんは船の内部へと向かって行った。そう……私たちの目的地はレスカティエ!あのデルエラ姉さんがいる国だ。
レスカティエの事は何も知らないけど、これから行くのが楽しみ!デルエラ姉さんにも早く会いたいなぁ…………。


「……さぁ、早く掃除を終わらせようか」
「うん!」


そしてバジル君と一緒に掃除をしながら、これからの未知なる冒険に心を躍らせた…………。



***************



「…………」

メアリーたちを見送った後、俺は甲板にてボーっとコンパスを眺めていた。

「そんなに気になりますか?」
「ああ、どれだけ見てもさっぱり分からないけどな……」

すると、そんな俺の顔をサフィアが下から見つめてくる。
ついさっき、黒ひげから貰ったコンパス。ただひたすら指針が時計回りに回転しているが、壊れている訳ではないらしい。このコンパスがどのような物なのかはサッパリ分からないが……あの黒ひげが手渡したとなると、何か深い意味があるとしか思えない。その意味が分かる日まで大切に保管しておこう。


「それにしても……とても不思議な体験でしたね。まさか亡くなったと思われてた人と出会うなんて……」
「ああ、黒ひげとの出会いは俺にとって貴重な経験になったよ。あいつから教わった事を忘れずに、これからも生きていこうと思うんだ」

亀の甲より年の功とも言うべきか……黒ひげと出会って、大切な事を色々と学ぶ事が出来た。

『己が死んでしまったら、守りたいものも守れぬぞ?』
『命を投げ捨てるような考えは愚かよ!』
『本当に守りたいものがあれば、死ぬことを考えるな!自分の為にも、大切な者の為にも!』

ふと、頭の中に黒ひげから言われた言葉が次々と浮かんでくる。それらは本当に大切な事だった。俺はサフィアを守る為に……そして仲間のみんなを守る為にも、黒ひげから言われた言葉を忘れずに、ずっと心に留めようと思う。
サフィアたちと一緒に居る事が……俺にとって最高の幸せだから……。

「へぇ……その教わった事って、例えばどんな事ですか?」
「ああ、例えば……」

俺はサフィアの綺麗な瞳をジッと見つめながら言った。


「愛する女の身も心も全て守る。それが真の男だ……ってな。言うまでもないが、俺の愛する女ってのは……」


サフィアの瞳を見つめてる俺の言葉を聞いた途端、サフィアは少し照れくさそうに頬を赤く染めた。

「あ、あの……その愛する女って……?」
「おいおい、サフィア以外に誰がいるんだよ?」
「……もう、キッドったら……嬉しいです♥」

嬉しそうな表情を浮かべながら、俺に擦り寄ってくるサフィア。俺はそんなサフィアの頭を優しく撫でてやった。
こういう甘えん坊な姿を見せるのも、サフィアの魅力的な点なんだよなぁ……。

「……それなら……ずっと傍に居てくださいね?」

ふと、サフィアが俺に擦り寄ったまま上目遣いで俺を見つめながら言った。

「身も心も守ってくれるのなら……これからもずっと一緒にいましょう。私も……もうキッドとは離れたくないです」
「……ああ、俺もだ……」

互いの存在を確認しあうように見つめあう俺とサフィア。互いの瞳に引き付けられるように、俺たちは静かに……そっと唇を……。


「じ―――……」


「……あ……」

ふと、誰かの視線に気付いて視線を横へ逸らすと……ピュラが目を輝かせながら俺たちの様子を見ていた。
……てか何時の間にいたんだ……気付かなかった……。

「……ん……ん〜♥」
「ちょ、待てサフィア……」

サフィアは目を閉じながら唇を突き出している。未だにピュラの存在に気付いてないのか、俺の背中に腕をしっかり回してキスを求めている。
いや、気持ちは分かるけど気付いてくれ!すぐ傍にピュラがいるんだってば!

「クスクス……!」
「ん?……はわぁ!?ピュ、ピュピュピュラ!?何時の間に!?」

と、サフィアはピュラの小さい笑い声を聞いてようやく今の状況を理解した。すぐ近くにいるピュラを見た瞬間、さっきまでの情欲的な姿勢が嘘であるかのように慌てふためいてる。

「クスクス……ごめんね、お姉ちゃん。良いムードだったのにお邪魔しちゃって」
「そ、それは……い、いえ!それより、どうしたのです?」
「楓さんがね、おやつにチョコケーキを作ってくれたんだ。それでね、一緒に食べようと思ってお姉ちゃんたちを呼びに来たんだよ」

笑いを堪えながらも、俺たちの下へ来た経緯を説明するピュラ。俺たちを呼びに来てくれたのはありがたいが……タイミングが良いんだか、悪いんだか……。

「そ、そうですか。それじゃあ早速ダイニングに行きましょう!ほら、キッドも一緒に!」
「アハハ、そう急かすなよ」

必死になって誤魔化そうとするサフィアの様子がおかしくて、つい小さく笑ってしまった。
すると、サフィアの様子をみたピュラが満面の笑みを浮かべた。

「……それにしても、お姉ちゃん……『ん〜♥』だって!クスクスクス!」
「ピュ、ピュラ!お姉さんをからかってはいけません!」
「だって、あの時のお姉ちゃんの顔……『ん〜♥』って!アハハハハ!」
「コ、コラ!真似するんじゃありません!」

俺にキスしようとしてたサフィアの顔がよっぽど壺に嵌ったのか、ピュラは面白おかしく笑っている。その無邪気な笑みはとても可愛らしくて愛嬌がある。

「お姉ちゃん、『ん〜♥』だって!アハハ!」
「お、今の結構似てたな」
「ホント!?そっくりだった!?」
「ああ、ピュラは物真似が上手いなぁ」
「ちょ、キッドまで!止めてくださいよ!」

ピュラの物真似を褒めた途端、サフィアが顔を真っ赤に染めながら抗議してきた。

「えへへ……あ、お兄ちゃん!もしかしてお姉ちゃんって、お兄ちゃんと毎晩ラブラブする時もあんな顔するの!?」
「ん〜、まぁそうだな。何時もあんな顔で甘えてくるぞ」
「そうなんだ!毎晩お兄ちゃんに『ん〜♥』って……アッハハハ!」

頭の中で想像して更に可笑しくなったのか、ピュラは腹を押さえて笑い声を上げている。
……ヤベェ、なんだか良く分からないけど俺まで可笑しくなってきた。ピュラにつられて笑いそうだ……。

「……もう!二人して酷いです!」
「あぁ、スマンな。つい調子に乗っちゃって……ほら、それよりチョコケーキ食べに行こうぜ」
「そうだね!行こう!」
「う〜!」

不貞腐れるサフィアの背中を押す形で、俺はピュラと一緒にダイニングへと向かった。ピュラもサフィアの手を引いて率先してダイニングまで誘導する。それでも気が収まらないのか、サフィアは納得してないかのように頬を膨らませてる。
やれやれ、そんなに剥れなくても……。
そう思った俺は、サフィアの耳元に顔を近付けて…………。


「……今夜はお前の好きな事させてあげるから、気を直してくれ」
「え……はい♪」


小さく耳元で囁くと、サフィアはコロッと満面の笑みを浮かべた。
……と言っても、サフィアの好きな事って……アレしかないけどな。まぁ、こればっかりは仕方ないか。

「ん?お兄ちゃん、今お姉ちゃんに何か言った?」
「いいや、特に何も」
「え〜?今確かに何か言ってた気がするけどなぁ?」
「気のせいだ。なぁ、サフィア」
「はい、キッドが気のせいって言うのなら気のせいです」
「……なんか怪しい……」
「別に怪しくねぇって」

特に何の特徴も無い会話。だが、俺にとってはこれも至福の時だ。こう言った普通の日常は、どんな宝石にも勝る最高に価値の高い秘宝なのだから。
俺はこれからも、大切な人たちと過ごせる日々を大事にしようと思う。俺の為にも、サフィアの為にも、ピュラの為にも、そして……俺を支えてくれる仲間たちの為にも……。


ヒュゥゥゥ……


心地よい潮風が頬に当たる。我ながら何を思ったのか……背後を振り返り、澄み切った空を見上げた。その視界に入った海賊旗……今日も悠々と風に靡かれながら我が存在を誇示してる。
今思えば、あの旗とも長い間ずっと共に旅をしてきた。あの海賊旗には、これまでの旅の歴史が秘められている。そして、これからもその歴史は刻み続けられるだろう。

「……これからだよな……」
「キッドー!どうしましたかー!?」
「お兄ちゃーん!ケーキ食べに行こうよー!」

ボソッと独り言を呟いた瞬間、サフィアとピュラの明るい声が聞こえた。視線を移すと、サフィアとピュラが手を繋ぎながら俺が来るのを待っている。
おっと、一人で物思いに耽ってる場合じゃないな。

「おー!今行く!」

俺はサフィアとピュラの下へ歩み寄り、そのまま三人でダイニングへと向かって行った。
そして俺は……何も言葉を発さずに、自分自身の心に固く誓った。



俺は……この幸せを守り続けてみせる。



たとえ何があろうとも、ずっと…………。







12/12/08 10:02更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
はい!ここで『彼こそが海賊』を流すとより一層楽しめます!
……なんて戯言を言ってすみませんorz

さて、そんな事より……この場をお借りしましてお礼を申し上げたいと思います。
今回の連載を読んで下さった方々、感想を下さった方々、そして票を入れて下さった方々に、心から感謝しております。本当にありがとうございました!

第一話から最終話まで、長いようであっという間に感じました。こんなに連載を続けたのは本当に初めてでして……ちょっとだけ燃え尽きた感じがします。とは言え、キッドたちの冒険はまだまだ終わらないですけどね……。

さて、連載が終わりましたが、早速次の話を書きたいと思っております。
次はですね……キッド海賊団の面々は登場せず、メアリーとバジル、そして黒ひげ海賊団がメインの話です。
と言うのも、今回の連載でメアリーとバジルが良い雰囲気になったものの、未だにちゃんとした夫婦になってません。こんな中途半端な関係のままでいさせるのは読者の方々が納得出来ないと思いますし……そして何より私自身も納得出来ないのです。と言うわけで、この『Legend of pirate 〜幻の大秘宝〜』の番外編という形で書く予定です。メアリーとバジルの関係や如何に!?

では、最後になりますが、ここまで読んで下さった方々に心からお礼を申し上げたいと思います。

ありがとうございました!!

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